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さいたま地方裁判所 平成18年(行ウ)15号 判決 2007年5月30日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  吉見町長が,原告Aに対し,平成17年12月15日付け吉発第2427号をもってした差押処分を取り消す。

2  吉見町長が,原告Aに対し,平成17年12月16日付け吉発第2448号をもってした配当処分を取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,原告Bが交通事故により高次脳機能障害等の後遺障害を負ったため,原告Aが原告Bの保佐人となり,また,同交通事故の相手方が支払った損害賠償請求権の仮払金が原告A名義の預金口座(以下「本件口座」という。)に振り込まれていたところ,吉見町長が,本件口座の預金債権を差し押さえて(以下「本件差押処分」という。)原告Aが滞納していた国民健康保険税に配当したため(以下「本件配当処分」という。また,以下,本件差押処分と本件配当処分とをあわせて「本件各処分」ということがある。),原告両名が,本件各処分の取消しを求めた事案である。

2  基本的事実関係(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)

(1)  当事者等

原告Bは,原告Aの妻である。原告Bは,平成13年5月2日,交通事故により高次脳機能障害等の後遺症を負い,平成16年1月24日,保佐開始の審判によって,原告Aが原告Bの保佐人に選任された。

(2)  本件各処分

原告Aは,別表1の各国民健康保険税計73万7700円を滞納し,これらに対する延滞金が平成17年12月15日までに計48万6700円発生していた。

吉見町長は,これらを徴収するため,同日付けで,原告A名義の株式会社埼玉りそな銀行東松山支店の普通預金(口座番号abcdefg,本件預金口座)の払戻請求権及び債権差押通知書到達日までの約定利息の支払請求権を上記滞納金額に満つるまでの範囲で差押え(本件差押処分,甲2),翌16日付けで,換価代金を吉見町長に配当する旨の配当計算書を作成し,同月22日に吉見町長に配当した(本件配当処分,甲3)。

(3)  本件訴えに至る経緯

原告Aは,平成18年2月6日付けで,吉見町長に対し,本件差押処分及び本件配当処分の取消しを求める異議申立てをしたが,吉見町長は,同年3月10日,上記異議申立てを棄却した。

原告らは,同年5月10日,本件訴えを提起した。

3  争点

(1)  本件預金口座の預金債権者が原告Bと原告Aのいずれであるか(争点1)

(2)  本件各処分に説明義務違反の違法性があるか(争点2)

(3)  平成12年5月1日を法定納期限とする国民健康保険税に対する延滞金が本件各処分までに時効により消滅したか否か(争点3)

(4)  本件において延滞金を徴収することが信義則に反し,違法であるか否か(争点4)

4  当事者の主張

(1)  争点1 (本件預金口座の預金債権者が原告Bと原告Aのいずれであるか)について

(原告らの主張)

本件預金口座の預金債権者は原告Bである。

すなわち,原告Bは,交通事故により,骨盤骨折,脳内出血,左血気胸,右第1肋骨骨折等の重症を負い,高次脳機能障害等の後遺障害を負った。そこで,原告Bらは,上記交通事故の相手方らに対し,損害賠償請求訴訟を提起していたところ,平成16年10月15日,損害賠償請求権の仮払金として,3518万5820円が原告ら訴訟代理人弁護士の所属事務所であるC法律事務所名義の口座から,本件預金口座に振り込まれた。

そして,原告Aは,原告Bの保佐人として,原告Bの財産である上記仮払金を本件預金口座で管理していた。

ところで,預金者の認定は,いわゆる客観説によるべきであり,出捐者を基準とするべきである(最高裁昭和52年8月9日判決・民集31巻4号742頁)。そうすると,本件預金口座の出捐者は,本件預金口座に原告Bの損害賠償請求権の仮払金として3518万5820円が振り込まれた一方その直前の本件預金口座の残高は114万円余りにすぎなかったこと,本件差押処分により差し押さえられた額は122万4400円であって仮払金が振り込まれる直前の残高を超えることにかんがみれば,本件預金口座の預金者が原告Bであることは明らかである。

