さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)1318号 判決 2006年9月27日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,600万円及びこれに対する平成17年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告及び被告がともにA党に所属する埼玉県議会議員であるところ,同県議会議員団会議の席上で,被告が,「原告が怪文書を出した。」旨の発言をしたことが名誉毀損にあたると主張して,原告が,被告に対し,不法行為に基づき慰謝料500万円及び弁護士費用100万円の合計600万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年7月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原告の主張に対し,被告は,①そもそも被告の発言が名誉毀損を構成する程度の内容のものではない等と主張した上,②仮に,被告の発言が名誉毀損を構成したとしても,正当な職務行為として違法性が阻却される旨の抗弁,及び,③被告において,原告が後記本件怪文書に関与したことを真実と信ずることにつき相当な理由があったとして,責任が阻却される旨の抗弁を主張した。
1 争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)ア 原告及び被告は,ともにA党に所属する埼玉県議会議員である。
イ 原告は,昭和14年4月30日に出生し,8期に亘って同議会議員を務めている(甲10,原告本人)。
ウ 被告は,昭和2年5月17日に出生し,7期に亘って同議会議員を務めている(甲10,被告本人)。
(2)ア 埼玉県議会A党議員団(以下「本件議員団」という。)は,A党所属県議会議員をもって構成され,埼玉県議会の民主的な運営を基本に,埼玉県政発展のために必要な施策の実現を期するとともに,団員相互の資質の向上と親睦を図ることを目的とする団体である(乙1)。
イ 本件議員団には,団会議外4つの機関,及び,団長(1名)外6つの役員が設置されている。団会議は,全団員をもって構成され,本件議員団の最高意思決定機関として,諸課題につき審議決定する機関であり,原則として毎月1回開催される。しかしながら,地方自治法等の何らかの法令上にその存在根拠が規定されている団体ではない(乙1,原告本人)。
(3) 被告は,平成5年3月9日,本件議員団の団会議において,原告に対し,名誉毀損的発言を行った。原告は,当該発言につき,損害賠償請求事件を提起するとともに,刑事告訴をしたものの,被告が,同年5月21日,本件議員団の団長宛に,「今後同様のことを二度と起こさないよう配慮する。」旨の誓約書を提出し,また,同年10月1日,原告に対し,「軽率な言動をしたことにつき遺憾の意を表明する。」旨の書面を提出したため,原告は上記損害賠償請求事件及び刑事告訴を取り下げた(以下,平成5年における上記一連の出来事を総称して「平成5年名誉毀損事件」という。)(甲3,4,10,原告本人,被告本人,弁論の全趣旨)。
(4) 怪文書とは,「いかがわしい文書。無責任で中傷的・暴露的な出所不明の文書または手紙。」のことを指すところ,本件において,当事者双方が,怪文書として主張するのは,甲第2号証として提出された,「Y県議(被告),執行部脅し,倒産寸前のY建設に県工事落札させる!!-技術者ゼロ,10人以上と虚偽報告-」と題された作成名義人及び差出人不明の文書(以下「本件怪文書」という。別紙「本件怪文書」と題された書面参照。)であり,平成17年4月末ころ,被告の地元及びその近辺の市町村長等に送りつけられた(被告本人,弁論の全趣旨)。
