さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)2605号 判決 2010年9月27日
甲事件原告・乙事件被告
Y1株式会社
乙事件被告
Y2
甲事件被告・乙事件原告
X1
乙事件原告
X2 他3名
主文
一 甲事件
(1) 被告Y1の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は、被告Y1の負担とする。
二 乙事件
(1) 被告Y1及び被告Y2は、原告X1に対し、連帯して二億一六六九万二七二七円及びうち二億一一三八万一八七八円に対する平成一六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1及び被告Y2は、原告X2及び原告X4に対し、連帯して各四四〇万円及びこれに対する平成一六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 被告Y1及び被告Y2は、原告共栄火災に対し、連帯して四五八万九一〇一円及びこれに対する被告Y1については平成一九年一一月八日から、被告Y2については同月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) 原告X1、原告X2及び原告X4のその余の請求、原告X3の請求をいずれも棄却する。
(5) 訴訟費用中、原告X1と被告Y1及び被告Y2との間に生じたものはこれを五分し、その二を同原告の負担とし、その余を同被告らの負担とし、原告X2及び原告X4と被告Y1及び被告Y2との間に生じたものはこれを二分し、その一を同原告らの負担とし、その余を同被告らの負担とし、原告X3と被告Y1及び被告Y2との間に生じたものは、同原告の負担とし、原告共栄火災と被告Y1及び被告Y2との間に生じたものは、同被告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 甲事件
原告X1は、被告Y1に対し、二五八万〇五五二円及びこれに対する平成一六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件
(1) 被告らは、原告X1に対し、連帯して三億二四五八万六三九六円及びうち三億一九二七万五五四七円に対する平成一六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告らは、原告X2及び原告X4に対し、連帯して各八八〇万円及びこれに対する平成一六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 被告らは、原告X3に対し、連帯して三三〇万円及びこれに対する平成一六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) 被告らは、原告共栄火災に対し、連帯して四五八万九一〇一円及びこれに対する被告Y1については平成一九年一一月八日から、被告Y2については同月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
原告X1が運転する普通乗用自動車(以下「X1車」という。)が、センターラインを越え、対向車線上で、A(以下「A」という。)が運転し、B(以下「B」という。)が同乗する普通乗用自動車(以下「A車」という。)と衝突(以下「一次衝突」という。)した後、元の走行車線上で、X1車の後方を走行していた被告Y1が所有し、被告Y2(以下、被告Y1と一括して、「被告ら」という。)が運転する普通貨物自動車(以下「Y2車」という。)と衝突(以下「二次衝突」という。)し、原告X1、A及びBが負傷するとともに、X1車、Y2車及びA車がそれぞれ損傷を受けた(以下「本件事故」という。)。
甲事件は、被告Y1が、原告X1に対し、民法七〇九条に基づいて、損害の賠償を請求した事案である。
乙事件は、本件事故は、被告Y2がX1車に対し、その後方からあおり行為をしたことが原因で発生したなどと主張して、原告X1、原告X2(原告X1の父親)、原告X4(原告X1の母親)及び原告X3(原告X1の弟)が、被告Y2に対しては民法七〇九条に基づいて、被告Y1に対しては自賠法三条及び民法七一五条に基づいて、損害の賠償を請求するとともに、保険代位により原告X2、A及びBの被告らに対する損害賠償請求権を取得した原告共栄火災が、被告らに対し、保険代位に基づき、損害の賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成一六年一二月五日午後一一時四五分頃
イ 場所 茨城県猿島郡総和町大字小堤一二八八番地一(以下「本件現場」という。)
ウ X1車
普通乗用自動車〔ナンバー省略〕
運転者 原告X1
所有者 原告X2
エ Y2車
普通貨物自動車〔ナンバー省略〕
運転者 被告Y2
所有者 被告Y1
オ A車
普通乗用自動車〔ナンバー省略〕
運転者 A
同乗者 B
所有者 A
カ 事故の態様
古河市三杉町方面(西方向)から三和町方面(東方向)に向け、国道一二五号線(以下「本件道路」という。)を走行してきたX1車が、本件現場において、センターラインを越え、対向車線を走行してきたA車と衝突した。その後、X1車は、元の走行車線において、後方を走行していたY2車と衝突した。(甲一、四、被告Y2)
(2) 当事者
ア 原告X2は原告X1の父親、原告X4は原告X1の母親、原告X3は、原告X1の弟である。
イ 被告Y1は、本件事故当時、被告Y2を雇用していたものであり、Y2車の運行供用者であった。
(3) 原告共栄火災は、平成一六年九月二二日、原告X2との間で、次のとおりの自動車保険契約を締結した。(乙二八三、二八四)
ア 被保険車両 X1車
イ 保険期間 同年一〇月八日から平成一七年一〇月八日まで
(4)ア X1車は、自家用普通乗用自動車(トヨタRV四)であり、車長三・七八メートル、車幅一・六九メートル、車高一・六五メートルである。(甲四)
イa Y2車は、事業用普通貨物自動車であり、車長七・九一メートル、車幅二・三二メートル、車高三・二五メートルである。(甲四)
b Y2車のヘッドライトは、ディスチャージヘッドランプを使用していたほか、排気ブレーキが付いていた。(乙三八一、被告Y2)
(5) 原告X1の受傷、入通院の経過
ア 原告X1は、本件事故により、胸椎脱臼骨折、胸髄損傷、頭皮挫創、右股関節脱臼骨折、両股関節外傷性骨化性筋炎、右鎖骨骨折、排尿障害等の傷害を負った。
イ(ア) 原告X1は、本件事故の翌日の平成一六年一二月六日、救急車で友愛記念病院に搬送されたが、手術及び治療ができず、同日、筑波メディカルセンター病院に転送され、同日から平成一七年二月一〇日まで(六七日)、同病院に入院した。
(イ) 原告X1は、同年二月一〇日から同年八月二八日まで(二〇〇日)、熊本機能病院に入院した。
(ウ) 原告X1は、同年八月二八日から同年一〇月三日まで(三七日)、国立病院機構熊本医療センターに入院した。
(エ) 原告X1は、同年一〇月三日から同年一二月二九日まで(八八日)、熊本リハビリテーション病院に入院した。
(オ) 原告X1は、同日、同病院を退院した後現在に至るまで、熊本市城山所在の介護マンションで生活し、同病院に通院している。
(6) 原告X1の後遺障害
ア 原告X1は、平成一七年八月二八日、症状固定との診断を受けた。(乙八)
イ 原告X1は、平成一九年六月、熊本調査事務所により、胸髄損傷による両下肢麻痺等の症状について、両下肢が完全に麻痺を呈しており、膀胱直腸障害が認められることから、これらの障害のために生命維持に必要な身の回りの処理の動作について、常に他人の介護が必要なものと捉え、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として自賠責等級別表第一第一級一号に該当するとの後遺障害等級の認定を受けた。(乙三)
(7) 損害の填補
原告X1は、平成一九年七月三日、自賠責保険から、四一二〇万円の支払を受けた。
二 争点
〔甲事件関係〕
(1) 原告X1の責任原因
(被告Y1の主張)
ア 原告X1は、X1車を運転して直進走行するにあたり、ハンドル操作を適切に行い、自車線内を走行すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、対向車線にX1車を進出させ、A車と衝突し、その反動で自車線にX1車を停止させ、Y2車の進路を妨害した過失がある。
イ したがって、原告X1は、被告Y1に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負う。
(原告X1の主張)
ア 本件事故は、後記(3)の原告らの主張のとおり、被告Y2のあおり行為により発生したものであり、原告X1には、過失がない。
イ したがって、原告X1には本件事故について損害賠償義務はない。
(2) 被告Y1の損害額
(被告Y1の主張)
原告の主張する損害額は、次のとおりである。
ア 修理費 二一一万〇五五二円
イ 代車料 二三万円
ウ 弁護士費用 二四万円
(原告X1の主張)
被告Y1の主張は否認する。
〔乙事件関係〕
(3) 被告Y2及び被告Y1の責任原因
(原告らの主張)
ア 被告Y2は、本件道路を進行中、本件事故を起こす前に、軽四輪自動車の後ろを追従して走行するにあたり、車間距離を狭くして走行する、いわゆるあおり行為をし、同軽四輪自動車が左折するにあたり、Y2車が衝突しそうになり、右にふくらんで衝突を避けた。被告Y2は、更に、速度を上げて時速七〇ないし八〇キロメートル以上の速度で走行し、X1車に追い付き、軽四輪自動車の時と同様車間距離を狭めた、いわゆるあおり行為による走行方法で追従した。
そして、被告Y2が、本件現場の手前の交差点でX1車の後に赤信号で一旦停止し、その後、青信号で発進した後、更に、X1車に時速七〇キロメートル以上の速度で異常に接近し、あおり行為を繰り返したため、原告X1は、前方注視義務、適切なハンドル操作、ブレーキ操作を行う義務を履行できない状態に陥り、X1車の一部を対向車線に進出させてしまい、対向してきたA車と衝突し、その反動でX1車が元の車線に戻ったところ、X1車の後方を走行していたY2車がX1車の右側面に激突した。
イ 被告らの責任原因は、次のとおりである。
(ア) 主位的主張