また,原告Bには,国民健康保険税の滞納につき何ら帰責性がなく,原告Bが原告Aに対して求償権を得たとしても保佐人である原告Aの力なくしてはその権利を行使することはできないのであるから,原告Bの損害賠償金の仮払金が振り込まれた本件預金口座を差押え,配当することは許されないというべきである。

なお,最高裁平成15年2月21日判決及び最高裁平成15年6月12日判決はいずれも一般的な法規範を示すものではないし,上記各判決は金融機関の相殺の期待権や任意整理業務の特殊性を優先させたものであるところ,本件においては原告Bの財産保護に優先すべき法的利益は見当たらないから本件とは事案を異にする。

(被告の主張)

本件預金口座の預金債権者は,原告Aである。

すなわち,(a)本件預金口座は,原告Aがその名義で開設したものであること,(b)本件預金口座の通帳及び届出印は原告Aが管理しており,預金の預入や払戻はすべて原告Aが行っていること,(c)本件預金口座の預金は原告Aの出捐によるものであることからすれば,本件預金口座の預金債権者は原告Aというべきである。そして,預金口座に振込がなされた場合には,原因関係の有無にかかわらず,受取人が銀行との間で預金債権を取得するのであるから(最高裁平成8年4月26日判決・判時1567号89頁),本件預金口座に振り込まれた上記仮払金は,従前に入金されていた原告Aの預金と一体となり,原告Aに帰属するというべきである(原告Aは原告Bに対し,振り込まれた仮払金を返還すべき義務を負うにすぎない。)。なお,仮に原告Aが原告Bから損害賠償金の受領権の委任を受けていたとしても,金銭の所有権は,金銭の受領者(占有者)である受任者に帰属すると解されるので,上記仮払金が本件預金口座に振り込まれた時点で,上記仮払金の所有権ないし預金債権は原告Aに帰属すると解される。

これに対し,原告らは,最高裁昭和52年8月9日判決を挙げて本件預金口座の預金債権者は原告Bであると主張する。しかしながら,同判決は,出捐者が誰かという点のみから結論を導いたものではなく,出捐者が自己の預金とするために出捐したこと,出捐者がもともと所持していた第三者姓の印鑑を定期預金に捺印していること,出捐者が預金の名義人から預金証書や届出印の交付を受けてこれらを所持していたこと等の事情があり,本件と同列に考えることはできない。また,同判決は,定期預金の預金者に関するものであり,本件とは事案を異にする。すなわち,普通預金は,定額を一定期間預入する定期預金とは異なり,入出金が頻繁に行われるのであって,ある特定の入金がいつどれだけ出金され,残額がいくらになっているのかを確認することは困難であるから,個々の入金の出捐者を基準として預金者を決するべきではない。本件において,本件預金口座の残高は,平成16年10月15日に3518万5820円が振り込まれた時点では3632万6057円であったが,本件差押処分が行われる直前の平成17年12月15日時点では428万4330円となっていたのであって,本件差押処分直前の残高全額が何故原告Bの預金債権といえるのか,原告らの論理からは説明がつかない。

また,原告らは,被保佐人には帰責性がないこと,被保佐人が保佐人に対して求償権を得たとしてもその権利を行使する力がなく,その権利を行使するためには保佐人の力が必要になるという関係にあることから,被保佐人が自己の債権を失い,被保佐人が保佐人に対し求償権を有するのみという結論は正当化できないと主張する。しかしながら,保佐人は,被保佐人の受領すべき賠償金について,家庭裁判所の審判を受けない限り,被保佐人を代理して受領する権限もそれを管理ないし処分する権限もなく(民法876条の4第1項),また,保佐人は,保佐事務を善良な管理者の注意をもって処理しなければならない(同法876条の5第2項,644条)。そうすると,仮に,被告のした本件各処分により,原告Bに何らかの損害が発生したとしても,それは専ら原告Aの善管注意義務違反の問題であり,被告には何ら責任はない。

