さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)1645号 判決 2006年7月19日
主文
1 被告らは,原告Aに対し,連帯して51万4400円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告Bに対し,連帯して56万9400円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,原告Cに対し,連帯して56万9400円及びこれに対する平成17年2月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは,原告Dに対し,連帯して38万2400円及びこれに対する平成17年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は,被告らの負担とする。
7 この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,61万8400円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,連帯して,原告Bに対し,61万8400円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,連帯して,原告Cに対し,61万8400円及びこれに対する平成17年2月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは,連帯して,原告Dに対し,44万8400円及びこれに対する平成17年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,いずれも被告らの負担とする。
6 第1ないし第4項につき仮執行宣言
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,被告株式会社EarthWalker(以下「被告会社」という。)が真実は通信販売事業により利益を上げるわけではなく,新規に加入するオーナー契約金が主要な収入である,違法な連鎖販売取引の勧誘を業として行っていたが,被告会社の同取引の勧誘員である被告Eが原告らに対し,正当な取引であり,かつ,オーナー登録をすると確実に利益を上げることができる等と申し向け,原告らを誤信させて,オーナー契約金等の金員を出捐させたとして,被告会社,被告E及び被告会社の代表取締役である被告Fに対して,それぞれ共同不法行為に該当するとして損害賠償を請求し,また,被告Fに対しては,会社の運営について悪意又は重過失による任務懈怠があるとして,選択的に会社法429条1項(旧商法266条の3)に基づく請求をするという事案である。
2 前提となる事実(証拠により認定した場合には証拠番号を付する。その余は当事者間に争いのない事実である。)
(1) 被告会社は,登記簿上,経営コンサルタント等を業とする株式会社であるが,実際には「カタロくじ事業」と称する事業を行っており,同事業への参加を募っていた。被告Fは,被告会社の代表取締役である(原告らと被告Eとの関係では被告会社代表者兼被告F本人尋問の結果により認めることができる。)。
(2) 原告Aは,平成16年12月10日,被告Eからオーナー契約の締結の勧誘を受け,契約書に署名した。同日,アットローンから50万円を借り入れ,オーナー契約金51万8400円を被告会社に支払った(甲第4号証及び原告A本人尋問の結果)。契約当時,原告Aは大学生であった(甲第4号証及び原告A本人尋問の結果)。
(3) 原告Bは,同月25日,被告Eからオーナー契約の締結の勧誘を受け,契約書に署名した。同日,アットローンから50万円を借り入れ,オーナー契約金51万8400円を被告会社に支払った(甲第5号証及び原告B本人尋問の結果)。契約当時,原告Bは大学生であった(甲第5号証及び原告B本人尋問の結果)。
(4) 原告Cは,平成17年2月18日,被告Eからオーナー契約の締結の勧誘を受け,契約書に署名した。同日,アットローンから50万円を借り入れ,オーナー契約金51万8400円を被告会社に支払った(甲第6号証及び原告C本人尋問の結果)。契約当時,原告Cは大学生であった(甲第6号証及び原告C本人尋問の結果)。
