さいたま地方裁判所 平成19年(レ)8号 判決 2007年6月01日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(主位的)
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人Aに対し,110万0006円及びうち8万5179円に対する平成18年1月10日から,うち91万4827円に対する平成18年2月6日から,うち10万円に対する平成18年4月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は,控訴人Bに対し,11万1146円及びうち10万1146円に対する平成17年12月5日から,うち1万円に対する平成18年4月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1審,第2審とも,被控訴人の負担とする。
(5) 仮執行宣言
(予備的)
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人Aに対し,100万0006円及びうち8万5179円に対する平成18年1月11日から,うち91万4827円に対する平成18年2月7日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は,控訴人Bに対し,10万1146円及びこれに対する平成17年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1審,第2審とも,被控訴人の負担とする。
(5) 仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2事案の概要
1 控訴人らの息子は,利用していた出会い系サイトの料金の支払にあたり,控訴人らのクレジットカードを無断で使用した。被控訴人は,出会い系サイトのクレジット決済代行機関として,カード会社に対して利用料金の引き落としを指示し,カード会社は,それに従って,控訴人らの口座から上記利用料金を引き落とした。
本件は,控訴人らが被控訴人に対して,主位的には,被控訴人の本人確認義務違反等の不法行為に基づく損害賠償請求として,引き落とされた金額及並びに弁護士費用及び,うち引き落とされた金額について不法行為の日である各引落し日から,うち弁護士費用について弁済期の経過した後である本訴状送達日の翌日である平成18年4月19日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,予備的には,被控訴人に対する不当利得返還請求として,引き落とされた金額及び利得の日の翌日である各引落し日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払をそれぞれ求めた事案である。
原審は,控訴人らの主位的及び予備的請求をいずれも棄却したため,控訴人らは,これを不服として控訴した。
2 争いのない事実等(証拠により認定した事実については,その末尾の括弧内に証拠を掲げる。)
(1) 当事者
ア 控訴人Aと控訴人Bは夫婦であり,息子甲と同居している。控訴人Aは,株式会社クレディセゾン及び三井住友カード株式会社と,同Bは,株式会社東武カードビジネスとそれぞれクレジットカード会員契約を締結し,各カード会社から各人名義のクレジットカードの貸与を受け,これらを所持している(以下,各カードを,「セゾンカード」,「三井住友カード」,「東武カード」といい,これらを総称して「本件各カード」という。)。
イ 被控訴人は,インターネット上で物品販売,ソフトウェア,情報等を提供する有料インターネットサイト(以下「有料サイト」という。)との間で,クレジット決済業務委託契約を締結し,クレジットカード決済を代行している業者である。被控訴人は,出会い系サイトを海外で運営している有限会社ニュースパイラル(以下,有限会社ニュースパイラルが運営する出会い系サイトを「本件サイト」という。)との間でクレジット決済業務委託契約を締結している。(乙1,乙2)
(2) 被控訴人によるクレジットカード決済業務の仕組み
ア 有料サイトの利用者は,利用にあたり,有料サイト運営者に対しカード番号,名義人,カード有効期限のほか,電話番号,メールアドレス等の情報(これらの情報を,以下「カード情報等」という。)を提供する。
