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さいたま地方裁判所 平成16年(行ウ)50号 判決 2006年2月22日

原告

同訴訟代理人弁護士

金子哲男

被告

所沢市固定資産評価審査委員会

同代表者委員長

同訴訟代理人弁護士

関口幸男

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  争点1(原告が主張し得る違法事由の範囲)について

(1)  地方税法は、昭和31年度及び昭和33年度並びに同年度以降3年ごとの年度を基準年度と定め(同法341条6号)、各基準年度についてのみ固定資産の価格の決定を行い、第2年度、第3年度においては、原則として、基準年度の価格を据え置くこととし、基準年度の登録価格をもって第2年度及び第3年度の登録価格とみなし、この価格を課税標準として課税する方式を採っている(同法349条、411条3項)。

もっとも、地方税法は、第2年度又は第3年度において新たに固定資産税を課することとなる土地又は家屋については、上記土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で固定資産課税台帳に登録した価格をもって課税標準とし(同法409条1項)、固定資産について地目の変換、家屋の改築又は損壊等の特別の事情が生じたため、基準年度の価格によることが不適当であるか又は固定資産の課税上著しく均衡を失すると市町村長が認める場合においては、当該固定資産に類似する固定資産の基準年度の価格に比準する価格をもって課税標準とすると規定する(同法349条2項ただし書)。また、平成16年度又は平成17年度において当該市町村の区域内の地域において地価の下落がみられ、前年度の課税標準の基礎となった価格を当該年度の課税標準とすることが課税上著しく均衡を失すると認める場合においては、平成16年度又は平成17年度の固定資産税に限り、総務大臣が定める基準(修正基準)によって修正した価格をもって課税標準とするとしている(同法附則17条の2第1項)(なお、この地方税法附則17条の2の特例措置は平成9年度税制改正において講じられ、平成10年度以降現在までこの措置が講じられている。)。

そして、固定資産税の納税者は、固定資産課税台帳に登録された価格等に不服がある場合、所定の期間内において、審査委員会に審査の申出をすることができる(地方税法432条1項)が、地方税法411条3項により固定資産課税台帳に登録されたものとみなされる第2年度又は第3年度の土地又は家屋の価格については、原則として審査の申出をすることができず、地方税法349条2項1号による地目の変換等の特別の事情により同条2項、3項、5項各ただし書の規定の適用を受けることを主張する場合に限り、審査の申出をなし得ることとされ(地方税法432条1項ただし書)、また、地方税法附則17条の2第1項に基づき修正基準により修正された価格については、当該年度に係る当該年度の前年度分の固定資産税の課税標準の基礎となった価格についての不服を審査の申出とすることができないとされている(地方税法附則17条の2第8項)。

(2)  このような地方税法の規定を通覧するに、地方税法は、基準年度の価格にっいてのみ固定資産の価格の決定を行い、第2年度及び第3年度については、原則として当該固定資産の価格が基準年度の価格と同一であるとみなして、基準年度における固定資産の価格を規準として課税する方式を採っていることから、原則として基準年度に行われる固定資産の価格についてのみ地方税法432条1項所定の期間内に限って不服の申出を認め、上記不服の申出がなく所定の期間を経過したときは、もはや固定資産課税台帳の登録内容を争い得ないものとして、課税行政の安定を図っているものと解される。

そして、地方税法附則17条の2第1項や地方税法349条2項ただし書の規定による修正が行われた場合においては、その修正部分については当該土地の固定資産課税台帳の登録価格算定における新たな事由であるから当然納税者はその事由について争うことができる(地方税法432条1項ただし書、同法附則17条の2第8項参照)が、一方で、地方税法432条1項所定の不服申出期間を経過し基準年度の登録価格につき既に争い得なくなっていた場合に、たまたま地方税法附則17条の2第1項や地方税法349条2項ただし書の規定による修正が行われたことにより、既に確定している固定資産課税台帳の登録内容のすべてを改めて争い得るものとすることは、他の納税者との間の公平を害することになり、固定資産課税台帳の登録内容を一定の期間の経過により確定させ、課税行政を安定させようとした上記法の趣旨に反するというべきである。

