大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成18年(ワ)121号 判決 2007年11月30日

主文

1  被告は,原告Aに対し,6298万2645円及びこれに対する平成16年10月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告Bに対し,1032万1178円及びこれに対する平成16年10月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告Cに対し,1032万1178円及びこれに対する平成16年10月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告Dに対し,165万円及びこれに対する平成16年10月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  原告らのその余の請求を棄却する。

6  訴訟費用は,これを20分し,その3を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。

7  この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,原告Aに対し,7198万7155円及びこれに対する平成16年2月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告Bに対し,1254万7305円及びこれに対する平成16年2月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告Cに対し,1254万7305円及びこれに対する平成16年2月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告Dに対し,165万円及びこれに対する平成16年2月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告らが,被告に対し,H(以下「H」という。)が運転し,I(以下「I」という。)が同乗し,J(以下「J」という。)が保有する自動車と,亡E(以下「亡E」という。)が運転し,原告A,原告B,原告C及び亡F(以下「亡F」という。)が同乗し,死亡前相原告G(以下「亡G」という。)が所有する自動車との交通事故(以下「本件事故」という。)について,亡Gと被告との間の自家用自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)の無保険車傷害条項に基づき,保険金の支払及びこれに対する保険金の支払を請求した日の翌日である平成16年2月6日から支払済みまで年6分の割合に基づく遅延損害金の支払を求める事案である。

1  前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 原告ら,亡E,亡F及び亡Gの親族関係は,別紙相続関係図(省略)記載のとおりである。

イ 被告は,損害保険業等を目的とする株式会社である。

(2)  保険契約の締結

亡Gは,平成15年6月18日,被告との間で,次のとおり,自動車総合保険普通約款に基づいて,自家用自動車総合保険契約(SAP)(本件保険契約)を締結した。

ア 保険期間  平成15年6月30日から平成16年6月30日まで

イ 被保険自動車  自家用軽四輪貨物車(以下「被害車両」という。)

ウ 被保険者  亡G

エ 保険金額

(ア) 対人賠償保険  1名につき1億円

(イ) 対物賠償保険  1事故につき500万円

(ウ) 無保険車傷害保険  1名につき1億円

(エ) 自損事故保険  1名につき1500万円

オ 無保険車傷害条項(上記約款第3章)には,概略次の内容が定められている。(乙1)

(第1条1項)

被告は,無保険自動車の所有,使用又は管理に起因して,被保険者の生命が害されること,又は身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じること(以下「無保険車事故」という。)によって被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被る損害に対して,賠償義務者がある場合に限り,無保険車傷害条項及び一般条項に従い保険金を支払う。

(第2条1項5号)

被保険自動車の正規の乗車装置又は当該装置のある室内に搭乗中の者は,無保険車傷害条項にいう被保険者とする。

(第3条3項,4項,6項,第4条1項)

無保険自動車とは,相手自動車(被保険自動車以外の自動車であって被保険者の生命又は身体を害した自動車をいう。ただし,被保険者が所有する自動車及び日本国外にある自動車を除く。)であって,次の各号のいずれかに該当する自動車をいう。

(ア) その自動車について適用される対人賠償保険等(自動車の所有,使用又は管理に起因して他人の生命又は身体を害することにより,法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して保険金又は共済金を支払う保険契約又は共済契約で自動車損害賠償保障法に基づく責任保険又は責任共済以外のものをいう。)がない場合

(イ) その自動車について適用される対人賠償保険等によって,被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被る損害について,法律上の損害賠償責任を負担する者が,その責任を負担することによって被る損害に対して保険金又は共済金の支払を全く受けることができない場合

(ウ) その自動車について適用される対人賠償保険等の保険金額又は共済金額が,この保険証券記載の保険金額に達しない場合

(第9条)

(ア) 被告が保険金を支払うべき損害の額は,賠償義務者が被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額によって定める。

(イ) 被告が保険金を支払うべき損害金の額は,保険金請求権者と賠償義務者との間で損害賠償責任の額が定められているといないとにかかわらず,次の手続によって決定する。

a 被告と保険金請求権者との間の協議

b 前号の協議が成立しない場合は,評価人及び裁定人による手続(一般条項19条)又は被告と保険金請求権者との間における訴訟,裁判上の和解若しくは調停

カ 一般条項(上記約款第6章)には,次の内容が定められている。

(14条9号)

保険契約者又は被保険者が,事故が発生したことを知った場合において,被告から,特に必要とする書類又は証拠となるものを求められた場合は,遅滞なく,これを提出し,また被告が行う損害又は傷害の調査に協力しなければならない。

(15条1項)

保険契約者又は被保険者が,正当な理由がなくて14条9号の規定に違反した場合は,被告は保険金を支払わない。

(第20条1項3号,2項)

