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さいたま地方裁判所 平成17年(行ウ)24号 判決 2005年11月16日

主文

1  埼玉県議会議長が原告に対して平成17年3月23日付けでした原告の異議申立てを却下する旨の決定を取り消す。

2  その余の原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  埼玉県議会議長が原告に対して平成16年12月1日付けでした「『平成15年度に係る埼玉県県政調査費の交付に関する規程7条1項による収支報告書並びに同8条による会計帳簿及び関係証拠書類等一切の情報』のうち会計帳簿及び関係証拠書類等一切の情報」について該当する公文書が存在しない旨の処分を取り消す。

2  主文1項と同旨

第2事案の概要

1  事案の要旨

原告は,埼玉県議会情報公開条例(平成12年条例第84号による全部改正後のもの。平成13年4月1日施行。以下「本件条例」という。)に基づき,埼玉県議会議長(以下「議長」という。)に対し,「平成15年度に係る埼玉県県政調査費の交付に関する規程7条1項の収支報告書並びに同8条の会計帳簿及び関係書類等一切の情報」について公文書の公開を請求したところ,議長から,上記情報のうち会計帳簿及び関係書類等一切の情報に係る公文書(以下「本件文書」という。)は存在しないとして公文書不存在通知を受けた(以下「本件不存在通知」という。)。

そこで,原告は,それを不服として,議長に対し,異議申立てをしたところ,議長から,公文書不存在通知は不服申立ての対象とはならないとして上記異議申立てを却下する旨の決定(以下「本件異議決定」という。)を受けた。

本件は,原告が,本件不存在通知及び本件異議決定を不服として,それらの取消しを求めた事案である。

2  基本的事実関係(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)

(1)  当事者

ア 原告は,埼玉県内に住所を有する者である。

イ 議長は,本件条例に定める公文書の公開等の実施機関である埼玉県議会の代表者である。

(2)  本件公開請求及び本件不存在通知

原告は,平成16年11月16日,議長に対し,「平成15年度に係る埼玉県県政調査費の交付に関する規程7条1項による収支報告書並びに同8条による会計帳簿及び関係証拠書類等一切の情報」に関する公文書の公開請求をした(甲1,以下「本件公開請求」という。)。

議長は,平成16年12月1日付けで,原告に対し,上記公文書のうち「会計帳簿及び関係証拠書類等一切の情報」に関する公文書(本件文書)はもともと不存在であるとして,公文書が不存在である旨を通知した(甲2,本件不存在通知)。

(3)  本件異議申立て及び本件異議決定

原告は,本件不存在通知を不服として,平成17年1月31日,議長に対し,異議申立てをした(甲3,以下「本件異議申立て」という。)。

議長は,平成17年3月23日付けで,本件不存在通知は単なる事実の通知であり,行政不服審査法による不服申立ての対象となる「処分」には当たらず,本件異議申立ては,そもそも不服申立ての対象とならない行為に対する異議申立てであるから不適法なものであるとして,本件異議申立てについて埼玉県情報公開審査会(以下「審査会」ということがある。)に諮問することなく本件異議申立てを却下する旨の決定をした(甲4,本件異議決定)。

(4)  本件訴え

原告は,平成17年5月26日,本件訴えを提起した。

(5)  本件関係法令

ア 埼玉県議会情報公開条例(本件条例)の定め

本件条例は,次のように定めている。

「第1条(目的)

この条例は,県民の知る権利を保障するため,公文書の公開に関し必要な事項を定め,併せて総合的な情報公開を積極的に推進することにより,埼玉県議会(以下「県議会」という。)に対する県民の理解と信頼を深め,もって開かれた県議会の実現を図り,県政の発展に寄与することを目的とする。

第2条(定義)

この条例において「公文書」とは,県議会事務局の職員が職務上作成し,又は入手した文書(磁気テープ,磁気ディスク,フィルム等を含む。)で,決裁又は受理等の手続が終了し,議長が保管しているものをいう。

第10条(公開請求の方法並びに公開等の決定及び通知)

1 公開請求は,議長が定める様式による書面を提出してしなければならない。ただし,議長が当該書面の提出を要しないと認めたときは,この限りでない。

2 議長は,公開請求があったときは,その公開請求を受けた日から起算して15日以内に,当該公開請求に係る公文書を公開するかどうかの決定(以下「公開決定等」という。)をしなければならない。

3,4(略)

