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さいたま地方裁判所 平成22年(行ウ)2号 判決 2012年2月15日

主文

1  本件訴えのうち、被告に対し、補助参加人Z1及び補助参加人株式会社Z2に連帯して平成20年9月分以前の事業系ごみの処理手数料に係る3138万2950円及びこれに対する平成21年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員をふじみ野市に支払うよう請求することを求める部分を却下する。

2  被告は、補助参加人Z1及び補助参加人株式会社Z2に対し、連帯して147万9550円及びこれに対する平成21年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員をふじみ野市に支払うよう請求せよ。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを25分し、その24を原告の負担とし、その余を被告の負担とし、補助参加によって生じた訴訟費用はこれを25分し、その24を原告の負担とし、その余を補助参加人らの負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(監査請求期間を徒過しているか)について

(1)  地方自治法242条2項は、監査請求の期間を「当該行為のあった日又は終わった日から1年」に限定しているところ、普通地方公共団体において違法に公金の徴収を怠る事実があるとして同条1項の規定による住民監査請求があった場合に、当該監査請求が、当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって公金の徴収を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求については、当該怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である(最高裁判所第二小法廷昭和62年2月20日判決・民集41巻1号122頁)。

(2)  本件において、原告は、Z1がごみ処理手数料の一部の徴収を違法に怠っていると主張し、Z1及びZ2社に対し連帯して差額分を支払うよう請求することを求めているところ、これは、申告量に基づく手数料の算定及び徴収が違法であることに基づいて発生する、適正な手数料額との差額分の徴収という実体法上の請求権の不行使をもって、公金の徴収を怠る事実としたものということができる。したがって、怠る事実に係る上記請求権の発生原因たる行為、すなわち手数料の算定及び徴収に係る財務会計上の行為があった日又は終わった日から、監査請求期間が進行するものと解するのが相当である。

手数料の徴収は、歳入の調定をして、納入義務者に対し納入の通知をすることにより行われることから(地方自治法231条)、本件においては、怠る事実の発生原因たる財務会計上の行為が終わった日とは、ごみ処理手数料の納入通知がなされた日と解するのが相当である。平成20年9月分の手数料については、平成20年10月21日ないし同月22日に納入通知がされたことに争いがなく、平成20年10月22日までには平成20年9月分の手数料徴収に係る財務会計行為は終了したものといえるから、監査請求がなされた平成21年10月27日の時点で、1年以上が経過している。そして、監査請求期間を徒過したことにつき正当な理由があると窺わせる事情もないから、平成20年9月分以前に係る監査請求は不適法であり、ひいては本件訴えも、同部分については適法な監査請求を前置していないため不適法となる。監査請求において監査請求期間の要件を充たすとして実体判断がなされたことは、以上の結論を左右するものではない。

(3)  原告は、特定の財務会計行為が違法であることに基づき発生する実体法上の請求権の不行使であっても、請求権が財務会計行為のされた時点でいまだ発生していないか又はこれを行使することができない場合には、実体法上の請求権が発生し、これを行使することができるようになった日を基準として監査請求期間を適用すべきである旨主張する。しかし、本件においては、Z2社が搬入したごみについてもa清掃センター備付けの秤で計量した記録があり、歳入調定及び納入通知がされた時点において、実際の搬入量を基礎として手数料を算定し徴収することは可能だったのであるから、原告の主張する上記の場合には当たらないというべきである。よって、原告の上記主張は採用することができない。

(4)  原告が平成20年9月分以前の手数料の差額として主張する金額(b清掃センター搬入分については年度毎になっているため、平成20年度分を除く。)は、別紙の「合計額」欄のとおり3138万2950円と認められるので(甲4の1参照)、この部分に係る訴えは、適法な監査請求を前置していない不適法なものとして、却下を免れない。

2  争点(2)(手数料徴収の違法性)について

(1)  旧条例11条1項及び別表第1によれば、事業系ごみに係る処理手数料は10キログラムあたり100円と定められている。そして、旧規則13条1項は、手数料につき、廃棄物を清掃センターに搬入した際、廃棄物処理(処分)手数料納入通知書(様式第9号)を交付し、搬入者から現金を受領することにより徴収するものとする旨定めているところ、様式第9号においては、「総重量」、「空車重量」及び「正味重量」をそれぞれ記載する欄があり、続けて「単価」及び「手数料」欄があることに照らせば、旧規則においても、搬入の際に秤で計測した数量を基準として単価を乗じ、手数料を算出することを当然予定しているものと解するのが相当である(なお、新規則の様式第9号においては、「入庫時車両重量」、「出庫時車両重量」、「廃棄物処理量」、「処理単価」及び「処理手数料額」欄が設けられており、これも旧規則における上記様式と同様の趣旨であると解される。)。「手数料徴収の基礎となる数量等は、市長の認定するところによる」(旧条例11条2項)との規定が、実際に清掃センターに搬入されたごみの数量を離れて自由に数量を認定する裁量を市長に与えたものとまで解することはできない。そして、旧規則13条3項に基づき1月分の手数料を一括して納付するという場合においても、同規定が、手数料を搬入の都度支払うことが煩瑣であるため、1月毎に一括して納付することを認めたものに過ぎないと解されることからすると、個々の搬入の際の搬入量を基礎として算出された手数料の合計を納付すべきであって、申告量により1月分の手数料を算出することは認められないというべきである。

