さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)655号 判決 2011年9月07日
主文
1(1) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A1に対し,連帯して(ただし,主文2(1)の限度で被告B3と連帯して),2832万3503円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A2に対し,連帯して(ただし,主文2(2)の限度で被告B3と連帯して),1333万6751円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A3に対し,連帯して(ただし,主文2(3)の限度で被告B3と連帯して),1333万6751円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A4に対し,連帯して(ただし,主文2(4)の限度で被告B3と連帯して),352万4600円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 亡B1相続財産,被告B2,被告B3,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A5に対し,連帯して,231万3400円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A6に対し,連帯して(ただし,主文2(5)の限度で被告B3と連帯して),626万3650円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 亡B1相続財産,被告B2,被告B3,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A7に対し,連帯して,128万0600円及びこれに対する平成17年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(1) 被告B3は,原告A1に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,2740万1453円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告B3は,原告A2に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,1287万5726円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告B3は,原告A3に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,1287万5726円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告B3は,原告A4に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,323万6400円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告B3は,原告A6に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,315万7200円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告B8は,別紙物件目録記載の各不動産について別紙登記目録記載の各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
4 原告らの被告B8以外の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,別表のとおりの負担とする。
6 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1請求
1(1) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A1に対し,連帯して(ただし,2(1)の限度で被告B3と連帯して),4066万2325円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A2に対し,連帯して(ただし,2(2)の限度で被告B3と連帯して),1950万6162円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A3に対し,連帯して(ただし,2(3)の限度で被告B3と連帯して),1950万6162円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A4に対し,連帯して(ただし,2(4)の限度で被告B3と連帯して),529万6060円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B3,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A5に対し,連帯して,457万7540円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A6に対し,連帯して(ただし,2(6)の限度で被告B3と連帯して),725万3015円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B3,被告B5,被告B6及び被告B7は,原告A7に対し,連帯して,317万9660円及びこれに対する平成17年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(1) 被告B3は,原告A1に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,3973万6070円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告B3は,原告A2に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,1904万3035円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告B3は,原告A3に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,1904万3035円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告B3は,原告A4に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,501万2040円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告B3は,原告A6に対し,亡B1相続財産,被告B2,被告B4,被告B5,被告B6及び被告B7と連帯して,415万4920円及びこれに対する平成16年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3(1) 主文第3項と同旨
(2)ア 被告B6と被告B8が別紙物件目録記載の各不動産について平成17年12月27日になした売買契約を取り消す。
イ 被告B8は,別紙物件目録記載の各不動産について別紙登記目録記載の各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
(上記(1)と(2)は選択的請求)
第2事案の概要
1(1) 第1及び第2事件
第1及び第2事件は,B1(平成21年12月19日死亡。以下「亡B1」という。)と被告B6が首謀者となって,被告B2,被告B4,被告B5,被告B3及び被告B7とともに,Cリース,C自動車,Dリース,E自動車,B5自動車など(以下,まとめて「Cグループ」という。)の名称を用いながら,自動車売買及び賃貸を装って自動車を担保とした違法金利による貸付けを行ったうえ,返済が滞ると自動車を売却して暴利を得ることを業として行っていたところ,このような同事件被告らによる勧誘から貸付け,取立て,自動車の売却に至る一連の行為により,F(平成15年5月21日死亡。以下「亡F」という。),原告A4,原告A5,原告A6及び原告A7が違法な高金利の支払を余儀なくされたほか,所有自動車を喪失するなどし,さらに亡Fが自殺に追い込まれたとして,原告らが,同事件被告らに対し,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告A4につき529万6060円,原告A5につき457万7540円,原告A6につき725万3015円,原告A7につき317万9660円,自殺した亡Fの相続人である原告A1につき4066万2325円,同じく亡Fの相続人である原告A2及び原告A3につきそれぞれ1950万6162円の支払を求めるとともに(ただし,平成15年5月以降に加担した被告B3に対しては,同月1日以降に生じた損害分に限る。),上記各損害に対する不法行為後の日である平成16年6月1日(ただし,原告A7に対しては,平成17年2月28日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
(2) 第3事件
第3事件は,被告B6が上記(1)第1事件の損害賠償請求訴訟に敗訴した場合に備えて,被告B8との間で,被告B6所有の別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)を被告B8に売却する旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,被告B8に対し,本件各不動産につき別紙登記目録記載の各所有権移転登記(以下「本件各登記」という。)をしたとして,第1事件原告らが,被告B8に対し,選択的に,本件売買契約の通謀虚偽表示による無効を理由に被告B6に代位して本件各登記の抹消登記手続を求め,又は,本件売買契約を詐害行為を理由に取り消すこと及び本件各登記の抹消登記手続を求める事案である。
2 争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告ら
亡F,原告A4,原告A5,原告A6及び原告A7(以下,まとめて「亡Fら」という。)は,Cグループから貸付けを受け,違法な高金利等を支払った者である。なお,亡Fは,平成15年5月21日,飛び降り自殺した。
原告A1は亡Fの妻,原告A2及び原告A3は亡Fの子であり,いずれも亡Fの相続人である。
(2) Cグループによる違法な貸付行為
Cグループは,「車でお金。ローン中・乗ったまま・即日現金OK」と記載した看板を街頭に多数設置し,この看板を見て電話をかけてきた者に対し,自動車の売買契約と賃貸借契約を装って,実質的には自動車を譲渡担保とした,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)の上限金利を大幅に超過する金利による貸付けを行い,違法な高金利を徴収するとともに,返済が滞ると,担保として取得した自動車を引き上げて売却し,処分代金を清算せずに全額取得するという方法で暴利を得ていた。
その具体的な手口は,次のとおりであり,亡Fらに対してもほぼ同様の手口を用いた。
ア 借入れを希望する者に対し,所有する自動車を店舗まで持参させる。
イ 持参した自動車の車種,年式等を確認したうえ,貸付金額を決定する。
ウ 利率を出資法の上限金利である29.2パーセントをはるかに超過する年利252.78パーセントないし514.29パーセントとし,借主に対し,貸付金額から1か月分の利息を天引きした金額を交付したうえ,元本の返済期限を1か月とすること,期限内に返済できない場合は天引額と同額の利息を支払うことを約束させる。
エ 貸付けに際して,借主が持参した自動車について,借主を売主とし,貸付金相当額を代金額とする自動車売買契約書を作成し,借主に署名押印させる。その際,買主として,Cリース,C自動車,Dリース,E自動車,B5自動車などの名称を用いて,金銭の貸主と自動車売買契約の買主が別人格であるような形式をとるが,単に名称を使い分けているだけで実質的には同一人格である。
オ また,貸付けに際して,借主を賃借人とし,利息相当額を賃料とする自動車の賃貸借契約書を作成し,借主に署名押印させる。その際,賃貸人として,Cリース,C自動車,Dリース,E自動車,B5自動車などの名称を用いるのは,上記エと同様である。
カ 金銭消費貸借契約は3か月を更新期限とし,借主には,3か月毎に印鑑登録証明書を持参させるとともに,更新料名目で金員を支払わせる。
キ 借主は,貸付金額を一括で返済しない限り,利息と更新料をいつまでも支払い続けることになる。
ク 借主は,上記自動車に乗り続けることができるが,利息等の支払が遅れると,同自動車を引き上げて他に売却し,売買代金の全額を取得して利益を得る。
(3) Cグループにおける亡B1らの各役割
Cグループでは,亡B1,被告B2,被告B4,被告B3,被告B5(以下,まとめて「亡B1ら」という。)が,生活費等に窮する者に対し,車を担保に貸付けを行い,超高金利を徴収し,さらに,支払期限に遅れた者の自動車を引き上げて,暴利を得ることを企て,共謀のうえ,互いに役割を分担して,Cグループの営業を可能ならしめ,勧誘,貸付け,返済金の受領,取立て,引き上げた自動車の転売という一連の違法行為を推進し,その結果,原告らを含む多数の被害者に損害を与えた。
各人の具体的な役割は,次のとおりである。
ア 亡B1
(ア) 亡B1は,Cグループ内で「社長」と呼ばれる地位にあり,Cグループの首謀者として,被告B2,被告B4,被告B5,被告B3に指示,命令して,これらの者を直接統括していたほか,貸付けの適否の判断,貸付額の決定,受領利息額の決定,利息や元金支払の決定,延滞者への対応,被告B7などを通じての担保自動車の売却,看板や宣伝媒体の契約,苦情や行政等への対応など,Cグループの貸付け,督促,自動車の売却等の違法行為全般を行っていた。また,亡B1は,Cグループの得た違法収益から相当額の金員を受領していた。
(イ) 亡B1は,平成13年1月ころから,「C」の名称で自ら代表者となって埼玉県に貸金業登録したうえ,上記(2)におけるのと同様の手口で自動車を担保とした貸金業を営んでいたが,平成14年6月12日,出資法違反を理由に240日の業務停止処分を受け,同年10月20日ころには出資法違反及び貸金業規制法違反(業務停止命令期間中の貸金業務)で逮捕された。そして,亡B1は,同年12月24日,貸金業の登録を取り消され,そのころ,罰金刑を受けた。
しかし,亡B1は,同月ころ,被告B2,被告B4及び被告B5に対し,出資法に違反する違法行為であることを説明したうえ,ともに車担保の高金利の貸付行為を始めようと,平成15年2月14日,被告B5名義により「Hリース」の名称で貸金業登録したほか,同年5月ころからは,被告B3を雇い入れて,同年8月25日,被告B3の妻名義により「Cリース」の名称で北海道財務局に貸金業登録したうえ,「C」の時と同一の場所で違法な貸付行為を継続し,上記(ア)のとおり,Cグループの首謀者として違法行為全般に関与した。