(5) 原告Dは,同月8日,Gからオーナー契約の締結の勧誘を受け,契約書に署名した。同日,ゼロファーストから20万円を借り入れ,オーナー契約金34万8400円を被告会社に支払った(甲第7号証及び原告D本人尋問の結果)。契約当時,原告Dは大学生であった(甲第7号証及び原告D本人尋問の結果)。
3 争点
(1) 原告らの主張
ア 被告会社は,「カタロくじ事業」と称する通信販売事業を行っており,同事業への参加を募っていたものであるが,通信販売事業としては採算をとることを考えていたわけではなく,「カタロくじ事業」に参加する者がオーナー登録の際に支払うオーナー契約金が収入の大半であった。これは,実質的には法律上禁止されている違法なネズミ講であり,事業自体が公序良俗に反するものであり,被告らが,情を知らない原告らを勧誘したことは不法行為を構成する。
イ 被告会社は,通信販売事業では収益を上げておらず,「カタロくじ事業」に参加する者がオーナー登録の際に支払うオーナー契約金が収入の大半であったのであるから,そのような事業により新規加入者が利益を上げることができないのに,確実に利益が上がるように説明してオーナー契約を締結させた被告らの行為は,特定負担金の騙取を目的とした詐欺に当たり,不法行為を構成する。
ウ 被告Eは,契約締結の際,原告らが大学生であることを知っていたが,被告会社が通信販売事業で利益を上げていること,多くのオーナー登録した者が多額の収入を得ており,必ず儲かるなど断定的な判断を示し,オーナー登録に必要な資金がない場合には,アットローンやゼロファーストなど消費者金融を紹介した。これらは,断定的判断の提供,不実の告知,適合性原則違反であり,不法行為を構成する。
エ 被告Fは,被告会社の代表取締役であり,被告会社の組織的に違法な勧誘を指揮,促進したものであり,少なくとも任務懈怠について悪意又は重過失があり,取締役として第三者に対する責任を負う。
(2) 被告会社及び被告Fの主張
ア 被告会社の通信販売事業は実体を伴ったものであり,詐欺的な商法ではない。オーナー登録をする上での特定負担金が高額であるのは,カタログにおけるサービスの拡充や独自の商品開発,有名タレントを用いたコマーシャルなどの広告宣伝を行おうとしていたからである。また,被告会社は松美商事株式会社と提携して,オーナーになれば様々な特典の付いたクレジットカードを持つことができるようにするなど付加価値を上げていた。さらに,カタログ販売事業では,カタログ自体を多くの人に見てもらうことが肝要であるから,販売促進の第一歩として多くの会員を抱える組織作りをしていたものである。これらのことから,被告らが特定負担金を不当に騙取することを企図していたわけではないことが明らかである。
イ 被告会社においては,オーナー契約を締結する際には,十分に本件契約の趣旨及び制度の説明をし,また,クーリングオフの制度があること及び不実告知や違法な勧誘をしないように十分に指導していたものであって,そのために誓約書(乙第5ないし第8号証)も必要な書面としていた。
ウ 被告会社においては,未成年者や保護者の同意承諾のない学生はオーナーになれないとして取り扱っていたが,原告らは,被告会社に対して,学生でないと虚偽の事実を申告していたものであって,損害賠償請求をすることは信義則に反する。
エ 被告会社は,業務内容の説明について各オーナーから要請があれば書類や資料などによって支援することはあるものの,直接の勧誘は,各オーナーがすることになっており,現に本件においては,原告Bを勧誘したのは,原告Aであり,原告Cを勧誘してのは原告Dであり,それぞれ本件事業の内容を理解した上で,自らの友人を勧誘してものである。勧誘についての法的責任が被告会社にないことは明らかである。
オ 被告会社としては,前記のとおり不実告知や違法な勧誘をしないように十分に指導していたほか,違法行為を行った場合にはオーナーを除名したり,違法な勧誘により契約したオーナーからの解約には積極的に応じるなどしており,組織的に違法な勧誘を行っていたものではない。
カ 仮に被告らの責任を認めるとしても適正な過失相殺がされるべきである。
(3) 被告Eの主張
