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さいたま地方裁判所 平成22年(モ)198号 決定 2010年8月10日

主文

相手方は,本決定が確定した日から14日以内に,別紙文書目録記載の文書を提出せよ。

理由

第1申立て

申立人は,別紙(1)「文書提出命令の申立書」記載のとおりの文書提出命令を申し立てた。相手方の意見に対する反論は,別紙(3)「文書提出命令の申立書に関する意見書」記載のとおりである。

第2相手方の意見

相手方の意見は,別紙(2)「文書提出命令の申立てに対する意見書」記載のとおりである。

第3当裁判所の判断

1  基本事件(平成22年(ワ)第1312号損害賠償等請求事件)のうち,本訴事件は,相手方が,もと相手方の従業員であった申立人に対し,相手方の事務所にあった金庫から400万円を持ち出したと主張して,民法709条に基づく損害賠償として,未返還の100万円とこれに対する遅延損害金の支払を求める事案であり,反訴事件は,申立人が,相手方に対し,申立人に在職中の時間外手当の支払を求める事案である。申立人は,相手方に請求する時間外手当の額を確定するため,別紙文書目録記載の文書(以下「本件文書」という。)について文書提出命令の申立てをしたと認められる。

2  相手方は,申立人が時間外手当を請求する平成20年4月19日から平成21年6月30日までの期間中,申立人は,「私は,事務局長だから,タイムカードをつけなくてもよい。」として,タイムカードをつけていなかったものであり,相手方は本件文書を所持していないと主張する。

これに対し,申立人は,相手方の経営者であったA(以下「A」という。)は,申立人が正社員となった平成18年以降に,遅刻をなくすために,相手方にタイムレコーダーを導入し,遅刻の有無を厳しく確認するようになったと主張する。

記録によれば,申立人は,平成15年1月頃にその娘が不登校となったことから,当時,整体施術を業とする相手方の代表者であるとともに,a社の名称で不登校児の相談活動等を個人でしていたAに,娘のことについて相談したこと,その結果,同年4月,申立人の娘が,Aが営んでいた不登校児を対象とする教室に入るとともに,Aから整体の施術を受けるようになったこと,申立人の娘は,平成17年4月,高校を卒業して相手方に就職したこと,申立人も,Aの依頼により,同年12月頃から,相手方でパートとして働くようになり,平成18年4月,相手方の正社員となったこと,Aは,従業員の遅刻をなくすため,同年暮れ頃,相手方にタイムレコーダーを導入し,遅刻した者に対し,減給処分をするようになったことが認められる。

ところで,相手方代表者も,Aが平成21年1月19日に死亡した後に,相手方の代表取締役となった際,相手方にタイムレコーダーがあり,申立人以外の従業員がタイムカードをつけていたこと自体は認めており,申立人のみが,事務局長なので,勤務時間が決まっておらず,タイムカードをつけていないと述べていたと陳述(甲13号証)するが,従業員の遅刻にうるさかったAが,申立人に対し,タイムカードをつけないことを許容していたとは認め難い。

また,相手方は,反訴答弁書において,平成20年4月29日から平成21年6月16日までの間に,申立人が欠勤した日及び早退した日について具体的に主張しているところ,相手方は,申立人の業務開始時刻及び業務終了時刻に関する記録はないと自ら主張するところである(反訴答弁書)から,相手方が申立人のタイムカードに基づいて申立人が欠勤した日及び早退した日を主張したと推認することができる(この点について,相手方代表者は,Aから,Aが休むときに申立人も休んでいたと聞いたので,Aの休日を記録した台帳を見れば,申立人が休んだ日は分かると陳述するが,相手方は,Aが死亡した後についても,上記のとおり具体的に主張しているのである。)。

したがって,相手方は,本件文書を所持していると認めるのが相当である。

3  上記1及び2によれば,本件文書は,民事訴訟法220条3号所定の利益文書に当たるというべきところ,申立人は,上記1に説示のとおり,相手方に請求する時間外手当の額を確定するため,本件文書提出命令の申立てをしたものであるから,基本事件の本案訴訟において,本件文書を証拠として取り調べる必要があると認められる。

第4結論

以上によれば,本件申立ては理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり決定する。

(別紙)

文書目録

申立人の,平成20年4月19日から平成21年6月30日までの相手方におけるタイムカード

以上

別紙(1)

文書提出命令の申立書

原告 X1社 他2名

被告 Y

上記当事者間の御庁平成22年(ワ)第1312号事件について、下記文書の提出命令を発せられたく申し立てます。

平成22年6月2日

上記被告代理人弁護士 牧原秀樹

さいたま地方裁判所第2民事部1のろ係 御中

第1 文書の表示

被告の、平成20年4月19日から平成21年6月30日までの原告X1社におけるタイムカード 1通

第2 文書の趣旨

被告が原告X1社において勤務していた際に、出勤時及び終業時に時刻を印字していた文書である。

第3 文書の所持者

原告X1社(住所<省略>)

