さいたま地方裁判所 平成16年(ワ)827号 判決 2006年12月08日
原告
A野花子
他8名
上記九名訴訟代理人弁護士
大槻厚志
同
清水佐和
同
石渡真維
同
大島一
同
黄泰軫
同
澤田仁史
同
常岡久寿雄
被告
アイディーエス株式会社
代表者代表取締役
佐藤恵一
主文
一 被告は、原告ら各自に対し、各一三二万円及びこれに対する平成一六年一月一六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の、その余を原告らの各負担とする。
四 この判決の主文第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、別紙請求金額一覧表記載の原告らそれぞれに対し、各原告に対応する同表請求金額欄記載の各金員及びこれに対する平成一六年一月一六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、自動車運転代行業のフランチャイズ事業を展開する被告との間で、それぞれフランチャイズ契約を締結し、被告のフランチャイジー(以下「加盟店」ということがある。)として運転代行業務に従事していた原告ら九名が、各契約の締結に至る段階で、被告従業員から、加盟店として運転代行業を行う際の費用や売上・収益の額及び被告の加盟店に対する営業支援に関して、十分な説明を受けられず、あるいは虚偽又は不正確な説明を受けたことによって、契約締結についての判断を誤まって、被告の加盟店となった結果、過大な費用を負担し、十分な売上や利益を上げることができずに、損害を被ったと主張して、被告に対し、契約締結段階における保護義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、加盟金、車両購入代金等の損害金及び本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。
二 当事者間に争いのない事実
(1) 被告及びそのフランチャイズ事業
被告は、自動車運転代行業務などを目的とする株式会社であり、平成九年から、運転代行業のフランチャイズ事業(以下「本件フランチャイズ事業」という。)を展開していた。
(2) 本件フランチャイズ契約の概要
被告と各原告が締結したフランチャイズ契約(以下「本件フランチャイズ契約」という。)の概要は、①被告は、フランチャイズにおける本部として、フランチャイジーである各原告に対し、本件フランチャイズ契約に基づき、「アイ代行サポート21」の名称の統一イメージのもとに、運転代行業務を行うことを認め、②各原告は、加盟者として、本部の提供する商標「アイ代行サポート21」の名称等を使用しながら、運転代行業を営み、本部である被告に対し、一定のロイヤルティを支払う、というものであった。
(3) 原告らと被告との契約締結
原告らはそれぞれ、次の各日に、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。
契約締結日
原告A野花子 平成一五年四月七日(以下「原告A野」という。)
原告B山松夫 同年六月二四日(以下「原告B山」という。)
原告C川竹夫 同年八月一一日(以下「原告C川」という。)
原告D原梅夫 同年九月三日(以下「原告D原」という。)
原告E田春夫 同年三月八日(以下「原告E田」という。)
原告A田夏夫 同年七月五日(以下「原告A田」という。)
原告B野秋夫 同年四月一四日(以下「原告B野」という。)
原告C山冬夫 同年三月二四日(以下「原告C山」という。)
原告D川一郎 同年六月一八日(以下「原告D川」という。)
(4) 本件フランチャイズ契約の解除
原告らはそれぞれ、平成一五年一一月四日、被告に対し、本件フランチャイズ契約を解除するとの意思表示をした。
三 争点及び争点についての当事者の主張
本件の主たる争点は、①被告の原告らに対する説明義務違反の有無(争点一)、②原告らの損害額(争点二)、③過失相殺(争点三)の三点であり、これらの争点についての当事者の主張は次のとおりである。
(1) 争点一(被告の原告らに対する説明義務違反の有無)について
ア 原告らの主張
(ア) フランチャイザーの説明義務
フランチャイザーは、フランチャイジーになろうとする者との間でフランチャイズ契約を締結するに当たっては、当該希望者に対し、当該フランチャイズ事業に関する正確な知識や情報を提供する信義則上の義務を有しており、少なくとも虚偽又は不正確な情報を与えることによって、当該希望者が契約を締結するか否かについての判断を誤らせないようにする信義則上の義務を負担している。しかるに、被告従業員は、後記(イ)ないし(エ)のとおり、原告らとの契約に先立つ説明に当たって、被告のフランチャイズ加盟店における費用、売上・収益の予想及び被告の加盟店に対する営業支援について、正確な情報を提供しなかったばかりか、むしろ虚偽又は極めて不正確な情報を提供して、原告らの判断を誤らせた。したがって、被告は、契約締結段階における信義則上の保護義務に違反したものとして債務不履行責任を負い、また、かかる不法行為をした従業員らの使用者として、不法行為責任(使用者責任)を負う。
(イ) 開業初期費用に関する説明義務違反
被告従業員は、各原告とのフランチャイズ契約の締結に先立って、各原告に対し、開業のために必要な開業初期費用は、加盟金二〇〇万円、車両購入費七〇万円、保険料等の諸経費五万円の合計二七五万円であり、これ以上は一切かからないと説明した。
しかし、原告らがこの説明を受けて、加盟を決意して加盟金を支払ったあと、被告との間で正式に契約書を取り交わす段階になって初めて、上記費用のほかに、ナビゲーションシステム代約一五万円、名刷代(六〇〇枚)一万二〇〇〇円、無線機・行灯・走行距離メーター・領収書発行機の三年間分の賃貸料四三万八六六〇円、制服代一万四四〇〇円、料金表代(五〇〇〇枚)一二万六〇〇〇円、伝票・領収書代約一二万円などの初期費用が必要であることを知らされた。このように、被告従業員による開業初期費用に関する当初の説明は虚偽の内容であった。
(ウ) 売上・経費・収益に関する説明義務違反
被告従業員は、本件フランチャイズ契約の締結に先立ち、原告らに対し、何ら合理的根拠を有しない「月間モデル収支」と標記されたパネル(以下「本件パネル」という。)を使って、パネル上の「売上高(一日三万円×三〇日) 九〇〇、〇〇〇円」との記載を示して、モデルケースとして、最低でも月九〇万円の売上が確保されると説明した。また、月々の費用については、本件パネルに記載された、ロイヤルティ一三万八九〇〇円、広告宣伝費分担金三万円、保険料約三万三二二〇円、燃料費(ガソリン代)約三万円の合計二三万二一二〇円と説明し、それ以外には、人件費(日給七〇〇〇円)しかかからないと説明した。そして、売上から経費を差し引いた営業収益について、本件パネルの記載に基づいて、月六六万七八八〇円と説明した。
さらに、被告従業員は、被告の加盟店の一つである足立舎人店の実績を紙に書いて、車両一台につき月九〇万円の売上が確保できること、一年間で車両を三、四台に増やしていること、その結果、毎月の営業収益が一七三万五〇〇〇円に達していることなどを説明した。
原告らは、このような被告従業員による不正確な説明を受けて、真面目に働けば、月九〇万円の売上が上げられ、月約六七万円の営業収益を得られるものと信じて、本件フランチャイズ契約を締結したが、実際には、原告らが月間九〇万円の売上を上げることは到底不可能であり、せいぜい三〇ないし五〇万円の売上しか上げられず、他方で、月々の経費として、ロイヤルティ一三万八九〇〇円、広告宣伝費分担金三万円、保険料約三万三二二〇円のほかに、一日七〇〇〇円程度の人件費や、月五~七万円のガソリン代、高額の電話料金、駐車場代を負担しなければならなかったから、結局、原告らは、被告の加盟店となっても、自己の生活を保障するに足りるだけの収益すら得られない状況であった。
(エ) 営業支援に関する説明義務違反
各原告が拠点としようとしていた地域は、被告の本拠である埼玉から離れており、被告のフランチャイズ事業のマスメリットを享受することができないことが明らかであるにもかかわらず、被告の従業員は、本件フランチャイズ契約の締結に先立ち、原告らに対し、本件フランチャイズ事業がマスメリットを生かしたネットワークによって顧客確保が確実であると強調し、本部から顧客を紹介したり、逆に加盟店が対応できない顧客を本部が対応するなどのバックアップが可能であると説明した。
原告らは、被告のフランチャイズ加盟店になれば、そのマスメリットを生かして十分な顧客を確保できると信じて、本件フランチャイズ契約を締結したが、実際には、被告は、各原告の拠点から遠距離の、原告らにとって不適当な顧客を無理に押しつけた上、売上保証期間経過後は、そのような顧客紹介すらしなくなった。
また、被告は、加盟店近辺の市場調査や飲食店へのPR活動など営業活動を行うと説明していたが、実際にはそのような市場調査やPR活動などの営業活動はされなかった。
イ 被告の主張
(ア) 被告従業員による説明
被告従業員は、各原告に対し、費用負担及び営業支援に関して、少なくとも二回、一回につき三時間以上の十分な説明を行っていたのであり、しかも、その説明の内容が虚偽であったり、不正確であったりしたことはない。原告らは、被告から十分な説明を受けた上で、自己の責任において本件フランチャイズ契約を締結し、被告のノウハウの提供や指導を受けて、アイ代行の名称で運転代行業を営んだのである。
したがって、被告が原告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うことはない。
(イ) 開業初期費用に関する説明義務違反について
被告は、フランチャイズ加盟希望者に対し、説明会及び契約締結の際に、開業初期費用として、加盟金二〇〇万円、車両購入費約七〇万円、初回の保険料五万円、賃貸物品(無線機、代行料金メーター、領収書発行機、行灯)の賃料四三万八六六〇円、ナビゲーションシステム及びその取付費一五万二二五〇円、車両マーキング料金三万四六五〇円、伝票・看板・制服代約一〇万円がかかることを説明した。
(ウ) 売上・経費・収益に関する説明義務違反について
被告は、売上予測を立てておらず、したがって、原告らに対し、売上の予測を説明したことはない。また、被告は、説明会及び契約締結時に、原告らに対し、月々の経費として、ロイヤルティ一三万八九〇〇円、広告宣伝費分担金三万円、車両保険料約三万五〇〇〇円、燃料費約三万円のほか、加盟者によって、通信費、人件費、駐車場代がかかることを説明した。
