さいたま地方裁判所 平成18年(行ウ)20号 判決 2009年9月30日
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,株式会社A,B及びCそれぞれに対し,3000万円及びこれに対する平成17年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2 被告は,Dに対し,3000万円及びこれに対する平成17年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,E町に合併前のF村が,補助参加人株式会社A(参加人)に対し,3000万円の産業振興事業補助金(本件補助金)を交付したことについて,E町の住民である原告らが,同補助金の支出は公益性のない違法なものであり,これによりF村と合併後のE町は,上記同額の損害を被ったなどと主張して,当時の村長,助役及び収入役に本件補助金支出相当額の損害賠償請求ないし賠償命令をすること,ならびに参加人に本件補助金支出額相当額の不当利得返還請求をすることを,被告に対して求め,参加人が被告に補助参加した住民訴訟である。
2 争いのない事実等(証拠により容易に認定できる事実については,括弧内に証拠を示す。)
(1) 当事者等
ア 原告らは,埼玉県秩父郡E町の住民である。
イ 被告は,E町の町長である。
ウ 参加人は,F村議会議員らが発起人となって設立した株式会社である。
エ Bは,本件補助金交付当時,F村の村長の職にあった者である。
オ Cは,本件補助金交付当時,F村の助役の職にあった者である。
カ Dは,本件補助金交付当時,F村の収入役の職にあった者である。
キ G株式会社(G)は,平成5年10月1日,こんにゃく芋の仕入,加工及び販売等を目的として設立された会社であり,発行株式数260株のうち,200株をH農業協同組合(H農協)が有していた(甲4,9,10,丙15)。
(2) 参加人の設立等
平成17年9月12日,F村議会議員6名(I,J,K,L,M,N。以下「I議員ら6名」という。)を含む9名が発起人となって,参加人を設立した。
設立に際して発行された株式の総数200株のうち,155株は,I議員ら6名によって引き受けられた(甲7,8)。
設立時取締役には,7名の取締役が選任されたが,そのうち5名は発起人となっているI議員ら6名のうちの5名(I,J,L,M,N。以下「I議員ら5名」という。)であった。また,設立時監査役には,O及び上記議員であるK(K議員)の2名が就任した。(甲2,乙2)
(3) 補助金交付決議
平成17年9月13日及び同14日,F村議会が開催されて平成17年度F村一般会計補正予算の審議がなされ,参加人に対して3000万円の補助金を交付するための予算として,農業振興費にかかる補助金3000万円を計上した補正予算が議決された(本件予算決議,甲45)。
上記決議には,参加人の発起人であり,設立時取締役に就任したI議員ら5名が,決議に参加し,賛成票を投じた。
(4) 本件補助金の交付申請
同年9月16日,参加人は,B村長に対し,平成17年度産業振興事業補助金交付申請書を提出して,本件補助金の交付の申請を行った(甲13)。
(5) 本件補助金の交付
上記申請に対し,B村長は,平成17年9月21日,平成17年度産業振興事業補助金として,参加人に3000万円を交付することを決定し(甲15),同月27日,F村は,本件補助金を参加人に交付した。同補助金交付を執行したのは,C及びDであった。
(6) 市町村合併
平成17年10月1日,F村は,E町に合併された。
(7) 本件補助金の使用
平成18年1月31日,参加人は,Gの株式をH農協から買い受ける代金6466万2485円の一部として,本件補助金を全額使用した。
(8) 監査請求
原告らは,平成18年2月24日,本件補助金支出につき,E町監査委員に対し,監査請求を行った。同年4月24日,E町監査委員は,原告らに対し,原告らの上記監査請求を棄却する旨の通知を行った。
(9) 本件訴え提起
平成18年5月20日,原告らは,本件訴えを提起した。
3 争点
(1) 本件補助金支出の違法性
ア 地方自治法117条違反(争点(1))
イ F村産業振興事業補助金交付要綱違反(争点(2))
ウ 交付決定手続の瑕疵(争点(3))
エ 本件補助金交付の公益上の必要性(争点(4))
(2) 支出関与者の責任の有無
ア B村長の責任の有無(争点(5))
イ Cの責任の有無(争点(6))
ウ Dの責任の有無(争点(7))
(3) 参加人の責任の有無(争点(8))
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(地方自治法117条違反)について
(原告らの主張)
地方自治法117条は,普通地方公共団体の議会の議員は,自己の従事する業務に直接の利害関係のある事件については,その議事に参与できない旨定めている。
本件予算決議には,参加人の発起人であり,設立時取締役に就任したI議員ら5名が参与し,賛成票を投じているところ,I議員ら5名にとって,参加人に本件補助金を交付する件は,自己の従事する業務に直接利害関係のある事件に該当することは明らかであるから,本件予算決議は同法117条に反する違法な決議である。
したがって,違法な本件予算決議に基づいてなされた本件補助金の支出も,予算として適法に決議されないままになされた,違法な支出である。
被告は,本件予算決議は,他の予算案も含めた補正予算案全体に関する一括採決であり,部分的に関係議員を除斥することは事実上不可能であるから,同関係議員を除斥する必要はないと主張するが,予算案の一括採決という形式をとれば,どのような補助金交付も議決しうるとすると,本条の趣旨が没却されてしまう。予算案の一括採決という形式をとったとしても,本件のように,その予算案の中に,議員の従事する企業への補助金交付に関する議事が含まれる場合は,当該議員を除斥すべきであり,これをしないで行った決議は同法117条違反になると解すべきである。
(被告の主張)
予算は,一体として不可分のものであって,分割して議決されるものではなく,かつ議会の本来の権限であり,取扱い上も,部分的に関係議員を除斥して審議することは事実上不可能であるから,予算について除斥の問題はないものとされている。
したがって,本件予算決議は地方自治法117条に反することはなく,本件補助金の支出も違法とならない。
(2) 争点(2)(F村産業振興事業補助金交付要綱違反)について
(原告らの主張)
本件補助金は,F村産業振興事業補助金として交付されたものであるところ,その具体的な運用方法について規定したF村産業振興事業補助金交付要綱(本件要綱)は,補助対象事業及び産業団体の範囲を,同要綱別表に列挙された団体に限定している。そして,同別表には,私企業は補助金交付の対象として挙げられていない。これは,補助金の交付の対象を,公益上の必要性が認められる事業や団体に限定し,その対象から私企業などを排除する趣旨によるものである。
したがって,私企業である参加人に対してなされた本件補助金の交付は本件要綱に違反する違法なものである。
(被告の主張)
要綱は,自治体が行政の指針として制定する内部規則であって,それ自体法規としての性質を持つものではないから,本件要綱に違反していたとしても,これにより本件補助金の交付が違法になるわけではない。
なお,本件要綱の別表は,補助金対象団体を限定列挙したものではなく,産業振興という本件要綱の趣旨に合致する場合であれば,列挙されていない団体等への補助金交付も認める趣旨で,例示列挙したものである。
(3) 争点(3)(交付決定手続の瑕疵の有無)について
(原告らの主張)
