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さいたま地方裁判所 平成18年(ワ)991号 判決 2007年7月13日

主文

1  被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成18年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,原告に対し,167万2600円及びこれに対する平成18年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,被告の職員団体である原告が,被告に対し,旧熊谷市,旧大里町及び旧妻沼町(以下まとめて「旧自治体」という。)が合併(廃置分合)して被告となった後に被告の公平委員が公平委員会において,地方公務員法(以下「地公法」という。) 52条3項ただし書きの「管理職員等」に当たらない元旧熊谷市所属の職員を,「管理職員等」に当たるとした公平委員会規則である「熊谷市管理職員等の範囲を定める規則」(以下「本件規則」という。)を定めたことが違法であるとして,国家賠償法1条に基づき,「管理職員等」に当たるとされたために原告から脱退した組合員が納めたであろう組合費の減収分の一部である67万2600円並びに「管理職員等」に当たるとされた組合員が原告から脱退することを余儀なくされたことによる団結権侵害の損害賠償100万円及びそれらに対する本件規則が施行された日である平成18年1月1日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める事案である。

1  前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 原告は,平成17年10月1日,原告の前身である旧熊谷市の熊谷市職員労働組合(以下「旧熊谷市職員労働組合」という。),自治労大里町職員労働組合及び妻沼町役場職員組合が合同した職員団体である。合併当時,組合員数は800名を越えていた(乙4の15,弁論の全趣旨)。

イ 被告は,平成17年10月1日,旧自治体が合併して誕生した地方公共団体である。

ウ 平成17年12月28日の本件規則制定時,別紙1「組合員及び事務分掌等一覧表」の「氏名」欄に記載の38名の旧熊谷市職員の立場から被告の職員となった者(以下「本件組合員」という。)は,対応する同目録「職名」欄記載の各副課長相当職の地位にあるとともに,いずれも原告の組合員であった。

(2)  旧自治体及び被告の職制について

ア 旧熊谷市では,組織運営において部制がとられ,課長(所長,室長等を含む。)(以下「課長相当職」という。)の直下の職として課長補佐相当職があった。旧熊谷市の公平委員会規則では,人事,予算,法規等を担当する課長補佐は「管理職員等」とされていたが,それ以外の課長補佐相当職は「管理職員等」とはされず,管理職手当も支給されていなかった。

イ 旧大里町及び旧妻沼町では,それぞれ組織運営において課制がとられ,課長相当職の直下の職として課長補佐相当職があった。それぞれの公平委員会規則では,課長補佐相当職は「管理職員等」とされ,給与条例によって,旧大里町では給料月額の6%,旧妻沼町では給料月額の4~5%の管理職手当がそれぞれ支給されていた。

ウ 被告では,組織運営において部制がとられ,課長相当職の直下の職として副課長(副所長,副室長等を含む。)(以下「副課長相当職」という。)がある。本件規則では,副課長相当職は「管理職員等」とされ,熊谷市一般職職員の給与に関する条例によって給料月額の6%の管理職手当が支給されている。

(3)  旧自治体における課長補佐相当職の職務権限及び被告における副課長相当職の職務権限等について(弁論の全趣旨)

ア 旧熊谷市の課長補佐相当職は,人事評価に関与できる権限はなく,実際に人事評価に関与していなかった。また,課長補佐相当職への昇格は選考によって行われており,競争試験は行われていなかった。

イ 旧大里町の課長補佐相当職は,人事評価にあたってまず課長補佐相当職が人事評価を行い,その後課長相当職が改めて人事評価を行っていた。また,課長補佐相当職への昇格は選考によって行われており,競争試験は行われていなかった。

ウ 旧妻沼町の課長補佐相当職は,人事評価にあたって必要に応じて課長相当職から意見の聴取を受け,課長相当職が人事評価を行っていた。また,課長補佐相当職への昇格は選考によって行われており,競争試験は行われていなかった。

エ 被告の副課長相当職は,職員を指揮監督する権限があり,一般的には人事評価を行える権限があるが,具体的権限は各課所の事務分掌により決まり,事務分掌は課長相当職の裁量によるため,扱いは統一されていない。また,副課長相当職への昇格は選考によって行われており,競争試験は行われていない。

(4)  被告公平委員による本件規則の制定

ア A,B及びCの各被告公平委員(以下「被告公平委員ら」という。)は,平成17年12月28日,本件規則を定め,被告本庁副課長相当職を「管理職員等」の範囲に含めた。本件規則は同日公布され,平成18年1月1日から施行された。

イ 平成17年12月28日の公平委員会会議(以下「本件会議」という。)での審議では,被告公平委員らは,本件規則を制定すると原告の副課長相当職39名の組合員資格が否定されることが話題に上っていた。

(5)  関係各法令の規定について(一部抜粋)

ア 旧熊谷市の「熊谷市処務規則」(乙1)

第4条 主な職の職務は,次に掲げるとおりとする。

(1)部長,室長及び局長は,上司の命を受け部,室又は事務局の事務及び業務を統括する。

(2)次長は,上司の命を受け部長又は局長を補佐するとともに,部又は事務局の事務及び業務を担当する。

(3)理事,参事及び技監は,上司が特に命じた事項を担当する。

(4)課長,所長は,上司の命を受け課,事務所又はセンターの事務及び業務を掌理し,所属職員を指揮監督する。

(5)担当副参事及び副参事は,上司が特に命じた事務及び業務を担当する。

(6)課長補佐,室長補佐,所長補佐は,上司の命を受け,課長,室長又は所長を補佐するとともに,課,室,事務所又はセンターの事務及び業務を担当する。

(7)主幹は,上司が特に命じた事務を担当する。業務主幹は,上司が特に命じた業務を担当する。

(8)係長は,上司の命を受け係の事務又は業務を担当する。主査は,上司が特に命じた事務又は業務を担当する。

(9)支所長,出張所長は,上司の命を受け支所又は出張所の事務を担当し,所属職員を指揮監督する。

(10)上席主任,主任,主事,技師,主任技術員,事務員及び技術員は,上司の命を受け事務又は業務に従事する。

イ 旧大里町の「大里町行政組織規則」(弁論の全趣旨)

第8条1項 課長補佐 課長を助け職員の担任する事務を監督し,事務を処理する。

ウ 旧妻沼町の「妻沼町役場組織及び処務規程」(弁論の全趣旨)

第10条2項 課長補佐又は次長は,課長又は室長を助け,職員の担任する事務を監督し,課又は室の事務を整理する。

エ 被告の「熊谷市行政組織条例施行規則」(甲7)

