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さいたま地方裁判所 平成16年(ワ)988号 判決 2005年11月25日

主文

1  本訴原告A及び本訴原告Bの訴えをいずれも却下する。

2(1)  反訴被告Cは,反訴原告に対し,120万円及びこれに対する平成15年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を(ただしうち60万円及びこれに対する平成15年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で反訴被告Dと連帯して)支払え。

(2)  反訴原告の反訴被告Cに対するその余の請求を棄却する。

3(1)  反訴被告Dは,反訴被告Cと連帯して,反訴原告に対し,60万円及びこれに対する平成15年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  反訴原告の反訴被告Dに対するその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は,本訴事件及び反訴事件に生じた費用を通算し,これを15分し,その各2を本訴原告らの負担とし,その4を反訴被告Cの負担とし,その3を反訴被告Dの負担とし,その余を反訴原告の負担とする。

5  この判決は,第2(1)項及び第3(1)項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  本訴

(1)  本訴原告らが平成15年4月5日上尾市所在の喫茶店aにおいて反訴原告に対して義務なきことを強要したとする不法行為に基づく,反訴原告の本訴原告らに対する損害賠償請求権及び謝罪の作為請求権が存在しないことを確認する。

(2)  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

2  反訴

(1)  反訴被告らは,反訴原告に対し,連帯して,300万円及びこれに対する平成15年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

(3)  仮執行宣言

第2事案の概要

本件の当事者は,いずれも上尾市の職員である。

本訴は,本訴原告らが反訴原告に対し,本訴原告らにおいて,反訴原告に対し,上尾市セクシュアル・ハラスメント苦情処理委員会(以下「セクハラ苦情処理委員会」という。)への苦情相談の取下げを強要したとの不法行為に基づく損害賠償請求権及び謝罪等名誉回復措置の請求権が存在しないことの確認を求めた事案である。

反訴は,反訴原告が反訴被告らに対し,①反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受けたこと及び②反訴被告らから,セクハラ苦情処理委員会への苦情相談の取下げを強要されたことについて,①については反訴被告Cの不法行為,②については反訴被告らの共同不法行為に基づき,連帯して慰謝料300万円及びこれに対する不法行為後の日である平成15年9月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(当初,反訴被告らは,本訴原告らとともに債務不存在確認の本訴を提起し,これに対し,反訴原告が本訴原告ら及び反訴被告らを相手方として損害賠償請求の反訴をいったん提起した。その後,反訴原告は本訴原告らに対する反訴を,反訴被告らは反訴原告に対する本訴をそれぞれ取り下げた。その結果,本訴原告らの本訴と反訴原告から反訴被告らに対する反訴が現在係属している。このような訴訟経緯により,本訴原告ら及び反訴被告らの証拠は甲号証として,反訴原告のそれは乙号証として提出されている。)

1  前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  反訴原告は,昭和48年7月27日生まれの女性で,日本大学理工学部工学科を卒業後,平成9年4月,上尾市に技師(土木技師)として採用され,都市整備部都市計画課地域計画係,平成13年4月から同街路係を経て,平成14年4月,企画財政部自治振興課広聴・国際交流担当に異動となった。なお,反訴原告は平成16年4月1日,建設部土木課に異動している(弁論の全趣旨)。

反訴原告は婚姻しているが,職場では旧姓である「丙」を通称として使用しており,夫は同じく上尾市役所に勤めている。

(2)  反訴被告C(昭和21年10月18日生まれ)は,平成14年4月当時,上尾市の反訴原告の所属する企画財政部参事兼次長の役職にあった。反訴被告Cは,平成15年9月18日,水道部に異動となった。

(3)  反訴被告D(昭和23年5月6日生まれ)は,平成14年4月当時,上尾市の企画財政部自治振興課長の役職にあり,反訴原告の直属の上司であった。反訴被告Dは,平成15年9月18日,環境経済部西貝塚環境センターに異動となった。

(4)  本訴原告Bは,平成14年4月当時,自治振興課主幹の役職にあり,その後,自治振興課が所管する原市支所の所長となった。

(5)  本訴原告ら,反訴原告及び反訴被告らの職制上の地位は,平成14年4月1日当時,別紙職場関係図記載のとおりであった。官僚組織においては,いわゆる命令一元化の原則(命令は,命令系統を通じて1人の上司から行われなければならないという原則である。乙10)が存在しており,これによれば,反訴原告に対する職務上の命令は,主席主査のEからなされることになっていた。ただし,平成14年4月ころは,Eが長期研修中で不在のため,反訴被告D又はこれを補佐する地位にある本訴原告Bからなされることになる。

(6)  上尾市には,職場におけるセクシュアル・ハラスメントを防止し,性的差別のない健全な職場環境を確保するため,セクハラ苦情処理委員会が設置されている。このセクハラ苦情処理委員会は,平成12年4月1日市長決裁,平成13年4月1日施行に係る上尾市職員のセクシュアル・ハラスメントの防止に関する要綱(甲13,14)に基づき,上尾市に設置された機関である。

セクハラ苦情処理委員会によるセクシュアル・ハラスメントの解決は次のような順序で行われるべきものとされている。①セクシュアル・ハラスメントの被害を受けた職員又はその他の職員は,セクシュアル・ハラスメント相談員として指定された職員に対し,苦情相談をする。②苦情相談を受けたセクシュアル・ハラスメント相談員は,相談票に苦情相談の内容を記録した上,職員課長に報告する。職員課長は,複数の職員に命じて事実関係を調査確認するか,セクハラ苦情処理委員会に処理を依頼する。(以上,上記要綱第8条及び第9条)③セクハラ苦情処理委員会は,職員課長から処理を依頼された苦情相談について,事実関係の調査,対応措置の審議,必要な指導・助言を行うものとされている(上記要綱第10条2項)。

また,セクハラ苦情処理委員会による事実関係の結果,セクシュアル・ハラスメントの事実が確認された場合は,市長その他の任命権者は,必要に応じ,加害者の職員及びその所属長に対し,懲戒処分その他必要な措置を講ずるものとされている(上記要綱第11条)。プライバシーの保護に関して,①相談員等は,当事者その他関係職員のプライバシーの保護に努めるとともに,当該事案に関し知り得た秘密を厳守しなければならない,②相談員等は,苦情相談の処理に当たっては,職員が相談をし,又は苦情を申し出たことを理由として,当該職員が不利益な取扱いを受けることのないよう特に留意しなければならないとされている(上記要綱第12条)。

(7)  反訴被告Cが所有する乗用車は,トヨタ・クラウンアスリート2500㏄ターボである(以下「C車」という)。(反訴原告は,このC車内で反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受けたと主張している。)

2  争点

(本訴について)

(1) 本訴債務不存在確認の訴えについて確認の利益があるか否か。(争点(1))

(反訴について)

(2) 反訴原告は反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受けたか。(争点(2))

(3) 反訴原告は反訴被告らからセクハラ苦情処理委員会への苦情相談の取下げを強要されたか。(争点(3))

(4) 反訴原告の受けた損害はいくらか。(争点(4))

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(確認の利益)について

(本訴原告らの主張)

本訴原告らは,下記のとおり,反訴原告から公然と不法行為の疑いが掛けられており,公権的判断によって名誉の回復が計られるべきであるから,本訴については確認の利益がある。

ア 反訴原告は,平成15年9月4日,大宮簡易裁判所に対し,上尾市,F上尾市長(以下「F市長」という。),本訴原告ら,反訴被告及びG企画財政部長(当時)を相手方として,調停を申し立てた(大宮簡易裁判所平成15年(ノ)第187号)。反訴原告は,上記調停において,次のとおり主張して,謝罪を求めたが,平成16年3月24日,上記調停を取り下げた。(争いがない)

(ア) 反訴原告は,平成14年5月上旬以降,反訴被告Cから,C車の中で手を握られる,これに抗議したことを理由に担当業務から外される,技師であるのに一般女子事務職員と同様に制服の着用を求められるなどのセクシュアル・ハラスメントを受けた。

(イ) 反訴原告の所属する自治労連埼玉県本部上尾市職員労働組合(以下「自治労連上尾市」という。)のH書記長及びI執行委員は,平成15年4月2日,セクハラ苦情処理委員会に対し,反訴原告が上記のセクシュアル・ハラスメントを受けたとして苦情相談をした(以下「本件苦情相談」という。)。反訴被告Cは,平成15年4月5日,上尾市所在の喫茶店aにおいて,反訴原告と面談し,H書記長に本件苦情相談の取下げを希望すると話すこと,反訴被告Cから,このような働きかけがあったことは秘匿するよう強く申し渡した。本訴原告らは,この面談に同席した。

イ 反訴原告は,上記調停取下げに先立つ平成16年2月26日,セクハラ苦情処理委員会に苦情相談をした。

ウ 反訴原告は,平成16年7月1日,本訴原告ら及び反訴被告らを相手方として,反訴を提起した(反訴事件)。反訴原告は,本訴原告ら及び反訴被告らに対し,上記調停と同旨の主張をし,連帯して300万円及び遅延損害金を支払うよう請求した。

反訴原告は,平成16年11月5日,本訴原告らに対する関係で反訴を取り下げ,本訴原告らもこれに同意した。(争いがない)

エ 反訴原告は,平成17年6月24日の本件口頭弁論期日に実施された本人尋問の際,本訴原告らからも,本件苦情相談の取下げを強要された旨の陳述をした。

(反訴原告の主張)

争う。

(2)  争点(2)(反訴被告Cによるセクシュアル・ハラスメント)について

(反訴原告の主張)

