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さいたま地方裁判所 平成17年(行ウ)3号 判決 2007年5月16日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が原告の平成10年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額6247万4176円,納付すべき税額151万9700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,いずれも平成14年12月18日付け異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  被告が原告の平成11年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額6670万0339円,納付すべき税額175万6800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

3  被告が原告の平成12年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額7071万6993円,納付すべき税額311万3300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,いずれも平成17年4月13日付け減額更正により一部減額された後のもの)を取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨

原告は,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)ニューヨーク州法に基づき組成されたA・LLC(以下「本件LLC」という。)の行った不動産賃貸業に係る収支及び本件LLC名義の預金利息収入を原告の不動産所得及び雑所得として,平成10年分ないし平成12年分の所得税の各確定申告をした。これに対し,被告は,本件LLCが行う不動産賃貸業による生じた損益は法人としての本件LLCに帰属するもので,原告の課税所得の範囲に含まれないとしてこれを是正し,また,本件LLCが平成10年ないし平成12年に原告に対して送金した分配金(以下「本件分配金」という。)は原告の配当所得に該当する等として,原告に対し,上記各年分の所得税に係る更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各加算税賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

本件は,原告が,本件LLCは我が国の租税法上の法人に該当せず,また,本件分配金の一部は出資金の払戻しであり配当所得には当たらないから,本件各更正処分等は違法である等と主張して,その取消しを求めた事案である。

2  法令の定め等

(1)  法人に関する規定

法人に関する所得税法及び法人税法の規定には,次の内容のものがある。

ア 所得税法

(定義)

2条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。

1~5 省略

6 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。

7 外国法人 内国法人以外の法人をいう。

8~48 省略

2 省略

イ 法人税法

(定義)

2条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。

1,2 省略

3 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。

4 外国法人 内国法人以外の法人をいう。

5~48 省略

(2)  配当所得に関する規定

所得税法には,以下の内容の定めがある。

(配当所得)

24条 配当所得とは,法人から受ける剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし,資本剰余金の額の減少に伴うもの等によるものを除く。),利益の配当,剰余金の分配(出資に係るものに限る。),基金利息並びに投資信託及び特定目的信託の収益の分配に係る所得(以下「配当等」という。)をいう。

2 配当所得の金額は,その年中の配当等の収入金額とする。ただし,株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子でその年中に支払うものがある場合は,当該収入金額から,その支払う負債の利子の額のうちその年においてその元本を有していた期間に対応する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額の合計額を控除した金額とする。

(3)  過少申告加算税に関する規定

国税通則法(以下「通則法」という。)には,以下の内容の定めがある。

(過少申告加算税)

65条 期限内申告書が提出された場合において,修正申告書の提出又は更正があつたときは,当該納税者に対し,その修正申告又は更正に基づき35条2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

2,3 省略

4 1項又は2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合には,これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して,これらの項の規定を適用する。

5 省略

3 基本的事実関係(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)

(1)  本件LLCに係る経緯

ア 原告は,平成2年7月,ニューヨーク州在住のB(以下「B」という。)との間で,パートナーシップ契約を締結し,Aの名で共同にて不動産賃貸業等を営むことを約した(以下「本件パートナーシップ」という。乙15の5枚目ないし18枚目)。

イ 原告は,平成3年6月から9月にかけて,当時の太陽神戸三井(現三井住友)銀行東松山支店から5400万円を借り入れるなどし,本件パートナーシップに出資するために米国へ42万7694米国ドル(以下「ドル」という。)を送金した(乙16の3枚目,11枚目ないし13枚目)。

そして,原告が米国へ送金した上記金額のうち,その半額は本件パートナーシップへの原告の出資金とし,残りの半額は原告からBへの貸付金とした上で,本件パートナーシップへのBの出資金とした(乙17の2枚目)。これにより,本件パートナーシップの持分は,原告,Bともに各2分の1(各21万3847ドル)となった。

ウ 原告及びBは,本件パートナーシップとして,平成3年9月ころ,不動産購入のための資金とするため,105万8000ドルを借り入れ,平成3年9月16日付けで,ニューヨーク州ニューヨーク市ab-c所在の物件(以下「本件賃貸ビル」という。)を土地42万2152ドル,建物98万5023ドルの合計140万7175ドルで購入した(乙16の2枚目,3枚目,乙17の14枚目)。

そして,原告及びBは,本件パートナーシップとして,共同で本件賃貸ビルによる不動産賃貸業を開始した。

エ 平成6年(1994年)10月24日,ニューヨーク州において,リミテッド・ライアビリティー・カンパニー法(Limited Liability Company Law。以下「NYLLC法」という。乙1の1,1の2)が施行された。

米国におけるリミテッド・ライアビリティー・カンパニー(Limited Liability Company。以下「LLC」という。)とは,その構成員に有限責任の保護を提供し,構成員が積極的に経営に参加する権利を有する事業形態であり,パートナーシップや株式会社と同様に,各種の事業を実施するために組成される。

オ 平成9年(1997年)1月1日,米国において,いわゆるチェック・ザ・ボックス規則が施行された。

チェック・ザ・ボックス規則とは,事業体自身に納税主体となるか否かを選択させる制度である。同規則により,LLCは,法人としての課税を受けるか,パートナーシップとしての課税を受けるかを選択できるようになった。パートナーシップとしての課税を選択した場合,LLCの所得又は損失は,実際にそれが構成員に分配された否かにかかわらず,原則としてLLCの構成員各人の持分割合に応じて,その所得又は損失となる(以下,このような課税方式を「パス・スルー」という。)。

カ 原告は,平成10年2月2日,Bから,同人に対し本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の一部として,20万ドルの返済を受けた(乙11の1枚目)。

原告及びBは,同年3月6日,本件パートナーシップに対する出資金として各2万5000ドルを拠出した(乙11の1枚目)。

キ 原告は,平成10年4月16日,Bとの間で,本件パートナーシップをパートナーシップからLLCへ組織変更するため,オペレーティング契約(Operating Agreement of A LLC。以下「本件オペレーティング契約」という。乙2の1,2の2)及び転換協定(Agreement of Conversion,乙3の1,3の2)を締結した(乙15の2枚目,3枚目)。

Bは,平成10年4月17日,本件LLCの構成員として,上記組織変更に係る証書(Certificate of Conversion of A to A LLC)をニューヨーク州政府に提出し,もって原告及びBの本件パートナーシップに係る資産及び負債は本件LLCに引き継がれた(NYLLC法1006条,1007条参照。乙4の1,4の2)。

なお,原告及びBの本件LLCに対する持分比率(以下LLCに対する構成員の持分を「構成員持分」という。)は,本件LLCへの組織変更の前後を通じて,各50%のままで変更はなかった(乙2の1の5枚目,15の3枚目)。

本件LLCは,チェック・ザ・ボックス規則に基づき,法人としてではなく,パートナーシップとして課税されることを選択した(乙12の1ないし14の2)。

ク 本件LLCは,平成10年4月25日,ノムラ・アセット・キャピタル・コーポレーション(以下「ノムラ・アセット」という。)から,本件賃貸ビルを担保として,240万ドルの借入れを行った(以下「本件借入金」という。乙7の1,7の2)。上記貸付の際,ノムラ・アセットは,本件賃貸ビルの市場価値を370万ドルと評価した(乙17の2枚目)。

