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さいたま地方裁判所 平成22年(行ウ)29号 判決 2011年2月02日

原告

X株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

伊佐山芳郎

浅野晋

小池健治

被告

埼玉県

同代表者兼処分行政庁

埼玉県知事 B

同訴訟代理人弁護士

池本誠司

長田淳

同指定代理人

落合正規<ほか一名>

主文

一  埼玉県知事Bが原告に対して平成二二年八月六日付けでした特定商取引に関する法律第五七条一項の規定に基づく原告の行う業務提供誘引販売取引に関する業務の一部を停止する旨の命令処分(指令消費第二四九号)を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、埼玉県知事から、広告の表示等につき特定商取引に関する法律(特商法)違反があるとして六か月間原告の行う業務提供誘引販売取引(特商法五一条一項)に係る業務の一部の停止を命じる処分(本件業務停止命令)を受けた原告が、本件業務停止命令は特商法五七条一項所定の要件を欠き、又は裁量権の濫用等があり違法であるなどと主張し、同命令の取消しを求めている事案である。

二  前提となる事実(証拠により容易に認定できる事実については、かっこ内に証拠を示す。)

(1)  原告は、昭和四七年六月一日に設立され、昭和六一年一月からは「○○連合会(○○連)」の名称で運送事業免許取得代行及び運送事業コンサルティング業を行うようになった会社である。

原告は、埼玉県内において、軽貨物自動車のあっせん及び当該貨物自動車を利用する運送業務のあっせんを行い、運送業務に従事することによって利益を収受しうるとして相手方を誘引し、相手方との間に軽貨物自動車の購入代金及び入会金等の取引料の負担を伴う当該軽貨物自動車の販売のあっせんにかかる取引(本件取引)を継続的に業務として行った。具体的には、運送業を営もうとする相手方との間で会員契約を締結し、当該相手方が入会費用として五九万一〇〇〇円(ただし、原告の指定するディーラーから軽貨物車両を一三〇万二〇一七円ないし一四九万一〇五七円の指定価格により購入する場合には入会費用から二一万円が免除される。)、及び会費として毎月一万六〇〇〇円を原告に支払うことを条件として、当該相手方(会員)が軽貨物運送業を独立開業する際の請負先の紹介等の支援を行うというものである。当該会員は原則として請負先の企業との間で直接請負契約を締結し、請負による代金は全て当該会員の収入となる。

(2)  原告は、本件取引にあたり、以下の行為を行った。

ア 広告の表示について

原告は、平成二〇年五月、同年九月、平成二一年一月及び同年八月の本件取引にかかる広告に、原告を「○○連合会」と表示したうえ、「現況月収例四〇万円~五〇万円以上可」「お仕事は専属固定先を一〇〇%継続的にご紹介します。」「開業時、手続き費用が必要となります。(開業資金分割も可)」と表示し、また平成二一年六月の本件取引にかかる広告には、現況月収例を「二五万~五〇万円以上可」としたほかは同様の表示をしていた。そして、仕事の内容については記載されていなかった。

イ 概要書面について

原告は、平成二一年一一月まで、原告があっせんする軽貨物自動車の販売会社と相手方との間で軽貨物自動車売買契約を締結するまでに、業務提供誘引販売業の概要について記載した書面(概要書面)を相手方に交付していなかった。

その後、原告は、平成二一年一二月から、契約概要書を相手方に交付するようになった。

ウ 契約書面について

原告は、原告と相手方との間で本件取引にかかる契約を締結するに際し、登記された法人名称及び電話番号、商品を利用する業務の提供についての条件に関する事項(一週間、一月間その他の一定の期間内に提供する業務の回数もしくは時間その他の提供する業務の量)及びクーリング・オフに関する事項を明らかにした特商法五五条二項所定の書面(契約書面)を交付していなかった。

なお、平成二一年までに被告に寄せられた埼玉県内における苦情相談件数は、合計三六件であった。

(3)ア  こうしたことから、被告の県民生活部消費生活課は、平成二二年二月二五日、原告に対し、本件取引は特商法に規定する業務提供誘引販売取引に該当するとの解釈を前提に、法及び条例違反の疑いがあるとして、同年三月一一日に事情聴取等を行う旨通知し、同年三月一一日、原告に対し以下の内容の法令違反の疑いを指摘した。