必ず儲かるなどと説明したことはなく,あくまでやったらやっただけ儲かるものであると説明しているし,消費者金融から借入をしたのは,それぞれ原告らの意思によるものであって,被告らの責任はない。また,原告らが大学生であることは,原告らが隠していたので知らなかった。
第3当裁判所の判断
1 まず,被告会社の行っていた事業内容について検討する。
被告会社は,登記簿上,経営コンサルタント等を業とする株式会社であるが,「カタロくじ事業」と称する事業を行っており,同事業への参加を募っていたことは,前記前提となる事実のとおりである。そこで,まず,「カタロくじ事業」の内容について検討する。
(1) 甲第1ないし第3号証,乙第13及び第23号証,被告E本人及び被告会社代表者兼被告F本人の各尋問の結果によれば,次の事実を認めることができる。
ア 被告会社の「カタロくじ事業」は,基本的には,被告会社の作成したカタログの商品の販売をあっせんするものであるが,同時に,被告会社は,第三者に対して,「オーナー契約」を締結することによって,当該第三者が自分より下位のオーナーの獲得に成功した場合に得られる特定利益及び通信販売カタログにより商品を購入するのみの会員を獲得した場合や同会員が商品を購入した場合に得られるコミッション等があることから,これらの利益を収受するために,1口17万円から5口85万円までの「オーナー契約金」と称する入会料等を特定負担金として支払わさせた上で,同社が提供するビジネスプラン(「カタロくじ事業」と称する事業等)に参加するとの契約を締結していたものである。
イ 被告会社の収入のほとんどは,オーナー契約金による収入であり,勧誘時に同社のビジネスプランの柱として説明する通信販売事業は,収益事業としての採算が取れておらず,その売上げ規模は月250万円程度の実績しかなく,カタログの発行部数も3万部程度にとどまっていた。
ウ 被告会社とオーナー契約と称する契約を締結すると,オーナーと呼ばれる地位を獲得し,別の者を新たにオーナーにすれば,「オーナー募集コミッション」と称する特定利益を収受しうること,コミッションエリア内でオーナー契約を締結した者が新たに現れると,オーナー資格,代理店資格,総代理店資格,統括代理店資格に応じて,コミッションが支払われること等(自分の下でオーナー契約を締結した者が一定数に達すると順次代理店資格,総代理店資格,統括代理店資格,エグゼクティブ統括代理店資格,プレジデントエグゼクティブ統括代理店資格に昇格していく。)として契約締結を勧誘し,契約する者にはオーナー契約金のほか「ビジネススタートキット代金」を支払わせ,そのほか「月額システム利用料」の支払を約束させ,この「月額システム利用料」の支払を通算2か月分滞納すると強制的に退会処分となる。
エ オーナー契約を締結した者が,オーナーを1人勧誘すると直接募集料として2万円を受け取ることができるほか,その勧誘したオーナーがさらにオーナーを勧誘すると1500円から1万円の間接募集料を受け取れ,下位のオーナーが増えて12名になると総代理店というタイトルが付いて20万円の配当金を受け取ることができ,さらに39人のオーナーが下位にできると総括代理店となり,159人になるとエグゼクティブというタイトルになり,上位に行けば行くほど配当金も多く貰えるなどと説明の上,オーナー契約の勧誘が行われていた。
オ オーナー契約上,オーナーは,オーナー契約の締結やカタログ掲載商品の購入等によって獲得する「ファイトポイント」の累積により報酬を受け取ることができることになっているが,総代理店以上であることが前提であり,カタログ掲載商品の購入等によって「ファイトポイント」を獲得する場合には,月額1500万円以上の売上額がなければならず,しかも,売上額は1ヶ月間の累積額で繰り越しは認められていなった。
カ 平成17年5月ころには,被告Eの下位に200人から300人くらいのオーナーがおり,総代理店としての地位にあったが,被告Eの上位に,少なくとも順次,H,I,J,G,K,L,M,Nがおり,Nが関東地区内におけるオーナーとして最上位である。
キ 被告Eが商品を購入した場合に受け取れるコミッションを獲得したのは1度だけで200円程度であり,また,商品購入によるファイトポイントについては収益の関係では被告Eは意識していなかった。被告Eとしては,組織を構築していき,「オーナー募集コミッション」と称する利益を得ることで収入を得ていた。
