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さいたま地方裁判所 平成21年(ワ)291号 判決 2013年11月27日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告は,原告Xに対し,660万円及びこれに対する平成21年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告髙野,同松山,同鍜治,同山本,同川目,同白井に対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成21年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

本件は,被告の刑事施設であるA拘置所に収容されている死刑確定者である原告Xと,弁護士である原告Xを除く原告ら(以下,原告Xを除く原告らを「原告弁護士ら」という。)との再審請求及び本件訴訟の準備のための別紙番号4から35までの各面会(以下,まとめて「本件各面会」という。)について,拘置所職員の立会いを付し,かつ面会時間を30分に制限したA拘置所長の措置が憲法13条,32条,34条,刑事訴訟法39条1項等に反して違憲,違法であり,又は裁量権の逸脱ないし濫用があり違法であるとして,原告らが,A拘置所長の公権力の帰属主体である被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める事案である(遅延損害金の始期は違法行為の後である訴えの変更申立書送達の日の翌日)。

1  前提となる事実(当事者間に争いがないか,各項記載の証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実)

(1)当事者等

ア 原告Xは,共犯者3名と共に,殺人罪等により起訴され,一審,控訴審,上告審とも無罪を争っていたが,後記(2)記載の経過を経て,現在は死刑確定者としてA拘置所に収容されている者である。

イ 原告弁護士らのうち,原告髙野,同松山,同鍜治及び同山本は,上記刑事事件の一審から上告審まで継続して原告Xの弁護を担当してきた弁護人であり,原告川目は,上告審から加わった弁護人である。原告白井は,原告Xの死刑判決が確定した後から原告Xの弁護活動を行ってきた者である。

原告弁護士らは,いずれも,原告Xの死刑判決に対する再審請求の弁護人であり,本件訴訟における原告Xの訴訟代理人である。

ウ 被告は,A拘置所長の公権力の帰属主体である。

(2)さいたま地方裁判所は,平成14年10月1日,原告Xについて,殺人罪等により死刑判決を言い渡した。原告Xは控訴をしたが棄却され,その後上告をしたが,平成20年7月17日,最高裁判所は上告棄却決定をし,同年8月7日,一審であるさいたま地方裁判所の死刑判決が確定した(以下,この刑事事件を「本件刑事事件」という。)。

(3)原告Xは,平成15年1月8日に,控訴被告人として川越少年刑務所さいたま拘置支所からA拘置所に入所し,未決拘禁者として拘束されていたが,上記死刑判決の確定を受け,平成20年8月27日に,A拘置所の職員から,死刑判決が確定した旨及び死刑確定者としての処遇についての告知を受け,これ以降A拘置所において死刑確定者としての処遇を受けている。(乙13)

(4)原告Xは,原告弁護士らを弁護人として,平成21年1月30日,さいたま地方裁判所に,死刑判決に対する再審請求を申し立てた。

(5)原告Xは,同年2月3日,本件訴訟を提起した。

(6)原告弁護士らは,原告Xが死刑確定者としての処遇を受けるようになった平成20年8月27日以降,本件訴訟を提起する平成21年2月3日までの間,面会申出書の面会の目的欄に再審請求の準備のためである旨を記載して,原告Xとの面会を求めた。これに対して,A拘置所長は,いずれの面会についてもA拘置所の職員を立ち会わせるとともに,面会時間を30分以内と制限した。各面会日,面会をした者は,別紙番号4から20までのとおりである。

(7)原告弁護士ら及び新たに原告Xの再審請求の弁護人ないし本件訴訟の代理人となった弁護士ら(本件訴訟の原告となっていない者を含む。)は,本件訴訟を提起した以降は,面会申出書の面会の目的欄に,再審請求若しくは国家賠償請求訴訟の準備又はそのいずれもの準備のためである旨を記載して,原告Xとの面会を求めた。これに対して,A拘置所長は,平成21年10月14日までの各面会については,いずれについてもA拘置所の職員を立ち会わせるとともに,面会時間を30分と制限し,同月19日以降の面会については,面会時間については毎回30分と制限したものの,職員の立会いについてはこれを付すときと付さないときがあった。各面会日,面会をした者,立会いの有無は,別紙番号21以降のとおりである。(乙10,14,弁論の全趣旨)

(8)原告髙野,同松山,同山本,同鍜治及び同川目は,平成20年12月30日,A拘置所長に対して,面会は再審請求の準備のためのものであるから,職員の立会いなく,面会時間の制限もない面会の実施を求める旨の申入書を送付した。(甲3の1・2)

(9)原告弁護士らは,平成21年2月23日ころ,A拘置所長に対して,本件訴訟を提起したのであるから原告Xとの面会は本件訴訟の準備のためのものでもあるとして,職員の立会いなく,面会時間の制限もない面会の実施を求める旨の申入書を送付した。(甲4)

(10)さいたま地方裁判所は,平成22年3月18日,上記(4)の再審請求を棄却した。原告Xは,同月23日,同棄却決定に対して即時抗告を申し立てた。(甲17の2ないし4)

2  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)死刑確定者と再審請求の弁護人ないし弁護人となろうとする者との秘密接見交通権侵害の有無(再審請求のための面会に立会いを付し,時間を制限した行為について)

(原告らの主張)

ア 刑訴法39条1項,同法440条,憲法34条1項による秘密接見交通権の保障

死刑確定者にとって,再審請求の準備活動及び再審請求は刑事被告人の訴訟活動と同様の重要性を有する。そのため,死刑確定者に再審請求のための弁護人になろうとする者がいる場合には,刑訴法39条1項や再審請求者に弁護人の関与を認めた同法440条の趣旨から,接見交通権の保障が及び,接見に立会いを付すことや,時間を制限することは許されない。再審手続においては,事実上再審開始決定を得ることが最も困難であり,この段階にこそ弁護人の援助が必要となること,接見の内容が収容施設に知られることは打合せについて萎縮的効果を生じさせることからすれば,同条を実質的に保障するためには,再審請求人の接見交通権の保障が必要なのである。

また,刑訴法39条1項は,憲法34条1項の弁護人依頼権に由来するところ,同条は,身体を拘束された者に弁護人を付することで,外界との連絡を可能にするとともに,不当な身体拘束からの救済を求める法的手段について弁護人と相談することをも保障している。国家によって身体拘束をされている者が,その身体の解放を求めて弁護人と面会する権利は,身体拘束の根拠である刑事裁判の帰趨に影響されない。したがって,憲法34条1項は,死刑確定者にも当然に適用があり,このことからも,刑訴法39条1項が死刑確定者にも適用があることは明らかである。

イ 憲法32条による秘密接見交通権の保障裁判を受ける権利を定める憲法32条は,全ての人が裁判所の裁判を求める権利を有すること,独立した公平な裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを規定しており,全ての人が裁判所にアクセスする権利を有することを保障している。この権利を実質的に保障するためには,法律の専門家である弁護士の援助が不可欠であり,さらに,効果的な援助を受けるためには,単に弁護士に依頼をするだけではなく,依頼者と弁護士との間のコミュニケーションの秘密が保障されなければならない。よって,再審請求人が弁護士と秘密接見をすることは,憲法32条により保障されている。