これを具体的にみると、仮に、基準年度において土地課税台帳に評価額1000万円と登録された土地について、第2年度、第3年度に1000万円のまま据え置かれて登録された場合には、当該土地の固定資産税納税者は第2年度、第3年度の登録価格について一切違法を主張して争うことはできない(地方税法432条1項ただし書)。にもかかわらず、地方税法附則17条の2第1項に基づき市町村長が下落状況に鑑みて一定の価格の修正をしたような場合(仮に、ここでは900万円と価格を修正したとする。)に、納税者がそもそも当該土地の適正な時価は800万円であるなどとして第2、第3年度の登録価格について基準年度における価格の算定方法等を含めてすべての事由について争えることとなると、これまでみたように、地方税法が、基準年度のみに限定して固定資産の評価額を決定することとし、第2年度、第3年度に独立して固定資産評価額を決定するシステムをもたず、基準年度の価格を据え置くか一定の価格の修正を施すことによって第2、第3年度の登録価格を定めることとしていることにそぐわない。

すなわち、固定資産の登録価格が適正な時価を超えるものであるかどうかは基準年度における評価額の決定の際に判断されるものであり、地方税法に定める一定の不服申出期間を経過して基準年度の評価額(上記例では1000万円)が適法なものと確定した後の第2年度、第3年度においても修正後の登録価格について基準年度における価格の算定方法等を含めてすべての事由についてこれを争うことができるとすると、市町村長は、第2年度、第3年度に独立して個々の不動産について時価を把握し評価額を決定するものとはせずに、課税行政の安定と便宜のため基準年度の価格を一定の簡易な方法によって修正することのみによって第2年度、第3年度の登録価格を決定することとした地方税法の本質的な制度趣旨と矛盾することにもなりかねない。

とすれば、地方税法附則17条の2第1項の規定による修正が行われた場合において、修正前の登録価格について争い得なくなっていたときは、修正後の価格に対する審査申出において審査申出人が主張し得るのは当該修正に係る事項に限定されるというべきである(大阪地裁平成15年4月25日判決・判例地方自治260号85頁、横浜地裁平成元年6月28日判決・行政事件裁判例集40巻7号835頁、同控訴審東京高裁平成2年2月27日判決・行政事件裁判例集41巻2号350頁参照)。

なお、最高裁平成15年6月26日判決(民集57巻6号723頁)は、基準年度である平成6年度の固定資産税賦課に係る事案であって、土地課税台帳等に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法である旨判示しているが、その前提として、「(地方税)法349条1項の文言からすれば、同項所定の固定資産税の課税標準である固定資産の価格である適正な時価が、基準年度に係る賦課期日におけるものを意味することは明らかであり・・・」としており、基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回る場合に違法となることを判示したものであることは明らかであって、第2年度、第3年度の賦課期日における土地の価格が同期日の当該土地の客観的な交換価値を上回る場合について違法となり、かつ、そのことを納税者が争い得ることまでを判示したものと解することはできない。そうすると上記最高裁の判示もこれまでの説示を何ら左右するものではない。

(3)  そして、本件は、原告が本件土地における修正基準による修正後の平成16年度の本件登録価格についての審査申出であるから、原告が本訴において主張し得るのは、地方税法附則17条の2第1項の規定に基づく平成16年度の時点修正に係る事項のみに限定され、上記事項以外の事項についての不服を主張することができないというべきである。

したがって、本訴において、原告は、本件土地の時点修正に係る違法事由についてのみ主張し得るのであり、本件土地の平成16年度の賦課期日における適正な時価(争点3)等、その余の事由に関する原告の主張は審理の対象とはならない。本件訴えにおいて、原告は、本件土地の本件登録価格算定に係る時点修正の違法性について争っておらず、その他本件土地の時点修正を違法とすべき理由はない。

2  争点2(本件決定に調査不十分等の違法があるか)について

原告は、被告が本件決定を行うに際し、適正な時価を算定するために鑑定等を依頼するべきであったのに、それをしなかったこと等が手続的に違法であるなどと主張しているが、前述のとおり、第2年度、第3年度において、固定資産評価審査の対象となるのは、平成16年度の時点修正に係る事項のみであることからすると、被告としてそれ以外の事情は取り上げる必要がなく、平成16年度の賦課期日の時価を算定するために被告が新たな鑑定を依頼しなかったこと等が手続的に違法となるものではない。

3  本件土地の適正な時価(争点3)についての補足的判断

(1)  以上のとおり、本件においては、時点修正以外の事項について検討する必要はなく、また、原告はこれを争っていないが、本件事案の性質と審理の経緯に鑑み、原告が問題とする平成16年度の賦課期日(平成16年1月1日)における本件土地の登録価格が客観的な交換価値を上回るものであるかどうかについて、当裁判所の見解を簡単に示すこととする。

