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さいたま地方裁判所 平成17年(行ウ)7号 判決 2006年8月02日

主文

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件各請求の原告適格の有無)について

(1)  行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解するのが相当である。そして、当該処分の根拠を定めた行政法規が、それによって特定の範囲の個人の権利利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課している場合には、根拠法規によって保護の対象とされた権利利益の帰属主体である者は法律上保護された利益を有する者として当該行政処分の取消しを求める原告適格を有するものである。そして、処分の根拠となる行政法規が、公益の実現を目的としていても、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに止めず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たるものというべきである。なお、義務付けの訴えや、義務付けの訴えの性質を有すると解される無名抗告訴訟についても、その原告適格の有無は、同様に考えられるべきである。

そして、行政事件訴訟法9条2項によれば、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言によることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとし、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものとされている(なお、同法37条の2第3項参照)。

そこで、上記の見地に立って、本件において、原告らが本件各請求の原告適格を有するか否かを検討する。

(2)  前提となる事実

前に基本的事実関係に記載した本件事実の経過を要約して再掲すると、次のとおりである。

ア  原告らは、本件開発地周辺の住民であり、その位置関係は概ね別紙1のとおりであり、本件開発地に最も近い原告X1の場合も自宅から約188メートルの距離があり、原告X2宅は約357メートル、原告X5宅は約563メートル、原告X3宅は約1156メートル、原告X4宅は約1190メートルの距離がある(〔証拠省略〕)。

イ  本件開発地は、面積合計3290.23平方メートルの土地であって、別紙2のとおり、市街化調整区域内に位置している。なお、本件開発地の周辺については別紙2のとおり都市計画が定められている(〔証拠省略〕)。

また、本件開発地は、東側において市道1号線(幅員16メートル)に、西側において市道713号線(幅員5.35メートル)に、南側において市道480号線(幅員8.0メートル)にそれぞれ接しており(〔証拠省略〕)、このうち市道1号線は、別紙3のとおり、県道と交差している(〔証拠省略〕)。

ウ  a社は、平成16年8月23日、被告朝霞市長に対し、本件開発地にガソリンスタンドとコンビニエンスストアを建築することを予定して都市計画法29条所定の開発行為許可申請を行った。

被告朝霞市長は、同月24日、a社に対し、本件許可申請の開発行為につき、都市計画法36条の規定により開発行為に関する工事が完了したときは工事完了届を提出し工事完了検査を受けることを条件として、都市計画法29条に基づき許可した(本件許可処分、〔証拠省略〕)。

エ  埼玉県建築主事は、9月21日、本件許可処分の予定建築物である本件給油所及び本件コンビニエンスストアにつき、建築基準法6条1項に基づく建築確認をした(〔証拠省略〕)。

オ  a社は、10月26日、被告朝霞市長に対し、都市計画法35条の2第1項に基づき、排水計画の変更を理由として本件許可処分に係る開発許可事項につき変更許可申請を行った(〔証拠省略〕)。

被告朝霞市長は、平成16年11月30日、a社に対し、上記変更許可申請のとおり変更する旨の許可を行った(〔証拠省略〕)。

埼玉県建築主事は、平成17年1月21日、変更後の本件給油所及び本件コンビニエンスストアの計画について、建築基準法6条1項に基づく建築確認をした(〔証拠省略〕)。

カ  開発行為に関する工事についての検査済証の交付等

被告朝霞市長は、同年4月18日、本件開発工事について検査を行い、同月19日、a社に対し、都市計画法36条2項に基づき、開発許可の内容に適合している旨証明する検査済証を交付した(〔証拠省略〕)。また、埼玉県建築主事の委任を受けた埼玉県技術吏員は、同日、a社に対し、本件給油所及び本件コンビニエンスストアの新築工事につき建築基準法7条5項に基づく検査済証の交付をした(〔証拠省略〕)。