ウ 違法性

A拘置所長が,再審請求のための面会について職員の立会いを付し,時間を制限した行為は,いずれも死刑確定者と再審請求のための弁護人との秘密接見交通権を侵害するものであり,違法である。なお,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)121条は,死刑確定者の面会について原則として立会いを付し,例外的に立会いを付さないこととしているが,同条が弁護士との再審請求目的での面会も制限する趣旨であれば,憲法34条,同法32条に反し違憲であるから,刑事収容施設法121条により立会いを付すことは許されない。同様に,刑事収容施設法122条が準用する同法114条1項は,死刑確定者の面会について時間を制限できる旨規定するが,同条が弁護人との再審請求目的での面会の時間制限をできるとする趣旨であれば,憲法34条,同法32条に反し違憲であるから,刑事収容施設法114条1項により時間制限をすることは許されない。

(被告の主張)

ア 憲法34条1項,刑訴法39条1項,同法440条による秘密接見交通権の保障について刑訴法39条1項は,「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は」と規定しており,未決拘禁者に関する規定であることは文理上明らかである。実質的にみても,死刑確定者は,未決拘禁者と異なり,確定判決の効力により拘束され,死刑執行のために必然的に付随する手続として一般社会から隔離されているのであって未決拘禁者とは異なる地位にある。

また,刑訴法440条は,再審請求手続における弁護人選任の効力を定めたものであるが,再審の請求から請求棄却ないし再審開始の決定までの手続は,一般の刑事被告事件の審理手続とは全く別個のものであるから,再審開始決定がされた後を除き,再審請求の手続においては,刑訴法の総則中の弁護に関する諸規定は当然にその適用ないし準用はないというべきである。

また,憲法34条は,同法33条を受け,逮捕に続く拘束の継続である抑留・拘禁についての保障を規定したものであるから,死刑確定者について同法34条の適用はない。同条は,当事者主義構造を採る刑事手続の下,捜査・訴追を受ける被疑者に対して,弁護人に依頼することにより,弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障したものであり,言い渡された確定判決の効力により拘束される死刑確定者には適用されない。

イ 憲法32条による秘密接見交通権の保障について

憲法32条の裁判を受ける権利は,刑事事件については,裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないという同法31条の定める適正手続の当然の要請を意味するものであり,同法32条が直接的に死刑確定者と再審請求弁護人との秘密接見交通権を保障したものと解することはできない。

(2)自由権規約違反の有無(再審請求のための面会に職員の立会いを付した行為について)

(原告らの主張)

市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)14条により,死刑確定者には再審請求の弁護人との秘密接見交通権が保障されている。すなわち,条約の解釈においては,当事国の間での合意や国際法の関連規則をもとに文脈に従って誠実に解釈すべきであるところ,国連自由権規約委員会の日本政府報告書に対する総括所見において,締約国は死刑確定者と再審に関する弁護士との間の全ての面会の厳格な秘密性を確保すべきと指摘されていることからすれば,自由権規約14条において,死刑確定者と再審請求の弁護人との秘密接見交通権が保障されていると解すべきである。よって,A拘置所長が原告Xと再審請求の弁護人との面会に立会いを付したことは,同規約14条に違反する。

(被告の主張)

原告らは,国連自由権規約委員会の日本政府報告書に対する総括所見における指摘を引用するが,条約の解釈は条約の締約国が行うものであり,自由権規約委員会の総括所見は締約国を何ら法的に拘束するものではない。自由権規約14条3項は「すべての者は,その刑事上の罪の決定について,十分平等に,少なくとも次の保障を受ける権利を有する。」と規定しているのであるから,文理上,未決拘禁者を対象とした規定であることが明らかである。さらに,同項(d)の規定が,弁護人との秘密交通権について合理的な制限をも一切禁止し,絶対的に保障するものと解することはできない。

(3)拷問禁止条約違反の有無(再審請求のための面会に職員の立会いを付した行為について)

(原告らの主張)

拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷問禁止条約」という。)の解釈においては,国連拷問禁止委員会の日本政府報告書に対する勧告を解釈の指針とすべきところ,同勧告(第20項X)においては,再審請求中であっても,弁護人と秘密接見をすることが不可能である点を含めて,弁護人との秘密交通に関して死刑確定者に課せられた制限について深刻な懸念を有するなどと指摘されている。再審請求中に弁護人との秘密接見を認めない形で死刑確定者の身体拘束をすることは拷問に該当するものであるから,再審請求の弁護人との秘密接見を制限することは拷問禁止条約13条等に違反する。

(被告の主張)

本件における面会の制限は合理的な制限であり,条約が禁止する拷問には当たらない。

(4)民事訴訟の代理人と接見をする権利の侵害の有無(国家賠償請求のための面会に立会いを付し,時間を制限した行為について)

(原告らの主張)

ア 実効的な打合せをする権利の侵害について(憲法32条)

憲法32条に規定された裁判を受ける権利を実質的に保障するためには,法律の専門家である弁護士の援助が不可欠である。この代理人依頼権は,形式的に訴訟代理人を依頼する権利にとどまらず,訴訟代理人と接見して実効的な打合せをする権利を包含している。原告Xは,立会いを付されることにより,攻撃防御方法及び証拠等の全てを被告に予め知られることになる一方,これを避けようとすれば,その事項については打合せが不可能になるため,面会に立会いを付すことは原告Xと訴訟代理人との打合せを妨害するものであり,原告Xの裁判を受ける権利(憲法32条)を不当に制限するものである。

イ 武器対等,当事者対等で裁判を受ける権利の侵害(憲法32条)

憲法32条の解釈に当たっては,同法31条による適正手続の要請,自由権規約14条1項,ヨーロッパ人権規約6条1項の解釈を斟酌すべきであるところ,これらの諸規定の解釈を斟酌すれば,憲法32条は,裁判を受ける権利の内容として,民事手続における武器対等の原則及び当事者対等の原則を保障しているというべきである。原告Xと訴訟代理人との打合せに職員が立ち会うことは,圧倒的に被告に優位な立場を認めるものであり,上記権利を侵害する。

ウ 人格権として訴訟代理人と打合せをする権利の侵害(憲法13条)

上記ア,イの権利は,憲法13条においても保障されており,原告Xは,打合せに立会いが付されること,時間が制限されることでこれらの権利を侵害されている。

(被告の主張)

憲法32条は,民事事件については,すべての者が裁判所の裁判を求める権利を有するといういわゆる司法拒絶の禁止を意味するものであり,同条が,自己の民事事件の訴訟代理人との間で,職員の立会いなくして面会をする権利や,時間無制限で面会をする権利を直接的に保障したものと解することはできない。自由権規約14条1項もこれらの権利を直接的に保障したものと解することはできないし,我が国はヨーロッパ人権条約の当事国でないため,同条約によって憲法の解釈は左右されない。

また,憲法13条が,自己の民事事件の訴訟代理人との間で,職員の立会いなくして面会をする権利や,時間無制限で面会をする権利を直接的に保障していると解することはできない。