被告は、事務所内で説明をする際、その壁に掲示してある本件パネルを示したことがあるが、本件パネルは月々の共通経費を示すために作成したものであって、売上高や営業収益の予測を提示したものではない。被告は、原告らに対し、本件パネルなどを用いて、モデルケースとなるような実績を示したことがあるが、それはあくまでもモデルであると断った上、実際にはモデルケース以下の実績の加盟店とそれ以上の実績の加盟店があること、営業努力がなければモデルケースのような実績が上がらないことを説明していた。なお、本件パネルに記載されている、一日三万円、月九〇万円との売上高は、平成八年当時、被告の直営店で稼働していた車両二〇台の年間売上の統計を基に算出したものであって、合理的な数字である。
また、経費についても、駐車場代、人件費、通信費などのように加盟店の事情により要否や金額が異なるものについては、誤解を防ぐために本件パネルには記載せず、個別に説明することにしていた。なお、本件パネルに記載されている燃料費三万円とは、平成八年当時使用していた車両(ディーゼル車)の月平均走行距離(五〇〇〇キロメートル)、燃費(一リットル当たり一三・四~二一・〇キロメートル)及び軽油の単価(一リットル当たり八〇円)の各数値を基にして設定したものであって(五、〇〇〇÷一三・四×八〇=二九、八五〇)、不正確なものではないし、この数値は、その後ガソリン車を使用するようになってからも、妥当しており、特に修正する必要がなかった。
原告らは、被告従業員が、足立舎人店の実績を示して、月九〇万円の売上が確保できることを説明したと主張するが、被告従業員は、同店の車両一台が一日当たり三万円を売り上げ、一月三〇日間稼働することを仮定した場合の数字を説明しただけであり、実際の足立舎人店の実績を説明したわけではない。被告従業員は、誤解を招かないように、別に足立舎人店の実際の売上実績も説明していた。また、加盟店の個別事情により、人件費、駐車場代、通信費等が別途かかることも説明している。したがって、足立舎人店を例に挙げた説明の中で、月九〇万円の売上や月六七万円の営業収益が確実であると説明したことはない。
原告らはいずれも、自ら営業努力をせずに、売上が上がらなかったからといって、その責任を被告に転稼しているにすぎない。
(エ) 営業支援に関する説明義務違反について
被告は、加盟希望者に対しては、①被告のスタッフが、加盟店の顧客獲得のために、営業地域の飲食店等にPR活動を行うこと、②被告が独自に開発したGPS車両位置管理システムを使い、被告が加盟者に顧客を紹介し、逆に加盟者が顧客の対応を仕切れない時は、本部が対応し、近辺の車両を紹介するなどの支援を行うこと、③開業から三か月間で二〇〇万円の総売上を保証することなどの営業を支援する旨の説明を行い、実際にこの説明に沿った営業支援を行った。
なお、原告らに対し、顧客を紹介することは被告の営業支援の一環であるが、すべての顧客を被告が紹介するわけではなく、顧客の獲得は、あくまで独立の事業者である各原告の責任であり、このことは原告らにも十分に説明している。
(2) 争点二(原告らの損害額)について
ア 原告らの主張
原告らは、被告の説明義務違反により、それぞれ被告との間で本件フランチャイズ契約を締結してしまったことにより、以下の各損害を被った。
(ア) 原告A野
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 車両購入費 七九万〇七七五円
c 諸経費(保険料) 五万九〇一〇円
d 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
e 弁護士費用 三三万四〇〇〇円
f 合計 三六八万三七八五円
(イ) 原告B山
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
c 弁護士費用 二五万〇〇〇〇円
d 合計 二七五万〇〇〇〇円
(ウ) 原告C川
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 車両購入費 六八万五九五五円
c 諸経費(保険料) 六万六二一〇円
d 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
e 弁護士費用 三二万五〇〇〇円
f 合計 三五七万七一六五円
(エ) 原告D原
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 車両購入費 六八万五九五五円
c 諸経費(保険料) 二万三二四〇円
d 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
e 弁護士費用 三二万〇〇〇〇円
f 合計 三五二万九一九五円
(オ) 原告E田
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 車両購入費 七六万八六九六円
c 諸経費(保険料) 五万九〇一〇円
d 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
e 弁護士費用 三三万二〇〇〇円
f 合計 三六五万九七〇六円
(カ) 原告A田
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 車両購入費 七八万七五七〇円
c 諸経費(保険料) 五万五四一〇円
d 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
e 弁護士費用 三三万四〇〇〇円
f 合計 三六七万六九八〇円
(キ) 原告B野
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 車両購入費 六七万七三五五円
c 諸経費(保険料) 五万七六一〇円
d 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
e 弁護士費用 三二万三〇〇〇円
f 合計 三五五万七九六五円
(ク) 原告C山
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 車両購入費 七〇万八二三四円
c 諸経費(保険料) 五万四二四〇円
d 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
e 弁護士費用 三二万六〇〇〇円
f 合計 三五八万八四七四円
(ケ) 原告D川
a 加盟金 二〇〇万〇〇〇〇円
b 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
c 弁護士費用 二五万〇〇〇〇円
f 合計 二七五万〇〇〇〇円
イ 被告の主張
すべて争う。なお、車両購入費については、原告らは、本件フランチャイズ契約を終了した後も、各自で使用しているのであるから、車両購入費が損害となることはない。
(3) 争点三(過失相殺)について
ア 被告の主張
仮に被告に説明義務違反が認められるとしても、原告らには過失相殺の対象となる過失がある。すなわち、原告らは、本件フランチャイズ契約の締結前に、少なくとも二回(一回につき三時間以上)にわたり、費用負担、営業支援等に関する十分な説明を受け、かつ、相当の熟慮期間を設けた上、契約を締結した。また、フランチャイズ契約におけるフランチャイジーは、独立した事業者であるから、原告らは、被告から提供された情報を十分吟味し、最終的には自己の責任において契約すべきであったのであり、自己に都合のいいように情報を取捨選択し、それを十分に吟味することなく契約を締結した。さらに、原告らは、自ら営業努力をしないまま、フランチャイズ契約締結からわずか二ないし八か月の営業実績が実らない段階(なお、そのうち初めの三か月間は売上保証期間である。)で、フランチャイジーとしての業務を放棄したのであり、原告らには、自己責任、自己努力を全うしなかった責任がある。
イ 原告らの主張
被告は、意図的に、到底達成不可能な月額九〇万円との売上を示して、原告らを誤信させ、契約を締結させたのであるから、被告の説明義務違反は違法性が強く、また、本件のような取引型不法行為については、加害者の故意・過失が引き金となって、被害者の過失が発生するのであるから、そのような加害者によって引き起こされた被害者の過失を、加害者側が非難することは許されない。したがって、本件では、原告らの自己責任を認める余地はなく、被告の過失相殺の主張を容れるべきではない。
第三当裁判所の判断
一 認定事実
上記第二の二の当事者間に争いのない事実に加え、《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
(1) 自動車運転代行業
自動車運転代行業(以下「運転代行業」という。)とは、一般に、夜間に、酔客等の顧客の注文に応じ、顧客に代わって自動車を運転する役務を提供する営業をいい、この業務を行う場合は、通常二人一組となって、その一人が、顧客の自動車に当該顧客を乗車させて、運転の役務を提供し、もう一人が営業用の自動車を運転して、当該顧客の自動車に随伴することになる(自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律(以下「運転代行適正化法」という。)二条参照)。
なお、運転代行適正化法は、運転代行業を営もうとする者は都道府県公安委員会の認定を受けなければならない旨を規定している(同法四条)。
(2) 被告
被告は、昭和六三年三月に有限会社として設立され、その後組織変更を経て株式会社となったものであり、自動車運転代行業などをその目的としている。
被告は、その設立以後、埼玉県さいたま市(平成一三年四月までは大宮市)の大宮地区を中心に運転代行業を営んできて、平成七年ころまでに、岩槻営業所、大宮営業所、浦和営業所、川口営業所、上尾営業所、東京営業所、東部営業所の各直営店を開設し、チェーン展開による運転代行業の経営を行っていた。
その後、被告は、「アイ代行サポート21」という名称で、フランチャイズ方式による事業展開を行うこととし、平成八年一一月ころ、フランチャイジーの募集を開始し、翌平成九年一月から、実際にフランチャイズ事業を開始した。