(ウ) その後,亡B1は,亡Fらに対する貸付行為の出資法違反などにより,平成16年12月3日に逮捕され,被告B2,被告B4,被告B3と共謀のうえ,亡Fらから出資法に違反する利息を受領する契約をしたとして,出資法5条2項違反により,平成16年12月24日に起訴された。亡B1は,平成17年5月12日,売春防止法違反,覚せい剤取締法違反と合わせて,懲役2年6月及び罰金100万円の有罪判決を受け,その後,確定した。
イ 被告B2
被告B2は,「C」のころから亡B1の違法な貸金業の従業員として稼働していたところ,平成14年12月ころから,再び亡B1の下で働くようになり,当初は看板の設置をしていたが,その後は「G1」という偽名を使用して,架電してきた原告A4や原告A5に対し,事務所まで車で来ること,また,印鑑証明書,実印,住民票などを持参することを指示し,車の状態を見て査定したうえ貸付けの適否を判断したり,貸付額の決定,受領利息額の決定など貸付行為を直接担当していたほか,新規に加担してきた者に対して貸付業務等の仕事の手順を教えたり,取立てを行うなど,Cグループの業務全般に関与していた。また,被告B2は,平成15年末ころからは,Cグループの店長を任され,帳簿等の記入などの事務処理も行っており,Cグループにおいて,重要な役割を果たしていた。
ウ 被告B4
被告B4は,「C」に入社して亡B1の違法な貸金業の従業員として稼働し,平成14年10月18日に亡B1が逮捕されたことを契機に退社していたが,同年12月ころから再び亡B1の下で働くようになった。被告B4は,後に加担した被告B2や被告B3に貸付業務等の仕事の手順を教えるなど,Cグループの中で亡B1に次ぐ存在であった。その後,平成15年末になって被告B2及び被告B3が亡B1から店長などの業務を任されてからは,主に事務所において,電話や来客の対応を行うなどの補助的な仕事が多くなったとはいえ,Cグループによる違法行為の推進に欠かせない役割を果たしていた。
エ 被告B3
被告B3は,平成15年5月ころ,亡B1から誘われてCグループによる違法行為に加担するようになった。被告B3は,当初,亡B1の指示のもと,宣伝用の看板を設置する仕事をしていたが,同年8月25日には,亡B1の依頼を受け,妻の名義により「Cリース」の名称で北海道財務局から貸金業登録をして,埼玉県でのCリースとしての営業を可能ならしめた。また,被告B3は,亡B1及び被告B2を補助して,自動車の査定,貸付けの適否の判断,貸付額の決定,受領利息額の決定,利息や元金支払の決定や延滞者への対応などCグループの違法行為全般に関わっていた。また,被告B2とともに,原告A5の自宅まで来て自動車を引き上げたのも被告B3であった。
オ 被告B5
被告B5は,もともと亡B1の違法な貸金業の従業員として稼働していたが,平成14年12月ころから,再び亡B1の下で働くようになり,亡B1の指示を受け,「C」の登録取消に備えて,自己名義により新たに「Hリース」の名称で東京都知事の貸金業登録をしたうえ,貸付けの際には,「DリースB5」として自動車の買戻約款証書の名義人となった。
また,亡B1は,出資法等の適用を免れるため,「E自動車」又は「B5自動車」が自動車を買い取ったように装っていたが,被告B5は,「Hリース」の登録住所としたアパートを借りて,これを「E自動車」の所在地として利用させたことで,上記仮装行為を可能ならしめた。
さらに,被告B5は,主に,Cグループの営業上不可欠の宣伝方法であった宣伝用看板の設置を担当していたのであり,Cグループが違法な貸付業務を行うのに不可欠な役割を果たしていた。
(4) 被告B7
被告B7は,自動車販売業等を目的とする有限会社であり,平成元年4月14日に設立された。同会社の代表取締役は,設立時から被告B6が務めていたが,平成15年以降は,被告B6の前妻であるIが務めている。
被告B7は,亡B1らから,亡Fが担保に差し入れた自動車を購入し,これを転売した。
(5) 被告B6
被告B6は,平成15年ころまで,被告B7の代表者であった者であり,亡B1とは中学校以来同級生として付き合いがある。被告B6は,平成17年4月15日にIと離婚し,平成18年3月3日にはJ1と婚姻した(甲88)。
(6) 原告らによる本訴提起
原告A7を除く原告らは,平成17年4月5日,亡B1ら,被告B6及び被告B7を被告として,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償請求訴訟(第1事件)を提起し,原告A7は,平成18年7月18日,亡B1ら,被告B6及び被告B7を被告として,上記同様の損害賠償請求訴訟(第2事件)を提起した。
(7) 被告B6による所有不動産の売却と所有権移転登記
被告B6は,被告B8との間で,本件各不動産について本件売買契約を締結し,平成17年12月27日,被告B8に対し,本件各不動産につき本件各登記をした。
なお,B8の代表者はKである。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 亡B1らの責任
(原告らの主張)
争いのない事実等(3)のとおり,亡B1らは,Cグループによる違法な貸付行為について,それぞれ役割を分担し相互に補完し合いながら,組織的に一体となって,亡Fらに対し,共同して勧誘,貸付け,受領,督促及び取立てに至る一連の行為を行っていたのであり,亡B1らの行為は,社会通念上全体として一つの加害行為と評価すべきであるから,亡B1らには,民法719条1項の共同不法行為責任が成立する。
なお,被告B3は,遅れてCグループによる違法な貸付行為に加担しているので,加担後の平成15年5月1日以降の損害についてのみ責任を負うことになる。
(亡B1らの主張)
Cグループによる違法な貸付行為は,亡B1が中心となって行っていたものであり,被告B2,被告B4,被告B3及び被告B5は,亡B1の行為を手伝っていたにすぎず,同人らに共同不法行為は成立しない。
(2) 被告B7の責任
(原告らの主張)
ア Cグループは,借主が支払を滞ると,担保として取得した自動車を売却し,その売却代金全額を取得して暴利を得ていたところ,被告B7は,亡Fの自動車を処分して同人に対する加害行為の一部を直接に行ったほか,Cグループが借主から取得した自動車を多数処分して,Cグループにおいて自動車処分の役割を担っていたのであり,これはCグループの違法収益取得のために欠かせない役割であった。
イ 被告B7は,亡B1をして被告B7名義の領収証を作成させるなど,亡B1に名義使用を認めて,Cグループの活動を推進,促進していた。
ウ 被告B7は,その所有する自動車を亡B1に使用させ,Cグループの活動の便宜を図っていた。
エ 被告B7は,さいたま市a区b町所在の店舗にCグループの看板を設置してCグループによる違法な貸付行為を支援したほか,被告B6所有のさいたま市c区d町の土地(以下「d町の土地」という。)に,「B7」の郵便受けを設置し,同土地をCグループが債務者から取り上げた自動車やCグループの看板などの保管場所として利用した。
オ 以上のとおり,被告B7は,亡B1ら貸付担当者と相互に役割を補完し合い,Cグループの活動を推進,促進していたというべきであって,被告B7の上記行為は,B1らの加害行為と社会通念上一体と評価できる。そして,下記(3)で主張するとおり,被告B7の代表者であった被告B6も,Cグループの違法行為を知り,少なくとも知り得る立場にありながら亡B1らの加害行為と一体となって一連の行為に加担していたのであるから,被告B7は,原告らに対し,共同不法行為責任を負う。
(被告B7の主張)
ア 被告B7が亡Fの自動車を購入したこと,Cグループから自動車を購入し,オークションに出品していたことは認めるが,これは,あくまで商売として利益のために行っていたものにすぎない。中古車売買の仲介業者である被告B7は,頼まれれば自動車を売買するのは当然であり,亡B1らとはあくまでビジネス関係にあったのであって,Cグループによる違法な貸付行為に加担した事実はない。
イ 被告B7が亡B1に名義を使用させていた事実はない。何らかの手違いで被告B7と記載されたり,亡B1が勝手に被告B7の名前を使用したものと考えられ,また,亡B1がなぜ被告B7宛の領収証を作成させたかは分からない。
ウ 被告B7は,平成16年春ころ,その所有する自動車を亡B1に売却したが,代金が完済されなかったので,名義をそのままにして亡B1が使用することを認めていたものであって,無償で使わせていたわけではない。なお,その後,Lにより代金が支払われたため,L名義に変更されている。
エ 被告B7は,さいたま市a区b町所在の店舗内にCグループの看板を一切置いていないし,かつて置いたこともない。さらに,被告B7がd町の土地に「B7」の郵便受けを置いたことはなく,Cグループに自動車を置かせたこともない。
オ したがって,被告B7は,そもそもCグループによる違法な貸付行為とは無関係であり,役割分担ないし共謀をしたこともないので,同被告に共同不法行為が成立する余地はない。
(3) 被告B6の責任
(原告らの主張)
被告B6は,被告B7の代表者として,上記(2)で主張したとおり,Cグループが取得した多数の自動車の売却に関与しただけでなく,次の事情から明らかなとおり,Cグループの「会長」として,「社長」である亡B1とともに,Cグループによる出資法違反の貸付行為,取立行為,自動車の引上げ,自動車の売却という一連の違法行為を推進していたのであるから,被告B6は共同不法行為責任を負う。
ア 被告B6は,亡B1と同等かそれ以上のCグループの首謀者であった。
すなわち,亡B1は,自分は雇われ社長だから権限はないなどと述べたり(甲15の7の1),どこかに電話をして指示を仰ぐことがあったほか,被告B7宛の領収証を作成することもあったこと(甲16の1及び9)からすると,Cグループ内には亡B1よりも上位の立場にある人物が存在していることは明らかであり,しかも,その人物は被告B7と関わりのある者であったというべきである。そして,被告B6が亡B1らから「会長」と呼ばれていたことや(甲17の1),下記ウで述べるとおり,被告B6が亡B1と同じかそれ以上の金額をCグループの収益から分配金として受け取っていたことからすれば,亡B1の上位にいた人物は被告B6以外に考えられない。
イ 被告B6は,その所有する土地を亡B1らに使用させ,Cグループの活動を推進,促進していた。
すなわち,被告B6は,d町の土地を所有していたところ,同土地に「M」と記載された郵便受けを設置したうえ(甲23の1ないし3),亡B1らをして,Cリースの看板を多数保管させていただけでなく,借主から被告B5名義に変更された自動車を5台ほど保管させるなど,Cグループが借主から取り上げた自動車の保管場所として使用させていた。
ウ 被告B6は,Cグループに資金を提供し,Cグループの収益から分配金を受け取っていた。
すなわち,被告B6は,平成16年7月から同年11月までの5か月間だけでも,Cグループから給与として合計428万1500円を受領していた(甲20,甲17の1及び6)。また,Cグループは,借主から取り上げた自動車について,亡B1又は被告B5名義に変えた後,被告B7を通じてオークションに出品して処分しており,その売却利益を,被告B6,被告B7の利益及び経費,亡B1らの利益及び経費として配分していたのであり,Cグループが平成15年12月19日から平成16年7月30日までの間に特定できたものだけでも13台の自動車を被告B7を通じて売却していることからすると(甲17の1及び9),被告B6も相当額の分配を受けているというべきである。
さらに,被告B6は,当時内縁の妻であったJ1の名義で,平成15年8月から平成16年ころまでの間に合計70万円を,また,J1の偽名であるJ2名義で,同年7月から同年11月までの間に合計60万3200円を,分配金として受け取っていた(甲17の1,4ないし6)。
(被告B6の主張)
被告B6は,亡B1らとビジネスの関係にあったのであり,亡B1らと共謀して,Cグループによる違法な貸金業に加担していたことはなく,被告B6がCグループの会長ないし首謀者であるという事実はない。
ア 被告B6は,Cグループによる違法な貸付行為について,刑事責任を問われておらず,被告B6が首謀者であるはずがない。亡B1は,被告B6及び被告B7の名前を勝手に利用していたものであり,このことは,下記ウのとおり,亡B1が自ら認めていることから明らかである。
イ d町の土地は,被告B6が自宅を建てるために購入した土地で,被告B6が郵便受けを自ら設置して既存の建物を利用していたが,平成12年夏ころ,同建物を取り壊し,郵便受けもそのままにして,しばらく空き地にしておいたところ,平成14年夏ころ,自動車置場が欲しいと言っていた亡B1から頼まれて,毎月13万円の賃料で貸すことにした(甲17の1)。したがって,d町の土地の鉄板の囲いに,放置されていた郵便受けを取り付けたのは,亡B1の依頼した作業員であったと思われ,また,被告B6は,亡B1に無償で使用させていたわけではない。
ウ 原告らは,被告B6が会長名義でCグループから給与を受け取っていたと主張するが,亡B1は,「会長と社長の給与は全て自分が取得していた。従業員からの不満を避けるため会長名義としていたもので,会長の給与は自分の分として,社長の給与は離婚した子どもの養育費として使用していた。」と述べており(甲16の1),被告B6がCグループから金銭の支払を受けていた事実はない。また,被告B7は,亡B1から自動車を現金で買い取り,これをオークション等で売却して,その利益を得ていたにすぎず,亡B1から引き取った自動車を売却後に分配金を亡B1に戻すことはしていない。さらに,被告B6の内妻であったJ1は,経理を見るというアルバイト料として毎月7万円,平成15年8月から平成16年ころまでの合計額70万円を受領していたのであり,被告B6がこれを受け取っていたわけではない。なお,「J2」はJ1のことではなく亡B1の内妻であり,J1ないし被告B6がJ2名義の給与を受領したことはない。
エ したがって,被告B6は,そもそもCグループによる違法な貸付行為とは無関係であり,役割分担ないし共謀をしたこともないので,同被告に共同不法行為が成立する余地はない。
(4) 亡Fの自殺と第1事件及び第2事件被告ら(以下,一括して「被告ら7名」という。)による違法な貸付行為との因果関係及び被告ら7名の予見可能性
(原告らの主張)
ア 亡Fは,平成14年12月16日,所有していた自動車トヨタクラウン(以下「クラウン」という。)を担保に,Cから25万円を借り受けた。その後,亡Fは,Cから,平成15年5月16日までに利息5万4300円と更新料1万5500円の合計額6万9800円を支払うよう要求され,支払ができない場合にはクラウンを引き上げるとの通告を受けた。
イ しかし,亡Fは,同日までに支払をすることができなかったため,亡B1らは,同月20日,クラウンを亡Fのもとから引き上げ,亡Fに対し,同月21日午後7時までに6万9800円を支払わなければクラウンの取り戻しはできなくなるとの最終通告をした。
ウ 被告B2は,同日の朝から,亡Fに対して電話で督促を行い,午後1時までに連絡がない場合には職場に電話をかけると述べて亡Fを追い込んだ(乙1)。また,午後1時までに連絡がなかったため,被告B2は,実際に亡Fの職場に電話をしたうえ,午後6時までにCの事務所に来るよう要求し,来ない場合には自宅を訪問すると予告した(乙1)。さらに,被告B2は,亡Fが金策に奔走する中,亡Fの携帯電話に午後4時,午後5時43分,午後5時44分,午後6時55分と連続して架電して亡Fを追い立てた(甲71)。亡Fは,結局,約束の6万9800円を用意することができず,取戻期限であった同日午後7時ころ,N店ビルから飛び降り自殺した。なお,被告B2らが引き上げたクラウンは,同月29日,被告B7名義となった。
