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さいたま地方裁判所 平成18年(行ウ)18号 判決 2006年10月25日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  埼玉県知事が,平成16年9月6日付けで原告に対してしたe学園寄附行為認可申請書の部分開示決定のうち,同申請書添付書類の寄附申込書に記載されたA及びBの寄附金額を開示しないとした部分を取り消す。

2  埼玉県知事は,原告に対し,e学園寄附行為認可申請書添付書類の寄附申込書に記載されたA及びBの寄附金額を開示せよ。

第2事案の概要

1  事案の要旨

原告は,埼玉県知事に対し,埼玉県情報公開条例(平成12年条例第77号。以下「本件条例」という。)に基づき,e学園寄附行為認可申請書(以下「本件文書」という。)の開示を請求したところ,埼玉県知事は,一部の指定部分を除いて,同文書を開示することとした(以下「本件部分開示決定」という。)。

本件は,原告が,本件文書添付書類の寄附申込書に記載された知人であるA(以下「A」という。)及びB(以下「B」という。)両名の寄附金額(以下「本件情報」という。)については,同人らの同意があるので,本件情報の記載された部分を開示しないとした本件部分開示決定は違法なものである等として,被告に対し,当該開示しないとした部分に係る本件部分開示決定の取消しと当該開示しないとした部分の開示の義務付けを求めた事案である。

2  基本的事実関係(当事者に争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

ア 原告は,C市の住民であるが,埼玉県D市Ea-bに事務所を有する「F氏の関わる法人等の財務・税務に関する研究会」の事務局長を務める。

イ 埼玉県知事は,本件条例上の実施機関(同条例2条)であり,本件部分開示決定をした行政庁である。

被告は,埼玉県知事の所属する地方公共団体である。

(2)  本件開示請求

原告は,平成16年7月30日,Aらとともに,「F氏の関わる法人等の財務・税務に関する研究会」を発足させ,その事務局長に就任した。同調査会は,埼玉県D市Ec-dに事務所を有し,その目的は,Fが設立を計画した学校法人e学園f専門学校等に係る調査を行うというものであった(甲12)。

原告は,平成16年8月4日,Aとともに,埼玉県立文書館を訪れ,同館に本件文書が保存されていることを確認し,同月5日,埼玉県知事に対し,本件文書の公開を請求した(以下「本件開示請求」という。甲2,10)。

(3)  本件部分開示決定

埼玉県知事は,平成16年8月18日付けで,原告に対し,対象文書が大量にあり,開示・不開示の決定に慎重な判断を要するという理由で,本件開示請求に係る公文書の開示決定等の期間を,同月19日までから同年9月9日までに延長するとの通知をした(甲3)。

そして,埼玉県知事は,平成16年9月6日付けで,原告に対し,本件条例に基づき,一部の指定部分を除いて,本件文書を同月10日午後2時に埼玉県総務部県政情報センターにおいて開示するとの決定をした(本件部分開示決定)。しかしながら,本件文書添付書類の寄附申込書に記載された情報については,個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものであり,本件条例10条1号に該当するという理由で不開示とした(甲4の2,4の3)。

その後,埼玉県知事は,平成16年9月7日付けで,原告に対し,本件文書を公開する日時を同月10日午後2時から同月16日午前11時に変更するとの通知をした(甲4の1)。

埼玉県知事は,平成16年9月16日,原告に対し,本件部分開示決定に基づき,埼玉県総務部県政情報センターにて,本件文書の部分開示をした。

その後,A及びBの両名は,平成16年9月16日付けで,埼玉県知事に対し,本件開示請求について,本件情報の開示を求めるという内容の同意書を提出した(甲1,6,弁論の全趣旨)。

(4)  異議申立て等

原告は,本件部分開示決定を不服として,平成16年11月1日,埼玉県知事に対し,異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした(甲7)。埼玉県知事は,本件異議申立てについて,同年12月2日付けで,埼玉県情報公開審査会に諮問し,同審査会は,平成18年3月30日,上記諮問に対して,本件部分開示決定のうち,本件情報を不開示とした部分は妥当であるとの答申をした(甲1)。

そこで,原告は,平成18年5月12日,本件訴えを提起した。

なお,その後,埼玉県情報公開審査会は,同年6月7日付けで,原告及び埼玉県知事に対し,誤記があったとの理由で答申書の訂正を通知し(甲8),埼玉県知事は,同月21日付けで,本件異議申立てを棄却した(甲9)。

(5)  本件条例

本件条例には,次のような定めがある。

第1条(目的) この条例は,県民の知る権利を保障するため公文書の開示に関し必要な事項を定める等情報公開を総合的に推進することにより,県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに,県民の県政参加を一層進め,もって地方自治の本旨に即した公正で透明な開かれた県政の推進に寄与することを目的とする。