(ア) 無保険車傷害条項に係る被告に対する保険金請求権は,被保険者が死亡した時又は被保険者に後遺障害が生じた時から発生し,これを行使することができるものとする。

(イ) 被保険者が保険金の支払を請求する場合は,保険金請求権発生の時の翌日から起算して60日以内又は被告が書面で承認した猶予期間内に,保険証券に添えて次の書類又は証拠を被告に提出しなければならない。

a 保険金の請求書

b 損害の額又は傷害の程度を証明する書類

c 公の機関が発行する交通事故証明書

d 被保険自動車の盗難による損害の場合は,所轄警察官署の証明書又はこれに代わるべき書類

e その他被告が特に必要と認める書類又は証拠

(第21条)

被告は,被保険者が上記20条2項の手続をした日からその日を含めて30日以内に保険金を支払う。ただし,被告がこの期間内に必要な調査を終えることができない場合は,これを終えた後,遅滞なく保険金を支払う。

(3)  本件事故について

ア 日時 平成15年8月10日午後2時40分ころ

イ 場所 埼玉県秩父郡a先国道299号線路上

ウ 態様

(ア) Hは,助手席にIを同乗させ,J保有の普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)で,国道299号線を秩父市方面から飯能市方面に向けて進行した。

(イ) 亡Eは,助手席に原告A,後部座席に原告B,原告C及び亡Fを同乗させ,被害車両で,国道299号線を飯能市方面から秩父市方面に向けて進行した。

(ウ) Hは,上記日時場所を時速約50キロメートルの速度で進行中,前方左右を注視し,進路を適正に保持して自車線を進行すべき注意義務があるのにこれを怠り,加害車両を対向車線に進出させ,加害車両前部を,折から対向進行してきた被害車両右前部に衝突させた。

エ 被害状況

(ア) 亡Eは,右大腿骨骨折,左右下腿開放性骨折,出血性ショック等の傷害を負い,本件事故当日である平成15年8月10日午後11時37分ころ,搬送先の秩父市立病院において失血により死亡した。

(イ) 原告Aは,全治約3か月を要する右大腿骨転子下骨折,右尺骨骨幹部骨折,左恥骨座骨骨折等の傷害を負った。

(ウ) 原告Bは,約3週間の加療を要する右第5趾骨折等の傷害を負った。

(エ) 原告Cは,全治約6か月を要する頭蓋骨骨折,外傷性脳内出血,外傷性くも膜下出血,左半身麻ひ等の傷害を負った。

(オ) 亡Fは,頭蓋骨骨折等の重傷を負い,平成15年8月17日午前9時48分ころ,搬送先の埼玉医科大学附属病院において,びまん性脳損傷により死亡した。

(4)  Hの損害賠償責任

本件事故は,Hが前方左右を注視し,進路を適正に保持して自車線を進行すべき注意義務に違反して加害車両を対向車線に進出させた過失によって発生したから,Hは,民法709条に基づき,本件事故によって亡E及び亡Fに発生した損害を賠償する責任がある。

(5)  原告らの保険金請求権

Jは,保険会社との間で,加害車両につき対人賠償保険等を締結していた。上記対人賠償保険等は,運転者を家族に限定する特約が付されており,Hは,本件損害賠償責任の負担につき,保険金の支払を全く受けることができない。したがって,加害車両は無保険自動車に当たり,被告は,次の損害につき,保険金を支払う義務がある。

ア 亡Eの死亡によって,本人,父母である亡G及び原告D,配偶者である原告A並びに子である原告B,原告C及び亡Fに生じた損害

イ 亡Fの死亡によって,本人及び母である原告Aに生じた損害

(6)  亡Eの本件損害賠償請求権及び保険金請求権は,原告ら及び亡Fが法定相続分に従い相続し,亡Fの本件損害賠償請求権及び保険金請求権は,原告Aが相続した。

(7)  亡Gは,平成18年2月15日に死亡し,原告D,原告B及び原告Cが法定相続分に従い相続した。

2  争点

(1)  損害額について

ア 亡Eの死亡によって本人,父母である亡G及び原告D,配偶者である原告A並びに子である原告B,原告C及び亡Fに生じた損害はいくらか。(争点Ⅰ)

イ 亡Fの死亡によって,本人及び母である原告Aに生じた損害はいくらか。(争点Ⅱ)

(2)  遅延損害金について

ア 遅延損害金の起算日はいつか。(争点Ⅲ)

イ 遅延損害金の利率は年6分であるか。(争点Ⅳ)

3  争点に対する当事者の主張

(1)  争点Ⅰ(亡Eの死亡による損害額)について

(原告ら)

ア 逸失利益(亡E本人)  6003万3833円

(ア) 基礎収入  557万9000円

亡Eは,平成9年ころから水道配管工事業を営んでいたが,仕事量が少なくなってきたため,平成13年ころから有限会社Pにおいて,いわゆる一人親方として,土木作業の仕事に従事していた。亡Eは,有限会社Pから本件事故前の1年間に上記金額を報酬として受領しており,この金額が基礎収入となる。