5 議長は,公開決定等をしたときは,速やかに当該公開決定等の内容を請求者に通知しなければならない。

6 議長は,公開請求に係る公文書を公開しないことと決定したときは,その理由を記載した書面により,前項の規定による通知をしなければならない。この場合において,公開しないことと決定した公文書が一定の期間の経過により第7条第1項に規定する公文書に該当しなくなることが明らかであるときは,併せてその該当しなくなる時期を記載しなければならない。

第13条(審査会への諮問)

1 公開決定等について行政不服審査法による不服申立てがあったときは,議長は,次の各号のいずれかに該当する場合を除き,埼玉県情報公開審査会に諮問しなければならない。

一 不服申立てが不適法であり,却下するとき。

二 決定で,不服申立てに係る公開しないこととする決定を取り消し,又は変更し,当該不服申立てに係る公文書の全部を公開することとするとき。

2 (略)」

イ 埼玉県議会情報公開実施要領(以下「本件要領」という。)の定め本件要領は,次のように定めている。

「第10条(不存在の通知)

1 公開請求に係る公文書が存在しないときは,速やかに,請求者に対し,公文書不存在通知書(様式第2号)により,当該公文書の不存在を通知するものとする。」

ウ 埼玉県県政調査費の交付に関する条例(以下「調査費条例」という。)の定め

調査費条例は,次のように定めている。

「第4条(県政調査費の交付決定)

知事は,議長が別に定めるところにより議長から会派に係る通知を受けたときは,速やかに県政調査費の交付の決定を行い,会派の代表者に通知しなければならない。

第5条(県政調査費の請求及び交付)

1 会派の代表者は前条の規定による通知を受けた後,毎四半期ごとに当該四半期に属する月数分の県政調査費を請求するものとする。

2 知事は,前項の請求があったときは,県政調査費を交付するものとする。

第7条(収支報告書)

1 会派の代表者は,県政調査費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を,議長が別に定める様式により年度終了日の翌日から起算して30日以内に議長に提出しなければならない。

第8条(議長の調査)

議長は,県政調査費の適正な運用を期すため,前条の規定により収支報告書が提出されたときは,必要に応じ調査を行うものとする。」

エ 埼玉県県政調査費の交付に関する規程(以下「調査費規程」という。)の定め

調査費規程は,次のように定めている。

「第7条(収支報告書の写しの送付)

1 条例第7条に規定する収支報告書は,様式第6号によるものとする。

2 議長は,条例第7条第1項及び第2項の規定により提出された収支報告書の写しを,様式第7号により知事に送付するものとする。

第8条(会計帳簿の保存等)

会派の県政調査費経理責任者は,県政調査費の支出について,会計帳簿を調整しその内訳を明確にするとともに,証拠書類等を整理保管し,これらの書類を当該県政調査費の収支報告書の提出期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない。」

2 争点

(1)  本件不存在通知の処分性(争点1)

(2)  本件文書の公文書性(争点2)

(3)  本件異議決定の違法性(争点3)

3 当事者の主張

(1)  争点1(本件不存在通知の処分性)について

(被告の主張)

ア いわゆる「処分」について,行政不服審査法1条は,不服申立ての対象を「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」としており,同法2条で「処分」には「公権力の行使に当たる事実上の行為で,人の収容,物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの」を含むこととしている。

また,行政事件訴訟法3条2項は,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を「処分」と規定しており,「処分」については同義であると解する。

イ 本件条例の下における「公文書不存在通知」は,公開請求に係る公文書が存在しないという事実を通知するものであり,その際の事務処理については本件要領(乙4)10条1項に規定されている。

ウ 議長は,原告から公開請求があった「平成15年度に係る埼玉県県政調査費の交付に関する規程8条による会計帳簿及び関係証拠書類一切の情報」が議長の保管する公文書として存在しなかったので,本件要領10条1項により,原告に対し,公文書不存在通知をもって公開請求に係る公文書が存在しないことを通知したものである。

エ したがって,議長の本件不存在通知は,公開請求に係る公文書が存在しないという事実を通知したにすぎず,「処分」には当たらず,本件不存在通知の取消しを求める訴えは不適法である。

(原告の主張)

原告には本件文書を公文書として公開を受ける権利があり,議長は,公権力によって本件文書の不存在を理由として非公開とする行為を行ったものであるから,本件不存在通知は処分に相当する。

(2)  争点2(本件文書の公文書性)について

(原告の主張)

