大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成19年(わ)779号 判決 2008年5月27日

主文

被告人甲を禁錮1年6月に,被告人乙を禁錮1年に処する。

被告人両名に対し,この裁判確定の日から3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人甲は,ふじみ野市教育委員会体育課長として,同教育委員会が所管する社会体育施設の維持管理及び補修に関する事務等を掌理するとともに,その事務を処理するため所属職員を指揮監督する業務に従事していたもの,被告人乙は,同課管理係長として,上記事務等を処理するとともに,その事務を処理するため所属職員を指揮監督する業務に従事していたものであるが,同教育委員会が所管する社会体育施設である埼玉県ふじみ野市Aのふじみ野市Bプールには,流水プール,児童プール,スライダープール,幼児プール及び競泳プールが設置されているところ,プール施設は,その性質上,施設の不備が遊泳者らの死傷事故につながる危険性を有するものであるから,ふじみ野市Bプールの維持管理及び補修に関する業務を責任者として分担していた被告人両名は,一般の遊泳者らの利用に供するに当たり,上記危険を回避するため,ふじみ野市Bプールの維持管理及び補修に関する基本法令及び基本文書を精読するなどして理解し,ふじみ野市Bプールの施設の構造や危険箇所,状態等を把握した上,必要な補修をするなどしてふじみ野市Bプールの施設の安全を管理すべき立場にあったところ,ふじみ野市Bプールに設置された流水プールの構造は,起流ポンプの動力により,同プールの水が,側壁に設けられた3か所のだ円形吸水口から吸水管を通してそれぞれ毎分約10立方メートルの割合で起流装置内に取り入れられるなどして,流水プール内に流水を生じさせる仕組みとなっていたことから,上記各吸水口が,それぞれ遊泳者らの身体の吸引を防止するためのステンレス製防護柵(以下,「防護柵」という。)2枚で覆われており,防護柵が脱落した場合には,吸水口が露出して遊泳者らの身体が吸水管内に吸い込まれ,人の死傷の結果を生じるおそれがあったのであるから,

第1被告人甲は,流水プールを一般の遊泳者らの利用に供するに当たり,部下職員らをして,防護柵が,その設計に従い,ステンレス製ビスを用いて柵受板に取り付けられ,確実に固定されていることを確認させることはもとより,ふじみ野市からふじみ野市Bプールの管理等に関する業務の委託を受けたC株式会社の代表者であるDらに対し,流水プールを一般の遊泳者らの利用に供している期間中,防護柵が確実に柵受板に固定されているか否かを定期的に点検するための措置(以下,「定期的な防護柵点検措置」という。)を執るべき旨を指示させた上で現にその措置が執られていることを確認させることなどにより,防護柵の脱落により露出した吸水口から遊泳者らの身体が吸引されることがないように防護柵を確実に柵受板に固定すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,部下職員らをして,防護柵の固定状況を確認させる措置を執らず,上記Dらに対しても定期的な防護柵点検措置を執るべき旨を指示させず,かつ,現に当該措置が執られているか否かについて確認させるなどしないで,防護柵の脱落を防止するために必要な措置を講じず,流水プール北西側側壁に設けられただ円形吸水口(以下,「本件吸水口」という。)を覆っていた防護柵2枚のうち西側のもの(以下,「本件防護柵」という。)が設計に従ってステンレス製ビスを用いて確実に柵受板に固定されてはいない状態のまま,漫然,平成18年7月15日から同月31日までの間,流水プールを一般の遊泳者らの利用に供した

第2被告人乙は,流水プールを一般の遊泳者らの利用に供するに当たり,防護柵の固定状況を確認した上,防護柵が設計に従ってステンレス製ビスを用いて確実に柵受板に固定されてはいない状態にあること及び確実に柵受板に固定するための措置を講じた上で流水プールを一般の遊泳者らの利用に供すべきことを上司である被告人甲に具申すべきことはもとより,上記Dらに対し,流水プールを一般の遊泳者らの利用に供している期間中,定期的な防護柵点検措置を執るべき旨を指示した上で現にその措置が執られていることを確認することなどにより,防護柵の脱落により露出した吸水口から遊泳者らの身体が吸引されることがないように防護柵を確実に柵受板に固定すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,防護柵の固定状況を確認せず,防護柵が設計に従ってステンレス製ビスを用いて確実に柵受板に固定されてはいない状態にあること及び確実に柵受板に固定するための措置を執るべきことについて被告人甲に具申せず,上記Dらに対しても定期的な防護柵点検措置を執るべき旨を指示せず,かつ,現に当該措置が執られているか否かについて確認するなどしないで,防護柵の脱落を防止するために必要な措置を講じず,本件防護柵が設計に従ってステンレス製ビスを用いて確実に柵受板に固定されてはいない状態のまま,漫然,平成18年7月15日から同月31日までの間,被告人甲が,流水プールを一般の遊泳者らの利用に供するままにした

