さいたま地方裁判所 平成17年(行ウ)28号 判決 2006年12月13日
主文
1 富士見市長が平成17年3月25日付け富建管427号をもって原告に対してした,みずほ台駅前東口駐車施設,同西口駐車施設,鶴瀬駅前西口駐車施設及びふじみ野駅前西口駐車施設の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの使用を不許可とする処分のうち,みずほ台駅前西口駐車施設の使用を不許可とする処分を取り消す。
2 富士見市長が平成17年3月31日付け富建管443号をもって原告に対してした,みずほ台駅前東口駐車施設の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの使用を不許可とする処分を取り消す。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 富士見市長が平成17年3月25日付け富建管427号をもって原告に対してした,みずほ台駅前東口駐車施設,同西口駐車施設,鶴瀬駅前西口駐車施設及びふじみ野駅前西口駐車施設の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの使用を不許可とする処分を取り消す。
2 主文2項と同旨。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,タクシー事業を営む原告が,富士見市長に対し,富士見市駅前広場駐車施設に関する規則(昭和54年規則第12号)に基づき,みずほ台駅前東口駐車施設,同西口駐車施設,鶴瀬駅前西口駐車施設及びふじみ野駅前西口駐車施設の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの使用許可申請を行ったところ,同市長から同申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分1」という。)を受け,その後,辞退枠が発生したみずほ台駅前東口駐車施設について,上記期間の使用許可申請を改めて行ったところ,同市長から同申請についても不許可とする処分(以下「本件不許可処分2」といい,本件不許可処分1と併せて「本件各不許可処分」という。)を受けたため,本件各不許可処分は,上記各駐車施設を管理する権限を有しない富士見市長により,不合理な基準に基づきなされたもので違法である等として,その取消しを求めた事案である。
2 基本的事実関係(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,本店を埼玉県ふじみ野市a丁目b番c号(上福岡市と大井町は,平成17年10月1日,合併してふじみ野市となった。合併前の原告の本店所在地は,埼玉県上福岡市a丁目b番c号である。)に置き,一般乗用旅客自動車運送業,一般乗合旅客自動車運送業等を目的とし,一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受けてタクシー事業を営む有限会社である。
原告の代表者は,A(以下「A」という。)である。
イ 富士見市長は,富士見市駅前広場駐車施設使用に関する規則(昭和54年規則第12号。以下「本件規則」という。全文は別紙1。甲9)に基づき,タクシー事業者による富士見市内の駅前広場(みずほ台駅前東口・西口,鶴瀬駅前西口及びふじみ野駅前東口・西口)にある客待ちを行うタクシー車両のための待機施設(以下「タクシープール」ないし「駅前駐車施設」という。)の使用許可申請・更新申請等について,許可,不許可等の処分をなすものであり,本件各不許可処分をした行政庁である。
被告は,富士見市長の所属する地方公共団体である。
(2) 本件各不許可処分に至る経緯
ア 原告代表者Aは,平成14年ころ,ヘルパー資格を有する運転手がリフト付きタクシーに乗務するという形態のタクシー事業を行うことを計画した。
Aは,富士見市内を原告のタクシー事業の営業区域とするべく準備をしていたことから,平成14年12月末ころ,被告建設管理課の職員に対し,被告の管理するタクシープールの使用を希望した。
これに対し,被告職員は,本件各タクシープールについては,慣例上年度末(2月,3月ころ)とされている申請時期が経過したこと,原告がタクシー事業許可をまだ受けていないこと等を理由に,原告に対し,許可申請書を交付しなかった。
イ 原告は,平成15年4月3日付けで,タクシー事業許可を受けた。
そこで,原告は,平成15年6月3日付けで,富士見市長に対し,みずほ台駅前東口,同西口及び鶴瀬駅前西口の各タクシープールの同日ころから平成16年3月31日までの使用許可申請をしたところ,富士見市長は,同月15日付けで,原告に対し,年度途中の申請であるとの理由で,上記使用許可申請を不許可とするとの処分をした(甲3,乙15)。
ウ 被告は,平成16年2月1日,本件規則に基づき,駅前広場駐車施設の使用許可に関する基準(以下「本件基準」という。全文は別紙2。甲10)を定めた。
本件基準は,その2条1項,2項で,本件各タクシープールの使用許可又は更新を求めることのできるタクシー事業者の資格について,タクシー営業所等が富士見市,上福岡市,大井町又は三芳町にあることを要求し,さらに,その3条3項で,原則として,使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等及び個人事業所が富士見市にある者を優先するとして市内事業者を市外事業者に優先させる取り扱いにしている。
そして,本件基準は,その経過措置3で,本件各タクシープールの使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等が富士見市にない者であっても,この基準の施行の日前に駅前広場駐車施設の使用許可を受けている者(以下「既存事業者」という。)については,前記3条3項に規定する使用許可を優先する者の中に含むとして,既存事業者を市内事業者に準じて,市外事業者に優先させている。
エ 原告は,平成16年2月3日付けで,富士見市長に対し,みずほ台駅前東口,同西口及び鶴瀬駅前西口の各タクシープールの平成16年4月1日から平成17年3月31日までの使用許可申請をした。これに対し,富士見市長は,平成16年3月25日付けで,原告に対し,みずほ台駅前西口駐車施設及び鶴瀬駅前西口駐車施設については,定数通りの台数の更新申請があり残余台数がない,1台分の増枠があったみずほ台駅前東口駐車施設については,市内事業者から使用許可申請があり,本件基準によると市外事業者である原告は市内事業者よりも後順位となるから残余台数がないとの理由で,原告の使用許可申請を不許可とするとの処分をした(甲4,乙15)。
オ 原告は,上記処分を不服として,平成16年4月24日付けで,富士見市長に対し,異議申立てをしたが(甲5),富士見市長は,同年9月8日付けで,上記異議申立てを棄却する旨の決定をした(甲6)。原告は,平成16年10月5日付けで,埼玉県知事に対し,審査請求をした。
(3) 本件各不許可処分