(5) 平成17年6月14日午前10時から,さいたま市浦和区高砂3丁目15番1号所在の埼玉県議会3階にあるA党第2控室(以下「本件会議室」という。)において,本件議員団の団会議が開催された(以下,当該団会議については「本件団会議」という。)。本件団会議の次第は,開会の後,B団長の挨拶があり,協議事項(①議会における夏季の服装について,②請願について,③夏期研修会について,④その他)について検討し,その後閉会することとなっていた(甲6,乙3,弁論の全趣旨)。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 被告の発言内容及び当該発言が名誉毀損に該当するか。
(原告の主張)
ア(ア) 被告は,平成17年6月14日,本件団会議において,B団長に対し,発言の機会を求めた上,原告を含む60余名の団員の面前で,「C先生とX先生(原告)の二人が怪文書を出した。」旨を述べた。本件会議室において,原告と被告の席は隣り合っており,原告は,被告の上記発言を至近距離で明瞭に聞いた。
(イ) 原告は,B団長に発言を求め,その許可を受けて,「どういう根拠でそのようなことを言うのか,根拠を示して欲しい。」と述べた。
それに対し,被告は,「いや,ちゃんと3人の弁護士に頼んで告訴してんだから。」とだけ述べて,原告の問いかけに答えなかった。
そこで,原告は,本件議員団の団員らに対し,「皆さん,今のYさんの発言を聞きましたね。確認して下さい。」と述べ,複数の団員らが「聞いた。」と返答するのを受けて,本件会議室を退出し,電話にて原告訴訟代理人弁護士らに,上記経過を報告した。
イ 本件怪文書に原告が関与したと指摘されることが,原告の客観的な社会的評価を低下させること,あるいは,少なくとも低下させる危険性を生じせしめるものであることは明白である。
(被告の主張)
ア(ア) 原告の主張ア(ア)のうち,被告が「C先生とX先生の二人が怪文書を出した」と発言したことは否認し,その余は認。める。
(イ) 同ア(イ)は否認する。
(ウ) 被告は,「X議員が怪文書に関与したことについて」と述べたに過ぎず,その発言の直後に,原告が,「いつ俺が関係した。」,「証拠を見せろ。」等述べて議場が騒然となり,被告がそれ以上発言を続行することが困難な状況になったため,被告は原告の関与の態様等について一切発言をしていない。
(エ) C先生は,本件議員団の団員ではなく,本件団会議の場で同人の名前を挙げても意味がないことから,被告が「C先生」と発言するはずがない。
また,被告は,原告が本件怪文書を出したとは思っていなかったのであるから,「出した。」と発言するはずもない。
イ 同イは争う。
被告の発言内容は,本件怪文書の具体的内容に触れたものではなく,具体的内容に乏しい不完全かつ断片的なものであって,原告の客観的な社会的評価を低下させるようなものではない。
(原告の反論)
被告は,「『C先生』と発言するはずがない。」旨を主張するが(被告の主張ア(エ)),被告作成の本件団会議における発言要旨(甲1)において,「C県議の自民党入団前の問題について」と題して,本件怪文書にC県議が関与した旨の記載をしていることからして,被告が「C先生」と本件団会議において発言したことは明らかである。
(2) 被告の発言につき,正当な職務行為として違法性が阻却されるか(抗弁)。
(被告の主張)
ア 目的の正当性
埼玉県議会においては,議員らを誹謗中傷する作成名義人及び差出人不明の文書が横行しているところ,被告は,これらの文書により,各議員らの名誉信用が著しく毀損され,埼玉県議会及び本件議員団の団会議における各議員の自由な発言及び討論が阻害されている現状を危惧し,そのような卑劣な手段による言論の封じ込みを止めさせ,自由な発言及び討論の場を確保する目的,及び,事の真相を解明する目的のもとに,本件団会議において,被告が主張する発言をしたものである。
イ 手段,方法の正当性
(ア) 被告は,本件団会議継続中に,団長の許可を得た上で発言をなしたものである。
(イ) 本件団会議継続中であるから,被告の発言後,原告においても対等に発言及び反論をする機会が与えられていた。
ウ 以上から,被告の発言は,政治活動の一環として許された正当な職務行為として違法性が阻却される。
(原告の主張)
