さいたま地方裁判所 平成16年(行ウ)20号 判決 2004年9月29日
原告 甲
被告 所沢税務署長
大澤範義
同指定代理人 榮岳夫
内田明
櫻井保晴
石川利夫
柴野喜一郎
山畑正
柴田道
富井桂次
室井啓二郎
主文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の申立て
1 請求の趣旨
(1) 被告は、原告に対し推計による事実と異なる所得税更正を行った。したがって、処分を取り消せ。また、不当に徴収した69万5218円(延滞を含む)を即刻返還しろ。さらに、調査官Aによる不当な調査で体調を崩した慰謝料として20万円を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、原告が、被告が原告に対して平成15年2月14日付けでした平成11年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、平成12年分の所得税の更正処分並びに平成13年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件課税処分」という。)は違法な税務調査に基づくものであることや違法な推計課税に基づくものであること等を主張して、本件課税処分の取消し等を求めた事案である。
本件の争点は、本件訴えが国税通則法115条1項に定める不服申立前置主義に反するかどうかである。
2 基本的事実関係(当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 確定申告
原告は、平成11年分ないし13年分の所得税につき、各確定申告期限までに確定申告を行った(弁論の全趣旨)。
(2) 本件課税処分
被告は、原告に対し、平成15年2月14日付けで、平成11年分の所得税について別紙1のとおり、新たに納付すべき本税16万3800円とする更正処分及び加算税1万6000円とする過少申告加算税の賦課決定処分をし、平成12年分の所得税について別紙2のとおり、減少する本税9万5682円とする更正処分をし、平成13年分の所得税について別紙3のとおり、新たに納付すべき本税53万6700円とする更正処分及び加算税5万3000円とする過少申告加算税の賦課決定処分をした(甲5の1ないし3)。
(3) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、本件課税処分を不服として、平成15年3月15日、被告に対し、異議申立てを行い、平成15年6月11日、被告は、本件課税処分のうち平成12年分所得税の更正処分については却下をし、平成11年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに平成13年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分については棄却した。
イ 原告は、上記決定を不服として、平成15年6月19日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした(以下「本件審査請求」という。)が、平成16年2月13日、国税不服審判所長に対し、本件審査請求について、審議開始後3か月を経過していること、審議内容が不十分で、公平な審判を得られないと判断したこと、慰謝料請求の発生起因であり、同時に処理する方が合理的であること等を理由として「審査請求の取下書」を提出し、本件審査請求を取り下げた(乙1)。
ウ 原告は、平成16年5月4日、本件訴えを提起した。
3 当事者の主張
(1) 被告
ア 国税通則法115条1項は、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、同項各号所定の事由の一に該当しない限り、異議申立てをすることができる処分にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができないと規定している(不服申立前置主義)。
イ また、国税通則法110条1項は、不服申立人は、不服申立てについての決定又は裁決があるまでは、いつでも書面により当該不服申立てを取り下げることができると規定している。
この不服申立ての取下げは、不服申立人の行為により、始めから不服申立てがなかった状態に戻すことであり、不服申立期間経過後に不服申立てが取り下げられたときは、当該処分は、取下げにより確定することとなる。
ウ これを本件についてみると、原告は、平成15年6月23日に本件課税処分を不服として国税不服審判所長に審査請求したが、平成16年2月13日に当該審査請求を書面により取り下げたものである。
そうすると、本件課税処分に係る審査請求は、始めからなかったことになる上、原告がこの審査請求を取り下げた日には、本件課税処分については、既に不服申立期間(国税通則法77条)も経過していたのであるから、本件課税処分は、原告が審査請求を取り下げたことにより確定したものである。
したがって、本件訴えは、国税通則法115条1項所定の不服申立前置主義に反し、不適法である。
エ なお、原告が本件審査請求を取り下げた理由は、①審査開始後3か月を経過したこと、②審査の内容が不十分で、公平な審判を得られないと判断したこと、③慰謝料請求の発生起因であり、同時に処理する方が合理的であることの3点にあるとしており、国税通則法115条1項3号に定める「異議申立てについての決定又は裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要がある」とか、「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由がある」とか言えないことは明白である。
(2) 原告
ア 国税通則法115条によれば取消しを求める訴えは、異議申立て及び審査請求が必要と記載されているが、例外として3か月を経過していれば提訴することができるとされている。取り下げた場合には提訴できないとは定められていない。
イ また、原告は、国税不服審判所の裁決を経ることによって著しい損害を被ると判断して本件審査請求を取り下げたのであるから、国税通則法115条1項3号の「著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する。
ウ 原告が、国税不服審判所の者に対し、審査請求中に提訴可能かどうか尋ねたところ、取り下げないと裁決が出てしまい、取り下げた場合には過去に却下された事例もあると説明を受けたが、このままでは不利益な裁決が出てしまうと考え、仕方なく本件審査請求を取り下げた。取下げの必要がなく提訴できるなら、当然原告もそのようにしたはずである。