被告朝霞市長は、同月20日、都市計画法36条3項に基づき、本件開発工事が完了した旨公告した(〔証拠省略〕)。

(3)  判断

ア(ア)  原告らは、まず、概ね、「都市計画法33条1項5号ロは、当該開発許可申請に係る開発区域の土地について地区防災施設の区域などが定められているときは、予定建築物等の用途などが地区防災施設の区域の定めの内容に即していなければ開発許可をすることができないとしているところ、この規定の趣旨及び目的は、震災等の災害から地域住民の生命、身体及び財産を保護することにある。そして、本件開発地は都市計画法33条1項5号ロの「地区防災施設の区域」に含まれ、本件開発地にガソリンスタンド等が建築されることは、震災等の災害時において原告らの避難場所への避難を困難とし、原告らの生命、身体の安全を著しく害するから、原告らに本訴の原告適格がある。」と主張する。

(イ) しかし、上記原告らの主張を採用することはできない。

都市計画法33条1項5号ロ所定の「地区防災施設の区域」に該当するためには、その前提として、当該区域を含む土地について防災街区整備地区計画が定められていなければならないことは文言上明らかである。

しかるに、本件開発地及びその周辺地において、防災街区整備地区計画が定められているとは証拠上認められない(〔証拠省略〕)。

そもそも、防災街区整備地区計画は、密集市街地内の区域であり、かつ、当該区域における特定防災機能の確保を図る上で必要となる適正な配置及び規模の公共施設がない区域であること、当該区域における特定防災機能に支障を来している区域であること、及び都市計画法8条1項1号に規定する用途地域が定められている区域であることという条件を満たす場合に、定めることができるものである(密集市街地整備法32条1項)。そして、密集市街地とは、当該区域内に老朽化した木造の建築物が密集しており、かつ、十分な公共施設がないことその他当該区域内の土地利用の状況から、その特定防災機能が確保されていない市街地をいうところ(密集市街地整備法2条1号)、本件開発地は前述のとおり市街化調整区域内の土地であって、本件開発地及びその周辺地は、密集市街地とはいえないし、また、本件開発地及びその周辺地には、都市計画法8条1項1号の用途地域が定められていない(別紙2参照)。そうすると、本件開発地及びその周辺地に「防災街区整備地区計画」が定められているとは認め難い。

(ウ) したがって、本件開発地及びその周辺地は、現に防災街区整備地区計画の対象区域ではないのみならず、密集市街地でない以上防災街区整備地区計画の対象区域になり得ないのであるから、原告らが、都市計画法33条1項5号ロが保護している権利利益、すなわち密集市街地内の区域における延焼防止機能及び避難機能の確保を通じた火事又は地震時の地域住民の生命及び身体の安全を図る利益を有しているとはいい難く、この点の原告らの主張は採用できない。

なお、原告らは、都市計画法33条1項5号ロの「地区防災施設の区域」とは、「防災街区整備地区計画」において定められたものと限らないと解するべきであると主張するが、独自の見解であって採用できない。

イ(ア)  次に、原告らは、概ね、「ガソリンスタンドは、極めて揮発性が高く、引火、爆発の危険のあるガソリンや液化ガス等を大量に貯蔵する危険施設である。朝霞市地域防災計画においても、ガソリンスタンドは『消防法の規制を受ける危険物施設』として、その所有者や管理者に対し保安の確保を図るよう指導することが明記され、また、地震が発生した場合には、ガソリンスタンドから周辺地域住民を避難させ、そしてその旨を広報措置をとることが施設管理者に義務付けられている。また、朝霞市地域防災計画は、災害対策基本法5条及び42条の規定に基づき、朝霞市民の生命、身体及び財産を震災等の災害から守るため、朝霞市防災会議が作成した地域防災計画であるところ、同計画においては、本件開発地に隣接する朝霞第三中学校、朝霞第十小学校及び溝沼保育園が震災等の災害時の避難場所として指定されており、また、溝沼保育園に隣接する老人福祉センターは福祉避難所に、本件開発地に隣接する溝沼市民センターは災害時の帰宅困難者のための避難場所に指定されている。