予備的に,平均賃金額(平成15年男性労働者学歴計)の547万8100円を基礎収入とすべきことを主張する。

(イ) 生活費控除  30%

(ウ) 労働能力喪失期間  30年間

亡Eは,死亡時,37歳であり,30年間就労可能であった。

(エ) 中間利息の控除  15.3724

30年間に対応するライプニッツ係数

(オ) 計算式

557万9000円×(1-0.3)×15.3724=6003万3833円

イ 葬儀費(原告Aの損害)  150万円

ウ 慰謝料

(ア) 亡E本人  2500万円

(イ) 原告A  300万円

(ウ) 原告B,原告C及び亡F  各200万円

(エ) 亡G及び原告D  各100万円

(オ) 慰謝料算定の基礎となる事情

本件事故の被害状況の重大さ,むごたらしさに加えて,Hが自動車運転免許を有していなかったこと,HはIとともに前夜から本件事故時まで継続して飲酒し,加害車両内でも飲酒をしながら運転していたこと,Hは睡眠不足と飲酒の影響(事故時の呼気中のアルコール濃度は,0.494から0.578mg/lと推測される。)で正常に運転できない状態で仮睡状態に陥り,ハンドルを右に急操作したため本件事故に至ったこと,Hが捜査段階において自分は運転していないなどの虚偽供述を繰り返したことなどを考慮すれば上記金額が相当である。

無保険車傷害条項に基づく保険金請求においても,保険金の額は,賠償義務者が被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額によって定めるのであり,上記金額が相当であることに変わりはない。

エ 既払金  -3000万円

オ 弁護士費用

(ア) 原告A  430万円

(イ) 原告B及び原告C  各110万円

(ウ) 亡G及び原告D  各10万円

カ まとめ

(ア) 亡E本人  (5503万3833円)

うち 原告A相続分及び亡F相続分  3668万9221円

(亡Fの損害賠償請求権はのちに原告Aが相続した。)

うち 原告B,原告C相続分  各917万2305円

(イ) 原告A  450万円

(ウ) 原告B,原告C  各310万円

(エ) 亡F  200万円

(オ) 亡G  (110万円)

うち 原告D相続分  55万円

うち 原告B,原告C相続分  各27万5000円

(カ) 原告D  110万円

(被告)

ア 逸失利益の額は争う。

亡Eは,Kとの屋号で土木工事業を営む個人事業者であったから,収入から経費を差し引いた金額が基礎収入となる。亡Eは,有限会社Pから仕事を請け負っていたが,経費は自己負担とされており,亡Eはダンプ等の重機を持ち込んで仕事をしていたから,当然に経費が発生している。本件事故の前年度の確定申告書によれば,亡Eの収入金額は548万7569円で,車両費等の経費を差引き後の所得金額は139万0909円であるから,これを基礎収入とすべきである。

イ 葬儀費は認める。

ウ 慰謝料の額は争う。

Hは,刑事公判期日において自らの責任を認め,亡Eら被害者に対して謝罪し,服役中にも反省及び悔悟の情を示しているのであって,原告ら主張の金額は高額に過ぎ,懲罰的慰謝料を否定する判例の立場にも抵触している。

また,(1)無保険車傷害条項は,加害者から損害の填補を受けられない被保険者に対して,被害者救済の見地から設けられた特約であり,通常の損害額を迅速に填補することを目的としていること,(2)無保険車傷害条項は,対人賠償保険のような賠償責任保険ではなく,傷害保険としての性質を有しており,保険金額の算定も別個になされることが予定されていること,(3)無保険車傷害条項においては,保険会社が賠償義務者を特定することができないから,加害者固有の異常かつ特殊な要素は,保険金算定に当たり考慮されていないことなどを考慮すれば,加害者固有の異常かつ特殊な事情は,保険金算定に当たり考慮すべきではない。

(2)  争点Ⅱ(亡Fの死亡による損害額)について

(原告ら)

ア 逸失利益  2279万7934円

(ア) 基礎収入  547万8100円

(イ) 生活費控除率  50%

(ウ) 労働能力喪失期間  16年後から65年後までの49年間

(エ) 中間利息の控除  8.3233

65年間に対応するライプニッツ係数から16年間に対応するライプニッツ係数を控除した値。 19.1610-10.8377=8.3233

(オ) 計算式

547万8100円×(1-0.5)×8.3233=2279万7934円

イ 葬儀費(原告Aの損害)  150万円

ウ 慰謝料

(ア) 亡F本人  2300万円

(イ) 原告A  500万円

(ウ) 慰謝料算定の基礎となる事情は,争点Ⅰについて主張したとおりである。

エ 既払金  -3000万円

オ 弁護士費用(原告Aの損害)  220万円

カ まとめ

亡F及び原告Aの損害額  2449万7934円

(亡Fの損害賠償請求権はのちに原告Aが相続した。)

(被告)

ア 逸失利益は認める。

イ 葬儀費は認める。

ウ 慰謝料の額は争う。被告の主張は,争点Ⅰについて主張したとおりである。

エ 既払金は認める。

(3)  争点Ⅲ(遅延損害金の起算日)について

(原告ら)

被告の原告ら及び亡Gに対する保険金債務は平成16年2月6日,遅くとも同年9月25日には履行遅滞に陥っていた。

ア 平成16年2月6日を起算日とする根拠

原告Aは,平成16年2月5日までに,被告の担当者に対し,本件保険契約に基づく保険金請求の意思表示をした。被告は,これを受けて,損害賠償金提示のご案内と題する書面(甲19,20)を原告Aに交付している。

