大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成19年(ワ)1239号 判決 2010年7月23日

主文

1  被告株式会社A1は,原告ら各自に対し,それぞれ別紙一覧表の「損害額」欄記載の金額及びこれに対する平成19年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らの被告株式会社A1に対するその余の請求及び被告A2に対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,原告らに生じた費用の2分の1と被告株式会社A1に生じた費用との合計の5分の1を同被告の,5分の4を原告らの負担とし,原告らに生じた費用の2分の1と被告A2に生じた費用を原告らの負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告らは,原告ら各自に対し,連帯してそれぞれ別紙一覧表の「請求額」欄記載の金額及びこれに対する平成19年6月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,それぞれ被告株式会社A1(以下「被告A1」という。)から土地を購入するとともに,同土地上に建物を建築することを被告A1に請け負わせるなどした原告らが,同土地に産業廃棄物が埋設されていることが契約締結後に判明したとして,①被告A1に対しては,主位的には土地の売買契約及び建物の建築請負契約等の錯誤無効,瑕疵担保責任若しくは説明義務違反に基づく契約解除又は詐欺取消しを主張して被告A1に支払った売買代金及び請負代金等の返還を求め,予備的には瑕疵担保責任,説明義務違反又は民法709条(詐欺)に基づく損害賠償として上記代金相当額の金員及び慰謝料の支払を求め,②被告A1の代表者である被告A2に対しては,詐欺を理由に民法709条又は商法266条の3(平成17年法律第87号による削除前のもの。以下単に「商法266条の3」という。なお,原告らは,根拠条文として会社法429条を挙げるが,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律78条により,会社法の施行日(平成18年5月1日)前の行為に基づく損害賠償責任については,なお従前の例によるものとされているから,商法266条の3に基づく請求と解することができる。以下同じ。)に基づき損害賠償として上記と同額の金員の支払を求める事案である。

2  前提事実(証拠等の摘示のない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)ア  被告A1は,土地の購入及び販売,建物の建築及び設計,建物の購入及び販売並びに不動産の仲介等を目的とする株式会社である。

イ  被告A2は,被告A1の代表取締役である。

(2)  被告A1は,平成15年12月ころ,Cから,別紙物件目録1~6記載の土地を買い受けてその所有権を取得した(甲2~7の各2,甲16~18,乙14)。

(3)ア  原告らは,それぞれ別紙一覧表の「契約日」欄の日に,被告A1との間で,被告A1から「代金」欄の「土地」欄の金額で「対象の土地建物」欄の各別紙物件目録記載の土地を買い受ける旨の契約を締結するとともに,被告A1に対して「代金」欄の「建物」欄の金額で上記各土地上に各別紙物件目録記載の建物を建築することを請け負わせる旨の契約(ただし,原告B6については被告A1から建物を買い受ける旨の契約)を締結した(以下,別紙物件目録1~6記載の各土地及び各建物をそれぞれ総称して「本件各土地」,「本件各建物」といい,各原告の個別の土地建物については,それぞれ「原告B1方敷地」,「原告B1方建物」のようにいう。また,上記の本件各土地の売買契約を総称して「本件各売買契約」,本件各建物の請負契約(原告B6方建物の売買契約を含む。)を総称して「本件各請負契約」といい,本件各売買契約と本件各請負契約とを総称して「本件各契約」といい,本件各契約に係る代金を「本件各代金」という。)。

イ  本件各売買契約には,瑕疵担保責任は宅地建物取引業法40条に基づき物件の引渡日から2年とする旨の特約(以下「本件特約」という。)が付されている(甲2~7の各1)。

(4)  原告らは,それぞれ,別紙一覧表の「引渡日」欄の日に,被告A1から本件各土地及び本件各建物の引渡しを受け,被告A1に対し,本件各代金を支払った。

(5)  本件各契約が締結された当時,本件各土地の地中には,いわゆるコンクリートガラ及びビニール片等の産業廃棄物が埋設されており,現在も同地中にこのような産業廃棄物が埋設されている。

(6)  原告らは,それぞれ,別紙一覧表の「解除日」欄の日に,被告A1に対し,上記(5)の産業廃棄物が本件各土地に埋設されていることが隠れた瑕疵に当たり,被告A1は瑕疵担保責任を負うとして,本件各契約を解除する旨の意思表示をした。

(7)  原告らは,平成21年5月20日に被告A1に送付された準備書面をもって,被告A1による詐欺を理由に本件各契約を取り消す旨の意思表示をした(記録上明らかな事実)。

