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さいたま地方裁判所 平成16年(行ウ)12号 判決 2005年8月31日

原告 甲

同訴訟代理人弁護士 橋村昭紀

被告 川越税務署長

小林義夫

被告 関東信越国税局長

鈴木勝康

被告ら指定代理人 青木優子

同 櫻井保晴

同 石川利夫

同 柴野喜一郎

同 山畑正

同 柴田道

同 富井晴夫

同 三柴保宏

被告川越税務署長指定代理人 田中哲男

同 村手康之

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告川越税務署長に対する請求

(1)  被告川越税務署長が平成14年4月26日付けで原告に対してした平成12年分の所得税の更正の請求に対する更正処分のうち、上記更正の請求に対し納付すべき税額1007万7200円を超える部分を拒否した処分を取り消す。

(2)  被告川越税務署長が平成13年12月19日付けで原告に対してした平成12年分の所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分(ただし、被告川越税務署長が平成14年4月26日付けでした上記無申告加算税の変更決定処分後のもの。)のうち、納付すべき加算税の額151万1500円を超える部分を取り消す。

2  被告関東信越国税局長に対する請求

(1)  被告川越税務署長が平成13年12月21日付けで原告に対してした平成12年分の所得税の督促処分を取り消す。

(2)  被告川越税務署長が平成14年1月11日付けで原告に対してした債権の差押処分を取り消す。

(3)  被告川越税務署長が平成14年2月25日付けで原告に対してした平成12年分の所得税に係る無申告加算税の督促処分を取り消す。

第2  事案の概要

1  事案の要旨

本件は、原告が、被告川越税務署長の行った原告の平成12年分の所得税に係る更正処分及び平成12年分の所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分(以下、上記2つの処分を併せて「本件課税処分」という。ただし、無申告加算税の賦課決定処分については変更決定処分による減額後のもの。)は、別紙物件目録1ないし6の各土地に係る「譲渡に要した費用」(所得税法33条3項。以下「譲渡費用」という。)の認定を誤ったものであり違法なものであるとして、被告川越税務署長に対し、本件課税処分の取消しを求めるとともに、被告関東信越国税局長に対し、被告川越税務署長が原告に対して行った所得税の督促処分、債権の差押処分及び無申告加算税の督促処分(以下、これらの滞納処分を併せて「本件各滞納処分」という。)の取消しを求めた事案である。

なお、本件各滞納処分の基となった原告の滞納国税については、川越税務署長から関東信越国税局長に対し徴収の引継ぎがなされたため、本件各滞納処分に係る請求については関東信越国税局長が被告とされている。

2  法令の定め等

所得税法33条1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいうものとし、同法33条3項は、譲渡所得の金額は、当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用(譲渡費用)の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。

3  基本的事実関係(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)

(1)  原告の農転手続等の依頼

ア 原告は、別紙物件目録1ないし6の各土地(以下「本件各土地」といい、それぞれを「本件土地1」ないし「本件土地6」と表記する。)を所有していた。

本件土地1ないし3、5、6の地目はかつて畑であったが、後述のとおり後に雑種地へと変更された。

イ 原告は、平成9年から10年にかけて、本件土地3及び5について、株式会社A(以下「A」という。)及びB有限会社(以下「B」という。)に対し、農業振興地域の整備に関する法律による農用地区域からの除外(以下「農振除外」という。)の手続及び農地法5条の農地の転用(以下「農転」という。)の手続等の依頼をしたが、上記2社はそれらの手続を遂行することはなかった。

そこで、原告は、平成11年1月、2月ころ、乙(以下「乙」という。)に上記各土地の農振除外手続及び農転手続等を行うことを依頼した。

(2)  農振除外手続及び農転手続

本件各土地に隣接する道路について、平成11年5月6日、日高市長は、配水管布設を目的として道路占有の許可を行った(甲70)。

原告は、本件土地3について、日高市長に対し、株式会社C(以下「C」という。)に駐車場として賃貸することとして農振除外に関する農業振興地域整備計画変更申請を行い、平成11年7月23日、同市長から農振除外の認可を受けた(甲34及び35)。

そして、原告は、本件土地3及び5について、平成11年9月8日、埼玉県知事に対し、農地法5条の許可の申請を行い、埼玉県知事は、同年10月21日、上記申請を許可したため(甲36)、原告は、同年11月8日、本件土地3及び5について、地目を畑から雑種地に変更する地目変更登記を行った、(甲5、7、40)。

(3)  本件譲渡

原告は、平成12年1月18日、株式会社D(以下「D」という。)との間で、本件各土地を2億8000万円で売却する旨の契約を締結した(甲43。以下「本件譲渡」という。)。

なお、本件土地1、2、6についても、農地法5条の許可申請が行われ、埼玉県知事の許可を受けたため、平成12年6月22日、地目を畑から雑種地に変更する地目変更登記が行われた(甲3、4、8)。

そして、本件土地3、4、5は、平成12年1月27日に、本件土地1、2、6は同年5月29日にそれぞれ原告からDへ所有権移転登記がなされた。

(4)  本件譲渡に関する費用(以下「本件譲渡費用」という。)

原告は、本件譲渡に関し、別表4①ないし⑩の費用を支払った(これらの費用が所得税法33条3項で控除される譲渡費用に当たることについて争いはない。)。

(5)  本件課税処分等

ア 原告の確定申告

原告は、平成13年11月7日、被告川越税務署長に対し、別表1の「期限後申告」欄記載のとおり、平成12年分の所得税の確定申告を行った。

イ 本件賦課決定処分

被告川越税務署長は、平成13年12月19日、原告に対し、別表1の「加算税賦課決定処分」欄記載のとおり、平成12年分所得税に係る無申告加算税賦課決定処分を行った(以下、下記変更決定処分による減額後のものを「本件賦課決定処分」という。)。

