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さいたま地方裁判所 平成18年(ワ)1506号 判決 2007年7月20日

主文

1  被告は,原告に対し,5000万円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,原告が,損害保険会社である被告に対し,平成17年10月15日に原告の子である亡A(以下「A」という。)が暴行を受けて死亡したこと(以下「本件事故」という。)が,原告・被告間の自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)に付された人身傷害に関する犯罪被害事故危険担保特約(以下「本件特約」という。)の適用を受ける事故に当たるとして,本件保険契約に基づき,保険金の支払を求める事案である。

2  前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  本件保険契約の締結等

ア Aの父である原告は,平成16年10月30日,被告との間で,下記の内容の本件保険契約を締結した。(一部省略してある。)

(ア) 商品名     ONE-do

(イ) 保険期間    平成16年11月22日から平成17年11月22日

(ウ) 本件特約(人身傷害に関する犯罪被害事故危険担保特約)

a 保険金額    5000万円

b 内容

第1条(この特約の適用条件)

この特約は,この保険契約に普通保険約款人身傷害補償条項が適用され,かつ,保険証券にこの特約を適用する旨記載されている場合に適用される。

第2条(この特約による支払責任)

① 被告は,この特約により,人の生命または身体を害する意図をもって行われた行為(以下「犯罪加害行為」という。)により,その直接の結果として被保険者(普通保険約款人身傷害補償条項第2条(被保険者)に規定する被保険者をいう。)の生命または身体が害される事故を,普通保険約款人身傷害補償条項第1条(被告の支払責任)第1項に規定する人身傷害事故(以下「人身傷害事故」という。)とみなして,この保険契約の条件に従い,普通保険約款人身傷害補償条項(保険証券記載の自動車について適用される他の特約を含む。)を適用する。

② 前項に定める犯罪加害行為は,保険契約者または被保険者がその事実を警察官に届け出たものにかぎる。

第3条(保険金を支払わない場合)

① 被告は,普通保険約款人身傷害補償条項,保険料払込条項,手続条項および一般条項の規定による場合のほか,被保険者に対する法令または正当な業務による行為によって損害が生じた場合は,保険金を支払わない。

② 被告は,被保険者が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合には,保険金を支払わない。

(1)  当該事故を教唆または幇助する行為

(2)  当該事故を容認する行為

(3)  過度の暴力または脅迫,重大な侮辱等当該事故を誘発する行為

(4)  当該事故に関連する著しく不正な行為

③ 被告は,保険金を受け取るべき者が前項各号のいずれかに該当する行為を行った場合には,その者の受け取るべき金額については,保険金を支払わない。

④ 被告は,前条の犯罪加害行為を実行した者が,次の各号のいずれかに該当する場合には,保険金を支払わない。

(1) 被保険者の配偶者(内縁を含む。)

(2) 被保険者の直系血族

(3) 被保険者の3親等以内の親族

(4) 被保険者の同居の親族

第4条(人身傷害に関する交通事故危険担保特約との競合)

この保険契約において,人身傷害に関する交通事故危険担保特約により,第2条に規定する犯罪加害行為による事故に対して保険金が支払われる場合には,被告は,この特約を適用しない。

第5条(準用規定)

この特約に規定しない事項については,この特約の趣旨に反しない限り,普通保険約款人身傷害補償条項,保険料払込条項,手続条項および一般条項の規定を準用する。

(エ) 人身傷害補償条項損害額算定基準

(死亡による損害)

死亡による損害は,葬儀費,逸失利益,精神的損害およびその他の損害とする。

1. 葬儀費

60万円。ただし,立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合は,120万円を限度として実費を支払う。

2. 逸失利益

死亡により生じた将来の得べかりし利益の損失をいい,原則として,下記の(1),(2)および(3)に従い次の算式により計算する。

(収入額-生活費)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

(1) 被保険者区分別計算方法

(三) 幼児および18歳未満の学生

(全年齢平均給与額-生活費)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

(2) (省略)

(3) 収入額,生活費,就労可能年数,ライプニッツ係数

上記(1)および(2)の算式における収入額,生活費,就労可能年数およびライプニッツ係数は,下記のとおりとする。

(一) 収入額

b 年齢別平均給与額および全年齢平均給与額は,付表Ⅰによる。

(付表Ⅰ 「年齢別平均給与額表(平均月額)」 男子全年齢平均給与額41万5400円)

(二) 生活費

生活費は,被扶養者の人数に応じ,収入額に対する下記の割合とする。

なお,被扶養者とは,被保険者に現実に扶養されていた者をいう。

a 被扶養者がいない場合 50%

(三) 就労可能年数

就労可能年数は付表Ⅶによる。

(付表Ⅶ 「死亡時の年齢別就労可能年数およびライプニッツ係数表」 幼児・学生・十分働く意思と能力を有している無職者 16歳 就労可能年数49年 ライプニッツ係数16.480)

(四) ライプニッツ係数

就労可能年数に対応するライプニッツ係数は,付表Ⅶにより,また,平均余命年数に対応するライプニッツ係数は付表Ⅴおよび付表Ⅵによる。

3. 精神的損害

被保険者の属性別に下記の金額を基準とする。

(2) 被保険者が18歳未満である場合(有職者を除く。) 1600万円

イ 本件保険契約の普通保険約款人身傷害補償条項第2条には,被保険者は記名被保険者またはその配偶者の同居の親族と定められている。Aは本件事故当時,原告と同居していた。

ウ 本件保険契約の普通保険約款人身傷害補償条項第1条1項は,同項に定めるいずれかの「急激かつ偶然な外来の事故」により身体に傷害を被ることが「人身傷害事故」であると定めている。

エ 本件保険契約の普通保険約款人身傷害補償条項第6条1項1号は,「被保険者の故意または極めて重大な過失」を被告の保険金支払義務の免責事由としている。

(2) 本件事故前の経緯及び本件事故の発生等

ア A(当時16歳)は,平成17年10月15日,B(以下「B」という。)からさいたま市見沼区東大宮2丁目にある東大宮親水公園(以下「本件公園」という。)内で暴行を受け,脳死状態となり,搬送先のさいたま赤十字病院で外傷性脳浮腫により同月20日に死亡した(本件事故)。

イ 原告は,本件事故について,埼玉県大宮東警察署に被害届を出した。(甲12)

(3) 原告は,平成17年11月23日,被告に対し,本件保険契約に基づく保険金の支払請求をした。被告は,平成18年4月11日,本件事故は本件特約第3条の「当該事故を容認する行為」,「過度の暴行または脅迫,重大な侮辱等当該事故を誘発する行為」に該当するとして,支払を拒否した。

(4) 原告は,平成17年11月4日,Aの葬儀費用(返礼品代を含む。)として,285万8790円を支出した。(甲158)

(5) 本件訴訟の経過(当裁判所に顕著である。)

ア 本件訴訟は,平成18年7月27日に提起され,同年8月8日に訴状が被告に送達された。

イ 平成18年9月14日の第1回口頭弁論期日において陳述擬制された被告答弁書では,本件事故は本件特約の適用を受ける事故だが,本件特約3条2項2号または3号に当たり免責されるという主張がされた。

ウ 平成19年2月5日の第2回弁論準備手続期日において陳述された被告準備書面(1)では,引き続き本件特約3条による免責について主張がされた。

エ 平成19年3月12日の第3回弁論準備手続期日では,次回の口頭弁論期日で弁論を終結することを予定して弁論準備手続を終結した。(弁論の全趣旨)