各過失の競合により,同日午後1時35分ころまでには,本件防護柵を脱落させて遊泳者らの身体が本件吸水口からこれに接続している吸水管内に吸い込まれ,人の死傷の結果を生じる危険を発生させ,同日午後1時40分ころ,流水プール内で遊泳中のE(当時7歳)を本件吸水口からこれに接続している吸水管内に吸引させて,同人に頭蓋底骨折,脳幹損傷等の傷害を負わせ,よって,そのころ,上記ふじみ野市Bプール内において,同人を上記傷害により死亡させたものである。

(証拠の標目)

省略

(法令の適用)

省略

(量刑の理由)

1  本件は,被告人両名が,ふじみ野市教育委員会体育課の課長と同課管理係長というふじみ野市Bプールの維持管理及び補修に関する業務を責任者として分担し,同プールの安全を管理すべき立場にありながら,流水プールの吸水口を覆う防護柵を確実に柵受板に固定すべき業務上の注意義務を怠り,流水プールの一般開放前後を通じて,流水プールの防護柵の固定状況を整備せず,本件防護柵が確実に柵受板に固定されてはいない状態のまま,流水プールを一般に開放し続けたため,同プールを利用する遊泳者らの死傷の結果を生じさせる危険を発生させ,本件当日,本件防護柵を脱落するに至らせ,流水プールで遊泳中であった被害者を吸水口から吸水管内に吸引させ,同人に頭蓋底骨折,脳幹損傷等の傷害を負わせて死亡するに至らせたという事案である。

2・※  本件の経緯については次の事実が認められる。

ふじみ野市は,平成17年10月1日,旧B町と旧上福岡市が合併してできたものであるが,合併以前,ふじみ野市Bプールは「B町民プール」という名称で旧B町が所有し同町教育委員会が所管するプールであった。そのうち流水プールは吸水口が露出した状態だと遊泳者らの身体を吸い込む危険があり,それを防止するために流水プールの各吸水口は,四隅がステンレス製ビスで柵受板に取り付けられ,確実に固定された2枚の防護柵で覆われていたのであるから,防護柵が設計に従ってステンレス製ビスで確実に固定されているか否かが遊泳者らの生命,身体の安全に関わる重要な事項であったところ,その防護柵は,平成11年ころにはステンレス製ビスで固定されていない箇所が発生し,これが針金留めされるようになり,そのまま流水プールを利用すれば防護柵が脱落して吸水口に遊泳者らの身体が吸い込まれる危険が発生していた。旧B町から管理等の委託を受けていた当時の業者は,ステンレス製ビスで確実に固定されていない箇所があることを旧B町の当時のプール担当者に報告したが,担当者が針金留めで対応するように指示したため,針金留めがなされるようになった。さらに,その後数年にわたり,旧B町のプール担当者が異動等により代わっているが,業者が旧B町の担当者らに対してステンレス製ビスで固定していない箇所がある旨何度か報告したものの,その都度,担当者らが針金ないし鉄線で留めるよう指示したため,針金留めの措置が執られ続け,次第に防護柵を留めるステンレス製ビス(1枚につき4個)は減少し針金留めの部分が増え続け,本件事故時に至った。その間,平成13年8月には厚生労働省の遊泳用プールの衛生基準が改訂された旨が,平成14年6月にはその改訂を受けて埼玉県プール維持管理指導要綱も改正された旨が,それぞれプール開設者宛ての文書で,埼玉県川越保健所長から当時本件プールを所管していたB町教育委員会社会体育課に通知された(それらの文書には,文書に目を通したことを示す当時の課長や管理係長の押印がある。)。そのため,当時のプール担当者らは,厚生労働省の遊泳用プールの衛生基準や埼玉県プール維持管理指導要綱が改正され,遊泳用プールの施設基準については排水設備に関して排水口及び循環水の取入口に設けた堅固な格子鉄蓋や金網をネジ等で固定することとされたり,遊泳者等の吸い込みを防止するための金具等を設置することとされたりしたこと,及び,プールの維持管理基準については排水口等の金網等の維持管理方法がさらに明確にされたりしたことを認識し得たし,すべきであった。しかも,平成13年10月には,B町教育委員会教育長及び社会体育課は,埼玉県川越保健所長から,「遊泳用プールの改善について(通知)」という文書(同文書には,社会教育課との記載があるが,当時,本件プールを所管していたのは社会体育課であり,文書の回覧も社会体育課内でなされている。)により,同年8月の立入調査の際,本件プール施設につき平成14年6月改正前の埼玉県プール維持管理指導要綱に基づく施設基準,維持管理基準に適合しない事項があった旨指摘されるとともに,平成13年8月の厚生労働省の遊泳用プールの衛生基準の改訂を受けて埼玉県プール維持管理指導要綱も改正される予定であるから,施設の改善等に際しては,改訂後の施設基準や維持管理基準に留意されたい旨通知されているのであるから,その際も,当時のプール担当者らは,厚生労働省の遊泳用プールの衛生基準が改訂されたこと及びそれを受けて埼玉県プール維持管理指導要綱が改正されることを認識し得たし,すべきであった上,改訂後の基準に従ってプールを改善する必要があるか否かなどを検討すべきであった。にもかかわらず,当時の担当者らはそれらの改正点等に注意を払うことなく,漫然とそれぞれ業者任せにしたまま防護柵の固定状況を点検するなどの措置を執ることはなかった。