(5)A拘置所長の裁量権の逸脱,濫用の有無(立会いを付したことについて)

(原告らの主張)

仮に,死刑確定者と再審請求の弁護人との面会及び本件訴訟の代理人との面会に立会いを付すことが直ちに違憲,違法とならなくとも,本件において立会いを付したA拘置所長の判断には,裁量権の逸脱ないし濫用がある。

刑事収容施設法121条は「死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のため」には立会いを付さないことを適当とすると定めているところ,再審請求の準備及び本件訴訟の準備が「訴訟の準備」に当たることは明らかである。そして,死刑確定者の正当な利益を保護するためには,このような場合には,特段の事情がない限り,立会いを付すことは許されないと解すべきである。被告は,原告Xの心情把握の必要性が高かった旨主張するが,原告Xの心情は安定しており,原告Xの秘密接見の利益を制限してまでその心情を把握する必要性はなかったし,A拘置所の職員は原告Xの生活の一部始終を観察しており,その他職権面接など原告Xの心情把握を行う他の方法があるにもかかわらず,これらを行っていなかった。

そもそも,接見に立ち会った職員が会話内容等を記録した接見表には,原告Xの心情に関する会話よりも再審請求や本件訴訟についての会話が多く記録されていることや,最も心情把握の必要性が高いと思われる再審請求棄却直後の接見には立会いを付していないこと等からすれば,A拘置所長が面会に立会いを付した目的は心情把握のためではなかったものというべきである。

また,A拘置所長は,立会い省略の可否を死刑確定者の利益に配慮して個別に検討すべきであったにもかかわらず,裁量権の行使に当たってなんらの基準を設けず,個別具体的な判断をしていたし,場当たり的に立会いの有無が決められることもあった。

以上のとおり,A拘置所長は,適切な考慮のもとに立会いを付したのではないから,立会いを付したことが裁量権の逸脱ないし濫用に当たることは明らかである。

(被告の主張)

刑事収容施設法121条は,死刑確定者の面会においては,立会いを原則とし,立会いを省略するためには,①立会いを省略する適当な事情があることに加え,②立会いを省略することが相当と刑事施設の長が認めることが必要であるとしているところ,死刑確定者と再審請求等の弁護人ないし代理人たる弁護士との面会については,一般的には立会い等の措置の省略を適当とする事情(上記①の事情)であると考えられるが,立会いを省略するためにはこれに加えて,立会いの省略が相当であると認められることが(上記②の事情)必要であり,その判断は,刑事施設内の実情に詳しく,死刑確定者の精神状態を迅速かつ適格に把握しうる刑事施設の長の裁量に委ねられているというべきである。

ところで,死刑確定者は,社会に復帰することが予定されておらず,いずれ生命を絶たれることを受容しなければならない立場であるため,その処遇においては精神状態の安定の確保に特段の配慮が必要であり,心情やこれに影響を与える事情を把握する必要性は一般の受刑者や未決拘禁者に比べて格段に大きい(刑事収容施設法32条参照)。そして,刑事施設の職員が死刑確定者の心情を把握できる機会はきわめて限られていること,面会は死刑確定者が一般社会の者と直接に接する唯一の機会であり,面会人の言動により心情に大きな変化が生じることがありうること,死刑判決が確定してから相当期間は,特にその動静に注視して心情把握を行う必要性が高いこと,この相当期間は,心情を外部から把握することが困難であることからして年単位の期間で考える必要があること,原告Xの心情は終始一貫して不安定なものであったことから,A拘置所長は立会いを省略することが相当とは認めなかったのであり,その判断に裁量権の逸脱ないし濫用はなかった。

(6)A拘置所長の裁量権の逸脱,濫用の有無(時間制限について)

(原告らの主張)

原告Xは,再審請求及び本件訴訟の準備のために,弁護人ないし代理人と綿密な打合せをする必要があった。再審請求においては,関係者も多く訴訟資料も膨大であったため,打合せには十分な時間が必要であったし,原告Xの弁護団には再審請求の段階から新たに加入した弁護人もおり,信頼関係を築くためにも時間をかけて面会する必要性が高かった。このように,原告Xは,原告弁護士らと時間無制限で接見をする必要があったから,これを制限したA拘置所長の判断には裁量権の逸脱ないし濫用がある。

被告は,A拘置所における人的物的設備に限界があったため時間制限をしたと主張するが,被収容者の面会といっても重要性や緊急性は様々であり,特に再審開始決定前の死刑確定者が弁護人と面会することは,その緊急性から他の被収容者の面会に優先して実現されるべき性質の権利であり,全ての面会に均等に面会の機会を付与することを前提とする被告の主張は前提を欠く。

(被告の主張)

刑事収容施設法122条,同法114条1項,刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(以下「刑事収容施設規則」という。)73条は,面会時間の制限について原則として30分を下回ってはならないが,やむを得ない場合には5分を下回らない範囲内で,30分を下回る時間に制限することができる旨定めている。このように,面会時間に対する制限は,刑事収容施設の人的,物的設備に限界があることを前提に,多数の被収容者を収容する刑事収容施設内における施設業務の正常な運営を維持し被収容者間の処遇の公平を図り,施設内の規律及び秩序を確保するための合理的な制約である。そして,A拘置所における一般面会用の面会室の数,一日当たりの面会実施時間,一般面会の申込件数との関係から,一般面会1件当たりに確保できる面会時間は単純計算で25分程度となる。

上記のとおり,人的,物的設備に限界があること,法が定める原則的な制限時間である30分を上回っていることからして,A拘置所長が各面会について30分との時間制限をしたことに裁量権の逸脱,濫用はない。

(7)A拘置所長が原告弁護士ら固有の利益に配慮する義務を負うか。

(原告らの主張)

死刑確定者と再審請求を準備している弁護人との接見は,被告人の正当な利益を擁護するために弁護活動の一環として行われるものであり,刑訴法39条1項の保障が及ぶものであるし,速やかな再審請求ができなければ自己の依頼者を死の危険にさらすことになるという弁護士の職責からして,刑事施設の長は,面会を求める弁護人の利益に配慮する注意義務を負っている。

(被告の主張)

刑事施設の長は,裁量権行使に当たり,面会者自身の利益に配慮する法的義務を負わない。刑事収容施設法121条は,面会への立会を省略することができる場合について,死刑確定者と面会をする者の利益まで調整の対象としておらず,刑事施設の長に対して,面会をする者固有の利益にまで配慮する法的義務を課していると解することはできない。

(8)損害

(原告らの主張)

原告Xと原告弁護士らは,本件面会制限により,再審請求及び本件訴訟に関して十分な準備活動を行うことができなかった。これにより被った精神的苦痛を金銭に換算すると,原告Xについて600万円,原告弁護士らについてそれぞれ100万円を下らない。

また,原告Xについて,本件違法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用として60万円が相当である。

(被告の主張)