反訴被告Cによる下記各行為は,身体への接触によるセクシュアル・ハラスメントであり,不法行為に該当する。

ア 平成14年5月下旬の接触行為

(ア) 反訴原告は,平成14年4月,都市整備部都市計画課から企画財政部自治振興課に異動となって間もなく,当時企画財政部参事兼次長の地位にあった反訴被告Cから,d地区にある公園のリニューアルのための準備作業を命じられた(争いがない)。

(イ) 反訴原告は,同年5月ころから,反訴被告Cから命じられて,同人及び当時原市支所長の地位にあった本訴原告Bとともに頻繁にd地区に出張するようになった。

(ウ) 反訴原告は,同年5月下旬,反訴被告Cから急に命じられて,二人でd地区に出張することとなった。反訴被告Cは,その際,公用車ではなくC車を使用し,自ら運転した。反訴原告は,往路,後部座席に座った。

(エ) 反訴被告Cは,その帰路,反訴原告に対し,助手席に座るよう命じた。反訴原告は,これに従い,助手席に座った。反訴原告は,シートベルトを着用し,両手をひざの上に置いていた。

(オ) 反訴被告Cは,帰路走行中のC車の中で,反訴原告に対し,次のように話した。

あ 反訴原告の平成13年度の異動先は,当初,反訴原告が希望先の一つとして挙げていた情報推進課に内定していたこと,それを反訴被告Cの権限で自治振興課に変更させたこと,したがって,反訴原告の異動人事は自分が決定したことなど,事実上,自らが職員の人事に関する決定権を握っていると思わせ振りな発言をした。

い 「人事は,市長と自分が握っており,誰をどこに配置するかはすべて事実上,自分が決めている。新栄会は,自分を慕っているメンバーが作っている会であり,この会に入っている者の人事は,自分の裁量で,希望どおりにしている。B主幹も今年から,メンバーになりたいと言ってきたので,取り立てているが,最近人数が増えたのでだんだん調整が大変になってきている。」と話した。

う 「いずれは,慕ってくれる女性を愛人にしたいと思っている。」「市役所の幹部職員になれば,愛人を複数人持つことくらいは普通に行っている。」と言い,複数の幹部職員の名前や女性職員の名前を挙げた。

(カ) 反訴被告Cは,上記のとおり話した上で,反訴原告の意見を執ように求めた。反訴原告は,「私には,そういったことは良く分かりません。」と答えた。反訴被告Cは,右手でハンドルを握ったまま,左手でいきなり反訴原告の手を上から握り,反訴原告に対し,「これは友情だ。」と言った。

イ 平成14年6月4日の接触行為

(ア) 反訴原告は,平成14年6月4日,反訴被告Cから急に命じられて,反訴被告Cと二人でe地区に出張した。反訴被告Cは,株式会社c社長のLと会談するため,C車を自ら運転して,e地区所在の株式会社cに出張し,Lと会談した。(争いがない)

(イ) 反訴被告Cと反訴原告とは,その帰路,北本駅ビル内の公共施設に立ち寄り,これを見学した(争いがない)。

(ウ) 反訴原告は,北本駅からの帰路,助手席にシートベルトをし,両手をひざの上に置いて座っていた。反訴被告Cは,自然学習館近くの人気のない林に囲まれた道を走行中,右手でハンドルをつかんだまま,左手でいきなり反訴原告の右手を上から握ってきた。反訴原告は,緊張して体がこわばった。反訴被告Cは,次いで,左手で反訴原告の右手を握ったまま反訴原告の右太ももの内側に持っていき,反訴原告の右太ももの上に置いた。車がカーブにさしかかったため,反訴被告Cは反訴原告の右手から自分の左手を離し,ハンドルに戻した。

(エ) この日の出張の目的は,反訴被告CとLとの会見に同席することであり,北本駅ビルへの立ち寄りも含め,反訴原告の本来の仕事とは全く関連がなかった。

ウ 平成14年6月下旬の接触行為

(ア) 反訴原告は,平成14年6月下旬,反訴被告Cから急に命じられて,反訴被告Cと二人でd地区に出張した。反訴被告Cはこの時もC車を利用した。

(イ) 反訴原告は,助手席にシートベルトを着用し,両手をひざの上に置いて座っていた。反訴被告Cは,往路走行中,右手でハンドルをつかんだまま,左手でいきなり反訴原告の右手を上から握った。反訴原告は,緊張して体がこわばった。

反訴被告Cは,引き続き,左手で反訴原告の右手を握ったまま,自分の方に引き寄せ,コンソールボックスの上に置き,さらに,反訴原告の右太ももの内側に持っていき,反訴原告の右手ごと反訴原告の右太ももの上に自分の左手を置いた。反訴原告は,無言で反訴被告Cの左手を軽く払った。反訴被告Cは,払われた左手をすかさず反訴原告の右太ももに直接置いた。反訴原告は,反訴被告Cの行為をやめさせるため,右手で反訴被告Cの左手をつかんだ上押し返し,「やめてください。」と明確に言った。

(反訴被告らの主張)

ア 平成14年5月下旬の接触行為について

否認する。反訴被告Cは,平成14年5月下旬に反訴原告と二人で,d地区に赴いたことはないし,反訴原告主張の発言をしたこともない。

イ 平成14年6月4日の接触行為について

反訴原告主張のとおり,反訴被告Cが反訴原告と二人で出張した事実は認める。

ただし,反訴原告の仕事と無関係に出張したわけではなく,Lからe地区の街づくりの計画図を見せてもらうために出張した。

反訴被告Cが,帰路,一時停車中に,「頑張ってください。」という意味で,右手を出し,反訴原告も,これに応じてその右手を自分から差し出して握手をしたことはあるが,反訴被告Cが左手を反訴原告の右手の上に置いて握ったり,その手を反訴原告の右太もものほうに持っていこうとしたりしたことはない。

ウ 平成14年6月下旬の接触行為について

否認する。反訴被告Cは,平成14年6月14日以降,反訴原告とd地区に出張したことはない。

エ 反訴原告のセクシュアル・ハラスメントに関する陳述は,虚偽であり,信用性に欠ける。すなわち,①反訴原告の陳述は,当初,概括的であり,反訴被告らが反論するや後になるほど詳細になる傾向がある。また,②反訴原告は平成15年の正月に反訴被告Cに対し,手書きの挨拶文を添え書きした年賀状を差し出したこと,平成15年4月の異動期に企画財政部自治振興課からの異動を希望していないことから,反訴原告が反訴被告Cに対し,嫌悪感を持っていなかったことは明らかである。それゆえ,反訴被告Cによるセクシュアル・ハラスメントは存在しなかったといえる。③反訴原告が虚偽の陳述をするのは,反訴原告が,平成16年2月5日に実施された上尾市長選挙に関し,F市長の対立候補となったN上尾市議会議員との面識があり,同人に対しセクシュアル・ハラスメント被害を訴えて善処を依頼したこと,その後,N議員が,市長選挙中に,F市長において本件苦情相談の取下げ強要に関与したとF市長の批判をしたためである。

(3)  争点(3)(セクハラ苦情処理委員会への苦情相談の取下げ強要)について

(反訴原告の主張)

反訴被告らによる本件苦情相談の取下げ強要などの下記の一連の行為は,反訴原告に対する不当な行為の強要であり,また,それ自体,セクシュアル・ハラスメントの一内容となり,共同不法行為に当たる。

ア 平成15年1月9日の行為

反訴被告Dは,平成15年1月9日午後7時ころ,車で,反訴原告を自宅まで迎えに来て,与野市(当時)所在のレストランb(なお,上尾市にも同名のレストランがあり,後者は,以下「上尾市所在のレストランb」という。)に連れていった。

反訴被告Dは,反訴原告に対し,「セクシュアル・ハラスメントについて騒ぐと,今後仕事をする上で不利益を受けることになるのでやめた方がよい。」などと発言した。

イ 平成15年4月5日の行為

(ア) 反訴原告は,平成14年6月下旬にC車内での接触行為に対し抗議して以降,同月28日,内部で担当職務の交替を命じられ,d地区の公園リニューアルに関する業務やNPO共同推進計画の策定の担当から外されたり,いったん上司の決裁を受けた仕事について反訴被告Cから不必要なやり直しをさせられたりしていた。

(イ) 反訴原告は,平成14年8月ころから,自治労連上尾市に,セクシュアル・ハラスメントの被害に遭っている旨相談した。H書記長及びI執行委員は,平成15年4月2日,セクハラ苦情処理委員会に対し,反訴原告が反訴被告Cから受けたセクシュアル・ハラスメント等について,第三者からの苦情相談をした(本件苦情相談)。

(ウ) 反訴被告Dは,平成15年4月5日(土曜日)午後7時ころ,反訴原告を,自宅に迎えに来て,レストランbに連れていき,その場で次のように話した。

あ 反訴被告Dは,レストランbにおいて,反訴原告に対し,「委員会が招集されたら終わりだ。」などと言い,本件苦情相談をすぐに取り下げさせるよう強く求めた。反訴被告Dは,反訴原告に対し,もし取り下げないならば今後,事実上,市役所で仕事ができなくなるような人事的制裁若しくは嫌がらせをされることになると告げ,重ねて,直ちにH書記長に連絡し,本件苦情相談を取り下げさせるよう迫った。反訴原告は,これ以上人事的制裁や嫌がらせを受けるのを恐れ,その場でH書記長に電話をし,本件苦情相談を取り下げてもらいたい旨を伝えた。