・※  被告人両名は旧上福岡市の職員であったが,被告人乙は,旧B町と旧上福岡市が合併してふじみ野市となった平成17年10月1日にふじみ野市教育委員会体育課管理係長に,被告人甲は平成18年1月1日にふじみ野市教育委員会体育課長にそれぞれ就任した。被告人甲は,ふじみ野市教育委員会体育課長として,ふじみ野市が所有するふじみ野市Bプールの維持管理及び補修に関する事務等を掌理するとともに,その事務を処理するため所属職員を指揮監督する業務に従事していたものであり,ふじみ野市Bプールの管理運営に関して原則として専決する立場にあった。また,被告人乙は,同課管理係長として,ふじみ野市Bプールの維持管理及び補修に関する事務等を処理するとともに,その事務を処理するため所属職員を指揮監督する業務に従事するものであり,ふじみ野市Bプールの開設や修繕,検査依頼などの起案等の事務を主体的に行う立場にあった。

プール施設は,その性質上,施設の不備が遊泳者らの死傷事故につながる危険性を有するものであるから,被告人両名は,プール施設の不備に起因する死傷事故を防止する責任を負う立場に就いた以上,その責任を果たすためにも,ふじみ野市Bプールの維持管理及び補修に関する基本法令や基本文書を十分理解し,関係文書を読んだり,実際にふじみ野市Bプールに出向くなどして,その構造や危険箇所,状態等を把握するべきであった。また,被告人両名は,本件で問題となった流水プールに上記2・※のとおりの危険があることや,防護柵が設計に従ってステンレス製ビスで確実に固定されているか否かが遊泳者らの生命,身体の安全に関わる重要な事項であることを認識するべきであった。特に,流水プールの防護柵は,被告人両名が課長ないし係長に就任するより前の平成11年ころから,ステンレス製ビスで固定されず,針金留めされる箇所が発生しており,防護柵が脱落して遊泳者らの身体が吸水口に吸い込まれる危険が発生していたのであるから,被告人両名は,その危険を解消し,自らもそのような危険を発生させないように,防護柵の脱落を防止するため,防護柵を設計どおりに固定させる措置を執るべき義務を負っていた。しかし,被告人両名は,プール施設は性質上遊泳者らの死傷事故が生じる危険を伴っているということを抽象的には認識していたものの,安易に,前例踏襲の仕事をすれば足り,プール管理は委託業者に任せればいいものだと考え,ふじみ野市Bプールの維持管理及び補修に関する業務をほぼ全面的に業者任せとし,自らが行うべき義務を完全に怠って流水プールを開放し,本件防護柵が脱落して露出した吸水口から遊泳者らの身体が吸引される危険を発生させたものである。こうした被告人両名の態度は,自己の職責の重要性に対する自覚を欠く全く無責任なものというほかなく,厳しい非難に値する。