(8)  被告A1は,平成22年3月19日に原告らに交付された準備書面をもって,本件各契約につき錯誤無効,瑕疵担保責任若しくは説明義務違反による解除又は詐欺取消しが認められたときは,被告A1が本件各土地及び本件各建物の明渡しを受け,かつ所有権移転登記手続を受けるまでは本件各代金の返還を拒絶する旨の意思表示をした(記録上明らかな事実)。

3  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  本件各契約につき錯誤無効,瑕疵担保責任若しくは説明義務違反による解除又は詐欺取消しが認められるか

ア 原告らの主張

(ア) 錯誤無効

原告らは,居住目的で本件各契約を締結したものであるところ,本件各土地には注射針等を含む産業廃棄物が大量に埋設されており,そのような土地を処分するときの客観的取引価格は零であって,原告らは,本件各契約を締結した時にこれらの事実を認識していれば,本件各契約を締結することはなかった。このことは,通常人を基準とし,一般取引上の通念に照らしても明らかである。

よって,原告らは,廃棄物の存在につき要素の錯誤に陥り,本件各契約を締結したものであるから,本件各契約はいずれも無効である。

仮に,上記の原告らの錯誤が動機の錯誤に当たるとしても,被告A1は本件各土地の地中に産業廃棄物が埋設されているという重要事項を原告らに説明しなかったのであり,原告らは居宅を建築する目的で本件各土地を購入したものであるから,地中に産業廃棄物が埋まっていないということは明示又は黙示に本件各契約の内容になっている。

(イ) 瑕疵担保責任に基づく解除

a 居宅の建築を目的とする土地の売買にあっては,産業廃棄物が地中に埋設されていないことが通常の性質として当事者間に予定されているというべきであり,本件各土地の地中に産業廃棄物が存在することは,原告らにおいて通常の注意をもってしても発見できない隠れた瑕疵に当たる。被告A1は地盤改良工事を行っているが,これはあくまで現在ある本件各建物を想定したものであるから,将来の増築や建替えを考えると,これによって本件土地の耐性が修補されているとはいえない。そして,原告らは,本件各土地の地中に産業廃棄物が埋設されていることにより,本件各土地上に建築された本件各建物において平穏な日常生活を送ることができず,今後同所に居住を継続することはできない。また,本件各建物を取り壊さない限り産業廃棄物を撤去することも不可能であるから,上記瑕疵を修補することもできない。

本件各請負契約は本件各売買契約とは別に締結されているが,実質的には居宅の購入という同一目的のための同一当事者間における一体の契約であるから,民法635条ただし書の適用はなく,本件各契約全体に同法570条が適用されるものというべきである。

そうすると,本件各土地には隠れた瑕疵が存在し,瑕疵の修補も不可能であって,平穏な日常生活を送るという原告らが本件各契約を締結した目的を達することもできないから,原告らは,瑕疵担保責任に基づき,本件各契約を解除することができる。

b 原告らは,被告A1から,本件各土地にコンクリートガラ等が埋設されている旨の説明を本件各契約を締結する前に受けたことはなかったし,それ以外の産業廃棄物が埋設されている旨の説明を受けたこともなかったから,本件各土地に産業廃棄物が埋設されていることが隠れた瑕疵に当たらないということはできないし,原告らが上記瑕疵の存在を追認したというような事実もない。

c 被告A1は,地中の産業廃棄物の存在という瑕疵の存在を知りながらこれを原告らに告げなかったから,売主の瑕疵担保責任の期間を引渡しから2年間に制限する本件特約は無効である。

(ウ) 説明義務違反に基づく解除

原告らは,居住目的で本件各契約を締結したものであるから,建物の敷地に産業廃棄物が埋設されていることは,本件各売買契約のみならず,本件各請負契約に付随する説明義務の対象となる事項というべきである。

被告A1は,本件各契約が締結される前の平成16年4月15日には,本件各土地の地中に産業廃棄物が埋設されているという,宅地の形質,環境に関する事項で,原告らが当該土地を買い受けるかどうかを判断するに当たって重要な影響を及ぼす事項(宅地建物取引業法47条1号ニ)を認識していた。それにもかかわらず,被告A1は,原告らに対して産業廃棄物の存在について説明することを怠ったのであるから,説明義務違反の責任を負う。

そして,上記のとおり,本件各土地の地中に産業廃棄物が存在することにより,原告らが本件各契約を締結した目的を達することができないから,原告らは,債務不履行に基づき本件各契約を解除することができる。