ア 被告の主張アは否認する。
(ア) 「本件怪文書の内容は,全く事実と異なる。」と反論することは可能なのであるから,本件怪文書の存在により,そもそも自由な発言及び討論が封じ込められるものではない。仮に,被告において,自由な発言及び討論の場を確保する目的があったのであれば,被告は,まず,「被告を誹謗中傷する本件怪文書の内容は事実に反する。」旨を発言すべきであって,「原告等が本件怪文書を出した(本件怪文書に関与した)。」旨を発言すべきではない。
(イ) 仮に,被告において,事の真相を解明する目的があったのであれば,被告は,「被告を誹謗中傷する本件怪文書を出したのは誰ですか?」との問題提起をすれば済むところ,被告は,その発言の冒頭から原告を名指しで本件怪文書の差出人として断定していたものである。
イ(ア) 同イ(ア)の事実は認めるが,当該手段及び方法が正当であることは争う。
被告は,B団長の許可を得て,本件団会議の出席者ら多数の者に認識される状況を敢えて作出した上で原告の名誉を毀損する発言を行ったのであり,当該行為は,原告の精神的苦痛の程度を一層増幅させるものである。
(イ) 同イ(イ)のうち,本件団会議が継続中であったことは認めるが,その余は争う。
一度毀損された名誉を回復することは困難であり,反論の機会がある限り既に成立した名誉毀損の違法性が阻却されるものではない。
(ウ) また,発言が違法か適法かは,その内容自体によって判断すべきものであり,被告が主張するように,発言の際の方法,手段等の手続の正当性によって違法性が阻却されるものではない。
ウ 同ウは争う。
(ア) 本件議員団は,任意の団体であり,そこにおける発言は,何ら埼玉県議会議員の職務行為に該当しない。従って,本件団会議の場における発言が正当な職務行為として違法性が阻却されることもない。
(イ) 仮に職務行為に該当したとしても,地方議会議員の職務行為については,国会議員における憲法51条のような免責特権が存在しないのであるから,違法性は阻却されない。
(3) 被告において,原告が本件怪文書に関与したことを真実と信ずることにつき相当な理由があったか(相当性の抗弁)。
(被告の主張)
ア 被告の発言は,上記(2)において主張したとおり,公共の利害に関する事実にかかり,かつ,もっぱら公益を図る目的でなされたものである。
イ(ア) 被告は,平成17年4月末ころ,さいたま市浦和区所在の喫茶店で,埼玉県議会議員の経歴や行動,性格等を熟知しているEと面会し,本件怪文書に関与した人物に関する情報提供を求めたところ,Eから,「X県議が関与しているという話を聞いている。」旨を告げられた。
(イ) もともと原告と被告は,平成14年の埼玉県議員選挙の選挙区改定までは同一選挙区で立候補していたものであり,現在も本件議員団内で相対立するグループに属している。
(ウ) 原告は,被告の地元であるa村及びb町と関係が深く,被告の個人情報を含む地域的な政治経済情報等の内情を熟知しうる立場にある。
ウ 以上からすると,被告において,原告が本件怪文書に関与したことを真実と信ずることにつき相当な理由があり,被告の責任が阻却される。
(原告の主張)
ア 被告の主張アは否認する。
イ(ア) 同イ(ア)は不知。
なお,Eは,いわゆる右翼団体活動を行っている人物であり,近時,浦和駅前で毎週のように街頭演説を行っている。
(イ) 同イ(イ)は認める。
なお,平成14年の埼玉県議選にあたっては,被告から原告に対し,選挙区を分割して欲しい旨の申し出があり,原告がこれに答える形で選挙区の変更があった。
(ウ) 同イ(ウ)のうち,原告が被告の地元であるa村及びb町と関係があることは認めるが,その余は否認する。
ウ 同ウは争う。
(4) 損害額
(原告の主張)
ア 原告は,8期30年以上に亘り埼玉県議会議員を務めており,地方自治功労者表彰及び藍綬褒章等を受けたところ,被告の名誉毀損行為により,原告は,県議会議員としての現在の就業環境及び次期選挙に立候補する場合等の政治活動はもとより,政治活動以外の社会生活や家庭生活についても影響受け,著しい精神的苦痛を受けた。かかる原告の精神的苦痛を慰謝するために必要な賠償額は500万円を下らない。
