大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)901号 判決 2009年8月26日

第一事件原告

X1

第三事件原告

X2

第二事件被告・第四事件原告

X3

第一事件被告・第二事件原告

Y2火災保険株式会社

第一・第三・第四事件被告

Y1

主文

一  被告Y1は、原告X1に対し二一八万七八〇八円、原告X2に対し一九一万六二五〇円、原告X3に対し九八万七〇六四円及びこれらに対する平成一五年一〇月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告X3は、被告会社に対し、一〇万七一四〇円及びこれに対する平成一五年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告X1の被告Y1に対するその余の請求及び被告会社に対する請求を棄却する。

四  原告X2、被告会社及び原告X3のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、別紙のとおりの負担とする。

六  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

(1)  被告Y1は、原告X1に対し、八三四万五一五八円及びこれに対する平成一五年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  被告会社は、原告X1に対し、一二〇万円及びこれに対する平成一六年四月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  第二事件

原告X3は、被告会社に対し、五三万五七〇〇円及びこれに対する平成一五年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第三事件

被告Y1は、原告X2に対し、一九四万六二五〇円及びこれに対する平成一五年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  第四事件

被告Y1は、原告X3に対し、一八六八万七三四四円及びこれに対する平成一五年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  平成一五年一〇月二七日、原告X3が運転し、原告X1が同乗していた、原告X2所有の普通乗用自動車(以下「X3車」という。)と、被告Y1が運転していた普通貨物自動車(以下「Y1車」という。)が、信号機による交通整理が行われている交差点内で出会い頭に衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(1)  第一事件は、原告X1が、被告Y1に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び不法行為に基づき、本件事故によって原告X1に生じた損害の賠償金八三四万五一五八円及びこれに対する本件事故発生の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、X3車の所有者である原告X2が原告X1に生じた上記損害につき自賠法三条の責任を負うとして、原告X2と自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)契約を締結している被告会社に対し、自賠法一六条一項に基づき、保険金限度額一二〇万円及びこれに対する保険金請求日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(2)  第二事件は、被告Y1と自動車保険契約を締結していた被告会社が、本件事故により被告Y1に生じた車両損害について保険金を支払ったことにより、被告Y1が原告X3に対して有する損害賠償請求権を代位取得したとして、原告X3に対し、商法六六二条に基づく保険代位により、五三万五七〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(3)  第三事件は、原告X2が、被告Y1に対し、不法行為に基づき、本件事故によって生じた物損等の損害の賠償金一九四万六二五〇円及びこれに対する本件事故発生の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(4)  第四事件は、原告X3が、被告Y1に対し、自賠法三条に基づき、本件事故によって原告X3に生じた損害の賠償金一八六八万七三四四円及びこれに対する本件事故発生の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実等(証拠等により容易に認定できる事実については末尾に証拠等を記載した。)

(1)  本件事故の発生

ア 日時

平成一五年一〇月二七日午前六時二五分ころ

イ 場所

埼玉県川口市前川四丁目四一番一四号の交差点(以下「本件交差点」という。)

ウ X3車

(ア) 自家用普通乗用自動車 トヨタ・センチュリー(〔ナンバー省略〕)

(イ) 運転者 原告X3

(ウ) 同乗者 原告X1

(エ) 所有者 原告X2

エ Y1車

(ア) 自家用普通貨物自動車 イスズ・エルフ(〔ナンバー省略〕)

(イ) 運転者 被告Y1

オ 本件事故の態様

X3車は、さいたま市方面から東京都方面へ向かって南進し、Y1車は、蕨市方面から鳩ヶ谷市方面に向かって東進していたところ、本件交差点内に直進してきたX3車の右側面部に、その右方から同交差点内に直進してきたY1車の前面部が衝突した。

(2)  自動車保険契約の締結及びこれに基づく保険金請求とその帰すう

ア 第一事件

(ア) X3車の所有者である原告X2は、本件事故当時、被告会社との間で、X3車を被保険車とする自賠責保険契約を締結していた。

(イ) 原告X1は、平成一六年四月二一日、本件事故によって人的損害を被り、原告X2に運行供用者としての責任があると主張して、被告会社に対し、自賠法一六条一項に基づく保険金請求をしたが、自賠法三条の「他人」に該当しないとの理由で支払を拒まれた(甲三、丙二、六)。

イ 第二事件

(ア) 被告会社は、本件事故当時、被告Y1との間で、要旨次の内容の自動車保険契約を締結していた(乙六)。

a 名称 家庭用総合自動車保険(TAP家庭用)

b 証券番号〔証券番号 省略〕

c 保険期間 平成一五年九月一六日から平成一六年九月一六日まで

d 車両保険金額・限度額 五〇万円

e その他 レッカー代は保険金額の一〇%又は一〇万円のどちらか多い金額まで別途支払う。

(イ) 被告会社は、平成一六年一月二一日ころ、被告Y1が本件事故によって被った車両損害のうち、修理費の一部として五〇万円及びレッカー代(保管料は除く)として三万五七〇〇円の合計五三万五七〇〇円を、上記保険契約に基づき、被告Y1に支払った(乙七)。

三  争点

(1)  本件事故の態様及び責任原因

(2)  過失相殺

(3)  本件事故により生じた損害額

(4)  原告X1が自賠法三条にいう「他人」に該当するか。

四  争点に関する当事者の主張

(1)  本件事故の態様及び責任原因

(原告X1、原告X2の主張)

ア 本件事故は、被告Y1が、対面信号が赤色表示であるにもかかわらず、これを無視し、相当なスピードで本件交差点に進入したために発生した。

イ すなわち、原告X3は、時速四〇キロメートルでX3車を走行し、本件交差点に差し掛かったところ、本件交差点の手前約二〇メートルで対面信号が青色表示から黄色表示に変わったことを確認し、同交差点手前の横断歩道上でも黄色表示であることを再度確認した上で、本件交差点に進入した。助手席に乗車していた原告X1も、本件交差点に差し掛かる少し手前で前方信号が青色表示であったことを確認している。さらに、原告X3は、本件交差点内の横断歩道の中心から五・八メートル先の地点においても、対面信号が黄色表示であることを確認しながら、同じく時速四〇ないし五〇キロメートルで走行したところ、右方から本件交差点内に進入してきたY1車が、X3車の右側後部座席のドアあたりに衝突した。

ウ このように、X3車が、対面信号が黄色表示で本件交差点に進入した以上、交差道路を走行していたY1車は、対面信号が赤色表示であったにもかかわらず、本件交差点内に進入したと考られるから、本件事故の責任は、全面的に被告Y1にある。

(原告X3の主張)

ア 被告Y1は、対面信号が赤色表示であるから、いずれ青色表示に変わるだろうと思い、一時停止することなく、漫然と本件交差点に進入したところ、黄色信号で交差点に進入してきたX3車の右側面に自車を衝突させた。

イ したがって、被告Y1は、交差点に進入するに際し、前方を注視し、対面信号機の信号表示に留意する義務があったにもかかわらず、赤色の信号表示に従わずに本件交差点に進入した過失により本件事故を惹起したものであるから、本件事故の責任は、全面的に被告Y1にある。