ケ 本件LLCは,平成10年4月27日,ノムラ・アセットからの本件借入金240万ドルのうち一部を平成3年の本件賃貸ビル購入時に行った借入れの返済に充てる(未払いの元利合計96万4052.19ドル。乙7の1の1枚目,7の2の1枚目,17の14枚目)一方,原告及びBに対し,それぞれ25万ドル及び85万ドルの分配(distribution)をした(乙17の2枚目)。本件借入金の残額は,本件LLCに内部留保された。

コ 原告は,平成10年5月25日,Bから,同人に対し本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の残額として,2万8000ドルの返済を受けた(乙11の2枚目)。また,原告は,同年8月28日,Bから,上記貸付金にかかる最終的な精算金額として477ドルを受け取った(乙10の1の5枚目,11の3枚目)。

サ 本件LLCは,平成11年12月20日,原告に対し,12万5000ドルの分配をし,同月22日,Bに対し,同額の分配をした。

また,本件LLCは,原告及びBに対し,平成12年7月5日,各5万ドルの分配をし(乙19の3枚目),同年12月22日,各4万5000ドルの分配をした(乙19の4枚目)。

(2)  原告の本件各年分の確定申告

原告は,本件各年分の所得税について別紙の「確定申告」欄記載のとおり,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた損益及び本件LLC名義の預金から生じる利息収入を原告の不動産所得及び雑所得として平成10年から同12年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税の各申告を各法定申告期限までに行った。

(3)  本件各更正処分等

被告は,平成14年3月14日付けで,原告に対し,平成10年分,平成11年分及び平成12年分(本件各係争年分)の所得税に関し,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた損益及び本件LLC名義の預金から生じる利息収入については,原告ではなく,本件LLCに帰属するとしてこれを是正し,また,本件LLCが原告に対し送金した本件分配金については,原告の配当所得に該当する等として,別紙の「更正処分等」欄記載のとおり,本件各更正処分を行い,さらに,本件各加算税賦課決定処分を行った(本件各更正処分等)。

(4)  不服申立て等

原告は,本格各更正処分等を不服として,平成14年4月25日,被告に対し,異議申立てをした。被告は,平成14年12月18日付けで,平成11年分の申立てを棄却し,平成10年分及び平成12年分の申立てについては,別紙の異議決定欄記載のとおり,決定した。

原告は,上記各決定を不服として,平成15年1月10日,国税不服審判所長に審査請求をしたが,同所長は,平成16年11月11日付けで,原告の請求をいずれも棄却した(甲4)。

そこで,原告は,平成17年1月19日,本件訴えを提起した。

その後,被告は,平成17年4月13日付けで,平成12年分の更正処分のうち,納付すべき税額を52万8000円減額する更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)を行った。

4 被告が主張する原告の所得税額

被告が本訴において主張する原告の本件各係争年分の所得税の総所得金額及び納付すべき税額の計算の根拠は次のとおりであり,本件各更正処分における各納付すべき税額(ただし,いずれも平成14年12月18日付け異議決定ないし本件減額更正処分により一部取り消された後のもの)を上回るから,本件各更正処分は,いずれも適用である。

(1)  平成10年分

ア 総所得金額 9298万8487円

上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の各金額の合計額である。

(ア) 不動産所得の金額 493万3028円

上記金額は,原告が平成10年分の所得税の確定申告書(以下「平成10年分確定申告書という。)で不動産所得として申告した金額(680万4203円)から,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた所得金額(187万1175円)を控除した金額である。

(イ) 利子所得の金額 38万0245円

上記金額は,シティバンク・ニューヨーク支店の原告名義の預金に係る利息収入の金額である。

(ウ) 配当所得の金額 3507万8344円

上記金額は,原告の平成10年分確定申告書で配当所得として申告した金額(264万円)に,平成10年分の本件LLCからの分配金(3260万円)を加算し,そこから本件LLCからの分配金を生ずべき元本を取得するために要した負債利子の額(16万1656円)を控除した金額である。

(エ) 給与所得の金額 5259万6870円

(オ) 雑所得の金額 0円

原告が平成10年分確定申告書で雑所得として申告した額(5万2858円)から,本件LLCに係る利息収入として申告された額(85万2825円)を控除すると,損失が生じる(△79万9967円)。そして,雑所得の計算上生じた損失については,所得税法69条(損益通算)の適用はないため,原告の雑所得の金額は0円となる。

イ 所得控除の合計額 157万7669円

ウ 課税総所得金額 9141万円

上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記アの総所得金額からイの所得控除の合計額を控除した金額(ただし,通則法118条1項の規定により,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)である。

エ 算出税額 3967万5000円

上記金額は,前記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項に規定する税率を適用して算出した金額である。

オ 配当控除 13万2000円

なお,所得税法92条1項の配当控除に係る規定は,外国法人から受ける配当所得については適用されないので,本件LLCからの分配金については適用されない。

カ 特別減税額 5万7000円

上記金額は,平成10年分所得税の特別減税のための臨時措置法4条に基づく。

キ 源泉徴収税額 1857万7626円

ク 申告納税額 2090万8300円

上記金額は,前記エの算出税額からオないしキの金額の合計額を控除した金額(ただし,通則法118条1項の規定により,100円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)。

ケ 予定納税額 413万1600円

コ 納付すべき税額 1677万6700円

上記金額は,前記クの申告納税額からケの予定納税額を控除した金額である。

(2)  平成11年分

ア 総所得金額 7854万5363円

上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の各金額の合計額である。

(ア) 不動産所得の金額 492万2478円

上記金額は,原告が平成11年分の所得税の確定申告書(以下「平成11年分確定申告書という。)で不動産所得として申告した金額(496万5362円)から,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた所得金額(4万2884円)を控除した金額である。

(イ) 利子所得の金額 16万8394円

上記金額は,シティバンク・ニューヨーク支店の原告名義の預金に係る利息収入の金額である。

(ウ) 配当所得の金額 1544万円

上記金額は,原告が平成11年分確定申告書で配当所得として申告した金額(264万円)に,平成11年分の本件LLCからの分配金(1280万円)を加算した金額である。

(エ) 給与所得の金額 5589万4415円

(オ) 雑所得の金額 212万0076円

上記金額は,原告が平成11年分確定申告書で雑所得として申告した額(303万2168円)から,本件LLCに係る利息収入として申告された額(91万2092円)を控除した額である。

イ 所得控除の合計額 169万3247円

ウ 課税総所得金額 7685万2000円

上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記アの総所得金額からイの所得控除の合計額を控除した金額である。

エ 算出税額 2594万5240円

上記金額は,上記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項及び経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(以下「負担軽減措置法」という。)4条に規定する税率を適用して算出した金額である。

オ 配当控除 13万2000円

なお,所得税法92条1項の配当控除に係る規定は,外国法人から受ける配当所得については適用されないので,本件LLCからの分配金については適用されない。

カ 定率減税額 25万円

上記金額は,負担軽減措置法6条の規定により算定した金額である。

キ 源泉徴収税額 1858万6930円

ク 申告納税額 697万6300円

上記金額は,前記エの算出税額からオないしキの金額の合計額を控除した金額である。

ケ 予定納税額 83万6800円

コ 納付すべき税額 613万9500円

上記金額は,前記クの申告納税額からケの予定納税額を控除した金額である。

(3)  平成12年分

ア 総所得金額 7537万5943円

上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の各金額の合計額である。

(ア) 不動産所得の金額 340万8106円

上記金額は,原告が平成12年分の所得税の確定申告書(以下「平成12年分確定申告書という。)で不動産所得として申告した金額(918万2003円)から,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた所得金額(577万3897円)を控除した金額である。