イ 被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,少なくとも100万円を下らない。
(被告の主張)
ア 原告の主張アのうち,原告が8期30年以上に亘り埼玉県議会議員を務めており,地方自治功労者表彰及び藍綬褒章等を受けたことは認めるが,その余は否認する。
イ 同イは否認する。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(被告の発言内容及び当該発言が名誉毀損に該当するか)について
(1) cのほか,証拠(甲1,6,7,9,10,乙3,5,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア(ア) 原告と被告は,もともと平成14年の埼玉県議会選挙の選挙区改定までは同一選挙区(当時のb町,c市,d町,e町,f町を含む地域)において立候補しており,その後同改定の際に,原告はc市を含む選挙区である東3区から立候補することとなり,被告は,b町,d町,e町,f町を含む選挙区である東4区から立候補することとなった。
(イ) また,原告と被告は,同じ党に所属するとはいえ,実質的に異なる派閥にそれぞれ所属しているものである。
イ(ア) 埼玉県議会の議員がタイのバンコクへ海外行政視察に行ったところ,後日,テレビ報道で「夜遊び県議」と批判された。F埼玉県議会議員らは,当該海外視察へ行った者達を厳罰に処するべきであると主張したところ,本件怪文書が出回った時期の半年くらい前に,同議員らを誹謗中傷する作成名義人及び差出人不明の文書が埼玉県庁の幹部職員等宛に出回ったことがあった。
(イ) 被告は,かつて贈収賄事件に関与して実刑判決を受けた元県議会議員を本件議員団に入団させることに率先して反対していた。そうしたところ,上記争いのない事実等(4)のとおり,平成17年4月末ころに,本件怪文書が,被告の地元及びその近辺の市町村長等に送りつけられた。被告は,本件怪文書を,自身が参加したグランドゴルフ大会において配布された際に入手した。
(ウ) 本件怪文書は,同じころ,埼玉県議会の議員らにも,郵便で送りつけられていた。
ウ(ア) 同時期ころ,被告は,さいたま市浦和区所在の喫茶店において,Dという名称の政治団体の社主であり,浦和駅前等で街頭演説を行う等の活動をしているEと面会した。
(イ) Eは,本件怪文書の内容自体が詳細に被告の身近な情報等に言及するものであることを根拠として,被告とかつて選挙区が同じであり,詳細に被告の身近な情報等を知りうる立場にある原告が,本件怪文書の作成に関与したものである旨を述べた。その際,Eから,被告に対し,原告が本件怪文書を作成したことあるいは作成等に関与したことについての物的な証拠は何ら示されず,また,原告が本件怪文書の作成等に具体的にどのように関与したかについての説明もなかった。
エ(ア) 被告は,本件団会議に臨むにあたり,「1.団長の姿勢について」の書き出しで始まる書面(甲第1号証のうち被告が手書きで作成した箇所を除いた部分。以下「本件発言草稿」という。)を予め作成した。
(イ) 本件発言草稿の第5項には,「X県議が私を誹謗中傷した怪文書に大きく関与したことについて。」という表題が付され,その後,「私をおとしいれる怪文書をなぜ出さなければならない理由がわかりません。」といった旨が記載されている。
(ウ) 本件発言草稿は,平成17年6月16日,その1頁目に,被告自身により,「(6月)14日の(本件)団会議の発言要旨」である旨のB団長宛の手書きの文章が加筆された上で,同人に渡された。
オ(ア) 本件団会議は,54名の埼玉県議会議員が参加していたほかに,本件議員団が業務を委託している事務職員等が傍聴する状況で,開会し,まず,B団長の挨拶から始まり,次に,①議会における夏季の服装,②請願,③夏期研修会といった協議事項につき,検討が行われた。