第6条 主な職の職務は,次に掲げるとおりとする。

(1)部長及び室長は,上司の命を受け,部,室の事務及び業務を統括する。

(2)次長は,上司の命を受け,部長を補佐するとともに,部の事務及び業務を担当する。

(3)理事,参事及び技監は,上司が特に命じた事項を担当する。

(4)課長,所長は,上司の命を受け,課,事務所又はセンターの事務及び業務を掌理し,所属職員を指揮監督する。

(5)担当副参事及び副参事は,上司が特に命じた事務及び業務を担当する。

(6)副課長,副室長及び副所長は,上司の命を受け,課,室,事務所又はセンターの特に指定された事項を掌理するとともに,当該指定事項について課長,室長又は所長を助け,これらの事務を処理するため,職員を指揮監督する。

(7)主幹は,上司が特に命じた事務を担当する。業務主幹は,上司が特に命じた業務を担当する。

(8)係長は,上司の命を受け係の事務又は業務を担当する。主査は,上司が特に命じた事務又は業務を担当する。

(9)出張所長は,上司の命を受け,出張所の事務を担当し,所属職員を指揮監督する。

(10)上席主任,主任,主事,技師,主任技術員,事務員及び技術員は,上司の命を受け,事務又は業務に従事する。

オ 本件規則(甲3)

第1条 この規則は,地公法第52条第4項の規定に基づき,同条第3項ただし書きに規定する管理職員等の範囲を定めるものとする。

第2条 本庁に勤務する職員のうち管理職員等は,別表第1の左欄に掲げる機関についてそれぞれ同表の右欄に掲げる職を有する者とする。

2  出先機関に勤務する職員のうち管理職員等は,別表第2の左欄に掲げる機関についてそれぞれ同表の右欄に掲げる職を有する者とする。

(6) 職員団体の登録の効果(乙4の5)

職員団体は,一定の要件を備えた場合,人事委員会又は公平委員会に登録することができる(地公法53条1項。以下本法により登録された職員団体を「登録職員団体」という。)。登録の効果としては,(a)当局は,登録職員団体の交渉の申し入れには,積極的に応ずるべき立場に立つこと(地公法55条1項),(b)登録職員団体は,法人格が認められること(地公法54条),(c)登録職員団体には,一定の場合には専従職員が認められること(地公法55条の2)の3つの利便(以下「本件登録利益」という。)が与えられている。

(7) 本件規則制定後の原告の状況

平成17年12月28日の本件規則制定時,旧熊谷市職員の立場から被告の職員となった原告の組合員で,副課長相当職の職員が39名いたが,同日,本件規則施行前に1名が脱退し,残る38名の本件組合員は原告の組合員資格を失った。そのため原告は,本件組合員から平成18年1月分以降の組合費の徴収を行わなかった。本件組合員の組合費は一人あたり月額5900円であった。なお,本件組合員資格喪失者らの中には,平成18年4月1日に課長相当職に昇格する者もいた。

2  争点

(1)  副課長相当職は「管理職員等」に当たるか。(a)

(2)  「管理職員等」に当たらないとした場合,被告の公平委員の公平委員会での審議に過失はあるか。(b)

(3)  本件規則の制定と,原告に損害が生じることとの間の因果関係があるか。(c)

(4)  原告の損害額(d)

3  争点に対する当事者の主張

(1)  aについて(副課長相当職は「管理職員等」に当たるか。)

(原告)

ア 副課長相当職の権限は,「上司の命を受け,課,室,事務所又はセンターの特に指定された事項を掌理するとともに,当該指定事項について課長,室長又は所長を助け,これらの事務を処理するため,職員を指揮監督する」ことであるが,本件規則制定時,本件組合員はいずれも「課,室,事務所又はセンターの特に指定された事項」(以下「指定事項」という。)を有していなかった。

地公法52条3項ただし書きの「管理職員等」に該当するか否かは,職務権限から客観的に決まることである。そして,「管理職員等」をめぐる歴史的経緯や現行地公法立法担当者の意思等からすれば,「管理職員等」とは,職員団体との関係において当局の立場に立って遂行すべき職務を担当する職員のことである。本件規則制定時,本件組合員が副課長相当職として有していた権限は,部下に対する指揮監督権限くらいのものであり,職員団体との関係において当局の立場に立って遂行すべき職務を担当していたとはいえないから,副課長相当職は「管理職員等」に当たらない。

イ そもそも,被告が副課長相当職を新設したのは,旧自治体ごとに職制が異なり,管理職手当の支給範囲も異なっていたが,合併前は管理職手当が支給されていたが合併後に管理職手当が支給されなくなって待遇が低下する者が出現することを防ぐためである。すなわち,管理職手当の支給を受けておらず「管理職員等」に当たらない旧熊谷市の課長補佐相当職に就いていた者を「管理職員等」に当たる副課長相当職とし,管理職手当の支給を受けていた旧大里町及び旧妻沼町の課長補佐相当職に就いていた者も「管理職員等」に当たる副課長相当職とし,「管理職員等」に当たる者に管理職手当を支給することとしたのである。また,旧熊谷市の課長補佐相当職に就いていた者を「管理職員等」に当たるとし,管理職手当の支給を行うとともに超過勤務手当の支給を止めれば,超過勤務手当が削減される見込みであることなども,「管理職員等」の範囲を決めるに当たって考慮されていた。

ウ 被告は副課長相当職が,地公法52条3項ただし書きの「管理職員等」のうち,「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」に該当すると主張する。しかし,現行地公法の立法者意思からすれば,「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」とは,労働組合法(以下「労組法」という。) 2条の「役員」に相当する職員のことをいうのであり,自治体そのものの重要な政策の立案・企画の決定について,参加するのではなく参画し,かつ,管理的地位にあることが必要である。本件では,市長公室,総合政策部,総務部を除く部長相当職,課長相当職ないし副課長相当職は,市当局側に立って原告との関係における計画と方針の決定に参画することはないのだから,副課長相当職は「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」に当たらない。

また,「上司の命を受け,課,室,事務所又はセンターの特に指定された事項を掌理するとともに,当該指定事項について課長,室長又は所長を助け,これらの事務を処理するため,職員を指揮監督する」という副課長相当職の職務権限からしても,指定事項がなく,部下に対する人事評価権や指揮命令権が「管理職員等」の範囲とは関係がなく,副課長相当職は企画審議会どころか部課長会議さえ出席していない現状があるのだから,「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」には当たらない。

