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さいたま地方裁判所 平成21年(行ウ)5号 判決 2009年10月14日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  法10条1項は、墓地等を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨を定めているが、同許可の要件については特に規定していない。これは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に影響されることから、一律的な基準による規制になじみにくいことにかんがみ、墓地等の経営に関する許否の判断を行政庁の広範な裁量にゆだねる趣旨によるものである。もっとも、法は、行政庁に墓地等の経営の許否について、全くの自由裁量権を付与したものではなく、行政庁は、具体的事案において墓地等の経営の許否を決するに当たっては、墓地等の管理等が国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われるようにするという法の趣旨目的及び行政庁に判断権が付与された趣旨にかんがみ、公正妥当な判断を行う必要があるというべきである。以上の解釈を前提として、各争点について検討する。

2  争点(1)ないし(3)(処分理由1ないし3の適否)について

(1)  上記法の趣旨目的からすると、行政庁は、墓地等の管理等の行為が、国民の宗教的感情に適合し、公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われるように、墓地等の経営の許否の判断をしなければならないといえる。具体的には、墓地等の管理等の行為は、そもそも国民の宗教的感情に根ざすものであり、それらは宗教的平穏の中で行われることが必要とされるから、行政庁が墓地等の経営の許否を判断するに当たっては、その墓地等が設置される予定の場所が国民の宗教的感情に適合しているか否かを慎重に審査する必要がある。また、墓地等の管理が不十分であったり、墓地等が管理されずに放置されるような事態が生じると、公衆衛生上の問題が生じ、さらに当該墓地等の利用者や周辺の住民の宗教的感情を害することにもなるため、その経営主体は、墓地等を永続的に安定して経営できるものでなければならず、墓地等の経営の許否に当たっては、その経営主体の適格性も審査する必要がある。

このように、墓地等の経営の申請に対し、その許否を判断するにあたっては、行政庁は、当該土地が国民の宗教的感情に適合しているか否かを審査するとともに、その経営主体が墓地等の経営について適格性を有するものであるかを十分に審査する必要があることになる。

本件条例4条が、墓地の設置場所につき、住宅等の敷地からおおむね100メートル以上離れていることを許可の基準として定め、また、同条例11条1項が、墓地等の経営等の許可を受けようとする者に、深谷市長との事前協議を要求しているのも、このような趣旨によるものといえる。

もっとも、行政庁の許可を受けて現に同許可を受けた経営主体により経営されている墓地等については、既に上記の見地からの審査を経ていることから、適格性のある経営主体が、国民の宗教的感情を配慮した墓地等を経営しているものであるということができ、このような趣旨から、本件規則3条2号は、本件条例4条の定める許可基準の例外として、「既存の墓地」に接して、又は「既存の墓地」との一体性が認められる場所に、1,000平方メートル未満の墓地の区域を加える場合を規定し、また、本件要綱16条2号は、「既存の墓地」に接して1,000平方メートル未満の墓地の区域を加える場合には、深谷市長との事前協議を要しないと規定していると解される。

そうすると、本件条例及び本件要綱にいう「既存の墓地」とは、既に行政庁による法10条1項の許可を受けて現に同許可を受けた経営主体により経営されている墓地を指すものと解すべきである。

(2)  これを本件についてみるに、原告が法10条1項の許可を受けて、本件土地部分に墓地を経営しているのではないことは当事者間に争いがなく、本件土地部分は「既存の墓地」に該当しない。

(3)ア  なお、附則26条は、この法律施行の際現に従前の命令の規定により都道府県知事の許可をうけて墓地、納骨堂又は火葬場を経営している者は、この法律の規定により、それぞれ、その許可をうけたものとみなすと規定しているところ、原告は、本件土地部分については、同条にいう、いわゆるみなし墓地に該当するから、法10条1項の許可を受けた者として扱われる結果、本件土地部分も「既存の墓地」に該当すると主張している。

イ  附則26条によると、みなし墓地といえるためには、法施行の際に都道府県知事等から許可を受けた者が経営している墓地であることが必要であるというべきである。しかしながら、本件土地部分は法が施行された昭和23年6月1日より前から地目が墳墓地であったとうかがわれるものの(〔証拠省略〕)、本件土地部分の面積は66平方メートルに過ぎず、しかも平成15年12月当時でも墳墓がいくつか建立されているだけであって(〔証拠省略〕)、本件土地部分は墓地等の経営の許可を得ていない者の営むいわゆる個人型墓地であった可能性が高く、他に本件土地部分を墓地として経営する者が法施行の際に都道府県知事等から許可を受けて本件土地部分を墳墓として経営していたと認めるに足りる事情は認められない。そうであれば、本件土地部分はみなし墓地ということはできない。