イ 平成16年9月25日を起算日とする根拠

原告Aは,平成16年9月24日,被告に対し,保険金請求書(甲30)を提出して,保険金請求の意思表示をした。

ウ 被告の主張に対する反論

(ア) 調査協力義務違反の主張について

原告らは,平成15年10月ころ,被告に対し,公的機関の作成した交通事故証明書,死亡診断書,診療報酬明細書,亡Eの所得証明書,葬儀費明細書,領収書,戸籍謄本及び住民票等の損害額の証明資料を提出し,平成16年9月24日,保険金請求書を提出した。

被告が原告らに対して損害額の証明資料を要求したのは,平成17年12月27日のご通知書と題する書面(乙3)の一度きりであり,上記提出済みの資料のほか,どのような証明資料が必要であるのかも明らかにしなかった。

このような経緯に照らせば,原告らに調査協力義務違反の事実はない。

(イ) 履行期の定めの主張について

一般条項21条が保険金請求の日から30日以内に保険金を支払う旨定めているのは,保険会社が保険金請求を受けた後,保険金支払義務の有無及び範囲を調査・決定するのに相当の日時を要するため,一定の猶予期間を与える趣旨である。

本件において,被告は,上記(ア)で主張したとおり,平成15年10月ころ,損害額の証明資料を入手し,平成16年2月5日までに原告Aに対し,保険金の額を提示しており,保険金支払義務の有無及び範囲は明確になっていた。したがって,平成16年2月5日以降,一般条項21条の適用はなく,民法所定のとおり,請求の時から遅滞に陥るというべきである。

(被告)

争う。遅延損害金の起算日は,訴状送達の日の翌日である平成18年1月31日である。

ア 平成16年2月6日を起算日とする主張について

原告Aが,平成16年9月24日以前に本件保険契約に基づく保険金請求の意思表示をした事実はない。被告が原告Aに対し損害賠償金提示のご案内と題する書面を交付したのは,今後,本件保険契約に基づく保険金請求をするのか,Hら加害者に対する損害賠償請求をするのかを考える際の参考になればよいとの考えからであり,保険金請求を受けたためではない。

イ 平成16年9月25日を起算日とする主張について

原告Aが,平成16年9月24日,被告に対し,保険金請求書を提出した事実は認める。

ウ 調査協力義務違反による免責(一般条項14条9号,15条1項)

(1)原告ら代理人弁護士Lは,被告から,必要書類の提出を繰り返し求められたにもかかわらずこれを提出せず,(2)Hらを相手方とする訴訟につき,被告らに補助参加の機会を与えると言明しながら,訴訟告知等を行わないまま訴訟を遂行し,判決を取得した。これらの事情に照らせば,被告は,訴状送達の日までの遅延損害金の支払義務はない。

エ 履行期の定め(一般条項21条)

本件保険契約に適用される約款一般条項21条には,被告は,被保険者が保険金請求の手続をした日から30日以内に保険金を支払うと定めており,遅延損害金の起算日は,早くとも,原告Aが保険金請求書を提出した平成16年9月24日から30日が経過した平成16年10月24日である。

(4)  争点Ⅳ(遅延損害金の利率)について

(原告ら)

被告は,損害保険業等を目的とする株式会社であるから,遅延損害金の利率は商事法定利率の年6分である。

(被告)

争う。無保険車傷害条項は,賠償義務者が被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被った損害に対して,法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額を填補するものであるから,無保険車傷害条項による保険金の請求は賠償義務者に対する損害賠償請求と同一の性質を有する。Hが原告らに対して負担する損害賠償責任は,民法709条の不法行為責任であるから,遅延損害金の利率も民法所定の年5分とすべきである。

第3争点に対する判断

1  争点Ⅰ(亡Eの死亡による損害額)について

(1)  逸失利益について  4802万7066円

ア 計算式

446万3200円(基礎収入)×(1-0.3)(被扶養者2人以上の男性としての生活費控除)×15.3724(亡Eの就労可能年数30年に対応するライプニッツ係数)

亡Eが死亡時被扶養者2人以上の成年男子であったこと,37歳であったことは,当事者間に争いがない。

イ 基礎収入について

(ア) 基礎収入は,亡Eの本件事故前1年間の収入として認められる557万9000円から,経費として2割を控除し,446万3200円と認める。これについて,以下,詳述する。

(イ) 収入について

a 認定事実

(a) 平成14年7月5日から,平成15年6月5日までの間に,亡Eが経営していた「KE」名義で,有限会社P(以下「P」という。)宛てに発行された領収証(以下「本件領収証」という。)が12通あり,その合計額は557万9000円となる。1通あたりの金額は,30万円ないし65万円程度であるが,いずれも収入印紙が貼られていない。「KE」と記載されたところの右あたりには,いずれも三文判様の「M」との押印がなされている。(甲8の1ないし12)