エ 以上のとおり,亡Fは,自殺する前日にクラウンを引き上げられ,翌日にも支払ができず,クラウンの取戻期限であった日時ころに飛び降り自殺をしているという経緯や,亡Fが残した遺書に,冒頭でCについての詳しい説明があったほか,亡Fが,Cの金利があまりに高いため支払ができず,仕事に必要な自動車を引き上げられてしまったことを嘆き,前途を悲観し苦悩している様子が記載されていること,また,亡B1らからの取立ての電話の直後に飛び降り自殺をしていることなどからすると,亡Fが,被告らによる自動車を担保とした貸付行為,高金利の徴収,自動車の引上げ,取立行為といった一連の行為によって精神的に追いつめられ,自殺をするに至ったことは明らかである。
そして,Cグループのようなヤミ金融からの借入れが借主を自殺に追い込むことは経験則上明らかな事実で,広く周知されているところであり,亡Fが次第に支払に困窮し,終わりのない支払継続と自動車を引き上げられるという恐怖から自殺に至ることは,一般人の見地からみて通常予見できる結果といえる。さらに,本件のような車金融は,債務者に強制引上げの可能性をちらつかせることで精神的・経済的に強いプレッシャーを与え,高金利の支払を強制する手口となっており,通常人も(当然,被告らも),高金利の車金融が債務者を自殺に追い込む危険性を有していることを認識している。
したがって,被告ら7名の上記一連の行為と亡Fの死亡との間には相当因果関係がある。
オ なお,因果関係の判断に当たり,仮に,亡Fの自殺が特別損害に当たるとしても,被告ら7名が同様の出資法違反行為を繰り返し,車金融が借主を追い込み不当な利益を上げることを熟知していたこと,被告ら7名が脅迫的ないし暴力的な言葉による取立てを行っていたこと,被告ら7名は,亡Fとの継続的取引の中で,亡Fの置かれた状況やクラウンに対する強い愛着を熟知したうえ,車を取り上げるというプレッシャーを与えることで無理な金策に追い込む車金融の特殊性を利用して焦燥感をかきたてるように,亡Fに対して自宅,携帯電話,勤務先と無差別に取立ての電話を繰り返していたこと(なお,乙1号証のテープに収録されている会話は,被告ら7名に有利な会話内容のみが編集されている疑いが強い。),ヤミ金融からの借入れが原因で悲惨な自殺や一家心中,犯罪行為が報道され,前科のある亡B1を中心とした被告ら7名がヤミ金融及び車金融の危険性を熟知していたことからすると,被告ら7名は,被告ら7名による一連の行為時において,亡Fが自殺に至ることは十分予見できたというべきであるから,予見可能性が肯定されるのであって,いずれにしても,被告ら7名の上記一連の行為と亡Fの死亡との間には,相当因果関係があることは,明らかである。
(被告らの主張)
原告らの主張は争う。
ア 亡Fに対する取立ての電話において,被告B2及び被告B4と亡Fとの会話内容は極めて静かなものであり,同被告らが亡Fに対して高圧的な態度を取ったり,脅迫的な言辞を弄した事実もなく,亡Fを追いつめるようなものではなかったし(乙1),亡B1らは執拗な取立行為を行っていない。したがって,亡B1らによる違法な貸付行為と亡Fの自殺との間に相当因果関係は存在しない。
イ 自殺に追い込まれる要因は様々あり得るから,亡Fの自殺を通常損害とすることは争う。また,Cへの金利の支払継続や自動車の引上げに対する恐怖が,即生きる希望の喪失という事態を招来したと考えるのは,論理の飛躍というべきであるし,亡Fに自殺を思わせる言動もなく,亡Fの自殺を予見し得るような事情も存在しなかったのであり,被告ら7名は,亡Fが自殺することなど全く予見していなかった。したがって,被告ら7名に,亡Fの死亡について法的責任はない。
ウ 仮に,被告ら7名に何らかの法的責任が認められたとしても,亡Fの死亡は,亡Fの長年にわたる借金を巡るストレスその他仕事上のストレスを原因とするものと考えられ,相当程度の過失相殺がなされるべきである。
(5) 原告らに生じた損害
(原告らの主張)
ア 原告A4に生じた損害
(ア) 弁済額相当額 159万9600円
原告A4と亡B1との間における自動車の売買契約及び賃貸借契約は公序良俗に反し無効であり,原告A4には,借入金の返還義務がないから,原告A4が亡B1らに支払った弁済額159万9600円全額が損害に当たる。
(イ) 自動車の時価相当額 121万5000円
原告A4と亡B1との間の自動車の売買契約及び賃貸借契約は公序良俗に反し無効であり,亡B1らには原告A4所有の自動車を引き上げる何らの権限もないから,原告A4が所有していた自動車(トヨタマークⅡ,大宮300に○○○○)の,平成16年1月引上げ当時における価格相当額121万5000円が損害に当たる。
なお,被告らは,20万円の完済を受けて原告A4に自動車を返還したと反論するが,20万円について入金の記録がないこと(甲51),被告らが売却に向けて原告A4の自動車の車検費用を支出していること(甲3の1及び2,51),Oが平成16年2月下旬に被告B7付近の自動車置き場において原告A4の自動車を購入した旨を供述していること(甲55)からすれば,被告らにより原告A4の自動車が処分されたことは明らかである。
(ウ) 慰謝料 200万円
原告A4は,生活上又は仕事上必要不可欠な自動車を担保にとられ,万が一支払を遅滞すれば自動車を取り上げられてしまうのではないかとの不安の中,毎月,賃料名目で252.78ないし514.29パーセントにも上る違法な金利を徴求され,一度支払を遅滞すると被告らによる執拗な取立行為により,私生活や業務の平穏を侵害され続けたのであり,その精神的苦痛は計り知れないものがある。
また,亡B1らは,以前にも出資法違反により営業停止処分を受けたにもかかわらず,再び本件出資法違反行為に及んだものであるが,これは,出資法違反を犯してでも高金利による貸付けを行うことで暴利を貪ることができることを熟知しているからであって,このような被告らが今後も同様の手口で高利貸しを再開する可能性は非常に高い。そして,被告らは,いまだ亡Fらから違法に取り上げた自動車及び金員を返還せず隠匿しているのであり,これを元手にして再び同種の貸付行為を行うことも可能な状況である。したがって,被告らが二度と資金需要者を自殺に追い込むような違法な取引を行わないよう,また,被告らが隠匿した財産を元手に同種の貸付けを行うことができないようにするため,被告らに対し,制裁的な意味を有する慰謝料も課すべきである。
以上の事情に鑑みると,原告A4が被告らに対して請求できる慰謝料額は200万円を下らない。
(エ) 弁護士費用 48万1460円
(オ) 合計 529万6060円
イ 原告A5に生じた損害
(ア) 弁済額相当額 4万3400円
上記ア(ア)と同様,原告A5が亡B1らに支払った弁済額4万3400円全額が損害に当たる。
(イ) 自動車の時価相当額 211万8000円
上記ア(イ)と同様,原告A5が所有していた自動車(トヨタウィッシュ,熊谷334す○○○○)の,平成16年5月引上げ当時における価格相当額211万8000円が損害に当たる。
(ウ) 慰謝料 200万円
上記ア(ウ)と同じ。
(エ) 弁護士費用 41万6140円
(オ) 合計 457万7540円
ウ 原告A6に生じた損害
(ア) 弁済額相当額 353万3650円
上記ア(ア)と同様,原告A6が亡B1らに支払った弁済額353万3650円全額が損害に当たる。
(イ) 自動車の時価相当額 106万円
上記ア(イ)と同様,原告A6が所有していた自動車(三菱キャンター,大宮400せ○○○○)の,平成15年12月引上げ当時における価格相当額106万円が損害に当たる。
(ウ) 慰謝料 200万円
上記ア(ウ)と同じ。
(エ) 弁護士費用 65万9365円
(オ) 合計 725万3015円
エ 原告A7に生じた損害
(ア) 弁済額相当額 89万0600円
上記ア(ア)と同様,原告A7が亡B1らに支払った弁済額89万0600円全額が損害に当たる。
(イ) 慰謝料 200万円
上記ア(ウ)と同じ。
(ウ) 弁護士費用 28万9060円
(エ) 合計 317万9660円
オ 亡Fに生じた損害
(ア) 弁済相当額 168万4100円
上記ア(ア)と同様,亡Fが亡B1らに支払った合計168万4100円全額が損害となる。
(イ) 自動車の時価相当額 179万円
上記ア(イ)と同様,亡Fが所有していた自動車(トヨタクラウン,大宮330す○○○○)の,平成15年5月引上げ当時における時価相当額179万円が損害となる。
(ウ) 慰謝料 3000万円
亡Fは,妻である原告A1を扶養し,一家の支柱として生計を維持していたところ,被告ら7名は年利404.28パーセントにも及ぶ暴利を貪り,亡Fが支払に窮すると執拗な取立てを行い,亡Fの仕事及び生活に必要不可欠な自動車を引き上げ,亡Fを絶望させて自殺に追い込んだものである。また,上記ア(ウ)の制裁的な意味を有する慰謝料も加味されるべきであり,亡Fが被告ら7名に対して請求できる慰謝料額は3000万円が相当である。
(エ) 逸失利益 3745万7400円
亡F(昭和17年6月24日生まれ)は,α大学を卒業し,死亡した60歳当時は,プラスチック成型などを業とするP株式会社に勤務し,営業を担当していた。そこで,平成13年賃金センサス第1巻第1表,産業計,企業規模計,男性労働者,大卒60歳の年収額である751万7400円から,生活費控除率40%を控除したうえ,就労可能年数11年(平均余命2分の1)に対応するライプニッツ係数8.3046を乗じると,亡Fの逸失利益は3745万7400円となる。
(オ) 合計 7093万1500円
カ 原告A1に生じた損害
(ア) 亡Fの葬儀費用 150万円
(イ) 亡Fの相続分 3546万5750円
亡Fの妻である原告A1は,亡Fの損害賠償請求権を2分の1の割合で相続した。
(ウ) 弁護士費用 369万6575円
(エ) 合計 4066万2325円
キ 原告A2及び原告A3に生じた各損害
(ア) 亡Fの相続分 各1773万2875円
亡Fの子である原告A2及び原告A3は,亡Fの損害賠償請求権を各4分の1ずつの割合で相続した。
(イ) 弁護士費用 各 177万3287円
(ウ) 合計 各1950万6162円
ク なお,被告ら7名は,貸金業でないことを仮装し,貸金業規制法及び出資法等の法規制を免れて高金利を得る目的で出資法の制限金利をはるかに超過する高金利を貪ったものであり,出資法に違反する犯罪行為に該当するのみならず,その反社会性は顕著である。したがって,被告ら7名が亡Fらに交付した貸付金は,不法原因給付に該当し,被告ら7名は,亡Fらに対し,その給付した金員の返還を求めることはできない。もし不法原因給付に該当しないとすれば,違法な貸付けの手段とした元本については確実に回収できることになり,将来の同種の不法行為を誘発することにもつながるから,貸付金の返還を認めないことは,法は不法に助力しないという民法708条の趣旨にも合致する。
(被告らの主張)
いずれも否認ないし争う。
なお,原告A4の車については,平成16年1月10日,20万円の完済を受けて原告A4に返還したはずであるから(甲3,5の1及び2,乙25),当該自動車の時価相当額が損害となることはない。
(6) 本件売買契約は通謀虚偽表示により無効か。
(原告A7を除く原告らの主張)
本件売買契約は,次の事情から明らかなとおり,被告B6の所有する本件各不動産が原告らの本件損害賠償請求権の責任財産となることを免れるため,被告B6が,その知人であるKが代表を務める被告B8と通謀して仮装したものであり,民法94条1項により無効である。
ア 被告B8は,被告B6が本件各不動産を売却しようとしたのは,前妻のIと離婚するにあたって多額の請求を受けたためであるなどと主張するが,被告B6がIと離婚したのは,本件売買契約よりも3か月以上前である平成17年4月15日であった。
イ 被告B6は,本件売買契約締結後も引き続き,J1及びJ1との子とともに本件各不動産に居住し,平成18年3月3日には,J1と婚姻したのを契機に,本件各不動産所在地を戸籍上の本籍として届け出たうえ(甲88),住民票の住所も同不動産所在地となったままである(甲85,89,90)。また,本件各不動産については,同年10月4日から同年11月17日までの間,被告B6の妻であるJ1を建築主又は建造主とする「J3様邸新築工事」が行われた(甲85)。
ウ 被告B8は,本件各不動産の近くに新駅ができることを承知していたため,将来値上がりしてから転売する予定であったなどと主張するが,平成21年3月14日には新駅が設けられているにもかかわらず,本件各不動産には依然として被告B6及びその妻子が居住しており,被告B8の上記予定は一切進捗していない。
エ 被告B8は,営利を目的とする法人であるにもかかわらず,本件各不動産の固定資産税及び都市計画税として年あたり合計約67万円を負担する一方(丙7,8),無償で被告B6とその妻子を本件各不動産に居住させており,利益を得る機会を失うばかりか損失を拡大させている。
オ 不動産取引業者であれば,不動産売買において売買代金の決済と同時に所有権移転登記手続をするのが通常であり,本件売買契約書にも第9条においてその旨の定めがあるにもかかわらず(丙2),被告B8は,被告B6から代金8000万円を受領した後も約5か月にわたって,所有権移転登記手続を放置していた。
(被告B8の主張)
ア 原告らの主張は否認する。
イ 被告B8は,被告B6から本件各不動産を売却したいとの話があり,値上がりが見込めると判断したため,適正な価格をもってこれを購入したものであり,代金8000万円も現実に支払っているから,本件売買契約は仮装ではない。なお,被告B6と被告B8が本件売買契約を締結した具体的な経緯は,次のとおりである。
(ア) 被告B6は,以前からの知り合いであったKに対し,平成17年3月ころ,被告B6から女性問題で妻との離婚が避けられず多額の請求を受けているとして,本件各不動産の買取りを依頼した。
(イ) Kは,本件各不動産の近くに新駅ができることを承知していたため,将来値上がりしてから転売することを視野に入れ,自ら代表を務める被告B8名義で買い取ってもよいと判断し,被告B6との交渉の末,代金8000万円で買い取ることを約束した。
(ウ) 被告B8は,同年7月12日,被告B6との間で,本件売買契約を締結し,同日,被告B6に対し,被告B8振出しの小切手(小切手番号ABA○○○○○)をもって代金8000万円全額を支払った(丙4,5)。
(エ) 被告B8は,同日,被告B6から所有権移転登記手続に必要な権利証,印鑑登録証明書及び登記委任状を受け取ったが,年度末に登記することにして,同年12月27日に本件各不動産につき所有権移転登記を経るに至った。
(7) 保全の必要性(債権者代位の必要性)
(原告A7を除く原告らの主張)
被告B6は,本件売買契約を締結した平成17年12月27日又は同年7月12日当時,本件各不動産以外にみるべき資産を有していなかった。
(被告B8の主張)
ア 被告B6は,本件売買契約が成立した平成17年7月12日当時,本件各不動産以外にも財産を有し,資力的に余裕があった。
イ また,被告B6は,現在,以下の不動産を所有しており,その評価は原告らの請求額を超えるから資力に欠けることはない。
(ア) 所 在 さいたま市a区e町f丁目
地 番 g番h
地 目 宅地
地 積 165.33平方メートル
(イ) 所 在 さいたま市a区e町f丁目
地 番 i番
地 目 宅地
地 積 84.42平方メートル
(ウ) 所 在 さいたま市a区e町f丁目
地 番 g番j
地 目 宅地
地 積 44.39平方メートル
(エ) 所 在 さいたま市a区e町f丁目g番地h
家屋番号 g番h
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺2階建
床 面 積 1階 60.41平方メートル