(エ) 詐欺取消し

被告A1及びその代表者である被告A2は,本件各土地の地中に産業廃棄物が大量に埋設されていることを知りながら,このことを原告らに告げずに,原告らとの間で本件各契約を締結し,原告らから本件各代金を受領した。

この被告らの行為は不作為による欺罔行為に当たり,原告らは,この欺罔行為により,本件各土地の地中に産業廃棄物があるとは思わず,上記(ア)のとおり錯誤に陥り,本件各契約を締結したのであるから,詐欺を理由に本件各契約締結の意思表示を取り消すことができる。

イ 被告らの主張

(ア) 錯誤無効について

被告A1は,本件各契約の締結に先立ち,原告らに対し,本件各土地からコンクリートガラやビニール片等が出土した旨説明しているから,原告らは,本件各契約を締結した時点において産業廃棄物の存在を知っていた。したがって,原告らに錯誤があったということはなく,仮に錯誤があったとしても,原告らには重大な過失がある。なお,本件各土地全体にわたって産業廃棄物が大量に埋設されている事実はないし,埋設されている産業廃棄物の中に注射針等の医療系廃棄物が含まれている事実もない。

また,本件各契約の締結について原告らに錯誤があったとしても,それは動機の錯誤にとどまり,この動機は被告A1に表示されていない。

そして,被告A1は,本件各土地について深さ1m前後の範囲で産業廃棄物を撤去し,地盤の改良工事も行っており,また,本件各土地の土壌から有害物質も検出されていないから,本件各土地における原告らの住宅建築及び生活には何らの支障もなく,要素の錯誤にも当たらない。

(イ) 瑕疵担保責任に基づく解除について

a 上記のとおり本件各土地に産業廃棄物が埋設されているとしても,本件各土地全体にわたって大量に埋設されているわけではなく,特に,原告B2方敷地及び原告B4方敷地については,埋設されている産業廃棄物は極めて少ない。また,原告らの心理的不安はともかく,地盤沈下のおそれや土壌汚染による人体への影響等はなく,原告らの住宅建築及び生活に何らの支障を及ぼすものではない。したがって,本件各土地は宅地としての性能に欠けるところはなく,瑕疵があるとはいえない。

b また,被告A1は,本件各契約の締結に先立ち,又は,その締結の際に,被告A1の負担で杭打ち工事等を実施することとなったことと併せて,本件各土地からコンクリートガラやビニール片等が出土した旨原告らに告げているから,本件各土地に隠れた瑕疵があるということもできない。さらに,被告A1は,平成16年11月の原告B2方敷地の浄化槽工事の際にペットボトル等の産業廃棄物が出土した旨を原告らに告げている。したがって,原告らは,産業廃棄物が本件各土地に埋設されていることを知りながら,本件各土地及び本件各建物の引渡しを受けたのである。

c 本件各請負契約は本件各売買契約とは別個の契約であり,本件各建物は既に完成しているのであるから,本件各土地に瑕疵があることをもって本件各請負契約を解除することはできない(民法635条ただし書)。

d 原告らは,本件各土地に産業廃棄物が埋設されていることを別紙一覧表の「引渡日」欄記載の本件各土地及び本件各建物の引渡時までには知ったから,1年の除斥期間(民法570条,566条3項)が既に経過している。また,本件各売買契約には,いずれも被告A1が瑕疵担保責任を負う期間を物件引渡しの時から2年間に限る旨の本件特約があり,原告B6については,引渡しから本件各契約の解除の意思表示まで2年を経過しているから,被告A1は瑕疵担保責任を負わない。

(ウ) 説明義務違反に基づく解除について

被告A1は,上記(イ)bのとおり,本件各契約の締結に先立ち,原告らに対し,本件各土地からコンクリートガラやビニール片等が出土したことを説明し,平成16年11月の原告B2方敷地の浄化槽工事の際,ペットボトル等の産業廃棄物が出土した旨を原告らに告げているのであるから,原告らに対する説明義務を尽くしている。

また,被告A1は,本件各契約を締結した時点において,上記浄化槽工事の際やその後に本件各土地から出土したような廃棄物が本件各土地に埋設されているとは認識していなかったから,これらの廃棄物の存在についてまで説明義務を認めることはできない。

(エ) 詐欺取消しについて

被告らが原告らを欺罔して本件各契約を締結させたとの原告らの主張事実は否認する。

(オ) 同時履行の抗弁

本件各契約につき錯誤無効,瑕疵担保責任若しくは説明義務違反による解除又は詐欺取消しが認められた場合には,被告A1は,本件各土地及び本件各建物の明渡し及び被告A1への所有権移転登記手続を受けるまで,本件各代金の返還を拒絶する。