ウ 原告の更正の請求

原告は、上記アの確定申告は、事実と異なっているとして、平成14年1月29日、被告川越税務署長に対し、別表1の「更正の請求」欄記載のとおり、更正の請求を行った。

エ 更正処分及び無申告加算税の変更決定処分

被告川越税務署長は、平成14年4月26日、原告に対し、別表1の「更正処分」欄記載のとおり、更正処分を行い(以下「本件更正処分」という。)、また、同日、別表1の「変更決定処分」欄記載のとおり、無申告加算税の変更決定処分を行った(以下「本件変更決定処分」という。)。

(6)  本件各滞納処分

ア 被告川越税務署長は、平成9年分及び12年分の所得税について、納付すべき税額の全額が未納であるとして、平成13年12月21日付けで、原告に対し、別表6の①欄記載の内容の督促状を発した(以下「本件督促処分1」という。)。

イ 原告は上記督促に係る国税を完納しなかったため、被告川越税務署長は、別表7記載の滞納国税を徴収するため、平成14年1月11日付けで、別表8記載の普通預金の返還請求権及びこれらの預金に係る同日までの確定利息の払戻請求権を差し押さえた(以下「本件各差押処分」という。)。

ウ 被告川越税務署長は、本件各賦課決定処分に係る無申告加算税についても、その全額が未納であるとして、平成14年2月25日付けで、別表6の②欄記載の内容の督促状を発した(以下「本件督促処分2」という。)。

(7)  不服申立て等

ア 本件賦課決定処分の不服申立て

原告は、平成14年1月28日、被告川越税務署長に対し、本件賦課決定処分について、異議申立てを行ったが、被告川越税務署長は、同年4月26日、上記異議申立てを棄却した。

原告は、平成14年5月1日、上記異議決定を不服として、国税不服審判所長に審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、平成16年2月25日、上記審査請求を棄却した。

イ 本件更正処分及び本件変更決定処分の不服申立て

原告は、平成14年5月1日、被告川越税務署長に対し、本件更正処分及び本件変更決定処分について、異議申立てを行ったが、被告川越税務署長は、同年8月7日、上記異議申立てを棄却した。

原告は、平成14年8月9日、上記異議決定を不服として、国税不服審判所長に審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、平成16年2月25日、本件更正処分についての審査請求は棄却し、本件変更決定処分についての審査請求は却下した。

ウ 本件各滞納処分の不服申立て

原告は、本件各滞納処分を不服として、被告川越税務署長に対し、本件督促処分1及び本件各差押処分については平成14年1月29日に、また、本件督促処分2については同年2月28日に、それぞれ異議申立てを行ったが、被告川越税務署長は、本件督促処分1及び本件各差押処分については平成14年4月26日付けで、本件督促処分2については同年5月28日付けで、いずれも上記各異議申立てを棄却した。

原告は、上記各異議決定を不服として、国税不服審判所長に対し、本件督促処分1及び本件各差押処分については平成14年5月1日に、本件督促処分2については同年6月1日に、それぞれ審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成16年2月25日、上記各審査請求を棄却した。

エ 本件訴え

そこで、原告は、平成16年4月13日、本件更正処分、本件変更決定処分、本件賦課決定処分、本件督促処分1、2及び本件各差押処分の取消しを求めて本件訴えを提起した。

なお、原告は、本件変更決定処分の取消しを求める訴えは取り下げた。

4  被告川越税務署長が主張する原告の所得税額等

被告川越税務署長が本件訴えにおいて主張する原告の納付すべき税額の算出過程、算出根拠等は次のとおりである。原告は、下記(1)ウ(ウ)の譲渡費用の額を争うものであり、その余の数額又は計算関係については争っていない。

(1)  所得税の額

原告の平成12年分の所得税の分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額は下記のとおりである。

ア 総所得金額(別表2①) 0円

イ 居住用部分に係る分離長期譲渡所得の金額(別表2②) 81万6233円

上記金額は、下記(ア)の金額から下記(イ)ないし(エ)の各金額を控除した後の金額である。

(ア) 譲渡価額(別表3①) 3355万8828円

(イ) 取得費(別表3②) 167万7941円

(ウ) 譲渡費用(別表3③) 106万4654円

(エ) 特別控除額(別表3④) 3000万円

上記金額は、租税特別措置法(平成16年法律第14号改正前のもの。以下同じ。)35条1項1号の規定により計算した金額である。

ウ 非居住用部分に係る分離長期譲渡所得の金額(別表2③) 2億1240万0767円

上記金額は、下記(ア)の金額から下記(イ)ないし(エ)の各金額を控除した後の金額である。

(ア) 譲渡価額(別表3⑥) 2億4644万1172円

(イ) 取得費(別表3⑦) 1232万2059円

上記金額は、租税特別措置法31条の4第1項の規定により計算した金額(譲渡価額の5%に相当する金額)である。

(ウ) 譲渡費用(別表3⑧) 2071万8346円

上記金額は、本件譲渡費用と認められる別表4の①ないし⑩の合計額2178万3000円から、上記イ(ウ)の居住用部分に係る譲渡費用106万4654円を控除した残額である。

(エ) 特別控除額(別表3⑨) 100万円

上記金額は、租税特別措置法31条4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額である。

エ 所得控除の合計額(別表2④) 147万0200円

上記金額は、下記(ア)ないし(エ)の各金額の合計額である。

(ア) 社会保険料控除の額 6万0200円

(イ) 障害者控除の額 27万円

(ウ) 扶養控除の額 76万円

(エ) 基礎控除の額 38万円

オ 居住用部分に係る課税分離長期譲渡所得金額(別表2⑤) 81万6000円

上記金額は、前記イの金額の1000円未満の端数を国税通則法118条1項の規定により切り捨てたものである。

カ 非居住用部分に係る課税分離長期譲渡所得金額(別表2⑥) 2億1093万円

上記金額は、前記ウの非居住用部分に係る分離長期譲渡所得の金額から、前記エの所得から差し引かれる金額の合計額を控除した金額(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