被告Y2は、本件事故以前から、Y2車が通常のハロゲンヘッドランプより三倍の明るさを持つディスチャージランプ装着車であり、しかも重量の重い四トン車である上、排気ブレーキ音が空気銃の発射音のような威圧感のある音であること、このような運転車両をもって、更に先行車両との車間を狭めてセンターライン側に自車を寄せながら制限速度を超える時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度で走行する運転(以下、「本件あおり行為」あるいは、「本件あおり運転」という。)を繰り返すと、先行車両の運転者に恐怖感や違和感を与えることを知りながら、先行車に義務なく避譲させたり、速度を上げさせる目的で、恐怖感、違和感を加えて先行車の運転を妨害していた。
被告Y2は、Y2車を運転し、X1車に追従して走行するにあたり、X1車との車間距離を十分保持して、前方のX1車が前方注視義務、適切なハンドル操作、ブレーキ操作を行う義務が履行されるように安全な速度と安全な方法(車間距離の保持など)で後方を走行すべき義務があるのに、これを怠り、時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度でX1車に異常接近した。そして、X1車との車間距離が約六メートルに縮まったにもかかわらず、その本件あおり運転の状態で少なくとも約二五八・二メートルの距離を、少なくとも時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で追従走行を続け、本件事故直前も同様に、X1車を後方から追い立ててあおった。
そのため、原告X1は、恐怖心とともに気が動転し、Y2車のディスチャージライトも眩しくて、前方注視義務の履行が困難になり、ハンドル、ブレーキ操作を誤り、対向車線に、X1車の一部を進出させてしまった。その結果、X1車は、A車に衝突し、その反動で自車線に戻ったが、後方から進行していたY2車がX1車の側面に激突した。
したがって、被告Y2は、民法七〇九条(故意または、過失)に基づき、また、被告Y1は、自賠法三条、民法七一五条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(イ) 予備的主張
被告Y2は、本件事故前から、Y2車が通常のハロゲンヘッドランプより三倍の明るさを持つディスチャージランプ装着車であり、しかも重量の重い四トン車である上、排気ブレーキ音が空気銃の発射音のような威圧感のある音であること、このような運転車両をもって、更に先行車両との車間を狭めてセンターライン側に自車を寄せながら制限速度を超える時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度で走行する運転を繰り返すなら先行車両の運転者に恐怖感や違和感を与えることを知りながら、先行車に義務なく避譲させたり、速度を上げさせる目的で、恐怖感、違和感を加えて先行車の運転を妨害していた。
被告Y2は、Y2車を運転し、X1車に追従して走行するにあたり、X1車との車間距離を十分保持して、前方のX1車が前方注視義務、適切なハンドル操作、ブレーキ操作を行う義務が履行されるように安全な速度と安全な方法(車間距離の保持など)で後方を走行すべき義務があるのに、これを怠り、時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度でX1車に異常接近した。そして、Y2車は、この義務に反するばかりか、逆に、X1車との車間距離が約六メートルに縮まったにもかかわらず、そのあおり運転の状態で少なくとも約二五八・二メートルの距離を、少なくとも時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で追従走行を続け、本件事故直前も同様に、X1車を後方から追い立ててあおった。
原告X1は、自車線内を走行すべきであったにもかかわらず、対向車線に、X1車の一部を進出させてしまった。その結果、A車に衝突し、その反動で自車線に戻ったが、後方から進行していたY2車が車間距離保持義務と制限速度保持義務に各違反し、異常に接近して、かつ高速度で走行していたためX1車の右側面に激突した。被告Y2は、X1車の後ろを追従して走行した場合、X1車がY2車との追突を避けるため冷静、安全な運転に影響を及ぼし対向車線に飛び出すなど異常な状況の発生が予測されるのに、あえて車間距離を保持せず接近した状態で、かつ高速度で走行したことにより、X1車との衝突を回避できず、X1車に自車を激突させ、原告X1に重傷を負わせた。
したがって、被告Y2は、民法七〇九条(故意または過失)に基づき、また、被告Y1は、自賠法三条、民法七一五条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(主位的主張は、一次衝突、二次衝突ともに、各結果を招いた主要な要因は被告Y2の危険な本件あおり行為にあり、同被告は、事故の主要な原因を惹起した責任を負うべきとの主張である。予備的主張は、一次衝突について、被告Y2の本件あおり行為の影響を否定した場合の被告Y2の責任原因に関する主張である。)
(被告らの主張)
ア 原告らの主張のうち、Y2車が本件事故の前に軽四輪自動車の後を追従して走行したことは認めるが、その余は争う。
イ 被告Y2は、Y2車を運転し、本件道路を古河市三杉町方面から三和町方面に向けて走行していた。本件現場より三〇〇メートル手前の信号で、X1車を先頭にし、続いてY2車が赤信号で停止し、青信号に変わり、X1車はすぐに発進し、Y2車も続いて発進した。Y2車は、時速約六五キロメートルで走行したため、別紙図面表示の①地点でX1車との車間距離が六メートルに接近し、その車間距離のまま二五二・一メートル進行した同図面表示の②地点で、被告Y2は、X1車が対向車線に向かって走行して行くのを発見した。X1車は、同図面表示のfile_6.jpg1地点でA車と衝突し、被告Y2は、それを別紙図面③地点で発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、同図面表示のfile_7.jpg2地点で、A車との衝突の衝撃で元の車線に押し戻されたX1車の右後部と自車右前部が衝突した。
ウ(ア) Y2車のタコグラフ(甲六)によれば、最終部分の約五分間を分析すると、Y2車は、時速二〇キロメートル以下となった(二〇キロメートル未満の速度は構造上表記されない。)後、一分三〇秒ほどして、時速八一キロメートルの速度に上がり、その後、時速三三キロメートルまで減速し、ふたたび加速し、時速六五キロメートルの遠度で二、三分ほど走行した後、同速度のままで衝突していた状況がうかがわれる。これからすると、被告Y2は、信号で停止した後、発進し時遠八一キロメートルまで加速したものの、先行のX1車に追いついたことから減速し、X1車の走行していた時速六五キロメートル程度の速度で二ないし三分間走行していたと推認される。そうすると、一次衝突までの間、不自然な加減速の繰り返しといったあおり運転ととらえられるものは存在しないのである。確かに、時速六五キロメートルという速度は、本件現場の道路での最高速度を一五キロメートル程度超過するものではあるが、むしろこの速度はX1車の走行速度とも考えられるのである。
(イ) ディスチャージランプは乗用車にも用いられるものであり、ディスチャージランプ及び排気ブレーキは、法令に定められた範囲内のものであること、Y2車の一旦停止後の減速措置は一回のみであり、その後二、三分間は時速六五キロメートルという一定の速度で走行していたことが、上記タコグラフから読みとれること、Y2車の走行位置は、被告Y2が供述するようにセンターライン寄りを走行していたものであるが、大型車の特性からセンターライン寄りを走行するものであって、X1車に追従する間一貫してその位置を走行していたものであり、X1車に追いついたところで道路左側からセンターラインに寄せるといったものではなく、原告らが主張するように、Y2車の運転方法には、意図的に、原告X1に恐怖感、威圧感を与える行為は一切認められない。
(ウ) このように、Y2車の走行速度、走行位置、車両の装置等からして、Y2車には、原告X1に対し、恐怖感、威圧感を与える行為は認められない。原告らは、目撃者である証人Cの証言を重要視するが、同人はY2車がX1車を追従する様子自体を直接目撃していたものではなく、単に事故発生後本件現場に至り、警察に通報したのみであり、事故発生後の実況見分にも立ち会っておらず、同人の証言は、重大事故の発生を知り、かつ、原告らとのコンタクトの過程によって生じた同人の後知恵による主観的なものであり、その信用性は極めて低いものといわざるを得ない。
エ(ア) 原告X1がY2車にあおられていると感じていたならば、本件現場手前の信号機により交通整理の行われている交差点で、赤信号のため、X1車、次いでY2車が停止したのであるから、原告X1において、信号表示が青に変わった段階で左折するなどしてY2車を先に行かせるなり、本件現場手前のコンビニエンスストアの駐車場に進入するなどの回避行動をとることが十分に可能であったものである。むしろ、本件事故発生時間は、深夜の午後一一時四五分であること、被告Y2の供述及び実況見分調書に見られるようにX1車は吸い込まれるように対向車線に進出したこと、X1車の速度がY2車より若干低速の時速六〇キロメートルで進行していたとすれば秒速一六・六七メートルであること、X1車のはみ出し開始地点から一次衝突までの距離が一九・一メートルであり、はみ出しから一次衝突までに要する時間は一・一四秒であることからして、原告X1は、一瞬睡魔におそわれ対向車線に進出したものと推認することができる。
(イ) 他方、被告Y2において、先行車が対向車線に進出し、対向車と衝突して一瞬のうちに速度が激減するような事態は通常は予測不可能であり、かかる事態を予測した上でなお衝突が回避可能な程度の速度及び車間距離をとるまでの注意義務を被告Y2に課すことは適当ではなく、被告Y2の過失責任を問うことは相当ではない。仮に、被告Y2の過失責任を問うとしても、車間距離が六メートル程度であったこと、制限速度を時速一五キロメートル超過していたことについてであり、その過失は一〇パーセントを超えるものではない。
