さいたま地方裁判所 平成18年(行ウ)12号 判決 2007年8月29日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
埼玉県知事が,平成17年2月21日付け指令廃指第a号をもって原告に対してした産業廃棄物処分業の許可取消処分を取り消す。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,埼玉県知事が,産業廃棄物処分業者である原告に対し,原告の行った産業廃棄物の処分を無許可業者に委託したこと等が,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(法。法施行令を「令」,法施行規則を「規則」という。)に違反する行為であり,情状が特に重いときに当たるとして,法14条の3の2第1項2号等に基づき,原告の産業廃棄物処分業の許可を取り消す旨の処分(本件処分)をしたところ,原告が,被告に対し,本件処分は法令の解釈適用を誤り,また埼玉県知事に与えられた裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとして,その取消しを求めた事案である。
2 争いがない事実等(証拠により容易に認定できる事実については,括弧内に証拠を示す。)
(1) 当事者
ア 原告は,産業廃棄物,一般廃棄物の再生処理業等を業とする株式会社であり,平成2年9月20日,埼玉県知事より,法14条4項(平成15年法律第93号による改正前のもの。)に基づき,産業廃棄物処分業の許可(許可番号b)を受けた(甲23,乙1)。
イ 埼玉県知事は,法14条の3の2に基づき,産業廃棄物処分業の許可を取り消す権限を有する。
被告は,埼玉県知事の所属する地方公共団体である。
(2) 野菜くずの投下行為等
原告は,平成16年10月22日,A(A)から川越市大字c字d-e番地所在の土地1184平方メートル(本件土地)を借りた(甲9)。
原告は,B商事ことB(B)に対し,原告がその処分を受託した産業廃棄物である野菜くずを破砕したもの(本件野菜くず)を堆肥化することを依頼していたところ,原告は本件野菜くずを本件土地に搬出し,Bは,平成16年10月27日,同土地に穴を掘り,本件野菜くずを投下した。
(3) 本件処分
埼玉県知事は,平成17年2月21日付で,原告が,処分を受託した産業廃棄物である本件野菜くずを本件土地に搬出し,産業廃棄物処分業の許可を受けていない者に同土地における堆肥化処分を委託したが,その際,令に基づく排出事業者からの書面による承諾を受けなかったこと,また,堆肥化処分を受託した者に令に基づく文書を交付しなかったことは,法14条14項に違反する行為であり,情状が特に重いときに当たるとして,法14条の3の2第1項2号,14条の3第1号に基づき,原告の産業廃棄物処分業の許可を取り消す旨の本件処分をした(甲1)。
原告は,本件処分を不服として,平成17年4月22日付けで,環境大臣に対し,審査請求の申立てを行ったが,環境大臣は,平成18年4月12日に至るまで,同審査請求に対する裁決をしなかった(なお,同審査請求に対する裁決は未だされていない)。
そこで,原告は,同日,本件訴えを提起した。
3 関係法令等の定め
(1) 法
法には,次の内容の定めがある。
(事業者の責務)
3条1項 事業者は,その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。
(事業者及び地方公共団体の処理)
11条1項 事業者は,その産業廃棄物を自ら処理しなければならない。
(事業者の処理)
12条1項 事業者は,自らその産業廃棄物の運搬又は処分を行う場合には,政令で定める産業廃棄物の収集,運搬及び処分に関する基準(産業廃棄物処理基準)に従わなければならない。
3項 事業者(中間処理業者を含む。)は,その産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を除くものとし,中間処理産業廃棄物を含む。)の運搬又は処分を他人に委託する場合には,その運搬については14条12項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に,その処分については同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。
4項 事業者は,前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には,政令で定める基準に従わなければならない。
5項 事業者は,前2項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には,当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。
(産業廃棄物処理業)
14条1項 産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を除く。)の収集又は運搬を業として行おうとする者は,当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては,産業廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし,事業者(自らその産業廃棄物を運搬する場合に限る。),専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者その他環境省令で定める者については,この限りでない。