被告は、平成九年から、社団法人日本フランチャイズチェーン協会の研究会員となり、平成一二年からは、同協会の正会員となっている。
(3) 本件フランチャイズ事業の概要
ア 本件フランチャイズ契約
被告は、「アイ代行サポート21」と称する本件フランチャイズ事業を行うため、加盟店となろうとする者との間で本件フランチャイズ契約を締結するが、その契約の主たる内容は、被告が、フランチャイズにおける本部として、フランチャイズ契約を締結した加盟店に対し、開業前及び開業後の研修、指導、営業支援を実施し、一方、加盟店が、本部である被告に対して一定のロイヤルティを支払いつつ、被告の作成したマニュアルに従い、被告が指定する「アイパッケージ車」と呼ばれる統一的な外観の車両を使用して、「アイ代行」の商標を用いて運転代行業務を行うというものであり、その契約の期間は、契約締結日から三年間とされている。
イ 被告の加盟店に対する営業支援
被告は、加盟店のために、開業前及び開業後の研修・指導を行うほか、本件フランチャイズ事業の広告及び宣伝を行い、また、フランチャイズの本部である被告に寄せられた顧客の注文を、加盟店に配車するほか、加盟店が受けた顧客の注文に対応できない場合には、本部から他の車両に顧客を回すなどの支援を行うこととされ、そのために、被告では、平成一四年一一月ころから、GPSシステムを利用した車両位置管理システムを導入し、加盟店の車両に対する配車指示に用いていた。
ウ 売上保証制度
本件フランチャイズ事業においては、被告は、加盟店に対する売上保証の制度を設けており、加盟店が運転代行業務を開始した日から三か月間の総売上(ただし、週一日の休日に相当する日の売上を除く。)について、仮に、その総売上が二〇〇万円に満たない場合は、被告が当該加盟店に対して、その差額を現金で填補することになっている。
エ 加盟店の営業時間等
本件フランチャイズ契約上、加盟店の営業時間は、午後七時から翌午前四時三〇分までの九時間三〇分と定められており、また、定休日は週一日と定められている(ただし、定休日の稼働も可能であり、その場合は、上記営業時間の定めに拘束されない。)。
オ 加盟店の募集から開業までの流れ
被告は、フランチャイズ企業を紹介するフェア会場に説明用ブースを設けたり、雑誌等に広告記事を掲載したりして、本件フランチャイズ事業の加盟店となろうとする者を募集し、それらをきっかけに本件フランチャイズ事業に興味を持った者に対して、埼玉県さいたま市にある被告の本社事務所(以下「被告事務所」という。)において、E原一江(以下「E原」という。)やA川二郎(以下「A川」という。)らの被告従業員が、本件フランチャイズ事業の概要を説明していた。その後、説明を受けた者が、被告の加盟店となることを希望して、アイ代行サポート21加盟希望申込書を作成し、被告に提出した場合、被告と加盟希望者は、仮契約を経て、あるいは経ないで、本件フランチャイズ契約を締結することになっていた。
仮契約又は本契約を締結した後、契約者は、アイパッケージ車の車両(平成一五年当時は、軽自動車であるスズキアルト。)を購入し、当該車両について運転代行業務に必要な自動車保険契約を締結した上、上記(1)の公安委員会の認定の申請手続を行ったり、被告の事務所等での開業前研修を受けたりした。なお、上記(1)のとおり、運転代行業を営もうとする者は都道府県公安委員会に認定を受けなければならないが、その認定の取得手続には、数十日の期間を要することから、被告においては、本契約を経て加盟店となった者は、上記認定を取得して、自ら運転代行業者として運転代行業を営むことができるようになるまでの間は、被告から車両を借り受けて、被告が営む運転代行業務に従事することができた。
(4) 加盟店が負担すべき費用
ア 開業初期費用
本件フランチャイズ事業のフランチャイジーとして運転代行業を開業しようとする加盟店は、その開業に当たって、被告に対し加盟金二〇〇万円を支払い、アイパッケージ車の購入代金約七〇万円、運転代行業務に必要な自動車保険の保険料の初回支払分約五万円(以上合計二七五万円)を負担するほかに、アイパッケージ車に取り付ける無線機、代行料金メーター、領収書発行機、行灯の各物品の三年間の賃貸料として四三万八六六〇円、これらの賃貸物品をアイパッケージ車に取り付ける費用として四万七二五〇円、アイパッケージ車に取り付けるナビゲーションシステム代(取付費込み)として一五万二二五〇円、アイパッケージ車のマーキング代として三万四六五〇円、業務に使用する伝票、領収書、料金表などの購入費として約一〇万円を負担する必要があり、これらの合計額はおよそ三五二万円であった。
イ 営業中の月々の経費
本件フランチャイズ事業の加盟店が営業を継続するために要する月々の経費としては、車両一台当たり、被告へのロイヤルティ一三万八九〇〇円及び広告宣伝費分担金三万円の支払、保険料(アイパッケージ車、運転代行保険)として約三万円の負担がそれぞれ固定的に発生するほか、燃料費(ガソリン代)及び通信費が、営業内容により額が変動するものの、不可欠であり、さらに、加盟店が夫婦二人で運転代行業務を行うケースなど事実上人件費の支出が必要でない場合を除いては、ともに運転代行業務に従事させる者に対する人件費が必要となり、これらに加えて、アイパッケージ車を駐車するためのスペースを有しない加盟店の場合は、月々の駐車場代も必要であった。
ウ 車両の増車及び法人契約について
加盟店が、アイパッケージ車を増車して、契約台数を増やす場合は、増車一台当たり、増車料二〇〇万円を支払う必要があり、また、月々のロイヤルティ及び広告宣伝費分担金も、その契約台数に応じて増額される。
ただし、被告のフランチャイズ契約には、個人契約と法人契約の二つの形態があり、加盟店が三台以上の契約車両を有する場合は、法人契約を選択することができ、この場合、加盟店が被告に支払うべきロイヤルティと広告宣伝費分担金の合計額は、契約台数に関わりなく、一法人当たり月四〇万円となる。
(5) 本件パネルについて
本件パネルは、縦が七、八十センチメートル程度、横が四、五十センチメートル程度の長方形のパネルであって、各原告が被告従業員から本件フランチャイズ事業の説明を受けたり、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結したりした当時、被告事務所内の壁に掲示されていたものであり、被告従業員は、各原告に事業の説明をする際、本件パネルの記載内容についても説明をしていた。
本件パネルは、その上部に「月間モデル収支」と標記されており、そのすぐ下には、「売上高(一日三万円×三〇日) 九〇〇、〇〇〇円」と記載され、その下の「月間経費」の欄には、「燃料費 三〇、〇〇〇円」、「保険料(アイパッケージ車)一二、二二〇円」、「保険料(お客様用運転代行保険) 二一、〇〇〇円」、「ロイヤルティ 一三八、九〇〇円」、「広告宣伝費分担金 三〇、〇〇〇円」、「経費合計 二三二、一二〇円」と、それぞれ記載されていた。さらに、本件パネルの下部には、「営業収益(オーナー利益額) 六六七、八八〇円」と記載されていた。また、上記売上高、経費合計、営業収益の各欄の横には、売上高を一〇〇パーセントとした場合の経費と収益の割合を示すものとして、売上高に対応する欄に「一〇〇%」、経費合計に対応する欄に「二五・八%」、営業収益に対応する欄に「七四・二%」と、それぞれ記載されていた。
(6) 原告らの契約締結及び開業に至る経緯
ア 原告A野
原告A野及びその夫であるA野太郎は、家業として居酒屋を経営していたが、平成一五年二月ころ、A野太郎が雑誌に掲載されていた被告の広告記事を見たことをきっかけとして、同年三月、原告A野とA野太郎は、被告事務所を訪れ、本件フランチャイズ事業についての説明を受けた。その説明を受けて、原告A野は、当時の住所地であった千葉県白井市桜台を拠点として運転代行業を行うことを決め、同月二六日の仮契約を経て、同年四月七日に、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告A野は、同月一一日から、「アイ代行白井桜台店」として、運転代行業務に従事し始めた(ただし、運転代行業を営むための公安委員会の認定を取得するまでは、自ら営業主体として運転代行業を営むことができないから、この時点では、原告A野は、被告が営む運転代行業務に従事する形を取っていた。これは、後記イないしケの各原告についても同様である。)。なお、原告A野は、同年六月一六日、千葉県公安委員会に対し、運転代行業の認定を申請し、その後同認定を取得して、自ら運転代行業を営むこととなった。
イ 原告B山
原告B山は、テレビ関連会社や保険会社での勤務を経たのち、平成一五年六月に、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、住所地である千葉市緑区おゆみ野有吉を拠点として、運転代行業を行うことを決め、同月二四日、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告B山は、同年七月八日から、「アイ代行千葉おゆみ野有吉店」として、運転代行業務に従事し始めた。
なお、証拠上、原告B山が運転代行業の認定を取得したか否かは明らかでない。
ウ 原告C川
原告C川は、会社に勤めていたが、転職を考えていたところ、平成一五年七月に、フランチャイズ事業を紹介するフェアの会場で、被告のブースに立ち寄ったことをきっかけに、後日、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、住所地である東京都板橋区称生を拠点として、運転代行業を行うことを決め、同年八月一一日、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告C川は、同月二六日から、「アイ代行板橋称生店」として、運転代行業務に従事し始めた。なお、原告C川は、被告との契約を解除するまでに、運転代行業の認定の申請をしなかった。
エ 原告D原
原告D原は、平成一五年八月当時、パチンコ店の店長を務めていたが、雑誌に掲載されていた被告の広告記事を見たことをきっかけに、同月二六日、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、住所地である横浜市都筑区池辺町を拠点として運転代行業を行うことを決め、同年九月三日、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告D原は、同月一五日ころ、「アイ代行横浜池辺店」として、運転代行業務に従事し始めた。