(被告Y1、被告会社の主張)

ア 被告Y1が赤色信号を無視して、本件交差点に進入した事実はない。本件事故は、被告Y1が青色信号に変わったのを確認してから本件交差点内に進入した際に、交差道路を走行してきた原告X3が、赤色信号を無視して本件交差点に進入したことによって発生した。

イ すなわち、被告Y1は、通勤のため、本件交差点に通じる道路を直進し、本件交差点の二〇〇メートルくらい手前にある自動販売機で、一旦停車して飲み物を購入した。その後、Y1車を発進し、本件交差点に向けて時速二〇キロメートル程度で進行していたが、対面信号が赤色表示であるのを確認したため、減速しながらゆっくりと走行した。そのまま、本件交差点手前の停止線を越えた横断歩道の手前付近まで進行すると、対面信号が青色表示に変わったため、二速で発進し、本件交差点に進入したところ、突然左方から進行してきたX3車と本件交差点中央付近で衝突した。

ウ 原告X3は、赤色信号を無視して本件交差点に進入した過失により本件事故を惹起したものであるから、本件事故の責任は全面的に原告X3にある。

(2)  過失相殺

(被告Y1の主張)

本件交差点への進入に際し、被告Y1が対面信号が赤色表示であったのに停止線において完全に停止しなかったことをもって過失が認められるとしても、本件事故を生じさせた責任の大部分は原告X3が対面信号の赤色表示を無視して本件交差点に進入したことにあるから、過失相殺が認められるべきである。

そして、原告X3は、原告X1の指示によりX3車を運転していたものであるから、原告X3の過失は原告X1側の過失として、原告X1の請求する損害賠償額の算定にあたり斟酌されるべきである。

また、原告X2の請求する損害賠償額についても同様である。

(原告X3の主張)

仮に原告X3に過失があったとしても、基準によれば、原告X3の過失割合は二割にとどまる。

(原告X1、原告X2の主張)

被告Y1の主張は争う。

(3)  本件事故により生じた損害額

ア 原告X1に生じた損害(第一事件)

(原告X1の主張)

(ア) 傷病名

頭部外傷、意識障害、頸椎捻挫、胸部左肩打撲傷

(イ) 入院治療費 一四四万九四〇〇円

原告X1は、西川口病院において、平成一五年一〇月二七日から同年一二月二〇日までの五五日間入院し、頭書の治療費を要した。

(ウ) 休業損害 七一〇万五一五八円

原告X1の平成一四年度の年収は四七二万三八七五円であるから、一日あたりの収入は一万二九四二円である。

原告X1は、左官工であり、左官工は約二五ないし四〇キログラムのセメントを運ぶなど重労働を余儀なくされるが、本件事故後は、退院してからも、体力が衰え、けがの回復も完全ではなく、現場での仕事の復帰の見通しが立たずに休業を余儀なくされたのであるから、平成一五年一〇月二七日から平成一七年四月二七日までの五四九日間について合計七一〇万五一五八円の休業損害が発生している。なお、原告X1は、入院期間中、理学療法の一環として、毎日可動域を測定したうえで自動運動他動運動を行っていたから、入院期間中の治療内容が愁訴が遷延した原因となることはあり得ない。また、原告X1に、内科的疾患が存在したとしても、原告X1は、本件事故以前においては、問題なく仕事をしていたのであるから、原告X1の就労不能の原因は本件事故にあり、後記の被告Y1及び被告会社の主張(イ)には理由がない。

(計算式)

472万3875円÷365日×549日=710万5158円

(エ) 入院慰謝料 九三万〇〇〇〇円

(オ) 弁護士費用 三一万〇〇〇〇円

(カ) 填補額 一四四万九四〇〇円

入院治療費一四四万九四〇〇円は、被告Y1の自賠責保険及び原告X1の組合保険により填補された。

(キ) 合計損害額 八三四万五一五八円

(被告Y1の主張)

(ア) 原告X1の主張(ア)及び(イ)は不知。

(イ) 同(ウ)は否認する。

原告X1が本件事故により就労不能と認められるのは、長く見積もっても本件事故から三か月程度であり、その後は就労に支障はなかった。

すなわち、原告X1の診断名は、外傷性脳震盪と頸椎捻挫であり、後者が原告X1の各種愁訴の原因となっていると考えられるところ、頸椎捻挫は、一般的に、初期の急性期経過後は運動療法をすべきとされているにもかかわらず、本件では、二か月間、運動療法をほとんど行うことなく、安静・投薬治療目的の入院が継続されていたのであり、このような治療内容も愁訴が遷延した原因となっている。そして、頸椎捻挫治療の安静期間として休業が必要な期間は通常一か月程度であって、治癒までに必要な期間は三か月ないし六か月程度であるから、退院まで二か月を要するほどの重傷だったとしても、受傷後三か月以上の安静は医学的に不要である。

また、原告X1は、西川口病院からの退院後、一度も通院治療を受けておらず、退院後は医師の治療を要するような症状はなかった。そうすると、入院期間中に体力が衰えていたとしても、運動をして体力をつければよかったのであり、これを妨げるような事情は見受けられない。さらに、原告X1には、肝障害を示唆する所見、貧血症、糖尿病、腎機能障害を示唆するデータ、低タンパク血症が認められるのであり、仮に原告X1が体力がなく就労ができなかったとしても、本件事故ではなく、これらの内科的疾患によるものと考えられる。

なお、原告X1が休業損害の算定根拠として提出するA左官作成の支払明細書(甲八号証、一一号証の一ないし一二)は、客観性を欠くため、信用性が認められない。

(ウ) 同(エ)及び(オ)は争う。

(エ) 同(カ)は認める。

(被告会社の主張)

原告X1の主張(ア)ないし(キ)は不知。

イ 原告X2に生じた損害(第三事件)

(原告X2の主張)

(ア) 車両損害費用 一五三万〇〇〇〇円

(イ) レッカー代 二万六二五〇円

(ウ) 保管代等 一九万〇〇〇〇円

(エ) 弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

(オ) 合計 一九四万六二五〇円

(被告Y1の主張)

(ア) 原告X2の主張(ア)及び(イ)は認める。

(イ) 同(ウ)は否認する。

X3車は廃車となったのであるから、保管費用は発生しない。

(ウ) 同(エ)は争う。

ウ 原告X3に生じた損害(第四事件)

(原告X3の主張)

(ア) 医療費 六三万七一三〇円

a 保険会社支払分 五三万三八三〇円

入院治療費として五二万三二一〇円、通院費として九八二〇円、文書料として八〇〇円がかかり、被告Y1の自賠責保険会社である□□火災海上保険株式会社が支払った。

b 自己負担分 一〇万三三〇〇円

原告X3は、平成一六年一一月一七日から平成二〇年一一月二一日まで東和病院に通院して、マッサージ代や湿布等の購入費等として頭書の金額を自己負担した。

(イ) 交通費 四万〇〇〇〇円

(ウ) 入院雑費 四万五〇〇〇円

原告X3は、一五日間入院したところ、入院雑費は一日三〇〇〇円が相当であるから、合計で四万五〇〇〇円となる。

(計算式)