(イ) 利子所得の金額 11万2847円

上記金額は,シティバンク・ニューヨーク支店の原告名義の預金に係る利息収入の金額である。

(ウ) 配当所得の金額 1296万円

上記金額は,原告が平成12年分確定申告書で配当所得として申告した金額(264万円)に,平成12年分の本件LLCからの分配金(1032万円)を加算した金額である。

(エ) 給与所得の金額 5889万4990円

(オ) 雑所得の金額 0円

原告が平成12年分確定申告書で雑所得として計算した額(△135万7537円)は損失であり,本件LLCに係る利息収入として申告された額(50万2496円)を控除しても損失であることに変わりはない(△186万0033円)。そして,雑所得の計算上生じた損失については,所得税法69条(損益通算)の適用はないため,原告の雑所得の金額は0円となる。

イ 所得控除の合計額 161万9578円

ウ 課税総所得金額 7375万6000円

上記金額は,所得税法 89条2項の規定に基づき,上記アの総所得金額からイの所得控除の合計額を控除した金額である。

エ 算出税額 2479万9720円

上記金額は,上記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項及び負担軽減措置法4条に規定する税率を適用して算出した金額である。

オ 配当控除 13万2000円

なお,所得税法92条1項の配当控除に係る規定は,外国法人から受ける配当所得については適用されないので,本件LLCからの分配金については適用されない。

カ 定率減税額 25万円

上記金額は,負担軽減措置法6条の規定により算定した金額である。

キ 源泉徴収税額 1865万3763円

ク 申告納税額 576万3900円

上記金額は,上記エの算出税額からオないしキの金額の合計額を控除した金額である。

ケ 予定納税額 145万4800円

コ 納付すべき税額 430万9100円

上記金額は,前記クの申告納税額からケの予定納税額を控除した金額である。

5 被告が主張する原告の過少申告加算税額

被告が本訴において主張する原告の本件各係争年分の各過少申告加算税の額は,通則法65条の規定に基づき,本件各更正処分により新たに納付すべき税額(ただし,平成10年分については,異議決定により一部取り消された後の金額であり,平成12年分については,本件減額更正処分により減額された後の税額である。)を基礎として算出した次の(1)ないし(3)のとおりであり,いずれも本件各加算税賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であるから,本件各加算税賦課決定処分は,いずれも適法である。

(1)  平成10年分の所得税に係る過少申告加算税の額 151万9000円

上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,平成10年分更正処分により新たに納付すべき税額1519万円(ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を控除した金額。以下同じ。)に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。

(2)  平成11年分の所得税に係る過少申告加算税の額 38万9000円

上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,平成11年分更正処分により新たに納付すべき税額389万円に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。

(3)  平成12年分の所得税に係る過少申告加算税の額 7万4000円

上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,平成12年分更正処分により新たに納付すべき税額74万円に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。

6 主な争点

(1)  本件LLCは,我が国租税法上の「法人」に該当するか(争点1)。

(2)  本件分配金は,原告の「配当所得」に該当するか(争点2)。

(3)  本件分配金が配当所得に該当するもの等として原告の所得税の計算の基礎とされていなかったことについて,「正当な理由があると認められる」場合に該当するか(争点3)。

7 主な争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(本件LLCは,我が国租税法上の「法人」に該当するか)について

(原告の主張)

ア LLCは,パートナーシップ形態で事業を行うのでは,事業の構成員が無限責任を負うことになるから,構成員をその負担から解放して小規模組織の事業活動の活性化を図るために認められた事業形態であり,そもそも組合的な色彩の強い事業形態である。

(ア) NYLLC法は,その定義規定において,LLCを非法人組織(unincorporated organization)と位置付け,LLCが法人ではないことを明確にしている(同法102条m項)。

(イ) 我が国においては,株式会社はもとより持分会社であってもその内部関係に関する法規定には強行規定と解釈されるものが多く,構成員間の契約の自由がさほど認められていないのに対し,NYLLC法の規定は原則として任意規定であり,LLCの内部事項は,構成員間の契約の自由に広く委ねられている。

例えば,NYLLC法は,出資金に関する責任について,構成員が負う,拠出を行う義務及び同法に違反して支払われた分配金等を返却する義務は,構成員間の契約ないし構成員全員の承諾があれば,免除ないし減額できる旨規定している(502条b項)。また,同法は,LLCの損益や分配金等について,当然に構成員間の出資比率により配分されるものではなく,これを構成員間の自由な契約に委ねる旨規定している(503条,504条)。さらに,同法は,構成員持分の譲渡について,構成員間の契約が何よりも優先するとしているほか,譲受人が構成員となる権利についても,構成員間の自由な契約に委ねるものとする旨規定している(603条,604条)。加えて,同法は,構成員が構成員間の契約に従って退会する旨規定し,法定の退会事由を設けていない(606条)。

以上のとおり,NYLLC法の規定は,同法に基づき組成されるLLCが,出資金に関する責任,構成員間の分配,構成員の持分の譲渡,構成員の退会等について,構成員間の内部自治を原則とする組合的組織であることを明確にしている。

(ウ) そして,NYLLC法の規定を受けて,原告及びBは,本件オペレーティング契約(乙2の1,2の2)において,本件LLCを構成員である原告及びBの合意に沿って運営する旨定めており,このことからも,本件LLCが契約自由の原則の妥当する組合的な実質を有する組織であるといえる。

イ 米国の税法上,LLCは,その持分が公に取引されている場合を除き,法人課税又はパートナーシップ課税のいずれかを任意に選択することができるところ(チェック・ザ・ボックス規則),本件LLCは,米国国内において,当初よりパートナーシップとして課税されることを選択して納税している。

ウ そして,本件LLCを我が国における法制度上の組織と比較すると,(a)有限責任制,(b)構成員による内部自治原則,(c)構成員(パス・スルー)課税のいずれも採用している点で,本件LLCは,日本版LLCとされる合同会社ではなく,むしろ我が国における有限責任事業組合に相当するものである。

エ 以上のとおり,NYLLC法に基づき組成された本件LLCは,広く定款自治が認められ,その運営が構成員間のオペレーティング契約に委ねられた組合的な性格を有するものであるし,法人概念についても,他の法概念と同様,各法律間でできる限り同一に解釈されるべきことや,租税法上の法人概念は実態に即して判断すべきであることからすれば,NYLLC法を設立準拠法とする本件LLCは,その実質に鑑みれば,我が国における有限責任事業組合に相当するものであり,我が国租税法上の法人に該当するとはいえない。

したがって,本件LLCを外国法人と認め,本件LLCの事業から生じる損益が本件LLCに帰属することを前提としてされた本件各更正処分等は違法である。

(被告の主張)