争う。

第3  争点に対する判断

1  争点(1)(死刑確定者と再審請求の弁護人ないし弁護人となろうとする者との秘密接見交通権侵害の有無)について

(1)刑訴法39条1項,同法440条,憲法34条1項により保障されるか。

刑訴法440条は再審請求における弁護人選任権を規定するが,再審請求に際して弁護人を選任した場合に,被告人及び被疑者の秘密接見交通権を定めた刑訴法39条1項が適用ないし準用されるかについては,刑訴法440条の文言からは,直ちに明らかではない。そこで,再審請求手続の性格をみるに,再審の請求から決定までの手続は,既に判決が確定した後のものであり,手続の主体に「被告人」はおらず,当事者主義の構造をとる一般の公判手続とは著しくその性格を異にしている。これに対して,刑訴法39条1項は,通常の捜査手続又は公判手続を前提とし,接見交通権を有する主体を「被告人又は被疑者」と定めていることからすれば,再審請求に際して弁護人を選任した場合に,刑訴法39条1項が適用ないし準用されなければならないとする合理的な根拠はない。

また,憲法34条は,憲法33条を受け,逮捕に続く身体拘束の継続である抑留又は拘禁から被拘禁者の自由と権利を守るため,被拘束者が弁護人から援助を受けることの保障を規定したものであるところ,死刑確定者の身体拘束は,確定判決の効力によって,死刑の執行に至るまで社会から隔離し,逃亡,自殺等を防止して,死刑の適正な執行を確保するために行われるものであり,憲法34条所定の抑留又は拘禁とは性格を異にする。よって,死刑確定者に憲法34条が準用され,これにより弁護人との秘密接見交通権が保障されると解することはできない。

(2)憲法32条により保障されるか。憲法32条は,刑事事件については,独立した公平な裁判所の裁判によるのでなければ刑罰を科せられないことを保障したものであるが,このことから,裁判所の裁判により死刑が確定した死刑確定者に弁護士との間で秘密接見を行うことまで保障されているとは解されない。

(3)以上のとおり,死刑確定者に再審請求の弁護人ないし弁護人となろうとする者との間の秘密接見交通権が憲法上又は刑訴法上保障されているとは解されないから,再審請求のための面会に職員の立会いを付し,時間を制限したことそれ自体が秘密接見交通権を侵害するとは認められない。

2  争点(2)(自由権規約違反の有無)について

自由権規約第14条は,以下のとおり規定する。

(1)すべての者は,裁判所の前に平等とする。すべての者は,その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため,法律で設置された,権限のある,独立の,かつ,公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。(以下略)

(2)(略)

(3)すべての者は,その刑事上の罪の決定について,十分平等に,少なくとも次の保障を受ける権利を有する。

(a)(略)

(b)防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。

(c)(略)

(d)自ら出席して裁判を受け及び,直接に又は自ら選任する弁護人を通じて,防御すること。弁護人がいない場合には,弁護人を持つ権利を告げられること。(以下略)

(e)ないし(g)(略)

(4)(略)

(5)有罪の判決を受けたすべての者は,法律に基づきその判決及び刑罰を上級の裁判所によって再審理される権利を有する。

(6)(略)

(7)(略)

原告らは,同条によって,死刑確定者と再審請求の弁護人との秘密接見交通権が保障されている旨主張する。しかし,選任する弁護人を通じての防御権を定めた同条3項が「刑事上の罪の決定について」としていることからすれば,同項は未決拘禁者を対象としている規定であると解するのが相当であり,死刑確定者と再審請求のための弁護人との面会について直ちに適用されるものとは解されず,その他同条において,その文脈及び用語の通常の意味により死刑確定者と再審請求の弁護人との間の秘密接見交通権を保障していると解される条項は見当たらない。なお,原告らが主張するように,自由権規約委員会は,自由権規約40条に基づく日本政府報告書に対する総括所見において,再審請求を担当する弁護士と死刑確定者との面会に刑務官が立ち会っていることについて,懸念を持って留意しており,死刑確定者と再審に関する弁護士との間の全ての面会の厳格な秘密性についても保証すべきであるとの所見を示しているが(甲9),同総括所見は直ちに「条約の適用につき後に生じた慣行であって,条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの」(条約法に関するウィーン条約31条3(b))とはいえず,同総括所見が法的拘束力を有するものとは解されない。

よって,死刑確定者と再審請求の弁護人との面会に立会いを付したことが自由権規約14条に違反するとは認められない。

3  争点(3)(拷問禁止条約違反の有無)について

拷問禁止条約第13条は「締約国は,自国の管轄の下にある領域内で拷問を受けたと主張する者が自国の権限のある当局に申立てを行い迅速かつ公平な検討を求める権利を有することを確保する。申立てを行った者及び証人をその申立て又は証拠の提供の結果生ずるあらゆる不当な取扱い又は脅迫から保護することを確保するための措置がとられるものとする。」と規定する。

文理上,同条によって,死刑確定者と再審請求の弁護人との間の秘密接見交通権を保障しているとは解しがたく,また,再審請求の弁護人との秘密接見交通権を認めずに死刑確定者の身体拘束をすることが拷問に該当するとは解されない。原告らは,国連拷問禁止委員会の日本政府報告書における勧告において,再審請求中であっても弁護人と秘密接見をすることが不可能である点を含めて,弁護人との秘密交通に関して死刑確定者に科せられた制限について深刻な懸念を有すると指摘されていることを主張するが,同勧告も直ちに法的拘束力を有するものとは解されない。

よって,死刑確定者と再審請求の弁護人との面会に立会いを付したことが拷問禁止条約13条に違反するとは認められない。

4  争点(4)(民事訴訟の代理人と接見をする権利の侵害の有無)について

憲法32条は,民事事件については,すべての者が公平な裁判所の裁判を求める権利を有し,裁判所は適式な訴えの提起に対して裁判を拒絶したり怠ったりすることは許されないとする,いわゆる司法拒絶の禁止を意味するものであり,死刑確定者が民事事件の訴訟代理人と拘置所職員の立会いなく時間無制限で面会をする権利を直接的に保障したものとは解されない。

また,憲法13条の人格権として,上記権利が保障されていると解すべき理由も見出し難い。

よって,本件訴訟の準備のための面会について,職員の立会いを付し,時間を制限したことが,上記権利を侵害する違法な措置であるとは認められない。

5  争点(5)(A拘置所長の裁量権の逸脱,濫用の有無(立会いを付したことについて))

(1)証拠(認定事実ごとに末尾に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 各面会における原告らの発言等(乙10,14に加えて,各項に記載した証拠により認められる。)

(ア)平成20年9月1日の原告川目との面会

原告川目は,再審請求の弁護人との面会に立会いが付されるのはおかしいと述べ,これに対して,原告Xも,もう内緒話ができなくなると述べた。原告川目は,刑事事件の内容に関する話題を避け,原告Xの再審請求に関するホームページに原告Xのコメントを載せる計画に関する話などをした。原告Xからは,司法はおかしいとの発言や自分が死んでも再審の件は他の者に頼んであるとの発言があった。

