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さいたま地方裁判所 平成20年(ワ)683号 判決 2009年4月22日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、14万円を支払え。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は、被告の会計課出納担当主幹である原告が、a市職員労働組合(a市職員組合)に加入届を提出したところ、同組合は埼玉県央広域公平委員会(本件公平委員会)の定めた管理職員等の範囲に関する規則(本件規則)に会計課出納担当主幹は管理職員等に該当すると定めていたことから、加入を拒否したので、原告が、被告に対し、本件公平委員会が違法な本件規則を維持したことにより原告の団結権が侵害されたと主張して、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めている事案である。

2  争いのない事実

(1)  原告は、被告において会計課出納担当主幹の地位にある。

(2)  被告は、普通地方公共団体である。

(3)  本件公平委員会は、管理職員等の範囲に関し、本件規則を定めている。

(4)  原告は、平成19年7月25日、a市職員組合に対し、加入届を提出したところ、同年9月21日、同組合から、本件規則で会計課出納担当主幹が管理職員等とされていることを理由として、加入を拒否された。

3  法令の定め

(1)  地方公務員法(法)52条

3項 職員は、職員団体を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。ただし、重要な行政上の決定を行う職員、重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員、職員の任免に関して直接の権限を持つ監督的地位にある職員、職員の任免、分限、懲戒若しくは服務、職員の給与その他の勤務条件又は職員団体との関係についての当局の計画及び方針に関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが職員団体の構成員としての誠意と責任とに直接に抵触すると認められる監督的地位にある職員その他職員団体との関係において当局の立場に立って遂行すべき職務を担当する職員(管理職員等)と管理職員等以外の職員とは、同一の職員団体を組織することができず、管理職員等と管理職員等以外の職員とが組織する団体は、この法律にいう「職員団体」ではない。

4項 前項ただし書に規定する管理職員等の範囲は、人事委員会規則又は公平委員会規則で定める。

(2)  本件規則2条(〔証拠省略〕 平成20年の改正前のもの)

本庁に勤務する職員のうち管理職員等は、別表第1の左欄に掲げる機関についてそれぞれ同表の右欄に掲げる職を有する者とする。

別表第1 本庁(第2条関係)

a市

会計管理者及び

会計管理者の補助組織

会計管理者、参事、課長、主席主幹、

審査担当の主幹及び主査、

出納担当の主幹及び主査

4  争点

(1)  本件公平委員会が本件規則を維持することは違法であるか(争点1)

(2)  本件公平委員会が本件規則を維持していることと原告の団結権が侵害されたこととの間の因果関係(争点2)

5  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1について

(原告の主張)

ア 会計課出納担当主幹は、一般的な職階でいえば係長であるので、重要な行政上の決定を行う、又はその決定に参画する管理的地位にある職員ではない。また、被告の会計課では、職員の任免、分限、懲戒、若しくは服務、給与その他の勤務条件に関する企画及び方針などの事務を担当していない。

イ 本件規則上大部分の主幹は、管理職員等の範囲に含まれていないところ、会計課出納担当主幹は、管理職員等に該当しない他部課の主幹と差異が存在しない。被告の主張する現金の出納等の職務や主任以下の職員に対する指揮命令・承認の権限は、市町村の出納事務、主幹の職務一般を述べているにすぎない。また、会計課出納担当主幹は、人事評価システムの第1次評価者であり、決定権を有するものではない。資金繰りを掌理すべき責任を有する職員とは、被告においては会計管理者のことを意味し、会計課出納担当主幹は当たらない。

ウ したがって、本件公平委員会が会計課出納担当主幹を管理職員等としている本件規則を維持していることは違法である。

(被告の主張)

ア 原告は、グループリーダーに命ぜられ、出納担当内の職員を指揮監督する地位にあるところ、現時点において、主任1名を指揮監督し、平成19年4月1日以降、職員の能力及び業績に関する第1次評価を行っている。そして、原告は、管理職手当を支給され、主任以下の職員に対し、休暇及び欠勤の承認に関すること、週休日の振替、半日勤務時間の割り振り及び勤務時間の変更並びに休日の代休日に関することなどについての指揮命令・承認の権限等を有している。このような権限にかんがみれば、会計課出納担当主幹は管理職員等に当たる。