なお、証拠上、原告D原が運転代行業の認定を取得したか否かは明らかでない。
オ 原告E田
原告E田は、不動産関係の営業の職に就いていたが、平成一五年一月ころ、雑誌に掲載されていた被告の広告記事を見たことをきっかけに、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、当時の住所地であった川崎市多摩区長尾を拠点として運転代行業を行うことを決め、同年二月の仮契約を経て、同年三月八日に、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。原告E田は、同日から、「アイ代行川崎長尾店」として、運転代行業務に従事し始めた。なお、原告E田は、同年九月一〇日、神奈川県公安委員会に対し、運転代行業の認定を申請しており、その後、同年一一月一九日に同認定がなされた。
カ 原告A田
原告A田は、平成一五年ころ、運送会社で運転手として働いていたが、雑誌に掲載されていた被告の広告記事を見たことをきっかけに、同年三月八日ころ、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、住所地である東京都江戸川区北葛西を拠点として運転代行業を行うことを決め、同月二九日の仮契約を経て、同年七月五日に、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告A田は、同月二三日から、「アイ代行江戸川北葛西店」として、運転代行業務に従事し始めた。なお、原告A田は、同年六月一六日に、東京都公安委員会に対し、運転代行業の認定を申請し、同年八月ころまでに同認定を取得して、自ら運転代行業を営むこととなった。
キ 原告B野
原告B野は、平成一五年ころ、運送会社に運転手として勤務していたが、フランチャイズ事業を紹介するフェアの会場で、原告C山とともに、被告のブースに立ち寄ったことをきっかけに、同年二月ころ、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、住所地である千葉県市原市古市場を拠点として運転代行業を行うことを決め、同年三月の仮契約を経て、同年四月一四日に、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告B野は、しばらく原告C山が行う運転代行業務を手伝った後、同年五月七日から、自ら「アイ代行市原古市場店」として、運転代行業務に従事し始めた。
なお、証拠上、原告B野が運転代行業の認定をいつ取得したのかは明らかでない。
ク 原告C山
原告C山は、原告B野と同じ運送会社で運転手の仕事をしていたが、原告B野とともに、フランチャイズ事業を紹介するフェアに参加し、その会場で、被告のブースに立ち寄ったことをきっかけに、平成一五年一月に、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、住所地である千葉市緑区おゆみ野南を拠点として運転代行業を行うことを決め、同年二月の仮契約を経て、同年三月二四日に、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告C山は、同年四月二二日から、「アイ代行千葉おゆみ野南店」として、運転代行業務に従事し始めた。なお、同年八月末ころ、原告C山は運転代行業の認定を取得して、自ら運転代行業を営むこととなった。
ケ 原告D川
原告D川は、高校卒業後、数社の企業での勤務やラーメン店の経営などをしてきたが、フランチャイズ事業を紹介するフェアの会場で、被告のブースに立ち寄ったことをきっかけに、平成一五年五月二九日ころ、被告事務所を訪れて、本件フランチャイズ事業の説明を受け、当時の住所地であった神奈川県愛甲郡愛川町中津を拠点として運転代行業を行うことを決め、同年六月一六日の仮契約を経て、同月一八日に、被告事務所において、被告との間で本件フランチャイズ契約を締結した。その後、原告D川は、同月二七日から、「アイ代行愛川中津店」として、運転代行業務に従事し始めた。なお、原告D川は、被告との契約を解除するまでに、運転代行業の認定の申請をしなかった。
(7) 原告らの本件フランチャイズ契約の終了とその後の事情
原告らはそれぞれ、平成一五年一一月四日、被告に対し、本件フランチャイズ契約を解除する旨の通知をした。(甲一五の一、二)
被告との契約を解除した後、原告らのうち原告C山、原告B野及び原告A野は「あおば代行」の名称で、原告A田及び原告E田は「アール代行」の名称で、それぞれ運転代行業の営業を開始した。
(8) 被告のフランチャイズ事業の推移
ア 被告は、平成八年ころまで、大宮を中心に、運転代行業を営んでおり、本社内にある岩槻営業所のほか、大宮営業所、浦和営業所、川口営業所、上尾営業所、東京営業所、東部営業所の各直営店を開設していたが、その後、平成九年ころから、フランチャイズ加盟店が営業を開始するようになり、その加盟店が増えるに従って、直営店による営業を縮小させていった。平成一四年ころには、本件フランチャイズ事業の加盟店の数が、個人契約一八店、法人契約一店の合計一九店となっていた一方で、被告直営の営業所は、本社内の営業所一店を除き、いずれもその営業を終了した。
その後、平成一七年当時の被告の加盟店の数は、個人契約一一店、法人契約七店で、合計一八件となり、それらを地域別に見ると、埼玉県内が、個人契約九店、法人契約三店、東京都内が、個人契約一店、法人契約三店、千葉県内が、個人契約一店、法人契約一店であった。
イ 原告ら九名が被告の加盟店となった平成一五年三月から九月までの期間以外にも、被告がフランチャイズ事業を展開し始めてから現在まで、常時、原告らと同様に、新たに被告のフランチャイズ事業に加盟する者があった。しかし、一方で、新たに加盟店となる者の数とほぼ同数の既存の加盟店が、被告とのフランチャイズ契約を終了し、フランチャイズから脱退していったため、被告の加盟店数は、平成一四年から平成一七年にかけて、ほとんど変化することがなかった。
また、神奈川県内では、原告D原、原告E田及び原告D川の三名が、一時期被告の加盟店となったが、被告がフランチャイズ事業を始めてから現在までの間に、上記三名の原告らを除くと、神奈川県内で被告の加盟店となった者はいなかった。
二 争点一(被告の原告らに対する説明義務違反の有無)について
(1) 契約締結段階における説明義務
フランチャイズ事業においては、一般に、フランチャイザーは、当該事業について十分な知識と経験を有し、当該事業の現状や今後の展望及び既存のフランチャイジーの経営内容、収支状況などの情報を豊富に有しているのに対し、フランチャイジーとなろうとする者は、当該事業についての経験や情報に乏しいのが通常であり、フランチャイジーとなろうとする者が、フランチャイザーとの間でフランチャイズ契約を締結するか否かを判断するに当たっては、フランチャイザーから提供される情報に頼らざるを得ないのが実情である。確かに、フランチャイズ契約においては、フランチャイジーは、独立した事業者として、自己の判断と責任において業を営んでいくものであるから、フランチャイジーとなろうとする者についても、フランチャイザーから提供される情報のみに全面的に依拠することなく、自ら、その情報の正確性や合理性、その情報が自己の営業に適合するか否かを吟味すべきではあるが、その前提として、まず、フランチャイザーがフランチャイジーになろうとする者に対し、自らの持つ情報を正確に提供すべきことは当然である。
また、フランチャイザーは、フランチャイズ事業を展開することで、自ら店舗を経営することのリスクを回避しつつ、他方で、フランチャイジーから加盟金やロイヤルティなどとして金員を収受して、収益を上げることができるのに対し、フランチャイジーは、フランチャイズ契約を通して、必ずしも豊富でない資金を投じて、自ら店舗を開設し、その経営リスクをも負担することになる。
このような、フランチャイザーとフランチャイジーとの関係にかんがみれば、フランチャイザーは、フランチャイジーとなろうとする者と契約を締結するに当たって、フランチャイジーとなろうとする者がフランチャイズ契約を締結するか否かについて的確な判断ができるよう、フランチャイジーとなろうとする者に対し、フランチャイザーが有する当該フランチャイズ事業に関する正確な情報を提供し、当該情報の内容を十分に説明しなければならない信義則上の保護義務を負うものと解すべきである。そして、フランチャイザーがかかる説明義務に違反した結果、フランチャイジーとなろうとする者が的確な判断ができないまま、フランチャイズ契約を締結して、フランチャイジーとなり、それによって損害を被った場合には、フランチャイザーは、上記説明義務違反に基づき、当該フランチャイジーに対し、損害を賠償する責任を負う。
(2) 開業初期費用に関する説明義務違反について
ア 上記一の(4)のアのとおり、被告のフランチャイズ加盟店として、新規に運転代行業を開業するに当たっては、三五〇万円以上の初期費用を要することが認められる。しかるところ、原告らは、被告従業員が、契約締結に先立って、原告らに対し、開業初期費用が二七五万円であり、これ以上は一切かからないと説明したと主張する。
確かに、原告C山、原告B野、原告A田、原告E田、原告C川及びA野太郎の各陳述書(甲一六、甲一七、甲一八、甲二一、甲二二、甲二四の一)並びに原告C山及び原告E田の各本人尋問の結果には、上記原告らの主張に沿う内容の陳述記載部分及び供述部分があるほか、被告作成の本件フランチャイズ事業を紹介するパンフレットには、開業のための初期必要額として、加盟金、アイパッケージ車両購入費、保険料などの合計約二七五万円と記載されていること(甲四)、原告D原及び原告A野が、それぞれ被告事務所で本件フランチャイズ事業の説明を受けた後に作成し、被告に対して提出した「アイ代行サポート21加盟希望申込書」二通(乙二七、乙五三)には、加盟希望者の開業資金計画を記入する欄に、加盟金二〇〇万円と車両代七五万円の合計二七五万円を自己資金で賄うとの趣旨の記載(乙二七)や、車両代金はローンを組み、一〇〇万円を自己資金で、残りの一〇〇万円は収益で賄うとの趣旨の記載(乙五三)があることからすれば、被告従業員が、原告らに対する当初の説明においては、開業に必要な初期費用を、加盟金二〇〇万円、車両購入代金約七〇万円、保険料約五万円の合計である約二七五万円としか説明していなかった疑いが強いということができる。