原告らは、別紙1のとおり居住しており、震災等の災害時には、本件開発地に隣接した上記各避難場所に避難することになる。そうすると、本件開発地に、揮発性が高く、引火、爆発の危険性が極めて高いガソリンや液化スタンド等を大量に貯蔵する危険物施設であるガソリンスタンドが建築されることは、震災等の災害時における原告らの生命、身体の安全を著しく害するものである。そこで、原告らは、行政事件訴訟法9条所定の『処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者』に該当する。」旨主張する。

(イ) しかしながら、ガソリンスタンドが地震等の災害時において特に危険な施設となり、避難所等への避難が困難となったり、原告ら周辺住民の生命、身体の安全性を著しく害する可能性があるとまでは本件証拠上認め難い。

たしかに、消防法10条、11条によれば、ガソリンスタンドは危険物の取扱所として、その設置には市町村長等の許可を要し、市町村長等はその許可申請があったときはガソリンスタンド等の位置、構造及び設備が技術上の基準に適合し、かつ当該ガソリンスタンドにおいて危険物の取扱い等が公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を生ずるおそれがないかどうかを審査した上で許否を判断しなければならない。

しかし、〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨によれば、

a 神戸市においては、阪神・淡路大震災に際し、合計175件の火災が発生したが、発生した火災175件中原因の判明した81件について、ガソリンスタンドが原因となって火災が発生した事実は認められなかった(〔証拠省略〕)、

b 埼玉県は、平成16年11月1日、埼玉県石油業協同組合との間において、災害時における徒歩帰宅者支援に関する協定を締結したが、それは、埼玉県域で地震等による災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に、徒歩帰宅者を支援することを目的とし、災害時に、埼玉県石油業協同組合が、組合員の給油所において、徒歩帰宅者の一時休憩所として飲料水やトイレの提供をすることやラジオ、テレビ等による災害情報等の提供に関する支援することを定めたものである(〔証拠省略〕)、との各事実が認められる。

以上の事実によれば、ガソリンスタンドは、消防法10条、11条の上では危険物の取扱所等としてその設置に市町村長の許可が要求されているとはいえ、その設置、構造及び設備が消防法上の技術上の基準に適合するものとして、その設置が許可されたもの(本件はこれに当たると推認される。)については、災害時にガソリンスタンドにおいて火災等が生ずるおそれが、他の施設に比べ、一般的に明らかに高いとまでいうことはできず、むしろ、埼玉県などはガソリンスタンドを災害時における支援施設と位置付けていることが窺われる。

(ウ) そうすると、本件において、原告らは、本件開発地が接する道路を通行して本件開発地に隣接した避難場所に避難する可能性があるとしても、本件開発地に本件給油所が建築されることにより、原告らの災害防止や避難等に支障が生じ、原告らの生命及び身体の安全等が脅かされるおそれが生じるとまでは認められず、この点の原告らの主張も採用できない。

イ  上記の消防法の外、建築基準法等、都市計画法と目的を共通にしているといい得る他の法令の趣旨及び目的を参酌した上で検討しても、原告らの居住地が本件開発地の中心から約188メートル(原告の主張に拠っても本件開発地から最短で150メートル)以上離れていること等にかんがみれば、前記判断を左右するものではない。

ウ  以上によれば、本件の開発許可により、本件開発地の近くに住む原告らに一定の交通、環境などの面での影響が及ぶといっても、都市計画法の開発許可の運用によってもたらされるいわゆる反射的利益ないし事実上の利益の域に止まるものであり、原告らは、「処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法9条)及び「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法37条の2)に該当するとは認め難いから、本件各取消請求及び本件義務付け請求の原告適格を認めることはできない。また、本件不作為違法確認請求も実質的には義務付け訴訟としての性質を有するとみるのが相当であり、原告らが「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」に該当しない以上、本件不作為違法確認請求の原告適格も認めることができない。

2  本案について

以上からすれば、原告らの本件訴えはいずれも訴訟要件たる原告適格を欠き、争点2ないし4で掲記したその余の点を論ずるまでもなく、不適法な訴えとして却下すべきことになるが、本件事案の性質と訴訟の推移にかんがみ、念のため本案についても検討しておく。