6項 産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は,当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし,事業者(自らその産業廃棄物を処分する場合に限る。),専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの処分を業として行う者その他環境省令で定める者については,この限りでない。
12項 1項の許可を受けた者(産業廃棄物収集運搬業者)又は6項の許可を受けた者(産業廃棄物処分業者)は,産業廃棄物処理基準に従い,産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を行わなければならない。
14項 産業廃棄物収集運搬業者は,産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を,産業廃棄物処分業者は,産業廃棄物の処分を,それぞれ他人に委託してはならない。ただし,事業者から委託を受けた産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を政令で定める基準に従つて委託する場合その他環境省令で定める場合は,この限りでない。
(事業の停止)
14条の3 都道府県知事は,産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が次の各号のいずれかに該当するときは,期間を定めてその事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
一 違反行為をしたとき,又は他人に対して違反行為をすることを要求し,依頼し,若しくは唆し,若しくは他人が違反行為をすることを助けたとき。
(許可の取消し)
14条の3の2第1項 都道府県知事は,産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が次の各号のいずれかに該当するときは,その許可を取り消さなければならない。
二 前条1号に該当し情状が特に重いとき,又は同条の規定による処分に違反したとき。
26条1項 次の各号のいずれかに該当する者は,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
一 6条の2第7項,7条14項,12条4項,12条の2第4項,14条14項又は14条の4第14項の規定に違反して,一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者。
(2) 令
令には,次の内容の定めがある。
(事業者の産業廃棄物の運搬,処分等の委託の基準)
6条の2 法12条4項の政令で定める基準は,次のとおりとする。
二 産業廃棄物の処分又は再生にあつては,法15条の4の5第1項の許可を受けて輸入された廃棄物以外の廃棄物に限り委託することができることとし,かつ,他人の産業廃棄物の処分又は再生を業として行うことができる者であつて委託しようとする産業廃棄物の処分又は再生がその事業の範囲に含まれるものに委託すること。
三 委託契約は,書面により行い,当該委託契約書には,次に掲げる事項についての条項が含まれ,かつ,環境省令で定める書面が添付されていること。
イ 委託する産業廃棄物の種類及び数量
ロ 産業廃棄物の運搬を委託するときは,運搬の最終目的地の所在地
ハ 産業廃棄物の処分又は再生を委託するときは,その処分又は再生の場所の所在地,その処分又は再生の方法及びその処分又は再生に係る施設の処理能力
ニ 産業廃棄物の処分(最終処分)を委託するときは,当該産業廃棄物に係る最終処分の場所の所在地,最終処分の方法及び最終処分に係る施設の処理能力
ホ その他環境省令で定める事項
(産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者の産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分等の再委託の基準)
6条の12 法14条14項ただし書の政令で定める基準は,次のとおりとする。
一 あらかじめ,事業者に対して当該事業者から受託した産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生を委託しようとする者(再受託者)の氏名又は名称及び当該委託が6条の2第1号又は2号に掲げる基準に適合するものであることを明らかにし,当該委託について当該事業者の書面(環境省令で定める事項が記載されたものに限る。)による承諾を受けていること。
二 再受託者に当該産業廃棄物を引き渡す際には,その受託に係る契約書に記載されている6条の2第3号イからニまでに掲げる事項を記載した文書を再受託者に交付すること。
三 前2号に定めるもののほか,6条の2第1号から4号までの規定の例によること。