ア 所得税法及び法人税法において,法人について明確な定義付けをした規定はない。租税法上定義を置いていない用語については,別意に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として,それを私法上におけるのと同じ意義に解すべきところ,我が国の私法上,法人とは「自然人以外のもので,法律上,権利義務の主体たりうるもの」,すなわち,権利を有し,義務を負う能力を法律上有しているものをいうと解される。

国際私法上,外国の法律によって設立された事業体について,その設立準拠法の下で与えられた法人格は,我が国においても承認されると解されるところ,外国の法律によって設立され,当該設立準拠法の下で法人格を与えられた事業体は,我が国の私法上(租税法上)の外国法人に該当すると解される。

したがって,外国の法律によって設立された事業体が我が国の租税法上の法人となるか否かについては,かかる事業体に当該設立準拠法の下で権利義務の主体となることができる法律上の資格(法人格)が与えられているか否かが判断の基準となる。

イ 本件LLCは,NYLLC法を準拠法として設立されているところ,同法に基づき設立されたLLCについては,以下の内容の規定がある。

(ア) 本法に基づいて設立されたLLCは,独立した法的主体(separate legal entity)とし,その法的主体としての存在は当該LLCの基本定款が破棄されるまで継続するものとする(同法203条d項)。

(イ) 基本定款に特段の定めがない限り,かつ,本法に制限がある場合にはそのような制限とこの州の他の法律に従うことを条件として,LLCは,以下のことを行うことができる(同法202条)。

a その名において,訴訟手続等の当事者となること(同条a項)。

b 所在地のいかんを問わず,不動産や動産又はこれらに係る権利を取得するなど,不動産や動産についての取引をすること(同条b項)。

c その財産の全部又は一部を売却するなど,その財産の全部又は一部を処分すること(同条c項)。

d 株式などの証券に係る取引をすること(同条d項)。

e 保証契約等の締結,負債の負担,資金の借入れ,手形・債券の発行,営業特許や利益を抵当に入れること(同条e項)。

f いかなる合法的な目的のためにも資金を貸し出し,LLCが保有する資金を投資し,投資した資金の支払の担保として不動産や動産を占有し,保有すること(同条f項)。

g いかなる州,外国又はその他の管轄区域においても,その事業を実施し,その業務を運営し,事務所を維持し,本法によって付与される権限を行使すること(同条g項)。

h いかなる団体,会社,パートナーシップ,リミテッド・パートナーシップ,LLC,合弁事業等その他の主体等の発起人,株主,パートナー,構成員等になること(同条o項)。

ウ ところで,英米法上において法人格を有する団体の要件には,(a)訴訟当事者になること,(b)その名において財産を取得し処分すること,(c)その名において契約を締結することや,(d)法人印(corporate seal)を使用することなどが挙げられる。

これを本件LLCについてみると,本件LLCは,本件賃貸ビルを所有し,自らの名において,不動産管理会社であるBPCマネジメント・コーポレーションに本件賃貸ビルの管理を委託する契約を結び(乙5の1,5の2),その収益や資産を管理し,また,ノムラ・アセットからの融資を受ける際に,自らの名において抵当権を設定し(乙6の1,6の2),抵当証券を発行する(乙7の1,7の2)など,構成員とは異なる権利義務の主体として活動しており,権利義務の主体となり得る法律上の資格を有していることが明らかであり,英米法上の法人格の要件である上記の要件(a)から(c)を具備していると認められる。そして,本件LLCは,当該LLCの名称をA・LLCと定め,同名を使用していることからして,上記(d)の要件も具備していると考えられる。

エ 以上のとおり,本件LLCには,NYLLC法に基づき付与された権利義務の主体となり得る広範な法律上の資格が与えられており,また,本件LLCは,英米法上の法人格を有する団体の要件も具備することから,我が国の租税法上の「法人」に該当し,これを前提としてされた本件各更正処分等は適法である。

(2)  争点2(本件分配金は,原告の「配当所得」に該当するか)について

(原告の主張)

ア 仮に,本件LLCが我が国租税法上の法人に該当するとしても,本件LLCが平成10年に原告に対し分配した25万ドルのうち,21万3847ドルは原告の本件LLCに対する出資金の払戻しであり,配当所得となるのは3万6153ドルに過ぎない。

現地でマネージング・パートナーとして経営に携わっていたBは,日本に在住し本件LLCの実際の経営に携わっていない原告の出資に伴うリスクを可能な限り早期に解消しようと考えていた。そこで,原告とBは,平成10年にノムラ・アセットから240万ドルの借り入れが可能となったことを契機に,本件LLCに原告に対する出資金の払戻しをさせた。

イ NYLLC法は,出資金の払戻しについては,明文の規定を置いていない。しかしながら,(a)同法が出資金の拠出については構成員間で締結するオペレーティング契約の自由に広く委ねていること(501条,502条),(b)同法には,分配金の制限(508条)や構成員の債権者の権利に関する規定(607条)以外に債権者保護のための定めは特になく,最低資本金制度も存在しないのであって,構成員が出資金を払い戻すこと自体は同法に抵触するものではないこと,さらに,(c)同法704条c項は,LLC解散時における資産の分配について,構成員に対し,今までに返還されていない範囲で,出資金の返還として分配する旨規定するなど,LLCの解散の前に出資金の払戻しがされることを前提とした規定を置いていることからすると,LLCにおいては,オペレーティング契約に従って,又は構成員全員の承諾によって,適宜出資金の払戻しを行うことは可能であると考えられる。

そして,本件オペレーテング契約12条では,出資金について,構成員らは適宜現金又は動産で構成された構成員が適切であると考えた出資金の拠出を行うものと定めている。ここで「出資金の拠出」は,出資金の払戻しを含む概念だと解されるから,本件LLCにおいては,構成員である原告及びBが適切であると考えた金額で,適宜出資金の拠出や払戻しを行い得るというべきである。

なお,原告が出資金の払戻しとして送金を受けた21万3847ドルについて,原告は,必要に応じて再度それを出資金として本件LLCに拠出することになるが,今まで再度の拠出がされていないのは,未だ本件LLCにおいて出資の追加を必要とする事由が生じていないためにすぎない。

ウ したがって,仮に本件LLCが我が国の租税法上の外国法人に該当するとしても,本件分配金のうち21万3847ドルは出資金の払戻しで,原告の配当所得には該当しない。

(被告の主張)

ア 所得税法は,配当所得について,法人から受ける利益の配当,剰余金の分配等に係る所得をいうと規定している。そして,同法においては,株主(出資者を含む。)に対しその株主である地位に基づいて供与した経済的な利益であれば配当所得とされるものと解される(最高裁昭和43年11月13日判決,所得税基本通達24-1参照)。

また,配当は,必ずしも,商法の規定に従って適法になされたものにかぎらず,商法が規則の対象とし,商法の見地からは不適法とされる配当(たとえば蛸配当,株主平等原則に反する配当等)のようなものも,所得税法上の利益配当のうちに含まれるものと解すべきである(最高裁昭和35年10月7日判決参照)。

以上のとおり,法人からの分配金が配当所得に該当するか否かは,それが出資者の地位に基づいて供与した経済的な利益と認められるか否かにより判断されるのであって,出資金の返還が行われたような蛸配当であっても配当所得に該当すると解される。