(ア) 広告の表示について

a 原告は、本件取引にかかる広告をするときに、商品又は役務の種類、商品・役務の対価等の当該取引に伴う特定負担に関する事項、提供する業務の提供条件及び登記された法人名称等を表示していないところ、これは特商法五三条に違反する疑いがある。

b 原告は、本件取引にかかる広告をするときに、「月現況収入例四〇万円~五〇万円以上可」「お仕事は一〇〇%継続的にご紹介します」と大きく記載し、「開業時手続き費用が必要になります(開業資金分割も可)」と表示するのみで、具体的に必要となる金額を明示せずに、あたかも容易に高収入が得られるような話のみを強調する表示となっているところ、これは特商法五四条に違反する疑いがある。

(イ) 概要書面について

原告は、取引の相手方に対し、原告があっせんする軽貨物自動車の販売会社と相手方との間で軽貨物自動車売買契約を締結するまでに、概要書面を交付していないところ、これは特商法五五条一項に違反する疑いがある。

(ウ) 契約書面について

原告は、取引の相手方に対し、原告と相手方との間で業務提供誘引販売契約を締結するに際し、登記された法人名称及び電話番号、商品を利用する業務の提供についての条件に関する事項(一週間、一月間その他の一定の期間内に提供する業務の回数もしくは時間その他の提供する業務の量)及びクーリング・オフに関する事項を明らかにした契約書面を交付していないところ、これは特商法五五条二項に違反する疑いがある。

イ  これを受けて原告は、平成二二年四月九日、被告に対し、答弁書及び資料を提出した。

(4)  埼玉県知事は、平成二二年五月一八日、原告に対し、特商法六六条一項等に基づき報告を求めるとともに、同日、同法五四条の二等に基づき広告表示の裏付けとなる合理的な資料の提出を求めた。

これを受けて原告は、同年六月一日、埼玉県知事に報告書及び資料を提出し、同月二五日、三〇日及び同年七月五日にも、埼玉県知事に対して追加の資料を提出した。なお、原告が埼玉県知事からの報告の要請に対して平成二二年七月五日に追加提出した「平成二〇年四月一日から平成二二年四月三〇日までに入会契約した事例」と題する書面により、原告は、同期間に原告と会員契約を締結した会員に関して、浦和営業所における会員一一三名のうち一〇八名、春日部営業所における会員一一三名のうち六二名及び草加営業所における会員八四名のうち六六名についてその平均月収を把握していなかったほか、川越営業所における会員一一二名のうち一〇三名及び所沢営業所における会員七五名のうち二四名についてその平均月収を把握できておらず、また、原告が平均月収を把握している残りの会員のうち、平均月収が二五万円に満たない会員は二九名存在し、その中には平均月収が七万三〇〇〇円である者も存在した旨を報告した。

(5)  埼玉県知事は、平成二二年七月二一日、原告に対し、特商法五七条一項の規定に基づき業務停止命令をすること等を予定しているとして、行政手続法一三条一項二号の規定に基づく弁明の機会を付与する旨の通知をした。

これを受けて原告は、同年八月二日、埼玉県知事に対し、弁明書及び資料を提出し、同月四日には、弁明補充書を提出した。

(6)  原告は、平成二二年八月六日までに以下のとおり是正した。

ア 広告の表示(月収及び仕事の紹介に関する表示)について

(ア) 月収の表示について

a 原告は、平成二二年四月の広告には「現況月収例二五万~五〇万円以上可」と記載していた。

b 原告は、平成二二年七月一二日、同月二五日及び同年八月一日の各広告には「現況月収例(完全出来高制)二五万~三五万円以上可」と記載していた。同年八月一日の広告には、上記記載に続けて「二〇〇九年度の実績を基にしています」とも記載されていた。

c 原告は、平成二二年八月二日に被告に提出した同日付けの弁明書において、広告記載金額については、従前の表示「現況月収例二五万円以上可(完全出来高制)」とされていたものを、前年度の金額に基づいて金額を表示することを基本とし実績が取れない場合には金額表示をしないこと、記載するときには「現況月収例○○万~○○万円以上可(完全出来高制)○○○○年度の実績を基にしています。」と変更する意思を明らかにし、同弁明書にはその旨の資料が添付された。そして、同月八日発行予定の広告には「報酬 完全出来高制」と表示されることが予定されていた。