ク 被告会社作成のカタログには,松美商事株式会社が提供するクレジットカードについての広告が掲載されているが,子細に見ると,カード発行対象者は,官公庁職員,家族,OB及び法人会員専用と記載されており,これまで,被告会社のオーナー登録をした者に対してかかるカードが発行されたことはなく,被告会社が松美商事株式会社と業務提携をしたことはなかった。
(2) 被告会社の収益がオーナー契約金によってまかなわれていたことは,被告会社代表者兼被告F本人も,尋問において,カタログショッピングによって利益を上げるということは基本的にはなく,カタログショッピングは顧客に対するサービスであり,被告会社は,オリジナル商品を開発していくことによって利益を確保することを想定していたこと,また,オリジナル商品の開発は現時点では進んでおらず,被告会社の利益は専らオーナー契約金によっている旨を供述しているところからも明らかである。
なお,被告会社代表者兼被告F本人は,尋問において,オリジナル商品の開発や携帯電話にコマーシャルを流すことによって今後利益を見込んでいた旨を供述している。しかしながら,どのようにして利益を上げていくのか,その体制や計画について何ら具体性がないばかりか,証人Oの証言及び被告会社代表者兼被告F本人の尋問の結果によれば,被告会社のオーナー契約を締結した者らを把握するシステムは,SFC,株式会社オーエヌイーから順次引き継がれたものであり,被告会社の営業停止前後から同システムがさらに,RAGやAJCNに引き継がれたことを認めることができ,一定の時期に次々に運営する会社が交代しているのであり,各会社の業態が警察等から取り調べられたりする度に,責任転嫁のために運営会社を変更しているのではないかとの疑いも払拭できず,被告会社の組織の在り方に照らして,オリジナル商品やコマーシャルによる利益によって被告会社の商売を成り立たせようとしていたとは考えられない。
(3) 被告会社代表者兼被告F本人尋問においては,松美商事株式会社との提携があり,その提携の話は,松美商事株式会社のP専務との間で口頭で約束したものであると供述する。しかしながら,前記認定のように乙第21号証のカタログ上には,松美商事株式会社との提携を窺わせる広告記事が掲載されているものの,カード発行対象者は,官公庁職員,家族,OB及び法人会員専用と記載されており,被告会社とオーナー契約を締結してもカード発行対象者にはなれず,被告会社とオーナー契約を締結した者の中で松美商事株式会社発行のカードを入手した者がいないことは被告会社代表者自身認めているところであり,加えて,乙第22号証によれば,同号証のカタログ上には同様の広告はないことを認めることができるのであって,これらの事実からすれば,前記認定のとおり,被告会社においては,松美商事株式会社と業務提携をしていなかったと推認するのが相当である。
そして,原告D本人尋問の結果によれば,被告会社が行う商売については,国が関係している松美商事株式会社という会社と提携していて,安心できる会社であると説明を受けたため,違法ということはないと信じたことを認めることができ,また,甲第1号証及び乙第21号証によれば,オーナーになれば,有名ホテルの部屋に格安で泊まれるようなサービスも受けられる等の説明をして,オーナー契約を締結していた事例もあったこと,カタログ上,松美商事株式会社発行のカードによってワシントンホテルチェーンの割引などが受けられると記載されていることを認めることができる。これらのことからすると,被告会社は松美商事株式会社と提携しているとの虚偽の事実を申し述べて勧誘していたものであり,このことは,被告会社自体が違法な勧誘をしていたことを窺わせる事情でもある。
2(1) 次にオーナー契約締結の態様について検討するに,前記前提となる事実及び甲第1号証,乙第13号証及び被告会社代表者兼被告F本人尋問の結果によれば,次の事実を認められる。
ア 被告会社は,経済産業省から,同社の勧誘者が主に大学生をターゲットとして,「誰でもできる仕事,確実に稼げる,みんな月に50万円,上は月何千万円も稼ぐ」などと不実のことを告げ,「20万円なんてすぐに返せる」「1年後には,月30万円位儲かる」などと利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供しており,さらに契約金等を直ちに支払えない者には消費者金融から金銭を借り入れさせて契約金等を支払わせ,契約をさせていたほか,連鎖販売取引に際して,契約を締結するまでに交付を義務づけられている当該連鎖販売業の概要について記載した書面を契約の相手方に交付しておらず,契約を締結した際にもその契約内容を明らかにする書面を交付していないとして,3か月間の営業停止を命じられた。