オ 平成19年4月27日の第3回口頭弁論期日において陳述された平成19年4月24日提出の被告準備書面(2)で,初めて普通保険約款人身傷害補償条項6条の重過失免責の主張がされた。

カ 平成19年5月25日の第4回口頭弁論期日において陳述された平成19年5月22日付原告準備書面4で,原告は重過失免責の主張に対し反論するとともに,損害論の主張を変更した。当該期日に本件訴訟の弁論は終結した。

3  争点

(1)  本件事故は本件特約の「犯罪加害行為」に当たるか。

(原告)

本件特約2条1項は,「人の生命または身体を害する意図をもって行われた犯罪加害行為を普通保険約款人身傷害補償条項1条1項の人身傷害事故とみなす」としている。犯罪加害行為を人身傷害事故と「みなす」のだから,「人の生命または身体を害する意図をもって行われた」ことを主張立証すれば,人身傷害事故に該当するのであって,「急激かつ偶然な外来の事故であること」の主張立証責任は原告にない。

本件事故が人の生命又は身体を害する意図を持って行われていることは明らかだから,「犯罪加害行為」に当たる。

(被告)

ア 本件特約は,人の生命又は身体を害する目的を持って行われた犯罪加害行為を普通保険約款人身傷害補償条項1条1項の人身傷害事故とみなしており,人身傷害事故とは,被保険者が同項に定めるいずれかの「急激かつ偶然な外来の事故」により身体に傷害を被ることとされているから,本件特約の犯罪加害行為とは,「他人の生命または身体を害する意図をもって行われた急激かつ偶然な外来の事故の直接の結果として,被保険者の生命または身体が害された場合」をいう。原告は本件事故が犯罪加害行為に当たること,特に偶然性があることを立証すべき責任がある。

イ 偶然性とは,(a)保険契約成立時における保険事故の不確定性と,(b)保険事故発生時において当該事故が被保険者の意思に基づかないことの2通りの意味があるが,傷害保険の傷害とは,単なる身体の損傷ではなく,不慮の事故によって身体を損傷した場合をいい,概念の中に偶然性の要素が入らざるを得ないから,傷害保険の偶然性は(b)の意味である。

(2)  本件事故は普通保険約款人身傷害補償条項6条1項1号の支払免責事由に該当するか。

(被告)

ア 普通保険約款人身傷害補償条項6条1項は,被保険者の「極めて重大な過失」を保険金の支払免責事由としている。ここでいう重過失とは,故意に等しいような著しい不注意と限定的に解すべきではなく,一般人を基準とした甚だしい不注意のことをいうと解すべきである。なぜならば,保険制度では,保険契約者が支払う保険料及びその運用によって形成した資金から保険金が支払われるのであるから,一般的な保険契約者から見て著しい不注意によって発生した事故については,保険保護の対象とするのは,他の保険契約者に割り切れなさが残り,適当ではないからである。

イ 本件事故についていうと,Aは,平成17年9月25日に暴走族である甲(以下『甲』という。)のメンバーから集会への遅刻をとがめられて集団暴行を受け,同年10月2日にも特攻服についてAが嘘をついたことをとがめられて集団暴行を受け入院していた。そして,同年10月2日の件についてはAの母であるC(以下「C」という。)が警察に被害届を出していた。このような状況の下で,同年10月15日に甲のメンバーからの呼出に応じ,被害届の取り下げに応じず,嘘をつくなどすれば,再び集団暴行を受け致命傷を受けることは一般人であれば容易に予想できる。したがって,Aには重過失があるため,普通保険約款人身傷害補償条項6条1項1号により免責される。

(原告)

ア 重過失免責の主張は,時機に後れており,排除されるべきである。被告は,この主張を口頭弁論終結予定であった平成19年4月27日のわずか3日前である同月24日に提出した被告準備書面(2)に初めて記載した。そのために,平成19年4月27日の期日では弁論を終結できず,新たな期日を入れざるを得なくなり,原告は新たな反論をせざるを得なくなった。重過失免責の主張は本件特約3条1項,普通保険約款人身傷害補償条項6条1項1号に明確に規定されており,その他の免責条項とあわせて弁論準備手続期間中に十分に主張可能であったのであり,これまで主張しなかったことには重過失があるというべきである。

イ 普通保険約款人身傷害補償条項6条1項1号の「極めて重大な過失」とは,通常人に要求される程度の相当の注意をしないでも,僅かの注意さえすれば結果を予見することができた場合であるのに,漫然とこれを見過ごしたような,ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいう。当該条項も,「極めて重大な過失(事故の直接の原因となりうる過失であって,通常の不注意等では説明のできない行為を伴うもの)」としている。

ウ Aには重過失はなかった。すなわち,Aは暴走族という反社会的組織の構成員ではなく,本件事故はそれまでの2回の集団暴行とは異質のものであり,Aは被害届を出したことについて甲のメンバーが知っているとは認識していなかったため被害届の取り下げを求められるとは思っておらず,D(以下「D」という。)と会って話をしてすぐ帰るつもりで出かけたなどの事実関係だったのだから,本件事故につき,暴行を受けることの予見可能性がなく,当然生命に危険が生じることの予見可能性もなかった。ましてやほとんど故意に近い著しい注意欠如等がなかったのは明らかであるから,Aには「極めて重大な過失」はなかった。

(3)  本件事故は本件特約の支払免責事由に該当するか。

(被告)

ア 本件特約は,犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律(以下「支給法」という。)に基づく犯罪被害者等給付金制度を参考にして,被告が商品化したものである。支給法6条によると,被害者と加害者との間に親族関係があるとき(6条1号),被害者が犯罪行為を誘発したときその他当該犯罪行為につき被害者にもその責めに帰すべき行為があったとき(同条2号),被害者又はその遺族と加害者との関係その他の事情から判断して,犯罪被害者等給付金を支給することが社会通念上適切ではないと認められるとき(同条3号),犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができるとされている。本件特約3条では,支給法6条を受けて,支給法6条1号の親族間の不支給について本件特約3条4項で,支給法6条2号の犯罪誘発等への関与について本件特約3条2項1号ないし3号で,支給法6条3号の社会通念上不適切な場合について本件特約3条2項4号で,それぞれ保険金の支給免責事由としている。本件特約の支給免責事由の解釈においては,支給法の支給免責事由の解釈が参考になる。そして,本件事故は,以下に述べるとおり,暴走族の構成員同士のトラブルであるから,支払免責事由に該当する。

イ 本件事故に至る経緯及び本件事故の状況

(ア) AとE(以下「E」という。)は,平成17年8月ころ,甲を結成した。Eは甲の総長となり,Aは本来副総長となるべきところ,暴走族の華である特攻隊長となった。甲では,暴走族の一般常識として,メンバーを辞める場合には,メンバーからボコボコ(暴行の意味。同様にボコるとは暴行すること。)にされることになっていた。

(イ) Aは,平成17年9月25日午後9時35分ころから平成17年9月26日午前5時ころにかけて,さいたま市見沼区東大宮2丁目地内及びさいたま市北区本郷地内において,E,F(以下「F」という。),G(以下「G」という。),Bらから甲構成員同士のトラブルにより暴行を受け,傷害を負った(以下「本件前事件(a)」という。)。