ア 県政調査費について,会派は,年次収支報告書を議長宛に提出している。領収書は基礎資料として調整され,5年間の保存義務が課せられ,議長の事務統理下に置かれ現存していることは調査費規程上疑いない。

本件条例3条,4条では公開の推進,責務提供の充実,公開を求める権利の尊重がうたわれ,明記されている。領収書等の公開が認められないことについて何らの合理性はない。

本件不存在通知は本件条例の本旨を逸脱したものであり違法なものである。

イ 被告は,会派は議会の統理下にないと主張するが,会派に交付される県政調査費は,地方自治法,調査費条例,調査費規程に基づいて運営されており,各種届出をみても議長宛に提出されており,この限りにおいては,会派は,議長の事務の統理下にある組織ということは困難としても,事務局に代わって県政調査費事務を行っており,いわばみなし下部機関として統理下の組織であるといえる。

そして,会派は議長の事務の統理下にあり,会派の県政調査費経理責任者が保管する本件文書は,議長の保管する「公文書」である。

(被告の主張)

原告の公開請求に係る本件文書については以下のとおり,本件条例2条の公文書に該当しない。

ア 本件条例2条の公文書の要件は次の①から④までのすべてを満たす必要がある。

①県議会事務局の職員が職務上作成し,又は入手したものであること。

②文書(磁気テープ,磁気ディスク,フィルム等を含む。)であること。

③決裁又は受理等の手続が終了したものであること。

④議長が保管しているものであること。

イ 上記①には,以下の理由により該当しない。

(ア) 地方自治法100条14項で「政務調査費(埼玉県では「県政調査費」という。)の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。」と規定されており,議長への収入及び支出の報告書の提出については,条例に委任されている。

(イ) 地方自治法100条13項及び 14項の規定に基づき制定されている調査費条例7条及び調査費規程7条によると,会派の代表者に議長への「県政調査費に係る収入及び支出の報告書」(収支報告書)の提出が義務付けられているが,会計帳簿及び証拠書類等の提出は求められていない。

(ウ) 会派が県政調査費の交付を受けるためには,調査費規程2条1項の規定により,代表者及び県政調査費経理責任者を定め,会派届を議長に提出しなければならないとされ,調査費規程8条で,会派の県政調査費経理責任者に証拠書類等の整理保管と5年間の保存を義務付けている。

(エ) 調査費条例8条で,議長は,県政調査費の適正な運用を期すため,収支報告書が提出されたときは,必要に応じ調査を行うことを可能にしている。

しかし,原告の公開請求に係る部分について,議長は調査を行っておらず,「会計帳簿及び関係書類等一切の情報」について,「県議会事務局の職員が職務上作成し,又は入手したもの」はない。

(オ) 県政調査費の交付に係る事務は,知事の権限であり,議長の補助職員が知事の補助職員を併任し,交付決定等の支出事務を行っている。県政調査費は定額の交付金であるので,埼玉県財務規則などの規定により会計帳簿や領収書類等の提出は求められていない。

ウ 上記③については,議会事務局職員は,現に作成又は入手していないのであり,当然,決裁又は受理等の手続が行われたものはない。

エ 上記④については,以下の理由により該当しない。

(ア) 「議長」は,地方自治法104条により,「議場の秩序を保持し,議事を整理し,議会の事務を統理し,議会を代表する。」とされている。

ここでいう,「議会の事務の統理」とは,「議会の運営に伴う事務を統理する権限であり,その事務は,議会の会期中たると閉会中たるとを問わない。(略)事務局長を(略)指揮監督し,事務処理に関する責に任ずる。議事日程の作成,議案の整理,会議録の調整のみならず,図書室の管理等もすべて議会の事務として処理される。」とされている(「逐条地方自治法」学陽書房発行,松本英昭著)。

(イ) 一方,会派とは,一般に政策等を同じくする議員によって構成される任意の団体であり,議員の自発的な意思により形成されたものにすぎず,法令上,議長の「議会の事務の統理」の下にある組織ではなく,自立的に活動する組織である。

(ウ) 調査費条例7条では,「会派の代表者は,県政調査費に係る収入及び支出の報告書を,議長が別に定める様式により年度終了日の翌日から起算して30日以内に議長に提出しなければならない。」と規定している。また,県政調査費の支出については調査費規程の別表で使途基準を定めており,交付を受けた会派の責任において支出することになっている。