第4 証明すべき事実

被告は、原告X1社の請求に対し、未払いの残業代を請求するが、その残業代の計算の元となる残業時間。

第5 文書提出義務の原因

上記文書は被告の勤務時間を証明する文書であって、被告の利益のために作成されたものであることは明らかであるから、上記タイムカードの所持者たる原告X1社は民事訴訟法第220条第3号により提出義務を負うものである。

以上

別紙(2)

平成22年(ワ)第1312号損害賠償請求事件

原告 X1社 他2名

被告 Y

文書提出命令の申立てに対する意見書

平成22年6月16日

さいたま地方裁判所第2民事部1係ろ 御中

原告ら訴訟代理人弁護士 田中昭人

同弁護士 熊谷裕平

1 意見

被告の平成22年6月2日付け文書提出命令の申立ては,却下されるべきである。

2 理由

原告X1社において事務局長であった被告は,「私は事務局長だからタイムカードをつけなくてもよい。」として,タイムカードをつけていなかった。したがって,原告X1社は,被告が上記文書提出命令の申立ての対象とした文書を所持していない。

以上

別紙(3)

平成22年(ワ)第1312号損害賠償請求事件

文書提出命令の申立書に関する意見書

原告 X1社 他2名

被告 Y

平成22年7月2日

上記被告代理人弁護士 牧原秀樹

さいたま地方裁判所第2民事部1のろ係 御中

1 原告の平成22年6月16日づけ意見書に対する反論

原告は、被告が「事務局長だったからつけなくともよい」として付けていなかった旨主張するが、事実に相違し、タイムカードは付けていたのだから提出を求める。

2 タイムカード導入の経緯と理由

まず、通常の一般常識とは異なるが、A前社長の命令で導入されたタイムカードは、残業代を計算するためではなく、遅刻をチェックし、社内に厳格な規律を保つ為のものだった。

整体施術を行う原告X1社と、不登校生徒を扱う等の業務を行っていたa社は、ともに急死したA創設で、その強烈な個性とカリスマで引っ張られていた

Aは、会社内の厳格な規律を重んじていた。たとえば、原告自身が提出してきた甲8号証の2の内部文書では、「危機感が甘い」で5万円減給、「減量未達成」で1万円減給、「机の上での食事」に一回5000円の減給が科されている。この文書は、被告作成であるが、減給のルールはA作成であり、最終的な決裁もAが行っていた(甲第8号証の4、AのOKなどの決済メモ参照)。

被告が正社員になった平成18年頃、原告では毎朝Aを中心に朝のミーティングを行っていたが、遅刻が相次ぎ、主として遅刻の有無を確認するためにタイムカードが導入されたのである。遅刻一回5000円であり、被告もその減給処分を受けたことがある。

なお、原告では、被告に限らず誰にも残業代は支払われていなかった。これは原告自身が提出した各給料支払明細書(甲第9号証ないし11号証)にも一切残業代の記載がないことからも分かる。むろん被告提出の乙第1号証にも残業代はない。

3 事務局長ではなかったこと

上記の通り、本件タイムカードはそもそも残業代計算のためではなく、社内の誰もが遅刻は厳禁で、規律を守らなければならないとのA前社長の方針で導入されたものであるから、被告の社内での立場いかんにかかわらず、免除されるような性質ではなかったのである。

そして、被告は名称いかんにかかわらず、A前社長と同等の経営者サイドに立つような立場ではなかった。被告は、そもそも娘の不登校がきっかけで原告の故A前社長と関わるようになり、しかも自らが整体施術の患者となったために故A前社長と話をするようになったに過ぎない。●●●そもそも幼稚園教諭以外の特別な職務経験の経験しかない被告が、原告において絶対的なカリスマだったA前社長と同じ経営者側の立場にいきなり立つはずがない。

いう状況のもと、導入当時、正社員としての入社から8カ月ほどしか経っていない前パートにすぎない被告が、「事務局長だからつけなくていいよ」と、特別扱いをうけるはずがなかったのである

4 意見結論

被告は、毎朝、遅刻で減給処分を受けないように、車を駐車場に置く前にまずタイムカードを押していたなどして、明確にタイムカードを押していたのである。この点は、被告が原告と関わるきっかけとなった娘Bも明確に裏付けている。被告には、個の日々の残業時間を他の方法では立証が困難である。したがって、原告には改めてタイムカードという証拠の開示を求める。

以上

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