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さいたま地方裁判所 平成18年(行ウ)17号 判決 2008年1月30日

主文

1  被告が別紙図面のa、b、c、d、e、f、g、h、aの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の部分(越谷市<以下省略>先を基点とし、<番地省略>先を終点とする。以下「本件道路」という。)の土地につき、下記の管理行為を怠る事実が違法であることを確認する。

(1)  本件道路と別紙第1物件目録記載の各土地及び別紙第2物件目録記載の各土地との境界を明確にすること

(2)  A、B、C、D、E、F、G、Hに対し、本件道路を不法に占有、使用していることについての是正指導、勧告、同土地の明渡請求を行うこと

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第3争点に対する判断

1  争点1(本件道路が市の「財産」にあたるか)について

(1)  証拠によれば、以下の事実が認められる。

ア  埼玉県新方領耕地整理組合は、明治42年から大正5年にかけて、新方領耕地整理(本件耕地整理)を行い、川通村、豊春村、武里村、大袋村、桜井村、大沢町、粕壁町、新方村、荻島村の2町7村、3000町歩の区画形質の変更を行った(〔証拠省略〕)。本件耕地整理が行われる以前、本件道路は里道として存在していた(争いのない事実)。

イ  本件耕地整理においては、耕地整理対象町村のなかでも一部耕地整理の対象から除かれた区域があった。本件道路が存在した越谷市大字袋山の東武鉄道日光伊勢崎線鉄道敷西側には、除斥界(区画整理の対象としない土地との境界を示す線)があり、耕地整理対象外とされた区域がある(〔証拠省略〕)。

ウ  本件道路南側の土地は、本件耕地整理により、区画形質の変更がなされ、公図が閉鎖された(〔証拠省略〕)が、本件道路は、現在も公図に里道として記載されている(〔証拠省略〕)。

エ  越谷市職員が昭和52年2月に作成した地積測量図には、本件道路のうち、<番地省略>から<番地省略>先の部分が公道として記載されている(〔証拠省略〕)。

オ  平成16年3月、<番地省略>ないし<番地省略>の土地の南側境界から本件道路北側境界に存在するブロック塀までの面積を実測したところ、<番地省略>ないし<番地省略>の土地の登記簿上の面積に比して118.72平方メートル広い1407.72平方メートルの面積があった(〔証拠省略〕)。

カ  昭和29年頃、近隣住民が畑へ行くため、本件道路を通行していた。当時本件道路は、2メートル程度の幅があり、砂地で踏み固められた状態で、北側隣接地との境には茶の木が植えられていた。

昭和45年頃に、東武鉄道線路東西を結ぶ道路が整備され、本件道路を通行する者はほとんどいなくなった。(〔証拠省略〕)

キ  平成16年4月、本件道路は、国有財産特別措置法5条1項5号に基づいて、国から越谷市に無償譲与された(〔証拠省略〕)。

ク  越谷市は、平成18年5月10日、さいたま地方法務局越谷支局に対し、公図の訂正について照会をしているが、公図の訂正申立をしたことはない(〔証拠省略〕)。

(2)  以上の事実によれば、本件耕地整理の際、本件道路付近に除斥界があったこと、耕地整理の結果、本件道路南側については公図の訂正が行われ、区画形質の変更が反映されているが、本件道路は現在も公図上に記載されていること、本件道路は、昭和45年頃まで近隣住民により通行がなされ、道路としての実態を備えていたこと、平成16年当時、登記簿上、北側敷地と南側敷地との間にいずれの住民にも属さない土地が100平方メートル以上存在したこと、本件道路は平成16年まで里道として国有財産との扱いを受けていたことが認められる。これらのことからすれば、本件道路は、除斥界で区切られ耕地整理区域外とされた部分に存在したため、区画形質の変更を受けずに里道として存続し、その後も近隣住民により使用されたものであって、北側敷地と南側敷地の間に存在する約100平方メートルの土地は本件道路であると推認される。そして、平成16年に本件道路が越谷市に譲与された後、これが公用廃止され、処分されたとの事実はうかがえないから、本件道路は現存し、かつ越谷市の有する財産であるということができる。

