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さいたま地方裁判所 平成20年(わ)1176号 判決 2008年9月26日

主文

被告人を懲役1年6月に処する。

この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

被告人から金30万円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,a市環境産業部下水道課長として,同市の発注する下水道事業に関する業務委託契約の指名業者の選定に関わる職務及び下水道料金徴収業務委託費を算定する職務等に従事していたものであるが,平成15年10月20日ころ,b県c市内のビル7階男子トイレ内において,A株式会社取締役Bから,平成15年3月にa市が指名競争入札により発注する「浄化センター等維持管理業務」の指名業者の選定にあたって同社が指名競争入札参加者となるよう便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼,同市が行う「検針業務及び水道料金等収納業務」等の入札に際し便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,現金30万円の供与を受け,もって自己の職務に関して賄賂を収受したものである。

(証拠の標目)【省略】

(法令の適用)

被告人の判示所為は,平成15年法律第138号附則14条により同法による改正前の刑法197条1項前段に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとし,被告人が判示犯行により収受した賄賂は没収することができないので,同法197条の5後段によりその価額金30万円を被告人から追徴することとする。

(量刑の理由)

1  本件は,当時b県a市の環境産業部下水道課長であった被告人が,同市発注に係る委託業務を受注していた会社の取締役から,同市が行う業務の入札等に際し便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに,現金30万円の供与を受けたという収賄の事案である。

2  被告人は,自己の株取引で多額の損失を出したことやパチンコ等の遊興費に不足を感じたことを契機として,業者に接待されるなかでその便宜を図る関係になって本件犯行に至ったものであり,その経緯,動機に酌量の余地は全くない。

さらに,被告人による本件行為により,入札等の市政が適正かつ公正に行われていると信頼していた同市民の信頼を裏切り,その信用を失墜させたことは重大である。被告人は,中堅幹部職員として求められる公僕精神を失い,私利私欲のために公務員の廉潔性や公務の中立,公正さの大切さを墨守すること忘れて本件犯行に至ったことは強い非難に値する。被告人が,さして逡巡することなく自己の権限や立場等を利用して,多額の賄賂を収受した背景には業者との癒着によって公務を遂行していた事情が窺え,このような公私混同を戒め,同種犯行を予防するためには,厳罰相当とも考えられる。

3  他方,被告人は,本件が発覚して以降,一貫して事実関係を認めており,当公判廷においても,市民の信頼を裏切る行為に及んだことを悔い,日本司法支援センターに対し金100万円を贖罪寄付するなど深く反省の態度を示している。

また,被告人は,本件により同市から懲戒免職処分を受け,その受け得る退職金のすべてを失ったほか,厳しい社会的批判を受けるなどの社会的制裁を受けている。さらに,被告人の妻が当公判廷に出廷し,今後は家族全員で被告人を支えていく旨確約しているほか,被告人にこれまで前科前歴はなく長年にわたり勤続し,今後も社会内で稼働することを期待できることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。

4  以上の事情を踏まえると,本件犯情は悪質であると言うほかないが,改悛の情が顕著と認め,被告人に対しては主文の刑を科した上で,その刑の執行を猶予し,社会内において自力更生する機会を与えるのが相当であると判断した次第である。

(求刑 懲役1年6月 金30万円の追徴)

(裁判長裁判官 大谷吉史 裁判官 西野牧子 裁判官 長橋政司)

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