(b) Kは,Pに宛てて,平成14年7月1日ころ47万7500円,同年8月1日ころ51万5000円,同年9月2日ころ42万円,同年10月1日ころ40万5000円,同年12月1日ころ65万5000円,同年12月28日ころ54万8000円,平成15年2月1日ころ32万5000円,の各請求書を出して,人工代やダンプ代等を請求している。(乙7の4ないし10)

(c) Pは,原告Aの父が経営している。(当事者間に争いがない。)

(d) 亡Eの平成14年分の確定申告では,事業による収入を548万7500円としている。(甲25)

(e) Pの平成14年6月1日から平成15年5月31日までの総勘定元帳には,Kに対し,外注費及び仮払消費として,本件領収証記載の日に,外注費及び仮払消費を合計すると本件領収証に記載された額と同額となる金額が計上されている。(乙6)

(f) 亡Eの預金口座には,Pから,平成14年6月5日に45万円,同年7月5日に47万7500円,同年8月5日に51万5000円,同年11月6日に57万6000円,平成15年3月5日に43万円が,それぞれ振り込まれている。(甲27)

b 検討

(a) 本件領収証にはいずれも収入印紙が貼付されていないこと,Pは原告Aの父が経営しておりPは原告らに親和的な関係にあること,Pから亡Eへの支払は銀行振込で行われたことがあったことからすれば,本件領収証はそれらの各日付のころに作成されたと認めることはできないといわざるをえない。

(b) しかし,Pの総勘定元帳の記載には不自然な点はないこと,そこに計上されている日付に,ほぼ同額の金額がPから亡Eに対し振込で支払われていること,本件領収証に記載された金額の合計額は確定申告における収入をわずかに上回る金額であることなどの事実からすれば,本件領収証に記載された金額どおりに亡Eが収入を得ていたと認めるのが相当である。

(c) この他に亡Eが収入を得ていたと認めるに足りる証拠はないから,557万9000円をもって,亡Eの1年間の収入と認めるのが相当である。

(ウ) 経費について

a 認定事実

(a) Kの平成14年の損益計算書では,経費は合計303万6591円となっている。(甲26)

(b) 原告Aは,上記経費のうち,1,2割がKの事業とは関係のない経費である旨供述している。また,土木建設業の経費率は2割くらいとPを経営する父から聞いている旨供述している。さらに,亡Eはダンプ,ユンボ等3台以上の重機を持っていたこと,それらの維持費として年間20万円程度かかっていたこと,ガソリン代が月額1万円程度であったこと,駐車場代が月額1万2000円であったことを供述する。(原告A本人)

(c) 亡EがPから仕事を請け負った場合,重機を持ち込んだ場合には支払額が増額されるが,基本的に経費は亡Eの負担であった。(乙7の1)

(d) 原告Aは,日本郵便輸送で,平成15年1月から,トラック運転手として働き,月20万円前後の収入を得ていた。(甲54の1ないし5,原告A本人)

(e) 亡E,原告A夫婦は,本件事故当時8歳の原告B,同じく3歳の原告C,同じく2歳の亡Fを扶養していた。(甲6の3,原告A本人)

(f) 亡Eの公庫団体信用生命保険は,平成15年2月28日に,特約料金2万2100円の未納を理由として,脱退となった。その原因は,当該保険料の引き落としがなされている預金口座の残高が足りなかったためである。この預金口座からは,主に住宅金融公庫へ毎月約7万5000円が支払われており,入金がなされた当日に支払がなされていて,残高は1万円を下回っていることが多く,そのような出入金状況は平成15年2月以降も同年7月まで継続している。(甲51ないし53,原告A本人)

(g) 平成16年1月ころ,原告Aは,被告の担当者N(以下「N」という。)に対し,亡Gから家から出て行けといわれたこと,公庫団体信用生命保険は保険料が支払えなかったために解約していること,亡Eが飼育していた熱帯魚に費用がかかること,生活費は原告Aの収入から出していたことなどを述べた。(乙9,証人N)

b 検討

(a) 原告Aは,損益計算書で経費とされている303万6591円のうち,1,2割がKの事業とは関係のない水増し分である旨供述している。これを前提とするとKの経費は少なくとも250万円はあったということになる。税務申告時には領収証等を添付しなければならず,全くの架空の経費を計上することはできないし,事業と無関係な支出をそれほど多額に費用として計上することもできるとも考え難いから,250万円程度の経費はかかっていたと認めるのが相当である。

そうすると,亡Eの所得は300万円程度ということになるが,原告Aが平成15年1月から働き,月額20万円前後の収入を得ていたのは,生活が苦しかったためであったと考えられること,原告AがNに生活が苦しい旨話していたことなどから,亡Eの上記所得額が不自然とはいえない。

なお,Nの上記供述は,全くの作り話とは考え難く,熱帯魚の件など具体性があり,不自然な点も特に見られないから,概ね信用することができる。

また,原告Aは,Kの経費が月額3万円程度であったことや,経費としては車検代等の維持費で年間約20万円,ガソリン代が年間約12万円,駐車場代が年間14万4000円であり,合計約46万4000円程度であることなどを供述する。しかし,原告AはKの帳簿を付ける作業をしており,家計も担当しているはずであるにもかかわらず,全体としてKや亡E及び原告A夫婦の年間の収支状況について明確な供述ができていないから,これを信用して,経費が年額50万円程度にとどまっていたと認定することはできない。