キ 納付すべき税額(別表2⑪) 4201万7600円

上記金額は、下記(ア)及び(イ)の合計金額から下記(ウ)の金額を控除した金額である。

(ア) 居住用部分に係る算出税額(別表2⑦) 8万1600円

上記金額は、前記オの居住用部分に係る課税分離長期譲渡所得金額に対し、租税特別措置法31条の3第1項に規定する税率を適用して計算した金額である。

(イ) 非居住用部分に係る算出税額(別表2⑧) 4218万6000円

上記金額は、前記カの非居住用部分に係る課税分離長期譲渡所得金額に対し、租税特別措置法31条2項に規定する税率を適用して計算した金額である。

(ウ) 定率減税額(別表2⑩) 25万円

上記金額は、経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律6条に基づいて計算した金額である。

(2)  無申告加算税の額

原告に課されるべき無申告加算税の額は、本件更正処分により減額された納付すべき税額3475万円(ただし、国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に国税通則法66条1項に基づき100分の15を乗じて計算した金額521万2500円となる。

5  争点

争点は、本件譲渡費用の額である。

具体的には、原告は、別表9の「原告の主張」欄記載の各費用が本件譲渡費用に該当すると主張し、被告川越税務署長は、別表4①ないし⑩の各費用は本件譲渡費用に該当するが、別表5①ないし⑫の各費用は本件譲渡費用に該当しないと主張するため、別表5①ないし⑫の本件譲渡費用該当性が問題となる。

6  争点に関する当事者の主張

(1)  原告の主張

ア 本件の背景事情

(ア) 原告は、自宅の既存宅地(本件土地4)と国道に面していて農転が容易な農地(本件土地1、2、6)と、その間に所在する、農振地域に所在していて農転が極めて困難な農地(本件土地3、5)の3種類の土地を所有していた。

このうち、この農振地域に所在していて農転が極めて困難な農地は、農家が耕作のために購入するほかないが、農家は後継者不足で、しかもこの土地は地質が悪く、しかも低地であり、水田用の水路もなく、耕作に適していない土地であったため、売却はほとんど不可能であった。国道に面していて農転が容易な農地は、レストラン・ガソリンスタンド等の営業が可能であったが、この地域は回りが畑・山林でレストランの営業には向いておらず、ガソリンスタンドは近くに4軒あるなど、売却は困難であった。

また、自宅の既存宅地は、居住用として売却が可能であったが、交通の便が悪く(最も近いS駅まで徒歩40分)、高くは売れず、しかも自宅の既存宅地だけ売ったのでは他の土地が残ってしまうため不都合であった。

そこで、上記の農振地域に所在していて農転が極めて困難な農地の農転ができれば、全部の土地をまとめて非農家の企業等に高く売却することが可能であったため、原告は、何とかこの農転が困難な農地の農転ができないかと考えていた。

(イ) 上記の事情から、原告は、近隣の土地の売買の仲介を行ったBから紹介されたAに、原告の所有する農地のうち、農振地域に所在していて農転が困難な本件土地3及び5の農振除外、農転の手続、地目を農地以外に変更する手続を依頼した。

AやBは、「農転の手続には多額の経費と手数料がかかる。」と言い、具体的には、「運送業者に名前を借りるのに金がかかる。議員にも裏金を渡す。市役所の農政課や農業委員会では、資格のある不動産屋が行ったのでは、全く話を受けつけてくれないので、資格のない業者を頼む。それに金がかかる。」と言い、そうした経費等を金融機関から借りる必要がある、と言っていた。そこで、原告は、最初E信用金庫に融資の話をもちこんだが、断られたため、平成9年11月28日、株式会社F(以下「F」という。)という高利の金融業者から5500万円を借り、このうち、3500万円をAに農転の経費(他の業者への手数料・謝礼を含む)として支払い、Bもそうした手続に協力してくれるというので、Bへも、農転の手続への協力手数料としての意味も含めて、Aを紹介してくれた紹介料名義で500万円支払った。

(ウ) また、Fからの上記借入れについては、年40.004%の利息(遅延損害金の利率も同じ)をつける約束をしており、原告は、この5500万円の借入日である平成9年11月28日より、その返済日である平成12年1月27日(Dから2回目の代金を受領した日に決済した)までの791日間の利息として、4053万6000円をFに支払った。

その後、原告は、本件各土地の売却のための農転の手続費用のために、Fから、平成11年6月25日に1400万円を同じ利率で借り、平成11年12月27日に一旦返済したが、この間の185日間の利息としてFに283万8200円を支払った。

この1400万円の返済は、平成11年12月27日に同じくFから借入れした2700万円から返済したものであり、残りの1300万円も、それまでの借入れと同様、本件各土地の売却のための農転の手続費用のためであった。

この平成11年12月27日に借入れした2700万円についても、利率は前と同様で、Dから2回目の代金を受領した平成12年1月27日に返済するまでの31日間の利息として、91万5000円を原告はFに支払った。

以上のように、原告は、本件各土地の売却のための農転の手続費用のための借入れの利息としてFに、合計5140万2240円を支払ったが、その後、原告はFから750万円の返還を受けているので、結局、原告は4390万2240円の利息を本件各土地の売却のために支払わざるを得なかった。

(エ) Aは、原告の所有する農地のうち、農振地域に所在していて農転が困難な前記2筆の農地(本件土地3及び5)の農振除外の申請のために奔走したが、元々農振除外の手続は通常の方法では極めて困難であり、1年程経過しても手続はなかなか進展しなかった。

そこで、Aでは無理だということになり、原告が、Aを紹介したBに文句を言うと、Bは自分の方でやるということになり、原告は平成10年10月24日、Bとの間で本件各土地の専属専任媒介契約を締結した。