い 反訴被告Dは,反訴原告に対し,今度は,「C参事やG部長が非常に立腹しているので,今後嫌がらせを受けないためにも,これからすぐに謝りに行った方がよい。」と告げた。反訴原告は,何ら謝罪する理由はない旨反論したものの,これ以上の嫌がらせを受けることをおそれ,自分が本件苦情相談をしたのではない旨説明するために,反訴被告Dとともに反訴被告Cに会いに行かざるを得なかった。反訴被告Dは,反訴原告を連れて,反訴被告Cが待機する喫茶店aに移動した。

(エ) 反訴被告Cは,喫茶店aにおいて,反訴原告に対し,「みんな仲間だから。」と述べた上で,「何もなかっただろう。」と,暗にセクシュアル・ハラスメントの事実を否定するよう執ように迫った。反訴原告は,その場の雰囲気から,「お話しできるようなことはありません。」と答えるのが精一杯であった。

さらに,反訴被告Cは,反訴原告に対し,H書記長に対しては反訴被告Cらの働きかけがあったことを秘し,あくまで反訴原告自身が本件苦情相談の取下げを希望していると話すよう強く申し渡した。

ウ 平成15年4月7日の行為

(ア) 反訴被告らは,平成15年4月7日(月曜日)午前8時40分ころ,反訴原告を上尾市庁舎議会棟の議員控室(以下「議員控室」という。)に呼び出した上,次のような行為に及んだ。

あ 反訴被告らは,議員控室において,再度,反訴原告に対し,本件苦情相談の取下げを念押しした上,セクシュアル・ハラスメントの被害にあったこと,本件苦情相談の取下げについて申し渡されたことを秘匿するよう求めた。

その後,G企画財政部長が,議員控室に現れた。反訴原告は,反訴被告ら同席のもと,G企画財政部長に対し,本件苦情相談の取下げを希望する旨の意思表示を強いられた。反訴被告Cは,G企画財政部長に対し,「この件が漏れたことについては,黙っていろと強く言い含めてありますので,大丈夫です。」と報告した。

い 反訴被告C及びG企画財政部長が退席した後,反訴被告Dは,今度は,J総務部長兼セクシュアル・ハラスメント防止推進委員会委員長(以下「J総務部長」という。)及びK職員課長に議員控室に来てもらった。反訴被告Dは,反訴原告に対し,H書記長に本件苦情相談の取下げを依頼したことをJ総務部長及びK職員課長に対し報告させた。

K職員課長は,反訴原告に対し,セクシュアル・ハラスメントを受けたのか,受けなかったのかを尋ねた。反訴原告は,反訴被告Dがそばにいて監視していることや午前9時から会議に出席する予定であったのにその時刻を過ぎていることもあり,「お話しできるようなことは何もない。」と答えるしかなかった。

(イ) 反訴被告Dは,同日午前11時40分ころ,反訴原告に対し,F市長の時間が取れたので課に戻るように命じた。反訴原告が課に戻ると,反訴被告Dは,反訴原告に対し,「至急,市役所裏の駐車場に私服で来るように。」と命じた。反訴原告が駐車場に行くと,反訴被告らは,反訴原告を上尾市所在のレストランbに連れていった。反訴被告らは,上記レストランにおいて,反訴原告に対し,F市長と面会して,セクシュアル・ハラスメントの事実はなかった旨話すよう申し渡した。

(ウ) 反訴原告は,同日午後1時ころ,反訴被告らとともに,上尾駅前のF市長の選挙事務所に行った。F市長は,反訴原告に対し,「入職数年で将来があるのだから,セクハラを受けたなどということで将来をつぶすな。」と述べた。

(反訴被告らの主張)

ア 平成15年1月9日の行為について

反訴被告Dが,反訴原告主張の日時に,反訴原告を自宅まで迎えに行き,レストランbに連れていったことは認めるが,セクシュアル・ハラスメントについて騒ぐのはやめた方がよいなどと発言した事実はない。

イ 平成15年4月5日の行為について

本訴原告ら及び反訴被告らが,反訴原告に対し,H書記長に連絡し,本件苦情相談を取り下げさせるよう迫ったり,このような働きかけを行ったりしたことを秘匿するよう求めた事実はない。当日の事実経過は次のとおりである。

(ア) 反訴被告Dは,反訴原告主張の日時に,反訴原告を自宅まで迎えに行き,レストランbに連れていった。反訴被告Dは,反訴原告に対し,本件苦情相談がなされたことを伝えた。反訴原告は,自主的に,H書記長に電話を掛け,本件苦情相談を取り下げるよう求めた。

(イ) 反訴原告は,反訴被告Dと二人で食事をした後,反訴被告Cに対しても説明をしたいと申し出た。反訴被告Dは,反訴被告Cに対し電話で連絡して,喫茶店aで会うことを約束した上で,反訴原告を喫茶店aに連れていった。

(ウ) 反訴原告は,喫茶店aにおいて,反訴被告ら及び本訴原告らと面談し,セクハラ苦情処理委員会への本件苦情相談が,自分の意思によるものではないことを説明した。反訴被告Cが,反訴原告に対し,脅迫や強要を行ったことはない。

(エ) 反訴被告Dは,反訴原告を自宅まで送っていった。反訴原告は,その際,反訴被告Dに対し,事務服を取りに行くため上尾市役所に立ち寄ることを求め,反訴被告Dはこれに応じた。

ウ 平成15年4月7日の行為について

反訴原告は,G企画財政部長及びK職員課長に対し,本件苦情相談が自分の意思によるものではないことを説明した。反訴被告らが,反訴原告に対し,このような説明を強要した事実はない。

また,反訴原告は,F市長と面談したが,セクシュアル・ハラスメントに関する話はしなかった。

(4)  争点(4)(損害)について

(反訴原告の主張)

反訴原告が反訴被告らの上記不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝する金額としては,少なくとも300万円を下ることはない。

(反訴被告らの主張)

争う。

第3争点に対する判断

1  争点(1)について

(1)  前記前提となる事実,証拠(甲1,11,12の1から3まで,13,14)及び弁論の全趣旨によって認められる事実は次のとおりである。

ア 反訴原告は,平成15年9月4日,大宮簡易裁判所に対し,上尾市,F市長,本訴原告ら,反訴被告ら及びG企画財政部長を相手方として,謝罪等を求める調停を申し立てたが(大宮簡易裁判所平成15年(ノ)第187号),平成16年3月24日,これを取り下げた。反訴原告は,上記調停において,本訴原告らに対し,次のとおり主張して謝罪を求めた。すなわち,反訴原告は,反訴被告Cから,平成15年4月5日,喫茶店aにおいて,H書記長に連絡をして本件苦情相談の取下げを希望すると話すことを強く言いつけられるとともに,反訴被告Cからこのような働きかけがあったことを秘匿するよう求められ,本訴原告らにおいてもこの面談に同席して働きかけを行った,と主張した。(争いがない)

イ 反訴原告は,平成16年2月26日,セクハラ苦情処理委員会に対し,上記調停において主張した事実と同様の事実を主張して,セクシュアル・ハラスメントに関する苦情を申し立てた。なお,セクハラ苦情処理委員会の調査は,本件訴訟が係属中であることを理由にして,本訴原告ら及び反訴被告らが事情聴取を拒んでいることから,現在,中断している。(甲11,12の1から3まで,乙1,弁論の全趣旨)

ウ 本訴原告ら及び反訴被告らは,平成16年5月11日及び同年6月11日,反訴原告を相手方として,反訴被告Cのセクシュアル・ハラスメントの不法行為及び本訴原告ら及び反訴被告らのセクハラ苦情処理委員会への苦情相談の取下げ強要の不法行為に基づく謝罪等名誉回復措置を行う義務が存在しないことの確認を求める訴えを,さいたま地方裁判所に提起した(本訴事件)。

エ 反訴原告は,平成16年7月1日,反訴被告らのほか,本訴原告らを相手方として,反訴を提起した(反訴事件)。反訴原告は,本訴原告ら及び反訴被告らに対し,上記調停と同旨の主張をし,連帯して300万円を支払うよう請求した。

反訴原告は,平成16年11月2日,本訴原告らに対する関係で反訴を取り下げ,同月5日,本訴原告らもこれに同意した。

オ セクハラ苦情処理委員会は,平成12年4月1日市長決裁に係る上尾市職員のセクシュアル・ハラスメントの防止に関する要綱に基づき,上尾市に設置された機関である。上記要綱の目的は,職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止に関し必要な事項を定めることにより,性的差別のない健全な職場環境を確保することにあるとされている(上記要綱第1条)。セクハラ苦情処理委員会は,職員課長から処理を依頼された事案に関して,事実関係の調査,対応措置の審議,必要な指導・助言を行うものとされている(上記要綱第10条2項)。また,セクハラ苦情処理委員会による事実関係の結果,セクシュアル・ハラスメントの事実が確認された場合は,市長その他の任命権者は,必要に応じ,加害者の職員及びその所属長に対し,懲戒処分その他必要な措置を講ずるものとされている(上記要綱第11条)。(甲13,14)

(2)  上記認定事実によれば,反訴原告は,本訴原告らに対する調停及び訴訟をいずれも取り下げており,ほかに,反訴原告が本訴原告らに対し何らかの民事上の請求をしていると認めるに足りる証拠はない。

また,反訴原告の苦情相談に関するセクハラ苦情処理委員会の調査は継続中であるが,セクハラ苦情処理委員会の調査は,専ら,職場としての上尾市におけるセクシュアル・ハラスメントの防止を目的としており,その調査結果も職場における指導,助言及び任命権者による懲戒処分の根拠として用いられるにとどまり,本訴原告らと反訴原告間の民事上の権利関係とは直接的な結び付きを有するものとは認められない。

本訴原告らは,本件訴訟において,本訴原告らの名誉の回復が計られるべきであると主張するが,上記検討のとおり,本訴原告らの求める確認の訴えは,ひっきょう,権利関係の存否や法的地位の問題ではなく,事実の存否についての確認を求めることに帰するから,理由がない。