(2)  瑕疵担保責任又は説明義務違反を理由とする損害賠償請求の当否

ア 原告らの主張

本件各土地に産業廃棄物が埋設されていることをもって,本件各契約の目的を達することが不可能とは認められず,瑕疵担保責任又は説明義務違反に基づく解除が認められないとしても,前記(1)ア(イ)及び(ウ)のとおり,本件各土地には瑕疵があり,被告A1には説明義務違反があるから,被告A1は,原告らに対し,瑕疵担保責任又は説明義務違反に基づく損害賠償義務を負う。

そして,土地に産業廃棄物が埋設されていると知りながら当該土地を購入する者はいないから,本件各土地の客観的な取引価値は零であり,そのような土地上に建築された本件各建物の客観的な取引価値も零である。したがって,原告らは,それぞれ,本件各代金額に相当する損害を被った。

イ 被告らの主張

前記(1)イ(イ)及び(ウ)のとおり,本件各土地に瑕疵はなく,被告A1に説明義務違反はないから,被告A1は損害賠償義務を負わない。

また,前記(1)イ(イ)dのとおり,瑕疵担保責任については除斥期間が経過している。

本件各土地及び本件各建物は客観的に無価値であるとはいえず,原告らが本件各代金額に相当する損害を被っているとはいえない。本件各建物については瑕疵は全くなく,本件各土地についても,深さ約2mまでの産業廃棄物を除去するための費用を差し引いた金額が本件各土地の評価額とされるべきであって,その除去費用相当額が損害というべきである。なお,除去費用を算定するに当たっては,産業廃棄物の埋設状況は各原告らの土地ごとに異なるから,これを考慮して算定すべきである。また,原告B2に関しては,浄化槽設置工事の際に産業廃棄物が出土したことにかんがみ,代金から50万円を減額している。

(3)  詐欺の不法行為等に基づく損害賠償が認められるか

ア 原告らの主張

前記(1)ア(エ)のとおり,原告らは,被告A1の欺罔行為により錯誤に陥って本件各契約を締結し,被告A1に対し本件各代金を支払い,これにより同額の損害を被った。そして,被告A2は,被告A1の代表取締役として上記欺罔行為を行ったのであるから,被告A1と連帯して民法709条又は商法266条の3に基づく責任を負う。

また,原告らは,一生に一度の買い物として本件各土地を居住目的で購入し,本件各建物を建築したが,その後,産業廃棄物の存在を知り,日常生活上,極度の不安感に襲われ,平穏な生活を送ることを妨げられたから,本件各代金額に相当する損害のてん補を受けるだけでは回復されない精神的損害を被った。この精神的損害を金銭に評価すると,原告ら各自につき300万円が相当である。

イ 被告らの主張

上記(1)イ(エ)のとおり,被告らが原告らを欺罔したという事実はない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  被告A1は,平成15年12月ころ,宅地として分譲する目的で,Cから,本件各土地を含む一団の土地を買い受けた。この土地については,平成16年5月7日,被告A1へ所有権移転登記がされた上,同月28日,分筆及び合筆により,宅地6筆(本件各土地)及び道路部分2筆となった。本件各土地は,市街化調整区域内に属し,第2種住居専用地域に準じた規制(絶対高さ規制10m等)に服している。

(甲2~7の各1・2,甲11,13~18,乙5,18)

(2)  本件各土地においては,平成16年3月から造成工事が開始されたが,同年4月ころ,同工事中にコンクリートガラやビニール,電気コードが掘り出されたことから,被告A1は,同年4月中旬ころまでに,本件各土地を深さ1m前後掘削し,掘り出されたコンクリートガラ等を処分した。これらの搬出には4tトラックで延べ20~30台を要し,処分費用はCが負担した。

原告らは,いずれも本件各契約の締結後に,被告A2から,コンクリートガラは取った旨の説明を受け,本件各土地にコンクリートのがれき程度のものが埋まっていたものと認識した。

(甲12,19の7,甲27~32,乙1の1~25,乙5,14,23,証人D,原告B1・同B2・同B3・同B4・同B5・同B6・被告A2各本人,弁論の全趣旨)

(3)  原告らは,それぞれ,自らの居宅の建築を目的として,前記第2,2(3)のとおり,被告A1との間で本件各契約を締結した。本件各契約のうち本件各売買契約には,被告A1が負う瑕疵担保責任の期間を,本件各土地の引渡日から2年間とする旨の本件特約がある。

(甲2~7の各1,甲11,乙13,弁論の全趣旨)