イ しかしながら、原告らが、本件フランチャイズ契約を正式に締結する段階では、上記二七五万円以外にも、賃貸物品の賃貸料、ナビゲーションシステム代、制服・名刺・料金表・伝票等の代金などの費用が必要であると知ったことは、原告ら自身が認めるところである(上記第二の三の(1)のアの(イ))から、そうであれば、原告らとしては、少なくとも契約締結の時点においては、二七五万円以外に、上記各費用が必要であることを承知した上で、本件フランチャイズ契約を締結したものということができる。したがって、開業初期費用に関する被告従業員の説明は、当初の説明が必ずしも十分な内容でなく、正確な説明がなされる時期が遅すぎたとの感は否めず、それによって、原告らが契約締結に際して困惑や戸惑いを感じたことがあり得たと考えられるものの、さりとて、上記のとおり、原告らは開業に必要な費用を承知した上で本件フランチャイズ契約を締結したと認められる以上、その説明の内容、程度及び時期が、原告らの契約締結に関する判断を誤らせるほどに、決定的に不適切なものであったとまではいい難いのであって、被告従業員が説明義務に違反したものとは認められない。
ウ なお、原告らは、二七五万円を超える費用が必要であると知らされる前に、加盟金を支払っていたと主張しており、原告C山、原告D原及び原告C川の各陳述書(甲一六、甲二〇、甲二四の一)には、既に加盟金二〇〇万円を支払った後だったので、追加の費用がかかると知らされても、やむなく契約してしまったとの趣旨の陳述記載部分があるが、加盟金を振り込んだ後であっても、正式な契約に至らない場合には、加盟金の返還を求めることが可能であったはずであるし、また、原告らの中には、契約締結前には加盟金を振り込まず、さらには、契約締結時点でもその一部しか支払わないまま、契約締結に至った者もいること(甲二一、甲二二、甲二三)からすれば、事前に加盟金を振り込んでいたか否かが、契約締結に対して重大な影響を及ぼしたものとは考えられないのであり、既に加盟金を支払っていたとの原告らの主張によっても、上記イの結論が左右されることはない。
(3) 売上・経費・収益に関する説明義務違反について
ア 被告従業員による説明
(ア) 原告らがいずれも、本件フランチャイズ契約の締結の前に、被告事務所内で、被告従業員から、本件フランチャイズ事業に関する説明を聞いていること(上記一の(6)のアないしケ)、被告事務所内の壁に本件パネルが掲示されていたこと(上記一の(5))、被告従業員は、各原告に対し、本件パネルを用いて経費等の説明をしたこと(E原証言・五〇頁)、原告らはいずれも、被告従業員に対し、売上や利益について質問をしたこと(E原証言・五四頁)、本件パネルには「月間モデル収支」との標記の下に、「売上高(一日三万円×三〇日) 九〇〇、〇〇〇円」、月間経費として、「燃料費 三〇、〇〇〇円」、「保険料(アイパッケージ車) 一二、二二〇円」、「保険料(お客様用運転代行保険) 二一、〇〇〇円」、「ロイヤルティ 一三八、九〇〇円」、「広告宣伝費分担金 三〇、〇〇〇円」、「経費合計 二三二、一二〇円」、さらに下に、「営業収益(オーナー利益額) 六六七、八八〇円」と、それぞれ記載されていたこと(上記一の(5))、証人E原の証言には、本件パネルを見た者から加盟店の売上について聞かれたときに、本部の指導に則って営業活動をしていけば、一日三万円という数字は難しくないと説明したとの証言部分があること(E原証言・五一頁)、原告A野が、被告従業員から説明を受けた後に作成した「アイ代行サポート21加盟希望申込書」(乙五三)には、同原告の開業後のビジョンとして、一年後に車両を三台に増やし、月商二七〇万円とし、三年後には車両を一〇台に増やし、月商九〇〇万円とするとの趣旨の記載があることに加えて、原告らの各陳述書(ただし、原告A野についてはA野太郎が作成したもの。)の記載(甲一六ないし甲二四の一)を総合すると、被告従業員は、各原告に対する説明の際、本件パネルを用いて、本件フランチャイズ事業の加盟店の標準的な収支として、車両一台につき、一日三万円、月九〇万円の売上を上げられることを説明するとともに、月々の経費として、ロイヤルティ一三万八九〇〇円、広告宣伝費分担金三万円、保険料として約三万三二二〇円、燃料費(ガソリン代)として約三万円がかかるほか、アルバイトを雇う場合には、一人一日当たり七〇〇〇円程度、一月一七万五〇〇〇円程度の人件費が必要であることを説明し、その売上と経費の差額が、加盟店の営業収益になることを説明したものと認められる。
また、本件パネルの記載内容(上記一の(5))及び甲第一三号証のE原作成のメモの記載内容に加えて、甲第一六、第一七、第二一号証及び証人E原の証言(E原証言・三一~三三頁)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告従業員が、少なくとも原告A野、原告B山、原告C山、原告B野、原告A田及び原告D川に対し、甲第一三号証のメモ又はこれと同様の内容のメモを示すなどしながら、被告の加盟店の一つである足立舎人店の経営実績として、同店が平成一四年四月に約一二〇万円の車両を購入して、フランチャイズ加盟店となり、その後、同年九月、同年一二月、翌一五年三月に、それぞれ約七〇万円で車両を購入し、四台まで契約車両を増車していったこと、それに伴って、一台当たり月九〇万円の売上高から、ロイヤルティ一三万八九〇〇円と広告宣伝費分担金三万円などの経費(人件費を除く。)を控除した残額が約六七万円となり、さらに、ここから、一台目については一人分の人件費として一七万五〇〇〇円を、二台目以降は二人分の人件費として三五万円を、それぞれ差し引いて、一台当たりの営業収益の額を算出すると、一台目が四九万五〇〇〇円、二台目以降が各三二万円となること、もっとも、契約車両が三台以上になると法人契約を締結することができ、その場合ロイヤルティと広告宣伝費分担金が契約台数に関係なく四〇万円となるから、契約車両が四台の場合は、通常の契約と比べて、ロイヤルティと広告宣伝費分担金の負担が月約二七万五〇〇〇円軽減される結果、四台合計の営業収益が約一七三万五〇〇〇円になること、仮に一〇台を契約した場合は、売上高が月九〇〇万円となり、そのうちロイヤルティと広告宣伝費分担金の負担が通常は月一六八万九〇〇〇円となるはずであるが、法人契約にすれば、通常の契約と比べて、ロイヤルティと広告宣伝費分担金の負担が月一二八万九〇〇〇円軽減されることなどを説明したことが認められる。このような足立舎人店の実績に関する説明内容に照らしても、被告従業員が、各原告に対する説明に際し、被告の加盟店になれば月九〇万円の売上を上げることができることを前提として説明をしていたことが明らかであって、また、本件パネルに記載された諸経費以外の経費については、アルバイト一名につき、月一七万五〇〇〇円程度の人件費がかかることのみを説明していたものと認められる。
(イ) これに対し、被告は、本件パネルは共通の経費の説明のために作成したものであり、原告らに対して、本件パネルを用いて売上の予測を提供したことはないと主張するが、本件パネルには「月間モデル収支」と標記されていて、その中には、経費の額(支出)のみでなく、売上高(収入)や営業収益の額も記載されているのであり、さらには、売上高に占める経費と営業収益の割合まで示されているのである(上記一の(5))から、これらの本件パネルの記載内容からして、このパネルが、共通の経費を説明するためだけに作成されたものとは到底考えられないのであり、また、売上予測という表現を用いたか否かはともかく、本件パネルの標題及びその記載内容は、これを見た加盟希望者に対し、そこに示された数字が、本件フランチャイズ事業の加盟店の標準的な収入(売上)と支出(経費)及びこれらを基にした営業収益を表すものであるとの認識を与えるに十分なものであるから、被告の主張は失当である。
また、被告は、足立舎人店の車両が、一月三〇日間稼働し、一日当たり三万円を売り上げることを仮定した場合の数字を説明したことはあるが、その時は、誤解を招かないように、別途足立舎人店の実際の売上実績も説明していたと主張しており、証人E原の証言にも、これに沿う証言部分がある。しかしながら、足立舎人店の実績に関する説明において、加盟希望者に対して、仮定の数字を用いて、実際と異なる売上高や利益額を説明することは、何ら意味がないばかりか、却って誤解を与えかねない行為であり、それ自体説明の方法としては不適切というべきであるが、本件では、そもそも、被告従業員が、一方で、足立舎人店の具体的な店名を挙げ、具体的な増車の経緯として、平成一四年四月、同年九月、同年一二月、翌一五年三月と説明し、一二〇万円又は七〇万円との具体的な車両価格を説明しているにもかかわらず、他方で、売上高や利益額の部分についてだけ、仮定の話と断った上で説明したものとは到底考え難く、また、足立舎人店の実績について、実際の数字を示すのであれば、それと同時に仮定の数字を示す必要は全くないというべきであるから、仮定の話として説明をしたとか、誤解を招かないように、仮定の数字と併せて、実際の実績も説明していたとの被告の主張は到底採用することができない。
イ 売上に関する説明内容の正確性及び合理性
(ア) 上記アの(ア)のとおり、被告従業員は、被告の加盟店の標準的な売上として、一日三万円、月九〇万円との数字を説明したものであるが、そのような被告従業員の説明内容が正確なものであったか否か、あるいは原告らに対する説明として合理的なものであったか否かが問題となる。
(イ) まず、被告の主張によれば、本件パネルの売上高の数字は、平成八年当時、被告の直営店で稼働していた車両二〇台の年間売上の統計を基に算出したものであるとのことであり(上記第二の三の(1)のイの(ウ))、証人A川の証言によれば、上記二〇台の車両はいずれも、本社内にあった岩槻営業所に所属し、大宮を営業エリアとしていた車両であることになる(A川証言・三三頁)。
しかし、原告らが本件フランチャイズ契約を締結したのは平成一五年であり(上記一の(6))、しかも、そのころまでに、被告の運転代行業の事業形態は、直営店によるものから、フランチャイズを中心とするものに大きく変更されていた(上記一の(8)のア)であるから、平成一五年当時の加盟店の車両の売上が、当然に、上記平成八年の被告直営店の車両の売上と同じであったとはいえない。