以上によれば,本訴原告らと反訴原告との間には,現時点において,民事上の権利関係の存否に関する争いがあるとは認められず,本訴原告らの訴えは確認の利益を欠くものと言わざるを得ない。よって,本訴原告らの訴えは不適法であり,却下を免れない。

2  反訴(争点(2)から(4)まで)について判断するに先立ち,本件の経緯を見ると,前記前提となる事実のほか,当該認定箇所に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりである。

(1)  反訴被告ら及び反訴原告の職歴等

ア 反訴被告Cは,平成14年4月当時,企画財政部参事兼次長の役職にあった。参事兼次長は,部長の次席であり,部の事務の調整及び部長から指示された事務をつかさどるものとされている。反訴被告Cの所属する企画財政部には,自治振興課のほか,総合政策課,財政課,広報課及び男女共同参画課が設置されている。

なお,反訴被告Cの妻は,F市長と親せき関係にある。

イ 反訴被告Dは,平成14年4月当時,自治振興課長の役職にあった。自治振興課は,自治活動の推進,支所,広聴,NPO及びボランティアに関する事柄などを分掌している。本訴原告Bは,当時,自治振興課主幹(いわゆる課長補佐に相当する。)の役職にあった。

ウ 反訴原告は,日本大学理工学部工学科を卒業後,平成9年4月,上尾市に技師として採用された。反訴原告は,採用後,都市整備部都市計画課地域計画係,同街路係での勤務を経て,平成14年4月,企画財政部自治振興課へ異動した。反訴原告は,同課において広聴及び国際交流を担当したほか,NPOの担当となった。

当時,広聴及び国際交流担当の部署には,反訴原告のほか3名の正職員及び1名の非常勤職員が配属されており,反訴原告は,正職員としては末席であった。なお,反訴原告は,平成16年4月1日,建設部土木課に異動した。

エ 平成14年4月当時,企画財政部自治振興課の職制上,反訴原告の直属の上司である主席主査のEは研修中で不在であったため,反訴原告は反訴被告D又は本訴原告Bの命令を受ける関係にあった。

(以上,前記前提となる事実(1)から(5)まで,甲15,19,63,乙7,弁論の全趣旨)

(2)  反訴原告は,平成14年4月の異動後間もなく,反訴被告Cから,d地区にある公園の改修工事について,準備作業を行うよう命じられた。反訴原告は,その後,反訴被告C及び本訴原告Bとともに,複数回,d地区に出張し,地域住民と打合せを行った。反訴被告Cは,その車中で,自らが職員人事に関与しているかのような発言を繰り返した。(乙7,反訴原告本人)。

(3)  平成14年5月下旬の反訴被告Cの行為

ア 反訴原告は,平成14年5月下旬ころの午前中,反訴被告Cから,出張に行く旨を突然告げられた。反訴原告は,反訴被告Cと二人だけで,d地区に出張した。反訴被告Cは,公用車ではなく,C車を自ら運転して,d地区に赴いた。

反訴被告Cは,その帰路,反訴原告に対し,助手席に座るよう申し向けた。反訴原告はやむなくこれに従った。反訴被告Cは,車中,反訴原告に対し,新栄会という上尾市職員有志の集まりがあること,自分は,その構成員を人事上優遇していると話した(なお,新栄会は,これに属さない職員から,F市長を囲む私的な親ぼく団体であり,反訴被告Cは,その会の中心的人物であると認識されている。)。また,反訴被告Cは,平成14年4月の反訴原告の異動について自らが関与して,自治振興課への異動を決定させたかのようにも受け取れる話をした。(乙7,証人M,反訴原告本人)

イ 反訴原告は,両手をひざの上において座って話を聞いていたが,反訴被告Cは,突然,反訴原告の右手を,自らの左手で上から重ねるようにして握った。反訴原告は,手を払いのけたり,手を握るのをやめるように言ったりはしなかった。反訴被告Cは,しばらくして,手を離した。(乙7,13,14の1及び2,反訴原告本人)

(4)  平成14年6月4日の反訴被告Cの行為

ア 反訴被告Cは,平成14年6月4日午前10時ころ,反訴原告に対し,e地区へ出張する旨を告げ,反訴原告と二人でe地区に出張した。反訴原告は,この出張の予定を事前に聞いていなかった。反訴被告Cは,出張に当たり,C車を使用した。このとき,自治振興課の公用車(2台あり,いずれも軽自動車である。)は少なくとも1台使用されずに残っており,反訴被告Cは,職場の規律からは公用で出張する以上,当然にこれを使用しなければならなかった。

反訴被告Cは,e地区所在の株式会社cに赴き,L(e地区区長会前副会長,地区コミュニティ協会会長ほかの役職がある。)と会談した。反訴被告CとLは,e地区の街道整備の計画図案について話をした。反訴原告は,このとき初めて,e地区の街道整備の話を聞いた。反訴原告は,この街道整備に興味を持ち,Lに対し,街道整備についての会合に出席させてほしいと話し,計画図案を1部譲り受けた。

反訴被告Cと反訴原告は,昼ころ,株式会社cを辞した。(甲70,乙7,16,17の4,証人L,反訴原告本人)

イ 反訴被告Cは,その後,反訴原告とともに,北本市(桶川市を挟んで上尾市の北に位置し,通常の帰路からは反対方向になる。)所在の北本駅の駅ビルに行き,駅ビル内にある公共施設などを見学した。反訴被告Cは,反訴原告に対し,自然学習館という施設があるので,見学してから市庁舎に戻ると話し,北本市f所在の自然学習センター方面に向かった。反訴原告は,助手席に座っていた。(乙7,12,13,14の1及び2,16,反訴原告本人,)

ウ 反訴被告Cは,北本市f所在の自然学習センター横の道路を進行中,5月下旬の行為と同様に,助手席に座っている反訴原告の右手を,自らの左手で上から重ねるようにして握った。反訴原告は,足を触られないように手に力を入れた。反訴被告Cは,車がT字路に差し掛かったところで反訴原告の右手から自らの左手を離し,ハンドルを両手で握った。(乙12,13,反訴原告本人)

(5)  平成14年6月下旬の行為

ア 反訴被告Cは,平成14年6月17日,22日,24日又は25日のいずれかの日の午前中,反訴原告とともに,上尾市内の公園に出張した。反訴被告Cは,このときも,C車を使用した。反訴原告は,後部座席に座ることを申し出たが,反訴被告Cは,助手席に座るように申し向けた。(乙7,13,16,反訴原告本人)

イ 反訴被告Cは,車中において,5月下旬及び6月4日と同様に,反訴原告の右手を,自らの左手で上から重ねるようにして握った。反訴被告Cは,反訴原告の右手を握ったまま,左手をコンソールボックスの上に置き,次いで,反訴原告の太ももに置き,そのまま反訴原告のひざの方に手を伸ばした。反訴原告は,反訴被告Cの左手を払いのけたが,反訴被告Cは,左手を反訴原告の右太ももに置いた。反訴原告は,反訴被告Cに対し,やめてくださいと言った。反訴被告Cは,反訴原告の身体から手を離した。(乙7,13,14の1及び2,反訴原告本人)

(6)  平成14年6月以降の経過

ア 反訴被告Cは,その後,反訴原告に対し,二人だけの出張を命ずることはなかった。(乙7,弁論の全趣旨)

イ 反訴原告は,平成14年6月28日,反訴被告Dから,NPO担当から外れるよう命じられた。(争いがない)

ウ 反訴原告は,この命令に納得がいかず,同年7月ころ,自らが所属する自治労連上尾市のH書記長に相談した。反訴原告は,その際,H書記長に対し,反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受け,やめるように言ったことが原因になっているかもしれないと話した。

また,反訴原告は,異動前の上司(都市計画課課長補佐)であるM(以下「M課長補佐」という。)に対し,反訴被告Cから,仕事を取り上げられた,セクシュアル・ハラスメントの被害に遭ったと相談した。M課長補佐は,後日,相談の内容をJ総務部長に伝えた。J総務部長は,M課長補佐に対し,被害者に対して被害にあった日時等の記録を指示するように命じた。M課長補佐は,反訴原告に対し,その旨指示した。(乙6,7,証人H,証人M,反訴原告本人)

(7)  平成15年1月9日の反訴被告Dの行為

ア 差出人不明の手紙が,平成14年12月31日,K職員課長の自宅に配達された。その手紙には,反訴被告Cが自治振興課の女性職員に対しセクシュアル・ハラスメントを行っている旨が記載されていた。

K職員課長は,平成15年1月7日(火曜日),J総務部長に対し,上記手紙が郵送されてきたことを報告した。J総務部長は,同日,反訴被告Cから事情聴取を行った。反訴被告Cは,セクシュアル・ハラスメントの事実はないと回答した。(甲40,58の3及び4)

イ 反訴被告Cは,平成15年1月7日,反訴被告Dに対し,上記差出人不明の手紙に関し,事情聴取を受けた旨を話した。(反訴被告D本人)

ウ 反訴被告Dは,平成15年1月8日(水曜日)午前7時ころ,反訴原告の自宅に電話をかけ,その日の夜に時間を取って会ってほしいと言った。反訴原告は,勤務時間では駄目なのかと尋ねたが,反訴被告Dから夜に会ってほしいと言われたため,反訴原告は,翌9日に反訴被告Dと会う約束をした。(乙7,反訴被告D本人)