イ 本件分配金は,NYLLC法508条a項ただし書の規定より,本件借入金の担保とされる本件賃貸ビルの市場価額(370万ドル)が非遡求型の借入れである本件借入金の金額(240万ドル)を超える部分(130万ドル)が,本件LLCにおいて分配可能となることを根拠に,構成員に対して分配されたものと考えられる。また,本件賃貸ビルは,平成3年に140万7175ドルで取得したものであるところ,本件借入金の借入れにあたって,当該ビルの市場価額は370万ドルと評価されたのであるから,当該ビルには,含み益が約230万ドル生じており,本件分配金は,その利益を観念した上で分配されたものとみることもできる。

ウ そうすると,本件分配金は,出資者である原告に対して,出資者たる地位に基づいて供与された経済的利益といえ,所得税法上の「配当所得」に該当するというべきである。

エ 所得税法36条1項は,「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額とする」旨規定している。これは一般に権利確定主義を規定したものとされており,所得税法は,原則として,収入という形態において実現した利得のみを課税の対象としている。

配当所得における実現の問題とは,かかる配当が,収入実現の処分性などのテストを通して,客観的に認識しうる経済的価値の流入として捉え得るか否かという問題として理解すべきである。

これを本件について検討するに,NYLLC法において,分配は,LLCがその構成員の1名又は複数名に対してその者の構成員としての資格に基づいて行う財産の移転を意味しているところ(NYLLC法102条i項),原告は,本件分配金を換金可能なシティバンク新宿南口支店ないし同ニューヨーク店の自己名義の口座で運用していることが認められる。

したがって,本件分配金は,原告の配当所得として実現したものと解するのが相当である。

(3)  争点3(通則法65条4項の正当な理由)について

(原告の主張)

ア 通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,過少申告を行うにつき,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷となる場合をいうものと解するのが相当である。

イ 原告とBは,本件パートナーシップを本件LLCへと組織変更したものの,それはアメリカの法制度が変わったことにより,本件賃貸ビルに係る不動産賃貸業の出資者である原告及びBが無限責任を負わず,有限責任を享受できるに至っただけで,事業の実態面はもとより,課税関係上も,従前と何ら変更された点はなかった。

また,税務当局は,平成10年ころから,LLCを我が国租税法上の外国法人と考えていたと思われるが,納税者が適法な税務申告を行い得るよう,通達等をもって周知するなどの措置を取らなかったことから,税務当局内部においても,LLCが我が国租税法上の外国法人に当たることの認識は周知されていなかった。実際,原告が平成10年ないし同12年分(本件各係争年分)につき本件LLCをパートナーシップとして各確定申告をした際も,税務署の職員等から,その点に関する指導等を受けたことはなかった。そして,税務当局が,LLCを法人として取り扱う旨の行政上の見解を示したのは平成13年である。

ウ そうすると,パートナーシップとしての事業の実態に変更がない上,税務当局からLLCを法人として取り扱う旨の指導がなく,行政上の見解も示されていない本件各係争年分の時点では,原告が従前の申告方法を変えることは期待できず,原告が,本件分配金を外国法人からの配当所得として申告しなかったとしても,その責めに帰することができない客観的な事情があり,かつ,過少申告加算税を原告に賦課することは酷というべきである。

(被告の主張)

ア 過少申告加算税は,期限内申告によらないで確定した本税について,一定の割合を乗じて計算した特別な経済的負担を課する制度として設けられたものであるが,納税者間の不公平を制度的に是正するとともに,納税者をして自主的に適正な納税額を申告させる制度的な裏付けとして位置付けられており,これにより申告納税制度に対する信用を維持し,適正な期限内申告の実現を図ることを目的としている。

通則法65条4項の「正当な理由があると認められる」場合とは,過少申告を行うにつき,真に納税者の責めに帰することができない客観的事情があり,前記のような過少申告加算税の目的に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうのであり,納税者側の主観的事情や,法の不知,解釈の誤りは含まれないと解され,原則として,納税者において,申告時に,過少申告とならない申告をする契機が客観的に与えられていなかったような場合に限られると解すべきである。

イ 本件において,原告は,パートナーシップからLLCへの組織変更に当たって,米国における事業の実態面はもとより,課税関係も従前と何ら変更された点はなかったのであるから,税務当局からの指導等がない限り,原告が従前の申告方法を変えることは期待できない旨主張する。

しかしながら,LLCへの組織変更に当たって,米国税制上,従前と変更された点がないことをもって,我が国の所得税法上,米国と同様に変更がないことにはならない。

また,国税庁は,平成13年に米国LLCに関する税務上の取扱いを公表したものの(乙9),それ以前において,米国LLCを我が国の税務上「法人」として取り扱わない旨の公的見解を示したことはなく,そのような行政慣行が運用として定着していたこともない。

そして,原告は,本件各係争年分に係る所得税の確定申告をするに当たり,被告に対して,本件LLCないし本件分配金に係る我が国の税務上の取扱いについて確認した事実は一切なく,単にBに対して米国税制上の取扱いを確認したにすぎないのであるから,原告は,過少申告とならない申告をする契機が与えられていたにもかかわらず,自らの解釈に基づき,各確定申告をしたものである。

ウ よって,本件では,原告が本件各係争年分に係る所得税を過少に申告したことにつき,真に納税者の責めに帰することができない客観的事情があったとはいえず,通則法65条4項に規定する「正当な理由」があったとは認められない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件LLCは,我が国租税法上の外国法人に該当するか)について

(1)  我が国の租税法上,法人の所得は法人課税の対象となり,その出資者等である個人の課税所得の範囲には含まれない(所得税法7条,法人税法5条,9条等参照)。

そうすると,本件LLCが,我が国の租税法上の法人に該当する場合,本件LLCの所得は,法人課税の対象となり,その構成員である原告個人の課税所得の範囲には含まれないこととなる。

ところで,所得税法2条及び法人税法2条は,内国法人を国内に本店又は主たる事務所を有する法人と定義し,外国法人を内国法人以外の法人と定義しているが,我が国の租税法上,法人そのものについて定義した規定はない。

納税義務は,各種の経済活動ないし経済現象から生じてくるのであるが,それらの活動ないし現象は,第一次的には私法によって規律されている。したがって,租税法がそれらを課税要件規定の中に取り込むにあたって,私法上におけるものと同じ概念を用いている場合には,別の意義に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として,それを私法上におけるものと同じ意義に解するのが,法的安定に資する。そうすると,租税法上の法人は,民法,会社法といった私法上の概念を借用し,これと同義に解するのが相当である。したがって,例えば,会社法上すべての「会社」が法人である以上(会社法3条,旧商法54条1項),そのすべてが法人税の納税義務を負うことと考えられ,その中には,持分会社である合名会社,合資会社や合同会社も含まれる(会社法2条1号,旧商法53条)し,その他,個別の立法において法人格を与えられているあらゆる法人(公共法人を除く)が何らかの形で法人税の納税義務を負うことになる。つまり,我が国の租税法上,「法人」に該当するかどうかは,私法上,法人格を有するか否かによって基本的に決定されていると解するのが相当である。

(2)  そして,外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっては,基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当であり,本件LLCは,米国のニューヨーク州法(NYLLC法)に準拠して設立され,その事業の本拠を同州に置いているのであるから,本件LLCが法人格を有するか否かについては,米国ニューヨーク州法の内容と本件LLCの実質に基づき判断するのが相当である(民法36条,会社法933条,旧商法479条,法の適用に関する通則法等参照)。