(1)  争点5(都市計画法33条1項違反の有無)について

原告らは、本件開発地について「朝霞都市計画(朝霞市)」、「第3次朝霞市総合振興計画」及び「第3次朝霞市総合振興計画後期基本計画」が定められていることから、本件開発地には都市計画法33条1項5号イの「地区計画」が定められているとして、本件許可処分が都市計画法33条1項5号イ及びロに違反する旨主張する。しかしながら、前記のとおり、本件開発地には、防災街区整備地区計画の定めがなく、他の地区計画等の定めもないのであるから(〔証拠省略〕)、原告らの主張は採用できない。そうすると、本件許可処分は都市計画法33条1項5号に違反するということはできない。

また、原告らは、本件許可処分が都市計画法33条1項2号後段に違反する旨主張する。しかしながら、都市計画法上の「都市計画」とは、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画であり、都市計画法2章の規定に従い定められたものをいうところ、原告らが都市計画であると主張する第3次朝霞市総合振興計画及び第3次朝霞市総合振興計画後期計画並びに朝霞市地域防災計画は、都市計画法2章の規定に従い定められた都市計画ではない。そうすると、本件許可処分は33条1項2号後段に違反するということもできない。

そうすると、この点の原告らの主張は採用できない。

(2)  争点6(都市計画法34条8号、都市計画法施行令29条の5、朝霞市審査基準違反の有無)について

ア  都市計画法34条8号によれば、市街化調整区域内においては、例外的に「市街化区域内において建築又は建設することが困難又は不適当なものとして政令に定める建築物等の用に供する目的で行う開発行為」が許容されることになっており、これを受けて都市計画法施行令29条の5第1号は、市街化区域内において建築し又は建設することが困難又は不適当な建築物等として、「道路の円滑な交通を確保するために適切な位置に設けられる道路管理施設、休憩所又は給油所等である建築物又は第一種特定工作物」を掲げている。

そして、これを受けて、朝霞市は平成6年に都市計画法29条の開発許可に関する審査基準を定めているところ、平成15年6月改正以降の審査基準(〔証拠省略〕)では、都市計画法34条8号、同施行令29条の5第1号に係る休憩所(ドライブイン・コンビニエンスストア)及び給油所の開発区域について、「市街化調整区域内の現に供用されている国道、県道又はこれらの道路と交差又は接続する幅員12メートル以上の市町村道(国道又は県道と交差又は接続する箇所から12メートル以上の幅員が連続する区間に限る。)に6メートル以上接していること」と規定していることが認められる。

イ  ところで、前記のとおり、本件給油所及び本件コンビニエンスストアが建築された本件開発地は市街化調整区域内にあり、また、市道1号線(幅員16メートル)に6メートル以上接し、市道1号線は、別紙3のとおり、県道と交差している事実が認められる。

そうすると、本件開発地は、現に供用されている幅員12メートル以上の市道に6メートル以上接し、当該市道は県道と交差しているのであるから、本件開発地は、審査基準の定める給油所及び休憩所の開発区域の要件に該当するものであり、したがって、本件許可処分は朝霞市の審査基準に違反しているとは認め難い。

ウ(ア)  これに対し、原告らは、朝霞市の審査基準は、本件許可申請及び本件許可処分がなされた当時、平成10年7月10日に変更され備え付けられた旧審査基準(〔証拠省略〕)が効力を有しており、平成15年6月1日に変更されたとされる新審査基準(〔証拠省略〕)は、真実は変更がされておらず、存在しなかったというが、これを認めるに足りる証拠はない。

かえって、〔証拠省略〕によれば、朝霞市は、平成6年に定めた審査基準を、平成8年2月1日、同年4月1日、平成9年12月9日、平成10年3月10日、同年7月10日、平成15年6月1日に変更して備え付けたこと、その後、平成16年5月26日、上記審査基準設定の経緯につき「※変更日の追記 変更:平成15年6月1日」とする改正がなされたことが認められる。