3000円×15日=4万5000円

(エ) 休業損害 一〇六五万〇〇〇〇円

原告X3は、事故当時、左官業をしていたが、事故後現在まで働くことができない状態にある。

そして、原告X3は、本件事故前の三か月間、左官工として有限会社△△産業から日給一万五〇〇〇円の収入を得ており、月額では三五万五〇〇〇円(年収四二六万円)の収入があったところ、本件事故日の平成一五年一〇月二七日から症状固定日である平成一八年五月一日までの三〇か月間休業していたのであるから、合計で一〇六五万円の休業損害が発生している。

(計算式)

35万5000円×30か月=1065万円

(オ) 入通院慰謝料 一五〇万〇〇〇〇円

一五日間の入院による慰謝料は三五万円、また、平成一五年一一月一一日から現在までの通院慰謝料は一一五万円が相当である。

(カ) 後遺症慰謝料 二九〇万〇〇〇〇円

原告X3には、本件事故による受傷が原因で、頸椎第四、五及び第五、六の脊柱管狭窄、第六、七間の頸椎に椎間板ヘルニアによる脊椎損傷が生じた。そして、これにより、原告X3には、右握力低下の機能障害、右頸部の左右屈、前後屈、回旋の運動障害、右上肢、下肢の知覚障害、右手指の巧緻障害の症状が認められるところ、これは、頸椎損傷により、局部に頑固な神経症状を残すものに当たるから、原告X3には、後遺障害別等級一二級一三号に相当する後遺症が認められ、後遺症慰謝料は二九〇万円となる。

(キ) 後遺症による逸失利益 二六一万五二一四円

原告X3は、平成一八年五月一日に症状が固定したものの、その後も、握力低下、右上肢・下肢の放散痛、頚部痛、右手指の巧緻障害等の神経症状が残存し、今後も改善の見込みがないから、就労は困難である。

原告X3は、本件事故に遭わなければ、症状固定時から六七歳まで、上記(エ)の年収と同程度の収入(年収四二六万円)を得ることができたものであるところ、上記後遺障害により、その労働能力の一四パーセントを喪失したので、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、逸失利益の現価を算定すると、次のとおり、二六一万五二一四円となる。

(計算式)

426万円×14%×(7.108-2.723)=261万5214円

(ク) 弁護士費用 一五〇万〇〇〇〇円

(ケ) 填補額 一二〇万〇〇〇〇円

(コ) 合計 一八六八万七三四四円

(被告Y1の主張)

(ア) 原告X3の主張(ア)のaは認め、bは否認する。

本件事故により原告X3に生じた傷害は、事故後三か月程度で症状固定の要件を満たしていたと考えられるから、それ以降にかかった治療費は賠償の対象から外されるべきである。

(イ) 同(イ)は否認する。通院に要したとするタクシー代の証明がない。

(ウ) 同(ウ)は、日額一五〇〇円の範囲で認め、これを越える部分は否認する。

(エ) 同(エ)のうち、原告X3が左官工として稼働し、事故前の給与収入が月額三五万五〇〇〇円であることは認めるが、その余は否認する。

本件事故により原告X3が負った傷害は、胸部打撲と肋骨骨折を除けば頸椎捻挫のみであり、これによる就労不能期間は、肉体労働者であることを考えても、本件事故後三か月程度とされるべきである。

(オ) 同(オ)は否認する。

原告X3の本件事故による傷害の症状固定時期は事故後三か月程度と考えられるから、入院一五日、通院二か月半として慰謝料額を算定すべきであり、八五万円が相当である。

(カ) 同(カ)及び(キ)は否認する。

原告X3には本件事故による後遺障害はない。原告X3の治療経過によれば、川口市立医療センターを退院後、平成一六年一月九日までの状態は快方に向かっていることが明らかで、その後同年三月末まで治療のため同病院を訪れていないことは、このことを裏付けているから、原告X3の頸椎椎間板ヘルニアによる脊柱管狭窄や胸椎黄色靱帯骨化症による症状は、本件事故によって生じたものではない。

(キ) 同(ク)は否認する。

(ク) 同(ケ)は認める。

エ 被告Y1に生じた損害(第二事件)

(被告会社の主張)

(ア) Y1車の修理費 六一万八九六五円

(イ) レッカー代 三万五七〇〇円

a 第一レッカー代 三万一五〇〇円(内二一〇〇円は保管料)

b 第二レッカー代 六三〇〇円

(ウ) 被告会社は、被告Y1の損害中、被告車両の修理費のうち、保険金額の限度で五〇万円を支払い、レッカー代三万五七〇〇円(保管料は除く。)を支払った。

(原告X3の主張)

被告会社の主張(ア)ないし(ウ)は不知。

(4)  原告X1が自賠法三条にいう「他人」に該当するか。(第一事件)

(原告X1の主張)

原告X1は、そもそも運行供用者ではないから自賠法三条の「他人」に該当し、原告X2は、原告X1が本件事故によって被った損害を賠償する責任があるから、原告X1は、被告会社に対し、自賠法一六条一項に基づき、自賠責保険金の支払を請求することができる。

仮に、原告X1が原告X3とともに共同運行供用者であるとしても、その運行支配は、原告X3に比して間接的・潜在的・抽象的であったから、やはり自賠法三条の「他人」に該当する。理由は以下のとおりである。

ア 「運行供用者」とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」であるところ、運行利益は、その内容が明確でなく、重要な判断要素とすべきではないから、運行支配の有無を基準として考えるべきである。

イ X3車は、原告X2の所有であり、通常、原告X2のみが使用していた。

ウ 原告X1は、運転免許を取得したことがなく、自動車を運転したこともない。このような原告X1に、車両の運行を具体的直接的にコントロールすることは不可能である上、原告X1は車酔いがひどく、運転者に指示を与えることも無理であった。そして、本件事故当時の走行経路もすべて原告X3が決めており、原告X1は、運転ないし経路について何らの指示も出していなかった。

エ 原告X1は、私用で出かける場合には、タクシーを頼むか、原告X2や親族又は知人に送迎を依頼していたところ、原告X2らに依頼した場合には、相応の代償(ガソリン代等)を負担していた。そして、本件事故時においても、原告X1は、タクシーを利用していた可能性もあったところ、タクシーでの事故であれば、同原告に他人性が認められることに疑いはなく、その場合と本件とで格別の違いを見出すことはできない。

オ 原告X2は、X3車一台のみを有していたにすぎず、本件事故当日は、原告X2が弟のB(以下「B」という。)の所有車両を借りて使用していたので、X3車を原告X1らが使用できたのであり、原告X1がX3車を手元において日常的に使用していたわけではない。

また、原告X1は、大工の棟梁として多数の職人を雇用していたところ、職人達のために、平成四年ころに車両を購入し、駐車場を賃借していた。そして、平成一五年一〇月にその車両を廃車にした後も、契約期間が残存していたため、Bが駐車場を引き続き利用していたのであり、X3車について、日常的に原告X1の契約する駐車場を利用していたのではない。

(被告会社の主張)