(イ) 月収以外の表示について

募集広告に原告の法人名、住所及び電話番号が掲載されるようになり、平成二二年七月一二日及び同年八月一日の各広告における紹介する仕事の表示は「ルート配送」「宅配」「スポット・チャーター配送」と表示された。なお、仕事の紹介について「仕事は○○連が紹介します」と表示された。

イ 概要書面について

概要書面は作成されて相手方に交付され、同書面には「請負条件並びに業務内容は会員が選択する企業及び配送種類によって全て異なり、会員の希望する業務内容・配送種類・請負条件などの全てを満たすものとは限らない。」と記載された。

ウ 契約書面について

入会契約書に、法人名称、電話番号及びクーリング・オフに関する事項を明らかにした。なお、同書面には原告(甲)が相手方(乙)に「紹介する請負先の請負条件並びに業務内容は乙が選択する企業及び配送種類により全て異なるため、乙の希望する業務内容・配送種類・請負条件などの全てを満たすものとは限らない。」と記載された。

(7)  埼玉県知事は、平成二二年八月六日付けで、原告に対し、同月一〇日から平成二三年二月九日までの六か月間、原告の行う本件取引にかかる業務のうち、①業務提供誘引販売取引についての契約の締結について勧誘すること、②業務提供誘引販売取引についての契約の申込みを受けること、③業務提供誘引販売取引についての契約を締結すること(①ないし③の業務を併せて「本件停止業務」という。)を停止する旨の本件業務停止命令を発した。

なお、原告は、平成二二年八月六日付けで、北海道知事からも業務停止命令を受けている。

本件業務停止命令の処分理由は、大要、以下のとおりであった。

ア 広告の表示について

(ア) 原告は、本件取引にかかる広告において、「現況月収例四〇万円~五〇万円以上可」「月収二五万円~五〇万円可能」「仕事多数紹介します」などと表示していたが、原告は実際には大半の会員の収入を把握しておらず、また広告記載されたような収入を得ることが出来ない者が多数存在するなど、記載は根拠のないものであった。埼玉県知事は、原告に対し、記載の裏付けとなる資料の提出を求めたが、提出された資料は広告表示を実証した内容ではなく、また、原告が追加提出した資料では、会員の収入を「把握していない」と記載しているため、特商法五四条の二及び特定商取引に関する法律施行規則(規則)四二条二号を適用し、業務提供利益に関する事項について著しく事実に相違する表示とみなした。これは、特商法五四条に違反する。

(イ) 原告は、本件取引にかかる広告に、当該業務提供誘引販売業に関する商品又は役務の種類、商品の購入金額、当該業務提供誘引販売業に関して提供又はあっせんする業務について広告する場合のその業務の提供条件、業務提供誘引販売業を行う者の氏名又は名称、住所及び電話番号、商品名について、規則で定めるところにより正しく表示していなかった。これは、特商法五三条に違反する。

イ 概要書面について

原告は、業務提供誘引販売取引に伴う特定負担をしようとする者とその特定負担についての契約を締結するまでに、概要書面を一部の取引の相手方に交付しなかった。また、一部の相手方に交付した概要書面には、割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項及び書面の内容を十分に読むべき旨の赤枠赤字の記載について、正しく記載していなかった。これは、特商法五五条一項の規定に違反する。

ウ 契約書面について

原告の交付した契約書面の一部又は全部に、商品の種類及びその性能もしくは品質に関する事項、業務の提供又はあっせんについての条件に関する事項、当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項、契約解除に関する事項、業務提供誘引販売業を行う者の氏名又は名称、電話番号、当該契約の締結を担当した者の氏名、契約年月日、商品名及び商品の商標又は製造者名、割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項、書面の内容をよく読むべき旨の赤枠赤字の記載について記載がないか又は正しく記載していなかったほか、契約の解除に関する事項及びその他の特約に関する事項について、規則四五条一項に定めるところにより正しく記載していなかった。これは、特商法五五条二項の規定に違反する。

エ 以上のとおり、原告は特商法五三条、五四条、五五条一項及び二項に違反する行為を行っており、業務提供誘引販売取引に係る取引の公正及び購入者等の利益が著しく害されるおそれがあると認められる。