イ 有料サイト運営者は,被控訴人に対して,クレジット決済業務委託契約に基づき,インターネットを利用して,カード情報等を伝える。
ウ 被控訴人は,カード情報等のうち,カードの認証に必要な情報を,インターネットを利用して,カード会社とは別に存在するクレジットカード決済処理業務代行機関を介して,カード会社に送信する。その後,カードの認証結果が被控訴人に伝えられる。被控訴人は,カードの認証結果を踏まえて,有料サイトの利用料金をカード名義人へ請求することの当否及び請求額を決定し,カード会社に対して,カード名義人の銀行口座から請求額の引落しを指示する。
エ カード会社は,被控訴人からの上記引落し指示に基づき,被控訴人の請求として,利用料金の支払をカード名義人に請求し,カード名義人の銀行口座から利用料金を引き落とす。
オ カード会社は,被控訴人に対し,カード名義人の銀行口座から引き落とした金額から諸費用を差し引いた上で,これを被控訴人の売上げとして,被控訴人に支払う。その後,被控訴人は,契約内容に従って精算した上で,有料サイトに対し,有料サイトの売上金を支払う。
(3) 甲による不正利用
甲は,本件サイトの利用に先立ち,控訴人らに無断で,本件サイトに控訴人らの名義のカードのカード情報等を提供した。不正利用の詳細は,以下のとおりである。(甲1の1,2,甲2,甲3)
ア 時期: 平成17年11月3日から同月28日まで
回数,料金: 35回,91万4827円
使用カード: 控訴人A名義のセゾンカード
イ 時期: 平成17年10月28日から同年10月31日まで
回数,料金: 4回,10万1146円
使用カード: 控訴人B名義の東武カード
ウ 時期: 平成17年12月1日
回数,料金: 3回,8万5179円
使用カード: 控訴人A名義の三井住友カード
(4) 控訴人らの被控訴人に対する問い合わせ
ア 控訴人Aと同Bは,セゾンカードと東武カードの不正利用を疑ったため,平成17年12月2日,被控訴人に対して,その旨問い合わせた。
イ その後,被控訴人は,セゾンカード及び東武カードについて,上記問い合わせにかかるカードの利用者が甲であることを確認した。
(5) 被控訴人の引落し指示及びカード会社による引落し
ア 被控訴人は,上記のとおり甲が各カード名義人の承諾を得ずに本件各カードを不正利用した事実を確認したものの,不正利用者が控訴人らの家族であったことから,通常どおりカード名義人に請求することを決定し,各カード会社に引落し指示を行い,既に行った引落し指示を撤回しなかった(以下,被控訴人のこれらの行為を「本件引落し指示」と総称する。)。
イ その結果,株式会社東武カードビジネスは,平成17年12月5日,控訴人B名義の銀行口座から10万1146円を,三井住友カード株式会社は,平成18年1月10日,控訴人A名義の銀行口座から8万5179円を,株式会社クレディセゾンは,同年2月6日,控訴人A名義の銀行口座から91万4827円をそれぞれ引き落とした(以下,各カード会社による引落しを「本件引落し」と総称する。)。
(6) 控訴人ら代理人からの返還請求等
控訴人ら代理人は,平成18年1月25日,被控訴人に対して,内容証明郵便により,既に口座から引き落とされていた東武カードの不正利用にかかる10万1146円及び三井住友カードの不正利用にかかる8万5179円について返還を請求するとともに,その時点ではまだ引き落とされていなかったセゾンカードの不正利用にかかる91万4827円について,支払義務がないことの確認を求めた。(甲5の1,2)
(7) 不正利用の場合の規定
控訴人らが所持している本件各カードについては,各カード会社の会員規約において,カードの紛失・盗難の場合には,速やかに警察及び各カード会社に届出をすれば,原則として,カードの不正利用により発生した各カード名義人の損害を填補するが,不正利用がカード名義人の家族・同居人(以下「家族等」という。)による場合には,カード名義人の損害は填補されない旨の規定がある。(乙3の1ないし3。以下,これらの規定を「本件規定」という。)
3 争点
(1) 本人確認義務違反による不法行為の成否(争点1)
本件各カードの不正利用の時点で被控訴人に本人確認義務があるか。
(2) 不正利用認識後の本件引落し指示による不法行為の成否(争点2)