(イ) また、原告らは、新審査基準(〔証拠省略〕)によれば、開発区域が市町村道と接するのみである場合、当該市町村道と国道又は県道とが市街化調整区域内で交差又は接続していることを要すると主張するが、新審査基準並びに都市計画法34条8号及び都市計画法施行令29条の5の文言及び趣旨等を勘案すれば、このような限定的解釈を相当とすべき事由は見出し難く、原告らの上記主張は採用できない。

(ウ) また、原告らは、本件開発地にガソリンスタンドを設置することは、都市計画法施行令29条の5第1号の「適切な位置」の要件に当たらないと主張するが、上記主張を認めるに足りる証拠はない。

エ  以上より、本件許可処分は、都市計画法34条8号、都市計画法施行令29条の5及び新審査基準に違反した違法事由があるとは認め難い。

(3)  争点7(本件許可処分の手続上の違法性の有無)について

ア  都市計画法30条1項2号、5号、34条1項1号、8号違反の有無

(ア) 都市計画法30条1項2号、5号違反の有無

原告らは、本件申請をしたa社の法人登記の会社の目的欄にはコンビニエンスストアの業務が記載されていないことを問題としている。しかし、市街化調整区域に係る開発許可は、前述のとおり、申請に係る開発行為が都市計画法33条及び34条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であると解される。

そして、許可権者は、都市計画法33条及び34条所定の要件以外の事項についてまで審査することは法律上要求されていないのであって、また、審査する権限を有しているともいえない。そうすると、許可権者のなした開発許可処分が違法となるのは、原則として、都市計画法33条及び34条所定の要件に違反するか又は手続的要件に違反する場合に限られるというべきである。

これを本件についてみると、〔証拠省略〕によれば、開発許可申請に際し、申請者が法人である場合であっても、申請者の登記簿を提出することは都市計画法及びその関係法令上要求されていないことが認められる。そうすると、a社は、a社の登記簿を被告朝霞市長に提出する必要はなく、また、許可権者である被告朝霞市長は、a社の登記内容についてまで審査することは要求されていないし、また、審査する権限も有していないというべきである。そうすると、a社の定款の目的にコンビニエンスストアに関する業務が規定されていないとしても、それをもって本件許可処分が違法となるとは認め難い。

(イ) 都市計画法34条1項1号、8号違反の有無

基本的事実関係記載のとおり、本件許可通知書(〔証拠省略〕)の「予定建築物等の用途」欄には、「店舗」と記載されるのみで、「給油所」や「コンビニエンスストア」といった記載がないことが認められる。しかし、本件許可通知書(〔証拠省略〕)には「都市計画法第34条の該当号」欄に「8号」という記載があること、及び本件許可申請(〔証拠省略〕)は「予定建築物等の用途」欄に「給油所・コンビニエンスストア」と記載され、「法第34条の該当号及び該当する理由」欄に「34条8号 給油所・コンビニエンスストア」と記載されていることが認められる。

そうすると、本件許可通知書に「都市計画法第34条の該当号」欄に「8号」という記載があることからして、被告朝霞市長は本件許可申請に係る開発行為が都市計画法34条8号に該当するとして本件許可処分をなしたことは明らかであり、本件許可申請書の「予定建築物等の用途」欄及び「法第34条の該当号及び該当する理由」欄の記載をも併せて考えれば、本件許可処分が、「給油所」及び「コンビニエンスストア」を予定建築物とする開発行為を許可したものであることは明白である。

そうすると、本件許可通知書の「予定建築物等の用途」欄に「店舗」と記載したことも誤りであるとまでは断じ難く、「給油所」及び「コンビニエンスストア」の記載がないとしても、本件許可処分の取消しを相当とするまでの違法があるとまでは認め難い。

なお、また、〔証拠省略〕によれば、被告は、a社から平成16年10月26日付けで開発許可事項変更許可申請がなされた(〔証拠省略〕)ことを受けて、同年11月30日付けで開発許可事項変更許可通知書(〔証拠省略〕)を出したこと、その中で「予定建築物の用途」欄に「給油所・コンビニエンスストア」と、「工事施行者住所氏名」欄に「東京都千代田区<以下省略> b(株) 代表取締役社長 A」と記載していることが認められる。そうすると、仮に上記のように本件許可通知書の「予定建築物の用途」欄の記載に瑕疵があるとしても、その瑕疵は上記変更許可により治ゆされているとみるのが相当であるから、いずれにせよ、この点の原告らの主張は理由がないというべきである。