以下の理由から、原告X1は自賠法三条の「他人」には該当しない。

ア 自賠法三条の「他人」とは、「運行供用者」「運転者(運転補助者)」以外の人を指すところ、「運行供用者」とは、一般に、その自動車の運行に関する支配権を有し、あるいは、運行による利益が帰属する者をいう。

イ 本件事故においては、原告X3、原告X1、原告X2が「運行供用者」に該当し、このように複数の「運行供用者」が存在する場合には、運行供用者内部間における運行支配の程度を比較検討し、いずれがより直接的、顕在的、具体的であったかという観点から「他人」に該当するか否かについて判断すべきである。

そうすると、原告X2は、X3車の所有者ではあるものの、本件事故当時は乗車していなかったのであるから、原告X3及び原告X1の運行支配の程度は、原告X2のそれに比して直接的、顕在的、具体的であったといえる。

また、原告X1は、ゴルフに出かけるため、息子である原告X2からX3車を直接借り受けたものであるから、本件事故発生を主体的に防止すべき立場にあったといえる。さらに、原告X1は、X3車を日常的に使用していたことから、所有者と同等と見ることができる。

ウ 車両の所有者は、個人であれば運転免許の有無を問わず、運行供用者性が肯定される。原告X1が運転免許を有していないとしても、本件事故当時、原告X1は、自分自身がゴルフに出かけるため、X3車を借り受けたのであり、かかる運行目的からすると、X3車に対する運行支配、運行利益を有していたといえ、「運行供用者」に該当する。

エ 本件においては、原告X2が新たに車両を購入したため、古くなったX3車を原告X1が借りて自ら契約した駐車場に置いておき、原告X3が月に一〇回程度、原告X1を乗せて運転していたものであるから、原告X1は、「日常的に自動車の使用を認められている者」として、所有者と並んで運行供用者と認めるのが相当である。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(本件事故の態様及び責任原因)と争点(2)(過失相殺)について

(1)  上記争いのない事実等に加えて証拠(甲一、二、一〇、乙一、二、四ないし一四、原告X3、原告X1、被告Y1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件事故現場の状況(甲一、二、乙一、二、一〇、一四)

本件事故現場は、別紙図面のとおり、東京都方面とさいたま市方面とを南北に結ぶ市道(以下「南北道路」という。)と、鳩ヶ谷市方面と蕨市方面とを東西に結ぶ市道(以下「東西道路」という。)が交差する本件交差点であり、各進入方向に対面して信号機が設置されている。

南北道路と東西道路は、いずれも制限速度を時速四〇キロメートルとする片側一車線道路であるが、本件交差点へ進入する各車線は右折車用に道路幅が拡張している。両道路は、アスファルト舗装された平たんな道路で、本件事故当時、路面は乾燥していた。また、本件交差点の北西の角には建物があるため、東西道路を鳩ヶ谷市方面に東進する場合、あるいは南北道路を東京都方面に南進する場合、両道路間の見通しは悪かった。

イ 本件交差点の信号周期(乙二)

本件交差点の信号サイクル秒数は全一〇〇秒であり、南北道路に設置された信号機は、五四秒間青色表示が続いた後、四秒間の黄色表示を経て、赤色表示に変わり、赤色表示は四二秒間続く。他方、東西道路に設置された信号機は、南北道路の信号機が青色表示と黄色表示となっている五八秒間とその前後二秒間ずつを合わせた六二秒間が赤色表示であり、その後、三四秒間の青色表示が続き、四秒間の黄色表示を経て再び赤色表示となる。つまり、一方の信号機が青色表示及び黄色表示の間は、他方の信号機は常に赤色表示であり、両信号機が共に赤色表示となるいわゆる全赤の時間が、いずれかの信号機が黄色表示から赤色表示となった直後の各二秒間存在する。

ウ 本件事故の状況

(ア) 本件事故当時、原告X3は、先輩にあたる原告X1に頼まれて、ゴルフに行く原告X1を待ち合わせ場所まで送る途中だったものであり、原告X1を助手席に同乗させて、X3車を運転し、時速四〇ないし五〇キロメートルで、南北道路をさいたま市方面から東京都方面に走行し、本件交差点に差し掛かった。原告X3は、本件交差点手前に標示された停止線の手前で対面信号が青色から黄色に変わったものの、停止線では完全に止まれないと判断し、同一の速度で進行し、停止線を過ぎて横断歩道を少し入った地点でも黄色信号であることを確認し、そのまま本件交差点に進入したところ、別紙図面file_5.jpgの地点でX3車の右側側面にY1車の前部が衝突した。

(イ) 被告Y1は、千葉県の関宿にある金物工場へ向かう途中、埼玉県川口市前川二丁目に住んでいる息子を迎えに行くため、東西道路を蕨市方面から鳩ヶ谷市方面に向けY1車を運転し、本件交差点の約二〇〇メートル手前にある自動販売機の前に車を停め、缶コーヒーを購入して車に戻ったところ、本件交差点の対面信号が赤色を表示していたため、二速でゆっくり発進した。同信号は、本件交差点の約四六メートル手前の地点でも赤色表示だったが、被告Y1は、まもなく青色に変わるものと考えて本件交差点手前の停止線では止まらず、本件交差点に進入したところ、左方向から進行してきたX3車と衝突した。被告Y1は、衝突するまでX3車に気づかなかったため、衝突を避けるための回避措置をとらなかった。

(ウ) 衝突後、X3車は、衝突地点から南北道路を東京都方面にゆっくりと前進し、本件交差点から約三〇メートル先で道路右に寄せて停止した。他方、Y1車は、本件交差点内において、東南方面を向いて停止した。

(エ) 本件事故により、X3車は、右フロントフェンダーから右前後ドアパネル、右リアフェンダーの範囲に衝突を受け、ドアパネル内のサイドインパクトバーの形状が露呈した状態となった。また、右センターピラーが押し込まれ、ルーフパネルに座屈変形が生じた状態となった。

他方、Y1車は、左前方から前面部全体に衝突を受け、フロントバンパーは右方向に約二〇センチメートル横ずれし、フロントパネル、左右ヘッドライト、左右ウィンカー等に押し込み変形や割れ破損を生じた。フロントパネルは左部分よりも右部分の方が凹み損傷が大きく、右ヘッドライトと右ウィンカーは完全に外れ、右ドアパネルとキャブが後退してトリイに接触する状態となった。

(被告Y1は、本人尋問において、本件交差点の西側に設置された横断歩道の一メートルくらい手前の地点で一旦停止したが、対面信号が青色に変わったので、車を発進させ、右方向を確認しながら本件交差点の真ん中あたりまで行ったところで、左方向から進行してきたX3車と衝突したと供述する。しかしながら、本件全証拠によっても、原告X3が赤信号を無視して本件交差点に進入する事情も認められないほか、上記(イ)に認定のとおり、信号がまもなく青色に変わるとの見込み運転で進行し、本件交差点手前の停止線で停止しなかった被告Y1が、本件交差点手前の横断歩道の約一メートル手前で一旦停止したとの供述は、にわかに採用することができないし、その地点で対面信号が赤色から青色に変わったのを見たとの供述も、にわかに採用することができない。)