(2)  争点2 (本件各処分に説明義務違反の違法性があるか)について

(原告らの主張)

被告は,原告が平成12年度第4期分の保険税を納税したにもかかわらず,改めて同期分の請求をした。当該請求が電算会社の入力ミスによるものであり,過誤請求であったことは,被告も認めている。

しかしながら,吉見町長は原告Aに対し,上記請求が過誤請求であり,第4期分の保険税の納付の必要がないことを説明することもなく,本件各処分を行った。当時,原告Aは,税務署の調査の結果,追徴を受け,平成12年度第5期分から,税額が上がったことから,第4期分についても新たに支払う必要があるかもしれないと考えており,これが過誤請求であることは認識していなかった。

したがって,本件各処分は,納税額が不明確なまま実行されたものであり,明らかに違法である。

(被告の主張)

争う。

(3)  争点3 (平成12年5月1日を法定納期限とする国民健康保険税に対する延滞金が本件差押処分までに時効により消滅したか否か)について

(原告らの主張)

本件差押処分により徴収された国民健康保険税のうち,法定納期限を平成12年5月1日とするものに対する延滞金は,平成17年12月15日の本件差押処分までに,5年の経過により時効消滅している(地方税法18条)。

この点,被告は,督促状兼納付書及び催告兼納付書を発送したから,延滞金についても消滅時効は完成していない旨主張するが,上記各書面は,本税についての督促ないし催告であって,延滞金の督促ないし催告ではない。

また,原告Aは,国民健康保険税領収証書を受領しているが,この領収書には,今回,差押の根拠となった納付金につき,延滞金の記載がなく,延滞金については後日徴収との印が押されているのみである。その約5年後の平成17年10月5日付の「納付催告及び差押予告について(通知)」と題する書面にも,延滞金は後日徴収するとされている。これらの事実からすれば,被告は,そもそも延滞金を徴収する意思ないし必要はないと考えていたものであり,少なくとも,延滞金は催告の対象とされていない。

したがって,延滞金については,督促及び催告はなく,消滅時効が完成しているから,本件差押処分により徴収された国民健康保険税のうち,法定納期限が平成12年5月1日である計36万6500円に対する延滞金計25万7700円を徴収するためになされた本件各処分は違法である。

(被告の主張)

本件差押処分により徴収した国民健康保険税のうち,法定納期限が平成12年5月1日である本税及びこれに対する延滞金については,いずれも時効が中断しており,本件各処分までに時効消滅していない。

すなわち,吉見町長は,原告Aに対し,平成12年度国民健康保険税(5期,通知書番号a)について平成13年1月22日に,平成12年度の国民健康保険税(6期,通知書番号b)について平成13年3月21日に,平成12年度の国民健康保険税(8期,通知書番号c及びd)について平成13年1月22日に,督促状を発送している。これらの督促状は返戻されていないため,発送日の翌日ころには,原告Aに送達されたはずである。そして,地方税法第18条の2第1項2号によれば,原告Aに督促状が送達された時点で時効が中断し,督促状を発送した日から起算して10日を経過した日から,再び時効期間が進行する。延滞金については,督促状や催告書には記載されていないものの,地方税法第18条の2第5項により,本税について時効が中断したときに,本税にかかる延滞金についても時効が中断する。そうすると,平成13年1月22日に督促状を発送した平成12年度国民健康保険税(5期,通知書番号a)及びこれに対する延滞金並びに同年度の国民健康保険税(8期,通知書番号c及びd)及びこれに対する延滞金は,いずれも,平成18年2月1日まで時効が完成しておらず,また,平成13年3月21日に督促状を発送した平成12年度の国民健康保険税(6期,通知書番号b)及びこれに対する延滞金は平成18年3月31日まで時効が完成していない。したがって,本件各処分の当時には上記各延滞金につき未だ消滅時効が完成していないから,吉見町長が本件各処分によって法定納期限が平成12年5月1日である国民健康保険税に対する延滞金を徴収した点に違法はない。