原告は,平成17年2月22日付けで,富士見市長に対し,みずほ台駅前東口・西口,鶴瀬駅前西口及びふじみ野駅前西口の各タクシープールの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの使用許可申請をした。これに対し,富士見市長は,平成17年3月25日付けで,原告に対し,みずほ台駅前東口駐車施設,鶴瀬駅前西口駐車施設及びふじみ野駅前西口駐車施設については,定数通りの台数の更新申請があり残余台数がない,4台分の増枠があったみずほ台駅前西口駐車施設については,市内事業者から申請があり,本件基準によると市外事業者である原告は市内事業者よりも後順位となるから残余台数がないとの理由で,原告の使用許可申請を不許可とするとの処分をした(本件不許可処分1)。
その後,みずほ台駅前東口のタクシープールについて,先に更新許可を受けたタクシー事業者の辞退により,2台分の枠が空いたため,原告は,平成17年3月30日付けで,富士見市長に対し,同タクシープールの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの使用許可申請をしたが,富士見市長は,平成17年3月31日付けで,原告に対し,市内事業者から申請があり,本件基準によると市外事業者である原告は市内事業者よりも後順位となるから残余台数がないとの理由で,原告の使用許可申請を不許可とするとの処分をした(甲2,乙15)。
(4) 本件訴訟に至る経緯
原告は,本件各不許可処分を不服として,平成17年4月21日付けで,富士見市長に対し,各異議申立てをしたが,富士見市長は,同年5月19日付けで,上記各異議申立てを棄却する旨の処分をした(甲7,8)。原告は,同月23日付けで,埼玉県知事に対し,審査請求をした。
そして,原告は,平成17年8月5日,本件訴えを提起した。
3 関係法令等の定め
(1) 富士見市駅前駐車施設使用に関する規則(本件規則)
本件規則には,次の内容の定めがある。
(目的)
1条 この規則は,一般乗用旅客自動車運送事業(以下「タクシー事業」という。)のため,富士見市駅前の広場の駐車施設及び乗降のための施設を使用させて,旅客公衆の利便を図ることを目的とする。
(用語の定義)
2条 この規則において「駐車施設」とは,タクシー事業を行うための客待ちの待機施設をいう。
(名称)
3条 駐車施設の名称は,みずほ台駅前東口駐車施設,みずほ台駅前西口駐車施設,鶴瀬駅前西口駐車施設,ふじみ野駅前東口駐車施設及びふじみ野駅西口駐車施設とする。
(使用の義務)
4条 タクシー事業を行う者は,駐車施設を使用しなければならない。
(使用の申請)
5条① 駐車施設を使用しようとする者は,駅前広場駐車施設使用/許可/更新/変更/申請書(様式第1号)を市長に提出しなければならない。
② 前項の申請書には,次の各号に掲げる書類を添付するものとする。ただし,市長が,必要ないと認めるものについては,この限りではない。
一 会社経歴書
二 申請車両登録番号一覧表
三 その他市長が必要と認める書類
(使用の許可)
6条① 市長は,前条1項の規定に基づく申請があったときは,その許可・不許可を決定し,駅前広場駐車施設使用許可・不許可決定通知書(様式第2号)により通知するものとする。
(使用の更新等)
6条の2① 前条1項に係る許可の期間は,1年以内とする。ただし,使用者が許可期間満了後において引き続き駐車施設を使用しようとするときは,あらかじめ許可申請書により市長の許可を受けなければならない。
(委任)
12条 この規則の施行に関し必要な事項は,市長が別に定める。
(2) 駅前広場駐車施設の使用許可に関する基準(本件基準)
本件基準には,次の内容の定めがある。
(趣旨)
1条 この基準は,本件規則6条及び6条の2に規定する駅前広場駐車施設の使用の許可及び使用の更新許可(以下併せて「使用許可」という。)について,必要な事項を定めるものとする。
(資格)
2条 使用許可に係るタクシー事業者の資格については,次に掲げるとおりとする。
① 法人タクシー事業者にあっては,本社,営業所等(以下「タクシー営業所等」という。)が富士見市,上福岡市,大井町又は三芳町(以下「2市2町」という。)にあること。
② 個人タクシー事業者にあっては,国からタクシー事業の認可を受けている個人事業所(以下「個人事業所」という。)の位置が2市2町にあること。
③ 使用許可に係る法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者の車両については,身体障害者が本市福祉課で交付している福祉タクシー券を利用できる車両であること。
(基準)
3条 駅前広場駐車施設の使用許可の基準は,次のとおりとする。
① 駅前広場駐車施設におけるタクシーの駐車待機について,旅客公衆の利便性を図るため利用が少ない時間帯又は天候不順時においても相応に確保して対応できるタクシー事業者であること。
② 駅前広場駐車施設の利用台数に制限があることから繁忙時間帯のみの限定的又は一時的な使用の申請でないこと。
③ 原則として,使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等及び個人事業所が富士見市にある者を優先するものであること。
④ 使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等及び個人事業所が上福岡市にある者については,当該タクシー事業者が上福岡市の駅前駐車施設の使用許可を得られない者であること。
⑤ 使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等及び個人事業所が大井町又は三芳町にある者については,富士見市内の駅前広場駐車施設よりも富士見市外の駅前駐車施設が至近にある場合は,その駅前駐車施設の使用許可を得られない者であること。
(使用許可台数)
4条 駅前広場駐車施設の使用許可台数は,1台当たり概ね18平方メートルを基準として,タクシー乗り場及び駐車待機施設の面積を勘案して次の各号に掲げる施設の区分に応じ,当該各号に定める台数とする。
① みずほ台駅東口駐車施設 22台
② みずほ台駅西口駐車施設 19台
③ 鶴瀬駅西口駐車施設 25台
④ ふじみ野駅東口駐車施設 14台
⑤ ふじみ野駅西口駐車施設 14台
附則
(施行期日)
1 この基準は,平成16年2月1日から施行する。
(経過措置)
2 使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等が2市2町にない者であっても,この基準の施行の日前に駅前広場駐車施設の使用許可を受けている者(既存事業者)については,2条1号の規定にかかわらず,使用許可に係る資格を有する者とする。
3 使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等が富士見市にない場合であっても,既存事業者については,3条3号に規定する使用許可を優先する者の中に含むものとする。
(3) 道路法(昭和27年法律第180号)
道路法には,次の内容の定めがある。
(用語の定義)