(2)  上記(1)に認定の事実によれば、本件交差点に進入した際の信号機の表示は、原告X3が供述するとおり、原告X3の対面信号が黄色で、被告Y1の対面信号が赤色だったと認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

そうすると、本件事故は、被告Y1が、対面信号が赤色を表示しているにもかかわらず、これを無視あるいは看過して本件交差点に進入したことにより発生したものと認めるのが相当であるから、被告Y1には本件事故発生について過失が認められる。

他方、上記(1)に認定の事実によれば、原告X3が、本件交差点手前の停止線で安全に停止できる可能性があったと認められる(原告X3は、本件交差点手前の停止線から約一三メートル手前の地点を過ぎたあたりで対面信号が青色から黄色に変わったと供述するが、これを裏付ける客観的証拠はない。)から、原告X3にも、本件事故発生について相応の過失があるというべきである。

結局、上記(1)に認定の諸般の事情を考慮すると、本件事故についての過失割合は、被告Y1が八割、原告X3が二割とみるのが相当である。

なお、被告Y1は、原告X1及び原告X2の請求についても、原告X3の過失を被害者側の過失として過失相殺すべき旨を主張するが、原告X1及び原告X2と原告X3との間には身分上、生活関係上一体というべき関係が認められないから、上記主張を採用することはできない。

二  争点(3)(本件事故により生じた損害額)について

(1)  原告X1に生じた損害

ア 入院治療費 一四四万九四〇〇円

証拠(甲五、□□火災海上保険株式会社に対する平成二一年二月二日申出の調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件事故により頭部外傷、意識障害、頸椎捻挫、胸部左肩打撲傷の傷害を負い、平成一五年一〇月二七日から同年一二月二〇日までの五五日間、西川口病院において入院加療し、入院治療費として一四四万九四〇〇円を要したことが認められる。

イ 入院慰謝料 九〇万〇〇〇〇円

上記のとおり、原告X1は、本件事故により五五日間にわたる入院を余儀なくされたのであるから、この間の入院慰謝料は九〇万円とするのが相当である。

ウ 休業損害 一〇八万七八〇八円

(ア) 証拠(甲五、乙九)によれば、原告X1の診断名が、一過性の意識混濁を呈した外傷性脳震盪と左上肢の神経症状を伴った頸椎捻挫であり、頸椎捻挫が各種愁訴の主原因となっていることが認められる。

そこで、このような頸椎捻挫により安静が必要な休業期間について検討すると、証拠(甲五、一三、乙九、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1の治療経過について、次の事実を認めることができる。

a 原告X1(本件事故当時五九歳)は、平成一五年一〇月二七日、本件事故後に西川口病院で受診し、頭部外傷、意識障害、頸椎捻挫、胸部左肩打撲傷との診断を受けて、入院加療することになった。

b 原告X1は、頸部痛や項部痛、後頭部痛、肩胛部痛を訴えたところ、検査所見として、左肩及び上肢の筋力低下がみられたほか、第四、五頸椎椎体の変形(椎体角尖鋭化)が認められたが、骨折その他の異常はみられなかった。

c 原告X1は、頸椎固定や外用薬(冷湿布)及び内服薬(消炎鎮痛剤等)の投薬、後頭神経ブロック、肩胛上神経ブロック、理学療法(運動療法を含む。)などの治療を受け、その結果、上記各種の症状は次第に減少・好転し、同年一二月二〇日に軽快退院した。原告X1は、退院後は、一度も本件事故に関して通院治療をしていない。

(イ) 原告X1は、本件事故を契機に体力が衰えたため、退院後は左官の仕事に復職できなかったとして、一年半にわたる休業期間を主張する。しかし、証拠(丁一三)によれば、原告X3が平成一六年一月九日の診察に際し、原告X1が退院後に仕事をしている旨の陳述をしていることが認められ、上記(ア)cに認定したとおり、原告X1が退院後は一度も本件事故に関し通院していないことにも照らすと、上記主張はにわかに採用し難い。そして、上記(ア)の認定事実によれば、本件事故によって生じた頸椎捻挫等による各種症状は、二か月弱の入院加療によって相当程度軽減したことが認められるところ、一般論として、頸椎捻挫により安静休業が必要な期間は一か月程度、治癒までは受傷後三ないし六か月程度と考えられている(乙九)のであり、五九歳という原告X1の高齢と入院期間が比較的長期であったことを考慮しても、被告Y1及び被告会社が主張する本件事故発生日から三か月間(九二日間)の限度で、休業損害を算定するのが相当である。

(ウ) 証拠(甲一二)によれば、本件事故直前の平成一五年度における原告X1の年収は二四七万一三七五円であり、これは、平成一五年四月一日から本件事故の前日である同年一〇月二六日までの分と推認されるから、一日あたりの収入は一万一八二四円となる(円未満切り捨て。)。

したがって、原告X1の休業損害は、次のとおり、一〇八万七八〇八円であることが認められる。

(計算式) 1万1824円×92日=108万7808円

エ 損害の填補 一四四万九四〇〇円

損害の填補として、被告Y1の自賠責保険及び原告X1の組合保険から一四四万九四〇〇円が支払われたことは、原告X1と被告Y1との間で争いがないので、これを控除すると、その残額は一九八万七八〇八円となる。

オ 弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過及び認容額等に照らすと、原告X1の請求について、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用の額は、二〇万円とするのが相当である。

カ 以上によれば、原告X1に生じた損害の額は、合計二一八万七八〇八円となる。

(2)  原告X2に生じた損害

ア 車両損害費用 一五三万〇〇〇〇円

原告X2と被告Y1との間で争いがない。

イ レッカー代 二万六二五〇円

原告X2と被告Y1との間で争いがない。

ウ 保管代等 一九万〇〇〇〇円

証拠(甲七の一、九、一〇)によれば、X3車は本件事故により全損とされ、平成一六年一月二一日ころ廃車となったこと、それまで有限会社a工業が同車両を保管していたこと、その保管料及び解体処理費用として合計一九万円を原告X2が同社に支払って同額の損害を被ったことが認められる。

エ 弁護士費用 一七万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過及び認容額等に照らすと、原告X2の請求について、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用の額は、一七万円とするのが相当である。

オ 以上によれば、原告X2に生じた損害の額は、合計一九一万六二五〇円となる。

(3)  原告X3に生じた損害

ア 症状固定時期について

証拠(乙一五、丁一、三、七、八、一一ないし一四、一八、二二の一及び二、二三、原告X3)及び弁論の全趣旨によれば、原告X3の受傷態様及び診療経過について、次の事実を認めることができる。

(ア) 原告X3は、平成一五年一〇月二七日、X3車を運転して本件交差点を直進していたところ、Y1車が右側側部に衝突し、衝突の瞬間、首と上半身が右窓から外に投げ出されるような状態となり、車体の右側に上半身が強くたたきつけられた後、その反動で左に体がふられて、左頭部が助手席の原告X1の右頭部と接触した。その後、原告X3は気を失い、右手をハンドルの中に入れて頭を左側のレバーソフトのところにもたせかけた状態で原告X1に起こされ、救急車で川口市立医療センター(以下「医療センター」という。)の救命救急センターに搬送された。