4 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 本件野菜くずは,産業廃棄物に当たるか。
(被告の主張)
ある物が,廃棄物に該当するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無,占有者の意思等の要素を基準に判断すべきである。
本件野菜くずは,原告が処分を受託した産業廃棄物である野菜くずを単に破砕したもので,悪臭を発生させており,適正な保管もされていなかった。また,本件野菜くずのような物について,市場が形成されているとはいえず,取引価格は一般的に認められない。さらに,本件野菜くずは有償譲渡されたものでもない。
以上の事情を基準に判断すれば,本件野菜くずは,産業廃棄物に当たる。
(原告の主張)
ある物が有用物といえるのならば,それは不要物としての廃棄物には該当しない。
そして,有機農業の推進に関する法律(有機農業推進法)に基づく環境と調和のとれた農業生産活動規範の取組例では,排泄物の利活用として,「作物生産や園芸等への利用が見込まれる者への譲渡(無償・有償を問わない)等を行う」ことが挙げられており,有価物でなくとも,廃棄物とされないことが明示されている。
したがって,本件野菜くずは,堆肥原料としての有用物であり,産業廃棄物には当たらない。
(2) 原告がBに堆肥化を依頼したことは,法14条14項で禁止する産業廃棄物の処理の再委託に当たるか。
(被告の主張)
ア 原告は,排出事業者との間で,同事業者から産業廃棄物である野菜くずを受け入れた後,原告が中間処理(乾燥・発酵)し,肥料化するという内容の産業廃棄物処理契約をしていた。その上で,原告は,Bとの間で,原告が準備行為として上記野菜くずの破砕をした後,Bがこれを本件土地に運搬し,木材チップと重ねてから定期的に鋤き返しを行い肥料化するという内容の契約をした。このうち,野菜くずを木材チップと重ねたり,その重ねたものを鋤き返したりする作業は,産業廃棄物の肥料化のための行為,すなわち産業廃棄物の処分そのものである。このように,原告は,「他人」であるBに,自らが受託した産業廃棄物の処分をそのまま再委託したのである。
イ そうすると,原告がBに堆肥化を依頼したことは,政令で定める基準に従って委託する場合その他環境省令で定める場合に当たらないから,法14条14項で禁止する産業廃棄物の処分の再委託に当たる。
ウ 原告は,Bは,原告の管理監督の下にその堆肥化事業に係る作業の一部工程を請け負っていたのみであり,このような作業の一部請負は再委託禁止規定の対象となる行為には該当しない旨主張する。
しかし,原告には堆肥化事業と呼べるような具体的な計画はそもそもなかった。また,Bは,原告から委託を受けて,原告とは別個独立した「他人」として,自らの判断に基づき,産業廃棄物の処分を行った。さらに,破砕以外の全ての処理を行うというBの作業範囲からすると,原告がBに本件野菜くずの堆肥化を依頼したことは,原告がいう丸投げともいえるものである。したがって,原告の主張は理由がない。
(原告の主張)
ア 法において,再委託禁止の対象となる行為は,産業廃棄物の処理を第三者に丸投げする行為である。
したがって,産業廃棄物処理業者が,その産業廃棄物の処理過程において,その管理監督の下,その作業の一部を第三者に請け負わせ,その処理物の最終処分に責任を負う場合,これは,作業の一部請負であって,処分の再委託には該当しない。
イ 本件において,原告は,産業廃棄物である野菜くずを破砕,脱水した後,木材チップと混ぜるなどして堆肥を製造することを計画した。そこで,原告は,堆肥化を行う場所として川越市内の畑である本件土地を選定し,その所有者と賃貸借契約を締結し原告の管理監督の下,堆肥化作業の一部をBに請け負わせたのである。なお,原告は,生じる堆肥を責任を持って販売する計画であった。
ウ 以上のとおり,本件で産業廃棄物の処分の再委託とされた行為は,有用物である本件野菜くずに係る作業の一部請負であって,法14条14項で禁止する産業廃棄物の処分の再委託には当たらない。
(3) 原告がBに堆肥化を依頼したことが再委託に当たる場合,埼玉県知事には,本件処分をするに当たって,その裁量を超えた違法があるか。
(原告の主張)
ア 原告は,鶏卵の生産販売等を業とするCグループが,食品残さのリサイクル事業に参入するために買収した会社であり,暴力団員等がその事業活動を支配するような悪質業者ではなく,健全な業者である。また,原告は,買収前の経営陣が残した未処理の廃棄物の処理を行ったり,施設の不備を補ったりするため,多額の投資を行うなど,その正常な運営に努力してきた。
原告は,破砕脱水した野菜くずを,本件土地の周りで広く行われていた堆肥作りの原料として利用することを計画したのであるが,堆肥化を依頼することが法で禁止される再委託に該当するとは考えなかった。また,原告の本件堆肥作りが問題になった際,原告は,即座に本件野菜くずを全て撤去した。しかも,本件は,Cグループが原告を買収して本格的にその操業を開始してからわずか半年後に発生した。
本件は,警察においても,いわゆる始末書の提出で処理されており,刑事事件として立件されていない。また,本件処分を不服として,原告は,平成17年4月に環境省に対し審査請求をしたが,請求後1年を経過しても何らの判断も下されないため,平成18年4月に本件訴えを提起した。これらの事実は,本件が単純に許可取消しをもって相当とする事案ではないことを示している。
