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さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)2079号 判決 2006年10月10日

原告

被告

Y1

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自四〇六万九八一〇円及びうち三六六万九八一〇円に対する平成一六年四月二四日から支払済みまで年五分の割合よる金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用については、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。ただし、被告らが共同の担保として三六六万円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告の求める裁判

一  被告らは、原告に対し、各自一三一五万一五八三円及びうち一一九六万一五八三円に対する平成一六年四月二四日から支払済みまで年五分の割合よる金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要及び争点等

一  事案の概要

本件は、原告が、原告運転の一〇トントラック(以下「原告トラック」という。)が渋滞のため停止していたところ、被告Y1運転の大型トレーラー(以下「被告トレーラー」という。)に追突されたとして、被告Y1及び同人の使用者である被告株式会社上組(以下「被告会社」という。)に対して民法七〇九条又は同法七一五条に基づいて損害賠償の請求をするとともに交通事故の日から法定利率による遅延損害金の支払等を求めるという事案である。

二  当事者間に争いのない事実

(1)  平成一六年四月二四日午前一〇時一〇分ころ、東京都江東区青梅二丁目無番地先路上(第二航路トンネル)において、被告トレーラーが原告トラックに追突した。

(2)  本件交通事故につき、被告Y1に前方注視義務違反があった。

(3)  被告会社は、被告Y1の使用者であり、本件交通事故は、被告Y1が被告会社の業務の執行中に惹起されたものである。

(4)  原告は、本件交通事故により治療費(支払済み治療費以外の分)、薬代及び文書料三万九五二〇円並びに通院のための駐車場代一万二八〇〇円の損害を被った。

(5)  被告らは、原告に対し、本件事故にかかる損害として、治療費二二九万八四一八円、入院雑費六万六九一六円及び休業損害一六四万二六〇三円を支払った。

三  争点

(1)  事故の態様

(2)  損害額

ア 原告の主張

(ア) 入通院慰謝料 一五六万円

原告は、本件交通事故により、平成一六年四月二四日から同年七月二二日までの九〇日間入院し、同月二三日から症状が固定する平成一七年三月八日までの一四四日間通院していた。

(イ) 休業損害 一二八万六三三〇円

原告は、有限会社サンフラワーの社員として事故前三か月の平均月収は四三万三九一六円であったが、事故日から平成一七年三月八日まで休業した。この間の就労困難率を平成一六年四月二四日から同年七月二二日までの入院期間(約三か月)は一〇〇パーセント、同月二三日から平成一七年三月八日までの通院期間(約七・五か月)は五〇パーセントとして計算すると、二九二万八九三三円となるが、既払額が一六四万二六〇三円であるので、これを控除して算出した。

(ウ) 後遺症による逸失利益 七八九万四八四九円

損害保険料率算出機構は後遺障害等級非該当と判断しているが、原告には頚部痛、頭痛、腰痛、右手第四及び第五指の痺れが残存しており、これは後遺障害に該当する。これにより、原告は事故前と同程度の就労をすることができず、現在の月額収入は平均で二八万一九四〇円となっており、事故前よりも減収になっているところ、医師の診断によれば上記後遺障害の寛解は困難とされており、少なくとも五年程度は後遺障害が存する。

(43万3916円-28万1940円)×12か月×4.329=789万4849円

(エ) 後遺症による慰謝料 一一〇万円

(オ) 入院雑費 六万八〇八四円

入院は九〇日間であり、一日一五〇〇円として算出すると一三万五〇〇〇円であるが、被告らから既に六万六九一六円が支払われているので、これを控除した。

(カ) 弁護士費用 一一九万円

イ 被告らの主張

損害額については、治療費及び通院交通費を除き、すべて争う。特に、算定基礎収入額については、原告は、所得税の確定申告もしておらず、源泉徴収もされていないので、そのような金額を基礎とすることは司法の廉潔性の観点から問題がある。

また、原告は、後遺障害等級非該当の事前認定を受けており、どの後遺障害等級に該当するのかについて主張立証していない。どの障害等級に該当するのかについて判断することなく、後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料を認容し、その金額を算定するというのであれば、そのような判断手法は、多分に恣意性が介在する余地があり、合理性がない。

