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さいたま地方裁判所 平成16年(ワ)947号 判決 2005年2月28日

主文

1  被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成16年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4  本判決第1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

1  被告は、原告に対し、500万円及びこれに対する平成16年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  仮執行宣言

第2  事案の概要

1  事案の要旨

本件は、原告が、原告の妻と被告との同棲により精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、慰謝料500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  前提事実(争いのない事実)

(1) 原告と甲野花子(以下「花子」という。)は、昭和61年○月○日に婚姻届出をした夫婦であり、両者の間には、長女桜子(昭和62年○月○日生)及び長男次郎(平成2年○月○日生)がある。

(2) 被告と花子は、平成11年10月ころから同棲を始め、現在も同棲を続けている。花子は、平成12年○月○日、被告との間の子である葉子を出産した。

3  原告の主張

(請求原因)

(1) 原告と花子は、昭和61年○月○日に婚姻届出をした夫婦であり、両者の間には、長女桜子(昭和62年○月○日生)及び長男次郎(平成2年○月○日生)がある。(前提事実(1))

(2) 被告は、平成8年ころ、花子と知り合い、その後、花子に夫と子供があることを知りながら、花子と性交渉を持つようになった。

(3) 原告は、平成11年6月27日、花子と被告が交際していることを知り、花子を問い質したところ、花子は、子供を置いて単身家を出た。

(4) 被告は、平成11年10月ころから花子と同棲を始め、花子との間に後記(5)のとおり子を儲け、現在も同棲を続けている。(前提事実(2))

(5) 花子は、平成12年○月○日、被告との間の子である葉子を出産した。

花子は、葉子について、原告との間の親子関係不存在確認の訴えを提起し、DNA鑑定の結果、原告の子でないことが認定され、同年9月2日、親子関係不存在確認の裁判が確定した。

被告は、同年9月7日、葉子を認知し、葉子は、被告と花子の間の子として被告の戸籍に記載された。

(6) 上記(2)(4)の被告の行為は、原告と花子との婚姻関係を破壊するものであり、これにより、原告は、甚大な精神的苦痛を被った。その慰謝料は500万円を下らない。

(7) よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年5月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(抗弁に対する認否)

原告と花子の婚姻関係が被告主張の時期に破綻していたことは否認し、原告の被告に対する慰謝料請求権が消滅時効の完成により消滅したとの主張は争う。

4  被告の主張

(請求原因に対する認否)

請求原因(1)(3)(4)(5)の事実は認める。

同(2)のうち、花子と知り合った時期は否認し、その余の事実は認める。被告が花子と知り合ったのは平成9年夏ころであり、被告が花子と性関係を初めて持ったのは平成11年6月ころである。

同(6)の主張は争う。被告が花子と性関係を持った当時、原告と花子の婚姻関係は既に破綻していた。

(抗弁)

(1) 原告と花子の婚姻関係の破綻

原告と花子の婚姻関係は、仮に、花子が家を出た平成11年6月ころには未だ破綻するに至っていなかったとしても、親子関係不存在確認の裁判が確定した平成12年9月ころには破綻した。

(2) 消滅時効

上記(1)の時期より後の被告の花子との同棲関係は原告に対する不法行為に該当しない。

上記(1)の時期以前の不法行為責任については、本訴提起までに3年の消滅時効期間が経過している。

平成16年6月21日の本件第1回口頭弁論期日及び同年10月4日の本件第4回口頭弁論期日において、被告は、上記(1)の時期以前の不法行為に基づく原告の慰謝料請求権について、消滅時効を援用した。

第3  当裁判所の判断

1  事実経過

当事者間に争いのない請求原因(1)(3)(4)(5)の事実のほか、証拠(甲1~5、乙1~6、証人甲野花子、原告、被告)によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告(昭和42年○月○日生)と花子(昭和42年○月○日生)は、昭和61年○月○日に婚姻届出をした夫婦であり、両者の間には、長女桜子(昭和62年○月○日生)及び長男次郎(平成2年○月○日生)がある。

(2) 原告と花子は、高校時代に知り合い、原告が19歳、花子が18歳の時に結婚し、原告の実家で生活を始め、間もなく長女が生まれた。

原告は、赤ん坊の泣き声にイライラして花子に対して平手で叩くなどの暴力を振るうようになり、その後も花子の態度や言葉遣いなど些細なことに腹を立てては、風呂場のプラスチックの蓋で花子を殴ったり、テレビを蹴って壁に穴を開けたりするようになった。

しかし、同居していた原告の母や妹は、花子に暴力を振るったり物に当たったりする原告を止めることができなかった。

(3) 花子は、平成元年ころ、原告の暴力に耐えかねて実家に戻ったが、継父との折り合いの悪さなどから、再び原告の元に戻った。

(4) 花子は、平成2年に長男が生まれた後も、断続的に、原告に対して離婚の話を切り出したり、友人や実母に対して家を出たいと相談したりしていたが、原告を完全に拒否する態度はとらなかった。