イ  都市計画法30条1項4号違反の有無

〔証拠省略〕によれば、本件許可申請書や許可通知書の「工事施行者住所氏名」欄は未定や空白のままとなっていることが認められる。ところで、〔証拠省略〕によれば、都市計画法30条1項4号は、開発許可申請書に工事施行者の記載を要求しているが、一方、開発区域の面積が1ヘクタール未満で予定建築物が自己用の建築物等である場合(本件はこれに該当する。)は、工事施行者の施行能力は都市計画法33条の開発許可の基準事項とはされていないことが認められる。すなわち、都市計画法33条1項13号は、「主として、自己の居住の用に供する住宅の建築の用に供する目的で行う開発行為又は住宅以外の建築物若しくは特定工作物で自己の業務の用に供するものの建築若しくは建設の用に供する目的で行う開発行為(当該開発行為の中断により当該開発区域及びその周辺の地域に出水、がけ崩れ、土砂の流出等による被害が生じるおそれがあることを考慮して政令で定める規模以上のものを除く。)以外の開発行為にあっては、工事施行者に当該開発行為に関する工事を完成するために必要な能力があること。」と定めているところ、「政令で定める規模」とは、1ヘクタールをいう(都市計画法施行令24条の3)としていることが認められる。ところで、上述のとおり、本件許可申請において、a社は、本件給油所及び本件コンビニエンスストアを自己の業務の用に供する予定の建築物としていたものであり、本件開発地の面積は3290.23平方メートルであるから、本件許可申請においては、都市計画法33条1項13号は審査対象にならない。

そうすると、本件許可申請書や許可通知書に工事施行者が「未定」と記載され、あるいは空白のままであったとしても、そのことをもって本件許可処分の取消しを要するほどの違法事由となるとは認め難い。

なお、前記のとおり、〔証拠省略〕によれば、被告は、a社から平成16年10月26日付けで開発許可事項変更許可申請がなされた(〔証拠省略〕)ことを受けて、同年11月30日付けで開発許可事項変更許可通知書(〔証拠省略〕)を出したこと、その中で「工事施行者住所氏名」欄に「東京都千代田区<以下省略> b(株) 代表取締役社長 A」と記載していることが認められる。そうすると、仮に上記のように本件許可通知書の「工事施行者住所氏名」欄の記載に瑕疵があるとしても、その瑕疵は上記変更許可により治ゆされているとみるのが相当である。したがって、いずれにせよ、この点の原告らの主張は理由がないというべきである。

ウ  都市計画法30条2項違反の有無

〔証拠省略〕によれば、本件許可申請における排水整備計画は、本件開発地に本件給油所及び本件コンビニエンスストアを建築するとともに合併処理浄化槽を設け、排水を浄化した後、雨水管に放流するというものであると認められる。

そうすると、本件においては、本件許可申請は、黒目川に直接排水を放流することを内容とするものではないから、黒目川の管理者である埼玉県知事の同意を求めることは、都市計画法32条1項上、不要である。

したがって、本件許可申請に当たり、都市計画法32条1項に規定する埼玉県知事の同意を得たことを証する書面が添付されていないからといって、本件許可申請が都市計画法30条2項に違反するということはできない(なお、〔証拠省略〕によれば、a社は朝霞市長と公共施設の管理に関し都市計画法32条に基づく協議をしているが、協議の経過を示す書面(〔証拠省略〕)は本件許可申請に当たり、朝霞市に提出されていると推定される。)。

エ  小括

以上より、本件許可処分の手続が都市計画法30条1項2号、5号、34条1号、8号、30条1項4号、同条2項に違反するものではなく、また、ほかの手続規定に違反すると認めることもできない。したがって、本件許可処分がその手続において違法であると認めることはできない。

3  結論

以上の次第であり、本件訴えはいずれも不適法であるから却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 城阪由貴)

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