エ なお,管理職手当の支給は職務の特殊性によりなされるものであり,「管理職員等」の該当性は職員団体への公権力や使用者の不当介入防止の観点から決まるものであるから,管理職手当の支給の有無と「管理職員等」への該当性は直接関係がない。また,上司の立場にある係長が「管理職員等」に含まれないことに争いはないことからしても,部下に対する指揮監督権限の有無は「管理職員等」への該当性と関係がない。

(被告)

ア 副課長相当職の職務権限は,「職員を指揮監督する」というものであり,これは部長相当職や課長相当職が有している権限であるのに対し,主幹以下の職員は有していない権限である。また,副課長相当職は,課員の事務分担の決定に参画し,課の予算獲得のための予算折衝を行い,部下職員の人事評価等に当たり課長相当職から相談されるなどしている。さらに,課は重要性のある特定分野を独立して処理させる必要があって設置されるのだからいずれの課でも重要な行政上の決定は行われているが,それについて副課長相当職は回議という形で関与しており,不相当な起案であれば修正して課長相当職に回すことができるのだから,「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」に該当する。したがって,副課長相当職は「管理職員等」に該当する。

イ 被告が副課長を新設した理由の一つとして,旧自治体間の課長補佐に当たる職の給与処遇を考慮したことは確かであるが,他にも理由はあった。また,旧熊谷市の課長補佐に就いていた者を自動的に副課長相当職としたのではなく,選考により一部の者を副課長相当職とした。

ウ 地公法52条3項ただし書きには,「重要な(行政上の決定)」,「管理的(地位)」,「(直接に抵触すると)認められる」,「監督的(地位)」などの抽象的な文言が使用されており,その解釈次第では課長でさえ「管理職員等」に当たらないとも解せないこともないし,係長も「管理職員等」的な性格を帯びているといえる。「管理職員等」の範囲は演繹的に定まるものではなく,地方公共団体の面積,人口,職員数などの規模,住民の反応,他市町村の状況,国・県の意向など多彩な諸事情を総合考慮した上で,当該地方公共団体の実情を踏まえて定められるべきであり,公平委員会は裁量権を有しているというべきである。そして,公平委員会がその裁量権を逸脱して初めて違法となる。

本件では,副課長相当職は,課長相当職と1階級しか違わないこと,副課長相当職の職務権限は「職員を指揮監督する」権限であるところ,課長相当職は「職員を指揮監督する」権限を有し,主幹や係長は「職員を指揮監督する」権限を有しないことからすれば副課長相当職は課長相当職に近いこと,埼玉県内には副課長や課長補佐などの課長相当職直下の職を「管理職員等」に含めている市町村が多数であることなどの事情からすれば,副課長相当職を「管理職員等」に含めたことは公平委員会の裁量権の範囲内である。

(原告の反論)

公平委員会には,ある職が「管理職員等」か否かを決定する裁量はなく,その職の地位・職務権限から客観的に決まっている「管理職員等」の該当性を,公平委員会規則で確認するにすぎない。地公法52条4項が,「管理職員等」の範囲を人事委員会規則又は公平委員会規則で定めるとしているのは,本来「管理職員等」の範囲は客観的に決まっているものの,公平中立な第三者機関である人事委員会又は公平委員会にその権限を専属させて,「管理職員等」の範囲に関する労使間の無用な摩擦を防ごうとしたものである。

(2)  bについて(「管理職員等」に当たらないとした場合,被告の公平委員の公平委員会での審議に過失はあるか。)

(原告)

本件規則が制定された平成17年12月28日の公平委員会では,11件の案件が審議されたが,合計審議時間はわずか半日(午後1時から午後4時30分まで)であり,しかも公平委員として初めて選任された委員もいた。また,配付されたという資料も公平委員が十分な検討ができていたか疑わしい。さらに,被告の総務部職員課長を参加させる一方で原告の組合員とは一貫して会おうとしなかった。このような審議では十分な審議がなされたとはいえず,被告の公平委員には過失がある。

(被告)

ア 平成17年12月28日の公平委員会会議録(甲5)の本件規則に関する記載は31頁中16頁であり,全体の約52%にのぼっている。これだけの時間をかけて討議しているから,十分な審議を経て制定されたものである。

イ 本件会議では,本件規則の制定が原告に壊滅的な打撃を与えるものかどうか討議されており,原告への影響が考慮されている。

ウ 本件会議のために公平委員に配付された資料の中には,地公法52条3項ただし書き所定の「管理職員等」について解説したものがあり(乙4の7),公平委員はこれらの配付資料を見た上で審議を行ったのだから,副課長相当職が地公法52条3項ただし書きのいずれの職員に該当するかを意識した上で,副課長相当職が「管理職員等」に該当するとして本件規則が制定されている。

エ 公平委員会には裁量権があるのだから,「管理職員等」の範囲を定める際,いかなる事柄を重視するかも裁量がある。そして,本件では,本件会議において,副課長相当職を「管理職員等」とすべき理由,旧熊谷市時代からの旧熊谷市職員労働組合との交渉経緯,原告主張の理論的根拠,原告に及ぼすべき影響などの事柄について重要と考えて討議を行った。

オ 以上のような事情があるから,被告の公平委員には過失がない。

(3)  cについて(本件規則の制定と,原告に損害が生じることとの間の因果関係があるか。)

(原告)

地公法52条3項ただし書きは,「管理職員等」とその他の職員等が一緒に団体を組織したときは「職員団体」に当たらないとしている。「職員団体」でなければ同法53条1項の職員団体登録を行うことができず,また,登録職員団体が「職員団体」でなくなったときには職員団体登録が取り消される(同条6項)。職員団体登録を行わないと本件登録利益を受けられずに不利であるから,原告は職員団体登録を取り消されないようにするため,「管理職員等」とされた本件組合員からのチェックオフを打ち切らざるをえなくなった。また,本件組合員が「管理職員等」とされたことで原告の組合活動上重要な役割を担っていた本件組合員は原告の組合員資格を喪失し,原告の団結権は侵害された。したがって,本件規則の制定と原告の損害には因果関係がある。

(被告)

争う。

通常,「管理職員等」を定める規則制定は,職員団体の減収や構成員減少による活動力低下をもたらすものではないから,本件規則の制定と,原告主張の損害との間に,自然的因果関係はあるとしても,相当因果関係があるとはいえない。

(4)  dについて(原告の損害額)

(原告)

合計額167万2600円

(内訳)