オ 小括

以上のとおり,原告の公開請求に係る本件文書は,会派の県政調査費経理責任者が保管しており,議長が保管する文書ではない。また,本件文書について調査費条例8条の調査を議長は行っておらず,現実に会派から議長に提出されてもいない。

したがって,議長のもとに当該文書は存在しないことから本件文書は「公文書」ではない。

(3)  争点3(本件異議決定の違法性)について

(原告の主張)

不当な本件不存在通知を根拠として本件異議申立てを不適法としたことは違法である。

本件異議申立ては,不服申立ての対象に当たる行為に対する申立てであるから,議長は,本件異議申立てを適法なものと扱うべきである。

(被告の主張)

本件不存在通知は,請求者に対して請求する公文書が不存在であるという事実を通知しているにすぎないものであり,議長は,原告の異議申立ては,不服申立ての対象にならない行為に対する不適法な異議申立てであるとして,行政不服審査法47条1項の規定を適用して却下決定したものであり,何ら違法な決定を行ったものではない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件不存在通知の処分性)について

本件条例は,10条において,議長は,公開請求があったときは,その公開請求を受けた日から起算して15日以内に,当該公開請求に係る公文書を公開するかどうかの決定をしなければならないとし(同条2項),議長は,公開請求に係る公文書を公開しないことを決定したときは,その理由を記載した書面により,前項の規定による通知をしなければならない(同条6項)と規定する一方,公文書が不存在である場合の取扱いを規定していない。しかし,本件条例に基づく公文書の公開等の実施の細目を定めた本件要領において,公開請求に係る公文書が存在しないときは,速やかに,請求者に対し,公文書不存在通知書(様式第2号)により,当該公文書の不存在を通知するものとすると定めている(本件要領10条)。

このような本件要領10条に基づく不存在の通知を受けた請求者は,当該公文書の公開を受け得る地位を否定され,最終的に請求に係る公文書の公開を受けられない結果となるのであるから,上記通知は,非公開情報に当たるとして公文書を公開しない旨の決定と同様に,公開請求を拒否する公的判断であって,実質的には,請求者の法律上の地位に影響を直接及ぼすものというべきである。とすれば,上記通知は,実質的には公文書の公開を拒否する決定として,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解すべきである。

なお,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(いわゆる「情報公開法」) 9条2項では,文書不存在を理由とする不開示決定も「開示しない旨の決定」の一場合として処分性を有するものと扱っていることは明らかであるし,県知事等が実施機関となる埼玉県情報公開条例(平成12年条例第77号)14条2項でも同様の立場が採用されている。

したがって,本件不存在通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分というべきであり,この点に関する被告の本案前の主張は理由がない。

2  争点2(本件文書の公文書性)について

(1)  本件条例2条は,「公文書」とは,県議会事務局の職員が職務上作成し,又は入手した文書(磁気テープ,磁気ディスク,フィルム等を含む。)で,決裁又は受理等の手続が終了し,議長が保管しているものをいうと規定している。

ところで,地方自治法100条14項は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとすると規定し,同項を受けた調査費条例7条及び調査費規程7条は,会派の代表者に議長への収支報告書の提出を義務付けているものの,会計帳簿及び証拠書類等の提出については義務付けておらず,法令上議長は,会派に対し会計帳簿及び証拠書類等の提出を求める権限を有するものとはされていない。

また,調査費条例8条は,議長は,県政調査費の適正な運用を期するため,収支報告書が提出されたときは,必要に応じ調査を行うと規定し,上記規定に基づく調査が行われた場合には議長は会計帳簿及び証拠書類等の記載について調査することがあり得るが,本件文書に関連して何らかの調査が行われた形跡は窺えない。

その他,本件文書について県議会において決裁又は受理等の手続を経たことや議長が保管していることを窺わせる事情も認められない。

そうすると,本件文書は,県議会において決裁又は受理等の手続が終了したともいえないし,議長が保管しているものともいえないから本件条例2条に定める「公文書」に当たらないというべきである。

(2)  原告は,会派は議長の事務の統理下にあり,会派の県政調査費経理責任者が保管する本件文書は,議長の保管する「公文書」である旨主張する。

しかし,一般に会派は県議会の議員によって構成される任意の団体であり,県議会の議事運営等のために活動するものであることは公知の事実であり,会派は県議会の機関ではなく,県議会の機関に準ずる組織として扱われるものともいえない。

そして,会派と県議会の関係は,県議会の議事運営を適切かつ効率的に行うためのものであって,これをもって県議会と会派が一体であるとか,会派が県議会の一部若しくは下部組織又は機関であると認めることもできない。