(イ) その後,通常の議事が終了する前に,被告は,B団長に対し,発言の機会を求めた上で,原告と向かい合い,1メートル程度の距離しかない自席において,本件発言草稿を手に持って,埼玉県議会議員の海外行政視察等に関する発言をした後,「X先生が怪文書を出した。」旨の発言をした。
(ウ) これに対し,原告が,即座にその根拠を示すように求めたので,被告は,本件団会議における発言を中止した上,「あなたが唯一の証拠だ。」,「3人の弁護士に依頼して告訴の手続を採っている。」旨を述べた。
(エ) 原告は,本件会議室を中座して,平成5年名誉毀損事件の際に委任をした本件の原告訴訟代理人でもあるF弁護士に電話をして,上記一連の流れにつき報告をした。
(オ) 原告が電話を終えて本件会議室へ戻った後,本件団会議は閉会となった。
(2) 被告は,本人尋問において,「原告が本件怪文書を出した。」という旨の発言はしておらず,あくまで「原告が本件怪文書に関与した。」という旨の発言しかしていないのであり,被告自身,「原告が本件怪文書を出したとは思っておらず,その下書きを作成したという限度で関与したと認識していた。」と供述する。
しかしながら,被告が本件で問題となっている発言をした際に手に持っていた発言要旨であり,その発言の前に作成されていた本件発言草稿の第5項には,上記認定のとおり,その表題こそ「X県議が私を誹謗中傷した怪文書に大きく関与したことについて。」と記載されているものの,その後の中身の部分において,「私をおとしいれる怪文書をなぜ出さなければならない理由がわかりません。」という記載がなされており,当該記載は,原告自身が本件怪文書を出したというものであるから,被告本人尋問における,原告が本件怪文書を出したとは思っていないとの被告の上記認識は,本件発言草稿の記載と矛盾しているといわざるを得ない。
他方,原告が,被告の発言を上記認定のとおりの至近距離で聞いており,また,被告の発言があった後即座にその経過を電話で関根弁護士に報告していること等から,被告の発言内容に関する原告の供述に一定の信用性が認められることに照らせば,被告の上記供述を採用することはできない。
(3) 名誉とは,人がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉を指すものであって,名誉毀損とは,この客観的な社会的評価を低下させる行為のことをいうと解すべきところ,上記認定事実によれば,被告が,原告に対し,本件団会議において,「X先生が怪文書を出した。」と発言したものであり,また,当該発言当時において,既に本件怪文書が本件議員団の構成員等に郵送されていたことから,原告及びその他の本件議員団の構成員において,被告のいう「怪文書」が本件怪文書のことを意味することを容易に推測しえたことは否定できない。
しかしながら,上記(1)に認定の事実に基づいて判断すると,被告の発言は,「X先生が怪文書を出した。」というものに留まっており,当該怪文書の内容や提出方法等の原告の関与態様等につき何ら具体的に言及するものではなかったことに加え,当該発言がなされたのが,埼玉県議会内の同一会派に所属する議員で構成する本件議員団の内部的な会議の議事の途中であり,その場には本件議員団の構成員以外には,本件議員団が業務を委託している事務職員等の内部関係者しかいなかったものであって,このような場において,被告が具体的な根拠を示さずに「X先生が怪文書を出した。」という発言をしたとしても,それを聞いた者が直ちに,本件怪文書の作成に原告が関与したと信ずる可能性は薄く,また,それを聞いた者が,被告の発言内容をそのまま外部に伝播させる可能性も薄いというべきである。
従って,被告の「X先生が怪文書を出した。」という発言は,それだけでは,原告の客観的な社会的評価を低下させ,あるいは,原告の社会的評価が低下させられる危険性を生じさせるとまで認めることはできず,他に当該判断を覆すに足りる証拠はない。
2 結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田眞 裁判官 中山幾次郎 裁判官 上田真史)