2条① この法律において「道路」とは,一般交通の用に供する道で次条各号に掲げるものをいい,トンネル,橋,渡船施設,道路用エレベーター等道路と一体となつてその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含むものとする。
② この法律において「道路の附属物」とは,道路の構造の保全,安全かつ円滑な道路の交通の確保その他道路の管理上必要施設又は工作物で,次に掲げるものをいう。
一 道路上のさく又は駒(こま)止(どめ)
二 道路上の並木又は街灯で18条1項に規定する道路管理者の設けるもの
三 道路標識,道路元標又は里程標
四 道路情報管理施設(道路上の道路情報提供装置,車両監視装置,気象観測装置,緊急連絡施設その他これらに類するものをいう。)
五 道路に接する道路の維持又は修繕に用いる機械,器具又は材料の常置場
六 自動車駐車場で道路上に,又は道路に接して18条1項に規定する道路管理者が設けるもの
七 18条1項に規定する道路管理者の設ける共同溝又は電線共同溝
八 前各号に掲げるものを除くほか,政令で定めるもの
④ この法律において「駐車」とは,道路交通法2条1項18号に規定する駐車をいう(なお,道路交通法において,駐車とは,車両等が客待ち,荷待ち,貨物の積卸し,故障その他の理由により継続的に停止すること等をいうと定義されている。)。
(市町村道の意義及びその路線の認定)
8条① 市町村道とは,市町村の区域内に存する道路で,市町村長がその路線を認定したものをいう。
(路線の認定の公示)
9条 都道府県知事又は市町村長は,7条又は前条の規定により路線を認定した場合においては,その路線名,起点,終点,重要な経過地その他必要な事項を,国土交通省令で定めるところにより,公示しなければならない。
(市町村道の管理)
16条① 市町村道の管理は,その路線の存する市町村が行う。
(道路の区域の決定及び供用の開始等)
18条① 12条,13条1項若しくは3項又は15条から前条までの規定によつて道路を管理する者(以下「道路管理者」という。)は,路線が指定され,又は路線の認定若しくは変更が公示された場合においては,遅滞なく,道路の区域を決定して,国土交通省令で定めるところにより,これを公示し,かつ,これを表示した図面を関係地方整備局若しくは北海道開発局又は関係都道府県若しくは市町村の事務所(以下「道路管理者の事務所」という。)において一般の縦覧に供しなければならない。道路の区域を変更した場合においても,同様とする。
② 道路管理者は,道路の供用を開始し,又は廃止しようとする場合においては,国土交通省令で定めるところにより,その旨を公示し,かつ,これを表示した図面を道路管理者の事務所において一般の縦覧に供しなければならない。ただし,既存の道路について,その路線と重複して路線が指定され,認定され,又は変更された場合においては,その重複する道路の部分については,既に供用の開始があつたものとみなし,供用開始の公示をすることを要しない。
(道路の占用の許可)
32条① 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物,物件又は施設を設け,継続して道路を使用しようとする場合においては,道路管理者の許可を受けなければならない。
一 電柱,電線,変圧塔,郵便差出箱,公衆電話所,広告塔その他これらに類する工作物
二 水管,下水道管,ガス管その他これらに類する物件
三 鉄道,軌道その他これらに類する施設
四 歩廊,雪よけその他これらに類する施設
五 地下街,地下室,通路,浄化槽その他これらに類する施設
六 露店,商品置場その他これらに類する施
七 前各号に掲げるものを除く外,道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある工作物,物件又は施設で政令で定めるもの
(3) 地方自治法(昭和22年法律第67号)
地方自治法には,次の内容の定めがある。
(公有財産の範囲及び分類)
238条① この法律において「公有財産」とは,普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(省略)をいう。
③ 公有財産は,これを行政財産と普通財産とに分類する。
④ 行政財産とは,普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産をいい,普通財産とは,行政財産以外の一切の公有財産をいう。
(行政財産の管理及び処分)
238条の4④ 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
(公の施設)
244条① 普通地方公共団体は,住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(以下「公の施設」という。)を設けるものとする。
(公の施設の設置,管理及び廃止)
244条の2① 普通地方公共団体は,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,公の施設の設置及びその管理に関する事項は,条例でこれを定めなければならない
4 主な争点
(1) 本件各タクシープールの管理権限
(原告の主張)
ア 本件各タクシープールは,地方自治法上の公の施設に該当するのであるから,地方自治法244条の2第1項に従って,被告はその管理に関する事項を条例で定めなければならない。そして,地方自治法の「公の施設」に該当するか否かは,当該施設が,①普通地方公共団体が設置するものであること,②住民の福祉を増進する目的を持つものであること,③住民の利用に供することを目的としたものであること,④継続的な公共の利用を目的とするものであることの各要件を充たすか否かで判断されるところ,本件の事実関係の下では,①②④の要件が満たされることは明らかであり,また,③の要件についても,駅前広場の公共性の高さからすれば,本件各タクシープールを含む駅前広場全体を一体として把握すべきであり,本件各タクシープールだけを分離して考えるべきではない。そして,住民が駅でのタクシー利用を円滑に行うためには,本件各タクシープールに客待ち状態のタクシーを配置しておくことが必要であることからすれば,本件各タクシープールは,住民の利用に供することを目的とした施設であるといえる。そうすると,③の要件も満たされることとなり,本件各タクシープールは,公の施設にあたるというべきである。
だとすれば,被告は,本件各タクシープールの管理に関する事項を条例で定めなければならないということになるのに,被告においては,管理権限を有しない富士見市長が定めた本件規則及び基準に基づいて本件各タクシープールを管理している。
よって,富士見市長が定めた本件規則及び基準に基づく本件各不許可処分は違法である。
イ 被告は,富士見市長が道路法に基づき本件各タクシープールを管理している旨主張し,本件各本件各駅前広場全体が市道認定されたことをもって,それらが道路法上の道路に認定されたと主張する。