ア 家族等による不正利用の場合にカード名義人の支払義務を免責しない旨の本件規定は無効か。
イ 本件規定は控訴人らと被控訴人との間で適用がないか。
(3) 三井住友カードに関する不法行為の成否(争点3)
他のカードの不正利用を知った後,被控訴人に三井住友カードの不正利用について確認義務があったか。
(4) 不当利得返還請求の成否(争点4)
被控訴人の利得の額及びその利得が法律上の原因を欠くか。
4 当事者の主張
(1) 争点1 (本人確認義務違反による不法行為の成否)について
ア 控訴人らの主張
(ア) 本人確認義務の存在
被控訴人は,本件サイトから利用者のカード情報等を受けたのであるから,(a)東武カードについては平成17年10月28日,(b)セゾンカードについては平成17年11月3日,(c)三井住友カードについては平成17年12月1日,それぞれ,不正利用された時点で,利用者から提供された電話番号に連絡して,利用者の本人確認をするべきであったのに,これを怠った。
(イ) 損害額
被控訴人は,上記本人確認義務を怠り,不正利用を放置し,本件引落し指示を行い,各カード会社は本件引落しを行った。
被控訴人が本人確認義務を履行していれば,本件各カードの認証を受ける前に不正利用を認知でき,その結果,本件サイトは甲に対してサービスを提供しなかったはずである。
したがって,控訴人らが被った損害は,カード会社によって引き落とされた請求額全額である。加えて,控訴人らは,これらの金銭の支払を求めて弁護士を依頼し本件訴訟を提起したのであるから,弁護士費用については請求金額の1割を相当因果関係のある損害として評価されるべきである。すなわち,控訴人Aにおいては,引き落とされた100万0006円及びその1割にあたる10万円の弁護士費用の合計110万0006円が,控訴人Bにおいては,引き落とされた10万1146円及びその1割にあたる1万円の合計11万1146円がそれぞれその損害である。
イ 被控訴人の主張
被控訴人は,カードが利用された時点で当該利用がカード名義人本人によるものであることを確認する義務はない。カードの管理は,カード所持人が厳重に行うべきであり,本人でない者の利用がカード規約上禁じられている以上,被控訴人には本人確認義務自体存在しない。
(2) 争点2 (不正利用認識後の引落し指示)について
ア 控訴人らの主張
被控訴人は,本件各カードが不正利用されたことを知りながら(三井住友カードの不正利用についても当然知っていたはずである。),本件規定を理由に,本件引落し指示を行った。しかし,以下のとおり,本件規定は,無効ないし控訴人らと被控訴人間で適用がないのである。本件規定を理由とする本件引落し指示は違法であり,不法行為を構成し,被控訴人は,それによって生じた損害を賠償する責任がある。
(ア) 本件規定の有効性
a 本件規定の一般的無効
本件規定は,民法の規定に比して消費者である控訴人らの権利を制限するものであるから,消費者契約法10条に違反し,無効である。
また,カード会社は,加盟店に対して本人確認義務を徹底させる義務があるから,家族等の不正利用においても,一定の過失がある。そして,不正利用が後に発覚した場合には,カード会社は,加盟店に対し,既払金の返還を求めることができ,何ら損失を被ることはない。よって,本件規定は実質的に不当であって,無効である。
b 個別的事情に基づく無効
被控訴人は,本件引落し以前に,各カードの不正利用を知ったこと,被控訴人は,カード名義人から支払を受けられなかった場合には,本件サイトに対して支払を拒むことが可能であること(チャージバック規定)等を考えれば,本件において,被控訴人が本件規定の適用を主張することは許されない。
(イ) 本件規定の適用範囲について
本件規定は,各カード会社と控訴人らとの間の契約に基づくものであるから,契約の相対性の原則に照らせば,本件規定が控訴人らと被控訴人との間で適用されることはない。
イ 被控訴人の主張
被控訴人が甲による不正利用を知った後であっても,本件引落し指示をしたことは不法行為を構成することはない。
家族や同居人は,カード名義人と社会生活上密接な関係にあり,第三者による不正利用と比較してカード名義人により重い責任を課すことには合理性があり,社会生活上密接な関係にある者の間の問題はその者同士で解決することが妥当である。よって,本件規定が消費者契約法10条に違反するとか,実質的に不当であって無効であるということはない。