(イ) 原告X3は、同日の初診時において、頸椎部、前額部及び右前胸部の圧痛を訴えたが、胸部等のレントゲン及び頭部等のCT検査による所見では頸椎の加齢性変化がうかがわれたものの、骨折や変形等の異常は認められず、頸椎捻挫という診断名で入院することになった。治療としては、頸椎をカラーで固定した上、消炎鎮痛剤と湿布薬の投与を受けた。入院の初日の夜、原告X3は、看護師に対し、神経質なので毎晩薬を飲まないと眠れないと話して睡眠薬の処方を希望し、レンドルランの投与を受けた。また、翌二八日に再度レントゲン検査をしたところ、右第六肋骨骨折が認められたため、同月二九日朝の回診時から、バストバンドを装着して胸部を固定することになったが、退院まで、原告X3は、右胸部痛を訴えていた。頸椎捻挫については、同年一一月二日に原告X3本人の希望でカラーを外し、同月三日にはそろそろ退院可能である旨の所見が示されたが、同月四日には左後頸部と右胸に痛みが持続しているとして、消炎鎮痛剤等の内服薬と湿布薬の投与を受けた。その後、一旦は同月八日に退院の予定となったが、医療費のことで本件事故の相手方ともめているとのことで同日の退院は延期された。原告X3は、同月九日、右胸部がひりひりすると訴えたが、同月一〇日に軽快退院した。

(ウ) ところが、同月一四日、原告X3は、本件事故の現場検証後に痛みが強くなったとして、背部痛、肩甲間部痛を訴えて医療センターの救急外来を受診したところ、右三角筋正常、神経学的異常なしとの所見が示され、消炎鎮痛剤と胃薬が処方された。また、同月二一日に再度受診した際には、頸部の痛みを訴え、所見として右上肢の握力に若干の低下がみられたものの、上肢の痺れは認められなかった。さらに、同月二八日の再診では、右半身及び背筋の痛み、右顎面の痺れ、腰痛、後頸部痛等の症状を訴えたが、他覚的所見として麻痺は認められず、知覚も正常であり、同年一二月二日の頭部CT検査でも異常は認められなかった。同日の受診では、右上肢可動域障害と顎から背中にかけて鈍痛があって力が入らないとの愁訴があったものの、平成一六年一月九日の受診時には、背部痛とだるさは改善され、原告X3はその後二か月半以上通院しなかった。

(エ) 原告X3は、同年三月三〇日に再び右頸部痛と右上半身の痺れや痛みを訴えて受診し、同年四月二〇日には、医療センターの救命救急センターにおいて症状固定日を同日とする後遺障害診断書(後記の追加訂正前の丁一)が作成された。この診断書には、傷病名を「頸椎捻挫後頸椎症、右第六肋骨骨折」とし、自覚症状として「右肩、上肢、下肢の痺れ、痛み(放散痛)、筋力低下、頸部痛、時々動かなくなる、うまく物が持てない、つかめない、右手指巧緻障害」、他覚症状として「握力 右一〇kg、左三五kg、明らかな可動域制限なし」との記載がされていた。原告X3は、同月二九日に受診して、保険会社と交渉したことや右肩痛、後頸部右側痛や背側の痺れ感などを訴えたものの、その後、約一か月間は通院しなかった。

(オ) 原告X3は、同年六月一一日、背部痛、頸部痛、肩痛等を訴えて約一か月ぶりに医療センターを受診し、同月一八日にも受診して同様の症状を訴えた。原告X3は、同月二三日の受診時には保険を再開したいと申し入れたところ、担当医は、症状が流動的で医療による改善が見込まれるなどとして、再度、自賠責の適用を申請した。原告X3は、同年七月以降は月二、三回程度の割合で通院し、同様の症状を訴え、湿布等の投薬が続けられた。なお、原告X3は、同年八月二四日の受診の際、担当医に、建築現場で物を運んでおり、テキヤの仕事も手伝っていると話していた。

(カ) 原告X3は、同年九月一五日、担当医から埼玉協同病院の整形外科を紹介されたが、翌一六日、協同病院ではなく東和病院を受診し、頸部捻挫と診断され、運動療法、頸椎牽引、右肩関節内注射の治療を受けた。原告X3は、以後も同病院に頻回に通院して同様の治療を現在まで受け続けている。

(キ) 原告X3は、同年一一月五日、東和病院を受診して、MRI検査の結果、第六、七頸椎椎間板ヘルニアと診断され、次いで、同月九日に、医療センターを受診して、MRI検査の結果、第六、七頸椎椎間板ヘルニアと診断され、筋力テストにより手関節が屈曲し、知覚障害が認められるが、手術の必要はないと診断された。また、平成一七年九月二九日と同年一一月一〇日にも同病院を受診し、平成一八年一月一七日に再度受診した際には、MRI検査により第六、七脊柱管狭窄、右椎間孔狭窄、第五、六脊柱管狭窄等の診断を受け、そのほか腱反射の異常と筋力低下が指摘された。

なお、同年四月四日になってから、医療センターは、平成一六年四月二〇日に作成された上記(エ)の後遺障害診断書の症状固定日を平成一八年四月四日に書き換えた上、脊柱の障害として「頸部脊柱管狭窄症、頸部椎間板ヘルニア」、頸椎部運動障害として「前屈一〇度、後屈五度、右屈五度、左屈五度、右回旋五度、左回旋一〇度」と追加記載した新たな後遺障害診断書(丁一)を作成した。また、同年五月一〇日付けで、東和病院でも、症状固定日を同月一日とする後遺障害診断書(丁二)が作成された。これには傷病名として「頸椎捻挫、右第六骨骨折、頸椎椎間板ヘルニア」、自覚症状として「右頸部痛、右上肢への放散痛、右上肢筋力低下、右上肢感覚障害」、他覚症状及び検査結果として「右頸部より右上肢の放散痛、握力右一四kg、左三三kg、上肢徒手筋力テスト右四・左五、触覚右上肢八/一〇、痛覚右上八/一〇(左上肢はいずれも正常)、反射上下肢とも異常なし」、頸椎部運動障害として「前屈三〇度、後屈一〇度、右屈二〇度、左屈二〇度、右回旋三〇度、左回旋三〇度」といった記載があった。さらに、医療センターでは、平成一九年六月二八日付けで同年五月一七日を症状固定日とする診断書(丁七の一)が作成された。これには傷病名として「外傷性頸部症候群、頸椎椎間板ヘルニア」と記載されたものの、本件事故による外傷と椎間板ヘルニアとの因果関係は不明である旨が記載され、既往症として「胸椎黄色靱帯骨化症」と記載されたほか、自覚障害として「右頸部から右上肢全体の痺れ、右腕高から側胸部の痛み、右臀部から大腿外側の痺れ、足背の痺れ、右手巧緻運動障害」、頸椎部運動障害として「前屈二五度、後屈三〇度、右屈一五度、左屈三〇度、右回旋四五度、左回旋六〇度」との記載があった。加えて、東和病院でも同年七月九日付けで、平成一六年五月一〇日付けの診断書(丁二)を追加訂正した後遺障害診断書(丁八)が作成され、症状固定日が平成一九年七月九日に書き換えられたほか、自覚症状として「右下肢感覚障害」が追加記載され、頸椎部運動障害として「前屈三五度、後屈二〇度、右屈一〇度、左屈二五度、右回旋二五度、左回旋六〇度」などと記載されていた。