(ウ) Aは,平成17年10月2日午後10時ころから,平成17年10月3日午前5時10分ころにかけて,さいたま市北区本郷町1番地さいたま市立大砂土小学校(以下「本件小学校」という。)敷地内において,E,D,F,G,Bらから長時間暴行を受け,さいたま赤十字病院に救急搬送された(以下「本件前事件(b)」という。)。Aは,同病院において急性硬膜下血腫で少なくとも1か月の加療・療養を要す見込みとの診断を受け,平成17年10月3日から平成17年10月13日まで入院した。また,Aは,医師から,今後頭部に衝撃があると危険であると言われた。

(エ) 本件事故前,Aは,Dから呼び出しされて本件公園へ行き,本件事故に遭った。

ウ 以上のとおり,本件事故は,甲の構成員同士の集団リンチ事件である。Aは,呼出に応じて出向けば,集団リンチを受けることを承知していたにもかかわらず,反社会的組織である暴走族の一般社会では通用しない掟に従ってわざわざ出頭し,暴行を受けて死亡した。反社会的な集団リンチ行為に自ら積極的に関わり死亡した者は,犯罪被害に遭って不慮の死を遂げた者とは言えず,本件特約に基づく保険金を支給することは社会通念上適切ではない。Aは警察に助けを求めるなどせず,自ら集団リンチ行為の当事者となって反社会的な犯罪行為を発生させるという「著しく不正な行為」(本件特約3条2項4号)を行い,本件事故被害に遭っているのだから,支払免責事由に該当する。また,それまでの経緯からすれば,本件事故前にBと2人きりとなれば,Bから暴行を受ける可能性があることは十分予見可能であったにもかかわらず,その場にとどまったことは,暴行を「容認する行為」(本件特約3条2項2号)に該当する。

エ さらに,本件事故は,Aが本件前事件(b)で重傷を負い,11日間入院し,医師から危険性を警告されていたにもかかわらず,Aの退院からわずか2日後にAが甲のメンバーからの呼出に応じて出頭したことで発生している。この,Aの呼出に応じて出向いた行為は,「当該事故を容認する行為」(本件特約3条2項2号)又は「当該事故を誘発する行為」(本件特約3条2項3号)であるから,支払免責事由に該当する。

(原告)

ア Aは甲の特攻隊長であり,本件前事件(a),本件前事件(b)及び本件事故(以下「本件一連事件」という。)は甲の構成員同士が当事者であったが,以下に述べるとおり,本件一連事件は集団内のトラブルではなく,Aに対する一方的ないじめである。

イ 本件事故に至る経緯及び本件事故の状況

(ア) 本件前事件(b)では,本件小学校敷地内で,E,B,F,G及びDが,Aに対して一方的に殴る蹴るの暴行を加えた。その暴行後,Dは,Aの両親である原告及びCに対して携帯電話で架電し,Aが本件小学校の付近に倒れているので迎えに来るように伝えた。Aは,Dによって本件前事件(b)の暴行から救われたという認識を持ち,Dが暴行を加えた一人であるとの認識はなかった。

(イ) 本件前事件(b)後,Cは警察に被害届を出していた。これを知ったEは,Aを通じて被害届を取り下げさせようとし,Dに対し,平成17年10月16日にAを呼び出すよう伝えた。Dは,Eが短気な性格のため,Aと会うと再び暴行を加えるのではないかと心配し,自分ならば事を荒立てずに被害届を取り下げさせられるのではないかと考え,平成17年10月15日,原告宅に架電し,Aを呼び出し,Aとともに本件公園へ向かった。また,Dは,Bの携帯電話に架電し,本件公園に来るよう伝えた。本件公園において,DはAに対し被害届を取り下げるよう説得したが,Aはこれに応じなかったため,DはBに架電し,その旨伝えた。Bは,本件公園に来ると,Aが被害届を取り下げないことや,よそよそしい態度をとっていることに激昻し,殴る蹴るの暴行を加えた。

ウ このような事実関係の下,Aは,本件事故前,本件事故を予見していなかった。すなわち,本件事故前にAを呼びだしたのはAに好意的なDであり,Dも,暴行目的ではなく,事を荒立てずに被害届を取り下げてもらおうとしてAを呼び出している。さらに,甲を脱退する際にメンバーからボコボコにされるという掟があったとしても,本件前事件(b)がそれに当たり,既にAは甲を脱退済みであったのだから,これ以上の暴行を受けるとは考えられなかった。本件事故前に原告宅を出ていくAの様子も,暴行を受けることに対する危機感を持っている様子ではなかった。

エ 支給法と本件特約との関係については,支給法が本件特約のモデルとなっていることは争わないが,支給法は犯罪被害者等を「援助するための措置」(支給法1条)であるのに対し,本件特約は契約であり,保険料支払との対価関係があり,本件特約の文言も,支給法に比べ,支払免責事由には「過度の」,「重大な」,「著しく」などの限定が付されているのだから,支給法ほど保険金支払の要件を厳格に解すべきではない。

(4)  被告の保険金支払義務が肯定された場合,被告が支払うべき保険金額

(原告)

原告の損害額は,最低でも次のとおり5827万4752円を下らない。したがって,本件特約の保険金額である5000万円が支払われるべきである。

ア 葬儀費 120万円

イ 死亡による逸失利益 4107万4752円

498万4800円(基礎収入。=41万5400円×12。)×(1-0.5)(生活費控除)×16.480(ライプニッツ係数)

ウ 死亡慰謝料 1600万円

(被告)

争う。

第3争点に対する判断

1  認定事実

当事者間に争いない事実,前提事実及び関係各証拠(特に強く認定の根拠とした証拠を掲記する。)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  当事者及び甲の関係者等

ア Aは,原告とCの子であり,死亡時,16歳だった(争いない)。Aは,本件事故当時,埼玉県立大宮工業高等学校(以下「大宮工業高校」という。)の定時制1年生として在学していた。Aは,中学2年生の6月ころに統合失調症及び発達障害との診断を受け,精神科病院に通い,日頃から薬を服用していた。Aは,甲の仲間からは,嘘をつくことが多い人物であると見られていた。(甲25,79,156)

イ Bは,埼玉県立蓮田高等学校(以下「蓮田高校」という。)に通っていたが,本件事故当時,退学していた。Bは,Aと,学校の夏休み期間中である平成17年8月ころ,Bが以前通っていた蓮田高校の同級生であるGの紹介で知り合った。BとAは同級生の関係にあった。2人は,知り合って以降毎日のように携帯電話で連絡を取り合い,夏休み期間中はほぼ毎日Gを含めて本件公園等に集まり,一緒に遊んだ。Bは,Aが薬の切れた状態であるときに,病気のせいにしてわけのわからないことを言ったり,平気で仲間に嘘をついたりする態度をとるため,そのような態度にイライラしたことが度々あった。(甲156)

ウ Eは,本件事故当時,大宮工業高校の2年生であった。Eは,甲の総長であり,実質的にも最も力を持っており,甲のメンバーから恐れられていた。(甲141,142)

エ Dは,本件事故当時,蓮田高校の1年生であるが,休学し,型枠大工として働いていた。Dは,Aのことをそれほど親しく感じていなかった。(甲142,156)

オ Fは,本件事故当時,私立武南高等学校の1年生であった。BとFは,平成17年の夏休みころ,Gの紹介で知り合った。2人が知り合って以降,1か月に3,4回程度,本件公園で遊んでいた。(甲143,156)