オ 原告らは、被告Y2がX1車に異常接近した上に、X1車をあおり立てた旨主張するが、Y2車に多少の車間距離不足があるとしても、パッシングやクラクションを鳴らしたり、あおり立てるような行為は一切行っていない。被告Y2の行為には違法、過失はなく、本件事故との間に何ら因果関係がない。したがって、本件事故は、対向車線に進出してA車と衝突し、更にその反動で元の走行車線を塞いだ原告X1の全面的な過失による事故というほかない。
(4) 原告X1の損害額
(原告X1の主張)
原告X1の主張する損害額は、次のとおりである。
ア 治療費 四七〇万六四四五円
(ア) 友愛記念病院 三万一四二八円
(イ) 筑波メディカルセンター病院 一二三万五三三七円
(ウ) 熊本機能病院 二一四万二三七七円
(室料差額四七万八七六七円を含む。)
(エ) ひらやまクリニック 五九九〇円
(オ) 総合せき損センター 九六五〇円
(カ) 国立病院機構熊本医療センター 一九万五五二〇円
(キ) 熊本リハビリテーション病院 一〇八万二三五三円
(室料差額四一万四七五〇円を含む。)
(ク) h皮ふ科医院 三七九〇円
イ 現在までの介護関係費用 四七七万一六一三円
原告X1は、現在(平成一九年一〇月)までの介護関係費用として、次のとおり合計四七七万一六一三円を要した。
(ア) 入院時の備品及びおむつ並びにリハビリの洋服等 七四万九七〇七円
(イ) ベッド、特殊マット、シーツ、車椅子、床ずれ予防品 九四万九三九〇円
(ウ) 介護マンションの月々の家賃(平成一八年一月分から平成一九年一〇月分まで) 一五七万九六三九円
(エ) 介護マンション入居のための用品代 一二二万七六四四円
(オ) 訪問看護料(平成一七年一二月分から平成一八年六月分まで) 一九万五九四五円
(カ) ヘルパー代(平成一八年四月分から平成一九年七月分まで) 六万九二八八円
ウ 入院付添費 三一一万二〇〇〇円
(ア) 原告X1の傷害は、日常生活についてほぼ全介助を要する極めて重症であり、また、精神障害の発現等もあって、原告X1は、上記争いのない事実等(5)イの入院期間(三八九日)中、毎日付添看護を要し、主に原告X1の父である原告X2が毎日付き添っていた。
(イ) 原告X1の傷害の内容、程度等からして、原告X1は、本件事故により受傷し、入院していた全期間(三八九日)、付添看護を要したものというべきである。
(ウ) 一日当たりの近親者付添費は、八〇〇〇円が相当であるから、付添看護費は、次のとおり三一一万二〇〇〇円となる。
8000×389=3112000
エ 入院雑費 五八万三五〇〇円
原告X1の入院期間(三八九日)について、一日当たり、一五〇〇円を認めるのが相当であるので、次のとおり五八万三五〇〇円となる。
1500×389=583500
オ 入院中の交通費等 一四七万四四四五円
(ア) 原告X1の生死の境をさまよう重篤な状況に驚き、入院中の原告X1のもとに付添看護のためかけつけた交通費、宿泊費、その後の付添看護のための交通費、宿泊費等、原告X1の治療、リハビリ等のための費用については、原告X1の重篤な状況、原告X1の両親の自宅が遠方であることから、その必要性が認められるので、これは本件事故による損害として認められるべきである。
(イ)a 原告X1分 四〇万七一六〇円
b 原告X2分 二六万八二一〇円
c 原告X4分 五五万五一七五円
d 原告X3分 一四万四九〇〇円
e D(原告X4の弟)分 五万八八〇〇円
f 筑波メディカルセンターの介護士分 四万〇二〇〇円
カ 将来の付添介護費 一億〇八六三万〇二〇五円
(ア) 原告X1は、平均余命四五年にわたり、生命維持に必要な身の回りの処理の動作について介護を要するところ、原告X4は、六七歳までの七年間は何とか介護可能であるので、近親者介護費として一日一万円が相当であるから、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、症状固定時の現価を算定すると、次のとおり二一一一万九九九五円となる。
10000×365×5.7863=21119995
(イ) 原告X4が、六八歳になれば、体力の減退等により原告X1の介護にあたるのは不可能であり、フルタイムの職業人介護を要する。職業人介護費用は、一日二万円を下回ることはないので、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、症状固定時の現価を算定すると、次のとおり八七五一万〇二一〇円となる。
20000×365×(17.7740-5.7863)=87510210
キ 将来器具、装具 一〇二四万四七一九円
(ア) 日常用車椅子代 一二〇万七五六五円
(イ) 外出用車椅子代 一九八万六二四四円
(ウ) 車椅子付属品(移乗用) 七万二七八四円
(エ) 特殊寝台 一二九万九三九〇円
(オ) 特殊寝台専用マットレス 二六万一二七七円
(カ) 特殊寝台専用手すり 三三万五九二八円
(キ) ベッドマットレス用ボックスシーツ(防水シーツ) 九五万一七九七円
(ク) ベッドサイドテーブル(特殊寝台付属品) 一九万〇三五九円
(ケ) トイレ用手すり 三八万七四七三円
(コ) 浴室用手すり 一三万一三四九円
(サ) 浴室用移乗台 四二万六五七六円
(シ) 自助具(ガットリハビリィ) 一万六七九六円
(ス) 入浴時の移動式リフト 一〇八万八七八五円
(セ) (ス)の保守点検費用 三一万九九三二円
(ソ) 外出時の移動式リフト 八八万五一四五円
(タ) (ソ)の保守点検費用 二六万六六一〇円
(チ) 床ずれ予防用具 二八万七九三八円
(ツ) 体位変換補助用具 八万八三三六円
(テ) 扁足予防用具 四万〇四三五円
(以上のうち、(ア)ないし(ケ)、(サ)、(シ)、(チ)ないし(テ)は、既に購入して使用している。その余は、賠償を得て自宅を改造した場合に購入して使用するものである。)
ク 将来の雑費 一〇七八万二二四〇円
現在使用している介護消耗品は、一生必要なものであり、相当期間で交換の必要もある。
(ア) 紙おむつ、尿取りパット、平おむつ等 七九二万一二四九円
原告X1は、生涯(四五年間)にわたって常時介護が必要であり、その中で日々、紙おむつ、尿取りパット、平おむつ、おしり拭きシート、消臭スプレーなどの雑費が生じる。雑費の日額は、一二二一円が相当である。
したがって、次のとおり七九二万一二四九円が必要である。
1221×365×17.7740=7921249
(イ) ペットボトル代 二八六万〇九九一円
原告X1は、神経因性膀胱炎に罹患し、熱を出さないためにも水分を取り、尿を出す必要があり、現在、毎日三ないし四本のペットボトルが必要不可欠であり、また、尿を取るのに、ペットボトルを自己導尿の容器(五〇〇ml)として使用し、原告X4がトイレに尿を捨て、容器は、収集日に出している。
したがって、次のとおり二八六万〇九九一円が必要である。
147×3×365×17.7740=2860991
ケ 自宅改造費 三三六五万二九三八円
(ア) 原告X1は、現在、介護マンションで生活しているが、本件訴訟が終結し、損害賠償金が支払われれば、自宅に戻り、原告X2、原告X4ら家族と自宅で生活する予定であるが、原告X1が自宅での介護生活を送るためには、自宅を介護仕様の住宅に改造する必要がある。
(イ) 自宅を改造した場合の見積額に消費税分を加算すると、三三六五万二九三八円となる。原告X1の後遺障害の内容及び程度を勘案すれば、原告X1が請求している程度の改造は原告X1が介護生活を送るために必要なものである。
(ウ) 被告らは、原告X1は基本的には日常生活は車椅子使用にてほぼ自立しており、浴槽につかること及び車椅子が倒れるなどの事態が生じた場合に一部介助、見守りが必要なレベルであるとの前提で、改造に必要な見積額としては八五三万四一五五円であると主張する。しかしながら、この金額では、必要な改造はできない。改造計画を縮小し、工事材料を安価のものにしても二三五三万六五〇二円は必要である。
コ 逸失利益 一億一〇四三万八三九二円
(ア) 原告X1は、平成一六年一〇月四日、後遺障害等級一級一号の後遺症が残存したものであり、労働能力の一〇〇パーセントを喪失した。
(イ) 原告X1は、企業に勤務するため、英会話、経済学等を勉強する目的で、平成五年、a大学の姉妹校b(米国)の大学に入学し、c大学に編入し、更に、d大学に編入し、e大学に編入して勉強していた。
(ウ) 原告X1は、症状固定日当時三二歳であったところ、本件事故に遭わなければ、六七歳まで就労可能であった。
(エ) 原告X1は、平成一四年賃金センサス第一巻第一表による産業計・企業規模計・年齢計の大卒男子労働者の平均年収額六七四万四七〇〇円の収入を得る蓋然性があったから、原告X1の逸失利益は、次のとおり一億一〇四三万八三九二円となる。
6744700×16.3741=110438392
サ 傷害慰謝料 八〇〇万円
シ 後遺症慰謝料 三五〇〇万円
(ア) 原告X1は、f県立g高等学校卒業後、a大学(姉妹校b大学)に入学し、その後、上記コのとおり、米国の大学で勉学に努めていた。
(イ) ところが、原告X1は、突然、一瞬のうちに、本件事故により後遺障害等級第一級に該当する後遺障害を残す重傷を負わされ、一生、ベッド、車椅子での生活を余儀なくされ、堪能な英語を活用し、国際的ビジネスマンとして活躍する将来の夢も無惨に打ち砕かれてしまった。
(ウ) 以下の事情も、後遺障害慰謝料を算定するについて、斟酌されるべきである。
a 将来の手術費、治療費、リハビリ費
原告X1の股関節の辺りに仮骨ができており、足を自分では動かせない。車イスに乗るために自分の手で足を持ったりする際、足がピンと伸びて曲げたりするのができなくなっている。臀部を手術して作ってもらったが、体が斜めになっていて、それも三回くらい手術しないとまともにはならないと言われている。現在もまっすぐには座れない。したがって、将来、臀部の形成手術を三回くらいしなければならない。
原告X1は、膀胱炎になっており、毎月の検査が必要不可欠である。原告X1は、胸から下がまったく感覚がないため便出し、尿出しのための薬が必要となっている。
b 人工授精費
原告X1は、本件事故のため、人工授精をしなければ子供を持つことができない身体状況となった。
ス レッカー代 七万九〇五〇円
セ 確定遅延損害金 五三一万〇八四九円
原告X1は、上記争いのない事実等(7)のとおり、自賠責保険金四一二〇万円の支払を受けたが、これに対する本件事故日から支払日まで(九四一日)の確定遅延損害金は、次のとおり、五三一万〇八四九円となる。