上記事情を考慮すると,原告に不慣れな点はあったとしても,本件により,直ちに原告の許可を取り消すという,企業にとって死刑判決にも相当する処分がされるべきではない。
イ 行政処分の指針等において,再委託禁止違反を,違反行為の態様,回数,影響等を考慮することなく許可取消しとしていることは,違法性の程度に応じて処分の内容に差異を設けている法の趣旨に反する。また,行政解釈としても比例原則に反する解釈である。
ウ よって,具体的な情状を考慮することなく,法14条の3の2に基づき原告の産業廃棄物処分業の許可を取り消した埼玉県知事の判断にはその裁量の範囲を逸脱した違法がある。
(被告の主張)
ア 法14条の3の2の規定により,都道府県が行うこととされている事務の処理については,本件処分当時,処理基準(平成13年5月23日付け環廃産第266号。本件処理基準)及び行政処分の指針(平成13年5月15日付け環廃産第260号。平成14年5月21日環廃産第294号により改正。)が示されていたところ,これらは,再委託禁止違反に対する処分の内容として,いずれも許可取消しをもって相当としていた。
また,本件処分後に示された処理基準や行政処分の指針においても,再委託禁止違反行為を行った場合については,重大な法違反を行ったものとして法14条の3の2における「情状が特に重いとき」に該当するとして差し支えないとされている。
さらに,本件に係る被告の照会に対し,環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長は,再委託禁止違反をした者は,重大な廃棄物処理法違反をした悪質業者であり,違反行為の態様や回数,行為者の是正可能性等の諸事情を考慮するまでもなく,その産業廃棄物処理業の許可を取り消すのが相当であるとの国の見解を示した。これは,再委託禁止違反行為による法益侵害は重大であり,このような違反行為を行った処理業者にはもはや適正な処理を期待できないと国が判断したことによる。
以上のとおり,再委託禁止違反について,国は一貫して許可取消し事由に該当するとの見解をとっている。
ところで,法14条の3の2の規定により都道府県が行うこととされている事務は,地方自治法2条9項1号に規定する1号法定受託事務であり,本件処理基準は,同法245条の9第1項に規定する「法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準」である。
したがって,埼玉県知事は,本件処理基準に基づいて法14条の3の2の規定により都道府県が行うこととされている事務を処理することが法律上予定されている。
イ 原告は,その経理的基盤を改善するため,それまでの処理量を大幅に上回る野菜くずの処分を受託し,早急に処分をしなければならないという切迫した事情の中で,堆肥化を名目に,排出事業者から法14条14項に基づき令6条の12第1号で定める事前の書面による承諾を受けずに,法14条6項の産業廃棄物処分業の許可を受けていない者に違法に産業廃棄物の処分を再委託した。しかも実行された行為は,掘った穴に野菜くずを投げ入れるという不法投棄に近いものであった。
また,原告は,本件以外にも,Bに違法な産業廃棄物の処分を委託していた。さらに,原告は,法14条15項で準用する法7条15項の規定に違反し,産業廃棄物の処分状況について備え付けることが義務づけられている帳簿(法定帳簿)を備え付けていなかった。加えて,原告は,これまでも悪臭や汚水排水などで周辺住民からしばしば苦情を受けており,それらについて被告や川越市の指導を受けていた。
ウ したがって,原告の再委託禁止違反について,本件処理基準に則り,その他の諸事情も考慮の上,「情状が特に重いとき」に当たるとして,その産業廃棄物処分業の許可を取り消した埼玉県知事の判断にはその裁量の範囲を超えた違法はない。
第3当裁判所の判断
1 前提となる事実
証拠(甲2ないし7,16ないし18,23ないし25,27の1,28,29,乙1,2,4の1ないし4,5の1ないし3,7ないし9,10の1,2,原告代表者)及び弁論の全趣旨並びに前記争いがない事実等を総合すると,次の事実が認められる。
(1) 原告の産業廃棄物処分業の許可の内容
原告(当時の商号は株式会社D)は,産業廃棄物,一般廃棄物の再生処理業等を業とする株式会社であり,平成2年9月20日,埼玉県知事より,法14条4項(平成15年法律第93号による改正前のもの。)に基づく産業廃棄物処分業の許可(許可番号b)を受け,平成12年9月20日,同許可の更新許可を受けた(許可の有効期限は平成17年9月19日)。
原告がBに本件野菜くずの堆肥化を依頼した平成16年10月当時,原告の産業廃棄物処分業の許可の内容(規則10条の6)は,次のとおりであった。
(a) 事業の範囲
中間処分業
乾燥・発酵:動植物性残さ 以上1種類
(b) 事業の用に供するすべての施設
施設等の所在地
埼玉県日高市大字f字g番h,i番j,k番l 以上3筆(面積9612.97m2)に限る。
保管及び処理の施設の概要
施設の種類 乾燥・発酵施設
処理能力 20t/日
産業廃棄物の種類 動植物性残さ
設置年月日 平成2年9月20日
(c) 許可の条件
中間処分及び処分に伴う保管は,2に掲げる施設で行うこと。
(2) 本件に至る経緯