本件要綱4条は,補助金の申請者は,申請書を提出する際に,事業計画書,収支予算書,各産業団体等の定款,規約,会則等及び構成員名簿,並びに各産業団体等で設立後,総会等を開催しているものにあっては,前事業年度における事業報告書及び決算書を添付することと定めている。
しかし,本件補助金交付申請において添付された資料は,参加人の定款のみであり,この点にも本件要綱に反する違法がある。
その上,申請書に記載すべき事業の目的や内容については,「別紙定款のとおり」と記載されただけで,全く具体性のないものであった。
このような申請書により本件補助金交付が決定されていることからすると,B村長が,本件補助金の交付申請の適否に関し,補助事業の内容を実質的に審査,調査することなくその交付を決定したことは明らかである。
したがって,本件補助金交付は,その手続に瑕疵があり,違法である。
(被告の主張)
本件補助金交付申請において,本件要綱に規定されている事業計画書や収支予算書の添付はなかったが,上記のとおり,そもそも,要綱は内部規則であるから,本件要綱に違反していたとしても,本件補助金交付が違法になるわけではない。
(4) 争点(4)(本件補助金交付に公益上の必要性があったか)について
(原告らの主張)
補助金の交付は,地方自治法232条の2により公益上の必要がある場合に限ってなしうるものである。この公益上の必要性に関する判断については,地方公共団体の長に一定の裁量権があるが,その裁量権の範囲には限界があり,公益上の必要性の判断に裁量の逸脱又は濫用があったと認められる場合には,補助金の交付は違法となる。
また,本件で補助金の交付先となった参加人は株式会社であるところ,営利企業に対する補助金交付は,特別の理由がない限り認められないと解すべきである。なぜなら,株式会社は株主のために営利活動をする法人であって,公益活動をするには限界があり,また,株式会社への補助金は,会社の資産を高めることにより,株主の資産価値を増加させ,株主に利益を取得させることになるからである。
そこで,本件の場合には,上記のとおり,原則として公益性を認め得ないことを踏まえて,本件補助金交付の公益上の必要性に関する判断に,裁量の逸脱又は濫用があったか否かをみると,本件補助金の交付についてのB村長の判断には,以下の事情から明らかなように,裁量を逸脱又は濫用した違法がある。
ア 本件補助金交付の目的
以下の事情によれば,本件補助金の支出は,一部のF村議会議員が,その私益を図るために行ったものといわざるを得ない。
(ア) F村議会議員らによって設立された参加人に,同議員らの決議によって本件補助金の交付がなされたこと
参加人は,その発起人9名のうち6名がF村議会議員であり,設立に際して発行された株式の総数200株のうち155株は,上記議員らによって引き受けられた。また,設立時取締役に選任された7名のうち5名が上記議員であった。しかも,その5名は,F村議会の議長や副議長経験者であった。これらの事情からすると,参加人は,一部の有力議員らにより実質的に支配されており,またその利益が,株主である同議員らに配当されることになる営利法人であったということになる。
そして,その参加人に対する3000万円の本件予算決議には,I議員ら5名も参加し,賛成票を投じたが,このとき同議員らは,本件補助金交付により,参加人の資産が増加することで,その所有株式の価値の増大という利益を得られる地位にあり,さらに,参加人から役員報酬を得られる地位にあった。
このように,議員らが,自ら設立し,株主及び取締役になっている会社に,自ら,自己に利益をもたらす補助金交付を決議したことからすると,同議員らが,自己の利益を図ることを目的として,本件予算決議をしたものとみざるを得ない。
この点,I議員ら5名のうち,非常勤の役員に就任した者は,役員報酬を結果的には受け取っていないが,これは,F村議会で報酬の点について問題として指摘されたことを受けて,報酬をもらわない旨の決議をしたことによるものであって,本件予算決議時に,同議員らが報酬を受け得る状況にあり,本件補助金交付の公益性に疑義のある事情が存在したことに変わりはない。
また,被告及び参加人は,I(I議員),J(J議員),L(L議員),N(N議員)は,平成18年3月8日までに株式を取得時と同価格で手放したと主張するが,そもそも,上記議員らがその所有する株式を売却したことの裏付けとして参加人が提出した株主名簿には,客観的事実に照らして明らかに不合理な記載が多く,信用できない。さらに,上記株主名簿からも分かるとおり,参加人において,その出資の管理は極めてずさんであったから,上記議員らの出資の存在自体も疑わしい。仮に,上記議員らが,問題があるとの指摘を受けて後に株式を手放したとしても,本件予算決議時に,議員らが株主としての利益を受け得る状況にあり,本件補助金交付の公益性に疑義のある事情が存在したことに変わりはない。
さらに,上記議員らの株式は,参加人が買い取っており,これは自己株式の取得に該当するところ,参加人において,自己株式の取得に際して必要とされる会社法上の手続を踏んでいないから,違法な自己株式の取得となる。上記議員らが,このような違法な方法をとってまで,株式を手放そうとしたところに,上記議員らの後ろめたさが表れている。
(イ) 参加人の設立,Gの買収等は,一部の議員のみにより,村民に公表されることなく進められたこと
参加人の設立は,一部の議員によって発起設立の方法で秘密裏に行われた。また,Gの買収についても,一部の議員のみにより,Gの株主であったH農協に対する株式譲渡の申し入れがなされていた。
これらの事項については,本件予算決議がなされた平成17年9月13日及び翌14日の定例会において,初めてF村議会で議論がなされ,上記事項を進めていた議員らの賛成により,議論の余地なく議決されたのである。
このように,上記事項が,村議会で事前に議論されることなく,一部の議員のみにより進められていたことは,当該議員らが私利を図るために,参加人の設立及びGの買収等を進めていたことの表れである。
なお,上記議員らは,H農協に対して株式譲渡を申し入れる際に提出した申入書に,その作成名義人としてF村議会と記載している。同申入れ時点では,F村議会でいまだ同申入れについて議論がなされていなかったのは前述のとおりであるところ,上記議員らが真実に反する記載をしたことも,上記議員らの私利を図る目的の表れであるといえる。
(ウ) 本件補助金交付は,E町との合併直前の時期に拙速に進められたこと
F村とE町は,平成17年2月2日に,合併協定に調印し,同年2月16日,F村議会とE町議会で承認され,合併は同年10月1日と定められた。そして,その合併日に存在するF村の会計は,すべてE町に引き継がれることになっていた。つまり,F村として補助金支出の裁量があるのは,平成17年9月30日までという状況にあったのである。
このような状況下で,同年4月6日に,議員らからH農協へ,Gの譲渡申し入れがなされ,同年9月12日に参加人が設立され,翌13日及び14日にはF村議会において,本件補助金交付について審議,決議がなされ,同月16日に参加人からF村へ補助金交付申請がなされ,同月21日に本件補助金の交付決定があり,同月27日に本件補助金が交付された。
本件予算決議がなされたのは,上記のとおり,参加人の設立の翌々日であり,決議時点で,参加人には何らの具体的な事業実態がなく,従業員などの会社組織も存在せず,不動産や営業などの有形,無形の会社財産もなかった。そして,本件補助金交付申請において,参加人は,本件要綱において要求されている事業計画書等を添付することなく申請したが,当時のB村長は,同申請の適否について,実質的な審査及び調査をすることなく,交付決定をした。なお,本件予算決議がなされた同年9月14日の時点で,H農協では,株式譲渡について具体的な認識を有していなかった。