41200000×0.05÷365×941=5310849
ソ アないしセの合計 三億三六七八方六三九六円
タ 損害の填補 四一二〇万〇〇〇〇円
チ 弁護士費用 二九〇〇万〇〇〇〇円
(被告らの主張)
ア 治療費について
(ア) 上記原告X1の主張アのうち、(ア)ないし(オ)は認める。
(イ) 同(カ)ないし(ク)は否認する。
原告X1は、平成一七年八月二八日に症状固定と診断されており、症状固定後の治療費は、認められない。
イ 介護関係費用について
(ア) 上記原告X1の主張イのうち、(ア)、(ウ)ないし(カ)は認める。
(イ) 同(イ)は否認する。
ウ 入院付添費について
否認する。
診断書に付添看護が必要である旨の記載がない。
エ 入院雑費について
一日一一〇〇円が相当である。
オ 交通費について
上記原告X1の主張オは認める。
カ 将来介護料について
原告X1は、食事、更衣、洗顔、シャワー、排泄、車椅子での移動・外出といった日常生活動作は自立しており、浴槽への出入り、車椅子が倒れたときの介助が必要な程度である。したがって、家族介護として、多くても日額二〇〇〇円を超えるものではなく、また、職業介護の必要性は認められない。
キ 将来器具・装具について
原告X1は、将来の器具装具を請求するが、それらの耐用年数について何らの立証がなされないまま、極めて短いサイクルが設定されているものである。特にトイレ用手すり及び浴室用手すりについては、それぞれ五年と一〇年とされているが、一般的に見ても極めて短期のサイクルといわざるを得ない。
ク 将来の雑費
原告X1は、水分補給用として五〇〇mlのお茶のペットボトル一本一四七円を請求している。しかしながら、大量購入であれば当然単価が低く抑えられるものであり、また、水分補給という目的からすれば、お茶ではなく水で足りるものであり、水道水が適さないという理由も見あたらない。自己導尿の容器としても再利用は可能であり、したがって、原告X1の将来の雑費の請求は認められない。
ケ 自宅改造費
原告X1は、自宅改造費として三三六五万二九三八円を請求している。しかしながら原告X1の見積額及び改造内容は、まさしく新築の家を建設するものである。原告X1は、基本的には日常生活は車椅子使用にてほぼ自立しており、浴槽につかること及び車椅子が倒れるなどの事態が生じた場合に一部介助、見守りが必要なレベルである。原告X1が自立した生活に必要とする改造費としては八五三万四一五五円が相当である。
コ 逸失利益について
原告X1は、逸失利益の基礎収入額として、賃金センサス平成一四年第一一巻第一表・大卒男子労働者の年収額を主張する。しかしながら、原告X1は、本件事故当時三二歳であったにもかかわらず無職であったこと、原告X1がアメリカで在籍していた学校は語学研修校であり、かつ、数年にわたる在籍にもかかわらず終了のめども立っていなかったことからして、大卒男子労働者の平均収入額を得る蓋然性は認められないし、原告X1の年齢を考慮すれば、高卒男子労働者の平均年収額五〇二万七一〇〇円を得る蓋然性もないものといわざるを得ない。このような観点からすれば、原告X1の基礎収入額は、高卒男子労働者の平均年収額の六〇パーセントにあたる三〇一万六二六〇円を超えるものではない。
(5) 原告X2、原告X4、原告X3の損害額
(上記原告らの主張)
上記原告らの主張する損害額は、次のとおりである。
ア 原告X2
(ア) 慰謝料 八〇〇万円
(イ) 弁護士費用 八〇万円
イ 原告X4
(ア) 慰謝料 八〇〇万円
(イ) 弁護士費用 八〇万円
ウ 原告X3
(ア) 慰謝料 三〇〇万円
(イ) 弁護士費用 三〇万円
(被告らの主張)
争う。
(6) 原告共栄火災が保険代位に基づいて取得した損害賠償請求権の額
(原告共栄火災の主張)
ア(ア) Aは、本件事故により、右肋骨々折、頚椎捻挫、腰部打撲、右肘、左肩、左下腿打撲の傷害を負った。Aは、治療のために、平成一六年一二月六日、同月七日、猿島赤十字病院に通院し、同月一〇日から同月三一日まで、山本整形外科に通院し、平成一七年二月一日から同月二一日まで、同外科に通院した。
(イ) Bは、本件事故により、左膝、右手関節打撲、口腔内裂傷等の傷害を負った。Bは、治療のために、平成一六年一二月六日、猿島赤十字病院に通院し、同月七日から平成一七年二月七日まで上三川病院に通院し、同月六日から平成一八年七月一一日まで、ないき歯科クリニックに通院した。
イ 原告共栄火災は、平成一七年三月二四日、原告X2に対し、X1車が経済的に全損状態であるので、四〇万円を支払った。
ウ 原告共栄火災は、Aに対し、次のとおり支払った。
(ア) 原告共栄火災は、平成一六年一二月二七日、Aに対し、Aが被った次の損害合計二九四万一五八二円を支払った。
a A車の車両損害 二八〇万円
b 救助費 六万二四一二円
c 代車費用 七万九一七〇円
(イ) 原告共栄火災は、平成一七年三月一五日までに、Aに対し、Aが被った次の損害合計九一万三一三九円を支払った(うち五九万六九三九円は、自賠責保険から回収済みであるので、残額は三一万六二〇〇円となる。)。
a 治療費 二四万六二五九円
b 通院交通費 六八八〇円
c 休業損害 四四万円
d 慰謝料 二二万円
エ 原告共栄火災は、平成一八年八月三〇日までに、Bに対し、Bが被った次の損害合計二一三万一三一九円を支払った(うち一二〇万円は、自賠責保険から回収済みであるので、残額は九三万一三一九円となる。)。
(ア) 治療費 一一一万七〇八九円
(イ) 通院交通費 四二三〇円
(ウ) 休業損害 四〇万円
(エ) 慰謝料 六一万円
オ 本件事故について、原告X2、A及びBに対し、被告Y2は、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負い、被告Y1株式会社は、自賠法三条及び民法七一五条に基づく損害賠償義務を負うので、原告共栄火災は、原告X2、A及びBの被告らに対する損害賠償請求権を取得した。
(被告らの主張)
争う。
第三争点に対する判断
一 争点(1)(原告X1の責任原因)について
(1) 証拠(甲一、四ないし七、乙一、二七六、証人C、原告X1、被告Y2)によれば、次の事実が認められる。
ア(ア) 本件現場は、別紙図面のとおりの、古河市三杉町方面(西方向)から三和町方面(東方向)に通じる本件道路(片側一車線で、幅員約三メートル)上である。本件道路の北側には、幅員二・五メートルの路側帯があり、その北側には、幅員〇・六メートルの有蓋側溝がある。本件道路の南側には、幅員〇・五メートルの路側帯がある。本件現場は、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制があるほか、最高速度が、時速五〇キロメートルに制限されていた。
(イ) 本件道路は、X1車が進行してきた進行方向からすると、本件現場手前から本件現場にかけて、緩やかな右カーブとなっているが、本件事故当時、夜間で暗かったものの、道路は平坦で視界を妨げるものはなかった。本件現場の北側には、コンビニエンスストアとその駐車場があった。
イ(ア) 原告X1は、本件事故当日、茨城県所在の友人宅を訪れた後、千葉県所在の自宅に帰るため、X1車を運転し、本件道路を走行した。
(イ) X1車は、本件現場の手前で、Y2車が後ろにつく状態となり、その状態が約一〇分間続いた(本件事故の直後に行われた実況見分の際、Y2は、警察官に対し、X1車と衝突する直前〔別紙図面表示の①から同図面表示の②までの間〕に、約六メートルの車間距離を維持したまま、走行したように指示説明した。)。
(ウ) X1車は、本件現場手前の別紙図面表示のfile_8.jpgの地点で、突然対向車線に進路を変え、センターラインを越えた後、対向車線上の同図面表示のfile_9.jpg1の地点で、対向してきたA車の右前部にX1車の右前部が衝突し、その後、時計回りに約九〇度回転して、同図面表示のfile_10.jpg2の地点で、センターラインを跨いで横向きになったX1車の右後部にY2車の右前部が衝突した。
(エ) X1車は、対向車線上の別紙図面表示のウの地点に、古河市三杉町方面(西方向)を向いて停止し、原告X1は、衝突時に車外に放り出されて、対向車線上のセンターライン付近に倒れた。A車は、本件現場において、本件道路から分岐して、総和町関戸方面に至る道路の入口付近(別紙図面表示のfile_11.jpg)に停止した。
ウ(ア) 被告Y2は、Y2車を運転し、古河市所在の青果市場で荷物を下ろして、同日午後一一時三〇分過ぎに被告Y1株式会社への帰途につき、国道四号線から国道一二五号線(本件道路)に入り、走行した(証拠〔甲六〕によれば、同日午後一一時台には、Y2車は、概ねスピードを出して走行し、時速八〇キロメートルを超える速度で走行したこともあったことが認められる。)。被告Y2は、本件現場の先にある交差点を右折して、国道四号線(新四号バイパス)に入り、被告Y1株式会社に帰社する予定であった。
(イ) Y2車のヘッドライトは、ディスチャージヘッドランプを使用していて、ハロゲンランプより照度が高いものであった(その分、ディスチャージヘッドランプの明かりを見た対向車の運転者や、バックミラーでこれを見た運転者は、眩しく感じるものであった。)ほか、排気ブレーキが付いていて、ブレーキをかけた際に、排気音がするものであった。
(ウ) Y2車は、本件現場の手前で、軽四輪自動車の後方を走行したが、その際、Y2車は、軽四輪自動車との車間距離をつめて走行した。そのうち、軽四輪自動車は、減速して左折したが、その際、Y2車は、同自動車と衝突しそうになり、センターラインを大きく越えてよけた後、スピードをあげて走行していった。Y2車の後方を走行していた引越センターの配送車の運転手Eと同乗者のCは、Y2車の運転方法を見て、危険な運転をするものと話し合った。
(エ) Y2車は、間もなくX1車の後ろにつき、X1車に追従して走行するようになったが、本件現場手前の交差点で、X1車及びY2車は、赤信号で一時停止した。間もなく、青信号となり、ともに発進したが、X1車が加速がよく先に進行したものの、間もなく、Y2車がX1車に追いつき、Y2車が再びX1車の後ろにつき、X1車に追従して走行するようになった。その際、X1車の前方及びY2車の後方には、いずれも車両がなかったにもかかわらず、被告Y2は、Y2車とX1車との車間距離をつめた状態のまま、走行した(Y2車の本件事故の直前の速度は、時速六五キロメートルであった。Y2車がX1車の後ろにつき、X1車に追従して走行する状態が、信号で停止した前後を併せて約一〇分間続いた。)。