(4)  被告A1は,Eに委託し,平成16年6月18日,原告B6方敷地及び原告B5方敷地について地盤調査を行った後,同月24日から同月26日にかけて,上記各敷地につき,それぞれ9か所を深さ約4~6mにわたって掘削して固化剤を注入する湿式箱状改良工法による地盤改良工事を行った。その際,上記各敷地のいずれにおいても,地表から深さ約1~3mの間にプラスチック等の廃棄物が埋設されており,その総量は2tトラックで2~3台分ほどであった。

上記各敷地以外の本件各土地については,被告A1は,同年8月,Fに委託して,各土地にそれぞれ長さ6mの鋼管杭を約30本打設する鋼管杭打設工法による地盤改良工事を行った。鋼管杭打設工法を選択したのは,地中にコンクリートガラが残存しているため,土地を深く掘削することが困難であったからである。

(甲19の7,甲35,乙7~10,乙17,証人D)

(5)  平成16年11月22日,原告B2方敷地内において浄化槽埋設工事が行われていた際,ペットボトルやビニール,生ごみ等の廃棄物が出土した。この際に原告B2は立ち会っており,同原告は,隣接する敷地の所有者である原告B3にもこの旨を連絡した。

これを受け,被告A1は,同年12月1日に,原告B2方敷地及び原告B3方敷地において試掘をしたが,事前に原告B2及び同B3に対してその日に試掘を行う旨を連絡しなかったため,同原告らはこれに立ち会うことができなかった。この試掘に際しては,それぞれの敷地について各2~3か所の地点を約1m掘り下げた。同原告らは,試掘された後の穴に廃棄物がなかったこと等から,当該浄化槽の周り以外には廃棄物は埋設されていないと考えた。

(甲31,32,乙11,14,証人D,原告B2・同B3各本人)

(6)  原告らは,前記第2,2(4)のとおり,それぞれ別紙一覧表の「引渡日」欄の日に,被告A1から本件各土地及び本件各建物の引渡しを受け,本件各代金を被告A1に支払った。原告B2は,代金を精算するに際し,上記(5)のとおり廃棄物が出土したことを理由として50万円の値引きを受けた。

(乙16の1~3,原告B2・被告A2各本人)

(7)  被告A1従業員のGは,平成18年8月18日,被告A2に対し,3000万円を払わなければ,本件各土地を掘り起こし,産業廃棄物が埋まっていることを世間に明らかにする旨申し向けて同被告を恐喝した。これに対し,被告A2はGを解雇したが,Gは,同月22日ころ,原告らに対し,本件各土地には注射針等を含む産業廃棄物が大量に埋設されているなどと記載された文書を示した。

なお,Gは,平成19年6月12日,被告A2に対する上記恐喝未遂事件について,さいたま地方裁判所において懲役1年6月,執行猶予3年の有罪判決を受けた。

(甲8,27~32,乙4,14,被告A2本人)

(8)  原告らは,上記(7)の文書を受けて,平成18年9月10日,加須市役所生活環境課及び埼玉県東部環境管理事務所の各職員の立会いの下,本件各土地のそれぞれについて深さ約2mにわたって試掘を実施した(この試掘を以下「平成18年9月試掘」という。)。この際,地表から約1.5mの深さで黒色の液体が浸み出し,木くず,がれき,廃プラスチック,ビニール,アスファルトコンクリート等の廃棄物が掘り出されるなど,いずれの土地からも廃棄物が出土した。

(甲19の1~3,甲20,26,33,34,乙12)

(9)  当裁判所が選任した鑑定人Hが平成20年12月17~19日にかけて本件各土地において地質調査を行ったところ,別紙廃棄物埋設状況①及び同②のとおり,別紙調査位置図の各調査地点において,表層から地山に至るまでの間に,コンクリートガラ,鉄筋コンクリート片,がれき,アスファルト廃材,ビニールくず,紙くず,鉄くず,針金,木片,木くず,ゴム片等の種々の建築系廃棄物が埋設されていた(鑑定の結果)。

(10)  原告らは,それぞれ,被告A1から本件各土地及び本件各建物の引渡しを受けてから現在に至るまで,本件各建物に居住しているが,本件各建物については,いずれも地盤沈下等の不具合は生じていない。

また,平成18年9月試掘の際に採取された上記黒色の液体は,木くず等が嫌気性の状態で地中に埋められ,金属硫化物が生成されたために黒色になったものであり,有害というわけではない。そして,上記黒色の液体や同じく平成18年9月試掘の際に採取された土壌に含まれる成分(カドミウム,六価クロム,鉛,ひ素,シアン,有機りん等)を検査した結果,ひ素について,原告B2方敷地の土壌において加須市環境保全条例による基準値(以下「基準値」という。)を1ℓ 当たり0.007mg上回ったほかは,いずれも基準値を下回っていた。