(b) しかし,亡Eは本件事故時37歳であって(甲6の3),将来的に収入が増加する可能性は多分にあったこと,亡EがPの下請として働き始めたのは平成12年3月ころからであって(乙7の1),将来的に経費をより効率化できる可能性があったこと,土木建設業の経費率は2割程度であると窺えることからすれば,基礎収入算定に当たっては,上記(a)の250万円程度ではなく,経費を収入の2割すなわち111万5800円とするのが相当である。

(エ) なお,原告らは予備的に平均賃金の547万8100円を基礎収入とすべき旨主張するが,亡Eは平成9年ころからKの屋号で個人事業を行っていること,ダンプ,ユンボ等3台以上の重機を持っていたこと(甲31,原告A本人)を併せ考えると,上記のとおり557万9000円から,経費として2割を控除した446万3200円の現実収入を得る蓋然性が高いのであって,平均賃金を得られる蓋然性があるとまではいえないとするのが相当であるから,その主張は採用しない。

(2)  葬儀費用について  150万円

原告Aが,亡Eの葬儀費用として150万円を支払ったことは,当事者間に争いがない。

(3)  慰謝料について  総額3600万円

ア 内訳

(ア) 亡E本人  2500万円

(イ) 原告A  300万円

(ウ) 原告B,原告C及び亡F  各200万円

(エ) 亡G及び原告D  各100万円

イ 慰謝料額認定の理由について

(ア) 本件保険の約款中,無保険車傷害条項に関する第3章9条1項では,「保険金を払うべき損害の額は,賠償義務者が被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額」と定められている。無保険車傷害保険が傷害保険の性質を有しているものの,実損填補を目的としているため,損害額を算定する基準として,賠償義務者が負う法的義務を基準としていると解される。そうすると,賠償義務者側の事情により,被保険者やその父母,配偶者及び子(以下「被保険者等」という。)が強く精神的な苦痛を受けた場合であっても,被保険者等がそれだけ損害を受けていることには変わりがないから,その損害填補のため,精神的苦痛の程度に応じた保険金が支払われるべきである。

(イ) こうすると,保険契約と無関係の賠償義務者の事情により,支払われるべき保険金額が増減するため,適切な保険料の計算ができない可能性があるなどと被告は主張する。しかし,無保険車傷害条項による保険金の支払がなされたからといって,賠償義務者の責任が免れるわけではないこと,通常賠償義務者は刑事責任も負うためあえて被保険者等に精神的苦痛を与え刑事責任まで重くせしめるような行動は取らないと考えられることなどの事情からすれば,作為的に被保険者等に苦痛を与える可能性は低いため,支払うことになる保険金額は比較的予測しやすく,それに見合った保険料を計算することも可能と考えられるのであるから,被告の主張は当を得ない。

(ウ) もっとも,同条2項では,保険金を支払うべき損害金の額は,保険金請求権者と賠償義務者との間で損害賠償責任の額が定められているといないとにかかわらず,協議や訴訟等で金額を決定するとしていることや,保険金請求権者と賠償義務者との間で馴れ合い的な合意や訴訟がなされて賠償義務者が過大な責任を負担する可能性があることからすれば,賠償義務者の法的義務が確定していたとしても,保険金の額はそれに拘束されるものではない。そこで,改めて本件事故による相当慰謝料額を検討する。

(エ) 本件事故態様は,H運転の加害車両が対向車線へ進出したために被害車両と正面衝突したというものであり(争いがない。),亡Eには全く非がない事故であったこと,本件事故時,Hは無免許,飲酒,居眠運転をしていたこと(甲14の14,14の21,14の36),事故原因についてHにとって酌むべき事情が特段見あたらないこと,H及びIは,本件事故直後亡Eら被害車両に乗車する者を救助しなかったこと(甲16),HはIに対して運転者について虚偽の供述をするよう求めていたこと(甲14の21),Hは本件事故後,自分は運転していないなどと虚偽の供述を繰り返したこと(甲14の24,14の26,14の33,14の34,14の36),HやIは謝罪の意を示しながら金銭的には支払をしていないこと(甲22),亡Eと亡Fが死亡し,原告Aは全治約3か月を要する右大腿骨転子下骨折,右尺骨骨幹部骨折,左恥骨座骨骨折等の傷害,原告Bは,約3週間の加療を要する右第5趾骨折等の傷害,原告Cは,全治約6か月を要する頭蓋骨骨折,外傷性脳内出血,外傷性くも膜下出血,左半身麻ひ等の傷害を負うなど(争いがない。)一家全体に重大な結果が生じていることなどの事実からすれば,本件事故により原告らや亡E及び亡Fが受けた精神的苦痛は重大であったというべきであり,それを慰謝するには,上記の慰謝料が相当である。

(4)  既払金(争いがない。)  -3000万円

(5)  弁護士費用

後述する。

2  争点Ⅱ(亡Fの死亡による損害額)について

(1)  逸失利益について(争いがない。)  2279万7934円

547万8100円(基礎収入)×(1-0.5)(独身男性の生活費控除)×8.3233(亡Fの16年後から49年間分のライプニッツ係数)