イ 被告会社は,近畿経済産業局産業部消費経済課に対して,弁明書を提出しているが,その中で,6段階組織や報酬の仕組みを考案したのは,被告会社ではなく,株式会社オーエヌイーであり,被告会社は同社の債権債務を含めた残務整理を任意に引き受けたこと,パソコン管理システムについても株式会社オーエヌイーのものを引き継いだが,違法な勧誘をしないようにセミナー等を開催してオーナーらを指導していることを記載した書面を提出したが,処分取消訴訟等は提起していない。
(2) そして,原告らの勧誘について検討するに,前記認定の事実,甲第4ないし第7号証,乙第1ないし第8号証,原告A,原告B,原告C及び原告Dの各本人尋問の結果によれば,次の事実を認めることができる。
ア 原告Aは,学生であったが,知人であるQから平成16年12月5日ころ,割のいいアルバイトがあると言われて,説明会に参加したのち,被告E及びGから被告会社のオーナー契約を締結し,オーナー登録をすれば,月収100万円も夢ではない,必ず儲かるなどと説明され,通信販売により利益が上がっている会社なのではないかと信じた。しかし,原告Aは,オーナー登録に必要なお金を持っていないことから少し考えさせて欲しいと言ったところ,被告Eから「すぐ,この場で決めないとだめだ」と言われ,お金を作る方法があるとして消費者金融のアットローンを紹介された上,「学生では借りれないので,正社員と偽ってお金を借りてこい」と言われ,そのとおりにして50万円を借り入れて,平成16年12月10日,被告会社に51万8400円を支払いオーナー契約を締結した。その際,契約書に署名したほか,学生はオーナー登録できないこと,クーリングオフ条項等について説明を受け確認した旨記載された誓約書に署名した。契約書等の書類については,被告Eが預かっておくと言って持って帰ったので,交付を受けていない。オーナー登録後,被告E及びGから「片っ端から友人をリストアップして,そこに電話をかけて,まずは食事の約束を取り付けろ」と言われて原告Bと食事をすることにした。そして,原告Aは,原告Bを勧誘したことによって被告会社からオーナー募集コミッションとして5万円を受領した。
イ 原告Bも,学生であったが,原告Aから食事に誘われ,二人で食事をしていたところ被告Eが現れて,ビラ配りのアルバイトで月40万円ぐらい稼げるとの話を聞かされ,説明会に参加した。説明会では,オーナー登録のシステムについて説明され,オーナーになると100万円は簡単に稼げると言われ,被告Eからも「俺とGさんについてくれば,絶対稼がせてやる」と説得された。また,説明会では通信販売事業についても若干の説明があったが,黒字であると聞かされ,軌道に乗っているものと信用した。原告Bは,資金がなかったが,被告Eから消費者金融であるアットローンから借り入れる方法を教えられ,50万円を借り入れて,平成16年12月25日,51万8400円を被告会社に振り込みオーナー契約を締結した。その際,契約書に署名したほか,学生はオーナー登録できないこと,クーリングオフ条項等について説明を受け確認した旨記載された誓約書に署名した。契約書等の書類については,被告Eが預かっておくと言って持って帰ったので,交付を受けていない。
ウ 原告Dも,学生であるが,平成17年2月4日ころ,知人であるRから誘われて食事に行った際,割のいいアルバイトがあると言われて興味を持ち,説明会に参加したところ,被告会社は通信販売事業で利益を上げており,オーナー登録をすると,通信販売事業に貢献した売上げがオーナーの収入になることや松美商事株式会社と提携しており,レジャー施設の割引利用ができることや,オーナー登録をして活動すれば確実に利益を上げることができることを主にSから説明された。説明会において,被告Eにも会った。オーナー登録に当たって資金がないと説明したところ,SとRから消費者金融であるゼロファーストから借り入れればよいと紹介され,20万円を借り,原告Dは,平成17年2月8日,被告会社に34万8400円を支払いオーナー契約を締結した。その際,契約書に署名したほか,学生はオーナー登録できないこと,クーリングオフ条項等について説明を受け確認した旨記載された誓約書に署名した。その後,友人と約束を取り付けるように言われて原告Cを食事に誘った。