2階 47.79平方メートル
(被告B6持分 45分の30)
(8) 詐害行為の成否
(原告A7を除く原告らの主張)
ア 被告B6は,本件各不動産とd町の土地を所有していたが,本件訴訟が提起された10日後の平成17年4月15日,Iと離婚し,財産分与としてIにd町の土地を贈与したほか,同年7月12日又は12月27日,本件各不動産を被告B8に売却し,同日,所有権移転登記を経た。
イ 本件訴訟における原告らの被告B6に対する本件損害賠償請求権は,遅くとも平成16年6月1日までに発生しているところ,被告B6は,唯一の資産であった本件各不動産を被告B8に売却して所有権移転登記を経たのであり,そもそも本件各不動産の売却価額は不当に廉価であった疑いがあるほか,仮に相当価額で売却されたとしても,消費しやすい金銭に代えていること自体が原則として詐害行為となることからすれば,上記売却行為が,原告A7を除く原告らに対する詐害行為に当たることは明らかである。
ウ また,被告B6は,遅くとも第1事件の訴状が送達された平成17年5月10日までに,原告らから合計9653万9191円の損害賠償請求訴訟を提起されていることを知っていたのであるから,被告B6に詐害の意思があったといえる。
エ さらに,上記(6)の原告らの主張のとおり,本件売買契約成立後には多数の不自然な事情があることからすると,本件売買契約は被告B6と被告B8が通謀して仮装したものといえるから,被告B8に詐害の意思が認められるのも当然のことである。
(被告B8の主張)
ア 原告らの主張アは認める。ただし,本件売買契約の成立日は平成17年7月12日である。
イ 原告らの主張イないしエは否認ないし争う。
(ア) まず,本件売買契約は,平成21年5月20日をもって合意解約されたから(丙11),債務者たる被告B6の責任財産は原状に復するものといえ,被告B6による本件各不動産の売却行為は詐害行為に当たらない。
(イ) また,上記(7)で主張したとおり,被告B6は,本件売買契約が成立した平成17年7月12日当時,本件各不動産以外にも財産を有し,資力的に余裕があったから,被告B6の売却行為は詐害行為に該当しない。そして,詐害行為取消権を行使するための要件である債務者の無資力要件は,債務者の詐害行為時点だけでなく詐害行為取消権行使の時点(事実審の口頭弁論終結時)にも必要であるところ,上記(7)で主張したとおり,被告B6は,現在,原告らの請求額を超える評価額を有する複数の不動産を所有しているから,資力に欠けることはない。
(ウ) 上記(3)で主張したとおり,被告B6は,Cグループによる違法な貸付行為に何ら関与しておらず,責任を問われることはないと確信しているから,判決により支払債務が認められることを想定して自らの財産を隠匿しようとすることはあり得ず,被告B6に詐害意思は認められない。
(エ) さらに,被告B8にも,本件各不動産を購入したことについて,原告らを害する意思は全くなかった。
第3争点に対する判断
1 上記争いのない事実等に加え,証拠(甲1の1及び2,2の1,3ないし5の各1及び2,6の1ないし3,7ないし11の各1及び2,12,15の1ないし23,17の1,17の2の1及び2,17の3ないし6,17の7の1及び2,17の8ないし10,49ないし51,53ないし61,62の1ないし3,63,68ないし71,73の1及び2,74,80,91,92,96,100の1及び2,乙1,2,4ないし16,18,19,21,丙1,9,原告A4,原告A5,原告A6,原告A7,原告A1,原告A2,亡B1,被告B2,被告B4,被告B3,被告B6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) Cグループの成り立ち
ア 亡B1は,埼玉県に貸金業登録したうえ,平成13年1月ころから,さいたま市k区lm丁目n番o号Qビル(以下「Qビル」という。)502号において,被告B2,被告B4及び被告B5とともに,「C」の名称で自動車を担保とした貸金業を営んでいたが,平成14年6月12日,出資法違反を理由に240日の業務停止処分を受け,その後,同年10月18日に出資法違反及び貸金業規制法違反(業務停止命令期間中の貸金業務)で逮捕,起訴され,罰金50万円の刑を受けたほか,同年12月24日には貸金業の登録を取り消された。
しかし,亡B1は,罰金刑を受けて釈放された後,新たに従業員の名義で貸金業登録を受けたうえ,Cと同じリース業の名目で高金利を得る貸金業を始めることを計画した。もっとも,Cと全く同じ営業をすれば再び行政指導を受けたり出資法違反で逮捕されてしまうため,金融庁や警察に対して言い逃れができるよう,亡B1は,正規のリース業について勉強したところ,正規のリース業として,車で資金を得ようとする者が所有自動車を売却して買主から当該自動車のリースを受けるセール・アンド・リースバック取引と呼ばれるものがあること,ただし,買主が売主に対するリースを条件に自動車の売買を行った場合で,売買及び賃貸に至るまでの一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められる場合には金銭の貸付けと扱われることを知り,これを踏まえて,貸金業を再開するに当たっては,貸付けではなく車の買取りであることを強調し,さらに売買と賃貸を一連の流れにしないよう,売買契約日と賃貸契約日を1日違いで行ったり名称の異なる買取業者やリース業者を入れることを考えた。
イ(ア) そこで,亡B1は,まず,被告B5に指示して,平成14年11月28日,東京都清瀬市所在の貸室を賃借させたうえ,東京都において,「Hリース」の名称で,代表者を被告B5,本店を同貸室とする貸金業の登録申請をさせ,平成15年2月14日に貸金業登録を受けた(本来は「Eリース」の名称で登録申請したつもりであったが,担当者が申請書の文字を1字読み間違えたため「Hリース」となったものである。)。
(イ) 亡B1は,上記貸金業登録を申請したころから,「車でお金」の文言や電話番号,「Eリース」又は「Dリース」(看板製作業者が「Eリース」を間違えて製作したもの)と記載された看板を作成して,さいたま市内を中心に設置した。なお,名称が異なっても記載された電話番号はいずれも同じであった。
(ウ) 亡B1は,平成14年末ころか平成15年初めころ,Cの従業員であった被告B2,被告B5,被告B4をQビル502号所在の事務所に招集し,今後の業務のやり方について,Cで使っていた借入申込書を「買取申込書」に変えること,車に乗ったままの客に対しては車買取りのための「自動車売買契約書」と車リースのための「賃貸借契約書」を書かせること,その際,売買契約と賃貸借契約は別の日付とし,自動車売買契約書の買取業者欄には「E自動車」という架空の名称を明記したうえ,被告B5に取得させた古物営業の免許番号を記載すること,賃貸借契約書の貸主欄には「C自動車」という架空の名称を明記して亡B1の有する自動車貸渡業の許可番号を記載すること,車を預かる客に対しては今までどおり「買戻約款証書」を書かせることを説明した。
(エ) また,亡B1は,上記貸金業登録当初は,清瀬市のアパートで車の買取契約(実質は貸付け)をして,翌日にQビル502号所在の事務所で自動車賃貸契約を行おうとしていたが,結局は,清瀬市のアパートには転送電話を入れただけで,実際の営業はすべてQビル502号で行うようになり,賃貸借契約日の日付を売買契約日の翌日にすることとした。
(オ) さらに,亡B1は,いまだに街頭に残っている「C」の看板を見て電話をしてくる客がいるため,埼玉県内で「C」の名前を生かして貸金業を継続させ,また東京都や埼玉県よりも財務局の登録番号を入れて信用度を高めたいとの思いを抱いていたところ,平成15年5月ころから従業員として雇い入れた被告B3が北海道札幌市に自宅を有していたことから,被告B3に対し,北海道財務局において貸金業登録をすることを依頼したところ,被告B3は,同年8月25日,「Cリース」の名称で,代表者を妻のR,本店を北海道札幌市所在のRが居住する自宅,従たる営業所をQビル502号所在の埼玉支店,埼玉支店長を被告B3として貸金業登録を受けた。もっとも,本店とされた自宅は当初から営業の予定がなく,北海道の支店長とされた被告B3は,実際には,同年5月ころから,新人の従業員として主に看板貼りに従事していた。なお,埼玉支店の所在地は平成16年4月ころにQビル303号に変更された。
(カ) そして,亡B1は,「車でお金」の文言や電話番号,北海道財務局の登録番号とともに「Cリース」と記載された看板を新たに作成して,さいたま市内を中心に設置した。なお,同看板に記載された電話番号は,「Eリース」,「Dリース」の看板に記載されたものと同じである。
ウ 被告B2らの加担の経緯及び各人の役割
(ア) 被告B2は,平成12年11月か12月ころCに入社して稼働していたところ,平成14年12月ころ,罰金刑を受けて釈放された亡B1に招集され新たな車金融業の手法について説明を受け,再び亡B1の下で働くようになり,当初は看板貼りの仕事をしていたが,その後は「G1」という偽名を使用し,亡B1と被告B4に手順を教わりながら貸付業務を手伝うようになり,平成15年末ころからは,Cグループの店長を任されるようになった。被告B2は,車の状態を確認して貸付額や利息額を決定するなど貸付業務を担当したうえ,取立ての電話をかけたり,自宅まで行って車を引き上げるなど取立行為等にも従事していたほか,債務者から受領した金員を売上げとして日報に記載したり,新規に加わった被告B3に貸付業務等の仕事の手順を教えるなど,Cグループの業務全般に関与し,重要な役割を果たしていた。
(イ) 被告B4は,平成12年ころCに入社し「G2」という偽名を使用して主に貸付業務を担当し,亡B1が逮捕されたことを契機に退社したが,平成14年12月ころ,亡B1に呼び戻されて再びCないしCリースで働くようになった。被告B4は,当初,後に加担した被告B2や被告B3に仕事の手順を教えながら貸付業務を行っていたが,平成15年末になって被告B2が亡B1から店長などの業務を任されると,主に事務所において,電話番や来客の対応などの補助的な仕事や,帳簿等の記入などの事務処理に従事していた。
(ウ) 被告B3は,平成15年5月ころ,亡B1から誘われてCグループによる違法行為に加担するようになり,当初は,主に宣伝用看板の設置の仕事をしていたが,前記のとおり,同年8月には,妻の名義により「Cリース」の名称で北海道財務局の貸金業登録を得るとともに,被告B2から直接教わったり,被告B2や被告B4が実際に行っているのを見聞きして,貸付業務を覚えるようになり,亡B1及び被告B2を補助して,自動車の査定,貸付けの適否の判断,貸付額の決定,受領利息額の決定,利息や元金支払の決定や延滞者への対応などCグループの違法行為全般に関わっていた。
(エ) 被告B5は,Cの従業員として稼働し,平成14年12月ころから再び亡B1の下で働くようになったところ,主に宣伝用看板の設置を担当し,また,前記のとおり,自己名義により「Hリース」の名称で東京都知事の貸金業登録を受け,「DリースB5」として自動車の買戻約款証書の名義人となっていたほか,車の状態を確認したり,債務者から金員を受領するなどしていた。
(2) Cグループの営業方法等
ア 具体的な貸付方法
亡B1らが行っていた貸付方法の具体的な内容は,次のとおりである。
(ア) 客が看板を見て電話をしてくると,電話に出た者が,車の名義を聞いて,個人の場合は実印,印鑑登録証明書2通,住民票1通,車検証,運転免許証,車のスペアキーを,法人の場合は会社の実印,印鑑登録証明書,会社の登記簿謄本1通,社判,車検証,車のスペアキー,客個人の運転免許証を持参して,担保する車に乗って事務所近くの駐車場まで来るよう指示する。
(イ) 客が駐車場に車を止めて連絡をしてきたら,駐車場で車の状態を確認し,客を事務所へ案内する。
(ウ) 客を事務所の応接室に通して,買取申込書に自宅住所,資産状況,勤務先,車に関する情報(車種,年式,走行距離,購入金額,残債等),家族の氏名及び勤務先・学校名等を記入させたうえ,免許証のコピーを取ったり,住民票や印鑑登録証明書等の書類を預かる。
(エ) その後,客から融資の希望額等を聞く一方で,別の従業員が,買取申込書に記載された内容や預かった書類から得られた情報に基づいて,勤務先などに客の在籍確認をしたり,オークション情報誌で車の査定額を調べたり,ローン返済中の車についてはローン会社に架電してローン残金を確認する。
(オ) そして,貸付けが可能と判断すると,貸付条件の説明をしたうえ,車を預ける客には,買戻約款契約書と自動車売渡証書を,乗ったままの客には自動車売買契約書,自動車売渡証書と賃貸借契約書を作成させる。買戻約款証書の媒介者欄には「Dリース」,自動車売渡証書や自動車売買契約書の買主欄には「E自動車」の架空名称を用いるが,その下部にはCリースの電話番号を記載し,自動車売渡証書の「売渡手付金」や自動車売買契約書の「売買代金」は貸付金額とする。また,賃貸借契約書は,契約日付を自動車売買契約の1日後とし,貸主欄には「C自動車」の架空名称を用い,その上部にCリースの事務所の住所を記載する。
(カ) 客が車を預けた場合は,1か月当たり2.4パーセントの法定金利利息のほか月2万円ないし4万円(排気量により亡B1又は被告B2が決定していた。)の保管料を,客が車に乗ったままの場合は,1日当たり6.9パーセント(1か月当たり10万円に対して1日690円×30日+税金5パーセントの100円未満切捨て)のリース代を支払わせることとし,貸付けの際には,貸付金額から,1か月分の上記保管料及び利息又はリース代のほか,名義変更料(所有権移転費用,公正証書作成費用)8000円,事務手数料1000円及び印紙代400円を差し引いた額を客に交付する。
(キ) 客には,貸付金の返済期限は1か月後であること,返済できないときは車預かりの場合には保管料,利息及び手数料5パーセントを,車に乗ったままの場合にはリース代を支払って返済期限を1か月延長できること,車に乗ったままの場合,返済期限は最大3か月まで延長できるが,それまでに返済できなければリース代の50パーセントの手数料を支払って更新する必要があること,更新時に車を預けた場合には手数料は不要となることなどを説明する。
(ク) 利息等の支払が遅れると,同自動車を引き上げて他に売却し,売買代金を取得して利益を得る。また,保管料又はリース代の支払が遅れた場合には,延滞料として1日当たり保管料又はリース代の1.5倍の額を支払うことになる。
イ 車の売却方法
(ア) 本人名義の車を担保とした場合,貸付時において所有者名義を亡B1か被告B5に変更し,借主が貸付金を返済できなくなった時点で,車を引き上げてd町の土地にある駐車場に保管した後,その多くを被告B7に売却し,これを被告B7がオークションに出品して転売しており,具体的には,平成15年12月19日から平成16年7月30日まで,亡B1は,被告B7に対し,少なくとも13回にわたって自動車を売却したところ,貸付金交付額との比較において算出される売却差益から売却損失を引いた利益は合計435万2100円にのぼった。
もしくは,亡B1が,被告B7ないし被告B6に売却の仲介を依頼し,オークション等で売れた場合には,同被告から手数料を引いた売却金額を受け取っていた。
(イ) 他方,ローン中の車を担保とした場合,借主に買い戻させるか,期限を区切りリース代を取って貸し出す,残債を処理して売却する,又はそのまま寝かせておいてローン支払が終了した時点で売却するなどの方法を採っていた。
(ウ) なお,転売先の客から振り込まれる金員は,S銀行の「有限会社T」名義の口座に振り込まれていた。
ウ 売上金の分配