しかし、前述のように、農振地域に所在する前記2筆の農地(本件土地3及び5)の農振除外は極めて困難であって、Bがやろうとしても、やはりできなかった。

そうこうするうちに、本件各土地の農振除外と売却の話は関連業者の間で有名となり、乙という不動産ブローカーらしき人の耳に入り、乙が本件各土地の農振除外と売却の話に絡んできた。

乙は「自分なら農転は絶対できる。」と言い、原告は、Fからの借入金5500万円の利息・遅延損害金が年約40%で増えていくことに恐怖感を覚えていたので、藁をも掴む気持ちで乙に本件各土地の農振除外と農転の手続、売却を依頼することにした。

乙は、「Aもいろいろ走り回り、議員に金を使ったり、運送会社に名前を貸してくれるよう頼んだりしたらしいが、3000万円くらいでは駄目だった。もっと掛かる。」と、Aに支払った経費よりかなり高額の経費が掛かることを示唆していたが、原告は、Fからの借入金の利息・遅延損害金がものすごい勢いで増えていくことを考えると、一刻も早く農振除外と売却の話を進めるのが先決であり、そのためには、かなり経費が掛かってもやむを得ないと心を決めた。

原告は、当初とりあえず乙に対し、農振除外と農転の経費の一部として、平成11年2月8日に300万円、同年2月16日に180万円の合計480万円を支払ったが、乙はこの内から、100万円と60万円の合計160万円を有限会社G(以下「G」という。)に農振除外と農転のための経費として支払った。

(オ) その後、農振除外と農転のためには、下水道工事と駐車場砂利工事が必要だということになり、原告は、その代金のために、前記のとおり、平成11年6月25日に、やむなくFから1400万円を借り増しした。

この1400万円は乙が経費としてもってゆき、乙はその中から、下水道工事代金として株式会社H(以下「H」という。)に700万円、駐車場砂利工事代金として有限会社I(以下「I」という。)に260万円支払った。

乙は更に経費が必要だと、Fからの借増しを提案してきたが、原告は、農振除外と農転のために具体的にどのような経費がかかるのか、全く無知であったため、乙の提案に従わざるを得ず、前記のとおり、平成11年12月27日、Fから更に1300万円を借り増しした(契約書上は、金2700万円を新たに借りて、前の借増分1400万円を同日返済した形になっている)。

乙は上記1300万円も乙が農振除外と農転のための経費としてもってゆき、そのうち200万円については、自分への礼金であるとして自分の領収証を原告に渡した。

原告所有の本件各土地のうち、農振地域からの除外が極めて困難であった本件土地3については、Cに駐車場として賃貸するという名目で、平成11年2月ころ農振除外に関する申請を行い、同年7月23日に認可が下り、同年10月21日、農地法第5条の転用許可がなされ、同年11月8日に雑種地に地目変更がなされた。

しかし、Cでは上記土地を駐車場として利用する必要性がなかったから、同社に農振除外に関する申請や農地法第5条の許可申請の名義人となってもらったり、農業委員会提出用の写真を撮るため、上記土地に同社の大型トラックを何台ももってきて駐車してもらったりしたが、乙はその謝礼として、原告から受け取った前記経費の中から、同社に多額の支払をしている可能性がある。

その後、平成12年1月18日にDとの間で本件各土地の売買契約が締結され(本件譲渡)、同日Dから手付金1000万円を受領したが、乙は自分の報酬が欲しいと言うので、同年1月21日、原告は、乙に300万円を支払った。

Dからの中間金1億5000万円は平成12年1月27日に支払われたが、この支払にはFも同席し、原告は、上記中間金から、Fに利息・遅延損害金を含めて1億2253万6000円を返済した。

Dからの中間金1億5000万円とFに返済した1億2253万6000円の差額である2746万4000円は原告が受領したが、原告は、平成12年2月1日、このうち300万円を乙に謝礼として支払った。

(カ) Dからの残金1億2000万円は所有権移転登記完了時に支払われることになっていたが、乙が他に支払をする必要があるからと言って、支払を要求してきたので、Dから2500万円を早めに支払ってもらうことにし、原告は、平成12年3月27日、同金額をDから受領の上、同日、乙に2100万円を渡し、300万円をDとの売買の仲介を行った有限会社J(以下「J」という。)に仲介手数料の一部として支払った。

Dからの残金1億2000万円のうち上記2500万円を差し引いた最終残金9500万円は平成12年5月29日に支払われたが、原告は、同日、このうち444万1500円を、Jとともに原告側の仲介不動産業者として同売買に関与した株式会社K(以下「K」という。)に支払い、144万1500円をJへの売買仲介手数料の残金として払った。

(キ) また原告は、同日、乙に700万円、Gに180万円を、それぞれ農転手続のお礼として支払い、更に翌日の5月30日、乙に400万円報酬として支払うとともに、同人が他にまだ支払うところがあると言うので、同人のL信用金庫狭山西支店の預金口座に金1500万円を振込送金した。

(ク) 以上の本件譲渡費用をまとめると別表9の「原告の主張」欄記載のとおりであり、合計1億8148万5240円である。

イ 譲渡費用該当性について

(ア) 譲渡費用について

譲渡所得の算定においては、その所得が生まれるのに要した譲渡費用を譲渡収入から控除することとされている。

その所得が非合法の手段を用いて生じた場合にも、そうした非合法の手段がなされなければ、そうした譲渡収入が得られなかったことが明らかであれば、そうした非合法の手段のために支出された費用も同様に譲渡収入から控除されるべきである。

このように理解すべきことは、課税が納税者の手元に実際に残った所得に応じてなされるべきことから当然のことであり、その費用は合法か、非合法かを問わず、その所得の形成に対して必要であったか否かの観点から判断されるべきものである。

(イ) 本件の特殊性

本件各土地は、①国道に面していて農転が容易な農地、②自宅の既存宅地、③その間に存する農転がほとんど不可能な農地の3種類に分類され、その当時の地目のままでは、ほとんど買手がつかないか、仮に買手がついても、極めて安い価格でしか売却ができないものであった。