(2)  甲の組織構成,活動内容,取り決めごと等について

ア A,H(以下「H」という。),I(以下「I」という。),G,Fらは,平成17年5月ころから,毎日のように集まり,公園で酒を飲んで語り合ったり,ゲームセンターで遊んだり,自転車で遠くに行ったりして遊んでいた。しかし,平成17年8月下旬から9月半ばころ,Eが「俺も一度はでけえ看板背負ってみてえじゃん」などと言いだし,Aもこれに賛同して,暴走族の正式な形に乗っ取ったものではないものの,甲を旗揚げした。Aは,甲に入ったことで,HやIのグループとは疎遠になった。旗揚げ時に,Eは,BとGを甲に誘い,2人を甲のメンバーとした。役割分担としては,Eが総長,Aが特攻隊長,BとGが特攻隊となった。その後,平成17年9月25日に,Aの紹介でFが特攻隊のメンバーとして加わった。また,Dも,甲のメンバーとなった。(甲87,95)

イ 甲の規則は特に決まっていないが,一般的な暴走族の常識として,次のようなものなどがあった。(甲95)

(ア) 暴走族を辞めるときには,ボコリと言われているリンチがあること

(イ) 集会や集合には,必ず時間に集まること

(ウ) 事情があって遅れる場合には,メンバーに必ず連絡すること

ウ Bは,甲の中で,連絡係として,集合の時間や場所等の連絡について,Eから連絡を受け,他のメンバーに連絡する役割を担っていた。Bとしては,特攻隊長の肩書はAが持っているが,実質的な特攻隊長はBであり,甲においてBがEの次に力があったという認識を有していた。(甲95)

エ 甲は,毎月第1,第3土曜日に,本件公園などのEの指定する場所で集会を実施していた。甲のメンバーは皆原付バイクの免許証を持っていなかったが,AとGは原付バイクを持っていたので,無免許で原付バイクに乗ることはあった。しかし,甲の活動としては,原付バイクで走ることはほとんどなく,他の暴走族とけんかしたり一緒に走ったりすることもなかった。(甲95)

オ Aは,高校へ進学することの代わりにCから原付バイク(以下「本件バイク」という。)を買ってもらった。本件バイクの鍵はCが管理していたが,Cの目を盗んで,Aは本件バイクに乗ることがあった。平成17年夏ころからはAだけでなく,Aの仲間も本件バイクを使用し,ナンバープレート,泥よけ,マフラーなどを改造した。(甲25)

カ 甲は,平成17年9月下旬ころ,上尾周辺を拠点としていた暴走族乙に吸収されたが,その後も甲のメンバーは本件公園にたむろしていた。また,甲のメンバーは乙の集会には2回くらいしか参加していない。(甲95)

(3)  平成17年8月14日,AとFが1対1の喧嘩をし,Aが勝ってHの許可を得てFの髪を丸坊主にした。(甲25,87)

(4)  本件前事件(a)に関して

ア Aが甲の集会に遅刻したため,その制裁としてE,B,F,Gらは,Aに対し,スコップで叩いたり,靴で顔面を踏み付けるなどの暴行を加えた。Aは,平成17年9月26日午前5時ころ,FとGに抱えられて帰宅したが,顔面は泥だらけ,両目と顎に痣があり,足腰はふらふらで頭部痛と腰部痛を訴えていた。Aは,Cに対し,負傷の原因について,FとGがけんかをすると顔が腫れて学校に行けなくなるだろうからAが代わりに喧嘩してやった旨嘘をついた。(甲25,87)

イ 平成17年9月26日,Gは蓮田高校を休んだ。(甲87)

ウ Fは,平成17年9月26日,ガソリンスタンドでのアルバイト中,Iに対し,「ローファーで蹴ったり踏んづけたりしてやったよ。」「集会を遅刻したんだよ。」『でも,あいつ昨日で甲クビだよ。』などと言った。(甲87)

エ Aは,平成17年9月27日,東大宮整骨院で打撲と診断された。また,Aは東大宮病院で頭部CT検査を受けたが,頭部に異常はなかった。(甲25)

(5)  本件前事件(b)に関して

ア I及びHは,平成17年9月27日の夜,Aを見舞に行くことにして,Aの家の近くにある「むじなや公園」に呼び出してAと会った。自宅から出てきたAはよろよろと歩き,腰が痛いと訴えていたので,IはAに対し,「やられたんだろ,体は大丈夫なのか。」と聞いた。これに対し,Aは,「E先輩とB,F,Gにやられたよ。」「Bはスコップで叩くし,F(裁判所注記:Fのこと。)にはローファーの靴で顔面を踏み付けられた。」「俺もう辞める,H(裁判所注記:Hのこと。)先輩とI(裁判所注記:Iのこと。)の所に戻りたい。」と言った。そこで,I及びHは,「それなら,キチンと族の関係を切ってから来い。」「中途半端はよくないから,ちゃんとEに話して抜けるんだぞ。」と忠告した。(甲87)

イ その後,平成17年10月2日までの間に,Aは,IやHに対し,Fが7万円の特攻服を11万円で購入し,浮いた4万円でAやEがメシを食いに行ったこと,Fは金づるであること,Bと遊んでいたら突然警察が来てBが逮捕されたことがあること,DがEに5,6発ぶっ飛ばされたこと,近々甲の6人がI,H及びAをぶっ飛ばしに来るらしいこと,Aは自称スパイだからI及びHに甲の情報を流すことなどを言った。(甲87)

ウ Cは,平成17年9月30日午後5時30分ころ,Bと電話していたAから,本件バイクをGが借りたいと言っているので,鍵を出すように言われた。Cは,Aが大怪我をしているにもかかわらず本件バイクを持っていかせるわけにはいかなかったので,Aと電話を代わり,Bに対し,Gが来るならば貸す旨伝えた。Cは,Bが「Gだってよ,どうする。」と言ったのを聞き,本件バイクをGに貸すというのが嘘であると感じ,Aに本件バイクを貸すことを断らせた。(甲25)

エ AとCは,平成17年10月1日,Aが所持していた2台の携帯電話のうち,古くから持っていたau社製の携帯電話の解約手続をした。このとき,解約後に当該au社製の携帯電話にかけてきた人に対し,同年8月下旬ころに取得したもう1台の携帯電話の電話番号を案内するサービスを受けることが可能だったが,Aは,「嫌な奴から電話がくるからいいや」と言って断った。(甲70)

オ Iは,平成17年10月2日,Fに対し,Aから聞いたと言って,Fが11万円の特攻服を買ったことや甲がIやHをぶっ飛ばしに来る予定があることの真偽を尋ねると,Fは,それらがAの嘘であると言った。Iが,それまでにAから聞いた甲の情報をすべてFに確認したところ,Fは笑いながら,それが全部Aの嘘であると言った。(甲87)

カ Aは,平成17年10月2日午後6時ころ,Cに対して行き先などを告げずに,自転車に乗って出かけた。同日午後11時50分ころ,Aは,Cに対し電話で自分の通っている病院名を聞き,すぐに電話を切った。(甲25)