(イ)同月5日の原告松山との面会

原告Xから,この先,頭がおかしくなるとの発言があった。また,原告Xから,立会いがいると密な話ができない,面会の時間が足りないといった発言や,再審請求に関して,共犯者の虚偽の自白で死刑になり,共犯者が真実を話して無罪になるというストーリーになると思うとの発言があった。

(ウ)同月9日の原告山本との面会

原告山本から,再審請求に関して,いまだ提出されていない調書などがあることや法医学の専門家に検討をしてもらう予定であるとの話がされた。原告Xからは,ストレスがたまって食事がおいしくないとの発言があった。

(エ)同月19日の原告髙野との面会

原告Xが,再審請求を平成20年中にはしてもらいたいと述べたところ,原告髙野からは,平成21年1月までには行うとの返答がされた。これを受けて,原告Xは,死刑執行が早くされた者がいたことを挙げ,自分はやっかい者だからすぐに執行したいと思われているのではないかと述べた。その他,原告Xが教誨で浄土宗を希望したことなどの話がされた。

(オ)平成20年9月25日の原告鍜治との面会

原告鍜治は,本件刑事事件の被害者の臓器に入っていたプランクトンの量が多ければ,死亡前に川の水を飲んでいたことがわかり,同被害者が原告Xにより毒殺されたのではなく,溺死したことが証明されるという話や,共犯者の供述の信用性に関して専門家に分析を依頼する予定であること,2,3か月ほどで再審請求をする予定であることを話した。原告Xからは,浄土真宗に入ったとの発言があった。(甲2)

(カ)同月30日の原告川目との面会

原告Xの体調が悪いとの話や,面会に来た原告Xの知人の話などがされた。

(キ)同年10月10日の原告松山との面会

上記(カ)の原告Xの知人の話や,原告Xが宗教上の教誨を受けていることなどの話がされた。

(ク)同月17日の原告山本との面会

原告Xから,殺人の容疑等で拘束されていた三浦和義が自殺をしたことについてショックを受けたとの発言があった。(公知の事実)

(ケ)同月29日の原告鍜治との面会

原告Xから,三浦和義が自殺をしたことに触れ,そのようなやり方はしたくない,えん罪を晴らすのであれば堂々とやればよいとの発言や,再審で無罪となった後の自身の仕事に関する話があった。

(コ)同年11月20日の原告松山,原告山本との面会

原告Xから,共犯者が真実を話せば無罪となるとの発言があった。

(サ)同月26日の原告髙野,原告白井との面会

原告白井は,再審請求の弁護人となろうとする者として初めて原告Xと面会をした。原告髙野からは,原告Xが元気になったように見える旨の発言があり,原告Xからは,健康法に関する話がされた。

(シ)同年12月3日の原告鍜治との面会

原告Xからは,本件刑事事件が他の再審事件よりも無罪になりえる事件であるとの話,原告鍜治からは,年明け早々に再審請求をする予定であるとの話がされた。

(ス)同月26日の原告山本との面会

原告Xが,来月に再審請求ができるかを尋ねると,原告山本から,まだわからないとの返答があった。原告Xからは,原告髙野が弁護人を務める他の事件では判決が確定してからすぐに再審請求をしたらしい,死刑執行のために部屋から出て行く人を何回も見ているから心配であるといった発言があった。

(セ)平成21年1月6日の原告松山との面会

原告松山が,平成21年1月中の再審請求は無理であると思うと述べたところ,原告Xから,原告髙野が弁護人を務める他の事件では判決が確定した日に再審請求がされた,面会は今日限りにするよう弁護団に伝えるように,来週原告髙野が面会に来ても一切会わない,1月中の再審に望みをかけていたが,弁護団に不信を持つ,インターネットの記事も出さない,再審請求は原告Xの命の保証である,弁護団の考えは間違っているといった発言がされた。原告松山は,これらの発言を受け,同月中に再審請求を行う旨述べた。

(ソ)同月13日の原告髙野との面会

原告髙野は,原告Xに対して,同月中に再審請求をすること,弁護団としても配慮が足りなかった面もあると述べた。原告Xからは,面会をしてよかったとの発言があった。

(タ)同月22日の原告鍜治との面会

原告Xから,共犯者が仮出所をしたかもしれない,同人に新たな供述をしてもらうためには都合が良いとの発言があった。

(チ)同年2月2日の原告川目との面会

原告川目は,原告Xに対して,再審請求をしたこと,原告Xの弁護を行う弁護団に3人の弁護士が加わったこと,面会に職員が立ち会うことについての国家賠償請求訴訟を同日提訴する予定であることを伝えた。原告Xからは,30分では再審の話をすることはできないとの発言があった。

(ツ)同月18日の原告松山との面会

原告Xから,新聞に刑務所での自殺記事が載っていたとの発言があった。

(テ)同月23日の原告鍜治との面会

他の刑事施設にて服役している共犯者の体調に関する話などがされた。

(ト)同年3月13日の原告山本との面会

原告Xから,上記(テ)の共犯者の体調を考え,早く同人から本件刑事事件の話を聞いて調書をとっておいてほしいとの発言があった。

(ナ)同月30日の原告松山との面会

新たに弁護団に加わった者の話や再審請求に関して証拠を追加するとの話などがされた。原告Xからは,最近面会が少ないとの不満が述べられた。

(ニ)同年4月10日の原告川目,井桁大介弁護士との面会

新たに弁護団に加わった井桁大介弁護士が初めて面会に訪れ,同弁護士が共犯者に会いに行ったが面会を拒否されたことなどの話がされた。

(ヌ)同月17日の原告山本,趙誠峰弁護士,岸本未理弁護士との面会

新たに弁護団に加わった趙誠峰弁護士,岸本未埋弁護士が初めて面会に訪れた。原告Xからは,弁護団以外に面会に来る人がいないこと,早く原告Xの無罪を証明してほしいこと,原告Xが死んでから無罪だと言われても嬉しくないことなどの話があった。

(ネ)同月20日の原告髙野,山田晶久弁護士,岩城栄二弁護士との面会

新たに弁護団に加わった山田晶久弁護士,岩城栄二弁護士が初めて面会に訪れた。原告Xからは,文通相手である死刑確定者2名が再審請求をし,うち1名がこれを取り下げ,うち1名の再審請求が棄却されたところ,それから1月ほどで2名とも死刑が執行されたこと,今は死刑の執行が早いこと,自分の場合はどうなるのかといった発言があった。

(ノ)同月28日の原告松山,原告白井,齋藤守弁護士との面会

新たに弁護団に加わった齋藤守弁護士が初めて面会に訪れた。原告Xからは,再審請求の資料に関する質問があったほか,健康法に関する発言などがあった。

(ハ)同年5月8日の原告鍜治,虫本良和弁護士との面会

新たに弁護団に加わった虫本良和弁護士が初めて面会に訪れた。原告Xは,原告鍜治から体調を聞かれた際,体調は良くないと答えるとともに,司法に対する絶望感があり,再審請求も取り上げられないと考えている旨述べた。他方で,再審請求に関して専門家からの意見書を楽しみにしているとの発言があった。