本件において、Z2社がa清掃センターに搬入した事業系ごみに係る処理手数料は、実際の搬入量ではなく、事業者が申告した数量をもってごみの数量と認定し、これを基礎として算出されたものであるから、このような手数料の徴収は、旧条例の定める基準に反しており、違法というべきである。

(2)  これに対して、被告及び補助参加人Z2社は、Z2社が担当する大井町地区の事業所における事業系ごみには家庭系ごみが混入しており、搬入量を基礎とすると、本来無料であるはずの家庭系ごみの分まで含んだ過分な手数料を請求することになり、零細事業者の保護の必要性からも妥当でない旨主張するので、この点について検討する。

証拠(乙9、丙イ1)によれば、排出事業者が事業系ごみとして排出したものの中に、家庭系ごみが一定程度混入していたことが窺われるが、旧条例7条1項、12条及び旧規則6条1項に照らせば、事業系ごみと家庭系ごみとでは収集ないし運搬の方法が異なっており、排出事業者としては、本来、これらの分別をした上で、家庭系ごみについては集積所に出し、事業系ごみについては清掃センターに直接搬入するか、あるいは許可業者に運搬及び処分を委託すべきものである。そうである以上、排出事業者は、事業系ごみとして許可業者に処理を委託したものについては、仮にその中に家庭系ごみが混入していたとしても、全て事業系ごみとして手数料を納付すべきである。Z2社以外の許可業者に処理を委託した排出事業者や、許可業者に委託せず清掃センターに直接搬入する排出事業者については、家庭系ごみが混入していたとしても搬入量全体について事業系ごみ処理手数料を納付しなければならないのであるから、Z2社に処理を委託した排出事業者のみが、ごみの分別が不十分であることによる家庭系ごみの混入を前提として、申告量に基づいた手数料を納付すれば足りるとすることは、何ら合理的な理由がないものといわざるを得ない。

また、仮に、被告及び補助参加人Z2社が主張するように、一部の零細な排出事業者について保護の必要性があるとすれば、そのような零細事業者に対しては、必要に応じて他の合理的手段によってその保護を図るべきであり、ごみ処理手数料を旧条例の求める実際の搬入量基準ではなく申告量に基づいて算定するというような不明確な方法によるべきではない。廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする廃棄物の処理及び清掃に関する法律(同法1条)や、同法に基づき制定された旧条例及び旧規則の趣旨及び目的に鑑みても、適正な分別を行わない零細事業者の保護を理由に手数料を事実上減額することは、ごみ処理手数料の徴収において本来考慮すべきでない事項を過大に考慮するものであって、許されないというべきである。

補助参加人Z2社は、合併前の旧大井町では合法的に申告制が採られていたものであり、平成17年10月1日の合併から平成21年3月31日までの期間は、制度移行のために必要な期間であった旨主張する。しかし、合併前においても、Z2社以外の許可業者ないし排出事業者がa清掃センターに搬入する事業系ごみについては、秤計測量に基づいて手数料が算定されていたことが窺われるのであり(甲1、乙5)、Z2社のみに申告制を適用していたことに合理的な理由があると認められないことは既に述べたとおりであるから、旧大井町で合法的に申告制が採られていたとは必ずしも認められない。そして、後記3(2)認定の経緯に照らしても、適法に本訴の対象とされた平成20年10月分以降の徴収が、制度移行のための必要な期間内であるとは認め難い。したがって、補助参加人Z2社の上記主張は採用することができない。

(3)  以上より、Z2社がa清掃センターに搬入した事業系ごみに係る処理手数料の算定及び徴収は違法であり、手数料の徴収権者である市長(地方自治法149条3号)は、適正な手数料の徴収を違法に怠ったということができる。

なお、Z2社がb清掃センターに搬入した事業系ごみについては、秤により計測された数量を基礎として手数料を算定していたのであり(甲1、乙5)、このことは原告も認めるところであるから、b清掃センター搬入分についての手数料の徴収が違法であるとは認められない。