(8)  原告は、平成二二年九月二一日、本件訴えを提起した。

三  争点

(1)  特商法違反について

ア 特商法違反事実の有無

イ 特商法五七条一項に規定する「おそれ」の有無

(2)  裁量権の濫用の有無等

ア 本件業務停止命令は特商法の趣旨に反し権利の濫用にあたるか

イ 比例原則違反

ウ 平等原則違反

エ 信義誠実の原則違反

(3)  行政手続法一二条違反

四  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(特商法違反)について

ア 特商法違反事実の有無

(被告の主張)

(ア) 本件取引として行っている取引は、特商法の業務提供誘引販売取引に該当するところ、原告は、平成二〇年四月ころから平成二二年四月ころまでの間、前記二(7)アないしウ記載のとおり特商法五三条、五四条、五五条一項及び二項に違反する行為をした。

(イ) 特商法に違反した場合とは過去の違反行為を指すものであることは、特商法五七条一項の文理上も、処分の前提となる違反事実は当該処分に先行して調査を行う時点の事実関係とならざるを得ないことからも明らかである。行政処分を発する直前の時点で違反行為ないし違反状態が継続していることを事実として認定することは現実的に不可能であり、処分の対象となる違反事実は、弁明の機会付与の前に行われた違反行為とならざるを得ない。よって、本件業務停止命令の原因となる特商法違反事実は、前記のとおり平成二〇年四月ころから平成二二年四月ころまでの期間における違反事実で足りる。

(原告の主張)

原告は、以下のとおり、広告の表示や、入会契約書及び概要書面の不備について全面的に改善し、その結果、本件業務停止命令の時点で、原告に特商法違反の事実はなくなっていた。

(ア) 広告の表示について

a 原告は、特商法五三条違反事実については、新たに「広告表示」の指針を作成し、埼玉県知事が指摘する広告にかかる違反事実については改善されている。すなわち、埼玉県知事は、①商品又は役務の種類、商品・役務の対価等当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項、②提供する業務の提供条件、③登記された法人名称を使用していないとの点について違反がある旨指摘するが、上記①については明記し、上記②については、月収例の掲載は原則として行わず、掲載する場合は平成○○年度当社実績という裏付けのある場合にのみの掲載にとどめることとした。また上記③については、平成二一年一二月実施から既に使用している。

b 特商法五四条違反の疑いについては、あたかも安易に高収入が得られるような話のみ強調しているとの指摘に対して、原告は、上記(ア)a②のとおり、その表示を改め、また仕事については「お仕事は一〇〇パーセント継続的にご紹介します」との表示は今後使用せず、「仕事は○○連が紹介します」という表示に改めた。

(イ) 概要書面について

特商法五五条一項違反の疑いについては、原告はすでに平成二一年一二月から全国の営業所において概要書面を交付しており、埼玉県知事の指摘時は不交付の状態ではなかった。

(ウ) 契約書面について

特商法五五条二項違反の疑いについては、原告は平成二一年一二月及び平成二二年四月の二度にわたって入会契約書の改訂を行った。特に、商品や提供できる役務の種類、商品を利用する業務の提供又はあっせんに関する事項についてはより踏み込んで具体的な内容や金額を表示し、クーリング・オフについては平成二一年一二月から記載済みであったが、不十分な点を補い、さらに神奈川県の指導により、法には規定のないクーリング・オフをする際のはがきの書き方まで記載し、平成二二年四月に作成した契約書の倍のページにまで内容を密にした改訂版を同年七月二六日から使用している。

イ 特商法五七条一項に規定する「おそれ」の有無

(被告の主張)

特商法五七条一項は「業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき」と規定するところ、同規定は処分行政庁に、「おそれ」の判断について裁量を認めたものというべきである。そして、判断の前提となる違反事実は過去の事実というべきであり、それは処分行政庁が当該違反者に同事実を指摘した以降の事実等を総合的に判断すべきことになる。本件において埼玉県知事は以下の事実を考慮して、上記「おそれ」を認めたのであって、裁量権を濫用し裁量の範囲を逸脱したことはない。

(ア) 原告は、平成二〇年四月ころから平成二二年四月ころまでの間の本件取引について違反行為のうち、書面交付義務違反の本件取引については、相手方に対し改めて法定記載事項を充たす書面を再交付した事実もないし、広告規制違反の広告が掲載された効果は不特定多数人に伝播しているが、この効果を除去する措置もとっていない。このように、原告の各違反行為による違法状態は、処分時にも継続的に存在しており、これらの違法状態を解消するという言及は原告の弁明書でもなされていないことからすれば、これらの違反状態はその後も継続するおそれがあることは明らかであるし、その後も違反行為を繰り返すおそれがあると認められる。