(ヒ)同月11日の佐藤隆太弁護士,虫本良和弁護士との面会

新たに弁護団に加わった佐藤隆太弁護士が初めて面会に訪れた。原告Xからは,受刑中の共犯者と婚姻したいと思っている,原告Xが婚姻届に記入をするので共犯者に見せてほしい,このことを原告髙野に伝えてほしいとの発言があった。

(フ)同月20日の原告山本との面会

原告山本から,専門家の意見書が届いた旨の報告があった。原告Xからは,今の司法は狂っているとの話や共犯者との婚姻届を出したいとの要望があり,これに対して,原告山本は,気持ちはわかるものの,マスコミに報道されて原告Xのイメージが悪くなることが心配である旨回答した。

(ヘ)同月26日の原告髙野,趙誠峰弁護士との面会

原告髙野から,共犯者との婚姻については,マスコミに報道されて原告Xのイメージが悪くなるとの発言があり,これに対して,原告Xは,原告髙野の言うこともわかるが,自分が書いた手紙を読んで考えてほしいと述べる一方,原告髙野が反対をするのであれば婚姻はやめると述べた。

(ホ)同年6月5日の原告髙野,原告松山との面会

原告Xは,原告髙野から婚姻届の提出を反対されたため,面会に出るのをやめようかと思ったと述べた。また,再審請求に関して専門家の意見書を見たものの,どれも一緒で変わりがない,やる気がないと述べ,そのようなことを述べた理由として,婚姻届の提出に関して弁護人と意見が合わないためであると述べた。原告髙野からは,婚姻届の提出に反対した理由が述べられたが,原告Xからは,今は共犯者のことしか考えておらず,まいってしまうとの発言があった。また,原告髙野から落ち込んでいるのかと聞かれた際,落ち込んでいると言うと処遇が変わるため,はっきりと言えないと述べた。

(マ)同月16日の原告川目との面会

原告Xは,共犯者に婚姻についての自分の意向を伝えたいとの話をした。

(ミ)同月18日の原告松山との面会

原告Xは,共犯者に婚姻についての自分の意向を伝えたいとの話をした。

イ 本件各面会がされた平成20年9月1日から平成21年6月18日までの間(以下「本件期間」という。),原告Xが弁護士以外の者と面会をしたのは,平成20年9月25日の親族に対する面会の一度だけであった。(乙13)

ウ 原告Xは,本件期間中,A拘置所の職員に対して暴力事件等を起こしたことや保護房に入れられたりしたことはなく,自殺を試みたこともなかった。また,本件期間中,A拘置所の職員が,原告Xに対して,心情を把握するために面接を行うことはなかった。(証人B)

(2)死刑確定者(未決拘禁者としての地位を有しない者。以下において同じ。)の面会について,刑事収容施設法121条は,「刑事施設の長は,その指名する職員に,死刑確定者の面会に立ち会わせ,又はその面会の状況を録音させ,若しくは録画させるものとする。ただし,死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のためその立会い又は録音若しくは録画をさせないことを適当とする事情がある場合において,相当と認めるときは,この限りでない。」として,原則として立会いを付すこととし,例外的に,①立会いを付さないことを適当とする事情がある場合において,②相当と認めるときは,立会いを付さないこととしている。これは,死刑確定者の処遇を適切に実施する上で参考とするために,面会の際の発言などを通じて心情を把握する必要性があることや,面会における不適切な行為や発言を制止して秩序を維持する等の必要性がある一方,死刑確定者やその相手方には,面会の際の発言を刑事施設の職員に知られない利益があることを考慮したものであると解される。

原告らは,同条について,立会いを付さないことを適当とする事情がある場合には,特段の事情がない限り立会いは許されないと解すべきであると主張する。しかし,受刑者の面会について定めた同法112条は,ただし書きにおいて,受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士と面会する場合には,刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合を除き立会いを付すことができないとしているのに対し,死刑確定者については,上記のとおり,立会いをさせないことを適当とする事情(自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士と面会する場合はこれに当たると解される。)があっても,さらに相当と認めるときでなければ立会いを付すこととし,受刑者の場合と明らかに異なる規定を設けている。これは,死刑確定者が,いつ訪れるか分からない将来の死刑執行の時を待つしかないという特殊で不安定な状況にあり,一般人から見れば些細な事情にすぎないといえる事情によっても極めて大きい精神的苦痛や動揺に容易に陥り易いため,死刑確定者の心情及びこれに影響を与える事情を把握する必要性が受刑者と比較して格段に大きいことや,受刑者の場合は,処遇調査や刑務作業等の指導の際に,処遇担当の職員から積極的な働きかけを行うなどしてその心情把握をすることができるのに対し,死刑確定者の場合は,そのような手段を講じることができず,僅かに面会の連行や,入浴,運動,それへの立会,投薬等の機会に拘置所の担当職員の方から死刑確定者に話しかけることは可能であっても,その仕方や話の内容如何によっては,死刑確定者の心情の安定が害されるおそれがあり,実務上は慎重に運用されているのが実情である(乙13,証人B)ことから,外部交通(信書の発受も含む。)の主な手段である面会を通じての死刑確定者の心情把握が重要であるとみられることを考慮したものであると解される(同法32条参照)。このように,受刑者の場合と異なる合理的な根拠に基づく規定がおかれていることからすれば,原告らが主張するように,立会いを付さないことを適当とする事情がある場合には,特段の事情がない限り立会いは許されないとの解釈を採用することはできない。

このように,同法は,原則として立会いを付すこととした上,立会いを付さないことを適当とする事情がある場合であっても,刑事施設の長が相当と認めたときに限って立会いを付さないことができると規定しているところ,立会いを付すか否かについては,上記のとおり,死刑確定者の正当な利益を保護する必要性と,死刑確定者の心情把握や刑事施設の秩序維持等の必要性とを比較考量して判断すべきであり,その判断は,刑事収容施設内の実情に通じた刑事施設の長の裁量に委ねられていると解される。そうとすれば,刑事施設の長が裁量権の行使としてした判断がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合でない限り,国家賠償法1条1項にいう違法な行為には当たらないと解するのが相当である。

(3)立会いを付さないことを適当とする事情の有無

再審請求や刑事施設において受けた処遇に関する損害賠償請求訴訟のために弁護士と打合せをする際に,刑事施設の職員に面会における発言の内容を知られると,十分な相談を行えないおそれがある。したがって,これらの場合における弁護人ないし代理人たる弁護士との面会は,立会いをさせないことを適当とする事情に当たると認められる。

本件では,上記前提となる事実記載のとおり,原告弁護士らは,再審請求若しくは国家賠償請求訴訟又はそのいずれもの準備のためとして原告Xとの面会を申し出ているところ,本件各面会のうち,再審請求や刑事施設において受けた処遇に関する損害賠償請求訴訟である本件訴訟の準備のための弁護人ないし代理人たる弁護士との面会であったと認められるものについては,立会いをさせないことを適当とする事情があったというべきである。

