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さいたま地方裁判所 平成21年(行ウ)20号 判決 2010年10月27日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3争点に対する判断

1  本件各差押処分自体の適法性

原告は、本件各課税処分に係る軽油取引税及び不申告加算税につき、督促状を受け取りながら、これが発せられてから10日を経過した日までにその督促に係る軽油取引税及び不申告加算税を完納しなかったため、川越県税事務所の徴税吏員らは本件各差押処分を行ったものであり、本件各差押処分は適法なものであると認められる。

2  違法性の承継について

原告は、本件各課税処分の違法を理由に本件各差押処分の取消しを求めている。

しかしながら、課税処分と差押処分とは、前者が租税確定手続であるのに対し、後者は租税徴収手続であり、両者は別個の法律効果の発生を目的とする別個独立の行為であるから、差押処分は、原則として、その基礎となった課税処分の違法性を承継しないものと解され、課税処分が当然無効であるか、権限のある者によって取り消されない限り、差押処分が違法であるということはできない。

そして、課税処分が当然無効とされるのは、当該処分に重大かつ明白な瑕疵がある場合であり、具体的には、課税要件の根幹についての内容上の過誤が存し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合に限られると解される(最高裁昭和48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁参照)。

そこで、本件各課税処分に上記の無効事由が存するか否かについて以下検討する。

3  本件課税処分1について

(1)  証拠によると、次の事実が認められる。

ア  パーム油と灯油の混和

(ア) 原告は、平成18年5月31日、有限会社a(登記はされていない。)の名義で、マレーシアから輸入されるパーム油を購入し、同年7月27日、購入したパーム油を茨城県内のタンクに納入した。納入直前に、川越県税事務所の調査吏員がタンクを確認したところ、2つのタンクにそれぞれ100リットル、200リットルの灯油が残されていることが確認された。(甲20、乙1)

(イ) タンクに納入されたパーム油を採取して分析したところ、2つのタンクに納入されたパーム油から、それぞれ0.82パーセント、0.8パーセントの炭化水素分が検出された。(乙1)

(ウ) 同月25日に、原告は、川越県税事務所の徴税吏員の電話による聞き取りに対して、同日タンクを灯油で洗浄してきたが200から300リットルほどタンク残が生じたと述べていた。(乙16)

イ  トラックに残っていた軽油との混和

(ア) 原告は、タンクから上記パーム油約19リットルを、自らが保有するトラックの燃料タンクに給油した。(乙1)

(イ) 原告は、通常、トラックの燃料として軽油を使用していた。(乙1)

(ウ) 原告は、上記パーム油約19リットル全部をトラックの燃料として使用した。(乙1)

(2)  上記認定事実によると、原告がパーム油をタンクに納入した際、パーム油とタンクに残っていた灯油の混和が生じ、これをトランクの燃料タンクに給油した際、従来使用していた軽油の残りと上記混合物の混和が生じたと認められる。

これに対し、原告は、納入の約2週間前に各タンクを水道水で洗浄した旨主張し、これに沿うA作成の「証言書」(甲33)を提出している。しかし、Aは原告が経営していた青山産業の従業員であった者であり、原告に有利な陳述をする可能性もある上、上記認定のとおり、原告は、平成18年7月25日の聞き取りでは、同日タンクを灯油で洗浄したと述べていたこと、原告の上記主張を前提とすると、タンクを洗浄した日は平成18年7月13日前後になるはずであるが、原告は徴税吏員に対して、同月14日の時点でも、同月18日の時点でも、納入先がまだ決まっていない旨述べていたこと(乙17、18)からすると、原告主張事実を認めることはできない。

そして、このパーム油、灯油及び軽油の混合物は炭化水素分を含む「炭化水素油」に該当するから、これを自動車の内燃機関の燃料として消費した原告は、法700条の3第5項により軽油引取税の納税義務を負い、また上記認定のとおり原告はその旨の申告をしていないのであるから、平成18年法律第7号による改正前の地方税法700条の33第2項により不申告加算税の納税義務を負う。

(3)  混和した軽油が課税済みであるとの主張(前記原告の主張ア(イ))について原告は、トラックに給油した際にパーム油と従来使用していた軽油が混和したとしても、この軽油は軽油引取税が課税済みであるから、原告には納税義務がない旨主張する。

自動車の保有者が炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合の軽油引取税の課税については、法700条の3第5項により、その消費量が課税標準量とされる。そして、当該消費に係る炭化水素油に既に軽油引取税又は揮発油税が課され、又は課されるべき軽油若しくは燃料炭化水素油又は揮発油が含まれているときは、当該含まれている軽油若しくは燃料炭化水素油又は揮発油に相当する部分の炭化水素油の数量を控除した数量を課税標準量とするとされている。

本件において、課税の対象となる「炭化水素油」は、パーム油、灯油、軽油の混合物であるが、課税標準量とされた19キロリットルという量は、原告が述べたパーム油のみの消費量であり、灯油の量及びトラックに残存していた軽油の量は加算されていない(乙1)。言い換えれば、原告が消費した炭化水素油の量から、灯油の量と課税済みの軽油の量が控除されたものが課税標準量とされているのである。