(イ) 原告は埼玉県知事の指摘した事項を改善したというものの、改善したとは認められないか、不十分であった。すなわち、原告が弁明書で主張した改善措置は、以下のとおり、特商法の規定に照らして改善とは認められないか、不十分なものであった。

a 広告の表示について

① 原告は、本件業務停止命令の直前まで、埼玉県内で配布した募集広告において、「現況収入例二五万~三五万円以上可」や「現況月収例二五万円~三五万円以上可二〇〇九年度の実績を基にしています」との表示を続けていた。しかし、原告は大半の会員の収入を実際には把握していなかったのであるから、こうした収入見込みを記載する誇大表示は何ら改善されていない。

そして収入例の表示に「上記表示は収入金額を保証するものではありません」との記載を加えたとしても、会員の平均的収入の現況が広告に記載された範囲内であるかのような誇大広告違反を改善したことにはならない。

② 原告は募集広告に登記簿上の法人名を掲載するよう対応したが、業務提供利益及び業務提供条件の表示は改善していない。

原告の募集広告は、本件業務停止命令発令の直前まで、「紹介する仕事・ルート配送、宅配、スポット・チャーター配送」、「仕事は○○連が紹介します」「二五万~三五万円以上可」という表示を継続しており、提供される仕事の頻度や収入見込みに関して合理的裏付けのある表示をする義務が改善されていない。

原告の平成二二年三月から四月ころの募集広告には、「仕事は○○連が責任を持って紹介します」という表示があるが、月にどの程度の頻度で業務を提供するのか、どの程度の請負単価かという原告の債務内容に関する記載はない。原告は紹介先企業によって変動するので確定することができないと弁解するが、そうであればその旨明確に表示すべきである。また、収入見込みについては「二五万~五〇万円以上可」という表示があるが、原告は大半の会員の収入を把握していないのであるから、多数の会員の実際の収入水準に基づく表示をしているとはいえない。

b 概要書面について

原告は、平成二一年一二月以降は概要書面を作成し交付するようになったが、その記載事項のうち例えば「業務の提供又はあっせんの条件に関する重要な事項」については、固定ルート配送・宅配・スポット・チャーター配送などの内容を記載しているものの、「請負条件並びに業務内容は会員が選択する企業及び配送種類によって全て異なり、会員の希望する業務内容・配送種類・請負条件などの全てを満たすものとは限らない」という注記にとどまり、会員が希望した場合に月にどの程度の頻度で業務が提供されるのか、あるいは会員が希望しても一定の回数や頻度等を紹介することは約束できないのかといった業務提供条件のポイントとなる原告の債務内容は表示されていない。

c 契約書面について

原告は、入会契約書に、「甲が乙に紹介する請負先の請負条件並びに業務内容は乙が選択する企業及び配送種類により全て異なるため、乙の希望する業務内容・配送種類・請負条件などの全てを満たすものとは限らない」という記載を加えたが、会員が希望した場合に月にどの程度の頻度で業務が提供されるのか、あるいは会員が希望しても一定の回数や頻度等で紹介することは約束できないのかといった業務提供条件のポイントとなる原告の債務内容は表示されていない。

(ウ) 違反事実が多数存在し、違反期間も長期に渡っている。

特商法五七条一項における「取引の公正や取引の相手方の利益が著しく害されるおそれ」の存在は、これまでの事業者の活動の態様、違反行為の質や件数、違反期間、調査手続の過程なども総合的に踏まえて判断されるものであるところ、原告の違反事実は多数存在し、かつ違反期間が長期に渡っており、埼玉県知事が原告に対し特商法違反の疑いのある事項を指摘したり、報告徴収の手続をしたりしていたにもかかわらず、原告は何ら改善されていない広告をその後も繰り返し配布していたのであって、かかる事実は、今後も違反行為を繰り返すおそれが強いものと判断するにおいても、看過できない重大な事情であった。

(原告の主張)

原告は上記のとおり埼玉県知事の指摘する事項については改善しており、したがって特商法五七条一項規定の「おそれ」はないのであって、本件業務停止命令はその要件を欠くものである。なお被告は、同「おそれ」の認定につき裁量権がある旨主張するが、仮に裁量権があるとしても違反事実が改善された後に「おそれ」を認定することは裁量権の濫用というべきである。