ウ  また、仮に、本件土地部分が従前の命令の規定による許可を受けていたとしても、本件土地部分が「既存の墓地」に該当しないとした深谷市長の判断は妥当なものである。

すなわち、前記のとおり、法が墓地等の経営の許可にあたっては設置場所及び経営主体の両側面からの審査を要求していると解されることからすると、同許可においては墓地等の設置についてその場所と経営主体の両側面が一体のものとして扱われているといえる。そうであれば、本件規則3条の「既存の墓地」による措置は、当該許可を受けた墓地の経営者が地積を拡大する場合にのみ適用されるものというべきである。そして本件においては、法施行当時経営者とみなされた経営者がその地積を拡大する場合ではないから、仮に附則26条によって本件土地部分につき「みなし墓地」とされるとしても、原告が地積を拡大する本件の場合は、「既存の墓地」による措置の適用はないというべきである。

(4)  以上より、本件土地部分は「既存の墓地」に該当しないから、本件申請の許否を判断するに当たっては、国民の宗教的感情への配慮と、経営主体の適格性などの見地から、深谷市長が審査をする必要があるのであって、同市長との事前協議を経ていないことを理由に不許可とした深谷市長の判断(処分理由1)は妥当である。

また、本件土地が住宅等の敷地から100メートル以内の場所にあり、例外的に許可をすべき場合にも該当しないことを不許可の理由とした深谷市長の判断(処分理由2及び3)も妥当である。

したがって、この点についての原告の主張には理由がない。

3  争点(4)(処分理由4の適否)について

(1)  行政庁が、墓地等の経営の申請に対し、その許否を判断するにあたっては、国民の宗教的感情に適合するよう配慮する必要があることは前述のとおりであるところ、国民の宗教的感情への適合の見地から、周辺の生活環境との調和を考慮することはもとより許されるところである。

(2)  前記争いのない事実等及び〔証拠省略〕によれば、本件土地は、第一種低層住居専用地域にあること、道路の幅員が十分にあるとはいえないことが認められ、これらの事情に加えて、本件土地のある地域の歴史的背景を考慮して、深谷市長が本件申請を認めると周辺の生活環墳との調和がとれなくなることを、本件申請を不許可とする理由のひとつとしたことは妥当である。また、上記のとおり、本件土地部分は「既存の墓地」に該当しないのであるから、原告のいうように、既に考慮され、重ねて配慮する必要のない事項について処分理由とすることにもならない。

(3)  したがって、この点についての原告の主張には理由がない。

4  争点(5)(処分理由5の適否)について

(1)  行政庁が、墓地等の経営の申請に対し、その許否を判断するにあたっては、国民の宗教的感情に適合するよう配慮し、かつ公衆衛生の見地から、その経営主体の適格性等を審査し、墓地等の経営が永続的に継続しうるものであるかを検討する必要があることは前述のとおりであるところ、需要の見込みのない墓地については、その墓地経営の悪化のおそれがあり、そうすると、当該墓地の経営の永続性が確保できなくなったり、周辺住民等の宗教的感情を害するような事態が生じるおそれも否定できない。また、周辺住民等の宗教的感情に配慮すれば、必要性の乏しい墓地の設置は控えるべきということもできる。

以上より、墓地の需要の見込みを考慮することは許されるといえる。

(2)  本件では、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件土地とは別の場所にある墓地について墓地増設の変更許可を受けているものの、いまだ墓地として整備していないことが認められ、この事実を前提とすれば、深谷市長が、本件土地で新たに墓地の増設を行っても需要の見込みがないと判断し、これを本件処分の不許可理由のひとつとしたことは妥当である。

(3)  したがって、この点についての原告の主張には理由がない。

5  争点(6)(処分理由6の適否)について

処分理由6は、処分理由1ないし5を概括的に述べたものにすぎず、上記同様に妥当なものである。

したがって、この点についての原告の主張には理由がない。

6  まとめ

以上のとおり、本件処分に違法はなく、また本件処分が裁量を逸脱又は濫用した違法なものであると認めるに足りる事情もない。

第4結論

よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 八木貴美子 辻山千絵)

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