また,チャージバック規定は,支払が受けられなかった場合に被控訴人が受ける損害の救済規定であるから,本件のように,カード名義人に対して正当に請求できる場合に,チャージバック規定を控訴人らが支払義務を免れる根拠として持ち出すことは失当である。
その他,控訴人らの主張は,すべて否認し争う。
(3) 争点3 (不正利用認識後の本人確認義務)について
ア 控訴人らの主張
(ア) 三井住友カードに関する確認義務の存在
被控訴人は,平成17年12月2日に控訴人Aから問い合わせを受けた後,セゾンカードの不正利用を確認した。したがって,その時点で,本件サイトから提供される情報の中から,控訴人A名義のカード使用に関する情報の有無を確認し,仮に本件サイトにおいて控訴人A名義のカードが利用されていた場合には,当然に不正利用の可能性を疑い,事後的に控訴人Aに対し,その事実を確認する義務があった。したがって,被控訴人は,上記確認義務違反により控訴人Aに生じた損害について,不法行為責任を負う。
(イ) 因果関係
被控訴人は,三井住友カードに関する確認義務を怠り,その結果,本件引落し指示を行い,三井住友カードによって引落しが行われた。前述のとおり,本件規定は無効ないし控訴人らと被控訴人との間で適用がないのであるから,本件規定を根拠に上記確認義務違反と損害との発生の間の因果関係を否定することはできない。
イ 被控訴人の主張
被控訴人には,そもそも本件各カードの利用につきカード名義人本人による利用であることを確認する義務はない。
(4) 争点4 (不当利得返還請求)について
ア 控訴人らの主張
被控訴人は,本件各カードが不正に利用されていることを知りながら,本件規定を根拠に本件引落し指示を行った。それにより,各カード会社の本件引落し後,各カード会社から被控訴人に対して支払われた金額から諸費用を控除した額については,被控訴人は法律上原因なく利得したのであるから,控訴人らは,被控訴人に対し,その限度で不当利得返還請求権を有している(控訴人らが主張する不当利得額と,予備的控訴の趣旨には齟齬があると思われる。)。そして,被控訴人は,その利得に法律上原因がないことにつき悪意であるから,悪意の受益者として,利得の翌日から民法所定の年5分の利息を支払う義務がある。
イ 被控訴人の主張
否認し争う。
第3当裁判所の判断
1 争点1 (本人確認義務違反による不法行為の成否)について
本件のようにインターネット回線を使用したクレジットカード決済においては,カード利用者と決済機関ないし加盟サイトが直接対面することなく取引を行うことができるため,カード会社や決済機関ないし加盟サイトは,直接カードの利用者に接する機会がないことからすると,カードの認証に必要な情報以外の情報を取得することは困難といわざるを得ない。カードの不正利用による被害を防止する必要性を無視するものではないが,他方,迅速かつ大量の取引を実現することが求められていることからすると,インターネット上でクレジットカード決済を行う者は,利用者と使用されたカードの名義人の同一性につき,カードの利用について取得した情報から合理的な疑いがある場合に限り本人確認義務を負うと解するのが相当である。
そこで,本件において上記合理的な疑いがあるかを検討すると,本件各カードに関するカード情報等が本件サイトから被控訴人に送信され,カード会社により有効に認証されたことは争いがないのであり,本件各カードのカード番号,名義人,有効期限については,何ら問題がなかったことが認められる。そうすると,甲により提供されたカードの認証に必要な情報自体からは,本人確認義務の発生を基礎づける上記合理的な疑いがあったと認めることはできない。
もっとも,証拠(甲8,甲9,乙4,弁論の全趣旨)によれば,甲は,本件各カードを不正利用する前に,自己名義のカードを使用して本件サイトを利用していたこと,本件各カードについて送信した各カード情報等には,甲の電話番号とメールアドレスが含まれていたことが認められ,また,経験則上,短期間で特定の電話番号及びメールアドレスが同一のまま,利用者のみが替わることは通常考えられないことからすれば,被控訴人が従前の甲に関するサイト利用記録と本件各カード情報等を照合しさえすれば,各カードの名義人とサイト利用者が異なることにつき合理的な疑いを持ち得た可能性は否定できない。しかし,前記のとおり,迅速かつ大量のクレジットカード決済を実現する必要性を勘案すると,カードの利用について当該カードのカード情報以外の情報をも前提にしてカード利用の適否を判断する義務を負わせるのは酷に過ぎるというべきであり,本人確認義務違反をいう控訴人らの主張は失当である。