しかし,富士見市長が本件各駅前広場を市道として認定したとする際に作成された関係図面をみても,各市道が駅前から始まっていることは読み取れても,各市道に本件各タクシープールが含まれていることを見て取ることはできない。それに,道路法8条1項によれば,道路法における市町村道とは,「市町村の区域内に存する道路で,市町村長がその路線を認定したものをいう」のであって,市町村長による認定の前提として「道路」としての実質を有することが必要なのであり,市町村長が認定したことによって対象区域が道路法上の「道路」になるわけではない。
そこで,本件各タクシープールの客観的性質をみるに,本件各タクシープールに一般車両が入ることは事実上不可能であるし,実際,一般車両の通行も利用も予定されておらず,その事実も存在しない。そうすると,本件各タクシープールは,待機タクシーが随時本件各タクシープール内で移動することを予定しているとしても,「一般交通の用に供する道」とはいえず,また,「道路の構造の保全,安全かつ円滑な道路の交通の確保その他道路の管理上必要な施設又は工作物」ともいえない。
また,被告は,本件各タクシープールの使用許可申請については,道路管理者である富士見市長が道路の占用許可処分として事務処理をしてきた旨主張する。しかしながら,被告が,本件各タクシープールについて,道路法に基づく管理権が及ぶものと明確に認識して管理してきたという事実はない。本件規則の目的は,タクシー事業者にタクシープール及びタクシー乗降施設を使用させて,旅客公衆の利便を図ることであり,道路法の目的である道路網の整備を図るため道路に関する事項を定め,もって交通の発達に寄与し,公共の福祉を増進することとは異なるし,また,本件規則や本件基準には,富士見市長による本件各タクシープールの管理が道路法に基づくものであることを窺わせる文言は一切存在しない。
以上のとおり,富士見市長が道路法に基づき本件各タクシープールを管理しているということはできない。
(被告の主張)
ア 本件各駅前広場は,その車道部分,歩道部分を含む駅前広場全体が市道の一部として,道路法上の道路に認定されている。駅前広場は,車道部分,歩道部分,その他の付属部分から構成されているものであり,駅前広場を全体として「一般の用に供する道」(道路法2条1項参照)と捉え,道路法上の道路と見ることは十分可能である。そして,本件各タクシープールの駅前広場における形状が車道(一般交通の用に供する道)の一部を改造したものであり,車両が通り抜けできる構造になっており,かつ通り抜けることを想定しているものであること,タクシープールはタクシー駐車場そのものではなく,通路状の車両待機場であり,タクシーには運転手が乗っていて随時移動することを想定していることからすれば,本件各タクシープールを道路法上の道路そのものとして市道認定することは十分可能である。
他方,本件各駅前広場は,駅前広場の車道部分(一般車両の乗り入れ若しくは通り抜けできる部分)をモータープールとして自動車が待機できるように形状を整えたものであり,その形状は駐車場そのものではないともいえるが,駐車場と極めて類似した形状であり,その機能においても自動車駐車場と大差がないので,道路法2条2項6号の自動車駐車場として道路の附属物と見ることも十分可能である。
被告は,本件各タクシープールを含む駅前広場全体を,道路法の道路として同法8条,9条,18条等に基づく所定の手続を経て路線認定し,その供用を開始した。
以上のとおり,富士見市長は,本件タクシープールを「車道の一部」又は「道路の附属物」の一部として,道路法16条に基づいて管理する権限を有する。
そして,被告の管理担当部署(占用申請などのソフト部門は建設管理課,補修などの現場のハード部門は道路交通課)は,長年に亘って,本件各タクシープールを含む駅前広場の管理を担当し,道路として実効的な管理もしてきているところ,本件各タクシープールについては,一定の限定されたタクシー事業者が道路法32条1項6号の商品置き場その他これに類する施設を設けて,継続して道路を使用しようとする場合に当たるとして,道路管理者である富士見市長が,道路の占用許可処分として事務処理をしてきた。富士見市長は,本件規則及び本件基準を制定し,占用許可の基準を予め明らかにして,許可不許可の処分をしている。
イ なお,仮に,本件各タクシープールが道路法上の道路に該当しないとしても,本件各駅前広場を道路上に設置された施設であると見た場合,本件各駅前広場は,大部分が住民の利用に供されていることから,全体としてみれば「公の施設」というべきものであるが,本件で問題となっている各タクシープール部分は,一定の限定されたタクシー事業者の用に供されるタクシー専用の待機スペースとして,一般住民の利用に供されることを予定しておらず,現に供されてもいないことから,「公の施設」ではなく,行政財産として取り扱われるべきものである。
行政財産については,「その用途又は目的が妨げられない限度においてその使用を許可することができる」(地方自治法238条の4第4項)とされており,本件各不許可処分は,同項による処分と見ることも可能である。この許可をするかどうかは,行政財産の管理者である富士見市長の自由裁量に属しており,富士見市長は,その実際の運用について,本件規則を制定し,使用許可の基準を明確にするため本件基準を定めて許可不許可の処分をしてきた。したがって,その運用は道路法に基づくと捉えた場合と大差ないことになる。
(2) 本件基準の合理性
(原告の主張)
ア 本件基準によると,原告のように,営業所等を富士見市内に持たないタクシー事業者は,規定台数以上の数の使用許可ないし更新申請を既存事業者や市内事業者がする限り,本件各タクシープールの使用許可を受けることができない。
イ ところで,本件基準制定の経過をみると,本件各タクシープールについては,原告が平成15年に新規の使用許可申請を行うまでは,既存事業者による更新申請のみで許可手続が終了するのが通例であった。ところが,原告が,平成15年度中に新規の申請を行い,また,同申請の不許可処分を受けて,次年度の許可見込み等について,富士見市長や建設管理課長と面談したこともあり,被告は,平成16年度に原告が使用許可申請するものと想定し,本件基準を定めた。
以上の経緯からすると,本件基準は,原告のみを対象とするものではないが,原告の使用許可申請及びその後の経過が契機となって定められたと見るべきである。そして,本件基準は,市外事業者である原告の使用許可申請を狙い撃ち的に排除するものであって,著しく不公正である。
ウ 被告が,原告のような新規参入者に対し,本件各タクシープールの使用許可を与えないようにするのは,既存事業者及び既存事業者によって組織されるタクシー協議会の権益を保護するためである。
本件に限らず,全国において,既存のタクシー事業者は,タクシー協議会等という名称の任意団体を組織しており,何らかの形で駅構内のタクシープールの管理に関与し,新規参入者を排除しているというのが実態である。例外的に,新規参入者がタクシープールの利用を許されるのは,既存のタクシー事業者に勤務していた者が個人タクシーの免許を取ったような場合だけである。