(2)  争点(2)(裁量権の濫用の有無等)について

(原告の主張)

ア 本件業務停止命令は特商法の趣旨に反し権利の濫用にあたるか

本件業務停止命令は、特商法五七条一項に基づくものであるが、その要件を厳格に解すべきであるにもかかわらず、要件を欠く本件業務停止命令を発したのであり、この点について埼玉県知事に裁量があるとしても裁量権を濫用し、その範囲を逸脱している。

イ 比例原則違反

本件業務停止命令は、明らかに比例原則に反する過剰な侵害であり違法である。すなわち、原告は、神奈川県からも本件と同一内容について行政指導を受けたものであるが、神奈川県のケースにおいては、個々具体的な指導がなされ、原告がこれに誠実に従った結果、問題となる入会契約書及び契約概要書の記載内容についてはほぼ完全に改善され、その結果、神奈川県においては、原告に対し、問題がなくなったとして、強制的な行政指導は一切しないということで解決されたものである。

また、原告と会員契約を締結した会員の大多数は、長年の間会員契約を結んで営業活動をしてきているのであって、クレームを付ける者はほとんどいなかった。本件業務停止命令により、原告は倒産あるいは解散に追い込まれており、このような原告の深刻な事態に鑑み、もともと原告には会員からのクレームは多くないことも考えると、埼玉県知事による本件業務停止命令は、神奈川県の行政指導と余りにかけ離れており、これと比して過酷な処分、過剰な侵害となり、比例原則に反するものである。

ウ 平等原則違反

神奈川県においては、実質的な指導のもと、誠実に改善をなした原告の対応が評価され、何のおとがめもなしに終わった。埼玉県知事の取扱いは、神奈川県とは全く違い、終始強権的で、具体的な指導はなく、一気に本件業務停止命令を発令したものであって、平等原則に著しく反する。

エ 信義誠実の原則違反

埼玉県知事の原告に対する取扱いは、消費者保護の美名のもと終始強権的で、原告の実情も十分に聴取せず、実質的な話合いや具体的な指導もせず、いきなり本件業務停止命令を発したのであって、これは行政に対する信頼を裏切り、行政の信義誠実の原則に反する。

(被告の主張)

ア 本件業務停止命令は特商法の趣旨に反し権利の濫用にあたるか

本件業務停止命令は、法に基づいて適正に行われたものであって、裁量権の濫用や裁量の範囲を逸脱したことはない。

イ 比例原則違反について

行政権限発動における比例原則の問題と、神奈川県の対応との比較の問題とは、別個の問題であるから、神奈川県が原告に対して行政指導をするにとどまったとしても、埼玉県知事による本件業務停止命令が比例原則違反になるものではない。

また、原告に関する相談件数は、埼玉県内の消費生活センターにおいて毎年複数件寄せられているほか、全国的に見ても毎年多数件存在する。消費生活センターに寄せられる相談件数は、実際に苦情や不満を抱く消費者のごく一部にすぎないことは周知のとおりである。むしろ、原告に関する会員からの相談は、件数的な面だけでなく、内容的にみても、原告が特商法の業務提供誘引販売取引に該当すること自体を認めようとしないなど問題が多かったことから、被告が本件調査、指導を開始したのである。

なお、本件業務停止命令は、業務提供誘引販売取引の要件該当性が明白な「軽貨物自動車購入あっせん型」である本件停止業務に絞って違反行為を認定している。

ウ 平等原則違反について

神奈川県の原告に対する行政指導は、主として契約書面や概要書面の記載事項を対象として行われたものであり、原告の対応も書面記載事項の改善が中心であったのに対し、被告は、書面記載事項だけでなく、原告の募集広告における業務提供条件の表示義務違反や業務提供利益に関する誇大広告違反についても調査、指導の対象としたものであるから、神奈川県と被告とでは、対象とした違反行為のポイントが異なっている。

また、被告は、原告に対する調査開始当初の平成二二年三月一一日の面談時には、特商法違反の疑いがある事項を口頭及び文書により指摘し、行政指導を試みたが、原告は、自己の営業活動が業務提供誘引販売取引に該当することを明確に認めようとせず、同月三〇日の面談時においても、不明確な応答ばかりで同じような対応を続けた。このような原告の姿勢に照らして、埼玉県知事としては、原告が特商法違反事実を任意に改善することは見込めないものと判断せざるを得なかったのである。