しかも本件各土地は、低地に存在するものであって、排水路が設置されないと、農業地としても、その他の目的に使用するにしても、雨期に水びたしになってしまって、価値がなく、そうした排水路の設置も下流に当たる川越市との関係で、容易には許可が下りない状況にあった。

このため、正規の方法で本件各土地を売却することは、ほとんど不可能か、極めて安い価格でしか売却ができない状況にあった。

こうした状況にありながら、本件各土地をかなりの高価で売却することができたのは、非合法な手段を用いて、本来はできない農転と排水路の設置許可という行政上の手続をクリアしたからである。

そして、そうした手続は、通常の宅地建物の取引業者や行政書士といった有資格者は請け負わず、無資格の所謂「事件屋」と呼ばれるような人達しか請け負わず、またそうした人達しかできないものであった。

したがって、そうした人達に依頼して、初めて原告は今回の譲渡収入を得られたのであるから、非合法であったとしても、そうした人達に支払った金員は譲渡費用として、譲渡収入から控除されるべきである。

(ウ) Fからの借入金の金利(別表5⑦)について

Fは高利貸しであって、その金利は通常の金融機関の場合に比べてかなり高い。

しかし、こうした非合法の手続のために通常の金融機関が融資することは、まずあり得ないから、高利貸しから借りたことはやむを得なかったといえ、その金利は譲渡費用となると解すべきである。

なお、Fからの借入金の名義が必ずしも原告となっていない場合もあるが、本件各土地がFからの借入金の担保とされていたこと及びその返済が本件各土地の売却代金からなされていることからすれば、実質的な借主が原告であったことは明らかである。

(エ) Aへの農転経費の支払及びBへの紹介料(別表5①及び②)について

Aへの3500万円の農転経費の支払及びBへの500万円の紹介料の支払については、結果的には本件各土地の農転手続や排水路の設置許可に直接的に影響を及ぼしたものではなかった。

しかし、AやBが、本件各土地の売却に向けた行政上の手続のために奔走したことは事実であり、たまたまそれが成功しなかっただけであり、当事者の間では農転経費やそうした手続をする人間を紹介してくれたお礼として授受されている以上、譲渡費用として認められるべきである。

(オ) 乙への農転や排水路設置許可等のための経費や報酬の支払(別表5③ないし⑥、⑧、⑨、⑪、⑫)について

乙へは、農転や排水路設置許可のための経費や報酬として多額の支払がされているが、これらの中には支払先が不明瞭のものも多い。

しかし、こうした非合法の手続のための支払については、支払先を明らかにしないのが普通である。原告はそうした費用を実際に支払っているし、それを支払ったために本件各土地を高く売却することができたのであるから、そうした支払も譲渡費用として認められるべきである。

原告が乙に税金の支払のために預けた金員の返還を請求した民事訴訟において、本件各土地の農振除外手続に関与したTは、そうした手続のために2000万円を乙から領収証なしで預かり、それを3人の人間に渡したと証言している(甲79)。

また、同訴訟において、本件各土地の排水路設置許可手続に関与した丙は、そうした手続のために乙から3000万円を預かり、そのうち300万円を自分の報酬としてもらい、それ以外は経費として使用した旨証言している(甲80)。

また、乙は、本件各土地の排水路設置許可手続のために、丙に渡した分とは別に、ある人間に900万円を渡している、と供述している(甲81)。

こうした証言・供述は、本件各土地の農振除外手続や排水路設置許可手続が通常の正規の手続ではほとんど不可能であることを考えると事実を述べているものと考えられる。

このように、本件各土地の地目変更や排水路設置許可による高価な売却のために実際に多額の経費が支払われている以上、そうした金員は譲渡費用と認められるべきである。

(2)  被告川越税務署長の主張

ア 法令等の規定

所得税法33条(譲渡所得)3項は、譲渡所得の金額は、当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。

そして、その資産の譲渡に要した費用とは、当該資産の譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用に限定されると解されている(さいたま地裁平成16年1月28日判決、新潟地裁平成8年1月30日判決・行政事件裁判例集47巻1・2号67頁、神戸地裁平成2年1月31日判決・税務訴訟資料175号304頁、その控訴審である大阪高裁平成3年1月30日判決・シュトイエル354号35頁)。

イ 本件への当てはめ

これを本件についてみると、本件譲渡費用に該当するものは別表9の「被告川越税務署長の主張」欄記載のとおりであり、原告が本件譲渡費用に該当すると主張する金額のうち、以下に述べる金額については、本件譲渡費用に該当するとは認められない。

(ア) 別表5①の金額について

この金額は、AがFから借り入れたものであり(甲20)、原告がAに支払ったものであると認めることはできない。

仮に、原告が支払ったものであるとしても、この支払と本件譲渡との関係が不明であり、本件譲渡費用と認めることはできない。

(イ) 別表5②の金額について

原告は、平成9年分の所得税の期限後申告において、この金額を一時所得に係る必要経費として申告しているものであって、本件譲渡とは直接関係のない支払であるから、本件譲渡費用と認めることはできない。

(ウ) 別表5③及び④の各金額について

原告が提出した証拠資料によれば、支払の事実は認められるものの(甲46及び47)、当該資料には「仮領収証」と記載されているなど、いずれもその最終的な支払先や支払の目的が不明であるから、本件譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用と認めることはできない。

なお、別表4④及び⑤のとおり、Gに対しては、平成11年2月8日に100万円、同月16日に60万円の支払事実があり(甲62及び63)、これらは農地転用の許可を得るための費用と認められるから、その全額が本件譲渡費用と認められる。

(エ) 別表5⑤及び⑥の各金額について

原告が提出した証拠資料によれば、⑤の金額については、同金額を丁(以下「丁」という。)がFから借り入れ、原告が連帯債務者となった事実は認められるものの(甲21)、同金額を乙に支払った事実は認められない。