(4)  争点4 (本件において延滞金を徴収することが信義則に反し,違法である

か否か)について

(原告らの主張)

原告Aが国民健康保険税を滞納していたのは,被告との間で話し合いがなされていたためである。そうであるにもかかわらず,話し合いをしていた期間の延滞金を徴収することは信義に悖る行為であり,違法である。

また,回収の妨げとなる特段の事情もないのに,消滅時効期間経過の直前まで債権の回収を遅らせ,遅延利息を増大させることが権利濫用に該当することは,東京地裁平成元年9月27日判決の判示するところである。被告は公の機関であるのだから,保険税の徴収を遅らせ,遅延損害金が増大することを回避すべき信義則上の義務を負うのは当然である。したがって,特段の事情もないのに4年以上保険税の徴収を遅らせ,遅延利息を増大させる被告の行為は,権利濫用にあたり,もはや延滞金を徴収することは認められない。

(被告の主張)

争う。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件預金口座の預金債権者が原告Bと原告Aのいずれであるか)について

(1)  前記基本的事実関係,下記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 本件預金口座は,原告Aが,自己の資金を出捐し,同人名義で開設したものである(原告A)。

イ 本件預金口座の通帳及び印鑑は,原告Aが管理していた(原告A)。

ウ 平成16年10月15日,C法律事務所から,原告Bに対する損害賠償の仮払金として3518万5820円が本件口座に振り込まれた。これは,原告Bが被保佐人であったため,C法律事務所側と原告Aとの合意に基づき,便宜上本件口座に振り込まれたものである。この振込の前後に,本件口座に原告Bに対する金員の振り込みがされたことは一度もない(甲18,原告A)。

エ 本件預金口座は,損害賠償金が振り込まれる前後を通じて,原告Aが加入するソニー生命やヒマワリ生命の生命保険金の引き落とし,りそなカードのカード利用額の引落し及び「D」・「E」・「F」など,原告の事業である自動車修理にかかる客からの代金の振り込み等に使用されていた(甲18,原告A)。

オ 原告Bに対する仮払金が振り込まれる直前の預金残高は114万237円であり,これは全て原告A出捐に係る預金である(甲18)。

カ 原告Aは,原告Bが車いすで生活できるよう,自宅にエレベーターを設置したり,段差をなくすなどの改装をし,その工事代金として,本件差押処分までに,本件口座から1000万円以上を支払った(甲43,甲45,46,47,48,49,50,51,55,56,57,58,59,60,61,64)。

キ 一方,原告Aは,別表2「夫・支払金額」欄記載のとおり,度々本件口座から,同人が事業のために使用している同人名義の当座預金口座に資金を移動し,事業上の支払をした(原告A)。

また,平成17年9月9日,原告Aは,本件口座預金により,同人名義で300万円分証券を購入した(甲18,甲53)。

ク 本件差押処分直前の平成17年12月15日当時,預金残高は428万4330円であった。

(2)ア  本件口座は,普通預金口座であるところ,この口座の預金債権の帰属が問題となる。

この点,普通預金は,いったん預金契約を締結し,口座を開設すると,以後預金者がいつでも自由に預け入れ,払戻しをすることができる継続的取引契約であり,口座に入金があるたびにその額についての消費寄託契約が成立するが,その結果発生した預金債権は,口座の既存の預金債権と合算され,1個の預金債権として扱われるものである。

そこで,普通預金の預金者の確定にあたっては,預金口座の開設者が誰か,原資の出捐者は誰か,預金口座の名義は誰か,口座を管理しているのは誰かなどの事情を総合的に考慮して決すべきものと解される。