(オ) 被告Y2は、X1車が突然対向車線に進路を変え、センターラインを越えた後、対向車線上の別紙図面表示のfile_12.jpg1の地点で、対向してきたA車の右前部にX1車の右前部が衝突したのを見たが、その直後に、同図面表示のfile_13.jpg2の地点で、センターラインを跨いで横向きになったX1車の右後部にY2車の右前部が衝突した。Y2車は、X1車との衝突地点から、左側の路側帯に向けて斜行し、上記コンビニエンスストアの駐車揚の南東側角付近(同図面表示の④)で停止した。
(カ) 上記(ウ)の配送車は、間もなく、本件現場を通りかかり、Eらは、本件事故に気づき、本件現場北側のコンビニエンスストアの駐車場に車を止め、警察等に対する連絡をした。
エ 本件事故により、
(ア) X1車は、右前部バンパー凹損・右前部フェンダー・フロントガラス破損、右前部ドア凹損・右前輪折損・右後輪脱落・屋根部曲損等の、
(イ) Y2車は、右前部バンパー凹損・右前照灯破損・右ドア凹損等の、
(ウ) A車は、右前部バンパー破損・右前照灯破損・ボンネット凹損、右前部ドア凹損・フロントガラス破損・右前輪パンク等の損傷を受けた。
(2)ア あおり行為とは、「直前の車両に接近し、その直後を進行することなどによって、前方の車両の運転者に対して心理的圧力を加え、無理な加速や進路変更を強いること」をいうと解すべきところ、上記(1)に認定の事実によれば、被告Y2は、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がある区間において、最高速度が、時速五〇キロメートルに制限され、X1車の前方及びY2車の後方には、いずれも車両がなかったにもかかわらず、交差点で一時停止した前後の合計約一〇分間にわたり、不必要にX1車に接近してその直後を追従した状態を継続し、しかも本件事故の前には、制限速度を超える速度(事故の直前では、少なくとも時速六五キロメートルであった。)で走行を継続したものであるところ、上記争いのない事実等(4)のとおり、X1車は、車幅一・六九メートル、車高一・六五メートルの普通乗用自動車であるのに対し、Y2車は、車幅二・三二メートル、車高三・二五メートルの普通貨物自動車であるうえ、Y2車のヘッドライトは、ディスチャージヘッドランプを使用していて、原告X1に対し、サイドミラー等により眩しさを感じさせるものであったほか、排気ブレーキが付いていて、ブレーキをかけた際に、排気音が出るものであったから、被告Y2の上記運転行為は、原告X1に対し、心理的圧力を加えるものと認められ、したがって、被告Y2は、X1車に対し、あおり行為をしたものと認めるのが相当である(なお、本件全証拠によっても、被告Y2が、本件事故の発生を予見して、故意に上記運転行為を行ったとまでは認めるに足りない。)。
イ 次に、被告Y2のあおり行為と本件事故との因果関係について判断する。
(ア) 上記(1)に認定の事実に基づいて検討すると、本件事故の原因としては、①原告X1の居眠り運転、②原告X1の脇見運転、③被告Y2のあおり行為が考えられる。
まず、上記①については、証拠(原告X1、被告Y2)によれば、原告X1は、本件事故直前に、道路状況に合った運転をしていたこと(被告Y2自身、X1車は道路状況にあった運転をしていて、原告X1は本件事故当時居眠り運転をしていなかったと供述する。)、原告X1は、千葉県所在の自宅に戻るために走行していたものであるが、本件事故当時、茨城県の友人宅から運転を開始して長時間が経過していたものでもなく、眠気を生じる可能性は低いことが認められる。むしろ、上記(1)に認定の事実によれば、原告X1は、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がある区間で、Y2車から、自車の後部に接近した状態で約一〇分間にわたり走行を継続されたものであるから、これにより、本件事故当時、精神的な緊張状態を強いられていたことが容易に認められるというべきである。以上を総合すると、原告X1が居眠り運転をしたと認めることはできない。
次に、上記②については、証拠(甲四、五、証人C、被告Y2)によれば、本件現場付近は、緩い右カーブが続いているところで、原告X1の進行方向から見て、進路左側にコンビニエンスストアがある程度であることが認められる。これらの事実によれば、原告X1が本件現場において特に脇見運転をする状況にあったとは認められないというべきである。
そこで、上記③について検討すると、上記(1)に認定のとおり、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がある区間において、Y2車から、前後に車両がなかったにもかかわらず不必要に接近された上、X1車の直後を追従し、制限速度を超える状態で約一〇分間にわたり走行を継続され、その間、夜間におけるY2車のヘッドライトの明るさ(Y2車のヘッドライトが眩しくても、ルームミラーを防眩状態とすることで対処可能と認められるところ、本件全証拠によっても、原告X1が本件事故当時X1車のルームミラーを防眩状態としていたかどうかを確定するに足りる証拠はないが、仮に、原告X1が本件事故当時X1車のルームミラーを防眩状態としていたとしても、原告X1が、サイドミラーによりY2車のヘッドライトが眩しく感じられる状態にあったと認められる。)及びY2車がブレーキをかけた際に生じる排気ブレーキの音による影響も継続されたことを総合すると、Y2車のあおり行為により心理的圧迫を受けたことが、原告X1の運転操作を誤らせ、対向車線に出る原因となり得たと認めちれる。
(イ) 本件全証拠を子細に検討しても、上記①ないし③以外に、本件事故の原因となる事実を認めることができない。
(ウ) 以上を総合すると、被告Y2のX1車に対するあおり行為が、原告X1をして気を動転させるなどして、X1車の運転操作を誤らせ、本件事故を発生させたと認める以外ないというべきである。
ウ 上記ア及びイによれば、被告Y2は、本件事故の発生について、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負い、原告X1は、本件事故の発生について、同法七〇九条に基づく損害賠償義務を負わないというべきである。
(3) したがって、被告Y1の原告X1に対する損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
二 争点(3)(被告Y2及び被告Y1の責任原因)について
(1) 上記一(2)ウに説示のとおり、被告Y2は、本件事故の発生について、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負う。
(2) 上記争いのない事実等(2)イと、上記一(1)に認定の事実によれば、被告Y1は、自賠法三条に基づく損害賠償義務を負うほか、本件事故は、被告Y1の事業の執行について生じたものと認められるから、被告Y1は、民法七一五条に基づく損害賠償義務を負う。
三 争点(4)(原告X1の損害額)について
(1) 原告X1の症状の経過について
上記争いのない事実等(5)と、証拠(乙三二六、三二七、三六〇、三七七、原告X1、原告X4)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告X1は、本件事故の翌日の平成一六年一二月六日、救急車で友愛記念病院に搬送されたが、手術及び治療ができず、同日、筑波メディカルセンター病院に転送され、同日から平成一七年二月一〇日まで、同病院に入院した。
イ 原告X1は、同日、同病院を退院して熊本に戻り、同日から同年八月二八日まで、熊本機能病院に入院した。原告X1は、同病院で、車椅子への移乗及び操作の訓練、排便排尿の訓練を受けたが、原告X1が障害を受容しようとせず、リハビリに対する意欲がなく、機能訓練が進まなかった。また、原告X1は、将来を悲観して自殺願望を生じ、様々な方法で自殺を試みることがあった。
ウ 原告X1は、希死念慮に対する精神科的治療を受けるため、同日、国立病院機構熊本医療センター精神科に転院し、うつ病との診断を受けた。原告X1は、本人が薬剤の服用を拒否したことなどにより、投薬治療を受けずに経過観察とされたが、次第に落ち着き、穏やかな生活を送れるようになった。
エ 原告X1は、同年一〇月三日、同センターを退院し、同日、リハビリ訓練を受けるため、熊本リハビリテーション病院に転院した。原告X1は、同病院で、筋力増強訓練、車椅子訓練、排便排尿等のリハビリ訓練を受けたが、後遺障害のほか、本人が障害を受容しようとしないこともあって、機能訓練が進まず、原告X1は、同年一二月二九日、熊本市城山所在の介護マンションに退院し、その後、同病院に通院するようになった。
オ 原告X1は、現在に至るまで、上記介護マンションで生活している。
カ 原告X1は、現在も、上肢は動くものの、胸から下は全部麻痺した状態であり、一生介護を必要とし、歩行はできない状態である。原告X1は、上肢を使用して、食事、着替え、洗顔を自分ですることができるほか、転倒防止等のため介助者の手助けを得て、車椅子の乗り降り、入浴を自分ですることができる。車椅子で外に出た際も、車椅子が転倒した場合に備えて、介助を必要とする。現在、定年退職した原告X2が毎日昼食を持って同マンションを訪れ、原告X1の介護にあたるほか、ヘルパーが夜に来て、洗濯等をしてもらうとともに、翌朝のご飯まで炊いてもらい、原告X4も、一日おきに来て介護に従事している。
(2) 原告X1の損害額について、以下判断する。
ア 治療費
(ア) 症状固定までの治療費 三四二万四七八二円
争点(4)の原告X1の主張ア(ア)ないし(オ)は、原告X1と被告らとの間で当事者間に争いがない。
(イ) 症状固定後の治療費
a 原告X1は、①症状固定日である平成一七年八月二八日から同年一〇月三日までの国立病院機構熊本医療センターの治療費一九万五五二〇円、②同日から平成一九年八月三〇日までの熊本リハビリテーション病院の治療費一〇八万二三五三円、③同年五月一六日のh皮ふ科医院の治療費三七九〇円を主張する。