(2)  先に述べたとおり、固定資産評価基準は、市街化区域農地については、当該市街化区域農地と状況が類似する宅地の価額を基準として求めた価額から造成費相当額を控除した価額によってその価額を求めるものとして、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については市街地宅地評価法によって各筆の宅地についての評点数を付設することとし、具体的には、<1>状況が類似する地域ごとに標準宅地を選定し、標準宅地について売買実例価額などから適正な時価を求め、<2>これに基づいて主要な街路に路線価を付設し、これに比準してその他の街路の路線価を付設し、<3>路線価を基礎とし画地計算法を適用して各筆の宅地の評点数を付設することとしている。

ところで、前記最高裁平成15年6月26日判決は、「評価基準に定める市街地宅地評価法は、標準宅地の適正な時価に基づいて所定の方式に従って各筆の宅地の評価をすべき旨を規定するところ、これにのっとって算定される当該宅地の価格が、賦課期日における客観的な交換価値を超えるものではないと推認することができるためには、標準宅地の適正な時価として評定された価格が、標準宅地の賦課期日における客観的な交換価値を上回っていないことが必要である。」と判示する。このことは標準宅地の評価は格別、それ以下の主要な街路の路線価の付設、これに比準したその他の街路の路線価の付設、画地計算法を適用した各筆の宅地の評価については評価基準にのっとってなされている限り、(それによったのでは当該宅地につき適切な評価ができないという特段の事情がある場合を除き)一般的な合理性があることを当然の前提としていると考えられる。そこで、以下、本件標準宅地の評定価格及び評価基準によったのでは本件土地につき適切な評価ができないという特段の事情につき、検討する。

(3)  本件標準宅地の評定価格は賦課期日における客観的交換価値を上回るものであるか

ア  本件鑑定は、平成14年1月1日現在の本件標準宅地の標準価格を20万2000円/m2としているが(〔証拠略〕)、このことは本件鑑定において取引事例による比準価格を中心に標準価格の考察がされていること、本件標準宅地よりも駅に遠く価格的に劣っているとみられる土地(所沢市―25)の平成13年7月現在の公示価格が20万4000円/m2であること(〔証拠略〕)等より、その評価の妥当性は十分肯認し得る。

イ  そして、被告は、本件標準宅地について7割評価を行い、その平成14年1月1日当時の価格を14万1000円/m2とし、これに時点修正率として、

平成14年1月1日から平成14年7月1日 0.986

平成14年7月1日から平成15年7月1日 0.950

を用いているから、本件標準宅地の平成16年度賦課期日(平成16年1月1日)における価格を13万2074円/m2と評価していると推察される。

ウ  以上によれば、平成16年度の賦課期日(平成16年1月1日)における本件標準宅地の評定価格は同宅地の客観的な交換価値を上回るものではないと認められる。

(4)  評価基準によったのでは本件土地につき適切な評価ができないという特段の事情について

ア  本件土地に沿接する街路の状況に係る評価について

原告は、本件土地に沿接する道路の幅員が1.8mと狭いこと等が本件土地の評価において十分に考慮されていない旨主張する。

〔証拠略〕等によれば、本件標準宅地に係る道路の幅員は、4.0mであり、舗装されており、一方通行であること等が認められる。他方、本件土地に係る道路の幅員は現況で約1.8mであり、舗装されておらず、行き止まりであること等が認められる。そして、所沢市の格差率資料(〔証拠略〕)によれば、本件標準宅地に係る道路評価を1とした場合、本件土地に係る道路は、0.9265と評定されていることが認められる。

そうすると、本件土地に沿接する道路の状況については、その幅員等も含めて、所沢市の格差率資料により、本件土地の評価において相応の考慮がされていることが窺える。

イ  本件土地の地積が約1000m2であり、生産緑地に囲まれていることの評価について

原告は、本件土地の地積が約1000m2であり、生産緑地に囲まれていることが本件土地の評価において十分に考慮されていない旨主張する。

〔証拠略〕等によれば、本件土地は、地積が約1000m2であり、生産緑地に囲まれていることが認められる。しかしながら、本件土地については、前述のとおり、0.96の奥行補正がなされており、それ以上に面積が1000m2であることをもって奥行補正以外の減額補正をしていないことが直ちに不合理ということはできない。また、生産緑地に囲まれている点についても、生産緑地は解除申請が可能であり、本件土地が普通住宅地区に位置することからすると、上記事実を本件土地の評価において考慮していないことをもって直ちに不合理ともいえない。