これらの事実経緯からすると,一部の議員が,合併を見越して,F村の資産を自ら設立した株式会社に移すため,H農協からGの株式の譲渡を受ける話を一方的に進めたうえ,慌てて合併前にAを設立し,その直後に,いまだ実態のない参加人への補助金交付の議決をし,さらに,B村長が,交付申請に対して実質的な審査をしないまま,無批判に補助金を交付したということが明らかである。
公益にかなう補助金支出であるのであれば,合併前に焦って実行する必要はないのであり,上記のように焦って実行した事実は,本件補助金の交付が,E町議会では議決され得ない公益性のないものであったことを自認するものである。
さらに,上記経緯をみると,参加人から補助金交付の申請がなされるより前に,村議会で本件予算決議がなされている。
(エ) 私企業がGの株式を取得する方法を選択したこと
本件補助金の支出は,参加人という私企業に対してなされているが,真に公益を図るのであれば,F村あるいはF村が出資する第三セクターにGを買収させる方法によるべきであった。そうすれば,会社の支配も利益もF村に帰属することになるのである。
しかしながら,上記の方法によっては,議員らの利益にならないことから,議員らは,参加人を設立し,同社がGの株式を取得するという方法を選択したのである。
仮に,上記方法によるとしても,参加人の設立を募集設立として,広く住民から株主を募る方法によるべきであったが,先述のとおり,参加人の設立は,発起設立の方法により,住民に公表されないままに行われた。
ここにも,本件補助金の交付が,議員らの私益を図る目的で行われたことが表れている。
なお,被告は,参加人は農業法人であり,一般の株式会社とは異なると主張するが,設立目的や利益の分配に関して一般の株式会社と異なる法律上の規制等があるわけではないのであるから,この主張には意味がない。
イ 本件補助金交付の効果等
被告は,本件補助金の交付は,農業振興目的で行われたものであると主張するが,アに記載した事情のほか,以下の事情によれば,本件補助金の交付は農業振興目的で行われたとはいえず,またこれにより農業振興の効果も生じない。
(ア) 補助金交付の直接の目的は,企業買収であること
本件補助金交付の対象となった事業は,企業買収事業である。したがって,企業買収をすること自体に公益性があるかを検討しなければならない。参加人の事業目的や,Gの事業目的における公益性の有無は別問題である。
しかるところ,Gは,F村地域のこんにゃく産業振興のために設立された,H農協の子会社であり,H農協自体が,その運営目的に農業振興策を包含しているのであるから,Gの親会社を,参加人に変更する必要性はなかった。また,その事業は毎年の経常利益が1000万円台の黒字経営であったのであって,経営支援が必要な状態ではなかった。
とすれば,本件で,参加人が,Gを買収すること自体に公益上の必要性があるとはいえない。
(イ) Gを買収してもF村の農業を振興する効果はないこと Gは,こんにゃく製造業者であるから,これを買収しても,直接F村のこんにゃく玉の生産を支援することにはならない。
被告や参加人は,地域の農産物としてのこんにゃく玉を,高い価格で買い上げることで,農業としてのこんにゃく玉生産を維持することになるから公益性があるという趣旨の主張をする。しかしそれは,こんにゃく製造業に必要な原材料としてこんにゃく玉を購入することから生じる間接的な効果にすぎず,さらに,GはH農協からこんにゃく玉を購入していたのであり,H農協から高い価格で買い上げてもその代金は直接生産者の手に渡らない。農業としてのこんにゃく玉生産を維持増進させるのであれば,生産者に直接補助を出せばよいのである。
また,F村でのこんにゃく芋の栽培面積は減少の一途をたどっており,F村でのこんにゃく玉の生産量や栽培面積が減少することは,押しとどめようのない傾向であった。
さらに,F村での農業産出額の上位3品目は,平成16年度生産農業所得統計によれば,キュウリ,生乳,切り枝であり,こんにゃく玉ではないのであるから,こんにゃく玉を奨励するより,これら産出額の高い品目を奨励の対象とすべきであった。
加えて,Gは,多くのこんにゃく玉をF村以外から買い付けていたのであるから,Gを存続させたとしても,F村内のこんにゃく玉生産の振興にはならない。
このように,G買収の理由は,農業振興では説明がつかないのであり,議員らが,参加人を設立して,Gを買収したのは,農業振興を補助金交付の大義名分として,自ら設立した受け皿会社に買収資金として補助金を取得することをもくろんだものと考えざるを得ないのである。
(ウ) 本件予算決議当時,参加人には何ら事業実態がなかったこと
前述のとおり,本件予算決議がなされたのは,参加人の設立の翌々日であり,同決議時点で,参加人には何らの具体的な事業実態がなく,従業員などの会社組織も存在せず,不動産や営業などの有形,無形の会社財産もなかった。
このような会社に対する補助金の支出が農業振興の効果を持つことはない。
ウ 営利企業への補助
参加人は,本件要綱の別表に限定列挙されている補助金交付対象団体に該当せず,また,営利法人たる参加人への補助金交付は,公益の必要性が認められる団体等に対してのみ補助金を交付することとしている本件要綱の趣旨にも合致しない。
したがって,そもそも,本件要綱により参加人への補助金交付は認められておらず,この点からも,本件補助金の交付は公益の必要性を欠いているといえる。
エ 本件補助金の額等
F村の一般会計予算歳入額を見ると,平成13年度から減り続けており,平成17年度は,前年度より7700万円減額した,19億8000万円となっている。そのうち,自主財源(村税,繰入金,施設使用料及び手数料,その他)の金額は,6億0524万6000円にすぎない。
このように,F村の財政は逼迫しており,3000万円もの補助金を支出する余裕はなかったといえる。
また,平成17年度一般会計予算における,農業振興のための補助金のうち,こんにゃく生産についてのものは,こんにゃく生産組合に32万円,こんにゃく生産安定化対策事業に5万円の37万円のみであり,農業振興費中の補助金を全て合わせても,161万6000円にしかならない。さらに,商工振興費の補助金を見ると,こんにゃく事業に関するものはなく,他の商工振興費補助金は,F村振興公社に36万円,F観光協会に93万6000円,ふるさとまつりに200万円となっている。
そうすると,本件補助金の3000万円という額が,いかに多額であったかが分かる。
なお,本件の産業振興事業補助金については従来予算化されておらず,私企業に対する補助金の実績もなかった。そして,本件補助金は,平成17年度予算では予定されておらず,予算編成後に急遽支出が認められたものであった。
さらに,本件補助金を補正予算案に計上するにあたり,本件補助金の額が多額であることが目立たないように操作がなされている。
すなわち,平成17年9月13日にB村長が提出した平成17年度F村一般会計補正予算案によると,「財政調整基金繰入金」として8510万1000円,「前年度繰越金」として7836万6000円の歳入増があったので,「財政調整基金積立金」に1億0146万7000円,「国民宿舎事業特別会計繰出金」に2000万円,「老人保健特別会計繰出金」に1200万円,「農業振興費 その他補助金」に3000万円を加えた歳出とするというものであった。しかし,財政調整基金は,いわば内部的な預金であるところ,上記のように,繰入金としていったん計上したうえで改めて積立金として計上することには意味がなく,前年度繰越金から,追加積立分をそのまま積立金として計上すれば足りるものであった。