エ 反訴被告Dは,平成15年1月9日(木曜日)午後7時ころ,反訴原告の自宅まで迎えに来て,反訴原告をレストランbに連れていった。反訴被告Dは,反訴原告に対し,制服を着用するように話した後,セクシュアル・ハラスメントについて騒ぐと今後仕事をする上で不利益を受けることになるからやめた方がよいと話した。(甲35の1及び2,乙7,反訴被告D本人)

(8)  平成15年4月4日から同月7日までの反訴被告らの行為

ア K職員課長に送付されたものと同旨の差出人不明の手紙は,平成14年12月末に,自治労連上尾市の委員長の自宅にも配達された。自治労連上尾市は,平成15年1月17日,反訴原告から,事情聴取をした。反訴原告は,事情聴取を行ったH書記長らに対し,反訴被告Cから仕事のことで嫌がらせを受けており,嫌がらせがひどくなっては困るので,自分から訴え出るつもりはないが,組合でできることがあればしてほしいと話した。(甲58の1から4まで,乙2,7,証人H,反訴原告本人)

イ 自治労連上尾市は,その後も,反訴原告から複数回相談を受けた。自治労連上尾市の執行部は,上尾市職員のセクシュアル・ハラスメントの防止に関する要綱に基づく調査を行うことで問題の解決が図れるとの協議結果を出し,平成15年4月2日,セクシュアル・ハラスメント相談員に対し本件苦情相談を行った。自治労連上尾市は,このとき,苦情相談を行うことを反訴原告に伝えなかった。

相談員は,同月4日,K職員課長に対し相談内容を報告した。K職員課長は,同日午後,反訴原告及び反訴被告Cに対し,事実確認をしたい旨を連絡した。しかし,反訴原告は休暇中のため,週明けの7日(月曜日)に連絡を取ることとした。(甲58の1から4まで,乙2,7)

ウ 反訴被告Cは,平成15年4月4日(金曜日)午後,反訴被告Dに対し,セクシュアル・ハラスメントについての苦情相談がなされたので,反訴原告に確認してほしいと依頼した。

反訴被告Dは,同日午後7時ころ,反訴原告の自宅に電話を掛け,今から会ってほしいと言った。反訴原告は,時間が夜遅いのでと言って断った。反訴被告Dは,その後,もう一度電話を掛けてきて,明日中に話したいことがあるので是非会ってほしいと話した。反訴原告は,翌日に,友人の結婚披露宴に出席する予定であったので,月曜日に会うことにしたいと申し出た。しかし,反訴被告Dが月曜日では駄目だと言ったため,反訴原告は,翌日の夜に会う約束をした。反訴被告Dは,いずれの電話の際も,反訴原告に対し,会う目的を告げなかった。(甲36,乙7,反訴原告本人,反訴被告D本人)

エ 反訴被告Dは,平成15年4月5日(土曜日)午後6時半ころ,反訴原告を自宅まで迎えに行き,レストランbに連れていった。反訴被告Dは,レストランbにおいて,反訴原告に対し,セクシュアル・ハラスメント相談窓口に反訴原告の名前で本件苦情相談がなされたこと,本件苦情相談をしたのはH書記長であることを教えた。反訴被告Dは,その上で,反訴原告に対し,セクハラ苦情処理委員会が招集されたら終わりだ,市役所で事実上仕事ができなくなるような嫌がらせをされるかもしれないと告げた。反訴被告Dは,反訴原告に対し,いま本件苦情相談を取り下げないと,あなたは大変なことになると言って,本件苦情相談の取下げを依頼するように言った。

反訴原告は,その場で自分の携帯電話からH書記長に電話を掛け,本件苦情相談を取り下げるよう依頼した。H書記長は,反訴原告に対し,だれから聞いたのか繰り返し尋ねるなどしたが,最後には,反訴原告の申出を容れて,月曜日に本件苦情相談を取り下げると約束した。(甲35の1及び2,乙7,証人H,反訴原告本人,反訴被告D本人)

オ 反訴被告Dは,その後,反訴原告に対し,反訴被告Cも怒っているから,これからすぐ謝りに行った方がよいと言った。反訴原告は,反訴被告Dの話に従い,反訴被告Cと会うことにした。反訴被告Dは,反訴被告Cに対し,電話を掛け,喫茶店aで会うことにした。反訴被告Dは,反訴原告を,喫茶店aに連れていった。

反訴原告は,同日午後7時半ころ,喫茶店aに着いた。反訴被告Cは,反訴原告が到着したとき既に着席していた。その後,反訴被告Cから話合いに立ち会ってほしいと依頼された本訴原告Bと本訴原告Aが来店した。

反訴被告Cは,反訴原告に対し,何もなかっただろうと尋ね,セクシュアル・ハラスメントの事実がないことを認めさせようとした。反訴原告は,お話しできるようなことはありませんと答えた。また,反訴被告Cは,反訴原告に対し,H書記長には今日の事実は話さず,自分が取下げを希望していると話すようにと言った。(甲35の1及び3,乙7,本訴原告B本人,反訴原告本人)

カ 反訴原告は,喫茶店aを出た後,反訴被告Dの運転する自動車で送ってもらって帰宅した。反訴原告は,帰路,制服を取りに行くため市役所に立ち寄った。(乙7,反訴被告D本人)

(9)  平成15年4月7日の反訴被告らの行為

ア 反訴被告Cは,平成15年4月7日(月曜日)午前8時ころ,反訴被告Dに対し,反訴原告を上尾市役所議会棟の議員控室に連れてくるように言った。反訴被告Dは,反訴原告を議員控室に連れていった。

反訴被告Cは,議員控室において,反訴原告に対し,本件苦情相談を取り下げるように言った。また,セクシュアル・ハラスメントに遭ったこと,4月5日に反訴被告らから本件苦情相談を取り下げるよう言われたことは黙っているように指示した。(乙7,反訴原告本人)

イ その後,G企画財政部長が議員控室を訪れた。反訴原告は,反訴被告らが同席している中で,本件苦情相談の取下げを希望すると報告した。G企画財政部長及び反訴被告Cは,その報告の後,議員控室を出た。(乙7,反訴原告本人)

ウ 反訴被告Dは,反訴被告Cらが議員控室を出た後,K職員課長を議員控室に呼んだ。反訴原告は,反訴被告Dが同席している中で,K職員課長に対し,H書記長に本件苦情相談の取下げを希望すると伝えたことを報告した。K職員課長は,反訴原告に対し,セクシュアル・ハラスメントの事実があったか,なかったか尋ねた。反訴原告は,本件苦情相談については,私の知らないところでなされており,相談者には本件苦情相談を取り下げるよう電話で依頼した,委員会等が開かれ発言を求められてもお話しできることはないと答えた。(甲40,乙7,反訴原告本人)

エ 反訴被告らは,同日午前11時40分ころ,反訴原告を上尾市役所の駐車場に呼び出した。反訴被告らは,その後,反訴原告を上尾市所在のレストランbに連れていった。反訴被告らは,上尾市所在のレストランbにおいて,反訴原告に対し,午後1時にF市長の後援会事務所に行くので,セクシュアル・ハラスメントの事実はなかったと報告するように申し渡した。

反訴被告らは,午後1時ころ,反訴原告をF市長の後援会事務所に連れていった。反訴原告は,F市長に対し,本件苦情相談を取り下げるよう依頼したことなどを報告した。(乙7,反訴原告本人)

3  上記認定に反し,反訴被告らは,セクシュアル・ハラスメントの事実は存在しない,反訴原告に対し本件苦情相談を取り下げるよう強要した事実はないと主張している。また,反訴原告の陳述ないし供述と反訴被告らの供述は,内容において大きく食い違いがある。そこで,以下,双方の陳述ないし供述を対比した上で,その信用性について検討し,上記認定に至った理由を詳説する。

(1)  平成14年6月4日の反訴被告Cによるセクシュアル・ハラスメント反訴原告が,平成14年6月4日,反訴被告Cから命じられて,反訴被告Cの運転するC車を使用して,二人で出張した事実は当事者間に争いがなく,その間の経緯について,反訴被告らが争っているので,この点から検討する。

ア 反訴原告が,この日,反訴被告Cから受けたとされるセクシュアル・ハラスメントに関する反訴原告本人尋問の結果は,大要,次のとおりである。

(ア) 平成14年6月4日午前10時ころ,自治振興課に反訴被告Cがやってきて,突然,今から出るからと告げられた。事情を聞くと,Lと会うから急いで準備をするように言われた。

(イ) C車に同乗して,株式会社cに着くと,社長室のようなところに通された。

お茶を出してもらってしばらく雑談をした。そのときにLさんがこういった図面なんだよと言って,街づくりに関する図面を見せられた。この図面は許しを得て持ち帰ることにした。

(ウ) 株式会社cを辞した後,北に向かい,北本駅の駅ビルの公共施設を見に行った。その後,反訴被告Cから,自然学習館のような施設が公園のところにあるので,そこを見て帰ろうと言われた。実際には,この施設には寄らずに,そばの道を通って帰っただけだった。

(エ) 変なことをして自分や上尾市役所に勤務する夫の仕事に影響が出たら嫌だと思って助手席に座るのを断れなかった。

(オ) 自然学習センター近くの道路を走行中,反訴被告Cは,左手で私の右手を上から握ってきた。そして,反訴被告Cは,その左手を私の右太ももの内側に置いた。足を触られるのは嫌だったので,手に力を入れたが,それ以上の抵抗はできなかった。手や足を触られて怖くなったが,周りに民家もないようなところなので,声を出してしまって何か起きたときにどうしようと考えて,声を出すことはできなかった。手で防ぐので精一杯だった。付近に民家はなく,病院のようなものがあるだけだったので,更にもっと進んでしまうんじゃないかと怖かった。道路がT字路のようになっており,反訴被告Cは,ハンドルを切るのに両手を使い,そのときに手を放してもらった。