ア 平成18年1月から3月までの組合費減少分 67万2600円

5900円/月(1か月分組合費)×38名×3月

イ 団結権侵害分 100万円

(被告)

争う。

組合費収入も,原告の組合員が「管理職員等」に含まれることによる組合員の減少も,法的保護に値する利益ではない。すなわち,本件規則は,被告の誕生後3か月ほどして制定されているが,それは公平委員選任についての議会の同意等の諸手続のためのやむを得ないのだから,本件規則は被告誕生後遅延なく制定されたということができるところ,被告においては,副課長相当職は「管理職員等」に含まれるものとして誕生したということができる。

第3争点に対する判断

1  認定事実

前提事実,関係各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  副課長相当職の職務権限

ア 旧熊谷市の職員課の職員課長は,平成17年7月20日の旧熊谷市職員労働組合との団体交渉時,旧熊谷市の課長補佐は課長を補佐する職務であるのに対し,被告の副課長は特定の事務を分掌事務として,特定の事務を持つ主幹,係長を管理する職務であること,副課長は主幹を1級上の立場から指導監督すること,埼玉県の副課長がイメージであること,副課長は課に複数できるわけではなく必要最小限であり,一人もいない場合もありうること,副課長しかいない課はないことなどを述べた。(甲35)

イ 副課長相当職には,「上司の命を受け,課,室,事務所又はセンターの特に指定された事項を掌理するとともに,当該指定事項について課長,室長又は所長を助け,これらの事務を処理するため,職員を指揮監督する」権限が与えられているが,本件規則制定時,本件組合員のすべての者が副課長相当職として指定事項を有していたとは認められず,その後指定事項を有することになったことも認められない。

ウ 副課長相当職の具体的職務権限について

(ア)副課長相当職は,職員を指揮監督する権限があり,一般的には人事評価を行う権限があるが,具体的権限は各課所の事務分掌により決まり,当該事務分掌は課長相当職の裁量により決められている。(前提事実)

(イ)副課長相当職には,給与月額の6%の管理職手当が支払われている。(前提事実)

(ウ)被告の企画審議会では,市政の方針などが討議され,部長相当職以上が出席し,副課長相当職は出席しない。また,被告では定例部課長会議が月1回開催され,市長の訓示・方針説明・各課の連絡事項などが議題とされるが,副課長相当職は定例部課長会議に出席しない。(甲43,弁論の全趣旨)

(エ)(a)休暇を承認すること,(b)週休日の振替等を行い,又は休日の代休日を指定すること,(c)市外出張の命令及びその復命を受けること,(d)市内出張の命令及びその復命を受けること,(e)時間外勤務命令をすること,(f)課員の事務分担を決定することなどの課所属職員に関する事項の専決権限は担当副参事や副参事を除く課長相当職にはあるが,保育所長を除く副課長相当職にはない。(争いがない)

(オ)本件組合員のうち副課長相当職としての事務分掌の定めについては,次のとおりである。すなわち,別紙1「組合員及び事務分掌等一覧表」(省略)の各本件組合員が記載されている「氏名」欄に対応する「副課長相当職としての事務分掌」欄に記載のとおりの事務分掌が,対応する「左記事務分掌の基準時」の時点でなされていた。

(カ)被告において,平成18年4月1日現在(弁論の全趣旨),企画課,納税課,下水道課,大里行政センター総務税務課,大里行政センター市民環境課,大里行政センター産業建設課,妻沼行政センター総務税務課,妻沼行政センター市民環境課,妻沼行政センター福祉課,妻沼行政センター産業課,妻沼行政センター建設課,議会事務局等の課等には,副課長相当職が複数名配置されていた。それらの課等ではすべて複数名の係長,主査,主任等の職名の者が配置されていて,多くの課等で複数の係が置かれている。(甲37)

(2)  他の自治体での課長直下の職員の扱い等について

ア 埼玉県内の他の市町村での課長直下の職員の扱いについて

埼玉県内の他の市町村では,別紙2『埼玉県内の他の市町村における「管理職員等」の定め等に関する一覧表』(省略)の「市町村名」欄記載の各自治体について,課長相当職直下の職として「課長相当職直下の職名(乙5)」欄記載の職が定められているところ,それらの職が公平委員会規則により「管理職員等」とされるに当たり限定されているか否か,限定されている場合いかなる範囲に限定されているかは,対応する『「管理職員等」の範囲に含まれる左記課長相当職直下の職員の限定』欄記載のとおりである。また,各自治体における「課長相当職直下の職名(乙5)」欄記載の職の職務権限については,対応する「左記課長相当職直下の職の職務権限」欄記載のとおりである。

イ 山形県内の市町村での課長直下の職員の扱いについて

山形県内の市町村では,別紙3『山形県の市町村における「管理職員等」の定め等に関する一覧表』(省略)の「市町村名」欄記載の各市町村について,課長相当職以下の職の一部として「課長相当職以下で「管理職員等」に含まれる職名の一部」欄記載の職が定められているところ,それらの職が公平委員会規則により「管理職員等」とされるに当たり限定されているか否か,限定されている場合いかなる範囲に限定されているかは,対応する『「管理職員等」の範囲に含まれる左記課長相当職以下の職員の限定』欄記載のとおりである。(甲33の1,33の2)

ウ 埼玉県での副課(所・室)長の扱いについて

埼玉県では,「管理職員等」に当たる本庁の副課(所・室)長について,労働関係に関する事務又は秘書事務を所掌するものに限定している。(甲33の3)

エ 埼玉県内の他の市町村における「管理職員等」の範囲と管理職手当支給の範囲に関する被告の公平委員に配布された本件会議用の資料の記載について

(ア)埼玉県内の他のすべての市町村では,部長相当職,課長相当職は「管理職員等」であり,管理職手当支給対象者となっている。また,係長相当職は,秘書,政策,予算,人事,法規事務等に従事する者に限って「管理職員等」とされ,管理職手当支給対象者とはなっていない。(乙4の14)

(イ)川越市,行田市,秩父市,飯能市,加須市,本庄市,東松山市,鴻巣市,深谷市,上尾市,越谷市,蕨市,戸田市,鳩ヶ谷市,朝霞市,志木市,和光市,新座市,久喜市,八潮市,富士見市,三郷市,蓮田市,幸手市,日高市,吉川市の26市では,課長相当職直下の級について,「管理職員等」の該当性と管理職手当支給対象者該当性は一致している。一方,川口市,所沢市,狭山市,羽生市,草加市,入間市,桶川市,北本市,坂戸市,鶴ヶ島市,ふじみ野市の11市では,課長相当職直下の級は一部に限って「管理職員等」とされているが,管理職手当支給対象者となっている。(乙4の14)