イ  これを本件についてみると,上記認定事実のとおり,本件普通預金口座の開設者は原告Aであり,預金通帳,銀行印の管理も同人が行っていたことが認められる。そして,同口座は,仮払金の振り込みの前後を通じて,原告Aの借入金返済や生命保険の支払,事業上の代金の振込に使用されている。また,口座開設時の原資はAの出捐によるものであり,上記のとおり,本来原告Bが受け取るべき仮払金が入金されているものの,同仮払金が本件口座に振り込まれたのは,原告AとC法律事務所の弁護士との合意に基づくことが認められ,振込人としても原告Aを受取人,すなわち預金債権者とする意思であったことが窺える。しかも,本件口座預金は原告Bのための自宅改装代金に充てられている一方,原告Aの事業上の支払や原告A名義の証券購入にも充てられ,その額は,別表2記載のとおり,仮払金の入金前の預金残高とその後の原告Aにかかる入金額との合計額を上回るものである。

ウ  これらの事実に照らせば,本件普通預金口座の開設から利用に至るまで,その管理についてもすべて原告Aが行っていたというべきであり,本件口座は原告Aに帰属すると認めるのが相当である。このように解することは,誤振込がされた事例において,振込人と受取人との間に振込原因となる法律関係が存在しない場合にも,受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得するとした判例(最高裁平成8年4月26日判決)との関係においても,整合性がある。

エ  この点,原告らは,預金者の認定にあたっては,預金の出捐者が誰かを基準にすべきとして,最高裁昭和52年8月9日判決を引用し,本件においては,預金の大部分にあたる3518万5820円は,原告Bの出捐にかかるものであるから,預金者は原告Bであると主張する。

しかしながら,上記判例は,定期預金口座の預金債権に関する事案であるところ,定期預金と異なり,いったん預金契約を締結し,口座を開設すれば,以後預金者がいつでも自由に預け入れ,払戻しをすることができ,入出金の対応関係が必ずしも明確でない普通預金口座において,個々の入出金の出捐者に預金債権が帰属するとの考えを貫くと,そもそも預金債権者を確定することが困難であるし,時期により同一口座の帰属が異なるという不合理な結果も生じかねない。

上記のような普通預金口座の特殊性にかんがみると,普通預金口座の場合にも,預金の出捐者を唯一の基準として預金口座の帰属を確定することは相当でなく,原告の上記主張は採用できない。なお,同じく普通預金口座の帰属が問題となった最高裁平成15年2月21日判決及び最高裁平成15年6月12日判決も,預金の原資,預金口座の名義,開設者,管理者等を総合的に考慮し,口座の帰属を判断していることが認められる。

オ  確かに本件普通預金口座における預金残高額の推移をみると,本来原告Bが受領すべき金員の占める割合が高く,預金債権の帰属を原告Aとするのは酷なようにも思える。

しかし,このように解したとしても,原告Bは,原告Aに対し,振込金額相当額の不当利得返還請求権を取得し,これを行使できるのであって,特段不合理な結果ともいえない。原告らは,原告Bが,保佐人である原告Aの助力を得なければ上記求償権を行使しえないことを理由に,上記結論は不当である旨主張するが,保佐人が善管注意義務違反により,被保佐人に損害を与えた場合には,被保佐人若しくはその親族等は,家庭裁判所に対し,その解任を請求することができ(民法876条の3第2項,同法846条),原告Bは,新たに選任された保佐人を通じて原告Aに対し,求償権を行使することが可能であるし,被保佐人の受けた損害は,保佐人との間で解決すべきことであり,原告ら主張の事情が上記結論を左右するものではない。

カ  以上により,本件預金口座は原告Aに帰属していたとみるべきであり,これを差押,配当の対象にしたこと自体につき違法はない。

2  争点2 (本件各処分に説明義務違反の違法があるか)について

(1)  前記基本的事実関係,下記の証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

ア 被告から,原告Aに対し,平成12年8月1日付の平成12年度国民健康保険税通知書が送付された。この通知書によれば,第4期分,第5期分,第6期分の税額はそれぞれ8万1000円となっている(甲41)。