(2)  葬儀費用について  150万円

原告Aが,亡Fの葬儀費用として150万円を支払ったことは,当事者間に争いがない。

(3)  慰謝料について

ア 内訳  総額2800万円

(ア) 亡F本人  2300万円

(イ) 原告A  500万円

イ 慰謝料額認定の理由は,争点Ⅰについて述べたとおりである。

(4)  既払金(争いがない。)  -3000万円

(5)  弁護士費用

後述する。

3  争点Ⅲ(遅延損害金の起算日)について

(1)  本件保険の約款第6章一般条項21条本文には,被保険者が無保険車傷害保険金の請求の手続をしてから,その日を含めて30日以内に保険金を支払うことが定められているのであるから,原則として,保険金の請求の手続をした日を含め30日が経過すると,無保険車傷害保険金支払債務は遅滞に陥ると解される。

(2)  そこで,保険金の請求の手続をした時期について検討する。

ア 前提として,本件保険の約款第6章一般条項20条1項4号には,保険金の請求の手続として,被保険者は保険金請求権発生の時の翌日から起算して60日以内又は被告が書面で承認した猶予期間以内に,保険証券に添えて,保険金の請求書,損害の額又は傷害の程度を証明する書類,公の機関が発行する交通事故証明書,その他被告が特に必要と認める書類又は証拠(以上の書類及び証拠類を,以下「本件必要書類等」という。)を,被告に提出することが定められている。また,同条1項3号には,保険金請求権の発生時は,被保険者が死亡した時又は被保険者に後遺障害が生じた時と定められている。

イ 平成16年9月24日,原告Aが被告のNに対し,自動車保険金請求書(甲30)(以下「本件請求書」という。)を提出していること,原告Aやその姉のO(以下「O」という。)は,平成15年8月から10月くらいまでの間に,自賠責保険の被害者請求をするため,交通事故証明,原告Aの印鑑証明,亡Gの委任状及び印鑑証明,原告Dの委任状及び印鑑証明,原告Aの念書,戸籍謄本,事故発生状況報告書,亡Eの死亡届及び死亡診断書,亡E葬儀費領収書,所得証明,亡Eの損害分自賠責保険支払請求書兼支払指図書,亡F死亡届及び死体検案書,亡F葬儀費領収書,亡Fの損害分自賠責保険支払請求書兼支払指図書等を渡していること(甲10,11,33ないし42,45〔枝番があるものはそれを含む。〕),平成16年9月24日以後,原告Aは被告の担当者に本件請求書を持参させ,請求日,事故発生日,証券番号及び登録番号を補充していること(甲56,乙2,原告A本人),Nは,甲第30号証の状態の本件請求書を受け取っておき,後から不備の補充がなされれば,本件請求書の提出を受けた平成16年9月24日に請求があったという扱いをしても問題ないと考えていたと認められること(証人N),本件請求書の提出後,平成17年12月27日付の「ご通知書」と題する書面(乙3)以外には,被告から原告Aに対し,一定の資料を提出しなければ保険金が支払えないなどとして提出の促しがなされたとは認めることができないことなどの事情を総合すると,平成16年9月24日に保険金請求の手続がなされたと認めることができる。

ウ ところで,原告らは,平成16年2月5日に被告から原告Aに対し,亡Eと亡Fの損害賠償金の提示がなされていることから(甲19,20)(以下「本件提示」という。),この翌日から遅滞に陥っている旨主張する。しかし,本件提示には「試算」と記載されていること,このころ原告Aは本件保険の無保険車傷害条項に基づき保険金を受け取るよりも有利なAIU保険会社の人身傷害保険の請求を行っていたと窺えること(証人N),本件提示を受けた後,原告Aはその内容の交渉をしたとは認められないこと,当時原告Aは被告への請求よりもHやIへの請求を優先的に考えていたこと(原告A本人)などの事情からすれば,本件提示は,原告Aが生活に苦しい等述べていたために,サービスとして損害賠償金の試算をしたものに過ぎないというべきである。そうすると,平成16年2月5日の時点では,保険金の請求の手続はなされていないというほかなく,保険金支払義務が遅滞に陥るという事情も認められない。

なお,保険会社において保険金の請求を受ける前から求償に備えることは問題はないのであるから,被告において,賠償義務者の資力について調査していたことは(甲57),上記認定に影響しない。また,被告側において本件保険契約に基づく保険金の請求がされることを予見していたとしても,上記認定には影響しない。

(3)  被告は,原告Aに調査協力義務違反があったから,遅延損害金の支払義務がない旨主張する。しかし,亡Eの収入に関する資料以外の資料については被告に対し提出済みであったと認めることができ(証人N),亡Eの収入に関する資料についても,被告から原告Aに対しさほど強く提出を求めたとは認められないのであるから,被告が遅延損害金の支払を免れることは正当化されないというべきであって,調査協力義務違反の主張は,失当である。