(ア) 貸付け時に差し引いた金額や1か月毎に支払われた金額は,すべて売上げとして日報に計上することとされ,日報の作成は,平成14年末ころからは被告B2と被告B4が,被告B4が退社した平成16年9月以降は被告B2と被告B3が担当し,亡B1が目を通して貸付状況や売上状況を管理していた。また,この日報は,被告B6の自宅へもファックスで送信されていた。
(イ) 売上金から,従業員である被告B2,被告B5,被告B3,被告B4(名義は亡B1の内縁の妻であるU)のほか,被告B6の内縁の妻であるJ1に対する給料が支払われていた。
平成16年6月以降は,従業員の給料を固定制から歩合制に変更した。すなわち,売上金から,看板代や家賃,弁護士費用などの経費を差し引いた後,さらに会社に残すための経費20パーセントと不良債権を差し引いた残額を給料分配資金としたうえ,亡B1の独断で決めた各従業員の分配率に従って給料を支払うというものであった。なお,給料分配のメモには,「B6ないし会長27%」「B1ないし社長26%」「B215%」「B5 4%」「G3(B3)7%」「G47%」「G5(B4)6%」「J2(J1の分)3%」などと記載されていた。
なお,日報に,車を売却した時の売上げについては記載されておらず,その利益は亡B1が独占していた。
(ウ) Cリース入出金一覧表(甲101の1及び2)によると,平成15年8月1日から平成16年11月30日までの間に貸付けをした客は全部で363名にのぼり,上記(ア)で挙げたような売上額と元金返済額を合計すると1億8810万7375円にのぼるところ,Cリースは,貸付金として交付した額8276万5378円を差し引いても1億0534万1997円の粗利を得ていたうえ,ここから平成16年までの給料等の経費3632万2950円を差し引いた純利益として6901万9047円を得ていたことになる。また,その実質的な貸付の利率は,出資法の上限金利である29.2パーセントをはるかに超過する年利252.78パーセントないし514.29パーセントという著しく高いものであった。
(3) 原告A4に対する貸付け及び車の引上げ
ア 原告A4は,行方不明となった兄の借金の連帯保証人として,その支払に追われていたが,警備関係の仕事に従事していたため破産はできないと思い,子供の関係や生活費などで突発的な支出が必要なときには,V1という金融業者から車を担保に借入れをして何とか資金繰りをしていた。そのような中,原告A4は,浦和や大宮に多数掲示されていた「車でお金」などと記載されたCの立看板を見て,Cが車を担保に融資をする業者であることを知った。そこで,原告A4は,平成14年12月ころ,同看板に記載された電話番号に架電したところ,電話口に出たG1と名乗る男性から,「一度お越しになって車を見せてください。うちは車の預かりも乗ったままでの融資もできます。」などと言われ,来店の際には,印鑑登録証明書,実印,住民票,車のスペアキー,免許証を持参するよう伝えられた。
イ 原告A4は,同月9日,車でCの事務所を訪れた。G1と名乗る被告B2と被告B4が応対し,支払可能な金利の範囲で交渉した結果,車に乗ったままの形で20万円を借り受けることになった。原告A4は,金利が高いと感じつつも,むやみに詮索して貸付けを断られるのを心配し,また,Cが事務所を構えて貸金業登録を受けていることへの信頼感もあったため,借入れをすることを決めた。そこで,被告B2は,駐車場に止められた原告A4の車を査定した後,原告A4に書類への記入を促し,原告A4は,書類の説明を受けることなく,買取申込書に自宅住所,資産状況,勤務先,車に関する情報(車種,年式,走行距離,購入金額,残債等),家族の氏名及び勤務先・学校名等を記入するとともに,20万円を受領した旨の受領証を作成したが,実際に被告B2から受け取った金額は14万2400円であり,天引きする理由についても特に説明はなかった。なお,原告A4の車は,平成12年型のトヨタマークⅡで,購入価格は320万円,走行距離は約4200㎞,ローンの支払が200万円くらい残っていた。
そして,被告B2は,原告A4に対し,返済期限は1か月後,利息は1か月5万8200円であること,1か月後に20万円を支払えば完済となり,1か月後に利息を支払えばさらに1か月返済期限を延長できるが,返済期限の延長は最大3か月までであること,期限内に支払えなければ車を引き上げることを説明し,支払の前日には電話を入れて,支払当日の夜7時までに必ず現金で持参するようにと指示した。この時,Cの事務所には亡B1もおり,被告B2と被告B4は分からないことがあると亡B1の指示を仰いでいた。
原告A4は,翌15年1月10日ころ,5万8200円の利息を支払い,翌2月10日ころ,20万円を支払って完済した。なお,この時も以後も,支払の際に領収証を受け取ることは一切なかった。
ウ また,原告A4は,同年5月15日,不意の出費でお金が必要となったため,再度Cから20万円を借り入れることにした。被告B2は,20万円から,車の保管料名目で3万円と利息名目で4800円,事務手数料印紙代名目で1400円,所有権移転費用名目で8000円を差し引いて,残りの15万5800円を原告A4に交付したが,かかる天引き額について原告A4に説明はしなかった。また,原告A4は,利息を安くするため,車をCに預けることにしたところ,まだ返されていない車の受領証を作成させられ,自動車運転免許証の写し,住民票,印鑑登録証明書等を提出した。
原告A4は,翌6月15日ころ,利息4万4800円を支払い,翌7月15日ころ,20万円を支払って完済し,車の返却を受けた。
エ 原告A4は,同年夏ころ,車を預ける形でCから借入れを行い,同年8月1日には41万5000円を支払って,車を乗ったままに切り替えた。そして,原告A4は,残元金20万円について,翌9月9日と同年10月9日にそれぞれ利息として4万3400円を支払った。
オ さらに,原告A4は,同年10月18日,35万円の借り増しを行った。実際には,保管料・事務手数料印紙代・7.4%の利息相当額名目で5万7900円が差し引かれた29万2100円の交付を受け,車はCに預けることとした。
原告A4は,同年11月10日,名目上の残元金の合計55万円を支払って完済し,車の返却を受けた。
カ 原告A4は,同日,再度車を預ける形で20万円の貸付けを申し入れたところ,実際には15万5200円の交付を受け,その際,返済期限を1か月,利息として1か月4万4800円を支払う旨を約束した。また,原告A4は,書類への署名押印を求められ,自動車を同日付けでE自動車に売り渡し手付金として20万円を受け取った旨の自動車売渡証書と,車売り渡し金として20万円を受領した旨の領収証を作成し,さらに,同年12月10日までに買戻代金20万円を支払った時には当該自動車を買い戻すことができる旨のDリース宛て買戻約款証書を作成した。なお,この時,被告B4が買戻約款証書に車のナンバーなどを記載した。
原告A4は,同年12月9日,4万4800円を支払ったが,元金20万円を返済できなかったため,返済期限を1か月延長し,買戻約款証書の買戻代金の支払期日も平成16年1月10日に訂正された。
しかし,原告A4は,同日の支払が難しくなったため,同月8日ころ,Cの事務所を訪れ,被告B2に支払猶予の相談をしたところ,事務所の奥から亡B1が現れて,10万円を持ってくれば車を返す旨を伝えられた。そこで,原告A4は,亡B1の言葉を信じて,1週間以内に10万円を工面し,被告B2に10万円が用意できたことを電話で伝えたが,被告B2から既に車がないことを知らされた。
キ 亡B1は,同月20日,原告A4の車に係る自動車損害賠償責任保険料,重量税及び検査登録代を支払ったうえ,同年2月下旬ころ,被告B7付近の自動車置き場において,Oに原告A4の車を売却した。一方,原告A4は,車を失ったにもかかわらず自動車税の請求を受けていたため,大宮の陸運局において税止めの申請をしたところ,後に,原告A4の車を使用していたOから車検を通すために税止めの解除をしてほしいとの連絡を受けたが,結局解除をしなかったため言い争いとなり,その後,Oとの連絡は取れなくなった。
(この点,被告らは,同年1月10日,20万円の完済を受けて原告A4に車を返還した旨を主張し,亡B1と被告B2がこれに沿う供述をするとともに〔甲3の1,甲5の1,亡B1本人,被告B2本人〕,原告A4作成の車の受領証〔乙25〕を提出する。しかし,亡B1と被告B2の各供述は,返済金20万円についてCリースの日報に入金記録がないこと〔甲51〕や完済後の同月20日に亡B1らが原告A4の自動車の重量税等の車検費用を支出していること〔甲3の1及び2,甲51〕と矛盾しているうえ,その供述内容もあいまいであるほか,Oが同年2月下旬に被告B7付近の自動車置き場において原告A4の自動車を購入した旨を明確に陳述しているところ〔甲55〕,原告A4が税止めする一方で自ら売却をすることはあり得ないことに照らせば,被告B7又は被告B7に担保自動車を度々売却していた亡B1らが売主であったと考えるのが自然であって,亡B1及び被告B2の上記各供述をにわかに採用することはできない。また,車の受領証〔乙25〕についても,その作成経緯は必ずしも明らかでないが,上記イに認定した契約書等の作成経緯や,下記(4)ないし(7)に認定のとおり,CないしCリースのもとで実態と異なる内容の書類がしばしば作成されていたことに照らすと,亡B1らが原告A4をして意のままに作成させた可能性が否定できず,その記載内容を直ちに信用することはできない。)
(4) 原告A5に対する貸付け及び車の引上げ
ア 原告A5は,車好きが高じて車の改造費にお金をかけるようになり,消費者金融やクレジット会社18社くらいから借入れをしていたところ,遅れていた車のローン返済に充てるため新たな借入先を探していた。そこで,原告A5は,多数の立看板を見て知っていたCリースから車を担保に融資を受けようと考え,立看板に記載されていた電話番号に架電すると,G1と名乗る男性(被告B2)から,「印鑑登録証明書,住民票,実印,車検証,スペアキー,健康保険証,免許証,保管場所交付申請書がそろったら,担保にする車ですぐに来てください。」と言われた。
イ 原告A5は,平成16年3月31日,被告B2の指示に従って,Cリース事務所付近のコインパーキングに車を止めた後,事務所へと案内された。この時,被告B2と被告B3が原告A5の車の型式や走行距離,傷の状態などを確認した。
そして,原告A5が,持参した住民票,印鑑登録証明書,自動車検査証免許証,健康保険証及び保管場所交付申請書を提出し,買取申込書に自宅住所や資産状況,借入先,勤務先,家族の氏名及び勤務先・学校名等を記入すると,被告B2は,被告B3が勤務先に架電して原告A5の在籍確認ができたことを受けて,原告A5に対し,融資できる額は30万円までであること,利息は天引きし,月末に融資名目額を支払えば完済となること,支払えない時にはリース代名目で利息分の額を支払えば返済期限を1か月延長することができること,3か月目で支払ができないとリース代の50%分の更新料がかかること,貸付け後に自己破産をしたり弁護士などの第三者が介入したり,支払の延滞があったときには車を引き上げることなどを説明した。
原告A5は,利息が高いと思いつつもCリースが北海道財務局の営業許可を受けていることや車のローン返済期限が迫っていたこと,応対した被告B2の印象が怖くて借りないで帰ると何をされるか分からないと思ったことなどから,20万円を借り受けることにした。原告A5がその旨を被告B2に伝えると,代わりに被告B3が出てきて,書類に記名や押印をするよう求めた。原告A5は,被告B3から特に説明を受けることなく指示されるままに,E自動車に代金20万円でA5の車である平成15年型のトヨタウィッシュを売り渡した旨の自動車売買契約書と自動車売渡証書,C自動車から同トヨタウィッシュを月額4万3400円で賃借する旨の賃貸借契約書に署名押印したほか,被告B3に言われるがまま,一切の責任をもってトヨタウィッシュを引き渡すことを保証する旨の原告A5の母名義による自動車引渡し保証書と,強制執行承諾約款付き公正証書作成に関する原告A5名義の委任状を作成したうえ,念書と題する書面に,車を売り渡したため名義変更に必要な書類を平成16年4月30日までに持参する旨,車は借りて乗っているだけなので返還の請求があり次第直ちに返す旨を自筆で記載した。また,被告B3から,翌日中に内容証明郵便で発送するようにと通知書を封筒と一緒に渡されたため,原告A5は,同年4月1日,同年3月31日に締結した自動車売買契約に基づきトヨタウィッシュの代金20万円を受け取った旨,所有権の解除及び移転登録に必要な書類を持参する旨,Wが責任をもって車両の引渡しを保証する旨が記載された通知書を,E自動車宛てに内容証明郵便により発送した。
そして,原告A5は,20万円からリース代名目で4万3400円,所有権移転の公正証書作成手数料名目で8000円,事務手数料・印紙代名目で1400円が差し引かれた14万7200円の交付を受け,被告B2から,同年4月30日までに20万円を返済すれば車を返却すること,返済できない場合にはリース代として4万3400円の支払が必要となるため,事前に電話をしてから現金で支払に来るよう,支払の際には担保にした車に乗ってくるようにとの説明を受けた。
ウ 原告A5は,同日,20万円を用意できなかったため,事前に電話をしたうえ利息として4万3400円を支払い,返済期限を1か月延長した。
エ 原告A5は,同年5月24日,母親に勧められてCリースに対する借入金について「X」に相談へ行ったところ,Cリースがヤミ金であることを教えられ,破産するしか方法がないと司法書士を紹介された。そして,同司法書士が,同日,Cリースに架電して,原告A5は支払能力がなく自己破産をする予定であるから,今後支払はしない旨を伝えた。
ところが,上記連絡を受けた亡B1が,被告B2に対し,原告A5の車を引き上げるよう指示したため,被告B2と被告B3は,翌25日の午後9時ころ,突然原告A5の自宅を訪れ,原告A5に車検証を見せながら車を渡すよう求めた。原告A5は,Xと司法書士に電話をして助けを求めようとしたが,時間が遅かったため双方ともつながらなかった。そして,原告A5は,被告B2らに車の引渡しを待ってほしいと頼んだが,被告B2から「今日必ず持って行きます。あまり騒がれてはあなたも困るでしょ。」などと言われ,68歳の母親がいるところで暴力をふるわれて騒がれたらと怖くなり,被告B2らが車を引き上げることを了解し,車を引き渡す旨の念書を作成した。なお,車内にあった私物については,後日,宅急便で原告A5の自宅宛てに送られてきた。
オ 亡B1らは,引き上げた原告A5の車を,d町の土地にある駐車場に保管していたが,2,3か月後に売却するに至った。
(5) 原告A6に対する貸付け及び車の引上げ
ア 原告A6は,平成13年2月ころから家電製品の配送業を個人で営んでいたところ,その資金繰りと生活費に困窮するようになり,国道沿いに掲示されていたCの看板を見て,配送用の車を担保にお金を借りようと考え,看板に記載された電話番号に架電した。配送用の車は,平成12年型の三菱キャンターで,270万円くらいで購入したが,ローンの支払が200万円以上残っている状態だった。