すなわち,被告人両名は,遊泳用プールの維持管理及び補修に関する基本文書である埼玉県プール維持管理指導要綱すらも読むことなく,ふじみ野市Bプールの構造や危険箇所,状態等を把握することもなかった。被告人乙は,本件事故年度のふじみ野市Bプール開設届の起案者であり,決裁文書に平成14年の改正前の埼玉県プール維持管理指導要綱の1枚目を添付した本人であり,被告人甲は,その文書を決裁した本人であって,両者とも埼玉県プール維持管理指導要綱の内容を知り得たし,知るべきであったにもかかわらず,埼玉県プール維持管理指導要綱の全文を手に入れたり読んだりしたりすることをしなかったばかりか,被告人両名は,開放前にふじみ野市Bプールに何度か出向いていたのであるから,プール施設の構造や危険箇所,状態等を自分の目で確認することが容易にできたにもかかわらず,知ろうともしなかった。被告人両名は,ふじみ野市Bプールの管理を業者に委託していたので業者任せでいいと思っていた旨供述するが,それ自体自らの責任を放棄した態度であることはもとより,被告人両名は,業者への委託の根拠となるふじみ野市委託契約書,ふじみ野市委託契約約款及びふじみ野市Bプール管理業務仕様書の理解さえしていなかった。それゆえに,被告人両名は,業者との委託契約において,プール開放前に係る施設の維持管理が業者には委託されていないことすらも認識できておらず,さらに,安易に業者を信用し,業者が配置していた監視員の多くが仕様書で求められている資格や経験を有しない者であったり,そもそも仕様書で定められた人数の監視員が配置されておらず,少ない時には規定の半分以下の人員しか配置されていなかったなど,業者の業務遂行態度が誠にずさんで到底信用できないものであったことや,委託した業者が委託契約に違反して下請けにいわゆる「丸投げ」していることにも気付かなかった。

こうした事実は,被告人両名が課長ないし係長に就任した当時,合併に伴う事務の繁忙下にあったとはいえ,被告人両名の態度がまさに自己の立場の自覚を欠く無責任なものであったことを如実に物語るものであるといわなければならない。被告人両名の過失は重大であるというほかない。

なお,弁護人は,本件事故は被告人両名の過失を含めた多くの過失が積み重なって生じたものであり,被告人両名だけに刑事責任を負わせることは酷であると主張する。確かに,上記2・※のとおり,防護柵がステンレス製ビスで確実に固定されていない状態を発生させ,防護柵の脱落により遊泳者らに死傷の結果を生じる危険をもともと生じさせたのは被告人両名ではないこと,被告人両名が課長ないし係長に就任する以前から生じていた危険状態の放置がそのときどきの担当者らにより繰り返されてきたことなど,被告人両名を含む関係者らの無責任の連鎖により本件事故という悲劇が引き起こされたという側面もないではない。すなわち,ステンレス製ビスで防護柵が確実に固定されなくなった際に適切な補修をせず,それ以降も針金留めで済ますなど不適切な対応で流水プールの管理に関わった多数の担当者らは,いずれも自己の職責を果たさず,無責任のまま過ごしては後任者に引き継ぐという怠慢を繰り返していたのではある。しかしながら,被告人両名は,課長ないし係長に就任した以上は,その職責を果たしてそれまでの無責任の連鎖を断ち切り,その職責を果たさねばならなかった。何よりも,被告人両名は,それまでの担当者の職務遂行態度がどうであれ,その立場及び職責上,本件事故年度におけるプール担当者として,安全性を完備させない限り流水プールを遊泳者らに対して提供してはならなかったのであるから,本件事故年度において,流水プールを開放するに当たっては,設計に従ってステンレス製ビスで確実に防護柵を柵受板に固定させた上で流水プールを開放しなければならなかった。これをせずに流水プールを開放することは,本件事故年度における流水プールの吸水口に係る遊泳者らの死傷の結果を生じさせる危険を被告人両名が新たに発生させたことにほかならず,この危険の発生は当該年度のものであって,従前の担当者らが発生させた危険とは別個のものであるから,被告人両名の作出した本件危険は独立して評価すべきものである。同様に,本件事故の発生に委託業者ら関係者の不手際が関わっているとしても,市が業者に委託したことによって被告人両名の職責は何ら変わらず軽減するものではないのであるから,本件事故の発生について被告人両名がプール担当者として職責を果たさなかったことに全く変わりはない。むしろ,市が業者に委託したということは,市自らがその手でプールの安全性を完備するほかに,業者を使ってこれを可能とする手段を得たということであって,市は二重に安全性を完備することができたのであるから,委託業者ら関係者の不手際が本件事故の発生に関わっているということは,被告人両名が,市自らがその手で行う責任を果たさなかったことに加えて,業者を使っての責任も果たさなかったということである。弁護人の主張は採用の限りでない。