損害賠償法の基本理念は、公平に損害賠償額の算定がなされるように後遺障害等級という考え方が採用され、等級表が定められ、等級認定手続及び認定された等級に従った逸失利益や慰謝料の算定という判断枠組みが長年に亘る法曹関係者の叡智の集積として築き上げられ、実務上確立定着してきたのである。上記の判断枠組み自体を無視して後遺障害等級を全く考慮せずに損害額を算定するという判断手法を採られるのであれば、到底納得することができない。

原告については、中立、公平な第三者機関である損害保険料率算出機構において、後遺障害等級非該当と判断されているのであって、異議申立てもされていないのであるから、同認定結果を不合理と排斥するに足る理由はない。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)について

原告は、渋滞のため原告トラックを停止させていたところ、被告トレーラーより追突されたと主張し、被告らは、事故態様について争うが、具体的な事故態様について全く主張するところがない。原告本人尋問の結果によると、渋滞のため、原告トラックを停止させていたところ、追突されたこと、トラック内で嘔吐したが、仕事の途中であったことからそのまま病院には行かず、仕事を終えてから帰宅したこと、帰宅して横になったら起き上がれなくなったため友人に救急車を呼んでもらって病院に行ったことを供述しており、これに反する証拠はないから、上記供述内容のとおり認めることとする。

二  争点(2)について

(1)  原告の事故前の収入額についてであるが、甲第三号証によれば、原告は、有限会社サンフラワーから平成一六年一月分から同年三月分まで、合計一三一万一七五〇円の収入を得ていたことを認めることができるが、他方で、原告本人尋問の結果によれば、原告は、有限会社サンフラワーの正社員ではなく、契約社員というような地位であったこと、所得税等の源泉徴収をされておらず、自らも納税していないことを認めることができる。このことからすれば、原告の収入額については、納税すべき金額をも考慮することとして二割を控除し、月額三四万九八〇〇円を相当額と認めることとする。

(2)  甲第二号証によれば、事故日である平成一六年四月二四日から同年七月二二日まで新座志木中央総合病院に入院していたこと、同月二三日から平成一七年三月八日まで同病院に通院をしていたことを認めることができる。また、乙第一二号証の三(六頁、二二頁)、乙第一二号証の四(四二頁)によれば、平成一六年五月七日、同病院A医師が、原告の入院についてあと一週間程度ではないかとの診断していること、同年六月七日、医師から動けるようなら退院が可能である旨の説明を受けていること、同月二六日ころに退院の指示をしたことを認めることができる。このことからすれば、少なくとも原告は、同月七日ころには、退院することができたものと考えられ、入院相当期間としては同日までの四五日間と認定する。

その後、症状固定日については、甲第二号証によれば、新座志木中央総合病院のB医師が原告を診断し、平成一七年三月八日、症状固定日が同日と診断され、今後の症状の寛解は困難と考える旨の記載があることを認めることができ、乙第六ないし第一一号証の各一、二によれば、退院後も頻繁に通院していたことを認めることができる。よって、通院期間については、平成一六年六月八日から平成一七年三月八日までの約九か月間と認めるのが相当である。

この期間が原告の症状との関係からして、長いのではないかとの疑問もありうるところである。しかしながら、乙第一二号証の三(八頁、一一頁)によると、被告らの保険会社の担当者と原告との交渉過程で、原告に精神身体症状が出現するようになっていること、病院に対しても、原告の入院が不必要に長期化しているのではないか、原告に就労の指示をし退院させるべきではないかとの趣旨と受け取れる質問を書面でしており、病院も保険会社に対して迷惑しているとの感情を抱いていたことを認めることができ、これらのことからすれば、保険会社の担当者が原告の早期の退院や就労を要望するなどしたことから、却って原告の回復が遅延したのではないかと推認される。公平の観点から、これらのことも踏まえると、前記の症状固定の日が決して不合理とまではいえないと考えられる。