(甲19の3・5,乙2の1~10,乙13,弁論の全趣旨)

(11)  被告A1は,平成18年4月30日,Iとの間で,本件各土地の近隣に所在する加須市a町b番c及び同所d番の土地(合計2372m²)を4500万円で同社に売却する旨の契約を締結した。その際,被告A1は,Iに対し,この土地には廃棄物が埋設されていたが,深さ約5mまで撤去したものの,深さ7m位まで廃棄物が埋設されている可能性があるので,建物建築の際には地盤補強工事を施した方が望ましいことを説明し,同社との間で瑕疵担保責任を負わない旨を合意している。

(甲22,乙21,22)

2  争点(1)(本件各契約につき錯誤無効,瑕疵担保責任若しくは説明義務違反による解除又は詐欺取消しが認められるか)について

(1)  錯誤無効の主張について

本件各土地には,前記1(8)及び(9)のとおり,コンクリートガラ,アスファルト片等のさまざまな種類の廃棄物(産業廃棄物)が埋設されている。しかしながら,本件各土地に埋設されている廃棄物の中には医療系の廃棄物は含まれておらず(原告らは,廃棄物の中には注射針等の医療系廃棄物も含まれている旨主張し,これに沿う証拠(甲8)もあるが,平成18年9月試掘の際や,当裁判所の鑑定の際の調査においても医療系廃棄物が出土したことはうかがわれないことに照らせば,医療系廃棄物が本件各土地に埋設されているとまでは認めることはできない。),平成18年9月試掘の際に本件各土地から浸み出した黒色の液体は有害なものではなく,当該液体や本件各土地から採取された土壌についても,わずかに原告B2方敷地の土壌についてひ素が基準値を上回ったにすぎないことからすれば,本件各土地の地中に埋設されている廃棄物は,原告らの健康に悪影響を与えるものではないものと認めることができる。また,本件各土地については,前記1(4)のとおり地盤改良工事が行われており,同(10)のとおり本件各建物には現在に至るまで地盤沈下等の不具合が生じていないことからすれば,本件各建物の安全性は確保されているものと認めることができる。

そうであるとすれば,原告らが本件各土地を購入した価格ではともかく,ある程度減価した価格で本件各土地を購入する者がいることは当然想定されるのであって,原告らが居宅の建築目的で本件各土地を購入したことを勘案しても,一般取引上の通念に照らして,本件各土地を購入する者がいないとか,本件各土地の客観的価値が零であると認めることはできないから,原告らが本件各契約を締結した時点において,本件各土地には廃棄物が埋設されていないとの錯誤に陥ったとしても,これが要素の錯誤に当たるものと認めることはできない。したがって,原告らが本件各土地に廃棄物が埋設されていることにつき錯誤に陥ったか否か,錯誤に陥ったことにつき重過失があるか否か等の点について判断するまでもなく,本件各売買契約が錯誤により無効であると認めることはできず,同様に本件各請負契約が無効であると認めることもできない。

(2)  瑕疵担保責任又は説明義務違反に基づく解除の主張について

ア(ア) 上記(1)のとおり,原告らは居住目的で本件各契約を締結したものであるところ,本件各土地に埋設されている廃棄物が原告らの健康に被害を与えたり本件各建物の安全性に影響を与えたりするものではなく,したがって,本件各土地及び本件各建物において日常生活を送る上で格別の支障があるとは認められないが,前記のような大量の廃棄物が広範囲にわたって埋設されているという嫌悪すべき事情があり,これに加えて,将来増改築する場合,本件各建物の建築の際のように,地盤改良工事あるいは廃棄物の撤去のために費用を要することも予想されることからすると,本件各土地は,通常有すべき性質を欠いているというべきであり,この意味において瑕疵があるということができる。

(イ) 被告らは,原告B2方敷地及び原告B4方敷地については,埋設されている産業廃棄物は極めて少なく,瑕疵には当たらない旨主張する。そのように主張する根拠は,当裁判所の鑑定の結果に基づくものと考えられるが,同鑑定においては,本件各土地の各1か所(原告B5方敷地については2か所)について機械ボーリングによる調査,各3~7か所についてハンドオーガーによる調査が,それぞれ行われたにすぎず,これらの調査結果から原告B2方敷地及び原告B4方敷地について埋設されている廃棄物が極めて少ないと即断することはできず,かえって,前記1(5)のとおり,原告B2方敷地内からはペットボトルやビニール,生ごみ等の廃棄物も出土していることからしても,上記各敷地における廃棄物の埋設状況が他の本件各土地のそれと著しく異なるとは認め難いのであって,被告らの上記主張は採用することができない。