ア 原告は,平成15年5月ころ,さいたま地方裁判所川越支部に対し,民事再生法に基づく再生手続開始の申立てをし,同年6月30日,同裁判所は再生手続開始決定をした。
鶏卵の生産販売等を業とするCグループの一員であるD株式会社は,平成15年8月26日,原告の資産ないし株式を競落し,従業員も含めて,その事業を承継することとした。
原告は,平成16年2月23日,E株式会社との間で,原告が同社の産業廃棄物(動植物残さ)を上記処理施設において中間処理(乾燥・発酵)し,肥料化・売却するという内容の産業廃棄物処理委託契約を締結した。同契約には,原告はE株式会社から受託した産業廃棄物の処理を他人に委託してはならない,ただし,あらかじめ同社の書面による承諾を得て法の定める再委託の基準に従う場合はこの限りではないとの合意が含まれていた。
原告に対する再生計画認可決定は,平成16年4月20日,確定した。
原告は,平成16年5月18日,その商号を株式会社FからG株式会社に変更したが,原告の業務については,F時代の代表取締役Hが引き続き取締役(H取締役)としてその運営に当たった。
イ 埼玉県日高市e区長及び地域住民らは,平成16年5月26日,原告施設から悪臭,汚染の発生が続いているとして,被告環境防災部長に対し,原告に改善指導等をするよう求めた。
Dは,平成16年6月,原告に常駐社員を派遣したが,同社員は,同年8月上旬に退社した。
ウ 原告の業務日報には,次の内容の記載がある。
(ア) 平成16年7月13日,「残渣物制理を急ぎやらせる。」「工場敷地全体が臭い」。
(イ) 同年8月1日,「生オカラの消化が出来ず」「オカラ搬入を止める」「暑い為オカラの腐りが早い」。
(ウ) 同月10日,「B商店に野菜を全部持っていってもらう」「明日からの野菜の処理に頭が痛い」。
(エ) 同月22日,「野菜(B商事)搬出」。
(オ) 同月24日,「やはり畑を借りて肥料作りを考えなければならないのか・・」,「売上げと消化のジレンマ」。
(カ) 同年9月28日,「川越の畑の話で来社される」。
なお,原告が上記(ウ)(エ)でBに野菜くずの処分を依頼した際,原告は,1回につき,4トントラック一杯程度の量を運んでもらい,2万円から3万円を支払った。
(3) 原告のBに対する堆肥化の依頼
ア 原告は,平成16年8,9月ころ,産業廃棄物としてその処分を受託した野菜くずの保管量が増えて困っていた。このことを,原告に週2,3日出入りし,原告がその排出する金属くずや瓶などのゴミを片づけさせているBに伝えたところ,Bは,原告に対し,野菜くずを無料で欲しがっている者を知っている旨,また,野菜くずを堆肥化するためのノウハウを持っている旨述べた。そこで,原告は,平成17年9月にその産業廃棄物処分業の許可期限が満了し,更新の際の経理的要件を満足させるために売り上げが必要だったことや,最終処分場での処分は堆肥化する場合の処理費の3倍位の経費を要すること等もあって,Bに依頼して野菜くずの堆肥化を進めることとした。
こうして,原告とBとの間で,平成16年10月20日ころ,Bが,原告から,本件野菜くずをその量にかかわらず月額70万円で堆肥にするための作業を請け負うとの合意がされた。この作業とは,Bが,土地に本件野菜くずを運搬し,同土地にパイプを立て,ビニールシートを敷き,周りをベニア等で囲った上で,本件野菜くずと木材チップを交互に積み,定期的に鋤きかえ等を行うというものであった。上記作業については,Bが運搬や作業に必要な車両,重機,人員等を調達することとされ,作業時間,手段等については,Bの裁量が広く認められた。
他方,原告は,平成16年10月22日,堆肥化を行う場所として,Aから,本件土地を借りた。その際,原告はAとの間で,肥料は1回試験的に作って状況が良ければ継続し,出来上がった肥料についてはAが使いたいだけ使い,残りは原告が受け取るという内容の合意をした。
もっとも,原告は,本件野菜くずの堆肥化を本件土地で行うに当たり,原告の産業廃棄物処分業の許可の範囲の変更申請ないし規則で定める事項の変更届出(法14条の2,規則10条の10参照)や肥料取締法に基づく特殊肥料(堆肥を含む。)の生産に係る届出は行わなかった。
ウ その後,原告は,Bが野菜くずを引き取ることを前提に,当時処理可能な野菜くずの量が1日3.5tから4tであったにもかかわらず,1日10t程受け入れたので,その処理が間に合わず,施設内で野菜くずを適正に保管できない状態になった。そこで,原告は,平成16年10月26日,Bに対し,野菜くずが原告の施設内に増えているので,これを搬出するよう依頼した。これに対し,Bは,原告が本件土地まで野菜くずを持ってきてくれれば受け入れると述べた。それで,原告は,同日及び翌27日,車を借りて,その従業員に,本件野菜くずを,その量を把握することなく,本件土地に搬出させた。原告の従業員は,本件土地に留まらずに帰社した。
エ Bは,平成16年10月27日,パイプを立てたり,ビニールシートを敷いたりすることなく,本件土地に広さ約20m×約15m,深さ約2mの穴を掘り,その中にドラム缶30本以上,フレコンバッグ30袋程度の分量の本件野菜くずを投下した。その際,Bは,本件野菜くずにチップを混ぜることはせず,また約2メートルの深さに本件野菜くずを投下したため,堆肥化に必要な鋤きかえ等の作業を行うことは不可能であった。
(4) その後の事情等