(4)  原告らは,本件では平成16年2月5日の段階で,被告は保険金支払義務の有無及び範囲は明確になっていたのであるから,保険金支払義務の有無及び範囲を調査するための猶予期間と解される30日間の経過を待たずして,保険金支払義務は遅滞に陥る旨主張する。しかし,本件提示は,本件保険契約の無保険車傷害条項に基づいて支払われる保険金を確定的に提示したものであるとは認めることができないこと,特に本件提示中の亡Eの逸失利益は,基礎収入を約139万円としており(甲19),この金額に原告らが納得していたとは認められないことからすれば,保険金支払義務の有無はともかく,範囲は明確になっていたとは認められないというべきである。したがって,30日間の猶予期間なく遅滞に陥るという原告らの主張は理由がない。

(5)  よって,平成16年9月24日を含めて30日を経過した,平成16年10月23日の経過をもって,被告の本件保険契約に基づく保険金の支払義務は履行遅滞に陥ったというべきである。

4  争点Ⅳ(遅延損害金の利率)について

(1)  被告は,無保険車傷害保険金請求権は,賠償義務者に対する損害賠償請求権と実質的に同一の権利であるから,遅延損害金の利率は年5分と主張する。

(2)  しかし,無保険車傷害保険の保険金支払対象額は,賠償義務者が法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額であるが,不法行為に基づく遅延損害金の起算点は不法行為日であるのに対し,無保険車傷害保険金の支払が遅滞に陥るのは請求から30日が経過した後であって,異なっていることからすれば,無保険車傷害保険の保険金支払債務の履行遅滞責任は,賠償義務者が法律上負担する民事不法行為責任とは一致するものではない。

また,無保険車傷害保険金請求権は保険料支払の対価として生じる権利であって,保険者が無保険車傷害保険金の支払を遅滞しつつ,受領した保険料の運用益を得ることを正当化する理由は見あたらない。

さらに,本件保険の約款第3章無保険車傷害条項第9条では,保険金の請求のためには賠償義務者との間で損害額が確定していることを要求していないが,この条項は,通常賠償義務者との間で損害額が確定するには長期間を要するため,それを待たずに保険金の請求ができるようにすることで,被害者を救済すべきこと及び損害額確定のため低額の示談に応じなければならなくなるのを防ぐことを目的として定められていると解される(甲44)。

したがって,保険者としては,賠償義務者の支払の有無,賠償額の確定の有無にかかわらず,無保険車傷害保険金を遅滞することなく支払うべきなのであって,遅滞した場合に,賠償義務者の履行遅滞責任との均衡を主張することは失当といわねばならない。

(3)  そうすると,無保険車傷害保険金は,商人たる保険会社との間に結ばれた保険契約に基づき請求できるのであるから,その保険金債務は,商行為によって生じた債務(商法514条)ということができるのであって,遅延損害金の利率も年6分になるというべきである。

(4)  よって,被告の原告らに対する本件保険金債務の遅延損害金の利率は,年6分である。

5  認容額についてのまとめ

(1)  亡E本人の損害合計  4302万7066円

ア 逸失利益  4802万7066円

イ 慰謝料  2500万円

ウ 既払金  -3000万円

(2)  亡F本人の損害合計  1779万7934円

ア 逸失利益  2279万7934円

イ 亡Fの慰謝料  2300万円

ウ 既払金  -3000万円

エ 亡Eの慰謝料  200万円

(3)  亡Gの損害(亡Eの慰謝料)  100万円

(4)  原告A  6298万2645円

ア 原告A本人の損害合計  1100万円

(ア) 亡Eの葬儀費用  150万円

(イ) 亡Eの慰謝料  300万円

(ウ) 亡Fの葬儀費用  150万円

(エ) 亡Fの慰謝料  500万円

イ 亡E相続  2151万3533円

相続分は2分の1。

ウ 亡F相続  2496万9112円

亡Fは亡Eの6分の1を相続。原告Aは亡Fの全てを相続。

エ 小計  5748万2645円

オ 弁護士費用  550万円

上記小計の約1割を弁護士費用として認める。

(5)  原告B及び原告C  各1032万1178円

ア 原告B及び原告C本人の損害(亡Eの慰謝料)  各200万円

イ 亡E相続各  717万1178円

相続分は各6分の1。

ウ 亡G相続  各25万円

相続分は各4分の1。

エ 小計  各942万1178円

オ 弁護士費用  各90万円

上記小計の約1割を弁護士費用として認める。

(6)  原告D  165万円

ア 原告D本人の損害(亡Eの慰謝料)  100万円

イ 亡G相続  50万円

相続分は2分の1。

ウ 小計  150万円

エ 弁護士費用  15万円

上記小計の1割を弁護士費用として認める。

第4結論

以上より,本件保険契約に基づき,被告に対し,原告Aは6298万2645円及びこれに対する平成16年10月24日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の,原告B及び原告Cは各1032万1178円及びこれに対する平成16年10月24日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の,原告Dは165万円及びこれに対する平成16年10月24日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の,それぞれ支払請求権を有しており,原告らの請求はその限度で理由がある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 佐久間隆)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例