(3)  そこで,これを検討すると,次のとおりである。

ア 乙24によれば,英米法における法人格を有する団体の要素には,(a)訴訟当事者になること,(b)法人の名において財産を取得し処分すること,(c)法人の名において契約を締結すること,(d)法人印(corporate seal)を使用することなどが含まれることが認められる。

イ NYLLC法の関係規定をみるに,同法に基づき設立されたLLCは,その名において訴訟手続等の当事者となることができる(202条a項)し,また,不動産や動産を取得したり(同条b項),その財産又は資産の全部又は一部を処分したりすること(同条c項)ができることが認められる。さらに,当該LLCは,証券に係る取引,種々の契約の締結(同条d,e項)に加えて,同条f項ないしq項に規定される行為を行う広範な権能を有していることが認められる(乙1の1の6枚目ないし9枚目,1の2の5枚目ないし7枚目)。

ウ 次に,本件LLCについてみるに,NYLLC法に基づき設立された本件LLCは,同法202条a項に規定に従い,その名において訴訟手続等の当事者となることができると考えられ,また,本件オペレーティング契約5条,6条(乙2の1の2枚目,2の2の2枚目)にも,本件LLCが訴訟当事者となり,訴状等の送達を受けることを前提とした規定が置かれていることが認められる。

また,乙2の1の2枚目,2の2の2枚目並びに16の8枚目及び9枚目によれば,本件LLCは,本件オペレーティング契約7条において,本件賃貸ビルを所有することを前提とした規定をした上で,NYLLC法1006条及び1007条の規定に基づき,原告及びBの共同事業用の資産であった本件賃貸ビルを引き継ぎ,所有していることが認められる。さらに,乙5の1ないし7の2によれば,本件LLCは,その名において,Fから本件借入金の融資を受ける際に,抵当権を設定し,抵当証券を発行していること,また,その名において,不動産管理会社であるBPCマネジメント・コーポレーションに本件賃貸ビルの管理を委託する契約を締結していることが認められる。

エ そうすると,本件LLCは,NYLLC法に基づき,その名において,(a)訴訟当事者になること,(b)財産を取得し,処分すること,(c)契約を締結する権能を有し,実際に,訴訟手続の当事者となることや財産を所有することを前提とした規定を本件オペレーティング契約に置いた上で,その名において,財産を所有・管理し,契約を締結していることが認められる。

ところで,上記法人の要素(d)(法人印)については,NYLLC法上も,本件オペレーティング契約上も,明文の規定はなく,本件LLCの作成した契約書等を見ても,本件LLCが会社印を使用している状況は窺われない。しかし,法人印は,米国においても,当該印を使用する法人が,その名において行為をする際,その同一性を示し,対外的な信用性を高めるために用いられるものであると思われ,本件LLCは,前記のとおり,契約書等において,A・LLCの名で行為をしているのであるから,本件LLCがLLC印を設けること自体に不都合があるとは考えがたい。そうすると,本件LLCがLLC印を使用している状況が窺われないとしても,そのことは本件LLCの法人性を否定する事情とはならないというべきである。

オ 加えて,NYLLC法203条d項は,州政府に基本定款を提出した時点でLLCは設立される旨規定し,同法に基づき設立されたLLCを構成員からは独立した法的主体(separate legal entity)と位置付けている。さらに,同法601条後段は,LLCの個別財産について,LLCの構成員は,一切の利益ないし持分(interest)を有しないと規定している。

(4)  以上の事実を総合すると,本件LLCは,NYLLC法上,法人格を有する団体として規定されており,自然人とは異なる人格を認められた上で,実際,自己の名において契約をするなど,原告及びBからは独立した法的実在として存在していることが認められる。

そうすると,本件LLCは,米国ニューヨーク州法上法人格を有する団体であり,我が国の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相当である。

(5)  これに対し,原告は,NYLLC法に基づき設立されたLLCは,有限責任制,内部自治原則及び構成員課税を採用している点で,日本版LLCとされる合同会社ではなく,むしろ有限責任事業組合に相当するもので,我が国の租税法上の法人には該当しない旨主張する。しかしながら,我が国における有限責任事業組合は,民法上の組合の特例として創設されたものであり,出資者が有限責任を享受するとしても,組合であって,法人ではなく,組合自体の名義で財産を所有したり,契約を締結したりすることはできない(乙26の306頁,307頁,有限責任事業組合契約に関する法律2条,56条等参照)。そうすると,本件LLCが我が国における有限責任事業組合に相当するとはいえず,原告の上記主張は採用できない。

また,原告は,本件LLCは本質的には原告とBの2名による小規模な共同事業であり,法人性を実質的に検討する米国のキントナー規則をあてはめてみても,法人といえるような組織ではない旨主張する。

ところで,乙25(28頁)及び弁論の全趣旨によれば,平成8年(1996年)以前(チェック・ザ・ボックス規則導入前)には,米国租税法上の法人該当性の基準として「キントナー規則」が存在し,同規則は,(a)企業の継続性,(b)運営管理の集中,(c)有限責任性及び(d)持分の自由譲渡性の四つの要件を基準に,ある団体が米国法上の法人として課税されるべきか,パートナーシップとして課税されるべきかを判断することとされていたことが認められる。

しかし,米国では,平成9年(1997年)以降,チェック・ザ・ボックス規則が導入され,LLCについてはパス・スルー課税を選択できることとなったから,本件において本件LLCの法人性の有無の判断に当たり「キントナー規則」を用いることは相当とは思われない。

したがって,原告の上記主張は前記判断を左右するものではない。

2  争点2(本件分配金は,原告の配当所得に該当するか)について

(1)  前提となる事実

前記基本的事実関係,証拠(適宜掲記する。)及び弁論の全趣旨から次のとおりの事実を認めることができる。

ア 原告は,平成3年7月,ニューヨーク州在住のBとの間で,パートナーシップ契約を締結し,Aの名で共同にて不動産賃貸業等を営むことを約し(乙15の5枚目,6枚目),平成3年6月から9月にかけて,当時の太陽神戸三井(現三井住友)銀行東松山支店から5400万円を借り入れるなどし,本件パートナーシップに出資するために米国へ42万7694ドルを送金した(乙16の3枚目,11枚目ないし13枚目)。

そして,原告が米国へ送金した上記金額のうち,その半額は本件パートナーシップへの原告の出資金とし,残りの半額は原告からBへの貸付金とした上で,本件パートナーシップへのBの出資金とした(乙17の2枚目)。これにより,本件パートナーシップの持分は,原告,Bともに各2分の1(各21万3847ドル)となった。

イ 原告及びBは,本件パートナーシップとして,平成3年9月ころ,不動産購入のための資金とするため,105万8000ドルを借り入れ,平成3年9月16日付けで,本件賃貸ビル」という。)を土地42万2152ドル,建物98万5023ドルの合計140万7175ドルで購入した(乙16の2枚目,17の14枚目)。