F村議会議員らは,合併を前に引き継ぐべき金額を精査中に,当初予算では予定されていなかった7836万円余りの繰越金が発見されたことから,これをE町に引き継がず,本件補助金として使用することを思いつき,他の歳出項目とともに補正予算案に計上しようとしたが,本件補助金の額が3000万円と一番多額になり,目立ってしまうので,財政調整基金からいったん8510万1000円を繰り入れたうえで,すぐに同基金に戻すという操作を行い,「財政調整基金積立金」に1億0146万7000円を計上することで本件補助金の額が目立たないようにしたものと考えられる。
このように,3000万円という補助金の額が,当時のF村の財政状況から見ても,従前の補助金の額から見ても,高額なものであり,さらに,補正予算案において,本件補助金の額が高額であることが目立たないように操作が行われていたという事情からも,本件補助金の支出が,議員らの私益を図るために行われたもので,公益性がないことが明らかである。
オ 本件補助金の使途等
(ア) 本件補助金の使途が不合理であること
参加人は,Gの株式を取得後,同日に同社を解散させている。
会社を解散させると,包括的に権利義務が移転することなく,清算手続の中で一切の権利義務関係を処理し,残余財産を株主に分配することになる。そこでは,会社が解散する以上,解散会社の営業の価値は評価され得ない。また,債権債務関係を処理して,差し引きでプラス分として残った資産のみが解散会社の価値となり,一般にはその会社の価値は格段に下がることになる。そのため,解散させる株式会社の株式を取得することは無意味であり,仮に買収対象会社の具体的資産を取得したいのであれば,具体的資産の売買契約を締結すれば足りるものである。
したがって,参加人の株式買収の方法は著しく合理性を欠くものであるといえ,このような不合理な企業買収のために支出された補助金は,不当な公金支出であるというべきである。
(イ) G株式の取得価格が不適正であること
参加人は,Gの全株式の価格を6466万2485円と評価し,その支払の際に対価の一部として本件補助金を使用している。
ここで,会社の価値を算出するとき,将来の利益見込みも含めた営業の価値や不動産,構築物,装置類などの有形資産を含めて算出するのが当然であるところ,参加人がGの株式を買収するに当たって,その価格を6466万2485円と算定する際にも上記営業の価値や有形資産を考慮しているものといえる。
しかしながら,参加人は,上記のとおり,Gの全株式を取得後,同社を解散させており,同社の暖簾や営業的信用を含めた営業を承継していない。また,Gの不動産,構築物,装置類などの有形資産は,Gの株式売買契約とは別の土地建物等売買契約により取得されている。
そうであれば,H農協からGの全株式を取得したことで,参加人が得たものは,商品,原材料,現金及び売掛債権等の債権から,買掛債務や借入等の諸債務を差し引いた残余資産にすぎず,この価格は,6466万2485円に遠く及ばないものということになる。
さらに,F村では,G株式の取得に当たり,同社の企業診断はおこなっているものの,過大な棚卸資産の内容についての検討等,H農協が提示したGの会社価値の相当性の検討は何ら行っていない。
以上より,Gの全株式取得価格6466万2485円は不適正であり,全株式をより安く取得できたのであるから,本件補助金の支出は必要なかったといえる。
(ウ) H農協に対する二重払いがあったこと
被告及び参加人は,Gの全資産を取得するために,全株式を6466万2485円で取得したとする。
しかし,土地建物等売買契約書(丙1)を精査すると,売買対象資産の中にG所有資産(2209万5154円分)が含まれており,その分も含めた代金を参加人はH農協に支払ったことになる。
すなわち,G所有資産について,参加人は,H農協に対して二重に支払をしたのである。
そうすると,参加人は,不適正に高い売買代金を支払ったことになるから,この企業買収について補助金の支出は必要なく,本件補助金の支出は不当な公金支出となる。
(被告及び補助参加人の主張)
本件補助金交付は,以下に述べるとおり,公益上の必要性に欠けるものではない。
ア 本件補助金交付に至る経緯は以下のようなものであった。
すなわち,F村では,平成3年頃から,H農協の子会社であるGに対して建物や機械設備などを貸与してきたが,同村のこんにゃく生産者は減少し,H農協も経営合理化のためにF村から撤退するおそれがあるとの不安のなかで,農業の衰退と地域の過疎化の進行に対する危機感を抱き,Gを,何らかの形で施設ごと残し,E町との合併後もこれを拠点として農業の振興を図り,地域の活性化を図ることが公益上必要と考えられていた。
F村議会においても,農業の衰退と過疎化に歯止めをかけるために協議がなされ,先進の町村の視察も検討されていたところであった。
そこで,F村議会のI議員(当時の議長),M議員(当時の副議長),L議員(当時の土木産業常任委員長)は,平成17年3月31日,H農協の地元の理事宅を訪問し,GのF村への譲渡について,H農協で協議してほしい旨要請し,その後の同年4月6日には書面で譲渡の要請をした。これに対して,H農協では,同月20日,理事会を開催し,Gの譲渡の具体的方法などについて協議が行われた。そして,同年6月16日,H農協は総代会でGの株式譲渡を決定した。同月23日には,F村とH農協は,Gの工場の譲渡などについても話し合いを行った。
また,H農協では,埼玉県農業協同組合中央会に対し,Gの財務調査を依頼し,Gの1株あたりの公正な譲渡価格を算出させた。さらに,B村長は,税理士事務所に対して,Gの経営状況を調査するべく,同社の企業診断を依頼した。
同年7月8日には,F村議会の土木産業常任委員会は,Gの代表取締役から経営状況などについて説明を受け,Sセンターから2名を招いて勉強会を開催し,パンフレットなどにより農業法人などについての説明を受けた。
その後,F村と,H農協は,平成17年7月上旬から下旬にかけて,Gの譲渡先をF村にするか,第三セクターにするか,農業法人にするかなどについて,協議を重ねた。その結果,F村は,同年8月9日,地域の農業生産団体が中心となって農業法人を設立し,F村はこれを支援するという方法が,農業振興のために最善と判断し,その方向でGの譲渡の準備をすることとした。そして,F村は,同月11日,農業法人を設立し,これを拠点として農業の振興を図り,地域の活性化を図ることが公益上必要と考え,補助金を交付する方針を打ち出した。
これを受けて,地域の農業生産団体の代表者らが中心となり,発起人となって,同月17日から,農業法人を設立するための準備を開始し,同月21日には,発起人会を開催して定款の内容などを検討し,社名を決定し,同月29日には,株主の募集を開始し,同年9月4日には株式の申し込みや払い込みを開始するなど,設立手続を進めた。
その結果,発起人は,平成17年9月7日,それまでに払い込みのあった460万円を資本金としてAを設立しようとしたが,当時既に商法が改正されて株式会社は資本金が1円でも設立できるようになったと誤解していたことが判明したため,急遽,発起人の内,I議員が300万円,N議員が240万円を借金をして工面した。
そして,同年9月13日,14日にF村議会で本件補助金3000万円を含む補正予算案が可決され,これを受けた参加人からの本件補助金交付申請に対し,B村長が補助金交付の決定をし,本件補助金が交付された。
上記経緯を見れば明らかなとおり,本件補助金は,農業振興及び地域の活性化を目的として,参加人に交付されたものである。
イ 原告らは,本件補助金交付が,一部の議員がその私利を図るためになされたものであると主張するが,誤りである。
(ア) 参加人の設立経緯,その株式のほとんどを議員らが取得することになった経緯は,上記に記載したとおりであって,議員らが,参加人を支配したり,利益配当を受けようとしたことによるのではない。