イ 原告Aは,平成12年11月6日に,平成12年度第4期分の国民健康保険税8万1000円を納付した(甲41,原告A)。

ウ その後,被告から原告Aに対し,平成12年12月11日付の国民健康保険納税通知書が送付されたが、コンピューターのミスにより,平成12年度第4期分の国民健康保険税8万1000円が再度請求された(甲42,原告A)。

エ なお,上記通知書は,税務署の調査で発生した追徴額が加算されたもので,平成12年度第5期分は14万8000円に,同年度第6期分は14万7000円に増額されていた(甲42,原告A)。

オ 原告Aは,第4期分を再度支払う必要があるのか疑問に思い,平成12年12月13日,確認のため,吉見町役場へ電話した。電話を受けた吉見町職員は,担当者に替わるなどと言って,他部署へ電話を回し,数人が代わる代わる電話に対応したが,原告Aの疑問は解決しなかった。原告Aは,この対応に立腹し,電話を切った(甲5,甲19,原告A)。

カ その後,被告税務課職員及び課長が数回原告A宅を訪問し,不適切な電話対応につき謝罪をしたが,これに対し,原告Aは,被告として謝罪の書面を出してくれなければ税金は払えないと告げた(甲6,原告A)。

キ 平成13年8月22日,当時の助役であるGが原告A宅を訪問し,謝罪をした。これに対しても,原告Aは,書面を出して欲しいと返答した(甲6,原告A)。

ク 平成17年4月18日,G助役が再度原告A宅を訪問し,納税を依頼した(甲6,原告A)。

同年7月30日,吉見町長Hが原告A宅を訪問し,謝罪及び納税の依頼をしたが,原告Aは,これにもとりあわなかった(甲5,甲6,原告A)。

ケ その後,被告税務課長であるIと原告Aとの間で話し合いが持たれ,原告Aは,平成12年度第8期分の2件について,納税免除を要望したが,被告は希望には添えない旨回答した(甲5,原告A)。

コ 平成17年10月5日,吉見町長から原告に対し,平成17年10月5日付「国民健康保険税の納付の催告について」と題する書面及び「納付催告及び差押予告について(通知)」と題する書面が送付された。

上記「納付催告及び差押予告について(通知)」記載の未納金額内訳表には,平成12年度第4期分は記載されていない(甲5)。

サ 原告Aは,平成17年11月7日,被告に対し,原告Aからの問い合わせの電話をたらい回しにした不手際につき,公文書で謝罪をしない限り,国民健康保険税を支払わない旨の内容証明郵便を発送した(甲13)。

シ 吉見町長は,原告Aに対し,平成17年11月16日付「文書要求の件について(回答)」と題する書面を送付し,平成17年10月5日付書面のとおり法的手続をすすめる旨通知した(甲6)。

(2)  以上によれば,原告Aは,平成12年度第4期分の税金につき,それを既に平成12年11月6日に納付しているにもかかわらず,再度平成12年12月11日の納税通知書で未納扱いされ,再度請求されたことから,これを不審に思い,被告へ電話したところ,電話をたらい回しにされる等したことから立腹し,これにつき公文書による謝罪がない限り,税金を支払わないとしたことが認められる。しかしながら,原告は,第4期分の8万1000円を同年11月6日に納税しており,その後同年12月11日付けで送付された納税通知書(甲42)には,甲41と同額の「81,000円」とされ,期限も「平成12年10月31日」と記載されているから,普通であれば,甲42は過誤通知ではないかと考えてもおかしくなく,原告としてもその趣旨を被告の職員に問い質したことは十分推認される。また,原告Aは,本件訴訟にいたるまで,第4期分の納税の要否については説明がないと供述するが,本件各処分がなされるまでの間,原告Aと被告との間には再三のやりとりがあったのであり,被告の側から事の発端であった第4期分の納税の要否につき,話がなかったとは考えがたい。原告Aが被告に送付した平成17年11月7日付の内容証明郵便(甲13)も,被告の電話対応の不手際を公文書で謝罪するならば,国民健康保険税を支払うとしているのであって,上記の諸事実をかんがみれば,本件各処分の時点において,第4期分の納税の要否については,被告の側から納税済で甲42は過誤通知であるとの説明があったことが十分推察される。そうすると,この点の原告らの主張は前提を欠くもので,採用できない。

