大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成20年(わ)171号 判決 2008年9月16日

主文

被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は,

第1A(当時41歳)を殺害して同人から金品を強取しようと企て,分離前相被告人B,同Cと共謀の上,平成17年10月20日午前1時ころ,a県b市内の国道側道上において,同所に停止中の上記A使用に係る普通乗用自動車に乗車していた同人に対し,その顔面を手拳で数回殴打するなどして降車させ,同人の両脇を抱えて同所付近に停止中の被告人X使用に係る普通乗用自動車内に押し込むなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して,上記A使用に係る車両内にあった上記A所有の現金約350万円を強取した上,そのころから同日午前1時10分ころまでの間,同所からa県c市内のパーキングエリアに至るまでの路上を走行中の被告人X使用に係る車両内において,殺意をもって,上記Aの左前胸部をナイフ様の刃物で突き刺し,よって,そのころ,同車両内において,上記Aを左胸部刺創による胸部臓器損傷に伴う失血により死亡させて殺害し,

第2前記B,同C,分離前相被告人D及びEと共謀の上,同日午前5時ころから同日午前6時ころまでの間,d県e市内のF方敷地内において,深さ約1.5メートルの穴を掘った上,前記Aの死体を同穴に落とし入れて土中に埋没し,もって死体を遺棄し

たものである。

(証拠の標目)【省略】

(確定裁判)

(1)  被告人Xは,平成19年4月27日東京地方裁判所で住居侵入,強盗傷人,建造物侵入,強盗致傷,窃盗,強盗の各罪により懲役22年に処せられ,その裁判は同年10月17日に確定し,(2)被告人Yは,平成18年11月15日東京地方裁判所で建造物侵入,住居侵入,強盗致傷,窃盗,強盗の各罪により懲役13年に処せられ,その裁判は平成19年5月9日に確定したものであって,これらの事実はいずれも検察事務官作成の各前科調書(乙35,50)によって認める。

(法令の適用)

被告人両名の判示第1の所為はいずれも刑法60条,240条後段に,判示第2の所為はいずれも同法60条,190条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪についていずれも所定刑中無期懲役刑を選択し,被告人Xについては判示各罪と前記確定裁判(1)の罪につき,被告人Yについては判示各罪と前記確定裁判(2)の罪につきいずれも同法45条後段により併合罪の関係にあるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について,更に処断することとし,なお,判示各罪もまた同法45条前段により併合罪の関係にあるが,同法46条2項本文,10条により重い判示第1の罪につき選択した無期懲役刑で処断し他の刑を科さないこととして,被告人両名をそれぞれ無期懲役に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件事案の概要

本件は,分離前相被告人Bにおいては,G組系列暴力団の若頭でH組組長の地位にあったが,本来格下であるべきG組I組の若頭補佐の地位にあった被害者から事実上配下に置かれて顎使されていたことに憤懣を抱き,この事態を打開しようと決意し,以前から三社祭りの関係で面識のあった元暴力団組員の被告人Xに対し,被害者の殺害及び死体遺棄を依頼したところ,被告人Xは1000万円の報酬を条件にこれを承諾し,かねてから強盗団の仲間であった暴力団組員の被告人Yや分離前相被告人Cに順次この話を持ちかけてその同意を得た上,被害者を金品強取の目的で殺害し,被害者が所持していた現金約350万円を強取した強盗殺人(判示第1)を実行し,さらにその罪跡を隠滅するために被害者の死体を土中に埋めて死体遺棄(判示第2)の犯行を敢行したという各事案である。

2  本件犯行の経緯

(1)  Bは,平成17年8月ころ,同人に対する債権の取り立てに来るなどしていた被害者から誘われ,同人と一緒に共同で仕事をすることを承諾して,同人の運転手などをしていた。しかし,Bは,被害者が組関係の序列を無視し同人から配下扱いされ報酬も与えられず理不尽に度々暴力を振るわれたことから,同人に対して強い憤懣を抱くようになった。被告人Xは,同年9月下旬ころから同年10月上旬ころにかけて,行きつけのダーツバーなどにおいて,Bから被害者からの暴力等について相談を持ちかけられ,結局,同月17日までの間に,1000万円の報酬と引き替えに同人を殺害してその死体をどこかに遺棄して処分するよう依頼された。被告人Xは,Bから,被害者がギャンブル等の資金として常に300万ないし400万円の現金を携行しており,これを奪って報酬の一部に充てるとか残余の報酬も支払いする旨約束されていた。