(ウ) また,被告らは,被告A1において,本件各契約の締結の際あるいはこれに先立ち,前記1(2)の廃棄物が出土した旨を原告らに告げており,同(5)の平成16年11月22日に廃棄物が出土した旨もそのころ原告らに告げた旨主張し,被告A2も,その陳述書(乙14)及び本人尋問においてこれに沿う陳述をしている。

しかしながら,原告らは,前記1(2)の被告A2の説明によって,本件各土地にはコンクリートのがれき程度のものが埋まっていたが,それは除去されたものと認識していたのであるし,平成16年11月22日に廃棄物が出土したことについては,原告B2及び同B3以外の原告らが知っていたと認めるには足りない上,原告B2及び同B3についても,その後の同年12月1日の試掘には立ち会うことができず,試掘後の穴に廃棄物がなかったことから,それ以上には廃棄物が本件各土地に埋設されていないと考えたのであるから,結局,原告らにおいて,本件各土地及び本件各建物の引渡しを受けた後である平成18年9月試掘のころまでに本件各土地に前記のような種々の産業廃棄物が大量に埋設されていると認識していたとは認められない。

したがって,原告らが上記のような産業廃棄物の存在を認識して本件各契約を締結したとか,同廃棄物の存在を容認して本件各土地及び本件各建物の引渡しを受けたと認めることはできないから,同廃棄物の存在が隠れた瑕疵に当たることは明らかである。

(エ) 被告らは,原告らは本件各土地に産業廃棄物が埋設されていることを本件各土地及び本件各建物の引渡しを受けるまでには知っていたというべきであるから,仮に被告A1に瑕疵担保責任が認められたとしても,1年の除斥期間が既に経過している旨主張するが,上記(ウ)のとおり,原告らが上記引渡し時において本件各土地に大量の産業廃棄物が埋設されていることを認識していたとは認めることができない上,前記1(3)のとおり,本件各売買契約には,被告A1が負う瑕疵担保責任の期間を,本件各土地の引渡日から2年間とする本件特約があるのであるから,民法570条の適用は排除されていると解すべきであり,上記主張はその前提を欠く(なお,原告B6については,後記のとおり同条の適用が認められる。)。

ところで,被告らは,原告B6については,引渡しから解除の通知までに2年間が経過しているから,本件特約により被告A1は瑕疵担保責任を負わない旨主張する。しかしながら,被告A1は,本件各契約を締結する前の平成16年4月ころに行われた造成工事の際に本件各土地からコンクリートガラ等の廃棄物が出土し,本件各土地を深さ1m前後掘削して,4tトラックで延べ20~30台を要する量の廃棄物を搬出したというのであるから,その当時においても本件各土地に更にコンクリートガラを中心とする廃棄物が埋まっている可能性があることを予測し得たものであり,また,本件各土地を調査することにより,廃棄物の埋設状況を容易に把握することができたにもかかわらず,そのような調査をすることなく,原告B6に対して廃棄物がなお存在する可能性があることについての説明もしないまま,同原告との間で本件各契約を締結し,その後も同原告に原告B6方敷地及び原告B6方建物を引き渡すまでの間に前記1(4)のとおり原告B6方敷地から廃棄物が出土しているのに,同原告に上記のような説明もせず,原告B6方敷地における廃棄物の埋設状況を調査することもせずに同原告に原告B6方敷地及び原告B6方建物を引き渡したという事実経過に照らすと,民法572条の趣旨に照らし,同原告に対し,信義則上本件特約の効力を主張することはできないと解するのが相当である。この場合,同原告との関係では,原告B6方敷地の売買契約に関して同法570条が適用されることになると解される。そして,同原告が原告B6方敷地に大量に産業廃棄物が埋設されていることを知ったのは,上記(ウ)のとおり,平成18年9月試掘の際と認められ,同原告が被告A1に対して契約解除の意思表示をしたのは,別紙一覧表のとおり平成18年12月19日であるから,結局,被告A1は,同原告に対しても瑕疵担保責任を負うべきものと認められる。