b しかしながら、上記(1)に認定のとおり、原告X1に対する上記①の治療は、原告X1が本件事故後、重篤な後遺障害を負い将来を悲観して自殺願望を生じことから精神科的治療を受けるために主に行われたこと、上記②の治療は、後遺障害に対するリハビリテーションとして行われたものであるところ、原告X1の後遺障害は、上記(1)に認定のとおりで、リハビリテーションの効果はほとんど期待できないものであったこと、上記③の診療内容も乙四〇によっても不明であることが認められる。これらの事実によれば、上記①ないし③の治療費は、原告X1による損害賠償請求の対象とならないというべきである。
イ 現在までの介護関係費用 四六〇万二一八三円
(ア) 争点(4)の原告X1の主張イのうち、(ア)、(ウ)ないし(カ)は、原告X1と被告らとの間で当事者間に争いがない。
(イ) 同(イ)(ベッド、特殊マット、シーツ、車椅子、床ずれ予防品等)について
a 証拠(乙一八二の一及び二、三八〇)によれば、原告X1は平成一八年一月、特殊寝台一台を五万四五五〇円(一八万二四〇〇円のものであるが、残額は公費で負担)で購入したこと、同寝台は、原告X1の体に合わず、壊れて使用できなかったことが認められる。したがって、これは、損害賠償請求の対象とならない。
b 証拠(乙一八九の一及び二、三八〇)によれば、原告X1は、平成一八年一月下旬、特殊寝台一台を三三万一三八〇円で購入したことが認められる。
c 証拠(乙一八三の一及び二、三八〇)によれば、原告X1は、平成一八年一月、特殊マットを六万七五五〇円(八万七一五〇円のものであるが、残額は公費で負担)で購入したことが認められる。
d 証拠(乙一八一、一八四、一八五、三八〇)によれば、原告X1は、平成一七年一二月、シーツを二万〇三七〇円で購入したこと、原告X1は、平成一八年一月、シーツを二万〇四四〇円で購入したことが認められる。
e 証拠(乙一八〇の一及び二、一八七の一ないし三、三八〇)によれば、原告X1は、平成一七年九月、日常用車椅子一台を一〇万六八〇〇円で購入したこと、原告X1は、平成一八年一月、外出用車椅子一台を一七万七三五〇円(三二万七七〇〇円のものであるが、残額は公費等で負担。)で購入したことが認められる。
f 証拠(乙一七九の一及び二、三八〇)によれば、原告X1は、平成一七年九月、床ずれ予防品を一万一〇七〇円で購入したことが認められる。
g 証拠(乙一八六の一及び二、三八〇)によれば、原告X1は、平成一八年一月、ベッドサイドテーブル一個を四万五〇〇〇円で購入したことが認められる。
h 原告X1主張の上記(イ)のうち、その余については、本件全証拠によっても、必要性を認めるに足りない。
ウ 入院付添費 四三万五五〇〇円
(ア) 証拠(乙一、三二六、三二七、三八〇、原告X1、原告X4)によれば、①筑波メディカルセンター病院に入院中の平成一六年一二月六日から平成一七年二月一〇日までは、主に原告X2が病院に泊まり込んだり、近くのウイークリーマンションを借りるなどして、入院中の原告X1に付き添ったこと、②熊本機能病院に入院中の平成一七年二月一〇日から同年八月二八日までの付添の客観的状況は証拠上明らかでないこと、③国立病院機構熊本医療センターに入院中の平成一七年八月二八日から同年一〇月三日までについては、時々原告X4が病院を訪れる程度であったこと、④熊本リハビリテーション病院に入院中の平成一七年一〇月三日から同年一二月二九日までの付添の客観的状況は証拠上明らかでないことが認められる
(イ) 上記(ア)、上記争いのない事実等(5)の原告X1の受傷の内容、程度、入通院の経過と、上記(1)に認定の原告X1の症状の経過によれば、本件事故の翌日である平成一六年一二月六日から平成一七年二月一〇日までの六七日間、近親者による入院付添の必要性があったものと認められる。近親者付添費は、一日当たり六五〇〇円が相当であるから、次のとおり四三万五五〇〇円となる。
6500×67=435500
エ 入院雑費 五八万三五〇〇円
本件事故日である平成一六年一二月五日から症状固定日である平成一七年八月二八日までの期間は、三八九日であり、入院雑費は、一日当たり一五〇〇円が相当であるから、次のとおり五八万三五〇〇円となる。
1500×389=583500
オ 入院中の交通費等 一四七万四四四五円
争点(4)の原告X1の主張オは、原告X1と被告らとの間で当事者間に争いがない。
カ 将来の付添介護費 七九一五万二二二一円
(ア) 定年退職した原告X2と、現在民間会社で稼働している原告X4(昭和二二年○月○日生〔乙四〕。症状固定時五八歳)による介護可能な期間(原告X4が六七歳までの九年間)については、近親者付添費用は、上記(1)に認定の原告X1の後遺障害の程度によれば、一日八〇〇〇円が相当であるから、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、症状固定時の現価を算定すると、次のとおり二〇七五万四七七六円となる。
8000×365×7.1078=20754776
(イ) 職業介護のみの期間(原告X4が六八歳になった以降、原告X1の平均余命の残期間三六年間。平成一七年簡易生命表によれば、原告X1主張の四五年は、三二歳の平均余命の範囲内と認められる。)は、原告X2及び原告X4の体力の減退等により原告X1の介護にあたるのは不可能であり、職業人介護を要すると認められるところ、上記(1)に認定の原告X1の後遺障害の程度によれば、原告X1に対する介護は、随時の介護で足りるほか、後記キのとおり、介護器具を使用することなどを考慮すると、職業付添人費用は、一日一万五〇〇〇円が相当であるから、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、症状固定時の現価を算定すると、次のとおり五八三九万七四四五円となる。
15000×365×(17.7740-7.1078)=58397445
(ウ) 以上(ア)及び(イ)の合計は、七九一五万二二二一円である。
キ 将来器具、装具 八五〇万四六九四円
原告X1の平成一七年八月二八日現在の平均余命の四五年間、原告X1が必要とする器具、装具について、以下判断する。
(ア) 日常用車椅子 一〇九万二五四三円
証拠(乙三二九の四、三八〇)によれば、原告X1は、上記日常用車椅子を必要とするところ、上記イに認定のとおり、原告X1は、平成一七年九月日常用車椅子一台を一〇万六八〇〇円で購入したものであるが、今後、日常用車椅子一台三三万九七〇〇円を購入することを希望していること、同車椅子の耐用年数は、五年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり一〇九万二五四三円となる。
339700×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112)=1092543
(イ) 外出用車椅子 一九八万四八三五円
証拠(乙三二九の一ないし四、三八〇)によれば、原告X1は、上記外出用車椅子を必要とするところ、原告X1は、平成一九年一二月一〇日、外出用車椅子(電動車椅子)一台を六一万四五〇〇円で買い替えたこと、同車椅子の耐用年数は、六年であることが認められる。原告X1は、平均余命まで八回買い替える必要があるところ、第二回に購入した外出用車椅子については、二年分の中間利息を控除し、平成二五年以降の第三回目以降についても年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり一九八万四八三五円となる。
614500×(0.9070+0.6768+0.5050+0.3768+0.2812+0.2098+0.1566+0.1168)=1984835
(ウ) 車椅子付属品(移乗用) 七万二七八四円
証拠(乙三三〇の一ないし三、三四一、三八〇)によれば、原告X1は、上記車椅子付属品を必要とするところ、原告X1は、平成一九年一〇月頃、車椅子付属品一個を二万〇四七五円で購入したこと、同車椅子付属品の耐用年数は、五年であることが認められる。原告X1は、平均余命まで九回買い替える必要があるところ、第一回に購入した車椅子付属品については、二年分の中間利息を控除し、平成二四年以降の第二回目以降についても年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり七万六二三二円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
20475×(0.9070+0.7106+0.5568+0.4362+0.3418+0.2678+0.2098+0.1644+0.1288)=76232
(エ) 特殊寝台 一〇五万〇七九九円
証拠(乙三二九の四、三八〇)によれば、原告X1は、上記特殊寝台を必要とするところ、上記イに認定のとおり、原告X1は、平成一八年一月下旬、特殊寝台一台を三三万一三八〇円で購入したものであるが、今後、特殊寝台五八万四八五〇円を購入することを希望していること、同特殊寝台の耐用年数は、八年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり一〇五万〇七九九円となる。
584850×(0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420)=1050799
(オ) 特殊寝台専用マットレス 二六万一二七七円
証拠(乙三三一、三四三、三八〇)によれば、原告X1は、上記特殊寝台専用マットレスを必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、同専用マットレス一枚を四万四一〇〇円で購入したこと、同専用マットレスの耐用年数は、三年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり二九万二七〇九円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
44100×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112)=292709
(カ) 特殊寝台専用手すり 三三万五九二八円
証拠(乙三三一、三四四、三八〇)によれば、原告X1は、上記特殊寝台専用手すりを必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、同専用手すり二個を九万四五〇〇円で購入したこと、同専用手すりの耐用年数は、五年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり三九万八四三〇円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