エ 原告Cも,学生であるが,平成17年2月15日ころ,知人である原告Dから食事に誘われ,割のいいアルバイトがあると説明され,説明会に参加することにし,そこで,被告Eからカタログ配布と通信販売事業について説明を受け,会員を増やせばそれだけの利益が上がると説明を受けた。オーナーになれば月収100万円も夢ではないこと,必ず儲かることを説明され,通信販売事業が実体のあるもので多大の利益を上げていること及び確実に利益が上がることを信用した。原告Cは資金がなかったので,Sから説明されるまま消費者金融であるアットローンから50万円を借り入れ,平成17年2月18日,51万8400円を被告会社に振り込みオーナー契約を締結した。その際,契約書に署名したほか,学生はオーナー登録できないこと,クーリングオフ条項等について説明を受け確認した旨記載された誓約書に署名した。原告Cは,被告Eから,同書面に,「私は学生でないので保護者の同意は必要ありません」「私は消費者金融等の紹介・斡旋を受けておりません」と記載するように言われ,言われるままに記載し署名した。原告Cは,契約書面等を受け取って自宅に持ち帰った。
以上の事実を認めることができ,上記認定に反する被告Eの供述は採用しない。
3 上記認定の事実,原告B及び被告Eの各本人尋問の結果によれば,被告Eは,被告会社の従業員ではなく,オーナー契約締結のための説明を行っていた者であり,月収として,オーナー契約締結コミッション等により月60万円程度の収入を得ていたこと,同様の立場にあるGは,月80万円くらいの収入を得ていることを認めることができる。また,オーナー契約のシステムとしては,オーナー契約を勧誘して締結させるのは,オーナー自身であって被告会社ではないことになっている。しかしながら,乙第1ないし第4号証及び原告D本人尋問の結果によれば,オーナー募集コミッションを得るためには「自店の携帯メールアドレス登録が完了していること」が条件とされており,原告らの多くは被告Eにメール送信することによって契約が完了していることを認めることができ,被告EやGらは,オーナー契約を締結する上で重要な役割を果たしており,被告会社が被告Eらと一体となって,オーナー契約を勧誘していたものといえる。
4(1) 以上によれば,被告会社の「カタロくじ」事業は,通信販売事業としては実体がなく,オーナー契約金で収益を上げている事業であり,その契約金額自体異常に高額ということができ,次々にオーナー契約を締結し続けなければ,自己の利益を確保することもできないことが明らかであるのに,この点について十分な説明を行っておらず,また,前記認定のように毎月月額システム利用料を支払わないとオーナー資格を喪失してしまうのであり,多くの会員がオーナー契約金を支払った後中途で脱退していくことになるシステムとなっていることをも考え合わせると,被告らは,利益が上がらず,実体があるとはいえない通信販売事業があたかも実体があり利益が上がっているように説明して,オーナー契約を締結させ,高額なオーナー登録料を支払わせていたほか,実質的には無限連鎖講の防止に関する法律によって禁止されている金銭配当組織といいうるものであって,通信販売事業自体は,同法の適用を免れるための方便に過ぎず,オーナー契約自体公序良俗に反する違法な取引というべきである。なお,被告らは,違法な勧誘をしないように指導していた等と主張し,乙第24ないし第58号証の書証を提出するが,前記認定のように被告会社が行っているオーナー契約自体,高額なオーナー契約金を納付させ,オーナー契約金を配当する組織である実態にかんがみると,被告ら主張のセミナー等はいずれも被告会社が業として違法な取引を行っていたことを隠蔽するための方便に過ぎないものといえるのであって,上記主張は採用できない。
(2) また,上記認定の事実からすれば,被告Fについても,組織的に違法な行為を指揮命令していたことが明らかであって,加害行為を行うことについて故意があったというべきである。この点,被告Fは,尋問において,被告会社のシステムは株式会社オーエヌイーから引き継いだので,オーナーシステムがどのようなものかよく分からない,あるいは,今後,オリジナル商品の開発や携帯電話へのコマーシャルの配信事業によって利益を上げるなどと供述しているが,信用することができない。
