さいたま地方裁判所 平成20年(行ク)2号 決定 2008年3月31日
本案・当庁平成19年(行ウ)第12号建築確認処分取消裁決処分取消請求事件
主文
1 申立人A,申立人B,申立人C,申立人Dが被告を補助するために本件訴訟に参加することを許可する。
2 申立人Eにかかる申立てを却下する。
理由
1 本件参加の申立の趣旨及び理由は,別紙参加申立書,同補充書及び同補充書の訂正記載のとおりである。
2 行政事件訴訟法22条に基づく参加が許されるためには,参加しようとする第三者がその訴訟の結果により権利を害される場合であることを要することは同条1項の規定上明らかであるところ,同条による参加人は,共同訴訟的補助参加人と解されることからすれば,「訴訟の結果により権利を害される」とは,取消訴訟に関していえば,被告敗訴の結果,判決の形成効ないし拘束力により,自己の権利や法律上保護された利益が直接に侵害されることをいうものと解するのが相当である。
本件の場合,建築確認を取り消す旨の裁決処分の取消判決がされると,判決の拘束力により,審査請求を棄却する旨の裁決がなされ,原告の予定する建築物(本件建築物)が建築されることになるが,このことにより,申立人らの権利ないし法律上保護された利益が直接に侵害されるかが問題となる。
3 建築基準法6条1項は,建築主が同項第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合には,当該工事に着手する前に,当該工事の計画が当該建築物の敷地,構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならない旨を規定し,その具体的基準については,同法及び同法施行令などに定められている。
法が上記規制を設けている趣旨は,直接には,健全な建築秩序を確保し,一般的な火災危険の防止,生活環境の保全等という公共の利益の維持増進にその目的があることは同法1条の規定により明らかであるが,この場合における公共の利益は,具体的には,建築主または近隣居住者の採光,通風,住居の静謐という生活環境の保全または火災や建物の倒壊時における安全の保護を離れては考えられず,近隣居住者の生命,健康を保護し,火災の危険や建物の倒壊の危険等から守ることが,とりもなおさず公共の利益に合致するものということができる。そして,上記建築規制法規は,これが近隣居住者の採光,通風,生活環境の保全,防火に寄与する限度において,公共の利益と同時に近隣居住者の上記個人的利益をも保障する趣旨と解すべきである。
4 そうだとすれば,本来なされるべきでない建築確認処分がなされ,建築物が建築されることにより,生活環境上の悪影響ないし火災や建物倒壊の危険が生じうる近隣居住者は,本件裁決取消訴訟の結果により,法律上保護された利益を害される第三者にあたるというべきである。そして,かかる近隣居住者にあたるかの基準としては,本件建築物に適用のある川越市中高層建築物建築紛争の予防及び調整条例が一つの基準となる。すなわち,同条例は,建築紛争の予防及び調整を図り,近隣関係及び生活環境の保持に資することを目的として,建築主は,近隣住民,周辺住民に対し,建築にあたり,建物の構造,規模,用途等を説明しなければならないとし(同条例9条),これらの者と建築主との紛争が生じた場合,市長によるあっせんや調停の制度を設けている(同条例11条ないし14条)ところ,同条例は,中高層建築物の敷地の境界から15メートル範囲内の土地所有者及び占有者等を近隣住民として,中高層建築物の外壁又はこれに代わる柱の面からの水平距離が当該中高層建築物の高さの二倍に相当する長さの範囲内の土地所有者及び占有者等を周辺住民として定めている(同条例2条2項)。同条例は,建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に土地を所有ないし占有する者を,予め建築計画につき説明を要する近隣住民ないし周辺住民としたものと推認され,同条例2項に定める要件を満たす者については,特段の事情のない限り,訴訟の結果により,法律上保護された利益を害される第三者と認めることが相当である。
5 これを本件についてみると,申立人A,申立人B,申立人C,申立人Dの所有地ないし居住地と本件建築物との位置関係は別紙図面記載のとおりであり,本件建築物は,地上15階建て,最高の高さ45.90メートルの建築物であるところ,上記位置関係からすれば,本件建築物の倒壊,炎上等による被害が申立人らの所有地ないし居住地に直接的に及ぶことが想定され,申立人C,申立人Dについては,本件建築物により生じる日影により,日照が害される関係にもある(甲2の1,2)。
よって,申立人A,申立人B,申立人C,申立人Dについては,訴訟の結果により,法律上保護された利益を害される第三者にあたる。
6 これに対し,申立人Eについては,上記条例における近隣住民ないし周辺住民には当たらず,本件建築物の建築により,生活環境上の悪影響ないし火災や建物倒壊の危険が生じうることが明らかでなく,訴訟の結果により,具体的に同申立人の権利ないし利益が害されることの疎明がないと言わざるをえない。したがって,申立人Eについては,行政事件訴訟法22条所定の参加人適格を有しない。
なお,申立人Eは,本件裁決の際の審査請求人であるところ,本件裁決が取り消されることにより,本件裁決によって確認処分が取り消されたことにより受けていた立場が消滅することとなるから,訴訟の結果により権利を害されると主張する。
しかし,裁決に対し,不服のある者は,これに対する取消訴訟の提起をすることができ,これに理由がある場合,裁判所としては,裁決を取り消す旨の判決をすることが予定されている以上,審査請求の結果を維持されるべき法律上の権利ないし利益を観念することはできず,同申立人の主張は採用できない。
7 以上によれば,申立人A,申立人B,申立人C,申立人Dの参加申立については,理由があるから,これを認め,申立人Eの参加申立については,理由がないから,これを却下することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 富永良朗 裁判官 久米玲子)