・※  被害者は,家族や友人とプールで楽しく夏休みを過ごしていたさ中に,本件事故によって,まだまだ両親が恋しい盛りのわずか7歳で夢や希望に満ちた無限の可能性を奪われ,1人でこの世を去らなければならなかったのであり,頭の骨が折れ,脳幹が破壊されるなどして被った肉体的苦痛の甚大さはもとより,その感じた恐怖の大きさは想像を絶し,その悲しみや無念さは察するに余りある。子供らが最も楽しく過ごし,その子の笑顔を見る親の最も幸福感に浸るべき場の1つである夏休み中のプールで突如我が子を奪われた両親ら遺族の驚愕と悲しみは計り知れない。被害者の家族の幸せな生活は一変した。幸せな家庭を築き,被害者に精一杯の愛情を注ぎ,その成長を見守ることを楽しみにしていた両親の苦しみ,嘆きや悲しみ,喪失感は計り知れない。被害者の兄弟の悲嘆も深い。遺族らは被告人両名に対して厳しい処罰感情を抱いている。被害者の遺族は,被害者を失ったばかりか,本件後もふじみ野市との民事訴訟を巡っていわれなき中傷にさらされるなどしている。本件結果は誠に重大である。

・※  被告人両名の刑事責任は重いといわなければならない。

3  一方,被告人両名のために斟酌すべき事情もある。

被告人両名は,捜査段階から一貫して,自らの業者任せの無責任な態度を後悔するとともに,真摯に反省している。被告人の両親とふじみ野市との間には示談が成立している。被告人両名は,遺族から受け入れられてはいないものの,遺族に直接謝罪したり墓参したいとの意向を示し,被害者の一周忌等にはプールに献花するなど,真摯に被害者と遺族に誠意を尽くそうという態度を示している。被告人両名は,いずれも前科がなく,市職員として長年真面目に勤務し,多数の嘆願書が作成されていることにみられるように,地域社会に相応の貢献をしてきたものである。当公判廷に情状証人として出廷した被告人両名の妻ないし実兄のほか,被告人両名にはこれを支え,また支えられる家族がいる。本件罪質との関係でそれほど考慮できないとはいえ,本件が大きく報道され,ある程度の社会的制裁を受けている。既に被告人甲は停職2か月の,被告人乙は停職1か月の懲戒処分を受けている。

4  そこで,以上の諸事情を踏まえて被告人両名の刑を量定することとなるところ,弁護人は,平成18年7月3日宣告の新潟地裁判決を引用するなどして被告人両名に対して罰金刑をもって臨むべきであると主張するが,同判決は本件事案に適切なものとはいえず,被告人両名の職責,過失の内容・程度,本件事故の結果の重大性等,本件犯情に鑑みると,本件は罰金刑をもって臨む事案とは解されない。そして,被告人甲は,ふじみ野市教育委員会体育課長として,流水プールに関する原則的専決権者であり,被告人乙を含めた部下職員を指揮監督する立場にあった者であるのに対し,被告人乙は,同課管理係長であって,職責上は被告人甲の責任と比べれば小さいものであることも踏まえ,被告人甲を禁錮1年6月に,被告人乙を禁錮1年に処することとするが,諸事情を考慮して,それぞれの刑の執行を猶予するのが相当である。もっとも,被告人乙は開設届を起案するなど流水プールの維持管理及び補修に関する事務等を主体的に処理した者であったことに鑑みれば,その責任は,執行猶予期間についてまで差を付けるほど被告人甲の責任と大きな径庭はないと解される。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑 被告人甲につき禁錮1年6月,同乙につき禁錮1年)

(裁判長裁判官 傳田喜久 裁判官 佐藤基 裁判官 鈴木恵子)

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例