そして,原告及びBは,本件パートナーシップとして,共同で本件賃貸ビルによる不動産賃貸業を開始した。

ウ 平成6年(1994年)10月24日,ニューヨーク州において,NYLLC法が施行された。

平成9年(1997年)1月1日,米国において,チェック・ザ・ボックス規則が施行された。

エ 本件LLCの平成10年1月1日時点の資本勘定(capital account)残高は,19万0011ドルであった(乙12の1の4枚目,12の2の4枚目)。

原告は,平成10年2月2日,Bから,同人に対し本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の一部として,20万ドルの返済を受けた(乙11の1枚目)。

原告及びBは,同年3月6日,本件パートナーシップに対する出資金として各2万5000ドルを拠出した(乙11の1枚目)。

オ 原告は,平成10年4月16日,Bとの間で,本件パートナーシップをパートナーシップからLLCへ組織変更するため,本件オペレーティング契約(乙2の1,2の2)及び転換協定(乙3の1,3の2)を締結した(乙15の2枚目,3枚目)。

Bは,平成10年4月17日,本件LLCの構成員して,上記組織変更に係る証書をニューヨーク州政府に提出し,もって原告及びBの本件パートナーシップに係る資産及び負債は本件LLCに引き継がれた(NYLLC法1006条,1007条参照)。

なお,原告及びBの本件LLCに対する構成員持分比率は,本件LLCへの組織変更の前後を通じて,各50%のままで変更はなかった(乙2の1の5枚目,15の3枚目)。

本件LLCは,チェック・ザ・ボックス規則に基づき,法人としてではなく,パートナーシップとして課税されることを選択した。

カ 本件LLCは,平成10年4月25日,ノムラ・アセットから,本件賃貸ビルを担保として,240万ドルの借入れを行った(本件借入金。乙7の1,7の2)。上記貸付の際,ノムラ・アセットは,本件賃貸ビルの市場価値を370万ドルと評価した(乙17の2枚目)。本件借入金は,非遡求型(債務者が債務不履行をしても,担保物件にしか返済原資を求めない融資。担保物件が不動産の場合には,賃料収入,物件売却代金が債権者の求償できる範囲となる。)の借入れであった。

キ 本件LLCは,平成10年4月27日,ノムラ・アセットからの本件借入金240万ドルのうち一部を平成3年の本件賃貸ビル購入時に行った借入れの返済に充てる(未払いの元利合計96万4052.19ドル。乙7の1の1枚目,7の2の1枚目,17の14枚目)一方,原告及びBに対し,それぞれ25万ドル及び85万ドルの分配(distribution)をした。本件借入金の残額は,本件LLCに内部留保された。

ク 原告は,平成10年5月25日,Bから,同人に対し本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の残額として,2万8000ドルの返済を受けた(乙11の2枚目)。また,原告は,同年8月28日,Bから,上記貸付金にかかる最終的な精算金額として477ドルを受け取った(乙10の1の5枚目,11の3枚目)。

本件LLCは,平成10年分として,4万9122ドルの利益を計上した(乙12の1の4枚目,12の2の4枚目)。

本件LLCの平成10年12月31日時点の資本勘定残高は,△81万0867ドルであった(同上)。

ケ 本件LLCは,平成11年12月20日,原告に対し,12万5000ドルの分配をし,同月22日,Bに対し,同額の分配をした。

本件LLCは,平成11年分として,2万7680ドルの利益を計上した(乙13の1の4枚目,13の2の4枚目)。

本件LLCの平成11年12月31日時点の資本勘定残高は,△103万3187ドルであった(同上)。

コ 本件LLCは,原告及びBに対し,平成12年7月5日,各5万ドルの分配をし(乙19の3枚目),同年12月22日,各4万5000ドルの分配をした(乙19の4枚目)。

本件LLCは,平成12年分として,12万8479ドルの利益を計上した(乙14の1の4枚目,14の2の4枚目)。

本件LLCの平成12年12月31日時点の資本勘定残高は,△109万4708円であった(同上)。

(2)  ところで,所得税法上,配当所得とは,法人から受ける剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし,資本剰余金の額の減少に伴うもの等によるものを除く。),利益の配当,剰余金の分配(出資に係るものに限る。)等に係る所得等をいう(同法24条1項)。そして,会社からの分配は,会社の正式な決算手続きに基づき利益が分配されたものでなくても,実質的にみてそれが出資者が出資者である地位に基づいて受ける利益の配分と見られる限りにおいて,配当所得となるものと解される(最高裁昭和43年11月13日判決・民集22巻12号2449頁参照)。

(3)  以上を前提として,本件分配金が配当所得に該当するかを以下検討する。

ア 前記事実関係によれば,(a)本件賃貸ビルは,平成3年の購入時に約140万ドルであったものが,平成10年の本件借入金の借入時には370万ドルで評価され,購入時以降,本件賃貸ビルが減価償却していることを考慮すると,上記借入時には,230万ドル以上の含み益が生じていたこと,(b)本件LLCは,本件各係争年分の利益として,平成10年は4万9122ドル,平成11年は2万7680ドル,同12年は12万8479ドルの合計20万5281ドルの利益を計上したことが認められる。

イ ところで,乙1の1,1の2,6の1,6の2,7の1,7の2及び弁論の全趣旨によれば,NYLLC法508条は,LLCの分配金に対する制限規定を設け,その債権者の保護を図っているところ,同規定によれば,LLCは,当該分配時において,当該LLCの全資産の公正市場価額が全負債を超える範囲において,構成員に対する分配ができること(ただし,ある負債について,債権者の遡求権が特定の財産に限定されている場合等には,当該財産の公正市場価額が,当該負債を超える部分についてLLCの資産に含まれる。)が認められる。この規定によれば,非遡求型の負債である本件借入金の担保とされる本件賃貸ビルの市場価額(370万ドル)が,本件借入金(240万ドル)を超える範囲(130万ドル)については,本件LLCにおいて,構成員に分配することが可能な額となることが認められる。

そして,前記事実関係によれば,本件LLCは,平成10年に110万ドル(原告25万ドル,B85万ドル),平成11年に25万ドル(原告,Bに各12万5000ドル),平成12年に19万ドル(原告,Bに各9万5000ドル)の合計154万ドルの分配(本件分配金)をしていることが認められる。

ウ また,上記の原告に対する本件分配金は,いずれも原告の管理する銀行の口座に入金され,原告の資産として運用されていることが認められる。さらに,本件借入金はいわゆる非遡求型の融資であり,本件LLCが債務不履行をしても,本件賃貸ビル以外の財産からこれが回収されることはないのであるから,原告が本件分配金を確定的に入手したと評価することも可能である。そして,本件記録によれば,原告において,本件分配金の各分配以降,本件LLCに対し出資金を追加拠出するようなことはなかったことが認められる。

エ 加えて,本件LLCの米国における税務申告書においても,本件分配金は,いずれも単に分配(distribution)と記載され,出資金の払戻し(return of contribution)と記載されるとか出資金の拠出(contribution to capital)が負の計上とされるなど,当該支出が法的に出資金の払戻しであることを明確にした記載はない(乙12ないし14)。また,本件記録上,原告がBとの間で,平成10年の分配時において,本件分配金のうち21万3847ドルが出資金の払戻しであることを明示的に合意したとする証拠もない。

(4)  以上の事実を総合すると,本件分配金は,これを実質的にみると,本件LLCにおいて,本件賃貸ビルの市場価額が増加し含み益が生じたことや,不動産賃貸業による利益が計上されたことを背景に,剰余資金をその出資者である原告及びBに利益の配分として分配したものと認めるのが相当である。