ア 本件土地付近の住民が,Bの本件野菜くずの投下行為を農業委員会に通報したので,同日,農業委員会及び産業廃棄物指導課の職員が本件土地に赴いた。
イ 原告が,Bに対し,本件土地の原状回復を依頼したところ,Bは,同日,原告に対し,原状回復作業を単独で行った等と述べたが,写真や報告書を提出することはなかった。また,原告が,Bの原状回復作業を管理監督することはなかった。
ウ 被告産業廃棄物指導課の担当者らは,平成16年11月9日,原告が本件土地に搬入した本件野菜くずを撤去したかを確認した。そうしたところ,掘り起こされた土壌からは,多量の野菜くずは見つからなかったものの,野菜の腐敗臭がし,野菜くずの塊が所々に認められた。そこで,その部分の土壌については,原告が,4トンダンプ2台分を撤去搬出することとなった。
エ 被告西部環境管理事務所長は,平成16年11月11日,原告に対し,法18条1項に基づき,原告が受託した産業廃棄物の処理等に関し必要な報告を求めた。
これに対し,原告は,同月18日ころ,同所長に対し,上記報告を行うとともに,関係資料を提出したが,その際,H取締役は,原告においては,本件野菜くずが産業廃棄物ではなく,一般廃棄物と認識されていた旨主張した。
なお,原告は,法14条15項で準用する法7条15項に規定する産業廃棄物の処理状況についての帳簿の写しを備え付けていなかった。
オ 原告は,平成17年1月15日,その商号をG株式会社からI株式会社に変更した。
原告は,平成17年2月1日付けで,被告に対し,残さ物処理,脱臭装置,野菜処理場,廃水処理管理及びU字溝修繕に係る改善実績報告書及び今後の業務の改善に係る業務改善報告書を提出した。
原告は,近隣住民に対し,関係当局に宛てて,原告を休業させるのではなく営業させ,残された改善策に取り組むよう指導することを求める意見書に署名するよう求めたが,近隣住民は,これを留保した。
埼玉県知事は,平成17年2月21日付けで本件処分をした。
2 争点1(本件野菜くずの産業廃棄物該当性)について
(1) 法2条4項において,「産業廃棄物」とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,政令で定める廃棄物等をいうものとされ,これを受けて廃棄物処理法施行令2条4号は,「食料品製造業において原料として使用した動物又は植物に係る固形状の不要物(動植物性残さ)」を産業廃棄物と定めている。
ここで,不要物とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である(最高裁平成11年3月10日決定・刑集53巻3号339頁)。
(2) 前記認定事実によれば,(a)本件野菜くずは,原告がその処理を受託した野菜くずを破砕したもので,腐敗しやすく,現に原告の事業所において,腐敗臭を発生させていたこと,(b)原告は,野菜くずの受入量が増えたことからこれを処理しきれなくなり,排出量さえ把握せずに本件野菜くずを搬出したこと,(c)本件当時,本件野菜くずのような物が堆肥原料等として有償で取引されていたとの証拠はなく,原告が月70万円以上の費用をかけてこれを肥料化しようと試みていたことに鑑みると,堆肥化される前の段階においては,むしろ負の価値を持つ物であったことが窺われること,そして,(d)本件当時,本件野菜くずは,原告においても廃棄物と認識されていたことが認められる。
以上の(a)ないし(d)の事情を総合的に勘案すると,本件野菜くずは,令2条4号にいう「食料品製造業において原料として使用した植物に係る固形状の不要物」で,法2条4項にいう「産業廃棄物」に該当するというべきである。
(3) 原告は,有機農業推進法に基づく活動規範の取組例によれば,野菜くずは,作物生産や園芸等への利用が見込まれる者への譲渡(無償・有償を問わない)等がされる場合には,堆肥原料という有用物であり,廃棄物ではない旨主張する。しかし,同取組例も野菜くずを廃棄物に分類した上で,その利用や適正な処理を行うことの取り組みを考慮したものであって,再利用が可能であることから当然に廃棄物ではないということはできない。しかも,本件野菜くずは,上記認定のとおり,深さ2メートルの穴にチップを混ぜることもなく投下されたことからすると,本件野菜くずをもって堆肥化を目的とした物とは到底評価することはできない。
3 争点2(原告がBに堆肥化を依頼したことの法14条14項の「再委託」該当性)について
(1) 法14条14項は,産業廃棄物処理業者が委託を受けた産業廃棄物の処理を他人に委託することを原則として禁止し,例外的に委託する場合には,排出事業者の書面による承諾を受けた上で,法令で定める者に,政令で定める基準に従って委託しなければならない旨規定している。そして,法26条1項は,法14条14項に違反して産業廃棄物の処分を再委託した者を3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科することとしている。
この再委託禁止規定は,産業廃棄物の処理の再委託が,受託業者から無責任な業者等に委託されること等によって,産業廃棄物の処理についての責任の所在を不明確にし,不法投棄等の不適正処理を誘発するおそれがあることを理由に設けられたものである。