(4)立会いのない面会が相当と認められるか。

上記のとおり,立会いを付すか否かについては,死刑確定者の正当な利益を保護する必要性と,心情把握等の必要性とを比較考量して判断すべきである。そして,心情把握の必要性を検討するに当たっては,死刑確定からの期間を考慮に入れる必要がある。すなわち,一般に,死刑判決が確定したことによって心情が急激に不安定になることは十分に考えられ,その影響も大きいといえるため,死刑判決の確定から近接した時点においては,死刑確定者の心情を把握する必要性はより高いといえるところ,心情は外部からは認識しづらいことや,心情の急激な不安定が一応安定するに至ったとの判断をするには相応の慎重さが求められることからすれば,刑事施設の長において,死刑判決の確定にもかかわらず死刑確定者の心情が安定していると判断可能な状況に至るまでには相当期間継続して死刑確定者の動向を観察することもやむを得ないというべきである。したがって,死刑確定からそれほど時間が経過していない時点においては,より面会に立ち会うことによる心情把握の必要性が高いといえる。

ア 心情把握等の必要性

(ア)平成20年9月の面会について

原告Xは,死刑判決が確定した翌月である平成20年9月から再審請求に対する意欲を見せていたが,他方で,同月の面会において,この先,頭がおかしくなると述べたり,ストレスがたまって食事がおいしくないと述べていた。このように,精神状態が良くないことがうかがわれたことからすれば,死刑判決が確定したことによる影響の程度を把握するため,原告Xの心情を把握する必要性は高かったといえる。

(イ)平成20年10月から平成21年1月までの面会について

原告Xは,平成20年10月から同年11月にかけて,三浦和義が自殺したことを知ってショックを受けているものの,えん罪を晴らすには堂々とやればよく,自殺というやり方はしたくないと述べていること,再審で無罪となった後の自身の仕事の話や健康法に関する話をしていること,同年12月3日には本件刑事事件が他の再審事件よりも無罪となりうる事件であると述べており,再審の見通しについて自信を持っていたことなどからすれば,この時期は比較的心情が安定していたことがうかがえる。もっとも,いまだ死刑判決の確定から4か月程度であったことに加え,原告Xは,平成21年1月6日の面会において再審請求は原告Xの命の保証であると述べていることからもわかるように,再審請求をしている間は死刑の執行がされないと考えていたものであり,再審請求の準備をすることで心情の安定を保っていた反面,再審請求の進捗状況によっては心情が不安定になりうるものであったと認められる。たとえば,原告Xは,平成20年9月19日の面会において,原告髙野から,再審請求を原告Xの希望する平成20年中に行うことは難しく,平成21年1月までには行うと言われた際,死刑執行が早くされた者がいたことを挙げ,自分も早く執行されるのではないかとの不安を述べている。また,平成20年12月26日の面会の際,原告山本から,再審請求を平成21年1月までにできるかわからないと言われた際,原告髙野が別の事件で判決の確定からすぐに再審請求をしたことを引き合いに出して不満を述べるとともに,自己の死刑執行に対する不安を口にしている。さらに,平成21年1月6日の面会の際,原告松山から,同月中に再審請求をすることはできないと思うと伝えられると,再び,原告髙野が別の事件で判決確定後すぐに再審請求をしたことに言及し,面会は本日限りにしてほしい,以後は面会に一切応じない,弁護団に不信を持つと述べ,弁護団への不満,不信をあらわにすることが見られた。このように,再審請求の進捗状況によって原告Xの心情は不安定になりうるものであり,しかも上記平成21年1月6日の面会では今後一切の面会に応じないと述べるなど,心情の変化の程度は大きかったといえることからすれば,いまだ原告Xの心情を把握する必要性があったというべきである。そして,再審請求の弁護人の発言により原告Xの心情に大きな変化が生じる可能性があったのであるから,心情を把握するためには,普段の生活における動静を観察するだけでなく,再審請求の弁護人との面会に立ち会う必要性があったと認められる。

(ウ)平成21年2月以降の面会について

原告Xは,平成21年2月2日の面会において,再審請求をしたとの報告を受けた。その後同年5月8日の面会にいたるまでは,心情が大きく変化したことをうかがわせる事情は見当たらないが,上記のとおり,同年1月6日の面会における心情の変化の程度が大きかったこと,同年3月30日の面会で原告Xが最近面会が少ないとの不満を述べていたこと,同年4月20日の面会で再審請求が棄却された後の死刑執行が早まっていることへの不安を述べていること,同年5月の時点でも死刑判決の確定から9か月ほどであり,再審請求からは3か月ほどであることからすれば,原告Xの心情が安定しているかを判断するべく,原告弁護士らとの面会に立ち会うことにより心情把握をする必要性はあったと認められる。

そして,平成21年5月8日の面会において,原告Xは,体調がよくないこと,司法に対する絶望感があること,再審請求が取り上げられないと考えている旨述べているなど,心情に変化がみられた上,同月11日の面会からは,共犯者との婚姻の話を持ち出している。同月20日,同月26日の面会では,原告山本,原告髙野から婚姻を反対され,このことにより,同年6月5日の面会では,面会に応じるのをやめようと思った,今は共犯者のことしか考えておらず,まいってしまうなどと述べ,再審請求に関する専門家の意見書にも興味を示さないなど,精神状態が相当悪化していたことが認められ,その後の同月16日,同月18日の面会の時点でも,共犯者に対して婚姻についての自己の意向を伝えたいと述べるなど,共犯者に対して強い思いを抱いていたことがうかがわれる。このように,共犯者との婚姻について原告弁護士らから反対されたことで原告Xの心情は相当不安定な状態となったことからすれば,同日までの面会についても,心情を把握する必要性は高く,そのためには,原告弁護士らとの面会に立ち会う必要があったと認められる。

(エ)以上のほか,原告Xは,処遇が変わることを避けるために,普段から職員に心情を把握されないように振る舞っていたことが認められ(原告Xが,落ち込んでいるのかと聞かれた際に,落ち込んでいると言うと処遇が変わるためはっきりと言えないと述べたこと(上記(1)ア(ホ))から認められる。),上記(1)イのとおり,本件期間中に弁護人以外の者と面会をしたのは,平成20年9月25日の親族との面会の一度だけであったことからすれば,原告Xの心情を把握するためには,原告弁護士らとの面会に立ち会う必要性があったといえる。

他方で,上記(1)ウに認定したとおり,原告Xは,本件期間中,暴力事件等を起こしたり,保護房に入れられたりしたことはなく,自殺を試みたこともなかったが,このことのみをもって心情が安定していたとまでは認められない。

イ 死刑確定者の正当な利益を保護する必要性原告らには,再審請求及び本件訴訟の準備のための相談を十分に行うため,面会の際の発言を刑事施設の職員に知られない利益がある。すなわち,再審請求の準備については,被告が管理運営するA拘置所の職員が立ち会うことにより,心理的圧迫が生じ,十分な打合せができなくなるとの不利益があると認められるし,本件訴訟については,実質的な紛争の相手方であるA拘置所の職員が面会に立ち会えば十分な打合せができなくなることは容易に想像できる。