(ウ)本件会議のために被告の公平委員に配布された資料のうち,「管理職員等について」と題する書面(乙4の7)では,管理職手当の支給対象者との関係で,一般的には管理職手当支給対象者よりも,「管理職員等」の範囲の方が広い,としており,本件会議の際も,公平委員はそのような認識をした。(甲5)

(3)  本件規則の制定経緯

ア 原告ないし旧熊谷市職員労働組合と旧熊谷市ないし被告との交渉経緯

平成17年6月,被告を誕生させるための合併協議会は,被告における勤務条件を旧自治体の各職員団体に提示したが,旧熊谷市職員労働組合は副課長相当職が「管理職員等」とされることに反発し,その後,旧熊谷市職員労働組合と旧熊谷市の間で平成17年7月20日及び同月29日に団体交渉が行われたが,解決しなかった。そこで,旧熊谷市職員労働組合は,旧熊谷市を相手方として埼玉県労働委員会に労働関係調整法第12条に基づくあっせんの申請をしたが,あっせん打ち切りとなった。その後,旧熊谷市職員労働組合は,平成17年8月12日,旧熊谷市を相手方として,労組法27条に基づく団体交渉応諾を求める不当労働行為救済申立てを行った。原告と被告は,平成18年1月30日,覚書(乙3)を交わし,原告は当該申立てを取り下げた。(甲5,甲35,乙3)

イ 本件会議について(甲5,乙4の1ないし15,前提事実)

(ア)本件会議は,A公平委員長,B公平委員,C公平委員,D総務部参事兼庶務課長,E庶務課副参事等が出席し,平成17年12月28日午後1時に開会し,午後4時30分に終了した。本件会議の会議録(甲5)は,全31頁であり,そのうち1頁目から13頁目までは公平委員会委員長の選挙や10件の公平委員会規則の審議状況についての記載があり,14頁目から28頁目までは本件規則の審議状況についての記載があり,29頁から31頁までは本件規則施行後の原告の職員団体登録取消についての記載がある。C公平委員は,公平委員として初任であり,かつ,初めての公平委員会であった。

(イ)本件規則の審議状況としては,あらかじめ公平委員に配布されていた「熊谷市管理職員等の範囲を定める規則(案)」(乙4の3),「管理職員等について」と題する書面(乙4の7),「熊谷市管理職手当支給に関する規則」(乙4の8),「熊谷市議会事務局処務規程」(乙4の10),「熊谷市行政組織条例施行規則」(乙4の11),「管理職員等の範囲県内他市の状況」と題する書面(乙4の14),「組合加入の状況等」と題する書面(乙4の15)などの説明が行われ,事務局から補足説明とそれに対する公平委員の質問が行われ,職員課の職員課長から原告との交渉経緯についての説明が行われて,本件規則制定が可決されるというものであった。その際,事務局からの補足説明時には,副課長相当職を新たに「管理職員等」とする理由,埼玉県内の他の自治体における課長補佐の位置づけの比較,「管理職員等」の範囲と管理職手当支給の範囲の関係,職員課と原告(旧熊谷市職員労働組合を含む。)との交渉経緯などについて検討がなされた。また,職員課の担当課長からの説明時には,被告の職員課が原告との間でそれまでに給料等の勤務条件などについて交渉を行ってきたこと,公平委員会が「管理職員等」の範囲を決めなければ解決しないこと,原告が副課長相当職を「管理職員等」に当たらないとする理由が,これまで当たらなかったからであるという理由程度しか不明であったこと,原告は秘書課の主査のように当然「管理職員等」に含まれる者についても「管理職員等」に当たらないと主張したことがあること,本件規則の制定のために原告から脱退せざるをえなくなる組合員の数は当時原告組合員であった800名中の39名にとどまり原告に壊滅的影響を与えるものではないことなどが検討された。なお,「職員団体の登録の効果」と題する書面(乙4の5),「熊谷市職員の初任給,昇格,昇給等の基準に関する規則」(乙4の9),「熊谷市役所行政センター条例施行規則」(乙4の12),「熊谷市教育委員会事務局設置及び処務規則」(乙4の13)等の資料も,事前に公平委員に配布されていた(弁論の全趣旨)。

(ウ)本件会議での本件規則の審議時,原告から提出された「管理職員等の範囲拡大反対についての要請」と題する書面(甲40)が被告の公平委員の手元にあった。公平委員は,この書面に原告の主張が記載されているため,改めて原告の言い分を聞く必要はないと判断し,原告の言い分を聞くことなく本件規則を可決した。

(エ)本件規則の審議後の本件会議中,本件規則が平成18年1月1日に施行されると原告の職員団体登録が取り消される可能性があること,職員団体取消は公平委員会が行うこと,登録職員団体でなくなると原告は不利益を受けることなどが話題になった。

(4)  本件規則制定による原告への影響

ア 原告は,被告に対し,平成18年1月5日付の組合費チェックオフ変更届(甲20)を提出し,本件組合員をチェックオフの対象から除外した。

イ 本件規則により本件組合員は原告の組合員資格を喪失し,原告の組合活動を行うことができなくなり,実際に行わなくなった。本件組合員は,本件規則制定前は,年齢が平均54歳程度で,各課の業務で大きな役割を担っているとともに,若い組合員に対して指導や相談への対応等を行い,その情報を原告の役員に伝えるなどしていた。(甲41,弁論の全趣旨)

2  検討

前提事実及び認定事実並びに弁論の全趣旨を踏まえて,各争点について以下検討する。

(1)  副課長相当職は「管理職員等」に当たるか。(a)