イ 原告は、会計課出納担当主幹を命ぜられ、会計課の事務のうち、現金の出納、保管及び記録管理に関する事務の中の公金の出納に係る出納簿等の作成に関すること及び出納事務に関することの主担当、並びに小切手及び有価証券の出納及び保管に関する事務の主担当を分掌している。

昭和41年6月21日自治省公務員課決定「管理職員等の範囲に関する問答」において、出納局の職員のうち、資金繰りを掌理すべき責任を有する職員、すなわち、県でいえば、歳計現金を管理する係長以上の職員は、管理職員等の範囲に含まれるとされている。

原告は、会計課出納担当主幹であり、被告の歳計現金を管理する係長以上の職員であるから管理職員等に当たる。

ウ したがって、本件規則が会計課出納担当主幹を管理職員等と定めていることに違法性はない。

(2)  争点2について

(原告の主張)

a市職員組合が、本件規則で管理職員等と指定された者を排除し、又はその者の加入を認めないという措置をとることはごく自然なことである。したがって、本件公平委員会が本件規則を維持することと、原告がa市職員組合に加入できず、原告の団結権を侵害されたこととの間には、因果関係がある。

(被告の主張)

a市職員組合は、同組合規約3条で「この組合は、a市に勤務する職員のうち、a市公平委員会が規則で管理職員等に指定した以外の職員をもって組織する」と定め、同規約10条4項1号は、規約の改廃は大会で決めるとされていることから、同組合員たる資格は、同組合が自ら決定しているのであって、本件公平委員会が規則をもって強制しているものではない。したがって、原告の加入を認めるか否かがa市職員組合の意思に基づくものである以上、本件公平委員会が本件規則を維持することと原告の団結権が侵害されたこととの間には因果関係がない。

第3争点に対する判断

1  争点2(本件公平委員会が本件規則を維持していることと原告の団結権が侵害されたこととの因果関係)について

(1)  人事委員会又は公平委員会の規則の意義

法52条3項ただし書は、管理職員等と管理職員等以外の職員とは、同一の職員団体を組織することはできないと規定しているところ、管理職員等の範囲は、個々の職員の職責によって定まるものであり、個々の地方公共団体における法令その他(例えば職務命令)による職制及び権限分配の実態に基づき客観的に定まるものである。

そして、法52条4項が、管理職員等の範囲を人事委員会又は公平委員会の規則で定めることとした趣旨は、その範囲は労使間の紛議が生じがちな事項であり、労使間の交渉にゆだねると客観的に定まった範囲を逸脱するおそれがあるため、中立公正で専門的な機関によって予めこれを確認し、公示しておくことにある。そうすると、人事委員会又は公平委員会の規則は既に客観的に定まっている管理職員等の範囲を確認する意義を有するにすぎない。

(2)  他方、職員団体は自主性を有する結果として、自らの判断において組合員資格を決定することができるのであって、a市職員組合も、組合規約3条において「この組合は、a市に勤務する職員のうち、a市公平委員会が規則で管理職員等に指定した以外の職員をもって組織する」と定め、同規約10条4項1号では「規約の改廃は大会で決める」と定めている(弁論の全趣旨)。これによれば、現在、a市職員組合は、同組合への加入資格がある者を、本件規則が管理職員等に指定した以外の職員と規定しているが、同組合は組合員の資格を定める規約を自主的に改廃することができると解される。したがって、a市職員組合は、本件規則の管理職員等の指定の定めとは関係なく、組合員資格を定めることができることとなる。

(3)  そうであれば、原告がa市職員組合に加入することができなかったのは、同組合による判断の結果というべきであって、本件公平委員会が本件規則を維持した結果ということはできない。

(4)  これに対し、原告は、本件規則で管理職員等について定めているのであるから、a市職員組合がそれに従うのは自然であると主張する。a市職員組合の原告に対する加入拒否の通知(〔証拠省略〕)では、加入拒否の理由として本件規則で会計課出納担当主幹が管理職員等として定められていることを挙げており、このことは原告の主張に沿う事実のようにみえる。しかしながら、その原告の主張を前提とすると、a市職員組合は、管理職員等と定められた者の組合員資格について自主的な判断を行えないことを意味することになるが、それ自体同組合の自主性に反するといわざるを得ない。

以上によると、仮に会計課出納担当主幹が管理職員等に当たらず、本件規則を維持し、これを改正しないという不作為が仮に違法であったとしても、そのことと、原告主張の団結権侵害の損害との間に因果関係があるとは認められない。

2  結論

以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 八木貴美子 井田大輔)

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