この点、被告は本件耕地整理の際、本件道路も区画整理の対象となり、民間に下付されたため、存在しないと主張し、これに沿う証拠として〔証拠省略〕がある。

確かに、これらの証拠によれば、大正5年3月に、堤通に存在し、東武鉄道を跨いで東西にのびる道路(本件図面の図面対照番号24、25)が埼玉県新方領耕地整理組合に譲与されたこと(〔証拠省略〕)、同組合が作成した「埼玉県新方領耕地整理地区確定図」(〔証拠省略〕)には、本件耕地整理の施行に伴い本件道路の南側に設けられた道路(新設道路)は記載されているものの、本件道路は記載されていないこと、本件耕地整理後の大正11年に作成された「土地水面細目」(〔証拠省略〕)に本件道路は記載されていないこと、「袋山全図」(〔証拠省略〕)にも、新設道路のみ記載され、本件道路は記載されていないことが認められる。

しかし、被告は、本件道路が下付されたとする根拠として、本件耕地整理前の閉鎖公図(〔証拠省略〕)と本件図面とを照らし合わせると、堤通地区において、東武鉄道を跨ぎ、東西にのびる道路は、本件道路のみであるから、譲与対象として本件図面に記載された25番の道路は本件道路であると主張するが、本件図面には閉鎖公図(〔証拠省略〕)には記載のない道路(図面対照番号18、19)が記載されていること、そもそも本件図面は、地区名、東武線鉄道敷、譲与対象道路の位置を記載したにすぎず、道路付近の土地の形状、地番等の記載のない大まかなものであることからすれば、〔証拠省略〕の図面の記載の正確性には疑問が残り、これのみをもって本件道路が新方領耕地整理組合への譲与対象となった図面対照番号25の道路に該当するということはできない。

また、被告は、耕地整理後に作成された図面である〔証拠省略〕に本件道路の記載がないことからも本件道路が耕地整理により存在しなくなったと主張するが、〔証拠省略〕がいずれも耕地整理の対象地区の内外を問わず、耕地整理後存在するすべての道路を記載するものであるか明らかでなく、これらの図面に記載がないことをもって本件道路が耕地整理以後存在しないと認めることはできない。被告は、〔証拠省略〕が耕地整理後の「確定図」であること、〔証拠省略〕がほぼ一致すること及び〔証拠省略〕の除斥界で囲まれた部分にも道路の記載があること(〔証拠省略〕)を理由に、これらの図面は耕地整理後に存在する全ての道路が記載されたものであると主張するが、〔証拠省略〕はそもそも作成時期が不明であること、〔証拠省略〕は大袋村が埼玉県知事に対し、道路及び水路等の無償譲与申請をするにあたり、添付された図面であるから、無償譲与の対象を特定するという目的で作成されたと推認されるところ、かかる作成目的からすれば必ずしも全ての道路ないし水路を記載する必要がないことから、これらの記載が一致したからといって、ただちに全ての道路が記載されているとまで言うことはできない。また、確かに〔証拠省略〕には耕地整理の対象外とされた「除斥界」で囲まれた部分についても道路が記載されていることが認められるが、このことから直ちに耕地整理の対象とならなかった地区についても正確に全ての道路を記載していたことにはならず、このことは「確定図」との表題が付されていたとしても同様である。以上によれば、上記認定の事実によっては、被告主張の事実を推認するに足りず、他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠はないから、本件道路が存在するとの上記判断は左右されない。

2  争点2(原告の主張する事実が財産の管理を怠る事実に当たるか否か)について

被告は、原告の主張する問題は、道路管理の問題であって、住民訴訟の対象とならない旨を主張するので検討する。確かに、地方自治法242条の2に定める住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし、その対象とされる事項は法242条1項に定める事項であっていずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものであることが必要である。これを地方公共団体が有する道路の占有についてみると、執行機関又は職員が上記道路の占有に関する作為又は不作為が地方公共団体の道路について有する財産的価値に影響を及ぼす場合には、その作為又は不作為が住民訴訟の対象となるが、何ら影響を及ぼさない場合には、その作為又は不作為は、道路管理者の道路行政上の問題となることはあっても、住民訴訟の対象とはならないと解される。