したがって、当該課税標準量全部について、原告は納税義務を負う。この点についての原告の主張は採用できない。

(4)  小括

以上によれば、本件課税処分1は適法なものであり、本件課税処分1に課税要件の根幹に関する内容の過誤が存在し、原告に本件課税処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情があるとは到底認められない。

4  本件課税処分2について

(1)  原告による不正軽油の販売

ア  証拠によれば、以下の各事実が認定できる。

(ア) 平成18年10月19日に長野県佐久地方事務所の徴税吏員が実施した路上抜取調査において、自動車から採取した燃料からクマリンが検出された。同月20日に上記自動車の給油先である有限会社bの地下タンクに貯蔵されていた軽油を分析した結果、クマリンが検出されたが、その軽油は原告が納入したものであった。(乙3)

(イ) 原告は、有限会社cに軽油を納入していたが、平成19年1月15日に熊谷県税事務所の徴税吏員が調査を行ったところ、同社が保有するトラックの燃料からクマリンが検出された。また、同月23日には、同社の地下タンクに貯蔵された軽油を調査したところ、クマリンが検出された。(乙4)

(ウ) 有限会社dは原告ともう一社から軽油を購入していたが、平成19年1月16日に熊谷県税事務所の徴税吏員が同社の地下タンク及びミニローリーから採取した軽油からクマリンが検出された。さらに、同年2月7日、原告が有限会社dの地下タンクに納入した直後に、原告保有のタンクローリーのジョイントノズル部分に残っていた軽油を調査したところ、クマリンが検出されたが、もう一社が軽油を納入した直後に同社のタンクローリーのジョイントノズル部分の軽油を調査したところ、クマリンは検出されなかった。(乙5)

(エ) 平成18年10月から平成19年2月までの間、原告による軽油の販売価格は、市場卸価格と比較して5パーセント前後安くなっていた。(乙6)

イ  上記の認定事実によると、原告が平成18年10月から平成19年2月までの間に販売していた軽油は、軽油に軽油以外の炭化水素油を混和し又は軽油以外の炭化水素油と軽油以外の炭化水素油を混和して製造された軽油であったと認められる。

原告はこれに反する主張をしているが、上記認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)  法700条の3第4項の解釈(前記原告の主張イ(イ))について

原告は、法700条の3第4項にいう「軽油に軽油以外の炭化水素油を混和し若しくは軽油以外の炭化水素油と軽油以外の炭化水素油を混和して製造された軽油」とは、石油製品販売業者が自ら混和したものに限られる旨主張する。

しかし、同条項の文言上、誰が混和を行ったかという点は何ら限定がされておらず、解釈上そのような限定を加えるべき理由もない。

なお、原告は、同条項の「特約業者又は元売業者以外の石油製品の販売業者(以下本節において「石油製品販売業者」という。)が、」という部分が、混和行為の主体を定めていると主張するようであるが、同部分は販売行為の主体について規定するものであり、混和行為の主体について規定するものでないことは文理上明らかであるから、原告の主張は採用できない。

(3)  販売した軽油が課税済みであるとの主張(前記原告の主張イ(エ))について

原告は、自身が仕入れ、販売した軽油は、軽油引取税が課税済みのものであるから、原告は納税義務を負わない旨主張する。

そこで検討すると、特約業者又は元売業者以外の石油製品の販売業者が軽油に軽油以外の炭化水素油を混和し若しくは軽油以外の炭化水素油と軽油以外の炭化水素油を混和して製造された軽油を販売した場合、法700条の3第4項により、その販売量を課税標準量として軽油引取税が課される。その際、課税済みの軽油又は揮発油に相当する部分の数量が課税標準量から控除されるのは、法700条の22の2第1項1号若しくは2号の規定により道府県知事から製造の承認を受けた軽油を販売する場合に限られており、製造の承認を受けていない場合には、仮に課税済みの軽油等が含まれていても、課税標準量からの控除は行われないとされているところである。これは、混和軽油に対する軽油引取税のほ脱事例が増大していたことから、混和等の承認を受ける義務等の制度が創設されたことにともない、徴収の適正化及び簡素合理化の観点から、一定の範囲についてのみ同一の軽油等に対する二重課税を回避するために設けられたものであって、このような取扱い自体に合理性がないとはいえない。

本件において、原告が仕入れ、販売した軽油について、原告は仕入先である有限会社eに軽油引取税相当額を支払っていることがうかがわれ(甲31、32)、課税済みである可能性は否定することができないが、この軽油は、有限会社eにおいても原告においても、製造に関し道府県知事の承認を受けたものとは認められないから、仮に課税済みであるとしても、原告が納税義務を負うことに変わりはない。よって、原告の主張は採用できない。

(4)  小括

以上によれば、本件課税処分2は適法なものであり、本件課税処分2に、課税要件の根幹に関する内容の過誤が存在し、原告に本件課税処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情があるとは到底認められず重大かつ明白な瑕疵があるとは認められない。

5  結論

以上のとおりであるから、原告の各請求には理由がないのでいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 八木貴美子 水越壮夫)

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