94500×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112)=398430
(キ) ベッドマットレス用ボックスシーツ(防水シーツ) 九五万一七九七円
証拠(乙三三一、三八〇)によれば、原告X1は、上記ベッドマットレス用ボックスシーツを一年に六枚必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、同ボックスシーツ六枚を五万三五五〇円で購入したことが認められる。原告X1の平均余命まで年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり九五万一七九七円となる。
53550×17.7740=951797
(ク) ベッドサイドテーブル(特殊寝台付属品) 一七万二二二七円
証拠(乙三三二、八四五、三八〇)によれば、原告X1は、上記ベッドサイドテーブルを必要とするところ、上記イに認定のとおり、原告X1は、平成一八年一月ベッドサイドテーブル一個を四万五〇〇〇円で購入したものであるが、今後、ベッドサイドテーブル一個を五万三五五〇円で購入することを希望していること、同ベッドサイドテーブルの耐用年数は、五年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり一七万二二二七円となる。
53550×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112)=172227
(ケ) トイレ用手すり 三八万七四七三円
証拠(乙三三三、三四六の一及び二、三八〇)によれば、原告X1は、上記トイレ用手すりを必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、トイレ用手すりを合計一〇万九〇〇〇円で購入したこと、同手すりの耐用年数は、五年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり四五万九五六五円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
109000×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112)=459565
(コ) 浴室用手すり 一一万六六八八円
証拠(乙三三四、三四七、三八〇)によれば、原告X1は、賠償を得て自宅を改造した場合に、上記浴室用手すりが必要であり、合計七万三九〇〇円で購入することを希望していること、同手すりの耐用年数は、一〇年であることが認められる。平成二四年八月には、本件訴訟が確定していると認められるので、年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり一一万六六八八円となる。
73900×(0.7106+0.4362+0.2678+0.1644)=116688
(サ) 浴室用移乗台 四二万六五七六円
証拠(乙三三五、三八〇)によれば、原告X1は、上記浴室用移乗台を必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、浴室用移乗台一台を一二万円で購入したこと、同移乗台の耐用年数は、五年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり五〇万五九四四円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
120000×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112)=505944
(シ) 自助具(ガットリハビリィ) 一万六七九六円
証拠(乙三三六、三四八、三八〇)によれば、原告X1は、上記自助具を必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、自助具一個を四七二五円で購入したこと、同自助具の耐用年数は、五年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり一万九九二一円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
4725×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112)=19921
(ス) 入浴時の移動式リフト 一〇〇万二四八四円
証拠(乙三三七、三四九、三八〇)によれば、原告X1は、賠償を得て自宅を改造した場合に上記入浴時の移動式リフトが必要であるので、一台を六〇万円(取付工事費一五万円を含む。)で購入することを希望していること、同移動式リフトの電装部品一六万五〇〇〇円(取り替え工事費二万円を含む。)の耐用年数は、六年であることが認められる。平成二四年八月には、本件訴訟が確定していると認められるので、年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり一〇〇万二四八四円となる。
600000+165000×(0.7106+0.5303+0.3957+0.2953+0.2203+0.1644+0.1227)=1002484
(セ) (ス)の保守点検費用 二一万五七七八円
証拠(乙三三八、三八〇)によれば、上記(ス)の保守点検費用として年間一万八〇〇〇円が必要であることが認められる。原告X1の平均余命まで年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり二一万五七七八円となる。
18000×(17.7740-5.7863)=215778
(ソ) 外出時の移動式リフト
証拠(乙三三九、三五〇)によれば、上記外出時の移動式リフトは、車椅子を昇降させて段差を解消するための器具と認められるところ、下記ケに認定のとおり、自宅にある段差を解消することも目的として改造するのであるから、上記外出時の移動式リフトが必要であるとは認め難い。
(タ) (ソ)の保守点検費用
上記(ソ)と同一の理由により、認められない。
(チ) 床ずれ予防用具 二八万七九三八円
証拠(乙三三一、三五一、三八〇)によれば、原告X1は、上記床ずれ予防用具を必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、床ずれ予防用具を一一万三四〇〇円で購入したこと、同予防用具の耐用年数は、七年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり三五万六〇一九円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
113400×(1+0.7106+0.5050+0.3589+0.2550+0.1812+0.1288)=356019
(ツ) 体位変換補助用具 八万八三三六円
証拠(乙三三一、三五二、三八〇)によれば、原告X1は、上記体位変換補助用具を必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、体位変換補助用具一台を一万四九一〇円で購入したこと、同補助用具の耐用年数は、三年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり九万八九六三円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
14910×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112)=98963
(テ) 扁足予防用具 四万〇四三五円
証拠(乙三三一、三八〇)によれば、原告X1は、上記扁足予防用具を必要とするところ、原告X1は、平成一七年一二月頃、扁足予防用具一台を六八二五円で購入したこと、同予防用具の耐用年数は、三年であることが認められる。年五分の割合で中間利息を控除すると、次のとおり四万五三〇〇円となるので、原告X1の主張額の範囲内で認める。
6825×(1+0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313+0.1998+0.1726+0.1491+0.1288+0.1112)=45300
ク 将来の雑費 九七三万一二六五円
証拠(乙三六〇、原告X1、原告X4)によれば、原告X1は、神経因性膀胱炎により、毎日三、四本のペットボトルの水を飲むほか、カテーテルを使用してペットボトルに自己導尿しており、原告X4がトイレに尿を捨て、容器は、収集日に出していること、このほか、原告X1は、生涯、おむつ代(紙おむつ、尿取りパット、平おむつ等、一日一二二一円)の支出を要することが認められる。これらの事実に基づいて判断すると、飲料水がペットボトルの水に限られるか疑問がなくはないことを考慮すると、原告X1の平成一七年八月二八日現在の平均余命の四五年間、将来の雑費として一日当たり一五〇〇円を必要とすると認められるので、将来の雑費の合計は、次のとおり、九七三万一二六五円となる。
1500×365×17.7740=9731265
ケ 自宅改造費 一〇〇〇万〇〇〇〇円
(ア) 証拠(乙三五六、原告X1、原告X4)によれば、原告X1の自宅は、中二階の建物で、全部で九室あること、建物は、広いものの、段差が多く、車椅子を使用する原告X1に支障が多く、改造する必要があること、原告X1は、現在、介護マンションで生活しており、両親が自宅から同マンションに通って、原告X1の介護にあたっているが、不便であり、原告X2及び原告X4は、原告X1が自宅での介護生活を送るために、下記(イ)の①又は②により自宅を改造したうえ、原告X1に自宅でより十分な介護をすることを希望していることが認められる。