イ 原告A6は,平成13年4月25日ころ,電話で指示されたとおり,印鑑登録証明書や実印,住民票,車検証,スペアキーなどを持参して,Cの事務所を訪れた。事務所にはG1と名乗る被告B2と被告B4がいたが,主に応対したのは被告B4であった。被告B4は,原告A6から車検証を受け取ると,どこかへ電話をし,車の名義がローン会社になっているため30万円しか貸せないと言ったが,事業資金にも生活費にも困窮していた原告A6は借入れることを決め,車は預けられないことを伝えた。被告B2がキャンターの状態を確認した後,原告A6は,被告B4から渡された書類に言われるがまま署名押印をした。書面は,借用証書や契約書,賃貸借契約書などであったが,特に書類についての説明はなかった。そして,原告A6は,被告B4から,30万円を一括返済できれば完済となり,一括返済できない場合には毎月25日に6万5200円の利息を支払うこと,返済期限は3か月で,この期間内に完済できなければ契約の切替えをしなければならないこと,支払の際には前日に必ず電話で連絡をして,当日の午後7時までに現金持参で支払うことなどを説明され,30万円から利息のほか登録料や手数料等の名目で8万1800円が差し引かれた21万8200円の交付を受けた。また,原告A6が帰宅する時には,被告B2が住所と車の所在を確認するためとして,原告A6の自宅と駐車場まで同行した。
ウ 原告A6は,同年5月25日ころ及び同年6月25日ころ,それぞれ利息として6万5200円を支払ったが,同年7月25日に30万円を支払うことができず,その旨を被告B4に伝えると,契約の切替えをするため印鑑登録証明書を持参するよう指示された。そこで,原告A6は,同日,Cの事務所を訪れ,印鑑登録証明書を提出するとともに,利息6万5200円に更新料ないし契約手数料の名目で3万2600円を加えた9万7800円を支払った。その後,原告A6は,同年8月25日ころ及び同年9月25日ころにそれぞれ利息として6万5200円を支払い,同年10月26日,30万円を支払って完済した。
エ しかし,原告A6は,なお困窮していたため,同日,再度40万円を借り受けることとし,29万4100円の交付を受けた。
そして,原告A6は,同年11月26日ころ及び同年12月26日ころ,それぞれ利息として8万6900円を支払ったが,翌14年1月26日には40万円を支払うことができなかったため,同日ころ,印鑑登録証明書などを提出したうえ,利息のほかに更新料ないし契約手数料名目で合計13万0350円を支払った。原告A6は,同年2月26日ころに8万6900円,同年3月22日ころに8万7000円を支払い,同年4月22日には41万円を支払って完済した。
オ また,原告A6は,同年5月23日,再度資金繰りが苦しくなったため,20万円を借り受けることとし,実際には15万2600円の交付を受け,翌6月22日に利息として4万3400円を支払った後,翌7月22日に20万4800円を支払って完済した。
カ 原告A6は,同月25日,車や人を増やして事業を拡大するための資金として50万円を借り受けることとし,35万2000円の交付を受け,翌8月25日ころ,50万円を支払って完済した。
キ さらに,原告A6は,同日ころ,30万円を再度借り受け,21万8200円の交付を受けたが,その後,30万円を返済することができず,同年9月以降,毎月25日ころに利息として6万5200円を支払い続け,契約の切替えが必要となった平成14年11月25日と翌15年3月には3万2600円を加算して支払った。なお,このころ,原告A6は,利息を被告B5に何度か支払った。
ク また,原告A6は,平成15年に80万円で新たに購入した平成8年型のエルフを担保に,新たな借入れを行うこととし,同年5月28日ころ,30万円から8万1800円を差し引かれた21万8200円を受け取った。原告A6は,翌6月及び7月の各28日ころには,上記キの貸付けに対する利息分を合せて13万0400円を支払い,同年8月28日には,更新料等も含めて合計19万5600円を支払った。しかし,いよいよ利息をこれ以上支払えない状態となったため,原告A6は,同月ころ,利息支払の相談をしようとCの事務所を訪れたところ,担当の被告B4に代わって亡B1が応対し,亡B1は,以前出資法違反で逮捕された際に原告A6が告訴をせず世話になったとして,上記2つの貸付けを1つにして元金の返済だけでいいなどと述べた。
しかし,翌9月になると,原告A6は,被告B4から,自分はその話は聞いていないとして,以前と同様13万0400円の利息を支払うよう求められた。原告A6は,配送業に必要な車を引き上げられることだけは何とか避けたい,自宅も知られているので自分や家族が何か危ない目に遭わされるのではないかとの思いから,同月及び翌10月の各28日ころ,それぞれ利息として13万0400円を支払った。
ケ 原告A6は,同年11月28日,利息を支払うことができなかったため,キャンターに乗って逃げようと考え,同年12月1日朝5時ころに家を出発した。しかし,内妻がゴミを出し忘れたと言うので捨てに自宅へ戻ると,被告B2が,キャンターに差してあったキーを持って来訪し,約束どおり車を引き上げる旨を告げた。この時,原告A6は,被告B2が指示を受けるために電話連絡をしていた亡B1に対し,仕事ができなくなって生活できなくなるので車を残してほしいと直接頼んだが,聞き入れてもらえず,被告B2は,そのままキャンターを引き上げて行った。また,当時,原告A6が知人に貸していたエルフも,名義が無断で変えられた。
なお,キャンターについては,その後しばらく被告B3ないし被告B3から借り受けた友人が使用していたが,違法駐車をした際に所有者であったV2株式会社に引き取られた。
(6) 原告A7に対する貸付け
ア 原告A7は,建築業の会社に勤務していたが,消費者金融数社から合計200万円の借金があり,利息等の支払に苦慮していたところ,さいたま市内の道路脇に「車でお金」,「Cリース」などと記載された看板があるのを見て,看板に記載された電話番号に架電して借入れを申し込んだ。電話口に出た被告B4は,原告A7に対し,車の年式や車種,走行距離などを尋ねるとともに,事務所へ来る際には実印,車検証,住民票,印鑑登録証明書などを用意するよう伝えた。
イ 原告A7は,平成16年2月4日,G1と名乗る被告B2の案内に従って,車を駐車場に止め,被告B2が車の状態を確認した後,Cリースの事務所へ案内された。原告A7が30万円ほど貸してほしい旨伝えると,被告B2は,どこかへ電話をかけて融資額の相談をしていたが,上司が了承したとして,車を担保に30万円まで融資できるが,リース料や手数料などを差し引くと24万円くらいしか交付できないこと,1か月以内に30万円を支払えば完済となること,30万円を支払えない場合は月6万5100円の利息を支払えば返済期限を1か月延長でき,最大3か月まで延長することができること,3か月経っても完済できない場合には車を引き上げることなどを説明した。原告A7は,利息が高いことや支払えないと車を引き上げられてしまうことに納得がいかなかったが,事務所まで来て今さら断りにくく,被告B2らの雰囲気が少し怖いと感じたため,借入れを行うことを決めた。そして,原告A7は,被告B2から言われるがまま,売主を原告A7,買主をE自動車,売買代金を30万円とする自動車売買契約書,賃貸人をC自動車,賃借人を原告A7,賃料を月額6万5100円とする自動車賃貸借契約書,車の売渡し金として30万円を受け取った旨の領収証に署名押印したうえ,持参するよう言われていた印鑑登録証明書,車検証,住民票,スペアキーなどを手渡した。また,原告A7は,被告B2から,同日に締結した自動車売買契約に基づき売買代金30万円を受け取った旨,所有権の解除及び移転登録に必要な書類を持参する旨,原告A7の父であるYが連帯して車両の引渡しを保証する旨が記載された通知書をE自動車宛てに内容証明郵便で送るよう指示された。これに対し,原告A7は,父親を巻き込みたくなく連帯保証人とすることはやめてほしいと頼んだが,通知書を送らないと契約無効となり車を持って行くなどと言われ,スペアキーを取られた。
原告A7は,30万円からリース料や印紙代名目で一定額を差し引かれた22万5400円の交付を受けて,事務所を後にした。原告A7は,通知書を送らないと本当に車を持って行かれてしまうと思い,同日,同通知書を内証証明郵便で発送した。
ウ その後,原告A7は,30万円を用意することができなかったため,同年3月2日と翌4月5日に,それぞれ6万5200円を支払って返済期限を延長し,同月26日,30万円を支払って完済した。原告A7は,各支払期日の前日ころには被告B2や被告B4から電話があり,明日は返済日ですなどと支払の催促を受けた。催促の際,脅迫的ないし暴力的言動はなかったものの,原告A7は,車のスペアキーと車検証を預けてあることから,支払を遅れてはいけないというプレッシャーを感じた。
エ また,原告A7は,消費者金融への返済金を工面できず,同年6月14日,再度Cリースから借入れをしようと事務所を訪れた。前回と同様,自動車売買契約書や自動車賃貸借契約書,領収証に署名押印をした後,被告B2から,20万円から利息等が差し引かれた14万7200円を受け取った。
そして,原告A7は,被告B2から電話で支払の催促を受け,同年7月13日には4万3400円を支払い,同年8月14日に20万円を支払ったほか,同月16日に4万3400円を支払った。
オ さらに,原告A7は,消費者金融への利息支払に追われたため,同年10月7日,再度Cリースから借入れをすることとし,自動車売買契約書や自動車賃貸借契約書,領収証に署名押印をした後,被告B2から,20万円から利息等が差し引かれた14万7200円を受け取った。
原告A7は,被告B2から電話で支払の催促を受け,同年11月8日に4万3400円を支払って支払期限を延長した。そして,原告A7は,翌12月6日ころ,明日支払に行くことを伝えようとCリースに電話したところ,亡B1の妻であるJ1が電話口に出て,責任者(亡B1)が警察に逮捕されたことを知らされた。J1が,リース料はいらないから元本だけでも返してほしいと催促したため,原告A7は,支払わずに車を引き上げられることを恐れ,同月7日に3万円,翌17年1月13日に7万円,同年2月28日に3万円を,Cリースの事務所でJ1に支払った。車検証とスペアキーについては,埼玉弁護士会のヤミ金融被害対策弁護団が交渉して,平成18年6月ころ取り返すに至った。
(7) 亡Fに対する貸付け及び車の引上げ等
ア 亡Fは,化粧品のパッケージ製造を業とする会社の営業担当として稼働していたが,平成13年ころ,住宅ローンを抱えていたことに加えて減給されたことを契機に,Cから借入れをするようになった。担保にした車は,平成10年型のトヨタクラウンであり,亡Fが初めて購入した新車で,「最初で最後の新車」として大事にしていた愛車であった。
イ 亡Fは,平成14年2月18日,Cから35万円を借り受けることとし,実際には26万3900円の交付を受けた。
亡Fは,同年3月19日に8万6100円を支払い,同月28日に妻の原告A1が身内から借り入れた35万円を支払って完済した。
ウ また,亡Fは,同月29日,新たに40万円を借り受け,利息等が差し引かれた30万8600円を受け取った。そして,亡Fは,同年4月26日及び同年5月27日にそれぞれ8万7000円を支払い,同年6月26日に2万円を加えた10万7000円を支払って返済期限を延長すると,翌7月以降,毎月8万6000円ないし8万7000円を支払った後,同年11月25日ころ,40万円を支払って完済した。
エ さらに,亡Fは,同年6月に失業し,同年11月まで失業保険を受給して生活費や返済に充てていたが,同年12月には収入がなくなった。亡Fは,家計の管理をすべて一人で行っていたところ,妻の原告A1や家族に心配をかけまいと家計が苦しいことを相談することはなかった。そして,亡Fは,同月からPという会社で働くようになったものの,このままでは年が越せないと考え,やむを得ず,同年12月16日,Cから25万円を借り受けることにした。実際に受領した額は,利息相当額の6万3000円を差し引かれた18万7000円であった。その際,亡Fは,B5自動車にクラウンを売り渡した旨,翌15年1月16日までに名義変更に必要な書類と車を引き渡し,その時に代金の残り25万円を受け取る旨が記載された念書を自筆で作成したうえ,車の買取り代金内金として25万円を領収した旨のB5自動車宛て領収証を作成した。
亡Fは,翌15年1月以降,毎月5万4000円ないし5万9000円の利息を支払い続けていたが,Cから同年5月16日までに利息5万4300円と更新料1万5500円の合計額6万9800円を支払うよう要求され,支払ができない場合にはクラウンを引き上げるとの通告を受けた。しかし,亡Fは,同日までに支払をすることができなかったため,被告B2らは,勤務先のPに架電して催促をしたうえ,同月20日,クラウンを亡Fのもとから引き上げて代車を提供し,亡Fに対し,同月21日午後7時までに6万9800円を支払わなければクラウンの取り戻しはできなくなり,車の売却残金として25万円を支払うとの最終通告をした。また,被告B2は,亡FにとりあえずCリースの事務所へ来るよう催促し,来てもらえないと自宅へ行く旨を予告していた。
被告B2は,同日,8,9回(最後は午後5時43分,午後5時44分,午後6時55分)にわたり,亡Fの携帯電話に架電し,留守番電話に自動車税を立て替えて支払った旨,連絡がほしい旨などを吹き込んだほか,勤務先であるPにも架電したが,亡Fは不在であった。一方,亡Fは,他にもV3への住宅ローンの支払や事故の修理代金の支払などを抱えており,同日になっても手持ちがなく,Pや世話になっている同社役員らに迷惑はかけられないとして,これまでの出来事を振り返り,家族への思いなどをキャンパスノートにつづり続けるうちに,自殺の決意を固めていった。そして,亡Fは,同日午後7時ころ,N店ビルから飛び降り自殺した。
オ 原告A2は,翌22日,「B5自動車」というところから勤務先に電話があったことを聞いて,かけ直すと,被告B4から,返済期限を過ぎているが亡Fと連絡がつかないとして,代わりに原告A2に6万9800円の支払をするよう求められた。原告A2は,亡Fのクラウンを取り戻したいと思い,代車に乗ってCの事務所の前まで行ったが,消費者センターに電話をして相談したところ,相談員からのアドバイスもあって,支払をせずに自宅へ引き返した。その後,原告A2は,弁護士に相談したうえ,クラウンを取り戻すためにCとの交渉を始めたが,亡B1らは,亡Fにお金を貸したことも毎月お金を受け取ったこともなく,車は買い取ったものであるなどと弁解し,売買契約書や領収証を示して,クラウンの引渡しを拒否した。
なお,被告B2らが引き上げたクラウンは,同月29日,被告B7が84万円で買い取り,同年8月11日に100万円で転売された。
2 争点(1)(亡B1らの責任)について
(1) 亡B1の責任
上記1に認定のとおり,亡B1は,平成13年ころから出資法5条2項の規定を著しく上回る割合の利率による車金融業を開始し,これに基づいて違法な利息を収受するのみならず,担保とした車を売却することで収益を上げ,さらに,平成14年10月ころに出資法違反等で罰金刑を受けたにもかかわらず,その直後に同様の車金融業を開始したうえ,その際,警察の摘発を逃れるためセール・アンド・リースバック取引の手法を取り入れたり,信用度の高い財務局の登録を受けて宣伝に利用するなどして,再び違法な収益を得ていた。このように,亡B1は,CないしCリースの名称で違法な貸金業を始めた首謀者であり,営業開始後も一貫して中心的・指導的役割を果たしていたものである。そして,このように出資法の規定する利率を著しく上回る暴利を得る目的で貸付行為を行ったうえ,利息等の金員を取り立てて受領し,支払がない場合には担保として取得した車を売却し,その代金の全額を取得するという一連の行為は,公序良俗に反する違法性が顕著なものであって,かかる一連の行為について亡B1が原告らに対して不法行為責任を負うのは明らかである。
(2) 被告B2の責任