イ これに対し,反訴被告Cは次のとおり供述する。

(ア) 平成14年5月28日に実施された国際交流関係の懇親会の席上,Lから反訴原告に対し,e地区の街づくりに関する話があり,反訴原告は興味を示した。Lは,反訴原告に対し,図面を見に来てはどうかと話した。その後,同年6月4日,反訴被告CがLと電話をしているとき,偶然,今日の午前中は予定が空いているという話になり,急いで行くことになった。

(イ) 株式会社cを辞してから,反訴原告と二人で北本駅の駅ビルに行き,北本駅前の食堂で昼食をとった。

(ウ) その後,自然学習館を車内から見て,T字路に出るまでの間に,反訴原告に対し,仕事において縦と横の人間関係をしっかり自分なりに築きあげていくことが大事だと思うと言った。そして,一時停止をした際に,左手でハンドルを握ったまま,握手をしようと言って,右手を差し出し,反訴原告もこれに応じた。反訴原告は,分かりました,頑張りますということだった。

ウ 反訴被告Cが反訴原告を出張に同行させた理由について

反訴原告を出張に同行させる必要があるかないかとの点について,双方の供述は対立している。しかしながら,反訴被告Cにおいても自認しているとおり,前記認定の上尾市企画財政部自治振興課における職制上,平成14年4月当時,反訴原告が出張するとすれば,直属の上司である自治振興課長である反訴被告D又は主幹の本訴原告Bから,出張命令がなされるはずであり,反訴被告Cが反訴原告に対し,直接,出張を命ずること自体が通常ではない。また,訪問を受けたLの証言によれば,Lは5月28日に実施された懇親会当日,反訴原告とあいさつを交わしたことがなく,詳しく話をしたのは6月4日に訪問を受けたときであったこと,反訴原告がどのような立場で訪問しているのか認識していなかったこと,さらには,反訴原告をこのような出張にわざわざ同行させた理由として述べる反訴原告においてe地区の街づくりに興味を示していたという反訴被告Cの前記供述がL証言と合致せず,ひいては同行させる必要性に乏しいことが認められ,これらの事実はいずれも反訴被告Cの前記供述とは一致していない。また,反訴被告Cは,株式会社cを辞した後,反訴原告を助手席に乗せたまま,反訴原告とともに通常の帰路とは反対方向となる北本駅まで行き,駅ビルを見学し,次に北本市の自然学習センター前の道路を経由しながら,自然学習センターは見学しないという出張経路をたどっているが,公務出張中であるにもかかわらず,通常とるべき最短かつ経済的な帰庁経路をとらず,わざわざ,このような遠回りで合理性を欠く経路を取ったことについて,反訴被告Cはいかなる理由や必要があったか明らかにしていない。

エ 次に,車中における接触行為に関する双方の供述を検討する。

反訴原告は,上記のとおり,C車の中で,反訴被告Cから手を握られた状況について,写真を用いての再現(乙13)に拠ってはいるが,その際の心理状況も含めて,具体的かつ詳細に陳述している。

これに対し,反訴被告Cは,車中で握手をしたに止まると供述する。しかし,その態様は左手でハンドルを持ちながら,それと交差させるように右手を助手席に座る反訴原告に差し出すという奇妙な姿勢であり,通常では取り難い体勢である。そもそも,反訴原告に対し,握手をして激励をするに至った具体的なきっかけとして,反訴被告Cは,職場での人間関係の重要性を説いているうちに,握手をしたと説明するが,公用で出張中の二人だけの車中において,配偶者のある相当年齢の離れた女性で,かつ,採用されて数年も経たない所属の末席の部下の1人にすぎない反訴原告に対し,握手をして激励をするに至るきっかけとしては,必要性の点も含めて,およそ理解し難いものといわざるをえない。また,反訴被告Cが供述するように右手を差し出され,反訴原告が直ちにこれに応じて手を差し出したというのも,このような行動に出る前後の事情に乏しい。

オ 小括

上記検討したところによれば,6月4日の反訴被告Cによるセクシュアル・ハラスメントに関する反訴原告の供述は,具体的かつ心情の点も含めて詳細で,他の証拠関係とも矛盾しておらず,説得力に富んでおり,信用しうるものと見ることができる。一方,これと対立する反訴被告Cには,上記のとおり他の証拠関係から認められる事実と一致していない点や供述内容からも納得し難い点が多く見られるほか,後記指摘のとおり,本件苦情相談のもみ消し工作に及んでおり,この所為に及んだ合理的理由を説明できないこと等に照らし,反訴原告の陳述ないし供述と比し,信用性に乏しいものといわざるをえない。

(2)  平成14年5月下旬及び6月下旬の反訴被告Cによるセクシュアル・ハラスメント

ア この点に関する反訴原告本人尋問の結果は,大要,次のとおりである。

(ア) 平成14年5月下旬の午前中,反訴被告Cに連れられて,d地区に出かけた。その帰路,C車を運転中の反訴被告Cから左手で,右手を握られた。すごく驚いたのとすごく怖かった。どうやって事を荒立てないで放してもらえるか考えた,何か言って刺激をしたら何かされるんじゃないかというほうの恐怖が大きかったので,何か言うことは考えつかなかった。触られている時間は長く感じた。反訴被告Cが何かのタイミングで手を放した。

(イ) 同年6月下旬,反訴被告に連れられて,C車で,西側の公園のようなところに向かった。その帰路,反訴被告Cは左手で反訴原告の右手を上から握り,自分の側に引き寄せ,コンソールボックスの上に置いた。そして,反訴原告の右手をつかんだままの左手を,反訴原告の右太ももの内側に持っていき,右太ももの上に置いた。反訴原告が無言で,反訴被告Cの左手を払うと,反訴被告Cは左手をすかさず右太ももに直接置いた。怖くて声を出せずにいたが,太ももを触られて,かあっと血が上って,反訴被告Cの左手をつかみ押し返して,やめてくださいと言った,どんな調子で言ったかはよく覚えていない。

イ 反訴被告Cは,これらの日に反訴原告と出張したことはないと主張しており,反訴原告のうそである,全くの作り話であると供述している。

ウ 被害日時及びその日の出張先の特定について

(ア) 反訴原告は,反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受けた日時について,平成14年5月下旬及び6月下旬としか特定できず(しかも,反訴原告本人尋問の結果によれば,下旬とは月の後半の意であるという。),その際の出張先についても,5月下旬はd地区のどこかであるが記録していないので覚えていない(乙7,反訴原告本人),6月下旬は,西側の公園のようなところ(反訴原告本人)としか特定していない。また,それゆえ,出張があったか,なかったかについても客観的証拠等による裏付けがなされておらず,かえって,反訴原告が平成14年に使用していた手帳(乙16)には,同年6月4日の出張についての記載があるのに,5月下旬及び6月下旬については出張に関連すると思われる記載がない。

(イ) しかし,証拠(乙7,15,証人H,証人M)及び弁論の全趣旨によれば,反訴原告は,平成14年6月以降,M課長補佐及びH書記長など職場の上司・所属組合幹部や同僚に対して,反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受けたと話していること,その際,反訴被告Cのセクシュアル・ハラスメントに抗議したために,NPO担当から外された,仕事のやり直しをさせられるなどの嫌がらせを受けていると話したことが認められ,これらの事実を総合すると,反訴原告が本人尋問において供述するとおり,セクシュアル・ハラスメントの被害を公にすることで仕事に支障が生じることをおそれ,被害日時及びその日の出張先を具体的に特定して記録しなかったという説明も首肯できないわけではない。また,日常の同じような業務中に,類似の状況で行われたセクシュアル・ハラスメントにつき,その日時を1年以上が経過した後に特定することは,通常,困難であると思われる。

エ 関連証拠との対比

(ア) 反訴被告Cの出張記録(甲71の1から3まで)によれば,反訴被告Cが5月下旬及び6月下旬に複数回出張を行っている事実が認められるが,出張の記録がない日もあり,そもそも,アリバイの証明にはなりえない上,県庁へ赴くなど日帰りの出張についても出張と記載することとされているから(反訴原告本人,弁論の全趣旨),反訴被告Cにおいてのセクシュアル・ハラスメントに及ぶ機会がなかったとは認められず,前記認定を覆すに足りない。

(イ) 反訴原告の手帳(乙16,17)によれば,6月4日の出張を除いて,出張に関する記載がないが,反訴原告が,6月4日の出張先を記載したのは,その日訪問した施設が,NPO活動等の拠点になるかもしれないと考え,仕事上の必要から記載した旨供述していること,手帳の記載からは反訴原告が事前の予定のみならずその日に行ったことを逐一記載しているとまでは認められないことからすれば,出張に関する記載のない日に,反訴被告Cと反訴原告が出張をし,反訴原告に対するセクシュアル・ハラスメントがなされた可能性を否定できない。

(ウ) 陳述書と反訴原告本人尋問の結果との対比

反訴原告の陳述書(乙7)と反訴原告本人尋問の結果とを対比すると,陳述書においては,反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受けた6月下旬の日に関し,公園のリニューアルの仕事のためd地区に出向かざるを得なくなったと陳述した一方で,反訴原告本人尋問においては,覚えておらず,記録もしていないが,どこか公園のようなところに行ったと供述しており,変遷が見られる。

しかし,前記認定のとおり,反訴原告は,出張先を記録しておらず,その点の記憶があいまいであると認められることからすれば,この変遷をもって,虚偽の陳述ないし供述であるとする根拠のひとつにすることはできない。