したがって,平成10年分ないし12年分の本件分配金については,本件LLCが原告の出資者である地位に基づいて供与した経済的な利益であり,いずれも原告の配当所得に該当する。

(5)  これに対し,原告は,本件LLCが平成10年に原告に対し分配した25万ドルのうち,21万3847ドルは原告の本件LLCに対する出資金の払戻しであり,配当所得には該当しない旨主張する。

たしかに,所得税法24条及び25条の規定からすると,同法が,法的な手続を経た出資の払戻しを配当所得と捉えているものとは思われない。また,甲6によれば,本件LLCのマネージング・メンバーであるBは,本件分配金のうち,21万3847ドルを出資金の払戻しと捉えていた旨述べていることが認められる。そして,NYLLC法にも,本件オペレーティング契約にも,出資金の払戻しを禁止する規定はないのであるから,本件LLCがその出資金の払戻しを出資者に対し行うことは可能であるものと考えられる。さらに,本件LLCの米国における税務申告書によれば,平成10年から平成12年の本件LLCの資本勘定(capital account)は負の額になっており,同勘定の動きを要約した部分(partners' account summary)において,本件分配金は,払戻し(withdrawal)として記載されていることが認められる(乙12ないし14)。そうすると,平成10年の本件分配金の一部については,出資金の払戻しと捉える余地があるようにも思われる。

しかしながら,前述のとおり,本件記録上,本件分配金が法的に出資金の払戻しであることを明確にした証拠はない。かえって,甲7ないし11の米国弁護士の意見書によれば,パス・スルー方式を選択したLLCは,米国内においては,原則として構成員に対し非課税で資金を分配することができることから,LLCの構成員は,税務上,それが利益の分配に当たるか,出資金の払戻しに当たるかを基本的に考慮することなく,LLCから資金の分配を受けることが可能であることが認められる。本件においても,原告及びBは,本件LLCが日本においても税務上パス・スルー方式の課税を受けることを前提として,原告及びBに対する分配が利益の分配であるのか,出資金の払戻しであるのかをさほど意識することなく,本件LLCに資金の分配をさせていたことが窺われる。Bが,乙10の1において,「実質的にTH(原告)は,当初出資した42万7694ドルを全額回収し,net proceedとして3万6153ドルを得たことになります。つまり,投資のリスクがゼロになりました。」と記載したことについても,本件LLCから原告に対し原告が当初投資した額を超える額の分配がされたことを述べたものにすぎないものと考えられ,法的に出資金の払戻しを行ったことを述べたものとは考え難い。

また,原告は,今日においても本件LLCの構成員としての地位を維持しており,今後の利益や損失の分担,解散時の財産の配分等については,従前と同様Bとの間では等分の割合による権利義務のあることを自認しているとみられる。

以上からすると,本件分配金の一部が出資金の払戻しに該当するとはいえない。そして,本件分配金を実質的にみればこれが配当所得に該当することは前記のとおりであるから,原告の主張は採用できないというべきである。

3  争点3(通則法65条4項の正当な理由)について

(1)  過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対して課されるものであり,これによって,当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいい,納税者の主観的事情に基づく単なる法律解釈の誤りは,このような場合に当たらないと解するのが相当である(最高裁平成18年11月16日判決・裁判所時報1424号1頁参照)。

(2)  前記事実関係によれば,原告及びBは,本件パートナーシップを本件LLCに転換することによって,本件賃貸ビルに係る共同事業について,有限責任を享受できるようになったことが認められる。また,乙16の8枚目によれば,本件賃貸ビル購入時の証書には,原告及びBが当事者となっていることが認められる一方,前述のとおり,本件LLCに係る契約書等では,本件LLCが当事者となっていることが認められる。さらに,乙2の1の2枚目,2の2の2枚目及び15の5枚目ないし10枚目によれば,本件パートナーシップ契約には,同パートナーシップ自体が本件賃貸ビルを所有する旨の規定は見受けられないところ,本件オペレーティング契約7条には,本件LLCは本件賃貸ビルを所有する旨の規定があることが認められる。以上の事実からすると,原告において,パートナーシップからLLCへ本件賃貸ビルに係る共同事業の形態を変更するに当たって,日本の税務上何らかの変化があり得ることを想定できなかったとまではいえない。

そして,国税庁は,平成13年,そのホームページ上で米国LLCを法人として取り扱う旨公表しているところ,それ以前において,課税当局が米国のLLCを我が国の税務上法人として取り扱わない旨の公的見解を示した形跡はないし,原告に対し,その前提に基づいた納税指導が行われたような事実も窺えない。

さらに,原告本人によれば,原告は,本件各確定申告をするに当たり,LLCの我が国の税務上の取り扱いについて,税務当局等に確認したことは認められず,かえって,米国における税務上の取り扱いが日本でも踏襲されることを疑わずに本件各確定申告を行ったことが窺われる。

(3)  以上の事情を総合すると,原告において,本件分配金が配当所得に当たると認識し得る余地がなかったとはいえず,原告においてこれを所得税額の計算の根拠としなかったこと等については,真に原告の責めに帰することができない客観的な事情があったとまではいえない。

よって,原告には本件過少申告を行うにつき,通則法65条4項にいう「正当な理由」があったということはできない。

(4)  もっとも,乙15ないし22の2,原告本人及び弁論の全趣旨によれば,原告は,Bに対し,本件LLC転換後も,米国における税務上の取扱いが従前と変わらないことを確認したこと,本件各係争年分の確定申告につき本件LLCの損益を申告し,本件各更正処分等にかかる税務調査にも極めて協力的であったこと,また,原告の関与税理士についても本件LLCが我が国の租税法上の法人に該当しないことを前提に本件各確定申告に係る書類を準備していたことが認められる。これらのことからすると,本件において,過少申告加算税を課されることは不本意という原告の立場にももっともな点はあるが,これらを十分しん酌しても,前記判断を左右するものではない。

第4結論

よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 富永良朗 裁判官 櫻井進)

裁判長裁判官豊田建夫は,転補につき,署名押印することができない。裁判官 富永良朗

別紙本件賃貸ビルを370万ドルと評価した場合の本件各係争年末における本件LLCの貸借対照表

平成10年末

資産

単位:ドル

負債及び純資産

単位:ドル

現金

393,437

非遡求型借入

2,389,112

他の流動資産

10,517

他の負債

65,281

本件賃貸ビル

3,700,000

純資産

1,743,142

無形固定資産

93,581

資産合計

4,197,535

負債及び純資産合計

4,197,535

平成11年末

資産

単位:ドル

負債及び純資産

単位:ドル

現金

213,336

非遡求型借入

2,368,332

他の流動資産

10,630

他の負債

70,978

本件賃貸ビル

3,700,000

純資産

1,556,641

無形固定資産

71,985

資産合計

3,995,951

負債及び純資産合計

3,995,951

平成12年末

資産

単位:ドル

負債及び純資産

単位:ドル

現金

187,292

非遡求型借入

2,346,450

他の流動資産

12,795

他の負債

73,087

本件賃貸ビル

3,700,000

純資産

1,530,939

無形固定資産

50,389

資産合計

3,950,476

負債及び純資産合計

3,950,476

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