とすれば,会派が議長の統理下にあるとして,会派の県政調査経理管理者が保管する本件文書を議長が保管するものと同視すべきであるとする原告の上記主張は採用できない。

(3)  したがって,本件文書は本件条例2条の「公文書」に当たらないから,本件条例に基づく公開の対象とはならず,本件公開請求に係る公文書が不存在であるとしてなした本件不存在通知は適法であり,本件不存在通知の取消しを求める原告の請求は理由がない。

3  争点3(本件異議決定の違法性)について

(1)  本件条例13条1項は,公開決定等について行政不服審査法による不服申立てがあったときは,議長は,①不服申立てが不適法で却下するとき,又は,②決定で,不服申立てに係る公開しないこととする決定を取り消し,又は変更し,当該不服申立てに係る公文書の全部を公開するときの2つの場合を除き,審査会に諮問しなければならないと規定している。ところで,本件異議決定は,本件不存在通知が行政不服審査法による不服申立ての対象となる「処分」に当たらないから不適法であり,本件条例13条1項に定める上記①の場合に当たるとして,審査会に諮問することなく,本件異議申立てを却下したものである。

しかしながら,上記1で述べたように本件不存在通知は原告の法律上の地位に影響を及ぼすものであるから,行政不服審査法による不服申立ての対象となる「処分」(同法1条2項)に当たるというべきである。そして,当該公文書が不存在であることを理由にする議長の不存在通知は,実質的には公文書の公開を拒否する一場合というべきであるから,本件条例10条2項の「公文書を公開するかどうかの決定(公開決定等)」に含まれると解するのが相当である。

ところで,上述のように,本件条例13条は,公開決定等について行政不服審査法による不服申立てがあったときは,議長は,①不服申立てが不適法で却下するとき,又は,②決定で,不服申立てに係る公開しないこととする決定を取り消し,又は変更し,当該不服申立てに係る公文書の全部を公開するときの2つの場合を除き,審査会に諮問しなければならないと規定しているところ,上記①の不服申立てが不適法で却下するときとは,不服申立期間の徒過,不服申立適格のない者からの不服申立て等の事情をいうものであるが,本件異議申立てにはこのような事情はみられず,本件異議申立ては適法なものである(以上につき,総務省行政管理局編「詳解情報公開法」160頁以下参照)。そして,本件条例13条が,公開決定等につき適法な不服申立てがあったときは,審査会に諮問しなければならないとしている趣旨は,第三者的機関である審査会に諮問することによって,不服申立てに対する議長の判断において,客観性,公正性,専門性を担保し,県議会情報公開制度の適正な運営の確保と県民の権利救済を図るところにあると考えられる。

そうすると,不服申立てが適法であるにもかかわらず,本件条例13条1項に基づき審査会に諮問することなく異議申立てについて決定をなすことは,本件条例13条1項に反し,裁決固有の瑕疵を有するものであって,違法なものであるといわざるを得ない。

(2)  なお,原告は,本件において,原処分の取消しの訴えと異議決定の取消しの訴えを併合提起しているものであるが,原処分である本件不存在通知が適法であるとしてその取消請求が棄却された場合に,本件異議決定の取消しを求める訴えの利益があるかどうかについては議論の余地がある。

しかし,原処分の適法,不適法にかかわらず,原告は審査会への諮問を経て再度議長の判断を求めるという適正な手続によって本件異議申立ての審理を受ける利益を有しているものであり,本件異議決定の取消しを求める訴えの利益が失われるものではない。実質的に考えても,審査会に諮問された場合,審査会は裁判所とは別個に独自の立場で審査を遂げるものであり,原処分についても裁判所とは異なった見解が示される可能性が皆無とはいえないし,このような審査会の判断が示された場合には,議長はその答申を受けて原処分の妥当性,当否等について再考する可能性も皆無とはいえない。そうすると,本件において,原処分たる本件不存在通知の取消請求は理由が認められないとしても,本件異議決定を取り消す実益がないということはできず,本件異議決定は却下事由についての解釈を誤ったものであり,違法なものであるから取り消すのが相当である。

第4結論

以上の次第で,原告の請求のうち本件異議決定の取消しを求める部分は理由があるから認容し,本件不存在通知の取消しを求める部分は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 松村一成)

裁判官富永良朗は差し支えのため署名押印できない。裁判長裁判官 豊田建夫

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