オ 反訴原告の陳述ないし供述の内容についてみると,上記のとおり,C車の中で反訴被告Cから手を握られた状況については,そのときの心理状態も含めて,相当程度具体的に陳述しており,その内容も体験に根ざしたことを語る言葉として,一応うなずける。一方,反訴被告Cは,この点については,特段,具体的な反論を供述していない。

カ 小括

以上によれば,反訴原告の陳述の信用性を補強する証拠がないこと,反訴原告は,自ら,被害を受けた日時及び場所について記憶していないことが認められるが,これらの点を考慮しても,先に検討した6月4日に関する供述の信用性,5月下旬及び6月下旬に関する前記の供述内容及び反訴被告Cも客観的又は具体的な反論をなしえていないことなどを併せ考えると,反訴原告の5月下旬及び6月下旬のセクシュアル・ハラスメントの被害に関する陳述は信用できるものと認められる。

(3)  平成15年1月9日の反訴被告Dによる働きかけ

反訴原告が,平成15年1月9日(木曜日)午後7時すぎころ,レストランbにおいて,反訴被告Dと面談した事実は当事者間に争いがなく,争いがあるのは,レストランbにおける会話の内容である。以下,双方の陳述ないし供述を対比して検討する。

ア 反訴原告の陳述

この点については,反訴原告本人尋問において具体的に触れられていないが,陳述書(乙7)の記載内容は次のとおりである。

(ア) 平成15年1月8日(水曜日)午前7時ころ,突然,反訴被告Dから電話があり,その日の夜会って欲しいとの連絡を受けた。その日は用事があったので,翌日にしてもらった。

(イ) 同月9日(木曜日)午後7時ころ,反訴被告Dから,レストランbに連れていかれた。技師であっても一般女子事務職員と同様に制服を着用するようにとの話をされた後,セクシュアル・ハラスメントについて騒ぐと,今後仕事をする上で不利益を受けることになるのでやめた方がいいと言われた。

イ 反訴被告Dの供述

(ア) 平成15年1月7日,反訴被告Cから,反訴被告Cがセクシュアル・ハラスメントを行っている旨の匿名の手紙が年末に職員課長,自治労連上尾市の執行委員長の自宅などに届いたこと,その手紙に反訴被告Cの名前があり,反訴被告Cが総務部で事情を聞かれたことを聞いた。

(イ) 同日,J総務部長から,反訴原告が制服を着用していないので注意するように言われた。制服に関する注意は3回目であるので,ほかの職員の手前もあり,レストランbで話をすることにした。

(ウ) 9日,レストランbにおいては,制服に関する注意をしただけである。

ウ 以下,双方の陳述及び供述を対比して検討するに,制服に関する注意が3回目であるからといって,配偶者のいる反訴原告を,勤務時間外の夜,レストランに呼び出し,二人だけで会って話をする理由としては了解し難い。反訴原告の名誉のため他の職員に聞かれないように配慮するというなら,例えば,庁舎内の会議室のような場所で注意することでも足りるはずである。かえって,反訴被告Dがセクシュアル・ハラスメントに関する匿名の手紙の話を反訴被告Cから聞いていることからすれば,この匿名の手紙に関連して,何らかの意図を持って反訴原告に会ったのではないかと推測される。

以上によれば,反訴被告Dの供述の信用性は疑わしいものと言わざるを得ず,他方,反訴原告の陳述の信用性を否定すべき事情は,特段,見当たらない。

(4)  セクハラ苦情処理委員会に対する苦情相談の取下げ強要

セクハラ苦情処理委員会に対し平成15年4月2日になされた本件苦情相談はH書記長らによってなされたものであること,反訴被告Cが同月5日午後7時過ぎころに反訴原告と面談したこと,同月7日午前に反訴被告らが,反訴原告をG企画財政部長及びK職員課長に引き合わせ,本件苦情相談を取り下げるようH書記長に依頼したと報告させたこと,さらに,同日午後,反訴原告をF市長に引き合わせ,本件苦情相談を取り下げるよう依頼したことを報告させたことは,当事者間に争いがなく,争いがあるのは,本件苦情相談の取下げ強要の有無である。以下,この点に関する反訴原告及び反訴被告らの各供述について検討する。

ア 平成15年4月5日(土曜日),レストランbでの反訴被告Dとの面談について反訴被告Dは,この面談の目的について,職場の人間関係で問題があったので,2年目に入ったのを機に話しておかなければいけないと思って,会うことにしたと供述するのであるが,前記平成15年1月9日の面談と同様に,女性で配偶者もいる原告と二人だけで,休日の夜間に面談することに結びつくのか理解し難いのみならず,職場の人間関係についてどのような問題があったのか具体的な供述はない。

他方,反訴原告は,反訴被告Cによるセクシュアル・ハラスメント及びそれに続く嫌がらせを自ら解決する意思はないものの,労働組合を通じて解決しようとしていたこと(甲41,乙5の1,証人H)を併せ考えると,反訴被告Dにおいて本件苦情相談がされた事実を告げるや,反訴原告が自ら進んでH書記長に対し電話を掛けて本件苦情相談を取り下げるよう依頼した旨の反訴被告Dの供述は,採用できない。

イ 平成15年4月5日,喫茶店aにおける反訴被告ら及び本訴原告らとの面談について喫茶店aにおける面談の目的について,反訴被告Dは,反訴原告が反訴被告Cに対して経緯を説明したいと話したため,約束をして一緒に行ったと供述する。しかし,反訴原告自らがしていない本件苦情相談について反訴被告Cに対しその経緯を説明する必要はなく,仮に説明するにしても,事柄の性質上,電話で話せば事足りるものと考えられる。このような事情を踏まえると,反訴原告が上司である反訴被告Dに対し,レストランbのある与野市から喫茶店aがある上尾市までは,自動車でもある程度の時間を要するにもかかわらず(甲35の1),反訴原告自ら連れていってほしいと頼むとはおよそ考え難い。

反訴被告Cは,反訴原告から話したいことがあると言われたので喫茶店aで会うことにした旨供述するが,反訴原告に連絡もせず本訴原告らをなぜ同席させたのか,理解し難い。なぜなら,管理職で上司である反訴被告D及び本訴原告らの3人を,勤務時間外にわざわざ連絡を取り合った上,その場に同席させるというのは,職場内で最も末席の女性職員から単に話を聞くためにする行為とは事柄の軽重の点等からしておよそ相容れないからである。

以上によれば,反訴被告らの供述は,上記に指摘のとおり不自然な点が多い。これに対し,反訴原告のこの点に関する本人尋問の結果は,これらの情況に合致しており,信用でき,この供述のとおり,反訴被告ら及び本訴原告ら4人が,反訴原告に対し,本件苦情相談の取下げを依頼させるべく,有形無形の圧力を加えるために,喫茶店aで反訴原告と面談したとするのが,前記認定経過により合致するものと認められる。

ウ 平成15年4月7日のG企画財政部長及びK職員課長並びにF市長との面談についてこれらの面談を設定したのが,反訴被告らであることは,反訴被告らが自認するとおりである。何のために反訴被告らがこれらの面談を設定したかについては,反訴被告らは,その供述において何ら説明をしていない。そもそも,本件苦情相談は,H書記長らによってなされているのであるから,H書記長らがこれを取り下げれば十分であり,あえて,反訴原告にその取下げを依頼したとの報告をさせる必要はないものと考えられるが,この点については,反訴被告らからは何らの説明もされていない。

翌8日に,セクハラ苦情処理委員会が開かれる予定であったことからすると,反訴原告において陳述ないし供述するとおり,反訴被告らがその開催又は反訴原告への事情聴取を阻止するため,反訴原告に対し,セクハラ苦情処理委員会を所管するK職員課長,反訴被告Cの上司であるG企画財政部長,さらには市政をつかさどるF市長に対して反訴原告が本件苦情相談を取り下げるよう依頼したこと,事情聴取にも応じる意思がないことを報告させ,反訴原告において容易に翻意できないようにしたと見るほうが前後の事情と符合していると評価できよう。

エ そうすると,反訴原告の上記各面談についての供述は,ほぼ事実経過と合致しており,特段,信用性を否定すべき事情は見出せず,信用することができるものと認められる。

オ 小括

以上のとおりであるから,反訴原告の陳述ないし供述は十分に信用でき,他方,反訴被告らの供述はこれと対比して採用できず,ひいては反訴原告の陳述ないし供述の信用性を覆すものとは認められない。

(5)  全体的考察

ア 反訴原告の陳述ないし供述について

(ア) 反訴原告が本件請求に及んだ経緯についてみると,反訴原告は,平成14年5月下旬から6月下旬にかけてセクシュアル・ハラスメントの被害にあったと陳述するが,その直後に,セクハラ苦情処理委員会やその他外部の相談機関などに対し,セクシュアル・ハラスメントの被害について相談するなど自ら解決を図ろうとしていないのに,平成15年9月3日に至って大宮簡易裁判所に対し反訴被告らなどを相手方として謝罪等を求める調停を申し立て,平成16年2月26日にはセクハラ苦情処理委員会に対し調査及び処理を求める申立てをしており,やや唐突な印象を受ける。

もっとも,前記認定のとおり,セクハラ苦情処理委員会やその他外部の相談機関などに相談を行わなかった理由として,反訴原告は,セクシュアル・ハラスメントの被害を公にすることで仕事に支障が生じることをおそれ,自らセクシュアル・ハラスメントについて解決を図ろうとする意思を有していなかったことがうかがわれる。その一方,反訴原告は,平成14年6月以降,M課長補佐及びH書記長など職場の上司や同僚に対して,反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントを受けたと話していたことが認められる。(前記第3の2(6)ウ)H書記長らが平成15年4月2日に本件苦情相談を行い,これに関し,反訴原告が,同月5日及び7日に,本件苦情相談の取下げを強要されたとして上記調停の申立てを行っていることを併せ考えると,反訴原告の行動は,本件苦情相談の取下げを強要されたことを契機に問題の解決を図ろうとしたものとして了解できる。