他方で,本件各面会における打合せ内容等に応じた具体的な不利益の内容及び程度については明らかではなく,A拘置所長に対しても,原告らから,直接ないし職員を通じて,再審請求や本件訴訟の準備であること以上に立会いのない面会を求める具体的な理由が伝えられたことは認められない(上記前提となる事実のとおり,A拘置所長は,原告弁護士らから,面会に立会いを付さないでほしいとの申出書の送付を受けているが,この書面にも,立会いのない面会を求める理由として,再審請求や国家賠償請求訴訟の準備のためであること以上に具体的な理由は記載されていなかった(甲3の1,4)。)。なお,一般に,被収容者が刑事施設において不当な処遇を受けているとして弁護士等と面会をする際に,刑事施設の職員がこれに立ち会うとすると,具体的な相談をすること自体に消極的になってしまうおそれがあるが,本件訴訟において問題とされている処遇は,原告弁護士らも同席している面会の場における職員の立会い及び時間制限であり,立会いが付された当初から原告らはこれが不服である旨の意思を表明していたのであるから,本件においては,具体的な相談をすること自体に消極的になってしまうとの不利益を考慮する必要はない。

ウ 以上のとおり,原告Xは,死刑判決の確定直後には精神状態の悪化がうかがわれ,その後も再審請求の進捗状況や共犯者との婚姻の問題に関し,心情が不安定となる場面が見受けられるなど心情把握の必要性があったこと,他方で,原告らには,再審請求や本件訴訟の打合せに立会いが付されることによる一般的な不利益があったものの,具体的な不利益の内容及び程度は明らかでないこと,本件で問題となっている面会は,死刑確定から11か月に満たない平成21年6月18日までの間のものであり,この間に原告Xの心情が不安定になる場面が見受けられ,なお死刑判決の確定が原告Xの心情に与える影響の程度を慎重に見極める必要があったことからすれば,死刑確定者を刑の執行まで確実に拘束しておくとの職責を有するA拘置所長において,立会いを付さないという例外的措置が相当であると認めなかったとしても,この判断に裁量権の逸脱ないし濫用があったとまで認めることはできない。なお,原告らは,A拘置所の職員が,原告Xや同原告と面会した原告弁護士らから直接心情に関する聴取をしていないことや,立会いの省略の有無を第一次的に判断する処遇部統括矯正処遇官が,原告Xの健康状態や精神状態を推知するために有効な薬剤等の服用状況に関する情報がないままに立会いの省略の有無について判断をしていたなどと主張するが,原告XはA拘置所職員に自己の心情を把握されないよう振る舞っていたのであるから,同原告からその心情について聴取したとしても,的確な把握はもともと困難である上に,上記のとおり,本件では,原告弁護士らとの会話の内容から心情を把握する必要性があったものであり,また,薬剤の服用状況からうかがわれる健康状態や精神状態の悪化といった事情がなくとも,前記アのとおり心情把握の必要性があったものであるから,原告Xや同原告に面会した弁護士から直接心情に関する聴取していないことや,薬剤の服用状況に関する情報がないままに判断をしていたことは,上記判断を左右しない。また,原告らは,A拘置所長が職員を立ち会わせたことの目的は心情把握ではなかったと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。

原告らは,さらに,原告Xの心情把握のために同原告と弁護士との面会にA拘置所の職員を立ち会わせる必要があったというのであれば,原告Xの再審請求についての棄却決定がされた平成22年3月18日の同原告と弁護士との面会に上記職員を立ち会わせていないことの説明がつかない旨主張する。

しかしながら,上記同日の同面会の際,同拘置所の職員が同決定を知らされていたことを認めるに足りる証拠はない(証人Bの証言中には,同決定がされたことを,上記面会の際認識していなかった旨の供述部分がある。)から,原告らの上記主張は前提を欠き失当であるといわざるを得ない。

(5)以上によれば,本件各面会に立会いを付したA拘置所長の判断に裁量権の逸脱ないし濫用があったとまで認めることはできない。

6  争点(6)(A拘置所長の裁量権の逸脱,濫用の有無(時間制限をしたことについて))

刑事収容施設法122条,同法114条1項は,刑事施設の長は,面会の時間について刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上必要な制限をすることができるとし,刑事収容施設規則73条は,面会時間を制限するときは原則として30分を下回ってはならないが,やむを得ない場合には5分を下回らない範囲内で30分を下回る時間に制限することができる旨定めている。

証拠(乙6,9)によれば,A拘置所における一般面会用の面会室は15室(うち男性被収容者用14室)であり,面会の実施時間は午前9時から午後零時まで及び午後1時から午後5時までの合計7時間であること,1日当たりの一般面会の申出件数が平均約250件であることが認められる。なお,A拘置所における男性被収容者の面会業務に配置されている職員の合計数が38人(総合面接受付6人,各面会所受付職員4人,立会職員14人,連行職員14人)であること(乙6)からすれば,1日の面会実施時間を7時間に制限することには合理性がある(同規則72条は,平日の場合1日につき6時間を下回ってはならないとしているところ,A拘置所における扱いはこれを上回っている。)。

上記によれば,一般面会1件当たりに割り当てられる時間は約25分となる(計算式:7×60×15÷250=25.2)。一般に,時間制限がない場合,面会時間が25分以上となることも多いであろうから,時間制限をしなければ,25分を超えて面会をできる者もいれば,実施時間との関係で面会ができなくなる者が生じるなど被収容者間の処遇の不公平を招くことになる。したがって,このような事態を避けるため,時間制限は必要であり,また,面会1件当たりに割当て可能な時間が約25分であること,面会時間を制限するときは原則として30分を下回ってはならないとの同規則73条が定める基準を満たしていることからすれば,面会時間を30分に制限することも相当というべきである。

これに対して原告らは,被収容者の面会といっても重要性や緊急性は様々であり,特に再審開始決定前の死刑確定者が弁護人と面会することは,その緊急性から他の被収容者の面会に優先して実現されるべき性質の権利であり,全ての面会に均等に機会を付与することを前提とする被告の主張は前提を欠く旨主張する。

たしかに,再審請求のための打合せには,一般に時間を要するものといえる。しかし,一部の被収容者を優遇することは他の被収容者との関係で不公平な処遇になりうるところ,刑事収容施設法は,面会の内容によって時間制限について異なる規定を設けていないこと,本件では,A拘置所長において,各面会について,再審請求や本件訴訟の準備のためであること以上に,特に時間を要するとの個別具体的事情が明らかではなく,A拘置所長において個別具体的事情を認識し得たとも認められないこと,A拘置所では一般面会1件当たりに割当て可能な時間が約25分であって,原告Xの面会について時間制限をしなかった場合,他の被収容者の面会時間が減ると考えられることからすれば,原告Xと原告弁護士らとの面会時間を30分に制限したA拘置所長の判断に裁量権の逸脱ないし濫用があるとまで認めることはできない。

7  小括

以上のとおり,本件各面会について,いずれも職員の立会いを付し,時間を30分に制限したA拘置所長の措置は違法とは認められないから,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求には理由がない。

第4  結論

よって,原告らの請求にはいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

別紙<省略>

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