ア 地公法52条について

(ア)地公法は,憲法28条の団結権保障の観点から,52条以下の第9節において職員団体についての節を設け,職員が勤務条件の維持改善を図るため(地公法52条1項),職員団体を結成することができることとし(同条3項本文),さらに登録職員団体については(a)法人格を有することができ(同法54条),(b)地方公共団体の当局と,職員の給与,勤務時間その他の勤務条件に関し,及び附帯して,社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し,交渉することができ(同法55条),(c)職員団体専従役員を置くことができる(同法55条の2)などの便益を定めている。一方,同法52条3項ただし書きは,「管理職員等」以外の職員と「管理職員等」が混在する団体は職員団体ではないとしている。この同法52条3項ただし書きは,団結権の趣旨,当該条項が新設された昭和40年5月18日改正の立法担当者の意思や現行地公法52条3項ただし書きの形に改正された昭和53年6月21日改正の立法担当者の意思等からすれば,当局の利益を代表する側の立場にある者が所属する団体では,そのような立場にない者の自主性が損なわれて適切に職員の利益が代表されないため,そのような団体は職員団体とは扱わないこととした条文であり,労組法2条と同趣旨であると解される。したがって,「管理職員等」とは,当局の利益を代表する立場にある者のことであるというべきである。そして,団結権は多数人が団結することによって強く保障される性質であることや,文言を具体化することで「管理職員等」の範囲を恣意的に解釈されることを防止するために現行法の規定に改正した経緯からすれば,「管理職員等」の範囲をむやみに拡大するのは相当ではない。そうすると,「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」とは,労組法2条の「役員」に相当する職員であり,たとえば当局の代表権や業務執行権等を有するという程度の権限を有する職員を指すというべきである。また「職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当する職員」とは,労組法2条の「使用者の利益を代表する者」に相当する職員であり,業務の性質上恒常的に当局の利益を代表する業務を行う職員を指すというべきである。具体的には,2,3名といった少数にとどまらない相当数の人数の職員を管理する立場であれば職員団体との関係で当局の利益の代表をしていると考えられることや行政の性質上,各係の段階でさえも重要な影響力があることを考慮すると,一般的な部・課・係といった構成の組織においては,課程度の単位で,そこに勤務する職員にかかる人事,給与,服務等に関する事項について職務を行う権限を有し,部下を指揮監督する権限を有していれば,「職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当する職員」として「管理職員等」に当たると考えられる。

(イ)また,現行地公法52条3項ただし書きの立法経緯や立法者意思からすれば,「管理職員等」の範囲は各地方公共団体における組織,職制及び権限分配に基づき,地方公共団体ごとに客観的に定まっているのであり,地公法52条4項による人事委員会規則又は公平委員会規則による「管理職員等」の範囲の定めは,公平中立な第三者機関に「管理職員等」の範囲を定める権限を専属させることで「管理職員等」の範囲に関する労使間の無用の対立を防ごうとした趣旨の規定であって,人事委員会規則又は公平委員会規則による「管理職員等」の範囲の定めは確認的な性質を有する行為であると解される。したがって,「管理職員等」の範囲を定める規則制定について,人事委員会や公平委員会には裁量権はないといわなければならない。

ただし,地公法52条3項ただし書きには現行地公法にも依然抽象的な文言があること,真に客観的に定まるならば地公法で直接定めるべきであるにもかかわらず規則に委任していることなどからすれば,「管理職員等」への該当性の境界線付近の職員については,「管理職員等」に当たるとしても当たらないとしても違法とはならないような場合があると考えられ,その意味では人事委員会又は公平委員会の規則制定には裁量性が皆無ではないと解される。

イ 副課長相当職の「管理職員等」該当性について

以上の地公法の解釈を前提として,副課長相当職の「管理職員等」該当性について検討する。

(ア)他の自治体での「管理職員等」の定めについて見ると,課長相当職であれば,「管理職員等」に該当し,係長相当職であれば,「管理職員等」に該当していない。また,秘書,企画,法規,財政,人事,庁舎管理等の業務を担当する者は,「管理職員等」に該当している。ところが,課長相当職の直下の職については,自治体ごとに「管理職員等」とするか否かにつき扱いが分かれており,そのような職の職務権限の定めも一様ではない。このことからすれば,抽象的に条例等で定められた職務権限だけを見るのではなく,上司から与えられた具体的事務分掌等を考慮した上で,「管理職員等」の該当性を判断するのが相当である。

(イ)副課長相当職の職務権限は,指定事項を掌理するとともに,指定事項について課長相当職を助け,職員を指揮監督するというものである。この職務権限だけからして,労組法2条の「役員」に相当するような,当局の代表権や業務執行権等を有するという程度の権限が与えられているとは認められないから,特段の具体的事務分掌等の定めがなければ,副課長相当職は「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」には当たらないといわねばならないところ,特段の具体的事務分掌等の定めがあるとは認められない。したがって,副課長相当職は,「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」には当たらない。なお,被告における「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」に該当する職員としては,企画審議会への参加者等が該当すると解するのが相当である。

(ウ)被告が明確に主張するものではないが,被告は一般的に副課長相当職が「管理職員等」に当たると争っていること及び本件会議での公平委員は単に副課長相当職が「管理職員等」に当たるという本件規則を可決していることから,副課長相当職が該当しそうな「重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員」についての該当性も判断する。副課長相当職の職務権限のうち,単に職員を指揮監督するだけでは,係長が「管理職員等」に当たらないことから明らかなとおり,「職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当する職員」に該当するとはいえない。したがって,指定事項として,当局の利益の代表に関する事項を指定されていたり,具体的所掌事務として当局の利益の代表に関する事務の権限を与えられたりしているのでなければ,「管理職員等」に該当するとはいえない。

(エ)そこで個別的に本件組合員の権限を見ると,保育所長の立場にある者は部下の休暇承認等権限を有しており,下水道妻沼事務所副所長の立場にある者は所長の補佐等の権限を有しており,プラネタリウム館副館長の立場にある者は館長の補佐等の権限を有しており,選挙管理委員会事務局次長の立場にある者は政治活動に関することや熊谷市・江南町合併に関することなどの権限を有しているから,これらの者(以下「本件一部組合員」という。)は,当局の利益の代表に関する事務の権限を有すると認められ,「職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当する職員」として,「管理職員等」に当たるといえる(なお,平成18年4月1日時点の権限が認められる者については,本件規則制定時も同様の権限を有していたと推測できる。)。そうすると,本件一部組合員は,旧熊谷市では「管理職員等」とはされていなかったが,被告では「管理職員等」に当たるということになるが,本件一部組合員の有している権限を見れば,本件一部組合員は「管理職員等」に当たるか否かの境界線付近の職員ということで,前記ア,(イ)において述べた意味での被告の公平委員会の裁量の範囲内であるというべきである。

(オ)しかし,その余の本件組合員(以下「本件多数組合員」という。)については,部下の休暇承認等の権限がないこと,部課長会議に出席しないこと,部下の人事評価への具体的関与を行っていると認めるに足りる証拠はないこと,一つの課に複数名の副課長が配属されていることもあったと推認できること,旧熊谷市の課長補佐であったときと比して副課長相当職となって特段具体的に権限の変化があったとは認められないことなどから,当局の利益の代表に関する指定事項があったとは認められず,具体的所掌事務として当局の利益の代表に関する事務の権限が与えられていたとも認められない。したがって,本件多数組合員は,「職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当する職員」として「管理職員等」に該当するとはいえないといわざるをえない。なお,回議への関与であれば,起案を行った担当職員さえも回議への関与があるといえるのだから,当局の利益の代表に関する事務とは関係がない。また,課の予算折衝に関与したとしても,それは職員団体との関係で当局の立場を代表することとは無関係であるから,「管理職員等」の該当性とは無関係である。