なお,仮に平成12年度第4期分につき説明がなかったとしても,平成17年10月5日付の「納付催告及び差押予告について(通知)」には,平成12年度第4期分は未納金額として記載されておらず,本件各処分の当時,納付金額が不明確であったということはできない。

したがって,本件各処分が,納付金額が不明確なままになされた違法事由があるということはできない。

3  争点3 (平成12年5月1日を法定納期限とする国民健康保険税に対する延滞金が本件差押処分までに時効により消滅したか否か)について

(1)  地方税法第18条の2第1項2号は,地方税の徴収権の時効は,督促状又は督促のための納付若しくは納入の催告書を発した日に中断し,その日から起算して10日を経過した日から再び時効期間が進行すると定め,同条第5項は,本税について時効が中断したときには,これにかかる延滞金についても時効が中断する旨規定している。そうすると,延滞金について時効を中断するためには個別の督促を要せず,本税についての督促があれば足りると解される。

(2)  そこで,これを本件についてみると,甲20ないし甲22によれば,吉見町長は,原告Aに対し,平成12年度国民健康保険税(5期,通知書番号a)について平成13年1月22日に,平成12年度の国民健康保険税(6期,通知書番号b)について平成13年3月21日に,平成12年度の国民健康保険税(8期,通知書番号c及びd)について平成13年1月22日に,それぞれ督促状を発送したことが認められる。これらの督促状を受領したことは,原告A自身も認めるところであり,送達の日付については定かではないが,発送日の翌日ころには,原告Aに送達されたと考えられる。そうすると,上記各規定によれば,平成13年1月22日に督促状を発送した平成12年度国民健康保険税(5期,通知書番号a)及びこれに対する延滞金並びに同年度の国民健康保険税(8期,通知書番号c及びd)及びこれに対する延滞金は,いずれも,平成18年2月1日まで時効が完成しておらず,また,平成13年3月21日に督促状を発送した平成12年度の国民健康保険税(6期,通知書番号b)及びこれに対する延滞金は平成18年3月31日まで時効が完成していない。

(3)  したがって,本件各処分の当時には未だ消滅時効が完成していないから,吉見町長が本件各処分によって法定納期限が平成12年5月1日である国民健康保険税に対する延滞金を徴収した点に違法はない。

4  争点4 (本件において延滞金を徴収することが違法であるか否か)について

原告ら主張のとおり,保険税の納付につき,原告Aが被告と話し合いの最中であったとしても,原告Aは保険税の納付の要否と直接関わりのない被告職員の電話対応を理由に納税を拒否し,話し合いが平行線をたどっていたのであり,その期間中に差押を実行することが信義則に反するとまでいうことはできない。

また,被告が原告ら主張のとおり遅延損害金の増大を回避すべき信義則上の義務を負うとしても,被告は,前記認定のとおり,それぞれ督促状を送付して,その納付を促し,かつ原告ら宅に訪問し,納税の依頼をしているのであって,ことさらに延滞金を増大させるため,元本債権の回収を遅らせたというような事情は窺えない。

したがって,本件において延滞金を徴収することが信義則に反し,違法であるとはいえない。

5  結論

以上のとおりであるから,原告らの請求はいずれも理由がないので棄却するのが相当である。よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 富永良朗 裁判官 久米玲子)

裁判長裁判官豊田建夫は,転補につき署名押印できない。裁判官 富永良朗

(別表省略)

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