ところで,法3条1項は,事業者は,その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならないとして,排出事業者責任原則を定めている。そして,法11条1項は,事業者は,その産業廃棄物を自ら処理しなければならない旨,また,法12条1項は,事業者(中間処理業者を含む。以下同じ。)は,自らその産業廃棄物の運搬又は処分を行う場合には,政令で定める産業廃棄物処理基準に従わなければならない旨規定する。他方,同条3項,4項及び5項は,事業者は,その産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には,法令で定める者に,政令で定める基準に従ってそれぞれ委託しなければならない旨,また,当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない旨規定する。
以上のような再委託禁止規定の趣旨・目的,排出事業者の責任に関する規定の内容等に照らすと,法14条14項は,産業廃棄物の適正処理を確保するため,排出事業者責任原則の下,自己処理や委託に係る規定とともに,保管・収集,運搬から処分までの一連の産業廃棄物処理の流れを通じて,行政や排出事業者が関係事業者の実効的な監督をし得るような規制枠組を構築しているものであるといえる。
そうすると,ある行為が,法14条14項で禁止する産業廃棄物の処分の「再委託」に該当するか否かは,それが産業廃棄物の処分についての責任の所在を不明確にし,法が定める再委託規制が必要な「他人」への「委託」といえるか否かにかかると解される。
(2) これを本件についてみると,前記認定事実によれば,(a)Bは,原告の出入り業者にすぎないこと,(b)原告とBとの契約は,原告の施設等の所在地外の本件土地において,Bが作業上必要な重機や人員を手配し必要な作業を行うというもので,作業の時間,手段等についてBの裁量が広く認められていたこと,(c)原告とBとの間に原告がBの堆肥化にかかる作業について管理監督するとの合意があったと認めるに足りる証拠はなく,また,Bが本件土地に投下行為を行った当時,原告は,本件土地にBを管理監督するような立場の者を派遣しておらず,さらに,Bは,堆肥化に必要な本件野菜くずの鋤き返し作業を行うよう原告から依頼されていたにもかかわらず,鋤き返しができなくなるような深さ2mの穴を掘り,そこにチップ材も混ぜずに本件野菜くずを投下したことが認められる。
以上(a)ないし(c)の事実を総合すれば,Bは,労務・作業工程の実施・管理や事業経営の面において,原告からは独立した事業者であったことは明らかである。そして,前記認定事実によれば,原告は,そのような事業者であるBに対し,排出事業者であるE株式会社との間で締結した,産業廃棄物である野菜くずを原告の処理施設内で中間処理(乾燥・発酵)し,肥料化する,予めの書面による承諾を得た場合を除き再委託はしない,という内容の契約に違反して,受託した産業廃棄物である野菜くずを破砕したものの処理(堆肥化)を全面的にBに依頼したものといえる。しかも,その依頼を受けたBの行った行為は,堆肥化に必要なチップ材の混入をせず,鋤き返しもできない穴に本件野菜くずを投下したというものであって,同行為が堆肥化を目的としたものと到底評価することはできず,単に破砕した本件野菜くずを投棄したものというべきである。
このような原告の所為が,行政あるいは排出事業者にとっては,廃棄物の処分についての責任の所在を不明確にするものであることは明らかであり,法14条14項で禁止される再委託に該当すると認められる。なお,原告の上記再委託は,同項ただし書にも該当しない。
(3) これに対し,原告は,法が禁止する再委託は,産業廃棄物の処理を第三者に丸投げする行為であり,産業廃棄物処理業者が,その処理過程において,その管理監督の下,処理作業の一部を第三者に請け負わせ,その処理物の最終処分に責任を負う場合は,作業の一部の請負であって,処分の再委託には該当しない旨主張する。
しかしながら,再委託が,産業廃棄物の処理についての責任の所在を不明確にし,不法投棄等の不適正な処理を誘発するおそれがあることから設けられた経緯等に鑑みると,再委託を原告が主張するような丸投げ行為に限定する理由はない(なお,乙6の2(環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課の回答)中に「再委託禁止規定は,産業廃棄物の処理が受託業者から悪質なブローカーに丸投げされることによって・・・」として,「丸投げ」との文言が用いられているが,言うまでもなく,この表現は,理解を容易にするために,「行政や排出事業者の監督が行き届かない」典型的な事例を挙げたに過ぎず,監督が行き届かない事例が,丸投げの場合のみに限られる訳ではないことは,一般経験則からも明らかである。また,法14条14項でその再委託が禁止される処分には,再生も含まれる(法6条の2第1項)。)し,前示のとおり,原告のBへの委託が,原告の管理監督を離れ,その処理(堆肥化)のほとんどの作業を行うものであることからすれば,ほぼ丸投げに近いと評価することができるものであって,原告の主張は到底採用できない。
4 争点3(裁量の範囲逸脱の有無)について