(カ)もっとも,本件多数組合員が「管理職員等」に当たるか否かの境界線付近の職員であれば,本件多数組合員を「管理職員等」に該当するとしても,違法とならないと考えられる。しかし,旧熊谷市の課長補佐の全員ではなく,選考により旧熊谷市の一部の課長補佐を副課長相当職として「管理職員等」としたことや,本件組合員の中に「管理職員等」に当たるとされる者がいたことという事情を考慮しても,本件組合員はこれまで「管理職員等」に該当していなかったこと,旧熊谷市の「熊谷市処務規則」における旧熊谷市の課長補佐の職務権限と被告の「熊谷市行政組織条例施行規則」における被告の課長補佐相当職の職務権限とで「管理職員等」の該当性に関して明確な差異を認められないこと,同様に具体的な事務分掌等を見ても変化があるとは認められないこと,本件組合員を「管理職員等」とした主たる理由は旧大里町及び旧妻沼町の課長補佐の処遇の保障並びにそれと旧熊谷市の課長補佐の処遇上の均衡を考慮して行われたものであること,被告の副課長のイメージとされたと推測される埼玉県の副課長は一般に「管理職員等」には当たらないことなどの事情からすれば,本件多数組合員はこれまで同様に「管理職員等」に当たらないとするべきなのであって,「管理職員等」に当たるか否かの境界線付近の職員であったということはできない。したがって,本件規則は裁量の範囲内であるとはいえない。

(キ)なお,管理職手当は,業務の特殊性から,超過勤務手当として勤務時間に応じた給与を支払うのが相当ではない職種の職員について,超過勤務手当が支給されないことの代わりとして支給されるものである。したがって,職員団体の保護という観点から定められた「管理職員等」の範囲と管理職手当支給対象者の範囲は,権限の性質上相関関係はあるものの,一致するものではなく,管理職手当の支給対象者だからといって「管理職員等」に該当することになるわけではない。また,埼玉県内の他の市町村で管理職手当は支給されるが「管理職員等」には当たらないとされる課長相当職直下の級があることを見ても,管理職手当の支給範囲よりも一般的に「管理職員等」の範囲の方が広いということはない。

(ク)したがって,本件組合員のうち,本件一部組合員は「管理職員等」に当たるが,本件多数組合員は「管理職員等」に当たらないから,本件多数組合員を「管理職員等」の範囲に含めた本件規則は違法といわざるをえない。

(2)  「管理職員等」に当たらないとした場合,被告の公平委員の公平委員会での審議に過失はあるか。(b)

ア 旧熊谷市職員労働組合と旧熊谷市は,副課長相当職の新設や副課長相当職を「管理職員等」とすることについて平成17年6月から交渉を繰り返してきたが,協議がまとまらないまま合併により被告が誕生し,熊谷市行政組織条例施行規則により副課長職が設置され(甲7),熊谷市管理職手当支給に関する規則により副課長相当職に100分の6の管理職手当が支給されることとなっていた。そして,本件会議においては,本件規則を含む11件の公平委員会規則が審議されたが,本件規則の審議のために「管理職員等」の解釈や他の市町村との比較,原告への影響等に関する多数の資料が公平委員に配布されており,議事録の記載やこのために職員課長を呼んでいることから推測されるとおり本件会議の少なくとも半分ほどの時間をあて,本件組合員を「管理職員等」とすることの目的や根拠,原告との交渉経緯,対立する原告の主張,本件規則の原告への影響等を十分に検討した上で,本件規則制定を可決したものといえる。特に埼玉県内の他の市町村では半数以上が課長相当職直下の職を「管理職員等」に含ませているという資料があったことは,副課長相当職を「管理職員等」に当たると判断することを無理なからしめるものであるとも考えられる。また,公平委員の手元には原告から提出された「管理職員等の範囲拡大反対についての要請」と題する書面(甲40)があったこと,職員課長からこれまでの職員課と原告(旧熊谷市職員労働組合を含む。)との交渉経緯等を聞いたことなどからすれば,本件会議において原告の意見を求めなかったことに過失があったとはいえない。

イ しかし,被告の公平委員は「管理職員等」の範囲を決める際にはいかなる職務権限を有しているか等の観点から検討すべきであったにもかかわらず,そうしなかった本件会議での被告の公平委員の審議には,審議不十分の過失があったといわざるをえず,その詳細な理由は次のとおりである。

(ア)副課長相当職が「管理職員等」に当たるとされた主たる理由は,旧自治体間の課長補佐相当職の管理職手当を主とする処遇の保障及び衡平を図ることであったことと認められる。しかし,「管理職員等」の範囲と管理職手当の支給範囲は相関関係はあるにしても一致するわけではなく,相関関係があるのは「管理職員等」に当たるとされる業務の内容と管理職手当支給対象者となる業務の内容が重複する範囲が多いからである。したがって,「管理職員等」の範囲を決める際には,業務内容等を見て判断すべきなのであり,管理職手当の支給を受けているか否かにより判断するのは軽率であったといわねばならない。

(イ)しかも,本件会議の際,「管理職員等」の範囲は一般的に管理職手当支給対象者の範囲よりも広いという内容の資料が配られ,それに沿った説明がなされ,公平委員もそのように理解している。確かに,「管理職員等」の中には,部下を指揮監督するような立場になく,秘書,企画,法規,財政,人事,庁舎管理等の当局の利益を代表する事務を担当するような職員が含まれるが,そのような職員は通常管理職手当支給対象者ではないことから,そのような職員を含むか否かという点では「管理職員等」の範囲の方が管理職手当支給対象者の範囲よりも広いということができる。しかし,部下を指揮監督するような立場にあって管理職手当支給対象者となっている者が直ちに「管理職員等」に該当するわけではないことからすれば,管理職手当支給対象者だからといって「管理職員等」に該当するとは限らず,単純に「管理職員等」の方が範囲が広いということはできない。このことは,本件会議のために公平委員に配布された資料のうち乙4の14を見ると川口市,所沢市,狭山市,羽生市,草加市,入間市,桶川市,北本市,坂戸市,鶴ヶ島市,ふじみ野市の11市が課長相当職以下の級は一部に限って「管理職員等」とされているが,限定なく管理職手当支給対象者とされていることからも窺える。被告の公平委員は,「管理職員等」の範囲と管理職手当支給対象者の関係について深く検討すべきだったのであるが,漫然と「管理職員等」と管理職手当支給対象者の範囲を一致させるのが相当という判断をしているといわざるをえない。