また、⑥の金額については、原告が2700万円をFから借り入れ、同日、⑤の金額である1400万円をFに返済することによって、その差額の1300万円を借り入れた事実は認められるものの(甲22及び25)、同金額を乙に支払った事実は認められない。

したがって、原告が乙に支払ったと主張する別表5⑤及び⑥の各金額はその支払の事実さえ認められないのであるから、いずれも本件譲渡費用と認めることはできない。

(オ) 別表5⑦の金額について

原告は、この金額について、平成9年11月28日になされたAのFからの借入れ、平成11年6月25日になされた丁のFからの借入れ及び同年12月27日になされた原告のFからの借入れに対する支払利息を本件譲渡費用として認めるべきであると主張するもののようであるが、上記(ア)及び(エ)で述べたとおり、そもそも上記各借入れについては、本件譲渡との関連性が認められないのであるから、それに係る借入利息及び遅延損害金が本件譲渡のために直接要した費用に該当する余地はなく、本件譲渡費用と認めることはできない。

なお、原告が主張する別表5⑦の金額は、原告の提出した証拠からはその金額を算出することができない。

(カ) 別表5⑧、⑨及び⑫の各金額について

これらの各金額については、原告が提出した証拠資料によっても支払の事実が認められないから、いずれも本件譲渡費用と認めることはできない。

(キ) 別表5⑩の金額について

この金額については、原告が提出した証拠資料によっても支払の事実が認められない。なお、別表4⑨のとおり、原告は、平成12年5月29日、Gに対し、土地売却紹介料として、原告の主張額を上回る320万円を支払っており(甲57)、当該支払については、本件譲渡に関連して直接要した費用であると認められる。

(ク) 別表5⑪の金額について

この金額については、原告が提出した証拠資料によれば、支払の事実は認められるものの(甲52)、当該資料によっても、戊(以下「戊」という。)が乙名義の銀行口座に振込みを行った事実が認められるだけであって、本件譲渡との関連性は何ら明らかではないから、本件譲渡のために直接要した費用に該当するとは認められない。

ウ 結論

以上のとおり、原告が本件譲渡費用に該当すると主張する金額のうち、上記イで述べた金額は、いずれも本件譲渡費用には該当せず、本件譲渡費用の額は、別表4に記載された金額の合計額である2178万3000円であると認められる。

第3  当裁判所の判断

1  前提事実

基本的事実関係に加え、証拠(甲64、65、72ないし74、76ないし84、戊)及び弁論の全趣旨によれば、本件の経緯として概略、以下の事実が認められる。

(1)  乙へ農転手続等を依頼した経緯

原告は、平成9年10月ころ、本件土地3及び5について、A及びBに農振除外及び農転の手続等を行うよう依頼をした。

A及びBは、農転手続等には多額の経費がかかり裏金も必要である旨原告に述べたため、平成9年11月28日、高利貸しであるFから、Aを債務者、M(A代表取締役)、N(Mの父)及び原告を連帯債務者として、本件各土地に根抵当権を設定して、利息年40.004%で5500万円を借り入れた。上記借入金のうち3000万円についてはAが受け取り、残りの2000万円は原告が受け取った。

しかし、A及びBは、農転手続等を進展させることなく、AはFからの上記借入金を弁済することをしなかったため、結局上記借入金は原告が返済することとなった。そのような中で、原告は、平成11年1月又は2月ころ、乙に出会い、乙に、原告所有の農地の農転手続等を行うことを依頼した。

(2)  本件各土地に関する道路占有許可及び農転手続等の経緯

乙は、原告や戊に対し、本件各土地を高く売却するには、本件土地3及び5の農振除外及び農転の手続を行い、許可を得ることや排水管を設置すること等が必要であり、そのためには多額の経費が必要である旨述べていた。

そして、乙は、他の者に依頼するなどして排水路を設置するために本件各土地付近の道路占有の許可を取得し、原告は、本件各土地に関し行われた下水道工事代金として乙を通じてHに700万円(後に150万円を追加)を支払い、駐車場砂利工事代金としてIに260万円を支払った。

また、乙は農振除外の手続をGに依頼し、原告は乙を通じてGに合計160万円を支払った(後に320万円を追加して支払った。)。

その後、結果的に、原告は、本件土地3について農振除外の認可を受け、本件土地3及び5について農地法5条の許可を取得し、本件土地3及び5の地目を雑種地へと変更する地目変更登記を行った。

そして、平成12年1月18日、本件譲渡が行われ、同年6月22日には、本件土地1、2、6についても、地目を畑から雑種地へと変更する地目変更登記が行われた。なお、この間に、乙は、さらに経費が必要である旨を原告に述べたため、原告は、Fから平成11年6月25日に1400万円を借り増しし(名義上の債務者は丁)、同年12月27日、さらに1300万円を借り増しした(名義上の債務者は丁)。

(3)  本件譲渡後の金銭支出状況等

原告は、本件譲渡に関し、乙に合計800万円を支払った他、本件譲渡において仲介を行ったJに300万円を、Kに444万1500円をそれぞれ仲介手数料として支払った。

そして、原告は、平成12年3月27日、本件譲渡の代金としてDより振り出された2500万円の小切手を受けとり、乙名義の口座へ2500万円が入金されたが、その際に、乙は、原告に対し、さらに農転の手続の費用として必要であるとか支払のために金銭が必要である等述べたため、上記2500万円のうち少なくとも1300万円については乙が受領した。

さらに、乙は原告に対し礼金として1500万円を支払うよう要求したため、原告は、平成12年5月30日、乙の口座に1500万円を振り込んだ。

また、同日、乙は、原告に対し、税金申告のためと称して4000万円を預けるよう要求したため、原告は、4000万円の小切手を乙に渡し、乙は4000万円を受け取った。なお、原告は、後日、上記4000万円は所得税確定申告手続をすることを委任し納税を行う約束で預託したものであるとし、それらの契約の詐欺による取消し、又は履行遅滞による解除を主張して、上記4000万円の返還を求める訴訟をさいたま地方裁判所川越支部に提起したところ(同支部平成14年(ワ)第194号預り金返還請求事件)、同裁判所は、平成15年8月22日、4000万円を預託した契約の存在を認めた上で履行遅滞による解除がなされたとして原告の上記請求を認容する旨の判決をし、同判決は確定した。

