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さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)1917号 判決 2006年1月30日

埼玉県●●●

原告

●●●

同訴訟代理人弁護士

坂下裕一

和歌山県田辺市朝日ヶ丘17番5号

被告

株式会社 アプリコ

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

主文

1  被告は,原告に対し,25万円及びこれに対する平成17年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを20分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は,原告に対し,165万円及びこれに対する平成17年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(3)  1項につき仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  当事者

ア 原告は,もと小学校の教員として勤務していた者である。

イ 被告は,金融業を営む株式会社である。

(2)  原告と被告間の金銭消費貸借契約の締結

原告は,平成12年2月24日,被告から200万円を借り入れた(以下,この金銭消費貸借契約に基づく被告の債権を「本件貸金債権」という。)。

(3)  被告の違法な取立行為

ア 原告は,被告を含む多数の金融業者からの借入金がかさみ,返済に窮したため,平成15年6月20日,被告を含む全債権者を記載した債権者一覧表を添付して,自己破産及び免責の申立てをした。この破産手続の破産宣告兼免責審尋期日通知は,被告に送達された。そして,同年11月25日,原告に対して免責許可の決定がされ,同年12月25日,同決定が確定し,本件貸金債権にも同免責決定の効力は及んだ。被告は,上記手続の中で,本件貸金債権に免責決定の効力が及んだことを知った。

イ それにもかかわらず,被告は,平成17年8月19日,原告に対し,「おんどりゃ 北朝鮮か 天誅か 国賊か ようど頭沸騰させ 職業は金借業か 金払え 金貸屋 アプリコ」という文言の電報(以下「本件電報」という。)を送付することによる取立行為を行った。また,被告は,その数日後,原告に対し,本件貸金債権に関する「告知書及び催告書」と題する書面(以下「本件書面」という。)を被告に送付し,そこで「公正証書に基づいて強制執行を行う」「本書到達後7日以内に…連絡及び支払がない場合には,貴殿の勤務先の給与差押,預貯金の差押を実施する」「貴殿の住居内の動産であるテレビ,タンス,冷蔵庫,冷暖房器具,…等の機器類や机等の差押を行い,売却して債権の返済に充当する」等と記載した。

(4)  損害

ア 原告は,被告の上記各行為により,本件貸金債権を履行しなければならないのではないかと思いこむなど不安,ショック,ストレスを被った。この精神的損害は少なくとも150万円と見積もるのが相当である。

イ また,原告は,被告の上記各行為により,弁護士に委任することを余儀なくされた。その弁護士費用は15万円が相当である。

(5)  よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,慰謝料と弁護士費用の合計165万円及びこれに対する本件訴状送達日の日の翌日である平成17年10月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)の事実は認める。

(2)  同(2)の事実は認める。

(3)ア  同(3)アの事実のうち,原告が自己破産及び免責を申し立てたことは認め,その余は否認ないしは不知。

イ  同(3)イの事実は認める。

(4)  同(4)の事実は否認する。

理由

1  請求原因(1)(当事者),同(2)(原告と被告間の金銭消費貸借契約の締結)の事実は当事者間に争いがない。

2(1)  請求原因(3)ア(原告の破産申立て等)の事実のうち,被告が原告の自己破産及び免責の申立てをしたこと及び同イ(本件電報の送付等)の事実はいずれも当事者間に争いがなく,これらの事実と証拠(甲1ないし甲5,甲6の1・2,甲7の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア  原告は,被告のほか他の多数の金融業者からも借入れをしていたため,その返済に窮するようになり,代理人を通じて,被告ら債権者に対し,自己破産の申立てをする旨を通知するとともに,原告に対する債権の内容を回答するよう求めた。これを受けて,被告は,代理人に対し,本件貸金債権の内容を記載した平成15年6月6日付け債権調査回答書を送付した。

イ  その後,原告は,平成15年6月20日,被告を含む全債権者を記載した債権者一覧表を添付して,自己破産及び免責の申立てをした。この破産手続の破産宣告兼免責審尋期日通知は,被告に送達された。そして,同年11月25日,原告に対して免責許可の決定がされ,同年12月25日,同決定が確定し,本件貸金債権にも同免責決定の効力は及んだ。

ウ  被告は,平成17年8月19日,原告に対し,「おんどりゃ 北朝鮮か天誅か 国賊か ようど頭沸騰させ 職業は金借業か 金払え 金貸屋 アプリコ」という文言の電報を送付した。また,被告は,その数日後,原告に対し,「公正証書に基づいて強制執行を行う」「本書到達後7日以内に…連絡及び支払いがない場合には,貴殿の勤務先の給与差押,預貯金の差押を実施する」「貴殿の住居内の動産であるテレビ,タンス,冷蔵庫,冷暖房器具,…等の機器類や机等の差押を行い,売却して債権の返済に充当する」などと記載した文書を送付した。

以上のとおり認められる。

(2)  上記認定の事実によれば,被告は,平成15年6月20日ころ原告の免責審尋期日の通知を受けているのであるから,遅くともそれから1年を経過した平成16年6月20日ころには,原告に免責決定がされ,本件貸金債権もその免責決定により債権が消滅したことを知ったものと推認される。被告は,それにもかかわらず,原告に対し,「おんどりゃ」「天誅」「頭沸騰させ」などといった,人をことさら不安に陥れるような文句を用いた本件電報を送付し,さらには,原告が本件貸金債権を履行しなければ原告の勤務先の給与や住居内の動産の差押えがされるといった内容を記載した本件書面を送付し,本件貸金債権の取立てを行ったものであるから,このような被告の取立行為は,貸金業の規制等に関する法律21条1項の禁止する「人を威迫し又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような言動により,その者を困惑させ」る行為に当たり,債権取立ての行為として社会通念上許される範囲を逸脱するものであって,違法といわなければならない。

3  そこで,請求原因(4)(損害)について検討するに,被告の上記取立行為により原告が精神的損害を被ったことは想像に難くないし,その損害を回復するため,原告が本訴を弁護士に依頼して提起せざるを得なくなったことは弁論の全趣旨に照らし明らかである。そして,被告の前記取立行為の態様等に照らせば,原告が被告の違法行為によって生じた精神的損害の額は20万円と,また,本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用の額は5万円とそれぞれ認めるのが相当である。

4  よって,原告の本訴請求は,上記の合計25万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成17年10月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤壽邦)

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