キ 平成17年10月3日午前1時ころ,GからHの携帯電話に電話があり,GはすぐにBに代わった。Bは,Hに対し,Aが遅刻したことでAとBが一緒に暴行されたという話をAから聞いたかどうか尋ねたが,Hは,Aの嘘がばれると思い,聞いていないと答えた。その電話が切れてから30分ほど後に,EからHの携帯電話に電話があり,「甲の頭張っているもんだけど,Fが金づるになっているって本当。」と聞いてきた。Hは,以前Aが,甲の特攻服は8万円だがFは11万円で売られたと言ったのを聞いていたので,そのことだと思ったが,それを話すとAが暴行されると思ったこととEの声が気に入らなかったことから,少しけんか腰で知らないと答えた。そのうち,Eは「こいつと話してもらちがあかねーや。」と言ってGと代わった。Gが「先輩,本当のことを言ってください。」と泣きべそをかいた声で2回言ったので,Hは,Gのことも可哀相になり,「言ったんじゃん。」と答えた。Hは,Aが暴行されていることを心配したが,暴走族のことなので出しゃばって自分が狙われることをおそれ,Aを助けることはせず,Iに対し電話して,電話が架かってきたことを連絡した。(甲88)

ク 平成17年10月3日午前2時から3時ころ,FからIの携帯電話に電話があり,「今日,Iが言ったことなんだけど,もう一度言ってくれる。」と言ったので,Iは「Fが11万円で特攻服を買った」と答えると,怒鳴るように「てめー言ったのかよー。」という声が聞こえた。また,Bが「俺とAで居たときに,俺だけパクられたんだって。」と言ったので,Iは「ああ,Aはそう言っていたよ。」と答えると,Bは「ありがとうごうざいまーす。」と笑いながら言い,別の者に電話を替わった。さらに,Dが「俺がE先輩にぶっ飛ばされたんだって。」などと聞いてくることもあった。このように1時間くらいの間,電話口から怒鳴り声や笑い声など聞こえてくる状態が続いた後,Fが「じゃそうゆうことだから。」と言って一方的に電話は切られた。(甲87)

その後,Iは,Hに対し電話し,Fから,Aに対し今暴行をしているという電話が架かってきたことを伝えた。(甲88)

ケ E,B,G,F及びDは,平成17年10月2日から3日にかけて長時間にわたり,本件小学校において,Aに対し,特攻服の嘘のことなどを理由に,殴る,蹴る,投げ飛ばす,棒で叩くなどの暴行を加えた。その際,本件小学校内には,その他にJ(以下「J」という。),K(以下「K」という。),L(以下「L」という。)もいた。(甲141)

コ 平成17年10月3日午前5時ころ,Cは,これまで面識のないDから電話を受け,Aが本件小学校付近で倒れているので迎えに来るよう言われた。Cが急いで本件小学校へ行くと,Aは意識がもうろうとした状態で,顔が腫れ上がり,服は砂でまみれていた。Cは,その場にいたDから,「Aから携帯で呼び出されてきてみたところ,すでに,このような状態で他には誰もいなかった。」ということを聞いた。(甲25)

サ 平成17年10月3日,Aはさいたま赤十字病院に入院し,急性硬膜下血腫と診断された。(甲25)

(6)  本件前事件(b)後,本件事故に至る経緯

ア Cは,平成17年10月4日午前8時ころ,Iに対し,電話で,Aが入院したこと,ベッドで寝ているAがIとHに電話しなきゃとうなされたように言うので電話したことなどを伝えた。(甲87)

イ Cは,本件前事件(b)について,大宮警察署に被害届を出した。(甲25)

ウ Aは,平成17年10月5日,Iに電話し,「入院しちゃった,体がキツイよ。」「Iの声が聞きたかっただけだよ。」などと言い,翌日,「一般病棟に移ったから見舞に来て。」と言った。Iは,Hを誘い,Aの入院していたさいたま赤十字病院へ行きAと会うと,Aは「なんでアソコまで言うの。アソコまで言ったら,こっぴどくやられるのあたりまえじゃん。」と言ったが,IとHは,「お前が言ったことじゃないか。」と反論した。その後,Iは,平成17年10月13日にAが退院するまで,毎日のようにAに電話し,平成17年10月13日にAが退院したら一杯飲もうぜと話した。(甲87)

エ Cは,平成17年10月10日午後7時ころ,Dから電話で,「今回の件,被害届出したのですか。」と聞かれたため,「出したよ。命に関わる大怪我だからね。でもD君はどうやって私の家の電話番号がわかったの。」と聞いたところ,「それは差しさわりがあるので言えません。」と言って電話が切られた。(甲25)

オ Eは,Dから,Aが本件前事件(b)が原因でさいたま赤十字病院に入院したことを聞き,「マジ,やばいよ」と思うとともに,「大丈夫だろう」と思ったが,警察に捕まることを心配し,Aには手を出さないようにDに言い,Dから甲のメンバーに伝えさせた。その後,Eは,Dから,Aが本件前事件(b)の件について,警察に被害届を出したこと等を聞き,警察に捕まると思った。そこで,Eは,Dに対し,Aに連絡して被害届を出したかどうか事実を確認し,被害届を出したならば取り下げさせるように言った。(甲141)

カ Aは,平成17年10月13日,さいたま赤十字病院を退院した。Aは,同日午後7時30分ころ,Hと会うと言って出かけた。その際,Cは早く帰ってくるように言った。Aは,「むじなや公園」において,Hと会ったが,すぐにCからAの退院を祝うために友人のM(以下「M」という。)が自宅に来ているので早く帰ってくるよう電話があった。Aは,Mを「むじなや公園」に呼び,MをしてCに連絡させ,CからAが遊ぶことの了承を取り付けさせた。Aは,Mに対し,「悪いグループを抜けてH先輩と付き合っていく事にしたんだ。抜けるためにケジメはとってきた。それで入院してたんだよ。今後はアルバイトもしようかと思っているんだ。」と言った。Mは,30分ほどして帰った。同月14日午前0時になるころ,I及びHが合流し,コンビニで買った菓子やビール,酎ハイを持って,上尾市にある原市南小学校の給食室前へ行き,Aの退院祝いをした。その際,Aは,「暴走族を辞めて,こっちに戻ってきたい。」と盛んに言っていた。IとHのグループでは,過ちを犯したメンバーは髪を切るというケジメがあり,同年8月ころ,Fもこのケジメにしたがって坊主となっていることがあったので,Aは,暴走族からIたちの仲間に戻るということで,「髪の裾を切ってきました。」と言った。Aは,同日午前5時30分ころ帰宅し,Cに対し,Hの家で本を読んでいたら寝てしまった旨を言った。(甲25,69,87,88)

キ Eは,平成17年10月13日ころ,Dから,Aが退院したことを聞き,Aと直接会って話をしたいと思ったので,Dに対し,同月16日の予定を空けておくようAに伝えるように言った。Eは,Aと会って,病状を聞くとともに,Aが甲を続けるつもりなのか辞めるつもりなのか直接聞くつもりであり,Aが甲を辞めたいというのであれば,本件前事件(b)の件があるため,これ以上ボコることなく辞めさせようと思っていた。また,甲のメンバー全員が警察に捕まるのを防ぐため,Aを説得して被害届を取り下げさせようと考えていた。(甲141)

ク Aは,平成17年10月14日,Aがいわゆる不良仲間と付き合うようになると疎遠になっていたMが,Mの兄の誕生日プレゼントを買うのに付き合った。このときは,Aは,Mに対し,Hのグループや甲の仲間のことは話さなかった。(甲69)