上記1に認定のとおり,被告B2は,平成12年11月か12月ころCに入社して稼働していたところ,平成14年12月ころ,罰金刑を受けて釈放された亡B1に招集され新たな車金融業の手法について説明を受け,再び亡B1の下で働くようになり,当初は看板貼りの仕事をしていたが,その後は「G1」という偽名を使用し,亡B1と被告B4に手順を教わりながら貸付業務を手伝うようになり,平成15年末ころからは,Cグループの店長を任されるようになった。被告B2は,車の状態を確認して貸付額や利息額を決定するなど貸付業務を担当したうえ,取立ての電話をかけたり,自宅まで行って車を引き上げるなど取立行為等にも従事していたほか,債務者から受領した金員を売上げとして日報に記載したり,新規に加わった被告B3に貸付業務等の仕事の手順を教えるなど,Cグループの業務全般に関与していた。現に,原告A4,原告A5,原告A7及び亡Fに対する貸付けを担当したのも,原告A5のもとから車を引き上げたのも被告B2であった。また,CないしCリースが債務者から受領した金員は,亡B1のもとに集められ,給料として被告B2にも分配されていた。そして,上記(1)に説示のとおり,CないしCリースが行っていた貸付行為,金員の取立て及び受領行為,車の売却行為は,公序良俗に反する違法性が顕著なものであるところ,上記のようにCないしCリースにおいて重要な役割を果たしていた被告B2は,亡B1とともに相互に共同して上記一連の行為に積極的に加担したものといえるから,原告らに対して共同不法行為責任を負うというべきである。
(3) 被告B4の責任
上記1に認定のとおり,被告B4は,Cに入社して主に貸付業務を担当し,亡B1が逮捕されたことを契機に退社したが,平成14年12月ころ,亡B1に呼び戻されて再びCないしCリースで働くようになった。被告B4は,当初,後に加担した被告B2や被告B3に仕事の手順を教えながら貸付業務を行っていたが,平成15年末になって被告B2が亡B1から店長などの業務を任されると,主に事務所において,電話番や来客の対応などの補助的な仕事や,帳簿等の記入などの事務処理に従事していた。現に,原告A6に対する貸付けを担当したのも被告B4であった。また,CないしCリースが債務者から受領した金員は,亡B1のもとに集められ,給料として被告B4にも分配されていた。そして,上記(1)に説示のとおり,CないしCリースが行っていた貸付行為,金員の取立て及び受領行為,車の売却行為は,公序良俗に反する違法性の顕著なものであるところ,上記のようにCないしCリースにおける違法行為の遂行に欠かせない役割を果たしていた被告B4は,亡B1とともに相互に共同して上記一連の行為に積極的に加担したものといえるから,原告らに対して共同不法行為責任を負うというべきである。
(4) 被告B3の責任
上記1に認定したとおり,被告B3は,平成15年5月ころ,亡B1から誘われてCグループの車金融業に加担するようになり,当初は,主に宣伝用看板の設置の仕事をしていたが,同年8月には,妻の名義により「Cリース」の名称で北海道財務局の貸金業登録を得て,亡B1らによる違法な車金融業を可能ならしめたのみならず,被告B2から直接教わったり,被告B2や被告B4が実際に行っているのを見聞きして,貸付業務を覚えるようになり,亡B1及び被告B2を補助して,自動車の査定,貸付けの適否の判断,貸付額の決定,受領利息額の決定,利息や元金支払の決定や延滞者への対応などCグループの違法行為全般に関わっていた。現に,原告A5に対する貸付けを担当したほか,原告A5のもとから車を引き上げたのも被告B3であった。また,CないしCリースが債務者から受領した金員は,亡B1のもとに集められ,給料として被告B3にも分配されていた。そして,上記(1)に説示のとおり,CないしCリースが行っていた貸付行為,金員の取立て及び受領行為,車の売却行為は,公序良俗に反する違法性の顕著なものであり,新たな顧客獲得の手段が主に看板の掲示であったことに照らせば,上記のようにCないしCリースで重要な役割を果たしていた被告B3は,CないしCリースに入社した平成15年5月1日以降において,亡B1とともに相互に共同して上記一連の行為に積極的に加担していたものといえるから,原告らに対して共同不法行為責任を負うというべきである。
(5) 被告B5の責任
上記1に認定したとおり,被告B5は,Cの従業員として稼働し,平成14年12月ころから再び亡B1の下で働くようになったところ,主に宣伝用看板の設置を担当し,また,自己名義により「Hリース」の名称で東京都知事の貸金業登録を受けて亡B1らによる違法な車金融業を可能ならしめたのみならず,「DリースB5」として自動車の買戻約款証書の名義人となってセール・アンド・リースバック取引を仮装することを助長したほか,車の状態を確認したり,債務者から金員を受領するなどしていた。また,CないしCリースが債務者から受領した金員は,亡B1のもとに集められ,給料として被告B5にも分配されていた。そして,上記(1)に説示のとおり,CないしCリースが行っていた貸付行為,金員の取立て及び受領行為,車の売却行為は,公序良俗に反する違法性の顕著なものであり,新たな顧客獲得の手段が主に看板の掲示であったことにも照らせば,上記のようにCないしCリースが違法な貸付業務を行うのに不可欠の役割を果たしていた被告B5は,亡B1とともに相互に共同して上記一連の行為に積極的に加担したものといえるから,原告らに対して共同不法行為責任を負うというべきである。
3 争点(2)(被告B7の責任)及び争点(3)(被告B6の責任)について
(1) 上記争いのない事実等に加え,証拠(甲16の1及び9,17の1,17の7の1及び2,19,22の1及び2,23の1ないし3,75,78,80,92,97,乙5,丙1,15,証人Z1,亡B1,被告B2,被告B4,被告B3,被告B6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告B6は,被告B7の代表者であったところ,被告B7は,平成元年4月14日に設立され,さいたま市c区b町に事務所と駐車場及び展示場を備えて,新車や中古車を販売する事業を行っていた。
イ 亡B1と被告B6は中学時代からの友人であり,卒業後はしばらく連絡が途絶えていたものの,平成11年ころ再会して親しく付き合うようになった。当時,亡B1は,株式会社V4という車金融の会社に勤めており,被告B6に依頼して,株式会社V4が取得した車を被告B7に買い取ってもらうことが度々あった。
その後,被告B6は,亡B1からCないしCリースの名称で車金融業を始めたことを聞いており,実姉のZ1に家にCの看板を貼らせてもらえないかと頼んだこともあった。
ウ 亡B1が,平成13年以降,CないしCリースの名称で車金融業を開始すると,亡B1らは,担保にとった車の多くを被告B7に売却し,被告B7は,これをオークションに出品して転売していた。具体的には,平成15年12月19日から平成16年7月30日まで少なくとも13回にわたり,被告B7に自動車を売却した。もっとも,亡B1らが被告B7に車を売却した際,売買契約書を作成することも,売却代金について領収証を受け取ることもなかった。また,亡B1は,貸付金について借主から被告B7宛の領収証を受領することもあった。
エ 亡B1らが引き上げた車を保管していたd町の土地は,当時,被告B6の所有地であって,亡B1が無償又は少なくともわずかな賃料で借りていたところ,同土地には「M」と書かれたポストが設置され,被告B7の荷物も置かれていた(なお,被告らは,亡B1が同土地を月13万円で賃借していた旨を主張するが,家賃等のCないしCリースの経費が多く記載された通帳〔甲21〕に同土地の賃料支出を窺わせる記載が一切なく,むしろ亡B1が平成14年9月には捜査官に対し,税金対策のため月13万円の支払があるように装ったが実際には支払っていない旨を述べていたこと〔甲75〕,被告B6も,当初は無償で貸していたが途中からは小遣い程度にお金をもらって貸していた旨を供述していることから,被告らの上記主張を採用することはできない。)。
オ 被告B6は,CないしCリースの事務所や同じビル内で亡B1が経営していたデリヘルの店を月1,2回の頻度で訪れており,亡B1を始め被告B2ら他の従業員から「会長」と呼ばれていた。また,C事務所内の壁に貼られた電話番号表に,亡B1の上欄に被告B6の電話番号が記載されていた。
カ 捜査機関が平成14年8月21日にCの事務所から差し押さえたゴム印は,亡B1の役職名として「取締役専務」と刻印されていたものであり,Cグループにおいて,亡B1の上位者の存在をうかがわせるものであった。
また,捜査機関が差し押さえたCグループによる利益の分配に関するメモには,平成16年7月以降について,「会長」として,「B1」よりも1,2パーセント高い分配率が記載されており,これも,同グループ内において,亡B1よりも上位者である「会長」がいることをうかがわせるものであり,この「会長」は,上記オのとおり,被告B6を指すものである。
キ 亡B1らは,被告B6の妻であるJ1に,月1回程度,事務所で経理書類を見てもらっており,更に被告B6の自宅宛てにCリースの日報をFAX送信していた。
ク 被告B7は,平成15年5月29日,亡B1らが亡Fから引き上げたクラウンを84万円で買い取り,板金修理等をしたうえ,オークションにより100万円で転売した。
ケ また,被告B6は,平成16年11月又は12月ころ,警察に追われているのでかくまってほしいと実姉のZ1の自宅を来訪しており,その際,車金融のCが警察から捜査を受けていて,被告B7にも警察が来て書類を見せるように言われたが,関係資料はすべてシュレッダーにかけて処分したから捕まらないはずだなどと述べた。
(2) 上記(1)に認定した事実によれば,被告B6及び被告B6が代表者を務める被告B7は,CないしCリースによる貸付行為や取立て及び金員受領行為には直接携わってないものの,亡B1らが引き上げた自動車を多く買い受け,その代金ないし仲介手数料を亡B1に支払っていたほか,亡B1らが引き上げた車の保管場所を無償又は少なくともわずかな賃料で提供していたのであり,これらの行為は,亡B1らによる違法な貸付及び回収行為にとって不可欠であり,重要な位置を占めているというべきであって,少なくとも亡B1らによる上記一連の違法行為を認識し,これを援助,助長し,補完していたと認めることができる(なお,被告B6は,Cグループにおいて,「会長」と呼称されるなどしており,亡B1の上位者にあったことがうかがわれるものである。)。
この点,被告B6は,ビジネスとして亡B1から車を買い受けていたにすぎず,亡B1らによる違法な貸付行為等とは無関係であると主張するが,上記(1)に認定の事実によれば,被告B6は,亡B1から車を買い取った際に売買契約書も代金に係る領収証も作成しておらず,両者が親しい関係にあったとはいえ高額な自動車売買としては不自然といわざるを得ないし,また,被告B6は,亡B1が車金融業をしていた平成14年10月に出資法違反等で逮捕されたことも当然知っていたものと推認されるところ,その後も,車金融業を再開した亡B1から車の買取りを継続していたのであり,亡B1による車金融業が出資法に違反する高金利で行われていたことを全く知らなかったとは認め難い。これに加えて,上記(1)に認定のとおり,亡B1が借主から被告B7宛の領収証を受領していたことやCの事務所内に被告B6の電話番号が掲示されていたこと,被告B6の自宅にCリースの日報がFAXで送信されていたことをも考え合わせれば,被告B6は,亡B1が,出資法の規定する利率を著しく上回る暴利を得る目的で貸付行為を行ったうえ,利息等の金員を取り立てて受領し,支払がない場合には担保として取得した車を売却していたことを認識したうえで,これを援助,助長,補完する形で,車を買い受けたり車の保管場所を提供していたものと認めるのが相当である。
(3) したがって,被告B6及び被告B7は,亡B1らとともに相互に共同して一連の不法行為に積極的に加担したものとして,原告らに対して共同不法行為責任を負うというべきである。
4 争点(4)(亡Fの自殺と被告ら7名による違法な貸付行為との因果関係及び被告ら7名の予見可能性)について
(1) 上記1(7)に認定したとおり,亡Fは,平成14年12月16日,生活費に苦慮し,愛車であるクラウンを担保としてCから3回目として18万7000円を借り受け,翌15年1月以降,毎月5万4000円ないし5万9000円という年利346パーセントを超える高金利を支払い続けていたが,同年5月16日の利息分について支払ができなくなり,同月20日にはクラウンがCによって引き上げられてしまったうえ,翌21日午後7時までに6万9800円を支払わなければクラウンの取り戻しができなくなるとの最終通告を受けていたところ,クラウンの取戻期限であった同日午後7時ころ,ビルから飛び降り自殺したものである。このような事実経過に加え,証拠(甲63,乙4)によれば,亡Fが自殺した日に書き残した遺書において,「Cは車の金融です。」「自分でも何やってるのだろうというおい目はあった。毎月の利息の支払いもあった。約5万。ベラボーだと思う。馬鹿なことをやっているといつも思っていた。」などと記載したうえ,「5/21夜が明けた。ゆうべはほとんど眠れなかった。」「Cへの支払etc.手持ち無し。辛い!!どうする!」「もう会社へも出られなヨ!会社に迷惑はかけられないし。」「今日の一日は長くて辛い。」などと記載した事実が認められ,亡Fが同年5月21日の自殺直前までCへの利息返済と車の引上げについて思い悩んでいた様子がうかがわれること,また,被告B2が,同月16日ころから21日にかけて,亡Fの携帯電話のみならず勤務先まで取立ての電話をしたり,事務所へ来ない場合には自宅へ行くことになるなどと述べて自宅訪問を予告していたほか(乙1),上記1(7)に認定のとおり,同月21日の亡Fが自殺する直前にも午後5時43分,午後5時44分,午後6時55分と亡Fの携帯電話に立て続けに架電していたことをも考え合わせれば,真面目な性格であった亡Fが,1,2回目の借入れにおける返済の苦労に加えて,この3回目の借入れにおける亡B1らの金員の取立てや車の引上げ行為等によって,精神的に極度に追い詰められた結果,愛車を失うことに絶望したうえ,妻や身内にこれ以上相談もできないと考え,家族や勤務先に迷惑をかけない方法として自殺という途を選択したことも十分首肯できるのであり,同日時点において他に自殺の動機となり得る事情が存したとは特にうかがわれないことに照らしても,被告ら7名による一連の違法行為は,亡Fの自殺に対し決定的な影響力を及ぼした原因であると認められ,自殺との間の事実的因果関係が肯定される。
(2) そして,高金利貸付けにより返済不能となった債務者が精神的に追いつめられて借金苦ないし生活苦を原因として自殺に追い込まれることは一般的にも広く知られているところ(甲64,66,72,弁論の全趣旨),上記1に認定のとおり,被告ら7名は,亡Fら債務者から賃貸料や保管料,手数料等の名目で出資法に違反する超高金利の利息支払を受けていたことを知っていたのであるから,亡Fが自殺をしたことについても被告ら7名に予見可能性があったことは否定できない。確かに,被告ら7名が,貸付けや取立てに際し,亡Fに対して脅迫的・強圧的言辞を用いたことは認められないが,上記1に認定のとおり,被告ら7名は,車検証,印鑑登録証明書,住民票,スペアキー等を提供させて,債務者が支払を怠った場合には担保の車を確実に引き上げられることを示したうえ,債務者に自動車を引き上げられたくなければ支払をするしかないとの心理的圧迫を与え続けていたのであり,このような車金融の手法が,脅迫的・強圧的言辞を用いなくても債務者を精神的に追い込み,これによって超高金利を得ることができることを十分承知し,これを利用していたものである。また,債務者にとって職場や家族に消費者金融やヤミ金融との取引を知られるのは避けたいところであり,ましてや自宅を取立て等のため訪れることに対して債務者が恐怖を感じることは容易に推測することができるところ,被告ら7名は,上記1に認定のとおり,貸付けの際,債務者に対し,買取申込書に勤務先のほか自宅住所や家族の氏名及び勤務先・学校名等を記入させたうえ,亡Fが利息の支払を怠るようになると,勤務先に取立ての電話をしたり,自宅訪問を予告したりしていたのであるから,このような行為をしていた被告ら7名が,亡Fが精神的に追い込まれて自殺すると予見することは十分可能であったというべきである(甲71,乙1及び弁論の全趣旨によれば,亡Fの死亡の翌日に長男である原告A2の職場に連絡があり,Cに連絡するよう伝えられた原告A2がCに連絡した電話の中で,被告B4は,亡Fの自殺の事実を知りながら,原告A2に対し,「まあ,なくなったということで,うちのほうも,きのうまでの約束があるわけですよ。」と平然と亡Fの借金の支払の督促をしていたことが認められ,この事実は,被告ら7名の亡Fの自殺に対する予見可能性を更に裏付けるものということができる。)。