(ク) 原告X3は、この間、自賠責の後遺障害認定を申請したが、非該当と判断され、異議を申し立てたものの、平成一八年一〇月五日付けで後遺障害なしとの判定を受け、再度異議を申し立てたものの、平成二〇年七月一一日付けでやはり後遺障害なしと判定された。

以上の認定事実によれば、原告X3は、平成一五年一〇月二七日の本件事故直後から入院し、頸部痛、前額部痛と右前胸部痛を訴えて頸椎捻挫と右第六肋骨骨折と診断されたが、頸椎に関して骨折や骨変形などの他覚的症状は認められず、同年一一月一〇日の退院時までには主に胸部の痛みのみを訴えていたこと、その後まもなく右背部や肩甲間部に痛みを生じたとして再度来院し、続いて頸部の痛みも再び訴えたものの、胸部痛を訴えた形跡はなく、頭部CT検査で異常は認められず、平成一六年一月九日には、背部痛とだるさは改善されたとの自覚があり、その後二か月半以上もの間、医療機関を受診しなかったこと、原告X3は、同年三月三〇日に再度医療センターを受診したが、同年四月二〇日には症状固定との診断を受け、その時点では可動域の制限はなかった上、同月二九日の受診を最後に約一か月間は通院しなかったことが認められる。また、原告X3は、同年六月一一日以降、再び頸部痛と右半身の痺れや痛みを訴えて受診するようになり、本件事故から一年以上経過した後の同年一一月九日にMRI検査により頸椎椎間板ヘルニアが判明したものの、本件事故による受傷との因果関係は不明とされていたこと、原告X3には頸椎の加齢性変化が事故当時から見受けられたこと、現在まで継続して行われている治療は、湿布薬等の投薬加療や、運動療法、頸椎牽引等の理学療法であって、このような治療により症状自体に大きな変化は認められず、もはや有意な治療効果は認められない状態となっていたことが認められる。

以上によれば、本件事故によって原告X3は、頸椎捻挫、右肋骨骨折の傷害を負ったものの、これによる症状は、遅くとも平成一六年四月二〇日の時点で症状固定していたものと認められる。もっとも、原告X3は、同年六月以降、背部痛や頸部痛等を訴えて通院を再開しているが、このような症状は、加齢性変化により後発的に発生した頸椎椎間板ヘルニアによるものとうかがわれるところ、これが本件事故によって発生したと認めるに足りる証拠はないから、この点やその後に作成された医療センターや東和病院の後遺障害診断書の記載は、上記認定を左右するものではない。

イ 医療費

(ア) 保険会社支払分 五三万三八三〇円

原告X3と被告Y1との間で争いがない。

(イ) 自己負担分 〇円

原告X3は、平成一六年一一月一七日から平成二〇年一一月二一日まで、東和病院に通院してマッサージ代や湿布の購入費等として一〇万三三〇〇円を支出したと主張するが、上記アで認定したところによれば、これらは本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

ウ 交通費 〇円

丁九号証中には平成一七年四月二〇日にタクシー代として一三五〇円を支出したとの領収証があるが、上記アで認定したところによれば、本件事故と相当因果関係のある支出とは認められず、他に原告X3が上記アの期間内の通院に際して交通費を支出したとの主張立証はない。

エ 入院雑費 二万二五〇〇円

入院雑費については、一日一五〇〇円の限度で原告X3と被告Y1の間で争いはなく、これ以上の額を認めるべき事情もうかがわれないから、原告X3が平成一五年一〇月二七日から同年一一月一〇日までの入院期間中に要した入院雑費は、次のとおり、合計二万二五〇〇円となる。

(計算式) 1500円×15日=2万2500円

オ 休業損害 一〇六万五〇〇〇円

原告X3が、本件事故前の三か月間、左官工として稼働して平均月額三五万五〇〇〇円の収入を得ていたことは、原告X3と被告Y1の間で争いがない。

そして、上記アのとおり、原告X3が本件事故後一五日間入院し、退院後も平成一六年一月九日まで通院を続けたこと、その後約二か月半は通院せず、同年四月二〇日には症状固定の診断を受けて、その時点では運動可動域の制限等はなかったことに照らすと、原告X3の就労不能期間は、被告Y1の認める本件事故後三か月と認めるのが相当である。

したがって、原告X3の休業損害は、次のとおり、合計一〇六万五〇〇〇円となる。

(計算式) 35万5000円×3か月=106万5000円

カ 入通院慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

上記アのとおり、原告X3の症状固定時期は遅くとも平成一六年四月二〇日であるところ、証拠(丁一三)によれば、原告X3は、平成一五年一〇月二七日から同年一一月一〇日まで一五日間の入院を余儀なくされ、同月一四日から平成一六年四月二〇日の症状固定までに一五九日間(実通院日数八日)の通院をしているから、入通院慰謝料は一〇〇万円とするのが相当である。

キ 後遺症慰謝料 〇円

原告X3は、本件事故による受傷が原因で、頸椎第四、五及び第五、六の脊椎管狭窄、第六、七間の頸椎に椎間板ヘルニアによる脊椎損傷が生じ、このような頸椎損傷により、局部に頑固な神経症状が残存しているとして、一二級一三号に相当する後遺症があると主張する。

しかし、上記アの認定事実によれば、頸部と右半身に残存する神経症状が本件事故によって生じた後遺障害ということはできないから、後遺症慰謝料の請求は認められない。

ク 後遺症による逸失利益 〇円

上記キのとおり、原告X3に後遺障害が認められない以上、後遺症による逸失利益も認められない。

ケ 過失相殺後の残額 二〇九万七〇六四円

上記アないしキの合計額は二六二万一三三〇円であるところ、前記一の過失割合に従って二割を減額すると、残額は二〇九万七〇六四円となる。

コ 損害の填補 一二〇万〇〇〇〇円

損害の填補として、被告Y1が契約をしている自賠責保険会社から一二〇万円が支払われたことは、原告X3と被告Y1との間で争いがないので、これを控除すると、その残額は八九万七〇六四円となる。

サ 弁護士費用 九万〇〇〇〇円

本件事案の内容、難易、審理経過及び認容額等に鑑みれば、原告X3が要した弁護士費用全額を損害とするのは相当でなく、そのうち九万円の限度で本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。