本件においても,被告職員は,原告代表者Aに対し,原告がタクシー協議会に加入できれば,増枠分について既存事業者が申請を行わないとか,既存事業者が辞退した枠につき他の既存事業者が申請しない等の方法により許可を得ることが可能となるということを暗に示唆してきた。ところが,原告は,既存事業者で組織するタクシー協議会に加入させてもらえず,そのため,本件各タクシープールにおける許可申請においても結果的に使用許可を受けられていない。既存事業者が,新規参入者を拒んでいる現状からすれば,公共的立場にある被告としては,既存事業者との摩擦を回避するのではなく,既存事業者の独占状態を解消し,既存事業者と新規参入者を公平に取り扱う対応をすべきである。
エ 被告は,本件各タクシープールが被告の財産負担により設置され,今後も維持整備されるべき施設であるから,地方自治・地方財政の観点からその利用については市内事業者を優先させるべきである旨主張するが,地方自治の観点からは,本件各タクシープールの便益を受けるべきなのは住民であり,住民としては,市内事業者であろうが,市外事業者であろうが,必要なときにタクシーを利用できれば十分なのであり,その利用につき市内事業者を優先させる合理性はない。
また,被告は,道路法上特別な理由がない限り,更新申請を拒絶することはできない旨主張する。しかしながら,駅前広場の改修や既存事業者の辞退による増枠ないし空枠分に対する使用許可申請は,更新申請に当たらないので,道路法上の理由は妥当しない。さらに,被告は,既存事業者が長年に亘って公共交通を担ってきた実績と信頼性を重視している旨主張するが,新規事業者について実績はあり得ないのであるから,長年の実績を重視しすぎるのは不当である。加えて,被告は,既存事業者を市内事業者に準じて扱う本件基準経過措置3は経過措置であり,絶対的なものではないとも主張するが,本件基準制定から2年が経過し,また,本件訴訟が係属しているにもかかわらず,被告は本件基準の見直しの具体的時期の検討さえしていないのであるから,上記規定が経過措置であるとか暫定的なものであるとかは到底いえない。
オ よって,被告が制定した本件基準は著しく不合理・不公正であり,違法であるから,同基準に基づきなされた本件各不許可決定は取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 本件基準3条3項は,使用許可をなすに当たって,原則として市内事業者を優先している。これは,本件使用許可の対象が,被告の財政負担により設置されかつ今後も維持整備されるべき駅前広場(タクシープール)の利用であること等を考慮して,市内事業者を優先させることを定めたものであり,地方自治・地方財政の観点から不合理とはいえない。
イ また,本件基準は,既存事業者に対し,市内事業者に準じて市外事業者よりも優先的な地位を与えている(本件基準経過措置3)。
これは,道路法の占用許可においては,既存事業者から占用許可の更新申請が出された場合には,特別な理由なくして更新を拒めないことになっているという法的な理由及び既存事業者との30年程度に亘る実績に基づく信頼関係を重視することにより,円滑かつ安定的な公共交通の確保を図るという行政目的に基づく。この実績に基づく信頼性は,円滑かつ安定的な公共交通の確保を図るという目的からすれば看過しえないものであるし,地域の住民の利益を最優先に考え,その目的に責任をもって応えるべき地方行政庁の立場からすれば,このような方策を採ることが一概に不合理とはいえない。被告には,既存事業者の既得権益を守る目的はない。
なお,本件基準の既存事業者を市内事業者に準じて扱う規定は,現時点では一定の合理性のあるものとして採用されているが,経過措置であり,絶対的なものではない。
ウ 以上のことを総合的に考慮すると,被告が本件占用許可申請について,本件基準によって市内事業者を優先し,既存事業者も市内事業者に準じて扱うことには一定の合理性があり,本件各不許可処分も違法とはいえない。
第3当裁判所の判断
1 前提となる事実
前記基本的事実関係,証拠(適宜掲示した。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 富士見市と本件各タクシープール
富士見市は,市の西寄りの位置を東武東上線が東南から北西方向に走っており,その西南側を三芳町に接し,西側をふじみ野市に接している(なお,上福岡市と大井町が平成17年10月1日に合併して,ふじみ野市となった)。
富士見市内における東武東上線の駅は,東南から北西に向かって,みずほ台駅,鶴瀬駅,ふじみ野駅と3箇所あり,それぞれに東口と西口があり,鶴瀬駅の東口以外の各駅前広場内には被告の管理するタクシープールがある。
富士見市内の各駅から東京都内の池袋駅まで東武東上線で30分程度で行けるということもあって,富士見市では,昭和40年代の初頭以降,民間の宅地開発が盛んに行われ,急速に人口が増えた(乙16)。もっとも,東武東上線の各駅から東西方向へのバス路線は限られたままであり,特に自家用車を利用できない住民にとって,本件各タクシープールで客待ちをしているタクシーは重要な交通の手段となっている(乙17,18)。
ところで,タクシー事業者は,本件各タクシープールを使用しない限り,駅前で客待ちを行うことはできない(本件規則4条)。また,タクシー事業者には,本件各タクシープールを使用することで,収入が安定したり,知名度が上がり,会社の信用も増し,良質な運転者採用につながったり,駅を利用する住民に認知されたりする等の効用があるものと考えられる(原告代表者)。
(2) 本件各タクシープールの形状等
本件各駅前広場は,駅前ロータリーを中心とする車道部分,歩道部分,緑地等のその他の部分から構成されているところ,本件各タクシープールは,いずれも駅前ロータリーの内側にあり,一般車両の通り抜けが可能な形状となっている。
とはいえ,本件各タクシープールは,ガードレール,緑地や縁石により一般の車道や一般駐車場等とは明確に区別された区域となっており,基本的にタクシーが客待ちのため順番に停止している。また,本件各タクシープールには,路面上に「タクシープール」,「タクシー専用入口」等と記載されているものもある。そうしたことから,本件各タクシープールを,タクシー以外の一般車両が通行することは基本的にない(乙2ないし7)。
(3) 本件各駅前広場の路線認定等
ア 富士見市長は,昭和52年7月12日,道路法8条に基づき,鶴瀬駅西口駅前広場約4000m2を含む路線47号線を市道として路線認定するとともに(平成11年に路線名を市道5117号線に変更),上記路線の道路区域を決定し,関係図面を富士見市役所において一般の縦覧に供した(乙1,8,9)。
同市長は,昭和54年3月30日,上記市道について道路としての供用開始の告示をし,その供用を開始した(乙1)。
イ 富士見市長は,昭和52年10月11日,道路法8条に基づき,みずほ台駅東口駅前広場約5000m2を含む路線48号線及びみずほ台駅西口駅前広場約5000m2を含む路線51号線を市道として各路線認定するとともに(平成11年に路線名をそれぞれ市道5118号線,同5119号線に変更),上記各路線の道路区域を決定し,その関係図面を富士見市役所において一般の縦覧に供した(乙1,8,10)。
同市長は,昭和54年3月30日,上記各市道について道路としての供用開始の告示をし,その供用を開始した(乙1)。