これを踏まえると、入通院慰謝料については、一三八万円を相当と認める。

また、休業損害については、平成一六年四月二五日から同年六月七日まで(四四日間)の労働喪失率を一〇〇パーセントとし、同月八日から平成一六年八月三一日まで(八五日間)の労働喪失率を八〇パーセントとし、同年九月一日から同年一一月二〇日まで(八一日間)の労働喪失率を六〇パーセントとし、同月二一日から平成一七年二月一〇日まで(八二日間)の労働喪失率を三〇パーセントとし、同月一一日から平成一七年三月八日まで(二六日間)の労働喪失率を一五パーセントとして、日額一万一六六〇円として計算すると、二二〇万四九〇六円となる。

(3)  後遺障害による逸失利益について検討するに、甲第二、第三、第五及び第七号証、乙第一号証、乙第二号証の一及び乙第一二号証の二(二頁及び三頁)並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、レントゲン撮影の結果からも骨折をしたことを窺うことができず、事故直後は安静加療とし、その後、リハビリテーションを受けており、後遺障害について有意な他覚的所見に乏しいものの、平成一七年三月八日診断したB医師は、原告に本件事故のため、頚部痛、頭痛、腰痛、右第四及び第五指の痺れの症状があり、同日以後の症状の寛解は困難と考えると診断していることのほか、この症状を緩和させるために、現在においても、シラブル錠やギボンズ錠等を内服しているほか、炎症を和らげるためのモビラート軟膏、ボルタレンゲルないしイドメシンコーワゲルを外用していること、原告の月額収入については、事故前は平均四三万円余であったが、事故後は二六万ないし二八万円余であって、相当程度の減収を認めることができる。そのほか、前記認定のように原告が本件事故時に嘔吐していること、救急車で病院に搬送となっていることなどからすると、相当程度の衝撃があったものと推測することができ、原告の愁訴を全く理由がないものとすることはできない。さらに、乙第六ないし第一一号証の各一、二によれば、退院後も頻繁に通院していたことを認めることができ、現在においても服薬を継続していることからすれば、少なくとも、頑固な神経症状を残すものとして、五年間程度、労働能力を四パーセント程度喪失したものと認めるのが相当である。そうとすると、七二万六九二三円の逸失利益を認めることができる。

34万9800円×12×0.04×4.3294

なお、被告らは、原告には事前認定において後遺障害等級非該当の判断が出ており、異議申立もしなかった以上、後遺障害の逸失利益を認めるべきでない旨の主張もするが、かかる主張は理由がないほか、前記認定のように、被告らに係わる保険会社及び弁護士の対応が原告の症状に影響を与えていることにかんがみると、保険会社を通じて後遺障害等級の認定をしてもらうのを待つより直接司法の場において損害賠償請求をしたいとの思いも理解できるところである。

さらに、他覚的所見がないことから後遺障害の逸失利益を認めるべきでないとする被告らの主張についても理由がない。要は、本件交通事故により原告に後遺障害が存在するか否かの認定判断であって、後遺障害等級表に該当する後遺障害についても、その認定判断が硬直化しないように諸般の事情を総合して柔軟に判断すべきものであり、前記認定のとおり、現在も原告には、本件事故のため、頚部痛、頭痛、腰痛、右手第四及び第五指の痺れの症状があるのであり、相当程度継続することが予想されるのであって、この症状に対応する損害は被告らが負担すべきである。

(4)  後遺症による慰謝料については、一〇〇万円を相当と認める。

(5)  入院雑費については、入院相当期間である四五日につき一日一五〇〇円を相当と認め、六万七五〇〇円を認める。

(6)  治療費及び通院交通費については、争いがない。

(7)  以上の損害額を合計すると、五三七万九三二九円となるが、原告は、休業損害として一六四万二六〇三円、入院雑費として六万六九一六円の支払を既に受けているので、合計一七〇万九五一九円を控除することとし、三六六万九八一〇円となる。

(8)  また、弁護士費用として四〇万円を損害と認めることとする。

三  よって、原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認め、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤昌昭)

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