(3) したがって,被告ら7名の一連の違法行為と亡Fの自殺との間には相当因果関係があり,かつ,被告ら7名には亡Fの自殺について,十分な予見可能性があったということができる。
なお,被告らは,亡Fの死亡は亡Fの長年にわたる借金ないし仕事上のストレスを原因とするとして過失相殺を主張するが,かかるストレスの存在及び自殺との関連性について認めるに足りる証拠がなく,被告らの上記主張は採用することができない。
また,被告ら7名による亡Fに対する本件貸付行為及び取立行為は,亡Fの自殺に対し決定的な影響力を及ぼした原因であることに加え,公序良俗に反し,違法性が顕著に高いものであり,これに比して被害者である亡F側において過失相殺することを相当と解すべき事情は,本件全証拠によっても認めることができない。
5 争点(5)(原告らに生じた損害)について
(1) 財産的損害
ア 上記1(3)ないし(7)に認定したとおり,亡Fらは,被告ら7名との間において,別紙取引状況一覧表の「取引年月日」欄記載の日に,同表の「実交付額」及び「支払額」欄記載の金銭の借入れ及び弁済を行ったところ,上記2及び3に説示のとおり,被告ら7名の亡Fらに対する貸付行為及び金員受領行為は,公序良俗に反する違法なものであり,不法行為を構成する。
したがって,亡Fらは,被告ら7名の不法行為により,別紙取引状況一覧表の「支払額」欄末尾の「合計」欄記載の金員を失い,同額の財産的損害を被ったものということができる。その各人の損害額は,次のとおりである。なお,平成15年5月1日以降の分についてのみ責任を負うべき被告B3との関係で生じた損害額については,金額が異なる場合は括弧書きに記載した(以下同じ。)。
(ア) 原告A4 159万9600円(134万1400円)
(イ) 原告A5 4万3400円
(ウ) 原告A6 353万3650円( 71万7200円)
(エ) 原告A7 89万0600円
(オ) 亡F 168万4100円( 0円)
イ なお,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも許されないものというべきところ(最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決・民集62巻6号1488頁参照),上記1(1)ないし(7)に認定の事実によれば,被告ら7名の亡Fらに対する貸付行為及び金員受領行為が反倫理的行為に該当することは明らかであるから,本件貸付金の交付によって亡Fらが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,本件損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として本件各損害金の額から亡Fらが得た利益を控除することは許されない。
ウ また,上記1(3)(4)及び(7)に認定の事実によれば,被告ら7名は,違法な貸付行為の際に原告A4,原告A5,原告A6及び亡Fの各所有車両を担保としたうえ,何ら権限もないのにこれを引き上げて処分したことが認められ,これにより,同原告ら及び亡Fの各所有車両に対する追求を困難又は不能としたということができる。そして,証拠(甲41の1ないし3,42,43の1ないし3,44,45の1ないし3,46,47の1ないし3,48,70,原告A5)及び弁論の全趣旨によれば,同原告ら及び亡Fの各所有車両の引上げ当時における価格は,以下のとおりであることが認められ,同原告ら及び亡Fは,それぞれ同額の財産的損害を被ったものということができる。
なお,原告A6の所有車両(三菱キャンター)については,上記1(5)ケに認定のとおり,後に販売会社であるV2株式会社のもとへ引き取られているが,同会社から原告A6のもとへ同車両が戻っていることを認めるに足りる証拠がない以上,原告A6が被告ら7名の不法行為により同車両という財産を失ったといえるので,同車両価格相当額を原告A6の損害と認めた。
(ア) 原告A4の所有車両(トヨタマークⅡ) 112万5000円
(イ) 原告A5の所有車両(トヨタウィッシュ) 204万円
(ウ) 原告A6の所有車両(三菱キャンター) 106万円
(エ) 亡Fの所有車両(トヨタクラウン) 179万円
(2) 非財産的損害(原告A4,原告A5,原告A6及び原告A7)
ア 上記1に認定の事実によれば,被告ら7名は,実態と異なる名義で得た貸金業登録を掲げ,資金を必要とする原告A4,原告A5,原告A6及び原告A7の窮状に乗じて,自動車売買及び賃貸を装うという巧妙な方法により自動車を担保とした違法金利による貸付けを行ったうえ,自動車を取られたくないという同原告らの気持ちを利用して継続的に多額の金員を支払わせたほか,勤務先に取立ての電話をかけたり,自宅訪問を予告したり,実際に早朝ないし夜遅くに事前連絡なく自宅を訪れて車を引き上げるなどしていたものであり,同原告らは,被告ら7名の上記不法行為によって,多大な精神的苦痛を受けたものと認めることができる。
そして,同原告らが受けた精神的苦痛は,現実に被った上記(1)説示の財産的損害の填補によってもなお回復し得ないものと認められるから,上記1(3)ないし(7)に認定した被告ら7名の同原告らに対する貸付状況(取引期間や取引金額),同原告らに対する取立行為等の内容,その他本件記録に顕れた事情を総合考慮すると,同原告らの精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,次のとおりと認めるのが相当である。
(ア) 原告A4 48万円
(イ) 原告A5 2万円
(ウ) 原告A6 110万円
(エ) 原告A7 27万円
イ なお,同原告らは,被告ら7名が二度と違法な貸付行為を行わないようにするためなどとして,被告ら7名に制裁的な意味を有する慰謝料を課すべきであると主張する。
しかし,我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,加害者に対する制裁や将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではないから(最高裁平成9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照),同原告らの上記主張は採用することができない。
(3) 亡Fの死亡慰謝料及び逸失利益
ア 上記4に説示したとおり,被告ら7名は,違法な貸付行為及び取立行為等により当時60歳の亡Fを精神的に追いつめ,自殺に至らせたものであるところ,その態様や被害の大きさ,亡Fが妻である原告A1を扶養し,一家の支柱として生計を維持していたこと,他方,追いつめられたとはいえ,自殺は被害者の意思的行為であることを考慮すると,亡Fの死亡慰謝料として,1000万円を認めるのが相当である。
イ また,証拠(甲74)及び弁論の全趣旨によれば,亡F(昭和17年6月24日生まれ)は,α大学を卒業し,その後,60歳で死亡するまで,転職しながらも会社員として勤務を継続していたことが認められる。したがって,亡Fは,就労可能な,平均余命(平成15年簡易生命表によれば,60歳男子の平均余命は,21.98歳であることが認められる。)の2分の1に当たる11年間,平成15年賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・男性労働者・大卒60ないし64歳の平均年収額である702万9300円を得ることができたと認めるのが相当であり,生活費控除率40%を控除したうえ,同年収額及び期間を算定の基礎としてライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除した逸失利益の現価を算定すると,以下の計算式により,亡Fの逸失利益は3503万2906円となる。
(計算式)
702万9300円×(1-0.4)×8.3064=3503万2906円
(4) 亡Fの相続等
ア 上記(1)及び(3)のとおり,亡Fは,合計4850万7006円(被告B3との関係では4682万2906円)の損害を被り,被告ら7名に対して同額の損害賠償請求権を取得したところ,亡Fの妻である原告A1はその2分の1である2425万3503円(2341万1453円)を,亡Fの子である原告A2及び原告A3はその4分の1である各1212万6751円(1170万5726円)を,それぞれ相続した。
イ また,弁論の全趣旨によれば,原告A1は亡Fの葬儀を執り行ったことが認められ,被告ら7名の不法行為と相当因果関係のある葬儀費用として150万円を認めるのが相当である。
(5) 弁護士費用
本件記録によれば,原告らは,本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人弁護士らに委任したことが認められるところ,本件事案の内容,審理の経過,上記認定の損害額,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告ら7名による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額として,次のとおり認めるのが相当である。
ア 原告A4 32万円( 29万円)
イ 原告A5 21万円
ウ 原告A6 57万円( 28万円)
エ 原告A7 12万円
オ 原告A1 257万円(249万円)
カ 原告A2 121万円(117万円)
キ 原告A3 121万円(117万円)
(6) 各原告らの損害合計額
上記(1)ないし(4)の損害額をまとめると,次のとおりとなり,被告ら7名に対して不法行為に基づく損害賠償を求める原告らの各請求は,同額の限度で理由がある。
ア 原告A4 352万4600円( 323万6400円)
イ 原告A5 231万3400円
ウ 原告A6 626万3650円( 315万7200円)
エ 原告A7 128万0600円
オ 原告A1 2832万3503円(2740万1453円)
カ 原告A2 1333万6751円(1287万5726円)
キ 原告A3 1333万6751円(1287万5726円)
6 争点(6)(本件売買契約は通謀虚偽表示により無効か。)及び争点(7)(保全の必要性)について
(1) 被告B6と被告B8が,被告B6が被告B8に本件各不動産を売却する旨の本件売買契約を締結したことは当事者間に争いがなく,証拠(丙2,4,5,11)によれば,本件売買契約は,平成17年7月12日に締結されたことが認められる。
しかるところ,原告らは,本件売買契約は,被告B6が被告B8と通謀して仮装したものであって民法94条1項により無効である旨主張するので,以下検討する。
ア 証拠(丙2,4,5,6の1ないし3,7,8)によれば,被告B8は,同年7月12日,被告B6との間で代金総額を8000万円とする本件売買契約を締結し,同日,被告B6に対し,被告B8振出しの小切手(小切手番号ABA○○○○○)をもって代金全額を支払ったうえ,不動産取得税も負担したこと,その後も,被告B8が,平成18年度及び19年度の本件各不動産に係る固定資産税等を支払ったことが認められ,被告B8で不動産業務を担当しているZ2も,本件各不動産の近くに新駅ができるとの話があったため値上がりを見込んで8000万円で購入したものである旨証言する(丙10,証人Z2)。
イ しかしながら,本件売買契約の売主である被告B6は,本人尋問において,本件売買契約が実態のない形だけのものであったことを認めたうえ,受け取った代金8000万円について,6000万円は被告B8の専務の銀行口座宛てに送金し,残りの2000万円も被告B6の口座からおろして同専務に直接渡したと返還方法につき詳しく供述しており,一方,買主である被告B8においても,代表者であるKが,本件売買契約が実態のない形だけのものであったことを認める陳述書を別件訴訟に提出している(甲99)。
そして,証拠(甲85ないし90,94,被告B6)及び弁論の全趣旨によれば,本件売買契約後現在に至るまで被告B6が妻子とともに本件各不動産に居住し続け,住民票の住所も同不動産所在地となっていること,しかも,平成19年10月及び11月には,本件各不動産の北西部分においてJ1を建築主又は建造主とする建物新築工事が行われており,平成21年3月14日には近くに新駅が設けられたにもかかわらず,被告B8が同不動産を転売しようとしている気配が全く窺われないことが認められるうえ,本件売買契約及び所有権移転登記が,原告らの被告B6に対する本件損害賠償等請求事件が提起された後(記録によれば,第1事件の訴状は,平成17年5月10日被告B6に送達されたことが認められる。),比較的近接した時点で行われており,他に同時点において住居という重要な資産である本件各不動産を被告B6が売却しなければならない事情は特に見当たらない。
以上によれば,本件売買契約は,本件各不動産が本件損害賠償等請求訴訟に敗訴した場合に強制執行を免れるために行われた仮装の通謀による虚偽表示であると認めるのが相当である。
ウ したがって,本件売買契約は民法94条1項により無効である。
(2) 上記争いのない事実等(6)及び(7)のとおり,被告B6は,第1事件の訴状の送達を受けた後間もない時期である平成17年12月27日に本件各不動産の登記名義を被告B6から被告B8に変更したものであるところ,記録によれば,被告B8は,当時被告B6が本件各不動産以外にも不動産等を所有していたことを具体的に主張立証していないことに鑑みると,被告B6は,本件各登記当時,本件各不動産以外にめぼしい資産を有していなかったと推認することができる(被告B8は,上記第2,3,(7)の被告B8の主張のとおり,被告B6は,現在,同主張〔32頁〕記載の不動産を所有していると主張するが,被告B8は,その所有名義や現在の価額,担保の有無について何ら主張立証しないので,被告B8の上記主張は,採用することができない。)。
(3) そうすると,債権者代位権に基づき,被告B8に対し,本件各不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記を求める原告らの請求は理由がある。
第4結論
以上によれば,原告らの各請求は,その余の争点について判断するまでもなく,主文のとおりの限度において理由があるからそれぞれ認容することとし,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 橋本英史)
裁判長裁判官岩田眞は,転補のため,裁判官村井みわ子は,差し支えのため, それぞれ署名押印することができない。裁判官 橋本英史
file_2.jpg別紙