(ウ)「管理職員等」の範囲が,職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当しているか否かにより決まることからすれば,本件会議において副課長相当職の権限について十分に検討すべきであった。しかし,本件会議においてさほど検討がなされたとは認められない。

(エ)本件会議において原告が副課長相当職が「管理職員等」に当たらないと主張する理由について検討されているが,その主たる理由として公平委員が認識した,副課長相当職の業務内容がこれまでと変化しないという理由を軽視している。「管理職員等」の範囲は客観的に定まっており,公平委員会規則は確認的に範囲を定めるものであるのだから,業務内容がこれまでと変化しないのであれば,依然として「管理職員等」の該当性もこれまでと同様とするべきだったのである。なお,本件会議のために公平委員に配布された資料のうち乙4の7を見ると,「管理職員等」の範囲は「労使間で紛議を生じがちな問題であるので,中立公正な,かつ,専門的な機関によってあらかじめこれを確認し,公示しておくことにある。したがって,この範囲を労使間の話し合いによって決定したり変更したりすることはできないことはもとより,これはもっぱら公平委員会の責任と判断で確認するものであ」るとの記載があるのだから,「管理職員等」の範囲が客観的に定まっていることを被告の公平委員は当然認識すべきであった。この点でも,本件会議において副課長相当職の業務内容の変化についての検討が十分になされていないといわざるをえない。

(オ)埼玉県内の他の地方公共団体との比較を行っているが,単に他の地方公共団体が課長相当職直下の職を「管理職員等」としているか否か,その場合に限定を付しているか否か等を検討したにとどまり,本件会議においていかなる権限分配に基づき「管理職員等」に当たるか否かが決められているのか検討されていない。

(カ)公平委員は,本件規則により原告に影響が出ること,原告は本件規則制定に反対していること等を認識していたが,副課長相当職を「管理職員等」に含ませるとしても原告への影響を限定的にとどめる方法がないか検討していない。

(3)  本件規則の制定と,原告に損害が生じることとの間の因果関係があるか。(c)

「管理職員等」に当たるとされた本件組合員が原告の組合員であると,地公法53条6項により,原告は職員団体でなくなったとして職員組合登録が取り消される可能性が極めて高かった。登録職員組合となることに本件登録利益があるのだから,地公法53条6項による取消を防ぐため,原告が本件組合員を原告の組合員資格喪失者として扱い,組合費のチェックオフを止め,原告の組合活動からはずしたことは,ごく自然なことである。したがって,被告の公平委員の本件規則制定と,原告の損害には相当因果関係がある。

(4)  原告の損害額(d)

ア 被告主張について

被告は,副課長相当職が「管理職員等」に当たるものとして被告が誕生したのだから,副課長相当職が「管理職員等」に当たることになったことの損害は保護されない旨主張する。確かに,被告が誕生した際に,副課長相当職に「管理職員等」としての職務権限が与えられたならば,一理あろう。しかし,そもそも「管理職員等」に当たる職務権限を有していない副課長相当職を「管理職員等」にしている違法があるのだから前提が異なっており,主張自体失当である。

イ 組合費について

原告における組合費収入の使い道としては,組合費を支払った組合員個人の直接的な利益となる自益的な部分と,原告の活動等を通じて間接的に組合員の利益となる共益的な部分があると思われるが,自益的な部分についてはたとえ原告が組合費収入を得たとしても後に原告の組合員のために支出をしなければならなかったのだから,その収入がなくなったとしても原告には損害自体がないというべきである。また,原告の組合員は原告から脱退する自由もあるし,通常の選考等によって「管理職員等」となって原告の組合員資格を喪失することもあるのだから,本件組合員からの将来の組合費収入に対する原告の期待を保護するのは相当ではない。したがって,原告の主張する将来の組合員収入相当額の損害は,法的保護の対象にはならないというべきである。

ウ 団結権侵害について

本件組合員の年齢,地位,原告における役割などを見ると,本件組合員は原告において重要な役割を果たしてきたと窺われる。さらに,年功序列制度や「管理職員等」に当たると原告の組合員資格を有しないことに鑑みると,本件組合員は原告の中で経験的にも地位的にも最も高い立場にあったと推認できる。このような立場にある者が,同時に38名も抜け,同等の立場で原告の組合員に残る者がいるとも認められないこと,本件組合員から承諾等を得ていたとも認められないことからすれば,原告は看過できない不利益を受けるといわなければならないから,原告の団結権は侵害されたというのが相当である。

そして,本件会議の際,被告の公平委員は,原告に「管理職員等」に当たる者が含まれていると登録職員団体の登録要件を欠くことになることや登録職員団体には本件登録利益が与えられていること等を認識していたのだから,仮に特別損害であるとしても,被告は原告の団結権侵害につき損害賠償義務を負う。

もっとも,平成17年6月から旧熊谷市職員労働組合と旧熊谷市との間では協議がなされてきたこと,本件規則の制定は旧熊谷市の課長補佐が旧大里町及び旧妻沼町の課長補佐に比して処遇の面で不利益を受けないようにするという本件組合員の利益になることも考慮して行われたこと,原告の組織力低下を狙ってなされたわけではなく,反対に本件規則制定による原告への影響が壊滅的な打撃を与えるものではないと考慮していたことなどの事情もあることから,原告の団結権侵害による損害としては,30万円をもって相当とする。

(5)  よって,少なくとも本件規則制定当時,本件規則は違法であり,被告の公平委員による本件規則制定には過失があったというべきであるのだから,原告に生じた30万円の損害及びこれに対する本件規則が施行されたことで原告に損害の生じた平成18年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,国家賠償法1条に基づき,被告は,原告に対し,賠償すべき義務を負っている。

第4結論

以上により,原告の請求は30万円及びこれに対する平成18年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから,主文のとおり判決する。

なお,原告は認容部分につき,仮執行宣言を求めているが,被告の支払能力には不安がないと推測され,原告が即時の執行を必要としているとも認められず,本訴請求債権が即時に履行されるべき性質の債権でもないから,これを付さないこととする。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 佐久間隆)

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