これに関して、証人E原は、その証人尋問において、現在でも個人契約の加盟店の三分の一くらいは、一日三万円を売り上げている(E原証言・五〇頁)、一日三万円という数字は全く問題がない(E原証言・五二頁)と証言している。しかしながら、証人E原は、同証言中で、一日三万円を売り上げている加盟店の具体的な名称を挙げられず(E原証言・五〇頁)、また、被告は、各加盟店の実績を把握しているのである(E原証言・五六頁)から、加盟店の売上に関する証人E原の上記証言内容を裏付ける資料を提出することが容易であるはずにもかかわらず、そのような裏付資料が何ら提出されていない(当裁判所に顕著である。)。さらに、原告ら九名の実際の売上高を見てみても、乙第四五、第五三号証によれば、原告D川の開業当初三か月間(週一日の休日に相当する日を除く。)の一日当たりの平均売上高は二万一二三五円であり、原告A野の同平均売上高は二万四一八八円であったことが認められるほか、甲第一六ないし第二四号証の一、原告C山及び原告E田の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告らのうち最も売上が高かった原告E田が、開業当初三か月間(同上)で、かろうじて合計二〇〇万円を超えて、一日当たりでも二万六〇〇〇円程度の売上を得ていた以外は、他の原告らは、開業当初の一日当たりの売上が二万五〇〇〇円にも届かない程度しかなかったことが認められる。さらに、上記各証拠に加えて、被告が、三か月間の売上保証期間中の加盟店に対して、優先的に顧客を紹介していたこと(乙二九・一五頁、乙四六・一五頁)、原告C山の売上の額が、売上保証期間経過後は、売上保証期間中に比して顕著に減少していること(甲一四(各枝番)、甲一六、弁論の全趣旨)からすれば、各原告が開業から三か月以上経過した後の売上は、上記のような開業当初の売上よりもさらに悪化していたであろうと推認される。これらの事情にかんがみれば、証人E原の上記証言を信用することができないのはもちろん、却って、一日三万円の売上を上げている加盟店の車両はほとんどないものと考えられる。
したがって、標準的な売上を一日三万円とした被告従業員の説明は正確なものではなかったということができる。
(ウ) また、被告が説明した売上の根拠となっている平成八年の売上実績は、大宮を中心に営業していた車両二〇台に関するものであったとされるところ(A川証言・三三頁)、大宮は、被告が、昭和六三年当時から、運転代行業の拠点としていた地域である(上記一の(2)、(8)のア)のに対し、原告らが拠点としようとしていた地域はいずれも埼玉県外であり、被告の従来の営業地域から遠距離にあったのである(上記一の(6))から、それまでの被告の地理的な営業展開の範囲(上記一の(2)、(8))及び被告による原告らに対する顧客の紹介が、現に、埼玉県内又はその隣接地域がほとんどであり、原告らの拠点地域の顧客がほとんどいなかったこと(甲一四(各枝番)、甲一六ないし甲二四の一、原告C山本人・一三、一四、二九頁、原告E田本人・八、二五頁、弁論の全趣旨)、原告らの実際の売上高が、一日当たり、せいぜい二万六〇〇〇円程度にすぎなかったこと(上記(イ))を考慮すると、原告らの開業後の売上が、上記大宮を中心に営業していた車両の売上に匹敵し得ると期待することは明らかに不合理であったというべきであり、したがって、被告従業員が、原告らに対して一日三万円との売上高を説明したことは合理的ともいえないものであったと認められる。
(エ) さらに、被告の説明においては、加盟店が、一月三〇日稼働することを前提として、一月の売上が九〇万円と計算されているが、そもそも本件フランチャイズ契約上、営業日は週六日とされており(上記一の(3)のエ)、実際にも、個人契約の加盟店が三〇日間稼働することはほとんどなく(E原証言・五七頁)、現に、被告の個人契約の加盟店の中で、月九〇万円以上を売り上げているのは一店しかないと認められること(A川証言・五一頁、E原証言・五四、五六頁)からすれば、被告従業員が、上記のとおり一月三〇日稼働することを前提にして、一月の売上高を九〇万円と説明したことも、加盟店の営業実態にそぐわない、合理性のないものであったといえる。
(オ) これに対し、被告は、モデルケースとなるような実績については、あくまでモデルであると断った上、実際にはモデルケース以下の実績の加盟店とそれ以上の実績の加盟店があること、営業努力がなければモデルケースのような実績が上がらないことを説明していたと主張するが、そもそも、そのモデルケースとして説明した内容自体に正確性及び合理性が認められない以上、それ以下の実績の加盟店があるとか、営業努力をしなければモデルケースのような実績を上げられないなどと留保を付けたとしても、それによって説明義務を果たしたことにはならないから、この点に関する被告の主張は失当である。なお、証人E原の証言には、足立舎人店の実績を成功した例として説明したが、それだけでなく、実績の悪い店についても説明したとの証言部分があるが(E原証言・一六、五五頁)、被告のフランチャイズ事業においては、新規の加盟店が常時加入する一方で、それとほぼ同数の既存店がフランチャイズから脱退しており、加盟店の数が増えていない事実(上記一の(8)のイ)及び上記(ウ)の原告らの実際の売上高にかんがみれば、被告の加盟店のうち実績の悪い店の売上は、到底加盟希望者らに対して説明できるような水準のものではなかったと考えられるのであり、加えて、証人E原が、その実績の悪い加盟店の店名についての質問に対して回答を拒んでいること(E原証言・五五頁)も考慮すると、証人E原の上記証言部分は信用することができない。
また、被告は、原告らがいずれも開業後に自ら営業努力をしなかったことが、売上が上がらなかった原因であると主張し、A川及びE原の各陳述書にも、原告らが待機場所の車内で寝ていた、定められた営業時間を守らなかった、飲食店へのPR活動を行わなかった、被告従業員によるPR活動等の営業支援を拒否した、仕事よりも趣味等を優先させていた、わざわざ渋滞するような道路を選択していた、本部からの配車指示に従わなかったなどと、原告らの業務態度が悪かったとの趣旨の陳述記載部分がある。しかしながら、原告らはいずれも三〇〇万円を超える高額の開業初期費用を負担して、被告のフランチャイズ加盟店になった者であり(上記一の(4)のア、上記一の(6))、当然、運転代行業を通じて、収入を得ていこうとの決意を持って開業したはずであるから、原告ら全員が、他の被告の加盟店と比べて、著しく業務態度が悪く、営業努力を欠いていたとの被告の主張は容易には首肯できない。特に、被告が原告らに提供しようとしたPR活動や配車指示などの営業支援が、原告らの経営に役立つものであったとすれば、原告らがそれらの支援を無下に拒絶したとは考え難く、また、原告らが自らの経営のために何らの営業努力もしなかったということも想定し難い。さらに、原告らが被告と契約を締結したのと同時期に、原告ら以外に被告の加盟店となった者はいなかったか、いてもせいぜい一名であったこと(A川証言・五三頁)からすれば、たまたまその時期に、殊更に業務態度の悪い者ばかり(九名中の九名又は一〇名中の九名)が加盟店になったと考えるのは合理的ではない。これらの事情を考慮すると、A川及びE原の上記陳述記載部分をそのまま採用することはできない。
なお、原告らが被告から紹介を受けていた顧客のほとんどが原告らの拠点から離れた埼玉県及びその隣接地域であったこと(上記(ウ))からすれば、原告らが、それぞれの拠点地域から離れた待機場所での待機中に飲食店などに対する営業活動をしていなかったからといって、そのことが原告らの営業努力の欠如を表すものとはいえない。また、そもそも、被告の既存の加盟店の中でも、被告従業員が説明したような一日三万円、月九〇万円の売上に到達している加盟店がほとんどないこと(上記(イ)、(エ))からすれば、仮に実際に原告らの営業活動が足りておらず、それによって売上の低下を招いていたことがあったとしても、原告らが努力を尽くしたからといって、被告従業員の説明どおりの売上に到達できたかどうかは甚だ疑わしいというべきである。
(カ) 以上によれば、被告従業員が、被告のフランチャイズ加盟店の標準的な売上として説明した一日三万円、一月九〇万円との数字は、到底正確なものとはいえず、合理的ともいえないものであったと認められる。
ウ 経費に関する説明内容の正確性及び合理性
(ア) 上記アの(ア)のとおり、被告従業員は、原告らに対して、本件パネルを示すなどして、加盟店になった場合の月々の経費として、ロイヤルティ一三万八九〇〇円、広告宣伝費分担金三万円、保険料として約三万三二二〇円、燃料費(ガソリン代)として約三万円がかかることを説明したほか、それ以外の経費については、アルバイトを雇う場合には、一人一日当たり七〇〇〇円程度、一月で一七万五〇〇〇円程度の人件費が必要であることしか説明しなかったものと認められる。
(イ) これに対し、原告らは、月五~七万円のガソリン代、高額の電話料金、駐車場代を負担しなければならなかったから、上記被告従業員による経費の説明は不正確であったと主張するところ、確かに、甲第一四号証(各枝番)、第一六号証、原告C山本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らの中には、月四万円以上のガソリン代、月四万円以上の電話料金、月数万円の駐車場代を支払っていた者がいることが認められる。
もっとも、運転代行業務に要するガソリン代はその営業の内容によって大きく異なるものであるところ、原告らは、被告との契約期間中、それぞれの拠点から離れた地域の顧客に対応するために(上記イの(ウ))、一日の走行距離が比較的長くなり、それによってガソリン代が高くなっていたものと考えられるが、それは必ずしも永続的なものではなく、原告らが各自の拠点を中心として業務を営むことができるようになれば、ガソリン代の負担をある程度軽減することができたはずであるから、被告従業員らが、平均的な燃料費として三万円と説明したことが、直ちに合理性を欠くものであったとまではいえない。また、原告らが負担した電話料金のすべてが、運転代行業務のための通話に係る料金であると認めるに足りる証拠はなく、しかも、証人A川が、運転代行業を行う上での電話料金は一万円台後半から二万円ぐらいと証言していること(A川証言・二一頁)及び運転代行業の一般的な営業内容(上記一の(1))を併せ考慮すれば、通常の電話料金以外に、運転代行業務のために特に必要となる電話料金はせいぜい月一万円ないし二万円程度であると考えられるのであって、そうであれば、運転代行業務を行う上でその程度の電話料金が必要となることは必ずしも予想できないものではなく、その額も決して高額なものともいえないから、被告従業員が、通信費の項目及びその金額を具体的に挙示しなかったとしても、それが、原告らの判断を誤らせるほどに、説明義務に違反したものであったとはいえない。同様に、駐車場を有しない者が、運転代行業務を行うためには、駐車場を借りる必要があることは当然予想できることであるから、被告従業員が、駐車場代の項目及びその金額を説明しなかったとしても、それが直ちに説明義務違反に当たるとまではいえない。