ウ  そうすると、本件土地の評価は、評価基準に定める所定の方式にのっとって行われており、それによったのでは適切な評価ができないという特段の事情がある場合とは認められない。

(5)  評価基準による評価(まとめ)

以上によれば、平成16年度賦課期日(平成16年1月1日)における本件標準宅地の評定価格は、同宅地の客観的な交換価値を上回るものでないこと、また、評価基準によったのでは、本件土地の適切な評価ができないという特段の事情はないものと認められるから、所沢市の平成16年度賦課期日における本件土地の固定資産登録価格は、同日における同土地の客観的な交換価値を超えるものではないと推認すべきである。

(6)  被告提出のB鑑定における本件土地の評価について

被告は、本件土地の価格が賦課期日における客観的な交換価値を超えるものではないとの主張を補強するため、本件土地の平成16年1月1日当時の時価を12万5000円/m2と評価するB鑑定を提出している。

ア  B鑑定の鑑定評価の方式と結果

(ア) 地域・個別分析及び最有効使用

B鑑定は、近隣土地の特性、標準的使用、本件土地の個別的要因等を考慮し、本件土地については、造成後、低層戸建住宅用地として使用することが最も有効であると判定した。

(イ) 取引事例比較法

B鑑定は、本件土地の近隣に位置する取引に係り、さらに、駅からの距離等において類似する土地の取引事例として、AからDの4つの事例を採用し、これらの取引事例に対し、時点修正、標準化補正等を行い、それぞれの取引事例の中庸値をもって、150m2の標準的画地の比準価格を21万2000円/m2と算定した。

(ウ) 収益還元法

B鑑定は、150m2の標準的画地上に最有効使用の建物を建築することを想定し、当該建物を賃貸に供することにより得られるであろう総収益のうち、土地に帰属する純収益を還元利回りで資本還元して、標準的画地の収益価格を14万3000円/m2と査定した。

(エ) 公示価格等との規準

B鑑定は、地価公示地(所沢―26)、地価調査値(所沢―3)との規(比)準により、標準的画地の規準価格を、規準価格A(所沢―26)について、19万1000円/m2、規準価格B(所沢―3)について、18万6000円/m2と査定した。

(オ) 試算価格の調整及び鑑定評価額の決定

B鑑定は、以上の各試算結果を踏まえ、比準価格と収益価格を関連付け、さらに近隣地域及びその収益地域の不動産市場の動向、地価公示価格との均衡、単価と総額との関係にも留意の上、標準的画地の価格を19万1000円/m2と査定した。

B鑑定は、以上の標準的画地価格に対し、本件土地に係る個別格差率(65.4%)を乗じ、本件土地の鑑定評価額を12万5000円/m2としている。

イ  以上によれば、B鑑定は、一般的な手法により本件土地の評価を行っていることが認められ、その評価結果の合理性は、十分肯認することができる。

ウ  ところで、原告は、B鑑定には種々の問題点があると主張するので検討する。

まず、B鑑定が本件土地1011m2のうち、総額については100m2部分の評価のみを求めている点であるが、これは、鑑定報酬を低く抑えるため鑑定士が協力したもので、そのこと自体は、B鑑定の合理性を否定する論拠とはならない。

また、原告は、B鑑定が本件土地の評価を行うに当たり、個別的要因を考慮していないと主張する。しかしながら、B鑑定においても、標準的画地価格から本件土地の価格を算定するに当たり、65.4%の個別格差率を乗じている。そして、この格差率の内訳をみても、街路条件90%、画地77.2%等、原告の主張する本件土地の評価を下げる要因についての評価は織り込まれているものと考えるのが相当である。そして、後記C鑑定においても本件土地と標準画地との個別格差考慮に当たり開発適格性をマイナス30%としていて(〔証拠略〕)、B鑑定と大きな差異はないこと等に照らすと、B鑑定の補正率が格別不合理なものとは考えられない。

エ  以上のとおり、B鑑定の評価結果の合理性は、これを肯認することができるところ、B鑑定は本件土地の時価を1億2637万5000円と評価しており、B鑑定は、平成16年度賦課期日における本件土地の価格が1億1524万円を下回るものではないことを裏付けるものというべきである。