ケ Cは,平成17年10月14日午後3時30分ころ,Dから電話を受け,Aに代わった。Aは,電話で,「退院したらDに電話することになっていたとは知らなかったよ。」「Dがお母さんに連絡してくれたんだって。助かったよ,ありがとう。」などと言った。(甲25)

コ Dは,平成17年10月15日,EとAがもし同月16日に会うと,Aの煮え切らない態度やその場限りのデタラメな話を聞いたEが,退院したばかりであることなど構わずにAに対して暴行し,警察に捕まることになると予想し,そうなる前にAと話をつけて被害届を取り下げさせようとした。そこで,Dは,Aの携帯電話に電話し,同月15日午前11時40分ころ,東大宮の原中公園に呼び出した。Aは,Cに対し,「Dをマルエツまで迎えに行く。」と言って自転車に乗って出かけ,原中公園へ行った。Aが来ると,Dは,Aにアクエリアスを渡しながらAが元気で安心したことを伝えた。Aは,お礼を言い,皆には迷惑をかけたと言って甲のメンバーであるD,B,F,Gらに迷惑をかけたことを詫びた。Dは,Aが皆に迷惑をかけたと言っているので,皆に謝ってもらおうと考え,携帯電話でBに電話を架け,Aに代わったところ,AはBに対し,本件公園に来るように伝えた。そこで,D及びAは,自転車に乗って本件公園に向かった。2人が本件公園に着き,DはAの携帯電話でできるゲームをやらせてもらおうとした。そうすると,Dは,Aの携帯電話の発信履歴にIというものがあることに気づき,Aが甲の悪口を言いふらしていた相手であるIと連絡を取っていたことを知って頭に来たが,Aとそれほど親しくもないため,とりあえず被害届を取り下げてもらえば良いと思い,Aに対し被害届について確認した。Aが被害届は「母親が大宮警察に出した。」と言うので,DはAに対し被害届を取り下げるよう求めたところ,Aは簡単に取り下げると言った。しかし,Dがもう一度確認すると,Aは,「母親が出したから分からない,保険の関係があるから難しい。」などと言った。そのような話を聞いたDはうんざりして,同月16日にAがEから暴行されても関係ないと思い,Aに対し同月16日にEが呼んでいるから空けておくようにと伝えたところ,Aは「明日はお爺ちゃんちへ行く。」などと言った。DがAの言葉が真実ではないと思い,家に電話を架けて確認するように詰め寄ったところ,Aは嘘だったと認めた。このようなやりとりから,Dは甲の他のメンバーを呼んで本気で被害届を取り下げさせようとしていることを示そうとし,Bに電話をして本件公園で待っていると伝えた。その後,Dはゲームをしながら被害届を取り下げるように説得し続けた。DがBに電話してから1時間半ほどして,本件公園にB及びFが到着した。Dは,Bに対し,Aが16日にEから呼ばれているから空けておくように伝えるとお爺ちゃんちに行くなどと言い,家に電話を架けて確認するように言ったら嘘だと白状したことなどを説明した。(甲142)

サ Bは,平成17年10月15日午後2時30分ころ,Fとともに本件公園に着いた。そのとき,本件公園には,D,A,N(以下「N」という。)及びO(以下「O」という。)がいた。Bは,本件公園内で原付バイクを乗り回して遊んだ後,AとDの所へ行き,「さて,本題に入ろう。」と言って,同月16日にEと会う前に本件前事件(b)の被害届取り下げの件について口裏を合わせておこうとした。Dは,Bに対し,Bが来る前にAに対してEから呼び出しを受けているので16日の予定を空けておけと言ったところ,Aは,お爺ちゃんの家に行く予定があるという嘘をついたこと,Iらと会っているにもかかわらず,退院後誰とも会っていないと嘘をついたことなどを伝えた。Bは,Aが仲間に対して嘘を繰り返すことが許せなくなり,イライラしたが,その様子にDは気づき,Bに対し,「Aは退院してきたばかりで病み上がりだから,絶対に手を出すなよ。」などと言った。Bは,Aから本件前事件(b)について被害届を出したことを聞くと,取り下げを求めた。そうすると,Aはあっさりと取り下げができるといったが,Bが絶対に取り下げるよう言うと,Aは,親が勝手に被害届を出したし,被害届を出さないと保険金も下りないので,親と相談しないと分からない旨答えた。Bは,被害届のこともまたAが嘘をついていると思い,少し声を荒げて「お前,さっきうんと言ったばかりなのに,また変わっちゃうの。また嘘をつくのか。」と言うと,Aは,「はい,すみません。」と言いながら下を向いて黙った。そのころ,DとFは,BとFが乗ってきた2台のバイクを置きに行った。Bは,自分とAが座り込んでいた路上を車が通ったので,そこにいては危ないし邪魔になると思い,Aを本件公園の中に連れて行った。(甲52)

シ 平成17年10月15日午後2時50分ころ,Aの携帯電話からIの携帯電話に電話があったが,Iはアルバイト中のため電話に出なかった。また,Hは,同じころ,自分の携帯電話の着信履歴を見たところ,Aの携帯電話から着信履歴があったため,Aの携帯電話に電話した。そうすると,Aの携帯電話にはDが出て,「A,族の悪口言っていない。」と聞いてきたので,Hは,言っていない旨答えた。Hは,またAが暴行を受けていることを心配したが,場所も分からなかったのでどうしようもなく,Iに電話してAの携帯電話にDが出てAが族の悪口を言ったか聞かれたこと,面倒を避けるためにAに電話しない方が良いことなどと伝えた。(甲87,88)

(7)  本件事故について

ア 平成17年10月15日午後3時過ぎころ,Bは,Aを本件公園の中に連れて行くと,引き続きAに対しなぜ嘘をつくのか問いつめたところ,Aは,「はい。」「すいません。」などという返事を繰り返したため,BはAの態度に腹が立ち,「はいじゃねえだろう。別に俺らは,お前をぶっ飛ばしに来てる訳じゃないんだから。」と声を荒げながら言った。Aが「ぶっ飛ばされるのが怖かった。」と答えたため,Bは,「だからって,お前が俺達に嘘つくことねえだろう。」と言うと,Aは,「はい。」としか答えなかった。Bは,その態度に完全に頭に来て,「はい,じゃねえだろう。」と言いながら,Aの胸倉を両手で持って,上に持ち上げながら,Aを立たせるようにして,自分も一緒に立ち上がり,胸倉を両手で掴んだまま,「嘘をついた方が,ぶっ飛ばされることになるとは思わなかった。」と言った。そうすると,再びAは「はい。」と答えたが,Bは,その態度が反抗的に感じ,さらにBが「はい。じゃねえだろう。」と言うと,Aが「チェ」と舌打ちしたように聞こえたため,暴行を加えることになった。具体的な暴行態様は,まず,胸倉を掴んでいた両手を放しながら,Aを少し突き飛ばし,スニーカーを履いた左足のつま先付近で,右手を出して防御しているAの右顔面を蹴った。次に,Bは,間髪入れずに,右こぶしでAのみぞうち付近にストレートパンチをしたが,Aは両手で防いだ。さらに,Bは,Aの左肩付近を右手で押さえて,自分の左足の膝の方に引きつけて,Aの腹に左足で膝蹴りをした。このときもAは両手を腹の付近に出して防御していたが,Bの膝蹴りが腹に入り,前屈みになりながら「ウッー」と苦しそうな声を出した。Bは,間髪入れずに,Aの胸倉を左手で掴み,右手でAの左手を引っ張ると同時にAの後方から両足に左足を出して掛けて,柔道の左大外刈りの方法でAを投げ飛ばした。BがAを投げた後もAの左手を軽く持っていたため,Aは右半身をやや下にしながら背中から落ち,後頭部から右側頭部付近を地面に強くぶつけた。Bは,Aが頭を地面にぶつけた「ゴツ」という鈍い音を聞き,しまったと思い,両手でAの両手首付近を掴んで立たせた。BがAに対し起きろと言ったところ,Aは立ち上がったものの,フラフラした状態だったので,ベンチの所へ連れて行った。Aは,ベンチの前であぐらをかいて座り込み,「イテーッ」と言いながら後頭部付近を左手で押さえた。それから約3分ほどすると,Aは,両手を膝の上にダランと垂らし,突然,「グー,グー」といびきをかき始めた。(甲38,52,94,95,142)