エ 営業収益に関する説明内容の正確性及び合理性
上記イのとおり、売上高についての被告従業員の説明が不正確であり、かつ合理的なものでなかった以上、そこから経費を差し引いて算出される営業収益についての説明も不合理であったというほかない。特に、本件パネルに記載された六六万七八八〇円との月間営業収益の額については、そもそも、その算定の根拠となっている売上高の記載に合理性がない上、その売上高から、加盟店の共通の経費のみ(これは、加盟店が必要とする経費の最低額に相当する。)を差し引いて算出されたものであって、したがって、それは、すなわち、計算上の営業収益の最高額を示すものであったといえるから、この数字を、モデル収支として本件パネルに記載して、フランチャイジーとなろうとする者らに提供し、説明したことは、フランチャイザーとしての説明義務に反するものであったといえる。
なお、本件フランチャイズ事業の営業収益の点に附言すると、被告のフランチャイズ加盟店が、本件フランチャイズ契約に従って、一月二五日稼働で営業していくとすれば、加盟店の月々の経費は、最低でも、ロイヤルティ一三万八九〇〇円、広告宣伝費分担金三万円、保険料約三万円、燃料費三万円、電話料金約一万円、人件費約一七万五〇〇〇円の合計である四一万三九〇〇円程度となるが、加盟店が継続的に営業を続けていくためには、このほかにも、伝票、領収書などの消耗品の購入費用やアイパッケージ車の検査・維持費用を負担しなければならず、さらには、三年に一度の割合で、本件フランチャイズ契約の更新料二〇万円(甲一)、アイパッケージ車の買換費用約七〇万円(甲一、乙六六。なお、証人A川の証言には、契約書にはアイパッケージ車は三年ごとに買換えると記載されているが、実際は三年以上使用してもよいとの趣旨の証言部分があるが(A川証言・五七頁)、被告直営店の車両の月平均走行距離が五〇〇〇キロメートルであったとの被告の主張(上記第二の三の(1)のイの(ウ))を前提としても、三年間の累計走行距離は一八万キロメートルとなるから、軽自動車であるアイパッケージ車が三年間を大きく超えて使用できたものとは考えにくい。)、同車両マーキング代三万四六五〇円(上記一の(4)のア)、アイパッケージ車に取り付ける物品の賃貸料四三万八六六〇円及びこの取付費用四万七二五〇円(同上)などを負担する必要があるから、結局、これらを合計すると、加盟店は、最低でも一月当たり四五万円を超える固定的な経費を負担しなければならないことになる。そうすると、加盟店としては、毎月この経費額以上を確実に売り上げていかなければ赤字に転落してしまうという危険を負うのはもちろん、仮に加盟店が一日三万円(月七五万円)を売り上げたとしても、それによって得られる営業収益の額が、運転代行業の労務内容や独立事業者としての事業リスクの負担に見合ったものであるといえるかは大いに疑わしく、畢竟するに、被告が本件フランチャイズ契約によってフランチャイジーに提供している事業モデルそれ自体に、収益性の点で問題があるのではないかとの疑念すら禁じ得ない。
オ まとめ
以上によれば、被告従業員は、本件フランチャイズ契約の締結に至る段階において、原告らに対し、フランチャイズ加盟店の売上及び営業収益に関し、合理的でない数字を示して、不正確な説明をしたものと認められるから、かかる被告従業員の行為は、契約締結に至る段階において、フランチャイザーがフランチャイジーとなろうとする者に対して負う説明義務に違反するものであったというべきである。そして、フランチャイジーとなろうとする者にとって、加盟後の月々の売上や営業収益に関する情報は、当該フランチャイズ契約を締結するか否かの判断において、最も基本的かつ重要なものであるから、かかる被告従業員の説明義務違反は、原告らの契約締結に至る判断に対して、決定的な影響を与えたものと認めることができる。
(4) 営業支援に関する説明義務違反について
ア 営業支援に関する被告従業員の説明
被告従業員が、契約締結に先立ち、原告らに対し、被告の加盟店への営業支援として、被告が顧客を加盟店に紹介し、逆に、加盟店が対応できない顧客を被告が他の加盟店に紹介すること、被告従業員が加盟店の営業地域における飲食店へのPR活動などの営業活動を行うことをそれぞれ説明したことは、当事者間に争いがない。
このほか、原告らは、被告従業員が、加盟店の営業地域での市場調査を実施する旨の説明をしたと主張しており、原告C山、原告B野及び原告C川の各陳述書にも同主張に沿う陳述記載部分がある(甲一六、甲一七、甲二四の一)。しかしながら、上記陳述記載においても、被告従業員が説明したとされる市場調査の内容は何ら具体的でない上、A川の陳述書(乙一九、乙二〇)には、被告が市場調査を実施すると説明したことはない旨の陳述記載部分があること、甲第一、第二号証などの契約関係書類においても、被告が加盟店のために市場調査を実施するとの趣旨の記載がないこと、上記三名の原告らを除く他の原告ら(ただし、原告A野についてはA野太郎)の各陳述書には、被告従業員から市場調査をする旨の説明を受けたとの記載がないこと(甲一八ないし甲二三)、原告C山本人尋問の結果には、原告C山が被告に対して市場調査を依頼したところ、A川から、市場調査はやらないとの返答があったとの供述部分があること(原告C山本人・八頁)にかんがみれば、原告C山、原告B野及び原告C川の上記陳述記載部分があるからといって、被告従業員が、原告らに対し、市場調査を実施するとの説明をしたとまで認定することはできない。
イ 被告から加盟店への顧客の紹介
被告従業員は、営業支援として、被告が加盟店に顧客を紹介すると説明したことが認められる(上記ア)ところ、《証拠省略》によれば、被告においては、GPSを用いた車両位置管理システムを利用して、加盟店等の車両の位置を管理し、顧客からの注文があった場合には、原則として、その顧客に近い車両に配車を指示するシステムが活用されていたこと、現に各原告が運転代行業務に従事し始めた後、被告から各原告に対して、相当数の顧客の紹介がなされたことが、それぞれ認められる。
これについて、原告らは、被告が紹介した顧客のほとんどは、各原告の拠点から遠距離の顧客であり、被告のいうマスメリットを享受できなかった上、売上保証期間経過後は、そのような顧客の紹介すらされなくなったと主張しており、確かに、甲一四号証(各枝番)、乙第七〇号証及び原告C山本人尋問の結果によれば、被告から原告C山に紹介された顧客のほとんどは、原告C山の拠点である千葉市から離れた埼玉県内や東京都内、又は千葉県内であっても埼玉県や東京都に近い地域の顧客であったこと、売上保証期間経過後には、顧客紹介の数が、売上保証期間中よりも減少したことが認められる。
しかしながら、一般に、フランチャイズ事業においては、フランチャイザーが各フランチャイジーに対して、その経営を成り立たせるに足りる程度の顧客を紹介することまで契約の内容とされていることはなく、各フランチャイジーは、フランチャイザーの指導援助を受けつつも、最終的には、自己の努力と工夫において、顧客を獲得し、経営を確立していく責任を負うべきものと解されるのであり、本件フランチャイズ契約についても、被告が、各加盟店の経営を安定させるに足りる程度の顧客を紹介することまでは、その契約内容に含まれていなかったものと認められる(甲一、甲二、甲四)。そして、契約締結前における被告従業員の説明についても、被告に注文してきた顧客を加盟店に紹介するとの内容の説明があったことは認められるものの(上記ア)、それを超えて、被告が各加盟店の経営のために十分な顧客を紹介するとの説明がなされたとまで認めるに足りる証拠はない。したがって、被告が加盟店に対して顧客を紹介するシステムを活用し、現に原告らに対して顧客を紹介していた事実がある以上、その顧客の数やそれに基づく売上の額が、原告らの期待に添うものでなかったとしても、それだけで、被告従業員による説明が不適切であったということはできない。なお、被告が、売上保証期間中の加盟店には優先的に顧客を紹介していた事実はあるが(上記(3)のイの(イ))、それ自体が加盟店に対する営業支援の方法として必ずしも不適切とはいえないし、売上保証期間経過後も通常の顧客紹介がなされている以上、その数が、優遇を受けていた売上保証期間中よりも減少したからといって、契約締結前の被告従業員の説明が不十分であったことにはならない。
また、甲第四号証及び乙第一七号証によれば、加盟店を募集するに当たって、被告が、被告のフランチャイズチェーンにマスメリットがある旨を強調していたことが認められるが、甲第四号証の「お客様の数を安定させる為には、お客さまのご希望の時間にお待たせしないで配車をするようなシステムがなければなりません。」「アイ代行チェーンでは、フランチャイズシステムのマスメリットを最大限に活かしたネットワークにより、お客様からの信頼を得ております。」との記載や、乙第一七号証の「GPS車両位置管理システムを車両に搭載し、空車の車両をいち早く検索出来、本部・加盟店が相互にフォロー体制を築くことによって、お客様に運転代行サービスを提供していきます。」との記載(乙一七・四頁)からすれば、被告従業員が説明したマスメリットとは、あくまで、加盟店が多くなり、適時の配車が可能となることによって、顧客が享受するメリットが大きくなるというチェーン全体のメリットを指す趣旨であって、各加盟店が、フランチャイズチェーンの構成単位としてのそのチェーンメリットの恩恵に与り得ることがあることは格別、個々の加盟店自体が、マスメリットを主体的に享受して、十分な顧客を獲得できることまでを指す趣旨ではなかったとも考えられる。したがって、被告従業員が、このような形で被告のフランチャイズ事業のマスメリットを強調して説明したからといって、それが直ちに、原告らに対して、十分な顧客獲得が保証される旨を説明したことにはならないのであって、その説明内容が不適切であったとはいえない。