(2)  また,被告人Yは,所属する暴力団組織の事務局長として毎月末に上部組織に上納金を納めなければならない立場にあり,被告人X名義で借金をしてもらうなど金銭的に窮状していたため,被告人Xらと強盗団を結成して強盗を繰り返していたものであるところ,本件各犯行当時にも借金が約120万円残っていた。被告人Xは,Bからの依頼を承諾し,同人から依頼を受けるのと併行して,同月17日までの間に,共に強盗事件を繰り返してきた被告人Y及びCに計画をもちかけ,同人らの了承を得た。

3  本件犯行の態様等

(1)  同月18日午後,被告人Xは,Bからの電話で,被害者が現在ギャンブル等のために多額の現金を所持していることや,Bが人けのないところに被害者を連れ込むなどして同人殺害の機会を作る旨聞かされ,電話で被告人Y及びCを呼び出した。その後,被告人X,被告人Y,Cは,Bの連絡を受けながら,被害者を乗せて競輪場等を回るB運転車両の後をCの運転する被告人Xの使用する車両で後を付けて,被害者殺害の機会を窺った。そして,同月20日午前1時ころ,B運転車両が人けのない路上に停車したところ,被告人らはB運転車両から被害者を引きずり出し,暴行を加えて被告人Xの使用する車両に乗せた上,ロープやシートベルトを用いて被害者の身体を緊縛した上で,Cにおいてナイフ様のもので被害者の左前胸部を突き刺して殺害している。その犯意は強固で,態様は粗暴かつ残忍で冷酷な犯行である。

(2)  その後,被告人Xは,殺害した被害者の死体を遺棄するため,義兄であるEに連絡をして同人の舎弟である分離前相被告人Dを手伝いとして寄越してほしい旨依頼し,Eの指示を受けて合流したDと共に,被害者の死体を遺棄した。

(3)  一方,Bは,被害者が所持していた現金約350万円が入ったバッグを奪い,後日,被告人Xからの要求を受け,このうち330万円を報酬として被告人らに手渡した。被告人両名及びCは,いったんこれを3等分したものの,被告人Xは,過去に被告人Yのために被告人X名義でした借金の利息の立て替え分との相殺という口実で,被告人Yには分け前を渡さなかった。

(4)  被告人らは,Bから提示された多額の報酬欲しさから同人の依頼を受け,自分たちとは特段の接点も利害関係もない被害者の殺害に及んだものであり,その利欲的で自己中心的な動機に酌量の余地は全くないし,本件の財産的被害は,現金約350万円と多額である。

(5)  さらに,被告人らは,犯行発覚を防ぐべく,殺害した被害者の死体を自動車で運搬し,約1.5メートルの深さの穴を掘った上でその死体を同穴に落とし入れて土中に埋めたのであって,死体遺棄の態様も,被害者の人格に対する配慮の欠片もない非道で悪質なものである。

(6)  本件により,被害者は,その生命を奪われて遺棄された結果,約2年後に見るも無惨な姿で発見されたという結果は極めて重大である。普段行動を共にしていて信頼していたBから突然暴行を加えられ,その後現れた見知らぬ被告人らにも襲われて殺害された被害者の受けた驚愕,恐怖感,苦痛は甚大であったと思料される。

(7)  被害者の無念さはもとより,残された遺族の悲しみも深く大きい。被害者の妻は当公判廷において,夫を殺害された憤り,悔しさの心中を吐露し,被告人らの刑罰についてはいずれも極刑を含む厳罰を望む旨述べており,その処罰感情は峻烈であることは看過し難い。

4  被告人Xの個別情状

ところで,被告人Xは,Bが被害者から度重なる暴力を受けて切迫した状況で同人殺害を懇願したことから同情心が湧いたとも説明している。被害者が死亡している現在その事の真偽は不透明な部分が存するが,仮にそのような事情が存していたとしても,被害者の殺害を正当化できる筈もないことは自明の理であり,被害者が,被告人らの犯行により,尊い生命を奪われることを甘受すべき道理はない。