また,本件では,地域の農業生産団体が中心となって,F村がこれを支援するという形で設立手続が進められたという経緯があったため,地域の農業生産団体の代表者的地位にある議員ら(取締役のJ議員はFたらの芽研究会会長,L議員はF梨りんご組合会長,N議員はE園芸部会F支部支部長,監査役のK議員はF村直売所組合組合長)が,発起人となり,また取締役への就任を承認したのであって,参加人を支配する意図などはなかった。
現に,参加人は,平成17年9月26日の役員会で,I議員ら5名を含む非常勤役員は報酬を受け取らない旨の決定をしているし,M議員を除いて,いずれも取締役を辞任している(I議員は平成17年11月7日,J議員,L議員,N議員は平成18年3月7日)。M議員が辞任していないのは,辞任してしまうと旧商法及び会社法が規定する取締役の員数に不足が生じてしまうため,取締役間の話し合いにより留任したものである。なお,議員らが参加人の取締役を辞任したのは,議員活動に専念したり,身の潔白をはらすためであって,取締役の就任に問題があったためではない。
また,株式についても,I議員,J議員,L議員,N議員は平成18年3月8日までにいずれも引受価額と同じ1株5万円で株式を全て譲渡しており,全く利益を得ていない。
この点,原告らは,株主名簿による株式取得の時期が平成18年6月30日となっている者があり,この株式取得の時期と出資金支払いの時期がずれていることから,株主名簿が不正確であるなど主張するが,これは,新株を発行し,その新株を引き受けた者についての株式名簿への記載が,出資金支払日より後の,新株発行日になったことによるものにすぎない。また,議員らの株式を第三者に譲渡するに当たり,参加人がいったん買い取るなど,法的な手続に問題がなかったとはいえないが,これをもって,譲渡を仮装したなどということにはならない。
上記議員らは,参加人設立準備の段階で,出資金が1000万円必要だと判明した際,その不足分として,Iが300万円,Nが240万円をそれぞれ借金までして工面しているのであって,むしろ地域のために無償で奉仕したといえる。
(イ) 原告らは,参加人の設立やG株式の取得が一部議員のみにより秘密裏に進められたと主張する。
しかし,参加人が発起設立により設立され,事前に公表されなかったとの主張については,参加人の設立方法は,募集設立によるものであったのであるから,誤っている。また,村議会で議論が事前になされていないとの原告らの主張については,定例会より前に,本件の窓口となっていた土木産業常任委員会が,合併に関する全員協議会の場を借りて,他の議員に報告し説明していたのであって,その際に議論はなされているのであるから,原告らの主張は事実を誤認している。
申入書について,H農協にG買収の申し入れを村議会名義でしたのは,村あるいは村長名義で申し入れた場合の合併への影響を懸念したことによるものである。
(ウ) また,原告らは,参加人の設立及び本件補助金交付等が,合併直前の近接した時期になされ,H農協からの株式買収も一方的に進められたと主張する。
しかし,上記事実経緯にあるとおり,Gの株式譲渡について,H農協の側でも具体的に検討が重ねられているのであって,一方的に株式買収の話を進めてはいない。
また,原告らは,本件補助金の支出に公益性があれば,E町でも補助金交付決議がなされるから,合併前に急いで交付決議をする必要はない旨主張するが,補助金の交付決議がなされるかどうかは,政策判断の問題であるから,公益性があれば交付されるという簡単な問題ではない。
補助金交付申請書がF村議会で決議された後に提出されたとの指摘については,そもそも補助金が予算として決議されて初めて補助金の交付申請が可能となるものであるから,かかる指摘自体,原告らの誤解に基づくものである。
(エ) 原告らは,参加人という私企業がGの株式を取得するという方法を選択したことも,議員らが私利を図る目的でしたことの根拠である旨主張する。
しかし,当初から株式会社の設立が企図されておらず,最善の方法を模索した結果として,最終的に株式会社を設立することになったという上記経緯からすれば,議員らが私利を図る意図で株式会社を設立したものではないことが明らかである。
また,参加人に補助金が交付されても,同補助金はGの買収のために使用されてしまうのであるから,議員らが個人的な利益を取得することはない。
ウ 原告らは,本件補助金支出に農業振興等の効果はないと主張するが,誤りである。
(ア) 原告らは,本件補助金交付は企業買収事業に対してなされたものであり,買収自体に農業振興の効果がないと主張するが,参加人によるGの買収は,農業振興と地域の活性化を図る手段にすぎないのであるから,買収自体に公益性があるかどうかを検討する必要はない。
(イ) 原告らは,参加人がこんにゃく製造業者にすぎないと主張するが,参加人は,こんにゃく関連商品の加工製造にとどまらず,幅広い事業を行っており,様々な農産物の生産も行っている。
また,原告らは,こんにゃくの生産量が減少していることなどから,Gの買収が,農業振興と因果関係を持たないと指摘するが,こんにゃくの生産量が減少しているからこそ,Gを拠点として,農業の振興と地域の活性化を図ろうとしたのであり,原告らの主張には理由がない。実際に,参加人は着実に業績を伸ばし,農業の振興と地域の活性化に大いに貢献している。
さらに,Gが主としてF村以外からこんにゃく玉を買い付けていたとの原告らの主張は,原告らが,原材料費の全てをこんにゃく玉の購入代金であると誤解したことによるものである。
なお,原告らはこんにゃくのみを捉えて主張を展開しているが,F村は,参加人を拠点とし,遊休農地を利用してこんにゃく以外にも様々な特産品を栽培したり,工場を利用して農産物の付加価値を高めた様々な加工品を開発したりし,これら商品の販路を拡大することによって農業経営者を支援し,高齢者の雇用を拡大することを考えていたのであるから,この点でも,原告らの主張は誤っている。
(ウ) 原告らは,本件補助金交付が営利企業に対するものであることを,公益性を欠く根拠として指摘するが,参加人は,農業振興と地域の活性化という公益のために設立され,事業活動を行っているものであるから,一般の株式会社と同一に論ずるのは妥当でない。
(エ) 原告らは,3000万円の補助金額が多額であると主張するが,なぜ原告らのいうようにF村の財政が逼迫しているとか,3000万円の補助金を支出する余裕がなかったといえるのか,不明である。
さらに,原告らは,本件補助金が捻出された経緯が不自然であると主張するが,財政調整基金の積立額については,F村の条例に規定があり,本件では同規定に基づく処理をしたものであって,原告らの主張は理由がない。
(オ) 原告らは補助金の使途が不合理であると主張するが,Gの株式を取得して,Gを解散させるという方法は,何ら不合理ではない。
また,原告らは,Gの株式取得価格が不適正であると主張するが,株式の譲渡とは別に,Gの不動産・構築物,装置類などの有形資産が土地建物売買契約により取得されているとの指摘については,同契約は平成18年1月31日に締結されており,F村は本件補助金を交付した平成17年9月27日当時,H農協と参加人との間でこのような売買契約が締結されることを全く知らなかった。
さらに,原告らが二重払いだと指摘する点については原告らの誤認に基づく主張である。すなわち,原告らが,Gの所有資産であると主張する土地建物等は,GがH農協から貸与を受けて使用している資産であり,H農協の所有資産である。
(5) 争点(5)(B村長の責任の有無)について
(原告らの主張)
B村長は,本件補助金交付決定当時,予算執行の権限を有するF村の村長として,上記のとおり違法な公金支出を決定したのであるから,これによりF村,これを承継したE町に与えた損害を賠償する責任を負う。
(被告の主張)
争う。
(6) 争点(6)(Cの責任の有無)について
(原告らの主張)