そこで、本件についてこれが道路管理の問題にとどまるか、財産的価値の変更をもたらすものであるかを検討する。

道路が不法占拠された場合に道路敷地の所有者が境界を明確にしないこと、明渡請求及び明渡を前提とした是正指導、勧告等を行わないことが道路の財産的価値の変更をもたらすか検討すると、木件道路はいわゆる里道であって、道路としての機能管理につき法律を欠くものであるが、法定外公共用物として、公衆の通行の用に供するものであり、国から越谷市に譲与された際も、「道路(道路法(昭和27年法律第180号)が適用される道路を除く。以下この号において同じ。)の用に供されている国土交通大臣の所管に属する土地(その土地の定着物を含む。)について、国が当該用途を廃止した場合において市町村が河川等または道路の用に供するとき」(国有財産特別措置法5条1項5号)にあたるとして譲与対象とされたものである(〔証拠省略〕)。そうすると、第三者が本件道路を占有する場合には、道路が本来の目的に供されないことになるので、道路管理権の行使に支障をもたらすことになり、第三者が道路を排他的に恒常的に占有するような場合には、それは単に道路の管理にとどまらず、道路に対する所有権の行使が阻害されることになるので、財産の管理の問題が生じることになる。

したがって、第三者が道路を占有している場合には、その占有の態様が場所的に広がりがあり、恒常性があれば、境界確認をしないことや、同人に対し、明渡請求をしないことは、道路の財産的価値の変更をもたらすものとして、住民訴訟の対象となるというべきである。

これを本件についてみると、本件道路北側境界付近にはブロック塀が設置され、本件道路はAらの敷地の一部として扱われ、近隣住民の通行は不可能な状態となっており(〔証拠省略〕)、かつ本件道路上にはF所有建物の一部が現実に建築されているのであるから(〔証拠省略〕)、Aらは本件道路をほぼ排他的かつ恒常的に占有しているということができる。

したがって、本件における道路敷地の占有は、道路管理の問題にとどまらず、道路の財産管理の問題も含み、境界を明確にしないことや、占有者に対し、是正指導、勧告及び明渡請求を怠ることは、住民訴訟の対象となると解するのが相当である。

3  争点3(本件において監査請求を前置したといえるか否か)について

以上によれば、本件道路は越谷市の財産に該当し、かつ本件道路の明渡しを求めないことは、住民訴訟の対象とすべき財務会計上の行為であるから、これと同内容の監査請求は適法なものであるということができる。

そうすると、本件においては、適法な監査請求の前置があったということができる。

4  争点4(本件道路の管理の懈怠の有無及び違法性)について

本件において、被告がAらに対し、本件道路の明渡し、境界確認等の措置を行ったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告には本件道路についてその管理を怠る事実があるといわざるをえない。そして、当該怠る事実が違法であるか否かは、財産の性質をふまえ、その財産の価値の回復ができるにもかかわらず、これをしない場合に当たるか否かによって決すべきところ、Aらが本件道路につき、使用の許可を有しているといった法律上、無条件の明渡請求等が不可能ないし困難であるというような事情は認められない。また、越谷市は平成16年4月に、国から本件道路の譲与を受け、本件道路の所有者となったのであるから、所有者として本件道路と近隣住民所有地との境界画定をすることに支障はない。そして、同日からAらに境界確認ないし本件道路の明渡等を求めるに十分な期間があり、事実上も明渡請求等が不可能ないし困難であるという事情はないといえる。したがって、被告は本件道路の明渡請求等ができるにもかかわらず、これを怠ったことになるから、当該怠る事実は違法であるといわざるをえない。

なお、被告は本件道路は耕地整理により消滅し、存在しないとの認識に立っていたことが認められるが、そのような事情をもって被告が明渡請求等を行うことを困難とする特段の事情に当たると評価することもできない。

5  結論

以上の次第であり、原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 富永良朗 久米玲子)

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