3  争点(3)(Z1の故意又は過失の有無)について

(1)  ごみ処理手数料の徴収に係る歳入調定及び納入通知は、ふじみ野市事務決裁規程により部長の専決とされており(甲6の1、乙14)、市長であるZ1は決裁に関与していなかったといえる。

このように、専決を任された補助職員が管理者の権限に属する財務会計上の行為を専決により処理した場合、管理者は、当該補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により当該補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、当該補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁参照)。

(2)  証拠(甲1、乙5、10ないし12)によれば、Z1は、旧大井町の町長であり、その後、合併により誕生したふじみ野市の市長となったこと、旧大井町においては、合併前から、Z2社がa清掃センターに搬入する事業系ごみの処理手数料について、事業者の申告量を基礎として算出する方法が採られていたこと、合併時に統一的な取扱いに向けた検討が行われたものの、早期の実現ができずに合併後も従来と同様に申告量から手数料を算定していたこと、平成19年5月以降、ふじみ野市廃棄物減量等推進審議会や市民検討会議において、事業系ごみの処理手数料や搬入の実態、改善策等につき検討が行われてきたこと、同年11月26日、上記審議会は、事業系ごみ減量推進に向けての具体的な方策について(答申)をZ1宛に提出したことが認められる。

このような状況を踏まえれば、Z1は、合併前後を通じて、ごみ処理手数料に係る政策決定に関与していたものといえるから、Z2社がa清掃センターに搬入する事業系ごみについて、申告量を基礎として手数料を徴収していたことを知っていたということができる。そうである以上、Z1は、補助職員である部長がこのような手数料の徴収を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務があったのであり、これを阻止しなかったことにつき、少なくとも過失があるといえる。

(3)  したがって、Z1は、適正な額の手数料を徴収しなかったことによりふじみ野市が被った損害を賠償すべき責任を負う。

4  争点(4)(Z2社の不当利得の有無)について

(1)  廃棄物処理(処分)手数料等は、搬入者が廃棄物を清掃センターに搬入した際、廃棄物処理(処分)手数料納入通知書を交付し、搬入者から現金を受領することにより徴収される(旧規則13条1項)。Z2社は、a清掃センターに搬入した事業系ごみについて、旧条例の求める実際の搬入量基準によって算定した額よりも少ない手数料しか納付していないので、搬入者が本来納付すべき額と実際の納付額との差額を利得したものと認められる。

これに対し、補助参加人Z2社は、ごみ処理手数料を納付する義務を負うのは排出事業者であって、許可業者は、排出事業者から運搬及び処分を受託したことに伴い、手数料の納付についても代行しているに過ぎないから、本来的に不当利得返還請求の客体には該当しないと主張する。しかし、上記のとおり、清掃センターにおける事業系ごみの処理手数料は、許可業者であると排出事業者であるとを問わず、当該事業系ごみを搬入した者に対して課されるものであり、ふじみ野市との関係で納付義務を負うのは搬入者であるといえる。そして、搬入者が許可業者である場合には、同許可業者が搬入した数量を基準として算定した手数料を課すに当たり、個々の排出事業者の負担額は何ら明らかにされないのであるから、排出事業者が最終的に費用負担すべきものであるとしても、許可業者のふじみ野市に対する手数料納付義務が単なる納付代行であるということはできない。そして、搬入者であるZ2社は、条例の求める正当な手数料の支払を免れた以上、それに対応する利得が発生しているものと認められ、これを覆すに足りる具体的な証拠はないといわざるを得ず、補助参加人Z2社の上記主張は採用することができない。

(2)  ふじみ野市は、Z2社がa清掃センターに搬入した事業系ごみに係る処理手数料について、申告された数量を基礎として歳入調定及びこれに基づく納入通知をし、Z2社から同手数料を徴収していた。その際、Z1が補助職員に対する指揮監督を怠り、補助職員が旧条例の求める基準に従って算定することを怠って手数料を徴収したことにより、Z2社は前記(1)のとおり利得したのである。このように、事業系ごみの搬入者としてごみ処理をふじみ野市に委託して処理を行ってもらいながら、旧条例が搬入者に求める手数料を納付せずに利得していることは、正当視できるものではなく、法律上の原因がないものと認められる。

(3)  以上のとおり、Z2社は、本来徴収されるべき手数料額と実際に徴収された手数料額との差額について、ふじみ野市の損失において、不当に利得したものと認められる。

5  争点(5)(損害額)について

Z2社がa清掃センターに搬入した事業系ごみに関して、平成20年10月分から平成21年3月分までの手数料に係る、本来徴収すべき金額と実際に徴収された金額との差額の合計は、別紙の「合計額」欄記載のとおり、147万9550円である。

(裁判長裁判官 原啓一郎 裁判官 古河謙一 髙部祐未)

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