また,被告Eは,被告会社の違法な行為を利用して収益を上げていた者であって,上記認定のように被告会社の勧誘行為について,被告Eのような説明者の存在が不可欠であって,そのことを前提としてシステムが作り上げられており,被告会社と一体となって,原告らを始め多数の者を騙して高額の収益を上げていたもので,被告会社と共同不法行為責任を負うものというべきである。なお,被告Eは,原告Dに対して直接の勧誘行為を行っていたことまでは認められないものの,被告Eの立場を考えると直接勧誘したか否かを問わず,共同不法行為者としての責任があるものと考えられるし,しかも,被告Eは説明会において原告Dと会っており,その説明会において勧誘行為をしていたことは容易に推認されるのであって,原告Dに対する関係でも責任を免れない。
5 次に,過失相殺について検討するに,上記認定のように,原告らは,学生でないことを前提とする記載のある誓約書に署名したり,原告Cにあっては,上記認定のとおり,乙第8号証及び原告C本人尋問の結果によれば,原告Cが誓約書に「私は学生でないので保護者の同意は必要ありません」「私は消費者金融等の紹介・斡旋を受けておりません」「契約の解除・中途解約返品ルールの説明を受けました」「私は上記の内容を承諾し,契約書面一式を受け取った事をここに記します」などと直筆で記載していることを認めることができ,被告E本人尋問の結果によれば,原告Cとの契約のころ,インターネットの掲示板等で,消費生活支援センターに行って金融のあっせんをされたとか,学生であると言えば返金されるとの噂が流れており,被告会社側も,厳しく対処するようにとの話があったので,原告Cに言って上記の内容を記載させたことを認めることができる。しかしながら,これらの事実を捉えて過失相殺をすべきかについては,当裁判所は消極に考える。なぜなら,被告らは,一面では,犯罪行為と把握することもできるほどの違法性の高い取引行為を原告らに持ちかけて,不当な利益を得ようと企てたのであり,被告らの違法性に比して原告らのそれは非常に軽微であることはもとより,被告会社が目論んでいた違法な契約自体が,原告ら第三者に虚偽の事実を申し述べさせることを元々想定し,それを前提として仕組まれていたともいえるのであって,そのようなことを前提とすると,過失相殺の結果,被告らの責任を軽減することは,むしろ公平とは言い難いと考えられるからである。さらに,この取引においては,原告らも被告Eと同様の立場となりうるのではないかとの点についても,原告らと被告Eとは,役割においても格段に区別されており,被告Eは,被告会社のシステムを運営ないし拡大するために被告会社と一体となって行動してきた者と評価できるが,原告らは,むしろ,被告Eらに踊らされていた被害者というべきであり,過失相殺については同様に消極に解さざるを得ない。したがって,過失相殺による減額はしないこととする。
また,被告らの,原告らの請求が信義則により妨げられるべきであるとの主張についても同様の理由によって採用しない。
6 したがって,原告Aについては,被告会社に支払ったオーナー契約金51万8400円からオーナー募集コミッションとして得た5万円を控除した46万8400円と相当因果関係のある弁護士費用4万6000円を損害額と認め,合計51万4400円の損害賠償請求権を,原告B及び原告Cについては,それぞれ51万8400円と相当因果関係のある弁護士費用として5万1000円を損害額と認め,それぞれ合計56万9400円の損害賠償請求権を,原告Dについては,34万8400円と相当因果関係のある弁護士費用として3万4000円を損害額と認め,合計38万2400円の損害賠償請求権を,かつ,原告らそれぞれにつき,金員を支払った日を不法行為時として,同日から年5分の割合による遅延損害金の請求権を認めることとする。
7 以上によれば,その余について判断するまでもなく原告らの請求は主文認容の限度で理由があるので,これを認め,その余を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 近藤昌昭)