(オ) 進んで,本件各土地につき上記の瑕疵があることにより,原告らが本件各売買契約を解除することができるかについて検討する。

原告らは,日々起居する家の下に大量の廃棄物が埋まっていることによって平穏な日常生活を送るという本件各契約の目的を達することができない旨主張するけれども,上記(ア)のとおり,本件各土地の地中に産業廃棄物が埋設されているからといって,原告らが本件各土地及び本件各建物において日常生活を送ること自体に支障はなく,このことは心理的な嫌悪感にとどまるものであるし,将来の増改築の際にも地盤改良工事ないし廃棄物の撤去に費用を要することが予想されるという程度のものであることからすると,本件各土地に上記の瑕疵があるからといって,これにより本件各契約の目的を達することができないと認めることはできず,原告らは,民法570条,566条1項前段により本件各契約を解除することはできないというべきである。

イ また,被告A1が,本件各契約を締結した際に,本件各土地にコンクリートガラを主体とした廃棄物が埋設されていたことを認識していたとしても,平成18年9月試掘や当裁判所の鑑定によって明らかになったような種々の種類の産業廃棄物が大量に埋設されていることまでを実際に認識していたと認めるに足りる証拠はなく,上記ア(オ)のとおり,本件各土地に廃棄物が埋設されていることによって,本件各契約を締結する目的を達することができないということもできないから,原告ら主張の説明義務違反を理由に本件各契約を解除することもできないというべきである。

(3)  詐欺取消しの主張について

上記のとおり,被告A1において,本件各契約の締結時に,本件各土地に種々の種類の産業廃棄物が大量に埋設されていることまで認識していたと認めるに足りる証拠はないから,被告A1が原告らを欺罔して本件各契約を締結させたと認めることはできない。したがって,詐欺取消しを前提とする原告らの主張は採用することができない。

3  争点(2)(瑕疵担保責任又は説明義務違反を理由とする損害賠償請求の当否)について

(1)  前記2(2)のとおり,本件各土地には種々の産業廃棄物が大量に埋設されているという瑕疵があるから,被告A1は,この瑕疵により原告らが被った損害を賠償すべき義務がある。

(2)  そこで,原告らが被った損害の額について検討する。

原告らは,本件各土地の客観的な取引価値は零であり,そのような土地上に建築された本件各建物の客観的な取引価値も零である旨主張するけれども,既に説示したところからすると,本件各建物には瑕疵はなく,本件各土地についても,客観的な取引価値が零であると認めることはできない。

そして,J作成の不動産鑑定評価書(乙18)は,廃棄物が埋設されていることによって,本件各土地につきいずれも26%減額して評価されるというものであるが,不動産業者である被告A1の代表者である被告A2は本件各土地に廃棄物が埋設されていると知っていたら本件各土地を購入することはない旨本人尋問において供述していること,同評価書は減価要因として廃棄物が埋設されているという心理的嫌悪感を挙げているところ,前記のとおり,将来増改築される際には,地盤改良工事や廃棄物の撤去に費用を要することが予想され,このことも減価要因と認められること,前記1(11)の事実などを勘案すると,本件各土地の価額は,上記の瑕疵の存在により,当該瑕疵がない場合と比較して50%減価するものと認めるのが相当である。

証拠(乙18)によれば,本件各土地に廃棄物が埋設されていないとした場合の評価額は別紙一覧表の「廃棄物がない場合の評価額」欄記載の金額であると認められ,この金額から50%減額した額は同表の「評価額」欄記載の金額となるところ,当該金額と本件各土地の代金との差である同表の「損害額」欄記載の金額が上記瑕疵により原告らがそれぞれ被った損害として被告A1が賠償すべき額と認められる(原告B2に関しては,前記1(6)のとおり50万円の値引きを受けており,同原告に係る「損害額」欄記載の金額は,この50万円を控除した後の金額である。)。

(3)  また,仮に,被告A1に説明義務違反が認められるとしても,それに基づく損害の額は,上記(2)の瑕疵担保責任に基づく損害の額を超えるものではないと認められる。

4  争点(3)(詐欺の共同不法行為等に基づく損害賠償が認められるか)について

前記2(3)のとおり,本件各契約の締結に関して被告らが原告らを欺罔したと認めるに足りる証拠はないから,被告らの共同不法行為に基づく損害賠償請求(被告A2については,商法266条の3に基づく請求も)はいずれも理由がない。

5  結論

以上によれば,原告らの被告A1に対する請求は,それぞれ別紙一覧表の「損害額」欄記載の額及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求については理由がなく,被告A2に対する請求は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤正男 裁判官 村主幸子 裁判官 谷藤一弥)

(別紙物件目録,廃棄物埋設状況及び調査位置図省略)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例