2 争点2 (不正利用認識後の引落し指示)について
控訴人らは,被控訴人が,甲による本件各カードの不正利用を知りながら,本件規定を理由に本件引落し指示をしたことは違法であり不法行為が成立すると主張する。そこで,以下,控訴人らの主張を検討する。
(1) 本件規定は一般的に無効か
ア 一般に,家族や同居人というカード名義人と社会生活上密接な関係にある者は,カード名義人に無断でカードを使用することが他の第三者と比してはるかに容易である上,カード名義人が経済的に依存している家族等に対して自己名義のカードの使用を許諾していることもある。カード会社にとっては家族等による利用が不正利用か否かの判断が難しいことからすれば,事務処理上個別的な事情の有無を問わず,画一的な取り扱いをすることの必要性は否定できない。そして,カード名義人は,カード会社に対して,貸与されたカードの管理につき善管注意義務を負っており(民法400条),また,家族等による不正利用を防止することができる立場にあること等の事情も考え併せれば,カードの不正利用について,家族等による不正利用と第三者による不正利用の場合と区別し,家族等による不正利用の場合にはカード名義人に対してより重い責任を課することを内容とする本件規定には合理性があるというべきである。
以上から,本件規定は実質的に不当ではないし,民法に比して消費者に対して権利を制限することを禁じた消費者契約法10条に反するものでもない。
イ 控訴人らは,仮に本件規定が一般的に有効であるとしても,本件においては,被控訴人が家族等による不正利用を知った後もクレジットカード決済業務を停止せず,また,チャージバック規定によって本件サイトへの支払を拒否できたはずであり,このような事情の下においては,本件規定は不当であり,無効であると主張するので,以下さらに検討する。
チャージバック規定は,カード会社が会員からの代金回収が功を奏しなかった場合にその損失を加盟店に負担させることを目的とする規定であることはその文言からも明らかであって,この規定を根拠に,正当な請求自体が許されなくなるわけではない。
以上から,本件の具体的な事情においても本件規定の効果を主張することが不当であって,本件規定を無効とすべきであるということはできない。
(2) 本件規定の適用範囲について
上記(1)で論じたとおり,本件規定が控訴人らと各カード会社との間で有効である結果,本件引落しを指示した被控訴人の行為が正当とされるのであるから,本件規定が控訴人らと被控訴人間に適用されるか否かは問題とならない。よって,本件規定の適用範囲に関する控訴人らの主張は失当である。
(3) 以上のとおり,本件規定は有効であり,その結果,被控訴人が,甲による本件各カードの不正利用を知りながら本件引落し指示をしたことには違法性がないから,不法行為は成立しない。よって,その余の点について判断するまでもなく,この点における控訴人らの主張は認められない。
3 争点3 (不正利用認識後の本人確認義務)について
上記2で論じたとおり,被控訴人による本件引落し指示は,違法性のないことが明らかである。そうすると,被控訴人が甲による三井住友カードの不正利用を知っていたかを問わず,三井住友カードの不正利用について確認義務違反があるとする控訴人らの主張を判断する必要はない。
4 争点4 (不当利得返還請求)について
既に述べたとおり,被控訴人の行為になんら違法な点はなく,被控訴人が受けた利得について,法律上原因がないということはできないから,不当利得返還請求も認めることはできない。
第4結論
以上によれば,控訴人らの本件請求には理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,控訴費用の負担につき民訴法297条本文,61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 近藤壽邦 裁判官 河本晶子 裁判官 多々良周作)