(イ) 反訴被告らは,反訴原告のセクシュアル・ハラスメントに関する陳述ないし供述を虚偽であると主張し,その理由のひとつとして,平成16年2月5日に実施された上尾市長選挙に関し,F市長の対立候補となったN上尾市議会議員が,F市長において本件苦情相談の取下げ強要に関与したとF市長を批判したこととの間に何らかの関係があるかのように主張する。しかし,これを認めるに足りる証拠はないのみならず,上記選挙が終了した後も,反訴原告において,セクハラ苦情処理委員会への調査及び処理の申立てを行うなどしていることからすれば,反訴原告がF市長の対立候補を支援するため虚偽の陳述をしたとは認め難い。

(ウ) 反訴原告が申し立てた調停における主張内容との対比

反訴原告の陳述は,当初,概括的であり,反訴被告らが反論するや詳細になることは,反訴被告らの指摘するとおりである。すなわち,反訴原告が平成15年9月4日に申し立てた調停の申立書には,①平成14年5月下旬の行為につき,いきなり反訴原告の手を握った,②同年6月4日の行為につき,反訴原告の手を握り,足の方に持っていこうとした,③同年6月下旬の行為につき,反訴原告の手を握り,足の方に持っていこうとし,さらにエスカレートしていく雰囲気を察知し,やめてくださいと明確に抗議した,との記載があるが,左右いずれの手であるか特定されておらず,行為態様も具体的ではなく,エスカレートしていく雰囲気との記載については具体的にどのような行為であるのか不明である。本件訴訟においては,それぞれ,①反訴被告Cは左手で反訴原告の右手を上から握った,②反訴被告Cは左手で反訴原告の右手を上から握り,反訴原告の右太ももの内側辺りに置いた,③反訴被告Cは左手で反訴原告の右手を上から握り,自分の側に引き寄せ,コンソールボックスの上に置いた。次に,反訴原告の右手をつかんだままの左手を,反訴原告の右太ももの内側に持っていき,右太ももの上に置いた。反訴原告が無言で,反訴被告Cの左手を払うと,反訴被告Cは左手をすかさず右太ももに直接置いた。反訴原告は,反訴被告Cの左手をつかみ押し返して,「やめてください。」と言った,と陳述している。

以上のとおり,調停における主張内容と本訴における反訴原告の陳述ないし供述の内容との間に差異があることが認められる。しかし,調停及び訴訟の初期において,詳細な主張を差し控えることも訴訟進行を計る上で見られないわけではなく,反訴原告が反訴被告らから提出された主張や関係証拠等を確認して改めて記憶を喚起した結果,陳述が詳細になった可能性も十分考えられよう。調停における主張内容と反訴原告の陳述とを比較すると,調停における抽象的な主張内容が具体化したに止まり,相互に矛盾があるとまではいえないことを併せ考えると,上記の差異があることをもって,反訴原告の陳述ないし供述の信用性を左右するとまではいえない。

(エ) 反訴被告らは,上記のほか,①反訴原告が平成15年の正月に反訴被告Cに対し年賀状を差し出していること,②反訴原告が平成15年4月の異動期に異動を希望していないことなどをもって,反訴原告が反訴被告Cに対し,嫌悪感をもっておらず,それゆえ,反訴被告Cのセクシュアル・ハラスメントはなかったと主張する。

あ 反訴被告らの指摘のとおり,反訴原告が平成15年の正月に,反訴被告Cに対し,年賀状を差し出し,その年賀状に手書きで「昨年中は大変お世話になりありがとうございました。今年もどうぞ宜しく御願い致します。」と添え書きをしこと(甲3)が認められる。しかしながら,職場の上司に対し年賀状を差し出すことは社会的儀礼の範囲内であること,前記認定のとおり,反訴原告は年賀状を差し出した平成14年12月ないし平成15年1月ころ,いまだ,反訴被告Cの行為についてセクハラ苦情処理委員会などに訴えていなかったという事情のほか,直筆で添え書きを行うこと,殊に上司や目上の人に対するそれについては一般に広く行われていること,上記添え書きも極くありきたりの形式的儀礼的な文言内容に止まっていることなどからすれば,これをもって反訴被告らの主張するように,反訴被告Cに対する嫌悪感を抱いていなかったこと,ひいては,反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントの被害を受けた事実がないことを裏付ける根拠になるとは認められない。

い 反訴原告が,平成15年4月の異動期に異動の希望(自己申告書)を出していないことは当事者間に争いがない。しかし,反訴原告は,この理由について,嫌がらせをされるのをおそれたためであると供述しており(反訴原告本人),この供述と対比すると,異動の希望を提出しなかった事実から,反訴被告Cからセクシュアル・ハラスメントの被害を受けた事実がないことを裏付けるものとは認められない。

(オ) 以上のとおり,反訴原告の陳述を全体としてみたとき,陳述の内容は具体的かつ詳細であり,本件に至る経緯をみても不自然な点は見受けられず,虚偽の陳述を行ったとうかがわれる事情は存しないといえる。したがって,前記第3の2

(3) から(5)までに認定した限度で,反訴原告の被害を認めることができる。

イ 反訴被告Cの供述について

反訴被告Cの供述は,上記検討のとおり,セクシュアル・ハラスメントの有無に関する供述については,関連証拠と合致しない上,供述内容にも不自然な点が多い。

反訴被告Cの供述を全体として見たとき,本件苦情相談に関して反訴原告に対し,いわゆるもみ消し工作に及んでおり,このような所為をしたことについての合理的な弁解がなされていない点は,逆に反訴被告Cの供述の信用性を否定することに結ぶ付くものというべきである。換言すれば,反訴被告Cが,セクシュアル・ハラスメントを真実行っていないのであれば,自ら,セクハラ苦情処理委員会において,ありのまま弁明すれば足りると思われるのに,あえて反訴被告Dや本訴原告らを巻き込んでまで,反訴原告に対し,本件苦情相談を取り下げさせるように申し渡し,さらには,この働きかけの事実も秘匿するよう命じており,これらの事実それ自体,反訴被告Cが反訴原告に対し,セクシュアル・ハラスメントを行ったことを自認したものと評されてもやむをえない。以上によれば反訴被告Cの陳述ないし供述は,採用し難く,ひいては前記認定事実を覆すに足りる証拠とはいえない。

ウ 反訴被告Dの供述について

反訴被告Dは,上記検討のとおり,外形的事実に沿った供述をするものの,反訴原告に対し,本件苦情相談の取下げを強要したか否かの核心部分では,反訴原告と相反する供述をしており,これが信用できないことは上記検討のとおりであり,これに反訴被告らの上尾市における地位等を考慮すれば,反訴被告Dの陳述ないし供述は,採用し難くひいては前記認定事実を覆すに足りる証拠とはいえない。

4  争点(2)(反訴被告Cのセクシュアル・ハラスメント)について反訴被告Cは,反訴原告に対し,前記第3の2(3)イ,(4)ウ及び(5)イ記載のとおり,前後3回にわたり,いずれも,C車内において,反訴原告の右手を自己の左手で上から重ねるようにして握るなどした事実が認められる。

上記の反訴被告Cの各行為は,いずれも,上司部下の権力関係を背景に反訴原告が容易には抵抗することができない状況下で,反訴原告の手をその意思に反し握るなどしており,いわゆるセクシュアル・ハラスメントであり,反訴原告の人格権を侵害する違法な行為として不法行為に該当する。

5  争点(3)(セクシュアル・ハラスメントのもみ消し行為)について反訴被告Dの前記認定事実第3の2(7)エ及び(8)エの行為及び反訴被告らの前記認定事実第3の2(8)オ及び(9)の行為は,いずれも相まって,上司と部下という職場における権力関係を背景にして又は将来の職務上何らかの不利益を与えるかのように告げて反訴原告の意思を抑圧し,上司及びF市長に対し,自らの意に反する報告をさせ,もって,反訴原告が受けたセクシュアル・ハラスメントを解決する機会を奪い,その精神的苦痛を加重させたものであるから,反訴原告の人格権を侵害する違法な行為に当たり反訴被告らの共同不法行為に当たる。

6  争点(4)(損害額)について

反訴原告が反訴被告らのセクシュアル・ハラスメントによって被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金額としては,前記認定事実その他本件訴訟に現れた一切の事情,特に,本件不法行為が執ように反復してなされたものであること,男女共同参画社会の実現に当たり範となるべき幹部職の公務員が行った不法行為であること,反訴被告Cが一連の行為の中心となっているとはいえ,反訴被告Dにおいても,反訴原告の直属の上司としてセクシュアル・ハラスメントを訴えたが故に意思に反した行為を強要されるなどといういわゆる第二次的セクシュアル・ハラスメントを防止すべき立場にありながら,これに反する行為に及んでいること等を考慮すれば,反訴被告Cについては120万円,反訴被告Dについては60万円が相当である。

第4結語

以上によれば,本訴原告らの訴えはいずれも不適法であり,反訴原告の請求は反訴被告Cに対し損害賠償金120万円及びこれに対する不法行為後の日である平成15年9月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(ただし,うち損害賠償金60万円及びこれに対する平成15年9月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金については反訴被告Dと連帯して),反訴被告Dに対し反訴被告Cと連帯して損害賠償金60万円及び不法行為後の日である平成15年9月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとする。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小島浩 裁判官 合田智子 裁判官 小野寺健太)

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