(5) 花子は、平成8年ころからパートで働くようになり、平成9年夏ころ、稼働先のコンビニエンスストアに客として出入りしていた被告と知り合い、平成10年10月ころには、互いの家庭の悩みなどを相談し合うようになった。

(6) 花子は、平成11年初めころ、離婚届の用紙を入手し、家を出て住むアパートを契約して、原告に離婚を求めた。原告は、酔った勢いで離婚届に署名押印したが、花子が本気で離婚しようとしているとは考えなかった。この離婚届の作成に関して、原告と花子の間で、子供2人の親権者をどちらかにするかといった離婚に向けての真摯な話し合いがなされることはなく、この離婚届出用紙は、結局、原告の友人によって破棄された。

(7) 平成11年6月27日早朝、原告は、花子がいないことに気付き、財布や携帯電話を持って外出したのかどうかを確かめるため、花子のバックの中を見たところ、花子と男性がキスをしているプリクラを発見し、花子が他の男性と付き合っていることを知った。

花子は、平成11年6月ころには、原告に隠れて被告と密会を重ね、被告と性交渉を持つに至っており、この時も、戸外で被告と会っていた。

原告は、外から戻ってきた花子に対し、このプリクラの件を問い質したが、仕事に出掛ける時間になったため、深く追及しないまま家を出た。

(8) 花子は、同日(平成11年6月27日)中に、単身家を出、その足で、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、その後しばらくの間、被告と共に被告の自動車で寝泊まりしていた。

(9) 花子の申し立てた上記離婚調停は、原告が離婚を拒否して折り合わず、平成11年11月29日、取下げにより終了した。

(10)  平成11年10月ころ、被告と花子は、アパートを借りて同棲を始め、平成12年4月5日、花子は、被告との間の子である葉子を出産した。

花子は、葉子について、原告との間の親子関係不存在確認の訴えを提起し、DNA鑑定の結果、原告の子でないことが認定され、同年9月2日、親子関係不存在確認の裁判が確定した。

被告は、同年9月7日、葉子を認知し、葉子は、被告と花子の間の子として被告の戸籍に記載された。

(11)  平成12年5月ころ、原告は、その両親と共に花子と被告が同棲しているのアパートに赴き、花子に家に戻るよう求めたが、花子は、黙っていた。

(12)  原告は、現在も、花子との離婚を決意するには至っていない。

2  原告と花子の婚姻関係破綻の時期について

上記事実経過によれば、花子が長年にわたって離婚を口にする一方で原告を全く拒否するという態度でもなかったため、原告において花子の離婚要求を深刻に受け止めておらず、被告と花子の性交渉が始まった時点では、いまだ原告と花子の婚姻関係は破綻していなかったというべきである。また、花子が家を出た後も、原告は、花子との関係を修復したいと考え、そのような考えを花子に伝えていたのであるから、花子が被告と同棲したり、被告の子を出産したとの事情をもって、直ちに原告と花子の婚姻関係が破綻したと認めることはできず、上記事情に加え、別居から3年が経過したことにより、平成14年6月末ころ、破綻するに至ったと認めるが相当である。

3  被告の不法行為の成否について

(1) 平成14年6月末までの行為について

上記2のとおり、平成14年6月末までは、原告と花子の婚姻関係は未だ完全に破綻するには至っていなかったのであるから、平成11年6月ころから平成14年6月末までの間の被告の花子との性交渉ないし同棲は、原告の家庭の平和を乱し、原告と花子の婚姻関係を破壊するものといえ、原告に対する不法行為に該当する。

(2) 平成14年7月以降の行為について

平成14年7月以降、原告と花子の婚姻関係は破綻しているのであるから、平成14年7月以降の被告の花子との同棲は、原告に対する不法行為に該当しないというべきである。

4  消滅時効について

(1) 夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同棲により第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者がこの同棲関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行するものと解される。

(2) 本件において、原告は、遅くとも平成12年5月には、被告と花子の同棲関係を知ったのであるから、平成12年5月までの間の被告と花子の同棲により発生した原告の慰謝料請求権の消滅時効は、平成12年5月から進行し、それ以降の被告と花子の同棲により発生した原告の慰謝料請求権の消滅時効は、発生の時から進行するものと解される。

(3) 被告は、原告の慰謝料請求権の消滅時効を援用するところ、原告が本訴を提起したのは平成16年5月6日であるから、平成13年5月5日までに発生した原告の慰謝料請求権は、3年の経過により消滅時効が完成し、消滅したものと認められる。

5  慰謝料の額

上記3のとおり、継続している被告の花子との同棲が原告に対する不法行為を構成するのは平成14年6月末までであるから、消滅時効が完成していない原告の慰謝料請求権は、平成13年5月6日から平成14年6月末までの間の被告の花子との同棲により発生した慰謝料請求権である。

この慰謝料請求権の額については、平成13年5月6日から平成14年6月末までが原告と花子の婚姻関係が破綻に瀕している時期であること、花子が家を出るについては長年にわたる原告の暴力も大きな原因になっていること、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、100万円とするのが相当である。

6  結論

以上によれば、原告の本件請求は、慰謝料100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年5月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

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