ウ 富士見市長は,平成5年10月15日,道路法8条に基づき,ふじみ野駅西口駅前広場4000m2を含む路線75号線(ふじみ野駅西通り線)及びふじみ野駅東口駅前広場4000m2を含む路線80号線(ふじみ野駅東通り線)を市道として各路線認定するとともに(平成11年に路線名をそれぞれ市道5123号線,同5129号線に変更),上記各路線の道路区域を決定し,その関係図書を富士見市内において一般の縦覧に供した(乙1,8,11)。
同市長は,同日,上記各市道について,道路としての供用開始の告示をし,その供用を開始した(乙1)。
(4) 本件規則の制定及びその後の運用
富士見市は,昭和54年6月18日,そのころに鶴瀬駅西口駅前広場並びにみずほ台駅東口及び西口各駅前広場が整備されたのを契機に,本件規則を制定し,同規則に基づく駅前駐車施設の管理を開始した。
当時,富士見市内に本社又は営業所のあったタクシー事業者5社(東上ハイヤー株式会社,ダイヤモンド交通有限会社,三和富士交通株式会社,有限会社みずほ昭和及び鶴瀬交通株式会社)は,そのころ,富士見市駅構内タクシー協議会を構成し,富士見市長に対し,本件規則に基づき,富士見市内の駅前駐車施設について,その定数通りの台数の使用許可申請を行った。
上記タクシー事業者5社は,それ以後も,本件各タクシープールの使用について更新申請を行い,富士見市長は,かかる更新申請の許可をした。
(5) 本件各不許可処分に至る経緯
ア 道路運送法が平成13年に改正され,同改正により,タクシー事業は,免許制から許可制に変更になった。
イ 原告代表者Aは,平成14年ころ,ヘルパー資格を有する運転手がリフト付きタクシーに乗務するという形態のタクシー事業を行うことを計画した。
Aは,富士見市内を原告のタクシー事業の営業区域とするべく準備をしていたことから,平成14年12月末ころ,被告建設管理課の職員に対し,被告の管理するタクシープールの使用を希望した。
これに対し,被告職員は,Aに対し既存事業者に会いに行くよう促し,Aは,有限会社ダイヤモンド交通の代表者にあいさつに行き,その旨被告職員に報告した。その後,被告職員は,本件各タクシープールについては,慣例上年度末(2月,3月ころ)とされている申請時期が経過したこと,原告がタクシー事業許可をまだ受けていないこと等を理由に,原告に対し,許可申請書を交付しなかった。
ウ 原告は,平成15年4月3日付けで,タクシー事業許可を受けた。
そこで,原告は,平成15年6月3日付けで,富士見市長に対し,みずほ台駅東口(1台),同西口(2台)及び鶴瀬駅前西口(2台)の各タクシープールの同日ころから平成16年3月31日までの使用許可申請をしたところ,富士見市長は,平成15年6月15日付けで,原告に対し,年度途中の申請であるとの理由で,上記使用許可申請を不許可とするとの処分をした(甲3,乙15)。
この処分に不服があった原告が富士見市長に対し面談を求めたところ,富士見市長が応じた。上記面談に同席した被告建設課長は,原告に対し,来年度使用許可申請を行えば,原告が使用許可を受ける可能性はあるとの話をした。
エ 被告は,平成16年2月1日,本件規則に基づき,本件基準を定めた。
本件基準は,その2条1項,2項で,本件各タクシープールの使用許可又は更新を求めることのできるタクシー事業者の資格について,タクシー営業所等が2市2町にあることを要求し,さらに,その3条3項で,市内事業者を市外事業者に優先させる取り扱いにしている。
そして,本件基準は,その経過措置3で,本件各タクシープールの使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等が富士見市にない者であっても,既存事業者については,前記3条3項に規定する使用許可を優先する者の中に含むとして,既存事業者を市内事業者に準じて,市外事業者に優先させている。
オ 原告は,平成16年2月3日付けで,富士見市長に対し,みずほ台駅前東口(1台),同西口(2台)及び鶴瀬駅前西口(2台)の各タクシープールの平成16年4月1日から平成17年3月31日までの使用許可申請をした。同期間については,既存事業者5社が全体で93台分の更新申請を行った。また,みずほ台駅東口の駅前広場の改修により生じた1台分の増枠については,既存事業者4社,市内の個人タクシー事業者1名,それと原告の合計6者の使用許可申請が重なった。原告は,市外事業者であるために後順位となり,優先する既存事業者4社及び個人タクシー事業者1名で抽選した結果,既存事業者1社の使用許可申請が許可された(乙15)。
そこで,富士見市長は,平成16年3月25日付けで,原告に対し,みずほ台駅前西口駐車施設及び鶴瀬駅前西口駐車施設については,本件規則に基づく更新申請があり残余台数がない,1台分の増枠があったみずほ台駅前東口駐車施設については,市内事業者から使用許可申請があり,本件基準によると市外事業者である原告は後順位となるから残余台数がないとの理由で,原告の使用許可申請を不許可とするとの処分をした(甲4,乙15)。
(6) 本件各不許可処分
ア 原告は,平成17年2月22日付けで,富士見市長に対し,みずほ台駅前東口(1台),同西口(2台),鶴瀬駅前西口(2台)及びふじみ野駅前西口(1台)の各タクシープールの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの使用許可申請をした。同期間については,既存事業者5社が全体で94台分の更新申請を行った。また,みずほ台駅西口の駅前広場の改修により生じた4台分の増枠については,既存事業者4社,市内の個人タクシー事業者3名,市外の個人タクシー事業者1名,それと原告の合計9者の使用許可申請が重なった。個人タクシー事業者1名と原告は,市外事業者のために後順位となり,既存事業者4社と個人タクシー事業者3名で抽選した結果,既存事業者4社の使用許可申請が許可された(乙15)。
そこで,富士見市長は,平成17年3月25日付けで,原告に対し,みずほ台駅前東口駐車施設,鶴瀬駅前西口駐車施設及びふじみ野駅前西口駐車施設については,本件規則に基づく更新申請があり残余台数がない,4台分の増枠があったみずほ台駅前西口駐車施設については,市内事業者から申請があり,本件基準によると市外事業者である原告は後順位となるから残余台数がないとの理由で,原告の使用許可申請を不許可とするとの処分をした(甲1,乙15。本件不許可処分1)。
イ その後,みずほ台駅前東口駐車施設について,先に更新許可を受けた既存事業者の辞退により,2台分の枠が空いたため,原告は,平成17年3月30日付けで,富士見市長に対し,同タクシープールの平成17年4月1日から平成18年3月31日の使用許可申請をした。このときは,2台分の辞退枠について,市内の個人タクシー事業者3名と原告の合計4者が使用許可申請をしたが,原告は市外事業者であるため後順位となり,個人タクシー事業者2名の使用許可申請が許可された(なお,市内の個人タクシー事業者1名は抽選会に欠席した)(乙15)。
そこで,富士見市長は,平成17年3月31日付けで,原告に対し,市内事業者から申請があり,本件基準によると市外事業者である原告は後順位となるから残余台数がないとの理由で,原告の使用許可申請を不許可とするとの処分をした(甲2,乙15。本件不許可処分2)。