シ 以上によれば、原告X3に生じた損害の額は、合計九八万七〇六四円となる。

(4)  被告Y1に生じた損害

ア 車両損害費用 五二万〇〇〇〇円

証拠(乙四)によれば、Y1車は、修理代が時価額を上回るために全損となったところ、全損時価額は五二万円であることが認められる。

イ レッカー代 三万五七〇〇円

証拠(乙四、五)によれば、頭書の金額と認められる。

ウ 保管料 二一〇〇円

証拠(乙五)によれば、頭書の金額と認められる。

エ 過失相殺後の残額 一〇万七一四〇円

上記アないしウの合計額は五五万七八〇〇円であるところ、上記一のとおり、被告Y1に生じた損害については八割の過失相殺を行うのが相当であるから、過失相殺後の金額は一一万五六〇〇円である。そして、被告会社は、上記争いのない事実等(2)イのとおり、車両損害費用の一部及びレッカー代として五三万五七〇〇円を被告Y1に支払ったのであるから、過失相殺後の金額のうち一〇万七一四〇円の限度で、原告X3に対する損害賠償請求権を代位取得したというべきである。

三  争点(4)(原告X1が自賠法三条にいう「他人」に該当するか。)について

(1)  証拠(甲一四、一五、丁三、原告X1、原告X2、原告X3)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 原告X2は、本件事故日である平成一五年一〇月二七日、草野球の仲間六人と野球をしに車で出かける予定があったため、多人数で乗れるようにと、弟のBが所有するエルグランドを借りることにした。エルグランドは、普段、北園にあるアパートの近くの駐車場に停めてあるため、原告X2は、前日の同月二六日の昼ころに、X3車に乗って同駐車場へ行き、これを駐車場に停め置くとともに、エルグランドに乗り換えて自宅に戻った。この時、原告X2は、X3車の鍵を北園のアパートの部屋に置いていった。

イ 他方、原告X1は、同月二七日は、友人とゴルフへ出かける予定があり、午前六時三〇分に西川口にあるジョイプラザの前で待合せをしていた。ジョイプラザは川口市並木の原告X1の自宅からは徒歩で行ける距離にあったが、原告X1は、前日の夜に北園のアパート近くで兄のCや友人らと食事をすることになり、そのままアパートに泊まることにしたため、翌朝そこからジョイプラザまで行くには、誰かに車で送ってもらう必要があった。

そこで、原告X1は、同月二六日の夜、原告X2の携帯電話に連絡をして、北園のアパート近くの駐車場に置いてあるX3車を明日使わせて欲しいと頼んだ。原告X2は、原告X1がX3車を使用することを了承し、鍵がアパートの部屋に置いてあることを伝えた。

そして、原告X1は、同日の夜、一緒に食事をしていた原告X3に、翌朝の車の運転を頼み、原告X3はこれを了解して、午前六時に原告X1のところへ来ることになった。なお、原告X3にとって原告X1は、仕事上の大先輩であり親方の立場にあった。

ウ ところが、同月二七日の朝、原告X3が午前六時になっても北園のアパートに来なかったので、原告X1は、X3車の鍵を持って原告X3の自宅まで同原告を呼びに行った。原告X3は、鍵を預って駐車場にX3車を取りに行き、戻って荷物を用意していた原告X1を上記アパート前で乗せて、ジョイプラザに向けて出発したところ、その途中で本件事故に遭遇した。

原告X1は、運転免許を取得したことがなく運転の知識もないため、運転者に指示を出すことはなく、本件事故に至るまでの道程においても、原告X3の運転に対して何ら指示を出すことはなかった。また、原告X3は、ジョイプラザまでの道を知っていたので、原告X1が道案内をすることもなかった。

エ X3車は、平成一二年ころ、原告X2が二〇〇万円で購入したもので、原告X2が自分名義でローンを組んで支払をし、自動車税や修繕費用、ガソリン代についても負担していた。また、原告X2は、普段はX3車を川口市上青木西にある自宅前に駐車して、左官の仕事へ行く時や日常の移動に使用していた。なお、原告X2もしくはBは、多いときで月に五回くらいX3車を使用して原告X1を送迎することがあった。

(2)  以上の認定事実によれば、X3車を日常的に管理・使用していたのは所有者である原告X2であったことが認められるものの、本件事故当時において、原告X1は、原告X2からX3車を借り受け、これを後輩の原告X3に運転させていたのであり、その運行目的も原告X1を友人との待ち合わせ場所に送り届けることにあったのであるから、原告X1には、本件事故当時、X3車について運行支配及び運行利益があったというべきである。

そうすると、原告X1は、原告X2とともにX3車の運行供用者たる地位にあることになるが、上記認定事実によれば、本件事故当時の原告X1のX3車に対する運行支配は、同乗していなかった原告X2のそれに比して直接的、顕在的、具体的であったことが認められ、原告X1が原告X2との関係で自賠法三条の「他人」に当たるとは認められないというべきである。

(3)  なお、原告X1は、運転者である原告X3との対比において運行支配の直接性、顕在性、具体性を主張するが、本件請求は、X3車の所有者である原告X2に自賠法三条にいう「他人」としての原告X1に対する損害賠償責任が発生することを前提に、同X2と自賠責保険契約を締結している被告会社に対して、被害者である原告X1が自賠責保険金の支払を直接請求するものであり(自賠法一六条一項、三条本文参照)、原告X1の他人性は、原告X2との関係で検討すべきといえるから、上記主張は採用し得ない。

また、原告X1は、運転免許を取得したことがなく自動車を運転したこともないから、車両の運行を具体的直接的にコントロールすることは不可能であるし、本件事故当時も原告X3の運転について何らの指示も出していないとして、原告X1が「他人」に該当すると主張する。しかし、上記(1)で認定したとおり、X3車を借り受けたのも運転を依頼したのも原告X1である上、原告X1は運転者である原告X3の親方で先輩にあたり、原告X1の私用で原告X3に運転させてX3車を使用したこと等の事情に鑑みれば、運転免許がない点や具体的指示がなかった点のみをもって、原告X1の運行供用者性を否定することや他人性を肯定することはできないと認めるのが相当であり、原告X1の上記主張を採用することはできない。

第四結論

以上の次第で、第一事件における原告X1の被告Y1に対する請求は、二一八万七八〇八円及びこれに対する本件事故の日である平成一五年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び被告会社に対する請求は理由がないから棄却し、第二事件における被告会社の原告X3に対する請求は、一〇万七一四〇円及びこれに対する本件事故の日である平成一五年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、第三事件における原告X2の被告Y1に対する請求は、一九一万六二五〇円及びこれに対する本件事故の日である平成一五年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、第四事件における原告X3の被告Y1に対する請求は、九八万七〇六四円及びこれに対する本件事故の日である平成一五年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩田眞 仲村みわ子 瀨戸口壯夫)

別紙

一 第一事件について

訴訟費用中、原告X1と被告Y1との間に生じたものは、これを四分し、その三を原告X1の負担とし、その余を被告Y1の負担とし、原告X1と被告会社との間に生じたものは、原告X1の負担とする。

二 第二事件について

訴訟費用はこれを五分し、その四を被告会社の負担とし、その余を原告X3の負担とする。

三 第三事件について

訴訟費用は、これを五〇分し、その一を原告X2の負担とし、その余を被告Y1の負担とする。

四 第四事件について

訴訟費用はこれを二〇分し、その一九を原告X3の負担とし、その余を被告Y1の負担とする。

交通事故現場見取図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例