Cは,本件補助金交付当時,F村の助役として,上記のとおり違法な本件補助金交付を執行し,この点につき過失ないし重過失があると認められるから,これによりF村,これを承継したE町に与えた損害を賠償する責任を負う。
(被告の主張)
争う。
(7) 争点(7)(Dの責任の有無)について
(原告らの主張)
Dは,本件補助金交付当時,F村の収入役として,上記のとおり違法な本件補助金交付の支出命令を行い,この点につき過失ないし重過失があると認められるから,これによりF村,これを承継したE町に与えた損害を賠償する責任を負う。
(被告の主張)
争う。
(8) 争点(8)(参加人の責任の有無)について
(原告らの主張)
参加人は,上記のとおり違法な公金支出にかかる本件補助金を受領したのであるから,E町に対し,その不当利得を返還する責任がある。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(地方自治法117条違反)について
地方自治法117条は,普通地方公共団体の議会の議長及び議員が,その従事する業務に直接の利害関係のある事件について,その議事に参与することができない旨を定めている。
ところで,予算にかかる議事については,項目ごとに分割して議決されるものではなく,不可分一体のものとして全体について議決されるものであるから,予算の審議において,その一部に利害関係のある議員がいる場合であっても,当該部分について当該議員を除斥することは予算審議の性質上できない。他方で,予算の一部に利害関係を有する議員は予算全体につき議決権を失うとするのも相当でない。そうすると予算審議においては,予算にかかる議事の一部について利害関係のある議員であっても除斥されないと解すべきである。
したがって,I議員ら5名が本件予算決議に参加していたとしても,この決議が地方自治法117条に違反するとはいえず,この点に関する原告らの主張には理由がない。
2 争点(2)(F村産業振興事業補助金交付要綱違反)について
本件要綱は,補助金の交付に関して,内部的な基準となるべき具体的運用指針を定めたものに過ぎず,仮に,これに反して補助金を交付したとしても,直ちにその補助金交付が違法なものとなるわけではない。
したがって,この点についての原告らの主張には理由がない。
3 争点(3)(交付決定手続の瑕疵)について
(1) 原告らは,本件補助金の交付申請に際して,参加人が本件要綱に規定されている添付資料を提出していなかったことから,本件補助金の支出が本件要綱に反する違法なものであると主張するが,本件要綱に沿わない手続をとったことをもって,直ちに本件補助金の支出が違法であるとはいえないことは前述のとおりである。
(2) また,原告らは,本件補助金は,補助金交付の適否について何ら実質的に審査されることなく支出されており,同交付手続には瑕疵があると主張する。
ア そこで,この点につき検討するに,証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 補助金が交付されるまでの手続は,通常,以下のとおりである。
まず,産業観光課の職員が補助金交付を希望する団体から意見聴取等を行い,要望書や事業計画書等の書類の提出を受けたうえ,それらを精査し,交付が適当と判断した場合には,文書で村長の決裁を受ける。
村長は,同補助金支出について予算に反映させ,同予算について,議会で承認を受ける。
その後,補助金交付を受けようとする団体は,産業観光課に対して,補助金交付申請書を添付書類とともに提出し,これを受けた同課の担当者及び課長が,同申請内容について,主に予算編成前の審査時の状況から変更がないかを審査し,村長の決裁を受ける。この申請に対する審査において,書類に不備があった場合には,当該団体に書類の提出を請求する。
(証人T)
(イ) 本件要綱4条には,補助金交付申請の際に提出すべき添付書類として,次のように定められている。
「第4条 申請書の添付書類は,次のとおりとする。
1 事業計画書,収支予算書
2 各産業団体等の定款・規約・会則等及び構成員名簿
3 各産業団体等で設立後,総会等を開催しているものにあっては,前事業年度における事業報告書,決算書」
(甲39)
(ウ) 本件補助金交付申請において申請書に添付されたのは,参加人の定款のみであり,申請書には,補助金の交付を受ける事業の目的及び事業の内容として「別紙定款の通り」と記載されただけで,事業の完了予定年月日についても,「別紙定款の通り(第28条)」と記載されただけであった(甲13,証人T)。
(エ) 参加人の定款では次のように規定されている。
「(目的)
第2条 当会社は,次の事業を営むことを目的とする。
1 農産物の加工並びに販売。
2 草木類,観賞用植物の販売。
3 きのこ類の加工並びに販売。
4 農業。
5 こんにゃく芋の仕入,製造,加工及び販売。
6 農産物,畜産物等の食品の輸入,加工及び販売。
7 清涼飲料水の製造及び販売。
8 食品のカタログによる通信販売。
9 米,麦を原料とする食品の加工,製造及び販売。
10 キトサンコーラルカルシウムの製造及び販売。
11 豆腐こんにゃくの製造及び販売。
12 その他上記各号に付帯関連する一切の業務。
(最初の営業年度)
第28条 当会社の第1期の営業年度は,当会社設立の日から平成18年3月31日までとする。」
(甲8)
イ 以上によると,参加人が提出した申請書のみでは,補助金交付の適否を判断するには資料が不足していたといわざるを得ない。しかし,本件においては,後記認定のとおり,参加人はGの株式を取得するために設立された会社であり,本件補助金は,参加人がGの株式取得の資金に充当するために交付されたものであって,このGの株式取得の目的,必要性等の事情についてはB村長は充分承知していたのであるから,本件補助金が補助金交付の適否について何ら実質的に審査されることなく支出されたものとはいえない。
(3) 以上より,この点についての原告らの主張にも理由がない。
4 争点(4)(本件補助金交付の公益上の必要性)について
(1) 地方自治法232条の2は,普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができると規定している。地方公共団体の長は,上記公益上の必要性を判断するにあたり,当該地方公共団体の多様な行政目的を考慮した上で,政策的な判断を行う必要があることから,その判断については,一定の裁量が認められる。しかし,補助金交付の適正の観点から,上記裁量の範囲には限界があり,当該補助金交付の目的,効果,当該地方公共団体の財政に与えた影響及び当該補助金交付の経緯等,諸般の事情を考慮して,当該補助金交付に公益上の必要があるとの長の判断が社会通念上著しく妥当性を欠くものといえる場合には,その判断には裁量権の逸脱,濫用の違法があるというべきである。そこで,本件補助金の交付に公益上の必要があるとのB村長の判断が,裁量権を逸脱,濫用したものであるといえるかにつき検討する。
(2) 前記争いのない事実等及び証拠を総合すると,次の事実が認められる。
ア Gの株式を取得することになるまでの経緯
(ア) Gは,本店所在地をF村内とする,こんにゃく芋の仕入れ,加工及び販売等を目的として平成5年10月1日に設立された会社である。
Gの資本金1300万円(260株)のうち1000万円(200株)はH農協が出資しており,H農協の子会社であった。
(甲4,9,10,丙15)
(イ) F村では,Gに対し,F村内の工場の建物や機械設備などを無償で貸与したり,売店を作るのに多額の補助金を出すなど,その運営に協力していた。こうしたことから,GはF地域に密着した存在となっていた。
(乙9,55,証人B,証人I)
(ウ) F村では,平成17年2月,平成17年10月1日付けでE町と合併することが決定されていた(甲43)。