原告及び戊は、原告が乙に対して支払った上記各支出の支払先、用途等について支出当時は一切把握していなかった。

(4)  原告の支出

原告が平成11年2月から平成12年6月ころまでに本件に関連して支出したと認められる金員は以下のとおりである(用途等の欄のうち空欄となっているものは用途が不明であるか又は用途に争いがあるものである。)。

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(1)  譲渡費用の意義

譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいい、譲渡所得に対する課税は、資産が譲渡によって所有者の手を離れるのを機会に、その所有期間中の増加益(キャピタルゲイン)を精算して課税するものであり、このような譲渡所得に対する課税の本質に鑑みると、所得税法33条3項に規定する「譲渡に要した費用」(譲渡費用)は、当該資産の譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用に限定され、具体的には、当該資産の登記費用、仲介手数料など譲渡に直接要する費用の他、資産の譲渡価額を増加するために要した費用等も含まれると解される。

そして、「譲渡に要した費用」に該当するか否かは、納税者の主観的な意図及び目的のみによって判断するのではなく、その費用が支出された具体的態様、費用及びその対価の性質・内容並びに納税者と支出の相手方との関係等諸般の事情から客観的・実質的にみてその費用が当該資産の譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用といえるかどうかを判断すべきである。

以下、別表5①ないし⑫の各支出が本件各土地の譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用に当たるかどうか検討する。

(2)  別表5①及び②(A及びBに対する支払)について

別表5①について、原告は、農転の経費として原告がFから借り入れた5500万円のうち3500万円をAに支払ったものであり、その費用は本件譲渡費用に該当すると主張するが、平成9年11月28日のFからの借入れは契約書から明らかであるようにAがFから5500万円を借り入れたものであると認められ、原告がFからの借入金の一部をAに支払ったとする前提を欠くものといわざるを得ない。

また、仮に、原告のいうように、契約書は名義上のもので実質的なFからの借入れの借主は原告であり、原告からAへ3500万円が支払われたと認められたとしても、結局、Aが農転手続等を何ら具体的に行うことはなかったのである(原告もA及びBが本件各土地の農転手続等について実際に関与していないことについては争っていない。)。そうすると、上記3500万円の費用は、本件各土地の譲渡価額の増加に寄与したともいえず、本件譲渡に直接必要な費用ということができないことは明らかである。

次に、別表5②のBに対する500万円の支払については、甲32によれば、その支払の事実は認められるものの、上記Aの場合と同様にBも農転手続等に実際に関与することはなかったのであり、上記Bに対する500万円の支払も、本件各土地の譲渡価額の増加に寄与したともいえず、本件譲渡に直接必要な費用ということができないことは明らかである。

(3)  別表5⑦(Fからの借入金に対する利息の支払)について

原告は、別表5⑦について、Fからの借入れに対して支払った利息の合計4390万2240円は、本件譲渡費用に当たると主張する。

しかし、Fからの借入れについては、そもそも、平成9年11月28日の借入れについては債務者がA、平成11年6月25日及び平成11年12月27日の借入れについては債務者が丁とされているものであるし、その借入金の用途が明らかではないか、一部についてその使途が推測できるとしてもその用途は譲渡費用として認定できないものばかりである。

したがって、上記Fからの借入れに対する利息の支払は、本件譲渡に直接かつ通常必要なものということはできない。

(4)  別表5③ないし⑥、⑧、⑨、⑪、⑫(乙に対する支払)について

原告は、乙に対し、農振除外や農転の手続の経費や報酬として別表5③ないし⑥、⑧、⑨、⑪、⑫の各費用を支出したとし、これらの費用は本件譲渡費用に該当すると主張する。

ア 別表5③、④について

たしかに、証拠(甲46、47、62、63)によれば、原告から乙に対する別表5③、④の支払の事実と、そのうち農転手続に関する経費としてGに100万円及び60万円の計160万円が渡ったことが認められる。しかし、乙に対して支払われた別表5③、④の金員のうちGに支払われた金員の残額である320万円の使途は不明であり、乙が他に経費として必要とした事情や実際に他に経費として費消した事実は本件証拠上窺うことはできない。

原告は、裏金等非合法の手段のために後記のような他多額の費用が費やされたとするが、具体的に誰にいくらどのような費用が費やされたのかは本件証拠上全くもって不明というほかない。

そうすると、本件譲渡費用に該当するものは別表4④及び⑤のみであり、他に乙に渡ったとされる上記320万円は本件譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用ということはできない。

イ 別表5⑤について

証拠(甲21、53ないし55、82、戊)によれば、原告は、平成11年6月25日Fから1400万円を借り増ししたが、この金員は実際には乙が受領し、乙は、そのころHに排水路費用として700万円(後にさらに150万円追加した支払った。)、Iに駐車場代として260万円を支払ったことが認められる。しかし、これらの排水路費用、駐車場費用は、農地法5条による普通の農地売買について、通常売主が直接負担する費用となるとは解しがたい(むしろ、それらは、特段の事由がない限り譲渡費用ではなく、取得費として譲渡所得の計算上控除される扱いとすることが相当である。なお、所得税基本通達33-7、38-10参照。)。

そして、上記以外に乙が何らかの具体的な経費を費やしたとする証拠はない。

そうすると、別表5⑤の支払を本件譲渡費用と扱うことはできない。

ウ 別表5⑧、⑪について

(ア) 原告は、平成12年3月27日に、Dから中間金として小切手で2500万円を受け取り、その中から2100万円を乙に交付したとする。しかし、上記事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも、甲51の1・2、68によれば、平成12年3月27日にDから2500万円の小切手が出され、それに戊と乙が裏判し、同日開設のP銀行練馬富士見台支店の「乙」名義普通預金口座に2500万円が預金されていることが認められる。