イ Bは,Aを殴った原因としては,次のようなことを感じていた。(甲95)

(ア) Aが甲のメンバーの悪口を言ったこと

(イ) AがEと一緒に甲を結成したにもかかわらず甲を辞める等といい仲間を裏切ったこと

(ウ) Aが自分から甲の特攻隊長としてがんばるとメンバーに言っていたにもかかわらず,特攻隊長としての仕事をしないで,仲間を裏切る行為をしたこと

ウ Fが本件公園の中へ行ったところ,Aが本件公園の出入口付近にあぐらをかいたようにして座り,いびきをかきながら寝ていた。FとDはAをベンチへ運んで寝かせた。Fは,Aの体を揺すったりして,起こそうとしたが,Aは目を覚まさなかったため,悪戯をしてAが目を覚ましたときにびっくりさせてやろうと考えた。そして,B,F及びDは,Dの持っていたボールペンやはさみを使い,FとDはAの顔に落書きをしたりまつ毛を切ったりし,BはAの3本のラインが入るようにAのサイドの髪の毛を切った。(甲101)

エ Aは,病院に運ばれ,平成17年10月20日,急性硬膜下血腫により死亡した。(争いない。)

オ 本件事故の前後,本件公園には,甲のメンバーやその知り合いとしては,A,B,D,F,L,N及びOがいたが,E及びHはいなかった。(甲142)

(8)  本件事故後について

ア Bは,平成17年10月15日の時点では金髪だったが,黒髪に染色し,DやNらに対し,Aを殴った犯人は金髪だったと供述するよう求めた。(甲54,150)

イ Eは,平成17年10月16日のテレビニュースを見て,本件事故を知り,甲のメンバーが加害者であると考えてBに電話をしたところ,Bが加害者であると知った。甲の関係で本件事故が起きたことから,Eは総長としてまずいと思い,乙のP(以下「P」という。)とともに,さいたま赤十字病院へAをお見舞いに行った。しかし,原告及びCからAは意識不明の重体であり会わせられないと言われたため,EはAに会えなかった。Eは,同日の夜,Eに断りなく本件事故を起こしたB,D,F及びGを上尾駅に集合させ,食事をした後,大公園という公園においてPら乙のメンバー8人くらいとともに,制裁のために暴行を加えた。(甲141)

ウ Eは,平成17年10月17日,Bが本件事故の件で逮捕されると,甲のメンバーを集合させ,本件前事件(a)及び本件前事件(b)でAに暴行したのはB一人であり,他の甲のメンバーは暴行をしていない等の口裏合わせをした。その後も,Aの病状や警察の捜査状況を心配し,Eは甲のメンバーと頻繁に携帯電話で連絡を取り合った。(甲141)

2  検討

前提事実,認定事実を踏まえて,以下検討する。

(1)  本件特約について

本件特約は,人の生命又は身体を害する犯罪行為により,不慮の死を遂げた者の遺族又は重傷病を負い若しくは障害が残った者に対し犯罪被害者等給付金を支給し,及び当該犯罪行為の発生後速やかにこれらの者を援助するための措置を講ずることにより,犯罪被害等の早期の軽減に資することを目的とする支給法を参考として,被告が商品化したものであるから,その解釈に当たっては,支給法の解釈が参考になるが,文言上の差異や,法律による公的扶助制度と私的契約という性質上の差異から,必ずしも一致するものではないと解される。

(2)  本件事故は本件特約の「犯罪加害行為」に当たるか。

ア 本件特約2条1項は,「人の生命または身体を害する意図をもって行われた犯罪加害行為を普通保険約款人身傷害補償条項1条1項の人身傷害事故とみなす」としている以上,「人の生命または身体を害する意図をもって行われた」のであれば,「犯罪加害行為」に該当すると解するのが相当である。普通保険約款人身傷害補償条項1条1項の人身傷害事故の要件として,「急激かつ偶然な外来の事故」であることが定められていたとしても,かかる要件が「犯罪加害行為」の要件を加重し,「人の生命または身体を害する意図をもって行われた急激かつ偶然な外来の事故の直接の結果として,被保険者の生命または身体が害された」ことが要件になるというのは,法律用語としての「みなす」という言葉の用法に反するものであって,それと異なる用法を定めたとする事情も特段見あたらないから,採用することはできない。

イ そして,本件事故が,BのAに対する傷害致死事件であることは争いがないから,「人の身体を害する意図をもって行われ」ていることが認められ,本件事故が「犯罪加害行為」に該当することが明らかである。

(3)  本件事故は普通保険約款人身傷害補償条項6条1項1号の支払免責事由に該当するか。

ア この主張につき,原告は時機に後れた攻撃防御方法であるとして排除を求める。確かに,この主張は早期から可能であったにもかかわらず,弁論終結予定の本件第3回口頭弁論期日の3日前に提出された準備書面をもって初めて現れたものであり,このために1回結審が延びている。しかし,本件訴訟は平成18年7月27日に提起されており,長期間にわたって手続が積み重ねられてきたとまではいえないこと,本主張は本件特約3条の免責と類似する点が多いこと,本件では事実関係につきほとんど争いがなく新たな主張が追加されても新たな証拠調べを必要としないこと,原告の損害論の主張も本件第4回口頭弁論期日に修正されていることなどから,訴訟の完結を遅延するとはいえず,被告の上記主張を却下するのは相当でない。

イ 被告は,普通保険約款人身傷害補償条項6条1項の「極めて重大な過失」とは一般人を基準とした甚だしい不注意のことをいうと解すべき旨主張するが,「極めて重大な」としているのだから,「極めて重大な過失」とは,通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも,わずかの注意さえすれば,たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに,漫然これを見すごしたような,ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す(最判昭和32年7月9日)と解するのが相当である。