被告人Xは,報酬がなければ本件各犯行に及ぶことはなかったとも断言しているし,Bからの依頼を受けるにあたって同人に対して報酬金額を確認していること,被害者を乗せたB運転車両を追跡している際にBから被害者の所持金の増減につき報告を受けており,これに強い関心を有していたこと,さらには,本件後にBに対して報酬の支払いを要求していることなども併せみると,被告人Xは主観的には自ら感じた通り正直に供述しているが,客観的にはBに対する同情心に藉口して,自己の良心の声に耳を塞ぎ人助けの美名の下で報酬欲しさからBからの依頼を受けたと認定,評価せざるを得ないと思われる。

また,被告人Xは,本件により,前記被害額の約3分の2にあたる220万円を受け取っており,共犯者間の中で最も多額の利得を得ている。この点でもその犯情は悪質である。そして,被告人Xは元暴力団組員であり,その素行は不良であるだけでなく,Cらと共に強盗団を結成し,本件犯行前に犯した強盗致傷罪等で懲役22年に処せられた前科があり,その規範意識は相当鈍麻している。なお,被告人Xに対し,本件犯行を持ちかけたのはBであるが,その後共犯者らを誘い込み,死体遺棄についてもDを呼び出すなど,強盗殺人,死体遺棄のいずれの犯行についても具体的に本件各犯行の計画を立てるなど終始,積極的に犯行を主導した首謀者の地位にあったことは否めない事実である。

そうすると,被告人Xが,被害者の遺族に対して謝罪文を作成して弁護人を通じてこれを送付していること,被告人Xの妻が体調が芳しくないなか情状証人として当公判廷に出廷して,被告人Xの帰りを待つ旨証言していること,同妻も含めて養うべき家族がいることなど被告人Xに酌むべき事情を十分斟酌しても,その刑事責任は極めて重大であるというほかない。

5  被告人Yの個別情状

被告人Yは,もっぱら利欲目的から,自己中心的な考えで軽率にも深く思慮することなく,何ら躊躇することなく各犯行に及んでおり,その身勝手な動機において斟酌すべきものはない。また,強盗殺人の主要な実行行為を分担し,死体遺棄についても自ら穴を掘り,被害者の死体をここに落とし入れて埋めるなど,いずれの犯行においても被告人Yの果たした役割は大きい。また,それまで暴力団組員として活動し,被告人Xらと強盗団を結成していたことが本件強盗殺人や死体遺棄の犯行をためらうことなく実行させた遠因になっていること,本件各犯行の以前に犯した強盗致傷等の犯罪で懲役13年に処せられた以外にも古い懲役前科が存するなど規範意識の鈍麻が否定できない。

そうすると,被告人Yは,共犯者間の中では最も早い段階で本件各犯行を告白して本件事案の真相解明に協力してきたこと,結果として本件による報酬の分け前は受け取っていないこと,その内縁の妻が情状証人として当公判廷に出廷し,今後も被告人Yの帰りを待ち続ける旨証言していること,その知人が,被告人Yの人となりを高く評価して被告人Yが社会復帰した際には雇用してその更生に協力する旨の上申書を提出していることや被告人Yの反省悔悟の情が著しいと認められることなどを考慮しても,本件各犯行を遂行するにあたって必要不可欠な役割を果たした被告人Yの刑事責任も,重大である。

6  結論

前記のような本件犯行の残虐,非道,冷酷な犯行態様,被害者の死亡という重大な結果等にかんがみれば,被告人両名が本件犯行を素直に認め,当公判廷においても,被害者やその遺族に対する謝罪の念を述べるなどして深く反省していることなど被告人両名にとってそれぞれ酌むべき一切の事情を最大限考慮しても,被告人両名の刑事責任に径庭は無く,それぞれ無期懲役刑を選択し,生涯をかけてその罪を償わせることを相当と判断した次第である。

(求刑 被告人両名につき無期懲役)

(裁判長裁判官 大谷吉史 裁判官 西野牧子 裁判官 長橋政司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例