また、原告は、原告の有するいくつかの疑問(第三者同席による守秘義務違反問題、廃棄処分に関する経費問題、領収書のでない経費問題、免税業者に対する消費税の還付問題等)を裁判で明確に解決する必要があると考えた。
したがって、国税通則法115条1項3号の「正当な理由があるとき」に該当する。
エ 以上のとおりであり、訴訟提起できることは納税者として当然の権利である。
第3 当裁判所の判断
1 国税通則法115条1項は、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができないとして不服申立前置主義を規定している。
本件は、税務署長がした処分で異議申立てについての決定を経ているものであるから、国税通則法75条3項が定める「国税不服審判所長に対し審査請求をすることができる」場合に該当する。したがって、本件訴えが適法なものというためには審査請求についての裁決を経る必要がある。
しかしながら、原告は、国税不服審判所長に対して審査請求をなした後の平成16年2月13日に本件審査請求を書面によって取り下げているところ、審査請求の取下げは、その取下げの意思表示に何ら瑕疵がない場合は、当初より審査請求がなされなかった状態に帰するのであるから、原告が本件審査請求を取り下げたことにより、当初より本件審査請求がなされなかった状態に帰したものというべきであり、結局、審査請求を取り下げた後になされた本件訴えの提起は審査請求についての裁決を経ていないものといわざるを得ない。
2(1) 国税通則法115条1項3号は、異議申立てについての決定又は審査請求についての裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるときには不服申立てがされていなくとも提訴ができる旨規定している。
(2) まず、原告が本件審査請求を取り下げた理由は主に「審議開始後3か月を経過していること、審議内容が不十分で、公平な審判を得られないと判断したこと、慰謝料請求の発生起因であり、同時に処理する方が合理的であること」にあるとするが、公平な審判が得られずその裁決に不服があるのであればさらに訴訟を提起しその裁決の手続の違法性や内容の違法性を争うことができるのであって、裁決がなされたことによって原告に損害が生じるということは考えられず、その他本件全証拠によっても審査請求の裁決を経ることによって原告が損害を被ると認めるに足りる具体的事情はない。
したがって、国税通則法115条1項3号の「審査請求についての裁決を経ることによって生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当しないことは明らかである。
(3) また、不服申立前置主義の趣旨が、国税の賦課に関する処分が大量かつ回帰的なものであり、当初の処分が必ずしも十分な資料と調査に基づいてされ得ない場合があることに鑑み、まず、事案を熟知し、事実関係の究明に便利な地位にある原処分庁に対する不服手続によってこれに再審理の機会を与え、処分を受ける者に簡易かつ迅速な救済を受ける道を開き、その結果なお原処分に不服がある場合に審査裁決庁の裁決を受けさせることとし、一面において審査裁決庁の負担を軽減するとともに、他面において、納税者の権利救済につき特別の考慮を払う目的に出たものであり、租税行政の特殊性を考慮し、その合理的対策としてとられたというところにあると考えられる(最高裁昭和49年7月19日判決・民集28巻5号759頁参照)ことから、国税通則法115条1項3号にいう「正当な理由」とは、不服申立前置を徹底させることが煩雑であって著しく経済的合理性に反する場合や、不服申立前置を徹底させることが当事者にとって客観的に困難であるような場合等、上記不服申立前置主義を定めた法の趣旨に反しないような特段の事情が存在する場合を指すものと解される。
この点、原告は、「不利益な裁決が出てしまうと考え、仕方なく本件審査請求を取り下げた。」、「原告の有する幾つかの疑問(第三者同席による守秘義務違反問題、廃棄処分に関する経費問題、領収書のでない経費問題、免税業者に対する消費税の還付問題等)を裁判で明確に解決する必要があると考えた。」ことから本件審査請求を取り下げて本件訴えを提起した旨主張するが、これらの事情は原告の主観的な事情及び判断にすぎない。また、原告は「原告が、国税不服審判所の者に対し、審査請求中に提訴可能かどうか尋ねたところ、取り下げないと裁決が出てしまい、取り下げた場合には過去に却下された事例もあると説明を受けたが、このままでは不利益な裁決が出てしまうと考え、仕方なく本件審査請求を取り下げた。」と主張しており、このことは本件訴えが不適法なものとなるかもしれないことを原告が認識していながら本件審査請求を取り下げたという事実を原告が自認するものにほかならない。
以上の事情を考慮すれば、本件において、不服申立前置主義を定めた法の趣旨に反しない特段の事情があると認めることはできず、国税通則法115条1項3号の「正当な理由」があるとはいえない。
(4) したがって、審査請求についての裁決を経ることなく本件課税処分の取消しを求めた本件訴えは不適法というべきである。
3 なお、原告は請求の趣旨として、上述の本件課税処分の取消しを求めるほか、不当に徴収した国税69万5218円の返還を求め、また、慰謝料20万円の支払を求めているが、いずれも民事上の請求と解される。しかしながら、被告は課税処分等を行う行政庁であり、権利義務の主体ではなく、民事訴訟における当事者能力を有しないことは明らかであり、上記の被告に対する国税の返還を求める訴え及び慰謝料の支払を求める訴えは、当事者能力を有しない相手方を被告とするものであり、いずれも不適法なものである。
4 以上のとおりであり、本件訴えは不適法であるから却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 裁判官 松村一成)
(別紙1)
平成11年分
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(別紙2)
平成12年分
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(別紙3)
平成13年分
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