(7)  原告提出のC鑑定における本件土地の評価について

原告提出のC鑑定は、本件土地の平成16年1月1日当時の時価を約4万9500円/m2としているので、その評価の当否を検討する。

ア  C鑑定の鑑定評価の方式と結果

(ア) 取引事例比較法

C鑑定は、本件土地の地積が1011m2であることから、規模が大きめ(158m2から1494m2)の土地に係る取引で不動産業者が買主となった事例として1から5までの5つのものを採用し、これらの取引事例に対し、時点修正、標準化補正、地域要因の比較等を行い、1000m2の標準的画地の比準価格を11万1000円/m2と算定した。そして、本件土地は、開発適格性等が標準画地と比較して劣るとして、この比準価格に56.5%の格差率を乗じ、本件土地の比準価格を6万2700円/m2と算定した。

(イ) 収益還元法

C鑑定は、本件土地に係る地域的特性及び公法規制並びに本件土地の位置・規模・形状又は接近性・環境等の個別要因を総合的に検討し、本件土地の最有効使用を、一部を畑として残し、一部を数区画の低層住宅用地として開発することと判定し、本件土地の約半分を畑として残し、残部を共同往宅として賃貸する前提で、本件士地全体の収益価格を3万0600円/m2と査定した。

(ウ) 開発法

C鑑定は、本件土地につき、分割利用(宅地分譲)することを前提に、500m2未満の土地を宅地化し、残地部分を別の者に後日売却する想定で、本件土地の開発価格を4万9500円/m2と算定した。

(エ) 公示価格等との規準

C鑑定は、公示地(所沢―26)の価格から、標準価格査定表により求めた公示地からの価格10万8000円/m2に、本件土地の標準化補正率、個別格差率を乗じて、公示価格を規準とした価格を6万1000円/m2と査定した。

(オ) 試算価格の調整及び鑑定評価額の決定

C鑑定は、本件土地に関して想定できる需要者は開発業者であるから開発法による評価を重視すべきとし、比準価格及び収益価格は参考にとどめ、本件不動産の評価を5000万円(約4万9500円/m2)と決定した。

イ  上記C鑑定について検討するに、まず、C鑑定の取引事例比較法においては、標準的画地を、幅員約1.8mの未舗装市道に面する、間口約29m、奥行約32m、地積1000m2程度の中間画地と、本件土地と同様のものと条件付けしている(甲8)。そうすると、11万1000円/m2という標準的画地の比準価格は本件土地の評価額とほぼ同様と捉えることができ、これに重ねて多大な個別格差率を乗じるのが合理的か疑問である。なお、C鑑定における取引事例比較法による評価は、格差率を乗じないとした場合、11万1000円/m2ということになり、本件土地の平成16年度の評価額である11万3990円/m2との差は僅かであるということができる。

次に、C鑑定の収益価格について検討するに、本件土地は、所沢駅より直線距離約530m、道路距離約950mに位置すること、近隣地域の標準的使用が低層住宅用地であること、本件土地を分割して分譲すれば一体開発が可能であることが認められる。そうすると、本件土地の地積が約1000m2であることを考慮しても、本件土地の最有効使用について、本件土地の約半分を畑として残すとすることについては十分な根拠があるとは認めがたい。そして、C鑑定の収益価格は、本件土地の約半分を畑として残すという前提で算定されているところ、その結果の合理性には疑問が残る。

また、C鑑定の開発法による評価は、本件土地を分割し、本件土地の残地部分の価格を5万9600円/m2と評価するが、前述のとおり、本件土地のうち500m2未満の部分のみ宅地化し、その余の部分は引き続き畑として残すというその評価手法に十分な根拠があるとは認めがたい。また、開発の対象となる分譲宅地の単価を算定するにあたり、他の取引事例との地域要因比較において、他の取引事例の街路条件を+15から+17、環境条件(居住環境及び駐車場設置の可否等)を+28から+35としていることは相当性に疑問があり、本件土地を分譲した場合の宅地価格を必要以上に低く見積もるものと考えられ、上記鑑定の合理性は疑問である。

以上を総合すると、本件土地に沿接する道路の幅員が狭く、本件土地の地積が約1000m2と広く、開発ないし取引が制限されるとの原告の主張を考慮したとしても、C鑑定の鑑定評価結果をそのまま採用することはできない。

4  結論

以上の次第であり、結局原告の請求は理由がないと認められる。

したがって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 櫻井進)

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