(エ) 平成17年当時,F村議会では,農業の衰退や地域の過疎化に対する対策が協議されており,同年5月18,19日には,村議会議員が,木の葉や柚の生産等により地域の活性化に成功している町村の視察を行ったりしていた(乙1,13,55,証人P,証人B)。
(オ) H農協は,1つの町や村に置く支店を1つにするという方針から,平成15年3月に,E町にあったH農協の3つの支店を閉鎖していた。そのため,B村長は,E町との合併後は,経営の合理化等によりF村にあるH農協の支店が閉鎖されるのではないかという危機感をもっており,これによりH農協の子会社であるGもF地域に密着したものでなくなってしまうのではないかという不安を抱いていた。そして,F村内のこんにゃくの生産者も減少している状況にあって,B村長は,F村でGを譲り受け,合併後も農業の拠点として同社をF村に残し,こんにゃく以外の特産品の栽培や,付加価値を高めた加工品の開発,販路の拡大等により,農業経営者を支援していきたいと考えていた。(乙55,丙15,証人B,証人I)
(カ) B村長は,平成17年3月ころ,当時のF村議会の議長であったI議員,副議長であったM議員,L議員に,GをF村で譲り受けたいという考えを示して協力を求めたところ,同人らもこれに賛同した。
同議員らは,同月31日,H農協に対し,Gの譲り受けについて協議を申し入れ,また,F村議会の名で,同年4月6日付けの書面をもって,Gに対し,同社をF村に譲って欲しいとの申し入れを行った。その後,B村長とH農協の組合長との間で,Gの譲渡について,話合いが進められた。
(甲12,乙55,丙14,15,証人I)
(キ) Gの平成15年度の売上高は3億0518万2000円,当期利益は1216万円であり,平成16年の売上高は3億3378万1350円,当期利益は1007万8782円であった。
平成17年5月,H農協が埼玉県農協協同組合中央会(中央会)にGの財務調査を依頼したところ,1株あたり25万1605円という評価が出された。そこで,H農協は,少数株主が保有する株式57株を取得し,従前保有していた株式とあわせて257株全株(なお,発行株式260株のうち3株は自己株式である。)を総額6466万2485円でF村側へ譲渡することとした。
B村長も,個人的に,同年6月10日ころ,株式会社Qに対し,Gの決算報告書などの客観的資料をもとにGの企業診断を依頼した。これによると,Gの経営状況は,当座資産(キャッシュ)の割合が低いこと,売上げに対し棚卸資産が過大であること,類似業種と比較すると製造原価が過大になっているなどの問題もあるが,支払能力は長い期間で考えると充分安定しており,自己資本回転率は良く,総合的な収益率は高いと分析されていた。
(甲9,10,11,乙3,10ないし12,18,55)
(ク) B村長とH農協は,Gの譲渡先について,F村,第三セクター,いわゆる農業法人のいずれかにするということで,検討を行った。またF村議会の土木産業常任委員会では,同年7月8日,Gから,経営状況などについて説明を受けたり,Sセンターから講師を招き,農業法人についての勉強会を開催したりした。
検討の結果,F村で株式を保有することとすると,合併後はE町に引き継ぐことになってしまうこと,合併までの期間などから,同年8月11日までに,農業法人を設立し,同社に補助金として支出することを決めた。
(甲5,45,乙1,6,55,56,丙14,15,証人I)
イ 参加人設立の手続等
(ア) E町と合併する平成17年10月1日までに農業法人を設立させるということで,B村長の依頼で,I議員がまとめ役となって,農業生産団体の代表者に声をかけて発起人を集め,I議員ら6名やGの代表取締役であるRを含む9名が発起人となることとなった。発起人らは,定款の作成等の手続を進め,同月29日には株主の募集を開始し,平成17年9月12日,参加人を設立した。(甲4,8,乙55,丙14,証人I)
(イ) 参加人の設立時発行株式数は200株(1株5万円で合計1000万円)であるところ,そのうち155株はI議員ら6名によって引き受けられ,その余の株式の一部は,B村長の妻,N議員の親戚及び知人により引き受けられた。なお,参加人設立直前までに集められた出資金は460万円(92株分)しかなかったため,急遽I議員及びN議員が合計540万円を借り入れて,不足分に充当した。(甲44,乙7,55,丙11,証人P)
(ウ) 参加人の設立時の取締役(7名)には,I議員ら5名やRが就任し,監査役2名のうち1名にはK議員が就任した。また,代表取締役にはRが就任した(甲2)。
ウ 本件補助金交付までの手続
(ア) F村では,平成16年度の決算で,平成16年度からの繰越金が,当初の予定を大幅に上回って7836万6000円存在することが判明した。(甲38)
(イ) B村長は,Gの株式の譲受代金6466万2485円の約2分の1である3000万円を補助金として参加人に交付することとし,農林振興費のうちその他補助金として3000万円の歳出を計上して,平成17年度F村一般会計補正予算を組み,議会に提出した。(甲38,45,証人B)
(ウ) 平成17年9月13日及び同月14日,F村議会が開催され,平成17年度F村一般会計補正予算の審議がなされ,参加人の取締役に就任していたI議員ら5名及び監査役に就任していたK議員も審議に参加した。
同月14日の議会において,B村長やCから,参加人の商号,発起人と代表者が誰であるか,参加人がH農協からGの株式を譲り受け,同社の事業を引き継ぐことになること,参加人に,Gの株式取得の資金に充てるため補助金3000万円を交付することについて初めて説明がなされ,これについて討論が行われた。
(甲45,乙56,証人P)
(エ) 上記補正予算は,賛成がI議員ら6名を含む9名,反対が2名,欠席が1名(本件議会において本件補助金について質問をしたが,決議には欠席した。)であったため,賛成多数で議決された(乙3)。
(オ) 同月16日,参加人から本件補助金交付の申請が出され,同月27日,F村から参加人に本件補助金が交付された。
エ 補助金交付後の参加人の活動等
(ア) 参加人は,平成18年1月31日,Gから,その株式257株を6466万2485円で譲り受け,その事業を引き継ぎ,他方,Gはその後解散した(乙1)。
参加人は,これまでGがF村が借りていた工場等を,引き続き使用して,こんにゃくの製造等を行った(乙9)。
Gは,H農協からも,工場や倉庫の土地,建物及び機械装置等を賃借していたが,参加人は,引き続きこれらを事業に使用するため,平成18年1月31日,H農協から,同農協所有の上記土地,建物等を代金5728万円で購入した(乙14,17,丙1)。
(イ) 平成17年9月26日に行われた参加人の取締役会において,役員手当は出さないことが決められ,以後,役員報酬は常勤の役員にだけ給付されている(乙7,15,19)。
I議員は,同年12月8日に,また,N議員,J議員,L議員も,平成18年3月6日に,いずれも参加人の取締役を退任した(甲2,乙2,丙4,証人N)。
参加人の株主であったI議員が所有していた株式については平成17年11月7日の取締役会で,N議員,J議員,L議員,K議員の所有株式については平成18年3月6日の取締役会で譲渡が承認され,参加人から上記株主らに対し,1株5万円で代金が支払われ,これらの株式はその後第三者へ譲渡された(丙12ないし15)。
(ウ) 参加人は,現在,事業として,こんにゃくを始めとする,地元の生産物を利用した食品の開発,生産物量拡大のための研究,講習会,供給先の拡大等を行っている。(乙1,15,19)
参加人は,平成19年8月には,H農協との間で,こんにゃく生玉を30キログラム1袋あたり最低5000円で買い取ることを保証する旨契約した。(乙51)