ウ 認定事実によれば,Aは,平成17年10月15日,甲から脱退してIとHのグループに戻ろうと考えていたこと,本件前事件(b)の後にCに連絡をしてくれ恩を感じているDから呼ばれたため原中公園に出向いたこと,その当時Aは本件前事件(b)についてCが被害届を出したことを甲のメンバーが知っているとは認識していなかったこと,原中公園に行くとDから翌日Eと会うように言われるとともに被害届を取り下げるよう求められたこと,Aが言い訳をすると追及され,本件公園に移動してBやFと合流することになったこと,本件公園にBとFが来てから,まずは翌日のEに対する口裏合わせが検討されたこと,さらにAの言い訳についての追及や被害届の取り下げ要求が行われたが,DやFは暴力的な態度は特段見せておらず,DはBに対して病み上がりのAに暴力を振るわないよう釘を差していたこと,AがBと2人で本件公園に入っていったのは暴行のためではなかったこと,BがAに暴行したのは突発的だったこと,この間Aは嘘をついたり,Bにとって反抗的と感じられる態度を示したことはあったとしても,Bから暴行されるのが無理からぬような挑発的な言動等を取ったとはいえないことなどの事実が認定できる。この事実経過からすれば,たとえ事前に2度の暴行を受けていたとしても,AがDに呼ばれて出向く時点,Dから被害届の取り下げを求められた時点,B及びFが加わって被害届の取り下げを求められた時点,Bと2人で本件公園内に入って行った時点の,いずれの時点でも,甲のメンバーから暴行を受けることが,一般人に要求される程度の通常の注意に及ばないわずかな注意さえすれば予見できたとは到底いい難い。さらに,甲のメンバーはAの連絡先を知っているのだから,Aが途中で逃げたところで追及を免れたとも限らなかった。警察等に助けを求めることについても,そもそも本件事故の予見可能性が乏しかったのだから助けを求める前提を欠く。このような事情からすると,Aに「極めて重大な過失」があったとは到底認められず,被告の本主張には理由がない。

(4)  本件事故は本件特約の支払免責事由に該当するか。

ア 本件特約3条について

(ア) 本件特約の支払免責事由は,支給法6条が犯罪被害者に対し犯罪被害者等給付金を支給することが社会通念上適切でない一定の場合に犯罪被害者等給付金を不支給とする規定があることを参考に,被保険者に対し保険金を支払うのが適切でない場合を支払免責事由として定めたものと解される。そして,支給法6条が「被害者と加害者との間に親族関係(事実上の婚姻関係を含む。)があるとき。」(6条1号),「被害者が犯罪行為を誘発したとき,その他当該犯罪被害につき,被害者にも,その責めに帰すべき行為があったとき。」(同条2号),「前2号に掲げる場合のほか,被害者又はその遺族と加害者との関係その他の事情から判断して,犯罪被害者等給付金を支給し,又は第9条の規定による額を支給することが社会通念上適切でないと認められるとき。」(同条3号)を不支給としていることと対応して,本件特約第3条は,支給法6条1号に対応して4項,支給法6条2号に対応して2項1号ないし3号,支給法6条3号に対応して2項4号を定めていると解される。このうち,本件特約3条4項を見ると,その4号は被保険者の同居の親族としており,支給法6条1号が単に親族関係と定めるのに比して限定している。また,本件特約3条2項1号及び3号は,「教唆」,「幇助」,「過度の暴力または脅迫,重大な侮辱等」として,単に犯罪被害に被害者にも責めがあった場合とする支給法6条2号に比して明確かつ限定的に定めている。さらに,本件特約3条2項4号は当該事故に関連する著しく不正な行為とし,社会通念上不適切とする支給法6条3号に比べ,「当該事故に関連」,「著しく不正な」と,より明確かつ限定的に規定している。したがって,本件特約3条の支払免責事由は,支給法6条の不支給事由よりも限定的に解するのが相当である。

(イ) そうすると,本件特約3条2項2号の「当該事故を容認する行為」とは,本件特約3条2項1号及び3号に匹敵するほどに被保険者が当該事故の誘発に責任を有している場合を指し,具体的には,被保険者において当該事故に遭うことを確実に認識していて,容易に当該事故に遭うことを回避できるにもかかわらず,漫然と当該事故に遭ったような場合をいうと解するのが相当である。

(ウ) 本件特約3条2項3号の「当該事故を誘発する行為」とは,被保険者に過度の暴行又は脅迫,重大な侮辱に比するほど強く被保険者にも当該事故の発生に帰責性がある場合をいうと解するのが相当である。

(エ) 本件特約3条2項4号の「当該事故に関連する著しく不正な行為」についても,同項1号及び3号に匹敵するほどに被保険者が当該事故の発生に責任を有していて,社会通念上保険金の支給を受けることが不適切な場合を指すと解するのが相当である。

イ 本件特約3条2項2号該当性について

認定事実からすれば,前述のとおり,Aには本件事故が予見可能であったということはできず,本件事故の回避についての注意が不十分であったともいえないから,Aが本件事故に遭うことを確実に認識していて,容易に本件事故に遭うことを回避できるにもかかわらず,漫然と本件事故に遭ったような場合であるとまではいえず,Dの呼出に応じた行為も本件公園から逃げなかった行為も,「当該事故を容認する行為」には該当しない。

よって,被告の本件特約3条2項2号による免責の主張には理由がない。

ウ 本件特約3条2項3号該当性について

認定事実によれば,本件事故の発生に関わるAの行為として,本件公園に出向いたこと,そこで嘘をついたこと,Bが反抗的だと感じる態度をとったことなどが認められるが,これらをもって過度の暴力又は脅迫,重大な侮辱に比するほど強くAに本件事故の発生に帰責性があったとはいえない。

よって,被告の本件特約3条2項3号による免責の主張には理由がない。

エ 本件特約3条2項4号該当性について

認定事実からすれば,前述のような事情に加え,Aは甲の結成には強く関与し特攻隊長にはなっているものの甲の活動には積極的だったとは認められないこと,甲は通常の暴走族に比して独自の掟が決まっているわけでもなければ暴走行為を行っていたわけでもないこと,甲の内部での暴行は,本件事故以前には,Aに対する暴行以外には認められないこと,本件前事件(a)は,Aが甲の集会に遅刻し,活動に積極的ではなかったから起きたものであるところ,Aは暴走族の独自の掟に従って暴行を受け入れたとは認められないこと,本件前事件(b)は甲の活動とはあまり関係がなく,Aが嘘をつくことが問題となっていること,本件前事件(b)でAは長時間甲のメンバーから暴行を受けて入院しており,EやFはAが今後暴行を受けることなく甲のメンバーから抜けることを認めるつもりでいたこと,Aは本件前事件(b)を受けて甲から脱退しようと考えていたこと,本件事故は甲の組織的活動とは関係がなく,Bの個人的かつ突発的犯行であることなどの事実が認められる。このような事情を考慮すると,暴走族という反社会的組織の掟に従ったためにAが命を落としたとは到底認められず,Aが本件事故の被害者になったことが反社会的犯罪行為を発生させるという「著しく不正な行為」に当たるとはいえないから,Aが本件事故の発生に責任を有していて,社会通念上保険金の支給を受けることが不適切であるとは認められない。

よって,被告の本件特約3条2項4号による免責の主張には理由がない。

オ したがって,被告の本件特約3条による支払免責の主張はいずれも理由がない。

(5)  被告が支払うべき保険金額について

認定事実からすれば,被告が支払うべき保険金額は次のとおり5000万円である。

ア 葬儀費 120万円

原告はAの葬儀のため,葬儀,料理,返礼品代として,285万8790円支払っていることが認められるから,返礼品代は除くとしても,葬儀費用が120万円以上かかっていることは認められる。

イ 死亡による逸失利益 4107万4752円

計算式 41万5400円(男子全年齢平均給与月額)×12×(1-0.5)×16.480

ウ 死亡慰謝料 1600万円

エ 以上合計のAの損害額 5827万4752円

オ 本件特約の保険金額 5000万円

第4結論

以上のとおり,原告の請求には理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 佐久間隆)

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