(1) 法14条の3の2は,産業廃棄物処理業者の許可の取消しについて定めたものであるが,同条1項2号の「情状が特に重いとき」とは,不法投棄など重大な法違反が行われた場合や違反行為が繰り返され是正が期待できない場合など,廃棄物の適正処理の確保という法の目的に照らし,業務停止命令等を経ずに直ちに許可を取り消すことが相当である場合をいうものと解され,それに当たるか否かは,違反行為の態様や回数,行為者の是正可能性等の諸事情を考慮した上での判断権者の合理的な裁量に委ねられていると解される。
(2) そこで,本件における違反行為の態様や回数,行為者の是正可能性等の諸事情について検討する。
まず,原告が再委託禁止規定に違反したことは前示のとおりである。
原告は,(a)原告が健全な業者で,野菜くずのリサイクルをするために,堆肥化を計画し,不慣れではあるが,循環型社会実現のために,多額の投資を行い,正常な運営に努力してきた,(b)廃棄物の不法投棄を企てたわけではなく,本件投下行為の後,即座に本件野菜くずを撤去している,さらに,(c)本件は,刑事事件として立件されていないのであり,これらの事情を考慮することなく,本件処分をした埼玉県知事の判断にはその裁量の範囲を逸脱した違法がある旨主張する。
ア そこで,検討するに,まず(a)であるが,証拠(甲16,17,18,原告代表者)によれば,鶏卵の生産販売等を業とするCグループが,原告の資産ないし株式を購入したこと,原告が,施設や残存する廃棄物の処理に係る投資をして,株式会社D時代の負の遺産の処理に努めていたことが窺われ,また原告が野菜くずを利用して堆肥化を検討していたことは認められる。しかし,本件において原告が堆肥化事業を本格化するための事業計画を策定しその実現のために多額の投資を行ったとの事情は認められないし,また,本件土地で堆肥化事業を行うに当たり必要となる廃棄物処理法に基づく変更許可ないし届出や肥料取締法に基づく届出も行っていなかったのであるから,これらの事情に照らすと原告において堆肥化の事業計画があったとの原告の主張を直ちに認めることはできない。さらに,施設の不備や未処理廃棄物は,Cグループが原告の事業等を買収するときから存在していたと考えられ,そうすると,Cグループは,これらの問題を解決する前提で安く原告を買収できたはずである。原告は,Cグループが産業廃棄物処理業に不慣れであったというが,株式会社D時代に同社が近隣住民との間でトラブルを抱えていることは,買収者としても把握していたものと考えられるから,事業を引き継いだ当初こそ,人員を派遣するなど経営資源を投入して事業の運営を軌道に乗せるべきであったのに,前記認定事実のとおり,常勤社員の派遣を2か月程度の短期間で打ち切っており,十分な支援をしていたとはいえない。
そうすると,本件は,結局のところ,原告の管理体制の不備,Cグループの支援不足が露呈した結果生じたものと判断せざるを得ない。
イ 次に,(b)についてであるが,前記説示のとおり,本件野菜くずが本件土地から一応撤去されたことは窺われるが,本件野菜くずの投下は,原告の依頼を受けたBが,本件野菜くずを投棄したものと評価することができるうえ,前記認定事実によれば,原告は,Bによる撤去作業の管理監督等をせず,適切な報告等も受けておらず,また,平成16年11月9日の現地確認の際にも本件土地の土壌に野菜くずが認められたことからすると,原告が本件野菜くず全部を即刻撤去したということはできない。また,原告が投下した本件野菜くずを撤去するのは原告の義務であって,その履行をもって原告の情状に影響を及ぼすべき事情と評価することはできない。
エ 最後に,(c)であるが,そもそも原告が刑事罰を受けなかったことが再委託禁止違反の事実が認められないということにはならないし,また,法14条の3の2は,県知事に許可取消しの権限を与えているところ,許可取消処分は,将来における適正処理を確保し,不法投棄等の危険を防止するという行政目的に基づく行政処分であって,国家刑罰権の行使を目的とする刑事処分とは別個独立の処分であり,本質的にその性質を異にする。したがって,刑事事件として立件されていないことが,埼玉県知事による行政処分に必然的に影響を与えるわけではない。
オ 以上のとおり,原告が主張する(a)ないし(c)の事情それ自体をもって,本件処分を裁量の範囲を逸脱した違法なものと認めることはできない。そして,再委託禁止規定は,前記のとおり,廃棄物処理法の基本原則である排出者責任原則を担保するものであり,その違反行為は,責任ある廃棄物処理体制を構築しようとする法の趣旨の根幹を揺るがせる重大なものであるといえること,そして,前記認定事実によれば,本件土地への本件野菜くずの投下行為は,原告が,その現実の処理能力を超える産業廃棄物を受け入れ,処理しきれなかったことをも契機としていること,原告は,本件以前にもBに対し野菜くずの処理を依頼していること,法定帳簿の備え付けをしていなかったこと,本件以前にも近隣の住民と悪臭や汚水に係るトラブルを起こし,それが本件以後も解消していなかったことが認められ,そうであれば,原告主張にかかる(a)ないし(c)の事情がありこれを総合して評価するとしても,本件について,情状が特に重いときに当たるとした埼玉県知事の判断が不合理でその裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとまではいえない。
4 結論
以上のとおり,原告の請求は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 富永良朗 裁判官 櫻井進)