大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成20年(ワ)2844号 判決 2010年12月01日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(Aによる本件報告書作成の違法性)について

(2)ク 以上によれば、Aは、本件記載内容1の「(Bが)Cに一度だけ出向したことがある」という部分、本件記載内容3、本件記載内容7について、Bが供述していない内容をBが供述したものとして記載したと認められる。

なお、Aが意図的にBの供述をねつ造したと認めるに足りる証拠はないものの、Aには、上記のとおり、Bから聴取した内容を正確に記載すべき義務があったところ、Bが供述していない事実を、Bからの聴取内容として本件報告書に記載したことからすると、少なくともAには職務の執行に当たり過失があったというべきである。

よって、Aは、違法に本件報告書に上記各記載をして、これを作成したものと認められる。

2  争点(2)(原告に生じた損害)について

(1)  原告は、本件報告書が刑事訴訟において証拠として使われることにより、不当な処罰を受けるのではないかとの恐怖やその他の精神的苦痛を受けたことが原告の損害である旨主張する。

しかし、本件報告書は、刑事訴訟法上は伝聞証拠に該当し、原告又は弁護人が証拠とすることに同意した場合などの例外を除いて、裁判において証拠とされることはない。そうであれば、虚偽の内容が記載された本件報告書が作成されたこと自体によって原告に上記主張の具体的な損害を与えたと評価することはできないし、検察官が本件報告書の証拠調べ請求をした段階においても、原告又は弁護人がこれを証拠とすることに同意しない限りは証拠として採用されない以上、原告に具体的な損害を与えたとはいえない。そして、原告と弁護人は、本件刑事事件の公判において、当初本件報告書を証拠とすることに不同意としたことにより、本件報告書がこの時点で証拠として採用される可能性を排除したのであるから、これによって、本件報告書が証拠とされることによって生じ得る精神的損害の発生を防いだものというべきである。そしてその後、原告は本件報告書を証拠とすることに同意し、その結果裁判所によって証拠として採用されたのであるが、そのために不当に処罰されることに対する恐怖等の精神的苦痛を原告が受けたとしても、それは原告が本件報告書を証拠として採用することに同意した結果に基づくものというべきである。

以上によれば、原告が、本件報告書の作成によって不当に処罰されることに対する恐怖やその他の精神的苦痛を受けたとは認められない。

(2)  また、原告は、本件報告書が現実に原告に対する不利益な量刑の原因となった旨主張するが、それを認めるに足りる証拠はない。

(3)  さらに、原告は、Bが警察に全く虚偽の事実を語っていることに驚愕、落胆し、人間不信に陥ったことや、Bをして虚偽の供述をさせてしまう警察の捜査に恐怖を感じたことが損害である旨主張する。

しかしながら、本件報告書の内容を読んだ原告が、上記のような驚愕、落胆、恐怖などの心情を抱いたと認めるに足りる証拠はないし、仮に、原告がそのような心情を抱いたのだとすれば、本件報告書を本件刑事事件の証拠とすることに同意するとは考えられないところ、原告と弁護人は本件報告書を証拠とすることに同意していることからすると、原告がそのような心情を抱いたとは認められない。

(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 八木貴美子 水越壮夫)

報告書記載内容目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例