ウ 飲食店への営業活動について
上記アによれば、被告が、契約締結に先立って、原告らに対して、被告が加盟店のために飲食店へのPR活動などの営業活動をするとの説明をしたことが認められるところ、原告らは、被告がそのような営業支援をしてくれたことがなかったと主張しており、原告B野、原告C川及びA野太郎の各陳述書にも、被告が約束していた宣伝を全くしてもらえなかったとか(甲一七・五頁、甲二四の一・六頁)、営業活動を何もしてくれなかった(甲一八・六頁)との陳述記載部分がある。しかしながら、上記陳述記載によっても、被告従業員が原告らに対し説明したとされる営業活動の内容は必ずしも明確でなく、具体的に、いつ、どの範囲で、どの程度の営業活動をすると説明したのかを認定することができないから、被告従業員による説明の内容が、現実に被告が行おうとしていた営業活動の内容と比べて、不正確なものであったか否かは明らかでない。
また、運転代行適正化法が、公安委員会の認定を受ないで運転代行業を営むことを禁じている(同法四条)以上、各原告が運転代行業の認定を取得するまでは、被告が、原告らの名称を用いた営業活動を支援することはできなかったはずであるから、被告との契約解除以前に運転代行業の認定を取得しなかったことが明らかな原告C川、原告E田及び原告D川(上記一の(6)のウ、オ、ケ)はもちろん、証拠上、同認定取得の有無ないし時期が明らかでない原告B山、原告D原、原告B野(上記一の(6)のイ、エ、キ)を含めて、仮に被告が同原告らのために営業活動を行わなかった事実があるとしても、そのことから、被告の説明内容が、現実に被告が予定していた支援内容に比して、不正確なものであったと認めることはできない。
他方、一般に、フランチャイジーが営業活動を通じて顧客を獲得し、その経営を安定させていくことは、フランチャイザーがフランチャイズチェーンを拡大し、当該フランチャイズ事業を成功させていく上で不可欠な事柄であるから、本件フランチャイズ事業においても、被告が、原告ら加盟店のために、PR活動などの営業支援を全く行うつもりがなかったとは想定し難い。また、A川及びE原の各陳述書には、被告従業員らが、原告C山、原告A田及び原告A野(上記一の(6)のア、カ、クのとおり、同原告らはいずれも、被告との契約期間中に運転代行業の認定を取得していた。)のために、各拠点の周辺地域の飲食店へのPR活動を行った旨の陳述記載部分があり(乙一六・五頁、乙二九・六頁、乙五〇・七頁)、原告A田の陳述書によれば、現に、被告が、原告A田のために、その営業地域にある飲食店等に料金表を配布するなどの営業支援を行ったことが認められる(甲二一・五頁)。これらの事実を考慮すると、被告が、原告ら加盟店のために、PR活動などの営業支援を実際に行い、あるいは、少なくともそれを行うことを予定していたものと考えられるから、被告従業員が原告らに対して行った営業活動についての説明内容が、虚偽又は不正確なものであったとはいえない。
(5) 小括
以上によれば、被告従業員による費用及び営業支援に関する説明については説明義務違反が認められないものの、売上及び営業収益に関する説明については説明義務違反が認められ、このことによって、原告らが本件フランチャイズ契約の締結に関して、判断を誤ったものと認められる。したがって、被告は、契約締結段階における信義則上の保護義務違反に基づき、原告らが本件フランチャイズ契約を締結したことにより被った損害を賠償する責任を負う。
三 争点二(原告らの損害)について
(1) 加盟金 各二〇〇万円
《証拠省略》によれば、原告らはそれぞれ、本件フランチャイズ契約締結に当たって、被告に対し、加盟金二〇〇万円を一括又は分割により支払ったことが認められるところ、この加盟金は、被告の説明義務違反によって、原告らが契約締結の是非についての判断を誤り、本件フランチャイズ契約を締結したことに基づいて発生した損害というべきである。
(2) 車両購入費 各〇円
原告B山及び原告D川を除く原告ら七名は、それぞれが購入したアイパッケージ車の購入代金が損害であると主張しているが、同原告らが購入した車両は各原告に帰属するものであって、しかも、その性状等(甲六、乙六六)からして、それ自体通常の自動車としての財産的価値を有するものであると認められるから、上記車両購入費が、上記七名の原告らの損害となったものとは認められない。
(3) 諸経費(保険料) 各〇円
原告B山及び原告D川を除く原告ら七名は、本件フランチャイズ契約の締結に当たって生じた諸経費(保険料)を損害であると主張するが、上記一の(4)のアの事実並びに《証拠省略》によれば、この保険料は、上記原告らがアイパッケージ車を購入した際に、その車両について締結した自動車保険の月割保険料の初回支払分であると認められるところ、かかる費用は、原告らが本件フランチャイズ契約を締結したこと自体によって生じた費用というよりは、むしろ原告らが運転代行業務に従事し、売上げを上げていくために必要となった営業経費というべきであり、本件においては、少なくとも、上記原告らのいずれもが一定期間運転代行業務に従事して、相応の売上を得ていたと認められる(上記一の(6)、二の(3)のイの(イ))以上、同原告らが支出した上記保険料が同原告らの損害になったものとはいまだ認めることができない。
(4) 慰謝料 各〇円
原告らは各五〇万円の慰謝料を請求しているが、仮に本件フランチャイズ契約を通じて原告らが何らかの精神的苦痛を被ったことがあるとしても、その苦痛は、原告らの財産的損害に対する賠償によって相当程度慰謝されるものと考えられるから、別途慰謝料を認めるのは相当ではない。
(5) まとめ
上記(1)ないし(4)によれば、弁護士費用を除く原告らの損害額は、各二〇〇万円となる(弁護士費用については、後記四の(2)のとおり。)。
四 争点三(過失相殺)について
(1) 上記二の(1)のとおり、フランチャイズ契約の締結に際しては、一義的には、フランチャイザーがフランチャイジーとなろうとする者に対して、正確かつ合理的な情報を提供しつつ、説明をすべき義務を負うものであるが、他方で、フランチャイジーとなろうとする者についても、フランチャイズ契約の締結を通じて、独立した事業者として、利潤を追求すべく事業を営み、かつその事業に伴うリスクを自ら負担していくべき地位に立とうとするのである以上、当該契約の締結に当たって、単にフランチャイザーが提供する情報を受動的に受け取り、それに全面的に依拠して契約の是非を判断するだけでなく、フランチャイザーが提供した情報の正確性や合理性を吟味し、必要であればフランチャイザーに対し、さらなる説明や情報の提供を求め、あるいは自ら調査し、情報を収集するなどして、自己が営もうとする事業の採算性、収益性、将来性などを慎重に検討すべき責任がある。
本件においては、原告らはいずれも社会人としての経験がある上(上記一の(6))、被告との契約締結に至るまでに、被告事務所での事前の説明及び契約日の契約書類等の説明など、少なくとも二回にわたって、一時間ないし数時間の説明を受けていたのであるから(上記一の(6)、甲二四の一・二頁、原告C山本人・三頁、原告E田本人・五頁、弁論の全趣旨)、原告らは、被告従業員から、加盟店の売上や経費、営業収益等について具体的な数字を示して説明された際、被告従業員に対し、それらの数字の根拠について説明を求めたり、その裏付けとなるべき資料の提供を求めるなどして、その数字の正確性や合理性を慎重に吟味することが可能であったはずである。さらに、原告らはいずれも、被告が営業の中心としてきた埼玉県内ではなく、東京都内、神奈川県内又は千葉県内にそれぞれの拠点を置いて、運転代行業務を行おうとしていたのである(上記一の(6))から、被告が提供した数字が、そのまま原告らの営業についても妥当するものであるか否かについて、疑問を持ってしかるべきであった。
また、新たにフランチャイジーが開業をする場合には、開業初期の売上高や利益額が、安定的な経営状態に達する時点の売上高や利益額に及ばないことも当然予想されるのであるから、フランチャイズ契約の締結に当たっては、そのような事態も想定した上で、十分な備えをしておくことが必要であるが、本件においては、原告らはいずれも、被告とフランチャイズ契約を締結し、運転代行業務に従事し始めてから、わずか二ないし八か月の後に、本件フランチャイズ契約を終了していること(上記一の(6))、しかも、原告らの多くは、公安委員会の認定を取得して、自ら独立して運転代行業を営むに至らず、被告の営む運転代行業に従事しているにすぎない段階で、被告のフランチャイズから脱退してしまっていると窺われること(契約終了時点で独立して運転代行業を営んでいたと認められるのは原告C山、原告A田及び原告A野のみである(上記一の(6))。)にかんがみれば、原告らが、もう少し本件フランチャイズ事業の加盟店として営業を継続し、経営努力を重ね、それぞれの拠点地域の営業基盤を築いていくことができていれば、月間九〇万円とはいかないまでも、それなりの売上高を確保し、その経営を安定させていくことができた可能性が全くなかったとも言い切れないのであり、その点では、原告らの事前の準備や覚悟が十分でなかった面も否定し難い。
これらの事情を総合すれば、被告の原告らに対する損害賠償の額を定めるに当たっては、公平の見地から、各原告の損害のうちそれぞれ四割を減じた限度で、賠償を認めるのが相当である。
(2) したがって、上記三の(5)の各二〇〇万円の損害額から四割を減じると、各一二〇万円になるところ、各原告について、弁護士費用として各一二万円を認めるのが相当であるから、被告が原告らに賠償すべき額は各一三二万円となる。
五 結語
以上によれば、原告らの請求は、被告に対し、それぞれ一三二万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成一六年一月一六日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法六四条本文、六五条一項本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤公美 裁判官 近藤昌昭 足立拓人)
<以下省略>