第7条(公文書の開示を請求できるもの) 次の各号のいずれかに該当するものは,実施機関に対し,当該実施機関の保有する公文書の開示を請求することができる。

① 県内に住所を有する者

② 県内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体

③ 県内に所在する事務所又は事業所に勤務する者

④ 県内に所在する学校に在学する者

⑤ 前各号に掲げるもののほか,実施機関が保有している公文書の開示を必要とする相当の理由を有する個人及び法人その他の団体

第10条(公文書の開示義務) 実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該公文書を開示しなければならない。

① 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。

イ 法令若しくは他の条例により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報

ロ 人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報

ハ 当該個人が公務員等である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

② (以下略)

第11条(部分開示) 実施機関は,開示請求に係る公文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,当該公文書から不開示情報が記録されている部分を容易に,かつ,開示請求の趣旨が損なわれない程度に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分以外の部分を開示しなければならない。

2 開示請求に係る公文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を適用する。

第12条(公益上の理由による裁量的開示) 実施機関は,開示請求に係る公文書に不開示情報が記録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示請求者に対し,当該公文書を開示することができる。

3  争点

本件条例上,本件情報の開示が認められるか(本人の同意がある場合に,本人の個人識別情報の開示が認められるか)。

(原告の主張)

学校法人e学園に寄附をした個人2名(A及びB)は,埼玉県知事に対し,埼玉県の職員が示した甲6の様式を利用して,本件開示請求について,本件情報の開示を求めるという内容の同意書を提出した。

埼玉県職員の示した様式の上記同意書が提出され,個人の権利利益が損ねられることはないのであるから,埼玉県知事が,本件情報を開示しない理由はなく,本件部分開示決定のうち,本件情報を開示しないとした部分は違法である。

よって,埼玉県知事は,本件情報を開示すべきである。

(被告の主張)

本件条例第10条1号は,不開示情報として,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」と規定しているところ,本件文書添付書類の寄附申込書に記載されている寄附者氏名及びその寄附金額は,上記規定の個人識別情報に該当する。そして,実施機関は,個人識別情報に該当するかどうかの判断に当たって,本人を含む関係者からの請求であるかとか,本人の同意があるか等の特別の事情を考慮するものではない。

したがって,埼玉県知事が行った寄附者の氏名及びその寄附金額を開示しないとした本件部分開示決定には何らの瑕疵はなく,原告の請求には理由がない。

第3当裁判所の判断

1  原告が開示を求める情報は,本件文書添付書類の別紙3寄附申込書に記載されたとされるA及び村上の寄附金額(本件情報)であるところ,本件情報は,A及びBが寄附を行ったか,その金額がいくらであるかという個人の社会経済活動に関する情報であり,両名の氏名により,特定の個人であるA及びBを識別することができるものであるから,本件条例10条1号の「個人に関する情報」に当たる。そして,寄附者の氏名及びその寄附金額は,私立学校法等における登記事項に当たらないし,その他法令若しくは他の条例により又は慣行として,公にされ,又は公にすることが予定されている情報とも認められない。また,本件情報は,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められるものともいえないので,本件条例10条1号ただし書の除外事由のいずれにも該当しない。一方,本件情報について,公益上の理由による裁量的開示を認める事情も窺われない。

そうすると,本件情報を開示しないとした埼玉県知事の処分は,本件条例に従ったものであり,違法ではないというべきである。

2  原告は,上記両名については,埼玉県の職員の示した甲6の様式を使って,本件情報の開示を求めるという内容の同意書を提出しているのであるから,埼玉県知事は,本件情報を開示すべきである旨主張する。

しかしながら,本件条例の開示請求制度は,埼玉県内に住所を有するなど,埼玉県と本件条例7条1号ないし4号所定のつながりがあれば,誰にでも,理由を問わず,また,自己と関係のない第三者に関する情報が記載されたものであっても,公文書の開示を請求する権利を認める一方,個人識別情報であれば,本人から,自己に関する情報の開示請求があった場合(本人の同意がある場合を含む。)にも,除外事由が存在しない限り,本人であるという事情は考慮せずに,原則として開示しないという立場を取っているものと解される。これは,本件条例の主たる目的が,情報公開によって,県の諸活動の県民に対する説明義務を全うし,県民の県政参加を進め,公正で透明な開かれた県政の推進に寄与することにあることとも整合する。したがって,本件情報の開示について,埼玉県知事に対し,A及びBからの同意書が提出されたとしても,前記判断は左右されない(なお,埼玉県の職員が,原告に対し,甲6の同意書の様式を示したことを認めるに足りる証拠はない)。

3  ところで,埼玉県では,自己に関する情報については,埼玉県個人情報保護条例(平成16年条例第65号)が定められており,本件条例上,開示することができないとされた情報であっても,公文書に記録された自己に関する情報については,誰でも,実施機関に対し,埼玉県個人情報保護条例15条1項に基づいて,その開示を請求することができるとされている。したがって,本件情報について,原告は,埼玉県個人情報保護条例に基づいて,埼玉県知事に対し,A及びBをして開示請求をさせる機会があると認められるので,本件条例に基づく開示請求が認められないとしても格別不合理とはいえない。

4  結論

以上の次第であり,原告の請求は理由がないから棄却することととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 裁判官 櫻井進)

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