(エ) 参加人の第1期(平成17年9月12日から平成18年3月31日まで)において約1673万円の当期利益を,第2期(同年4月1日から平成19年3月31日まで)において約1315万円の当期純利益を上げている(乙15,19)。
オ F村の財政状況
F村の平成17年度の一般会計予算は19億8000万円であり,歳入総額に占める自主財源の割合は約30パーセントで,そのうち村税は2億2006万3000円であり,歳入総額に占める割合は11.1パーセントである。そして,村の最大の財源である地方交付税について国の配分見通しが行われるなど,厳しい財政運営状況となっていた。
同年度の一般会計予算に計上された補助金は,農業振興費についてが15費目で合計161万6000円であり,そのうち一番額が大きいものでも,こんにゃく生産組合に対する補助金の32万円であった。また,商工振興費についてが4費目で合計283万4000円であり,そのうち一番額が大きいものでも,Uに対する補助金の143万6000円であった。
(甲27,36)
カ こんにゃく芋の生産状況等
こんにゃく芋の生産は,年によってばらつきはあるものの,平成3年以降,概ね減少方向にあり,こんにゃく芋の栽培面積,収穫面積も昭和63年以降年々減少している。F村内でも,昭和60年以降,こんにゃく芋の栽培面積は減少しており,収穫量も概ね減少傾向にある。
(甲17,18,47)
(3) 本件補助金交付の目的
ア 上記認定のとおり,F村では,同村内でこんにゃくの製造を行っていたGに対し,事業の援助,協力を行ってきたところ,E町との合併を控え,将来的にGがF地域に密着した会社でなくなる可能性があることを危惧し,こんにゃく芋の生産を始めとするF地域における農業の振興を図るため,Gを農業の拠点としてF地域に残そうと考え,そのためGの株式を取得することとし,その譲渡先として参加人を設立し,株式取得費用の一部に充てるため,参加人に本件補助金を交付することとしたものである。
以上によると,本件補助金は,F村や同村を含むF地域における農業の振興を図ることを目的として,Gの株式を取得するために,参加人に交付されたものと認めることができる。
イ この点につき,参加人が営利企業であり,I議員ら6名がその株主となり,I議員ら5名がその取締役に,K議員が監査役に就任していることから,原告らは,本件補助金は同議員らの私的利益を図ることを目的としたものであると主張する。
確かに,参加人は株式会社であって営利企業であり,また,I議員ら6名がその株主となり,I議員ら5名がその取締役に,K議員が監査役に就任していることから,本件補助金は同議員らの利益を図るために交付されたのではないかと考えられる余地もないわけではない。また,参加人を設立して,同社に補助金を交付するということは,平成17年9月14日の議会までは全議員に知らされていたわけではなく,そのことからも,I議員ら6名が,自己の利益を図るため,同人らのみで参加人の設立に関与したのではないかと疑われるのもやむを得ない点がある。
しかし,Gの株式の譲渡先としては,F村自身や第三セクターも検討されていたが,F村で株式を取得すると,合併後はE町に引き継ぐことになってしまうことなどから,農業法人を設立することとなったものである。そして,平成17年10月1日の合併後は補助金を交付することができるか否か分からなかったことから,合併までに農業法人を設立して,補助金を交付しなければならないと考え,急遽参加人を設立することとしたため,農業生産団体の代表者でありF村の議員であったI議員ら6名とGの代表者であったRが中心となって参加人を設立することになったと考えるのが相当であり,同議員らが自己の利益を図るために参加人の株主や取締役・監査役になったとは認め難い。
(4) 本件補助金交付の効果
ア 本件補助金の額は,3000万円であるところ,長がその支出の公益上の必要性を判断するに当たっては,本件補助金交付により,同額の支出に見合うだけの効果を見込めるかを検討する必要があり,本件のように額が大きい場合には,それだけ検討も慎重になされる必要があるというべきである。
イ Gは,平成5年に設立して以来,F村でこんにゃくの製造等の事業を行い,F村の農業にも貢献してきたと推測され,また,平成15年度,平成16年度の営業成績も良く,企業診断によっても,多少問題点はあるものの,収益率は高いと診断されており,しかも,Gの代表者が引き続き参加人の代表者としてこれを運営しているということであるから,参加人がGを取得することは地元の農業の振興に有益であると考えられる。
また,F村でのこんにゃく芋の生産量等は減少傾向にあるが,F村がGを取得しようとした理由としては,単にこんにゃくの製造だけではなく,それ以外の特産品の栽培,加工品の開発や販路拡大等も行っていくということで,農業全体の振興を考えていたのであり,こんにゃく芋の生産量等が減少していることのみから,Gの取得がF村にとって無益であるということはできない。
なお,参加人はGの事業を引き継ぎ,こんにゃくを始めとする,地元の生産物を利用した食品の開発,生産物量拡大のための研究,講習会,供給先の拡大等を行って,それなりの利益を上げていることからすると,本件補助金の交付は一応の成果を上げているといえる。
以上によると,参加人がGの株式を取得するために,その取得費用に充てるために補助金を支出することは,F村に一定の効果をもたらすものであると考えることができる。
ウ そこで,補助金3000万円の支出により,その額に見合うだけの効果があると見込めるか否かであるが,本件補助金を3000万円とすることになったのは,Gの株式の購入価格の約2分の1ということだけであって,参加人がGの事業を引き継ぐことにより,それだけの経済的効果をF村にもたらすか否かにつき,明確な見通しがあったとは認め難い。したがって,補助金を支出するとしても,その額をより小額にするというということも充分あり得たと考えられる。
しかし,今回行われたのは,Gというそれなりの優良会社の買収であり,株式の取得価格だけでも約6466万円もしたことからすると,3000万円という補助金がその効果からすると過大であるとまではいい難く,この点で,B村長に裁量権の逸脱,濫用があるとも認め難い。
(5) 本件補助金のF村の財政に与えた影響
F村の平成17年度の一般会計予算は19億8000万円であり,そのうち,農業振興費及び商工振興費の内の補助金として計上されたのは合計でも445万円に過ぎなかったことからすると,本件補助金3000万円は極めて高額な補助金ということになる。しかも,本件補助金を3000万円とすることになったのは,Gの株式の購入価格の約2分の1ということだけであり,この点でも,参加人に交付する補助金の額について,より検討をする余地があったとはいえる。
しかし,F村では,平成16年度からの繰越金が7836万6000円存在しており,この補助金の支出により,直ちにF村の財政に何らかの影響を与えたとまでは認められない。
(6) 以上によると,本件補助金がE町との合併の直前に,急遽行われたものであり,F村の議員らとの意見交換が十分には行われずになされたものであること,上記のとおり,参加人の株主等に一部の議員がなっていること,その金額が多額であることなどの問題点はあるものの,本件補助金の支出は公益上の必要性からなされたものであると認められ,その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くものとまではいえず,裁量権を逸脱,濫用したものであるとまではいえない。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求は,その他の点を判断するまでもなく,理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 八木貴美子 裁判官 辻山千絵)