そして、乙は、甲74で、同日1200万円を原告に返し、実質1300万円をこれまでの立替え分として受領したにすぎない旨述べ、甲68によれば、乙の上記主張に沿う支払の記載があるから、少なくとも1300万円については、同日、乙は原告から受領していると認められる。

次に、別表5⑪についてみると、別表5⑪の1500万円については、最後に謝礼として乙が要求し、それに対し原告が支払ったものと認められる(甲82、戊)。そうすると、原告は、前後の事情からして別表5⑧のうちの1300万円、⑪の1500万円については、乙が農転手続等を行ったことに対する経費、報酬、謝礼の意図で支払ったと考えられる。

(イ) しかしながら、前述のように、譲渡費用に該当するか否かは、納税者の主観的な意図及び目的のみによって判断するのではなく、その費用が支出された具体的態様、費用及びその対価の性質・内容並びに納税者と支出の相手方との関係等諸般の事情から客観的・実質的にみてその費用が当該資産の譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用といえるかどうかを判断する必要がある。

そして、乙が本件各土地の農振除外、農転手続等に関連して行った具体的行為としては、農振除外の手続についてGに依頼したこと、排水路工事をHに、駐車場工事をIに行わせたこと、農振除外と農転許可のため一定の貢献をしたこと等が認められる。しかし、それ以上に特別の多額の経費を要する何らかの具体的な行為が行われたあるいは必要であったと窺わせるべき事情は本件証拠上認定し難いところ、原告は乙に対し本件譲渡に関し合計800万円の礼金を支払っているのであり(本件譲渡費用に該当。別表4⑥ないし⑧。)、乙に対する礼金として上記800万円に加えてさらに1300万円なり1500万円もの経費や報酬を相当とする乙の行為があったとは認め難い。そうすると、原告は乙に対し1300万円なり1500万円という高額の経費や謝礼を支払うまでの合理的理由がないばかりか、むしろ、これまでの認定事実及び弁論の全趣旨によれば、乙は、原告に対し、実際に費やした経費以上の多額の経費を費やした事実はないにもかかわらず、経費や支払のために多額の金銭が必要である旨複数回にわたって述べ、言葉巧みに原告から繰り返し金員を受け取っていたものと認められ、そのような乙の詐欺的手法によって原告は多額の経費が必要である又は多額の経費を費やしたと誤認し、乙に対し高額の金員を支払うことに了承してしまったにすぎないと推認し得る。

そうすると、原告の乙に対して支払われた1300万円や1500万円は本件譲渡に直接かつ通常必要な費用ということはできない。

エ また、別表5⑥、⑨、⑫については、本件全証拠によってもその支払の事実を認めることはできない。

仮に、上記金員が原告から乙に支払われたとしても、それがいかなる使途に用いられたのか本件証拠上明らかでなく、それらの金員に見合う乙の活動内容も明らかでない以上、本件譲渡との関連性は認められず、また、謝礼としてもみることができないことは前記ウで述べた別表5⑧、⑪の場合と同様であり、本件譲渡に直接かつ通常必要な費用ということはできない。

(5)  別表5⑩(Gに対する支払)について

原告からGに対する支払として平成12年5月29日に土地売却紹介料としてGに320万円支払ったことが認められ、その分は譲渡費用として認めるべきである(別表4⑨)。上記金額は原告主張の180万円を超えるものである。そうすると、別表5⑩の主張は結論として採用できない。

(6)  小括

以上のとおりであり、別表5①ないし⑫はいずれも本件譲渡費用に該当しない。

そうすると、本件譲渡費用に該当する費用は別表4に記載したとおりであり、被告川越税務署長がした原告の平成12年度所得税に係る被告川越税務署長の計算に違算はないというべきであり、その納付すべき額は本件更正処分の額を上回るものであるから本件更正処分は適法である。また、本件更正処分を前提として算定した無申告加算税に係る被告川越税務署長の計算にも違算はないというべきであり、その額は本件賦課決定処分の額と同額であるから本件賦課決定処分は適法である。

そして、原告の請求のうち被告関東信越国税局長に対し本件各滞納処分の取消しを求める部分については、本件課税処分の違法を前提とするものと解されるところ、租税確定手続の違法性は、租税徴収処分の違法性に承継されるものではなく、確定処分に存する瑕疵を理由として徴収処分の取消しを求めることはできないから、その前提を欠くものであり、また、上記のように本件課税処分にも違法はないからいずれにせよ本件各滞納処分の取消しを求める部分について理由はない。

3  結論

以上の次第であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 松村一成 裁判官 都築民枝は転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官 豊田建夫)

別紙

物件目録

1  所在 日高市

地番

地目 雑種地(平成12年6月22日地目変更前は畑)

地積 1018㎡

2  所在 日高市

地番

地目 雑種地(平成12年6月22日地目変更前は畑)

地積 1564㎡

3  所在 日高市

地番

地目 雑種地(平成11年11月8日地目変更前は畑)

地積 1515㎡

4  所在 日高市

地番

地目 宅地

地積 1849.48㎡

5  所在 日高市

地番

地目 雑種地(平成11年11月8日地目変更前は畑)

地積 1122㎡

6  所在 日高市

地番

地目 雑種地(平成12年6月22日地目変更前は畑)

地積 1494㎡

別表1

本件課税処分の経緯

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別表2

平成12年分の所得税の納付すべき税額等の計算

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別表3

平成12年分の分離課税の長期譲渡所得の金額

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別表4

本件譲渡費用の金額

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別表5

原告主張のうち、本件譲渡費用に該当しない金額

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別表6

本件督促処分の状況等

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別表7

滞納国税の明細

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別表8

本件各差押処分に係る差押債権

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別表9

本件譲渡費用該当性に関する主張等

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