(イ) 証拠(乙三五五、三六七、四〇二)によれば、①原告X2らが専門の建築業者に依頼して作成してもらった最初の見積書及び設計図は、既存の家屋の東側にリビング、寝室、浴室、玄関、ホールを増築するとともに、既存家屋の一部をダイニングに改築し、増築部分と連絡するものであり、見積額は、三三六五万円余り(消費税を含む。)であったこと、②原告X2らが同一の業者に依頼して改造の規模を縮小するとともに、安価な資材を使用するものに作り直してもらった見積書及び設計図は、上記①と同様の間取りで改築するものであり、見積額は、二三五三万円余り(消費税を含む。)であったことが認められる。
(ウ) 上記(1)に認定の原告X1の後遺障害の内容、程度に照らし、上記(イ)の増築自体の必要性は認められるが、家族が得られる利便性を控除すべきことを考慮すると、本件事故と相当因果関係のある自宅改造費としては、一〇〇〇万円をもって相当と認める。
コ 逸失利益 八二三一万四二三八円
(ア) 原告X1は、上記争いのない事実等(6)のとおり、平成一七年八月二八日、後遺障害等級一級一号の後遺障害が残ったものであり、労働能力の一〇〇パーセントを喪失したと認められる。
(イ) 証拠(乙三六〇、三八六、原告X1、原告X4)によれば、原告X1は、高校卒業後、一年間の浪人生活をした後渡米し、英会話等を勉強する目的で、平成五年、a大学の姉妹校b(米国)の大学に入学し、c大学に編入し、更に、d大学に編入し、次いで、同大学を休学しe大学に編入して勉強していたこと、原告X1は、平成一六年八月ないし九月頃、一時帰国し、千葉県所在のマンションを借りて、単身居住していたこと、留学に必要な費用は、両親から送金を受けていたもののほか、日本人学校でアルバイトをするなどして捻出していたこと、原告X1としては、e大学に復学して、卒業後、就職する予定であったことが認められる。これらの事実によれば原告X1は、平成一四年賃金センサス第一巻第一表による産業計・企業規模計・年齢計の高卒男子労働者の平均年収額五〇二万七一〇〇円と同程度の収入を得ることができたものと認められる。
(ウ) 原告X1は、症状固定日当時三二歳であったところ、本件事故に遭わなければ、六七歳まで就労可能であったと認められるから、上記年収額五〇二万七一〇〇円に基づいて、原告X1の逸失利益の現価を算定すると、次のとおり八二三一万四二三八円となる。
5027100×16.3741=82314238
サ 傷害慰謝料 三二八万〇〇〇〇円
上記争いのない事実等(5)の原告X1の受傷の内容、程度、入院期間等、諸般の事情を考慮すると、原告X1の傷害慰謝料は、三二八万円をもって相当と認める。
シ 後遺症慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円
(ア) 証拠(原告X1、原告X4)によれば、原告X1は、本件事故により、座骨が粉砕骨折したことなどにより、形成手術を受けたものの、体が斜めになっていて、医師から、今後三回くらい手術を必要とすると言われていること、原告X1は、膀胱炎になっており、そのための検査が必要不可欠であるほか、よく高熱が出るため、毎週三回の便出し、日々のカテーテルを使用した尿出し(自己導尿)の際に、座薬、消炎剤等の薬剤を使用することが将来にわたり必要であることが認められる。
(イ) 原告X1は、後遺症慰謝料算定に際し斟酌すべき事情として、人工授精費が将来必要であると主張するが、本件全証拠によっても、原告X1について将来人工授精費が必要となるか否かは不確定という以外にない。
(ウ) 上記(ア)のほか、本件事故が被告Y2の危険なあおり行為に起因していること、上記争いのない事実等(6)、上記(1)に認定の原告X1の症状の経過のほか、本件に顕れた一切の諸事情を考慮すると、後遺症慰謝料は、三〇〇〇万円をもって相当と認める。
ス レッカー代 七万九〇五〇円
証拠(乙二七五の一ないし三、二八一、二八二)によれば、原告X1は、レッカー代として七万九〇五〇円を支出したことが認められる。
セ 確定遅延損害金 五三一万〇八四九円
上記争いのない事実等(7)のとおり、原告X1は、平成一九年七月三日自賠責保険から四一二〇万円の支払を受けたところ、これに対する本件事故日から支払日まで(九四一日)の確定遅延損害金は、次のとおり、五三一万〇八四九円となる。
41200000×0.05÷365×941=5310849
ソ 損害の填補
上記争いのない事実等(7)のとおり、原告X1は、自賠責保険から四一二〇万円の支払を受けたから、上記アないしセの合計二億三八八九万二七二七円からこれらを控除すると、その残額は、一億九七六九万二七二七円となる。
タ 弁護士費用 一九〇〇万〇〇〇〇円
本件記録によれば、原告X1は、本件訴訟の提起、追行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、一九〇〇万円と認めるのが相当である。
(3) したがって、被告らは、原告X1に対し、連帯して二億一六六九万二七二七円及びうち上記確定遅延損害金を除く二億一一三八万一八七八円に対する平成一六年一二月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
四 争点(5)(原告X2、原告X4、原告X3の損害額)について
(1) 原告X2及び原告X4の損害額について
ア 固有の慰謝料 各四〇〇万〇〇〇〇円
原告X2及び原告X4は、長男である原告X1が本件事故により重大な障害を負ったことにより、原告X1の死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被ったと認められ、原告X2及び原告X4の固有の慰謝料は、各四〇〇万円と認めるのが相当である。
イ 弁護士費用 各四〇万〇〇〇〇円
本件記録によれば、原告X2及び原告X4は、本件訴訟の提起、追行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、各四〇万円と認めるのが相当である。
ウ したがって、被告らは、原告X2及び原告X4に対し、連帯して各四四〇万円及びこれに対する平成一六年一二月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
(2) 原告X3の損害額について
ア(ア) 証拠(乙三六五、原告X1、原告X4)によれば、原告X3は、原告X2及び原告X4の二男であり、原告X1が平成五年に渡米するまで、原告X1と一緒に生活したこと、原告X1が渡米した後は、たまに原告X1が帰国した際に、親しく話すことがあったこと、原告X3は、現在、地方公務員であるが、将来原告X2及び原告X4が高齢化して原告X1の介護が十分にできなくなった際に、原告X1の介護をする可能性があることが認められる。
(イ) しかしながら、上記(ア)に認定のとおり、原告X3は、原告X1が平成五年に渡米した後は、一時帰国した時を除いて原告X1と一緒に生活していなかったことを考慮すると、原告X3が精神的苦痛を被ったとしても、固有の慰謝料は認められないというべきである。
イ したがって、原告X3の被告らに対する請求は、いずれも理由がない。
五 争点(6)(原告共栄火災が保険代位に基づいて取得した損害賠償請求権の額)について
(1) 証拠(乙二八一、二八二)によれば、本件事故により、X1車は、右前部及び側面が大破して全損となったこと、原告共栄火災は、平成一七年三月二四日、原告X2に対し、X1車が全損にあたるとして、四〇万円を支払ったことが認められる。
(2) 証拠(乙二八三ないし二九四)によれば、次の事実が認められる。
ア(ア) 本件事故により、Aは、A車の車両損害二八〇万円、救助費六万二四一二円、代車費用七万九一七〇円の合計二九四万一五八二円の損害を被った。
(イ) 原告共栄火災は、平成一六年一二月二七日、Aに対し、上記金員を支払った。
イ(ア) 本件事故により、Aは、右肋骨々折、頚椎捻挫、腰部打撲、右肘、左肩、左下腿打撲の傷害を負い、治療のために、平成一六年一二月六日、同月七日、猿島赤十字病院に通院し、同月一〇日から同月三一日まで、山本整形外科に通院し、平成一七年二月一日から同月二一日まで、同外科に通院した。
(イ) Aは、九一万三一三九円(治療費二四万六二五九円、通院交通費六八八〇円、休業損害四四万円、慰謝料二二万円)の損害を被った。
(ウ) 原告共栄火災は、平成一七年三月一五日までに、Aに対し、上記(イ)の金員を支払った(弁論の全趣旨によれば、うち五九万六九三九円は、自賠責保険から回収済みであることが認められるので、残額は三一万六二〇〇円となる。)。
(3) 証拠(乙二九五ないし三二五)によれば、次の事実が認められる。
ア 本件事故により、Bは、左膝、右手関節打撲、口腔内裂傷等の傷害を負い、治療のために、平成一六年一二月六日、猿島赤十字病院に通院し、同月七日から平成一七年二月七日まで上三川病院に通院し、同月六日から平成一八年七月一一日まで、ないき歯科クリニックに通院した。
イ Bは、二一三万一三一九円(治療費一一一万七〇八九円、通院交通費四二三〇円、休業損害四〇万円、慰謝料六一万円)の損害を被った。
ウ 原告共栄火災は、平成一八年八月三〇日までに、Bに対し、上記イの金員を支払った(弁論の全趣旨によれば、うち一二〇万円は、自賠責保険から回収済みであることが認められるので、残額は九三万一三一九円となる。)。
(4) 上記(1)ないし(3)によれば、被告Y1及び被告Y2は、原告共栄火災に対し、連帯して四五八万九一〇一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である被告Y1については平成一九年一一月八日から、被告Y2については同月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
六 以上の次第で、原告共栄火災の請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、原告X1の請求は、上記三(3)の限度でいずれも理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告X2、原告X4の請求は、上記四(1)の限度でいずれも理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、被告Y1の原告X1に対する請求、原告X3の被告らに対する請求は、いずれも失当であるからこれを棄却し、仮執行宣言の申立ては、相当でないから、これを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩田眞)
交通事故現場見取図
<省略>