(7) その後の状況等
原告は,平成18年度についても,富士見市長に対し,本件各タクシープールの使用許可申請を行ったが,富士見市長は,同申請を不許可とするとの処分をした(甲18)。
なお,既存事業者5社のうち,2社(みずほ昭和と三和富士交通)のタクシー営業所等は富士見市内にあるが,残り3社のものは富士見市内にはなく,ふじみ野市や川越市内にある(証人J)。
平成15年度から平成17年度までの本件各タクシープールの使用許可状況については,別紙3(富士見市駅前広場駐車施設使用許可状況)のとおりである。
2 争点1(本件各タクシープールの管理権限)について
(1) 道路法2条,8条,9条及び18条の各規定からすると,道路法にいう道路として成立するためには,路線の指定・認定,道路区域の決定がなされただけでは足りず,道路区域として指定された部分が道路法上の道路としての構造形態を備え,かつ,道路管理者が実際に上記区域を道路として取り扱い,その供用開始の公示をすることを要するものと解するべきである。
これを本件についてみると,前記事実によれば,富士見市長は,道路法に基づき,本件各駅前広場全体を含む路線を市道として路線認定するとともに,上記路線の道路区域を決定し,関係図書を富士見市役所において一般の縦覧に供したこと,富士見市長は,本件各駅前広場を含む市道について道路としての供用開始の告示をし,その供用を開始し,その後も本件各タクシープールを含む各駅前広場を道路として管理していることが認められる。
ところで,道路法上の道路には,道路の構造の保全,安全かつ円滑な道路の交通の確保その他道路の管理上必要な施設又は工作物としての道路の附属物が含まれる。そして,道路の附属物の一として,道路法2条2項6号においては,道路上に,又は道路に接して道路管理者が設ける自動車駐車場が掲げられているところ,前記認定事実によれば,本件各タクシープールは,各駅前で客待ちをするタクシーの駐車用として,駅前ロータリーを通行する他の一般車両の通行の妨げにならないように同ロータリー内部に設けられたものであると認められる。そうすると,本件各タクシープールは,一般交通の用に供する道路上に道路管理者である富士見市長が設けた自動車駐車場であると解することができ,富士見市長は,道路法16条に基づき管理権原を行使し得るというべきである。
(2) そうすると,仮に,本件タクシープールが地方自治法244条以下所定の公の施設に該当すると解する余地があるとしても,被告は,道路法16条に基づき本件各タクシープールの管理権限を有し,同法244条の2第1項所定の「法律又はこれに基づく政令に特別の定めがある」場合に該当すると解されるから,本件各タクシープールの設置及びその管理に関する事項を条例で定めていないとしても違法ということはできないというべきである。
したがって,被告が本件各タクシープールの管理権限を有しないとする原告の主張は採用できない。
3 本件使用許可処分の性質と争点2(本件基準の合理性)について
(1) 被告は,本件使用許可処分の性質を道路法32条1項6号所定の占用許可処分としている。タクシー車両は,移動の手段として旅客に輸送サービスを提供するものであり,それ自体「露店」に類する物件ないし施設とみることができるし,タクシープールを全体として捉えると「商品置場」に類する施設とみられないこともなく,同条1項本文の「継続して使用する場合」には断続的に道路の一定の場所を使用する場合も含まれると解されるから,本件使用許可処分を道路法32条1項6号に規定する道路の占用の許可とみても不合理とはいえない。
(2) ところで,道路法上の占用を許可するかどうかは,道路の状況を把握してこれを管理する道路管理者が,道路の公共性,秩序維持の見地から,同法33条の許可基準に適合するかどうかを総合的に考慮して行うべきもので道路管理者の合理的裁量に委ねられていると解すべきである。
もっとも,道路管理者たる行政庁の有する裁量権についても,タクシープールの使用許可申請において,定数を超える申請がされた場合に,合理的な理由なく差別的取り扱いをするなど裁量権の行使に当たって当然守られるべき平等原則等条理上の制約があることは当然であって,当該裁量権の行使が裁量の範囲を逸脱又は濫用し,不合理と認められる場合には違法となることを免れない。
そして,被告は本件各タクシープールの使用に関し,本件規則及び本件基準を定め,これに拠るべきであると主張するのに対し,原告は本件基準の合理性を争うので,以下検討を進める。
(3) 本件基準の合理性の検討
ア 本件基準の内容は別紙2のとおりである。
本件基準は,その2条1項,2項で,本件各タクシープールの使用許可又は更新を求めることのできるタクシー事業者の資格について,タクシー営業所等が富士見市,上福岡市,大井町又は三芳町(2市2町)にあることを要求し,さらに,その3条3項で,原則として,使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等及び個人事業所が富士見市にある者を優先するとして市内事業者を市外事業者に優先させる取り扱いにしている。
また,本件基準は,その経過措置3で,本件各タクシープールの使用許可を受けようとするタクシー事業者のタクシー営業所等が富士見市にない者であっても,この基準の施行の日前に駅前広場駐車施設の使用許可を受けている者(既存事業者)については,前記3条3項に規定する使用許可を優先する者の中に含むとして,既存事業者を市内事業者に準じて,市外事業者に優先させている。
イ 更新枠について
ところで,前記事実によれば,本件各タクシープールについて,既に使用許可申請を受けた者による更新申請があった場合,富士見市長は,原則として,かかる申請を許可する取り扱いとしていたことが認められる。
更新は,新たな権利の設定ではなく,既存の権利の承認としての性格を有するもの(本件規則6条,6条の2参照)であるから,使用許可を受けている事業者の利益の保護を考慮する必要があるし,また,本件各タクシープールの使用許可を受けてきたタクシー事業者が,バス路線が限られた富士見市において,公共交通機関の役割を一部担ってきた経緯をも勘案すると,使用許可を受けてきた事業者による使用を継続させることができない特別の理由がない限り,その許可を取り消してまで,原告を含む第三者に新たに使用許可を与える必要はないものと解される。そうすると,更新枠については,結果的に,既存事業者が更新許可を受け続け,原告が使用許可を受けられないとしても,富士見市長に裁量権の濫用はないものと捉えるのが相当である。
ウ 増枠ないし空枠が生じた場合の処理について
続いて,駅前広場の改修による増枠があった場合や更新の申請がなされず空枠が生じた場合等について検討する。
(ア) 市内事業者優先条項について
このような場合でも,本件基準によれば,市内事業者が,同基準3条3項の規定により,市外事業者よりも優先されることが認められる。
すなわち,本件基準2条1項,2項は地元事業者に申請資格を限定し,同基準3条3項は地元事業者の中でも富士見市内に営業所等がある者(市内事業者)に対し本件各タクシープールの使用許可を優先的に与えることを定めている。
そして,富士見市内に営業所等がある者に優先的に使用許可を与えることは,富士見市内における安定的なタクシー交通の確保や市内経済の振興にそれなりに寄与するものと考えられる。また,相応の負担は伴うものの,市外事業者は,市内に営業所等を設置することによって,市内事業者としての地位を取得することもできることからすると,本件各タクシープールの使用許可不許可の判断を行うに当たって,市外事業者よりも,市内事業者を優先させることは,本件規則及び基準の目的との関係において,一応の合理性があるものというべきであり,本件基準3条3項の規定は,不合理なものということはできない。
(イ) 本件基準経過措置3について
他方,既存事業者の中には市外事業者も含まれていることについて争いはなく,駅前広場の改修や既に使用許可を得ている者の辞退による増枠ないし空枠についても,本件基準経過措置3は,既存事業者を市内事業者に準じ,市外事業者に優先させている。たしかに,既存事業者については,過去の実績があり,駅前広場における安定的な待機タクシー確保等の面では,有利な事情の一つとなるといえる。しかし,例えば,住民によるタクシーの利用が少ない時間帯や天候不順時における客待ちタクシー車両の相応の確保等の事情は,本件基準3条の1項,2項の基準を満たすか否かを考慮する中で,タクシー事業者の事業規模等を勘案することにより判断することが十分可能であるし,また,増枠ないし空枠分の使用許可は,許可の更新のように既存の権利の承認ではなく,新たな権利の設定であり,従前の使用許可から生じている利益等を勘案する必要もない。これに,本件各タクシープールを使用できるタクシー車両の台数は限定されており,また,被告は本件タクシープールの使用について料金等を徴収していないところ,使用許可を受けたタクシー事業者は,本件各タクシープールを使用することにより,安定した収入を得たり,知名度を向上させたりすることができる反面,本件各タクシープールを利用できないタクシー事業者は,そのような利益を得ることはできないこと,さらに,新規事業者は,市内営業所を設立して市内事業者としての地位を取得することはできるが,既存事業者としての地位を取得することは不可能であることをも勘案すると,一律に既存事業者を市外事業者に優先させるとの本件基準経過措置3の規定は,十分な合理性があるとはいえないというべきである。
なお,被告は,既存事業者優先規定が経過規定であり,暫定的な基準である旨主張するが,同規定の見直しの具体的な時期が明らかでない以上,かかる規定を暫定的なものとして取り扱うことは相当でない。
4 本件各不許可処分の適否について
(1) 上記のとおり,本件基準経過措置3は,十分な合理性のある規定とはいえず,本件タクシープールに関して増枠ないし空枠が生じた場合の使用許可申請について,本件基準経過措置3を適用して処理することは相当とはいえない。
(2) ところで,証拠(乙15,22,証人J)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は,平成17年度の許可申請において,みずほ台駅東口,同駅西口,鶴瀬駅西口,ふじみ野駅西口の各タクシープールの使用許可申請をした。同年度はみずほ台駅西口に駅前広場改修による枠増が4台,みずほ台駅東口に既存事業者辞退による枠増が2台あった。
イ みずほ台駅西口4台分については,既存事業者4社と市内個人タクシー事業者3名,市外個人事業者1名,原告の合計9者が応募した。被告は,既存事業者4社と市内個人タクシー事業者3名について優先権があるものと扱い,これら7者のみの抽選を行い,結果的に既存事業者4社が当選した。
ウ みずほ台駅東口2台分については,市内個人事業者3名と原告の4名が応募し,被告は,市内個人タクシー事業者3名について優先権があるものと扱い,これら3者のみの抽選会を行ったが,結果的に1名が抽選会に欠席したため市内個人事業者2名が当選した。
(3) しかし,前記のとおり,既存事業者5社のうちみずほ昭和と三和富士交通の2社は富士見市内に本社又は営業所があるが,それ以外は同市内に本社又は営業所がなかったから,それらの既存事業者について本件基準経過措置3を適用して市内事業者並みに扱い,市外事業者より優先させることは相当ではなかったというほかない。
そして,みずほ台駅西口4台分については,もし本件基準経過措置3が適用されなかったとすれば,市内事業者として優先される既存事業者は多くとも2社に止まり,それと市内個人事業者3者の5者による抽選で4台分の当選者が決まっていたはずである(もし,応募した既存事業者4社のうち市内事業者が1社しかなかったときは,応募した個人タクシーG,H,I全員が優先的に許可を割り当てられたことになり市内事業者での外れは1又は0に止まったとの計算となる。)。
次いで,みずほ台駅東口2台分の抽選が行われたが,上記のとおりみずほ台駅西口4台分について本件基準経過措置3を適用しないで適切な抽選が行われたとすれば,市内事業者の外れは1又は0に止まっていたはずであるから,みずほ台駅東口2台分のうち2台か少なくとも1台分については市外事業者による抽選により当選が決定された可能性が十分にある。そうすると,みずほ台駅東口2台分の許可申請に当たり,原告が市外事業者であり,後順位であるとの理由から抽選にも参加させず,不許可とした被告の処分は手続的に違法であるから,これを取り消すことが相当である。
そして,みずほ台駅東口2台分についてはその応募,抽選はその直前のみずほ台駅西口4台分の応募・抽選の結果をふまえてのものであり,みずほ台駅東口2台分の適切な許否を判定するためには,本件基準経過措置3を適用して違法に行われたみずほ台駅西口4台分の選定手続も改めてやり直す必要があるから,これも取り消す必要があるというべきである。
5 訴の利益等に関する補足的説明
なお,訴の利益と本件のような競願関係の事案についての判決の拘束力について若干補足しておく。
弁論の全趣旨によれば,本件規則に基づくタクシープール使用許可の期間は1年となっているが,いったん許可された場合には,更新が行われるのが通例であり,事実上は許可を自ら返上しない限り,許可は永続的なものとなっていることが認められる。したがって,許可の期間が経過したとしても,本件の場合,原告の訴の利益は消滅しないとみるのが相当である(最高裁昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3254頁参照)。そして,本件で原告に対するみずほ台駅西口4台分及び同東口2台分についての不許可処分が取り消されることにより,被告としては,判決の拘束力により,白紙の状態に立ち戻り,みずほ台駅西口4台分,みずほ台駅東口2台分について,改めて公募を行い,本件基準経過措置3を適用することなく,抽選結果等をふまえ,適切に原告の申請についてその許否を判断すべきである。
6 結論
よって,原告の請求は,本件不許可処分1中みずほ台駅前西口駐車施設の部分の取消し及び本件不許可処分2の取消しを求める限度で理由があるので,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 裁判官 櫻井進)