その後、埼玉県知事は原告に対する報告徴収や弁明の機会付与等の手続を進めたが、その間も原告は、交付書面の記載事項に関する部分的な加筆等の対応はしたものの、募集広告における業務提供利益に関する誇大広告違反や業務提供条件に関する表示義務違反が改善されていないまま、本件業務停止命令の直前まで広告を配布し続けた。業務提供利益に関する誇大広告違反や業務提供条件に関する表示義務違反は、一般消費者が募集広告を見て応募してみようとする判断に直接的に影響を及ぼす可能性が高い重要事項であって、被害防止の観点から見てとりわけ重大な違反行為だといえる。つまり、本件業務停止命令に至る経緯に照らしても、原告が書面の形式的な改善は行ったものの、重要な違反行為について任意の改善措置を講じていないことが明らかである。

エ 信義誠実の原則違反について

被告は原告に対し行政指導を試みたが、原告が前提となる業務提供誘引販売取引の該当性を明確に認めようとせず、その後の本件業務停止命令に向けた手続の過程においても原告は特商法違反が存在する募集広告の配布を継続していたのである。

(3)  争点(3)(行政手続法一二条違反)について

(原告の主張)

埼玉県知事は、本件業務停止命令の発令に際して、処分基準を原告に全く明らかにしておらず、これは行政手続法一二条に違反する。

(被告の主張)

埼玉県知事に行政手続法一二条違反はない。被告は、特商法五七条一項に基づく「業務提供誘引販売取引を行うものに対する取引停止命令」に関しては、処分基準を公にすることにより脱法的な行為が助長されるおそれがあるため、「公にできません」との決定を行っており、かつこれを公開している。したがって、被告の対応は行政手続法一二条の規定に何ら違反しない。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(特商法違反の事実の有無)について

(1)  業務提供誘引販売取引の該当性

ア 業務提供誘引販売取引とは、その販売の目的物たる物品(商品)又はその提供される役務を利用する業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって相手方を誘引し、その者と特定負担を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんをする取引をいう(特商法五一条一項)。

イ 前提となる事実によれば、本件取引は、運送事業を開業しようとする相手方と会員契約を締結して配送業務のあっせんをし、その際、当該会員は原告に入会費用や月会費を支払わなければならないが、運送事業に従事することにより得られる利益は全て当該会員の収入になるというものである。その際、原告は、車両の販売のあっせんを行っている。

かかる本件取引は、車両の販売について、これを利用して行う運送事業に従事することによる業務提供利益を収受し得ることをもって会員を誘引し、当該会員に対して入会費用等あるいは車両購入代金の特定負担を伴う車両の販売をする取引であるといえるから、業務提供誘引販売取引に該当し、これを業務として行う原告は業務提供誘引販売業を行う者に当たる。

(2)  広告の表示(特商法五三条及び五四条違反)について

ア 業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売業に関して提供し、又はあっせんする業務について広告をするときは、当該広告に、その業務の提供条件を表示しなければならず(特商法五三条三号)、具体的には、一定の期間内に業務を提供し、又はあっせんする回数、業務に対する報酬の条件など、業務の提供又はあっせんの態様に応じて、当該業務の提供又はあっせんについての条件に係る重要な事項を表示しなければならない(規則四一条二項二号)。

前提となる事実によれば、原告は、平成二〇年五月の広告にはあっせんする業務について「お仕事は専属固定先を一〇〇%継続的にご紹介します」などと表示していたところ、平成二二年八月一日の広告には、原告があっせんする業務につき「仕事は○○連が紹介します」との表示のほか、紹介する仕事や報酬について「完全出来高制」と表示したものの、一定期間内に業務をあっせんする回数については表示されていないことが認められる。そうであれば、あっせんについての条件に係る重要な事項についての表示がないことにあたり、特商法五三条三号に違反するものといえる。

イ また、業務提供誘引販売業を行う者は、収受し得る金額その他の業務提供利益の指標を表示するときは、その指標と同等の水準の業務提供利益を実際に収受している者が当該業務提供誘引販売業に関して業務提供誘引販売取引を行った者の多数を占めることを示す数値を表示するなど、業務提供利益の見込みについて正確に理解できるように、根拠又は説明を表示することが求められるとともに(特商法五三条三号、規則四一条二項三号)、当該業務提供誘引販売業に係る業務提供利益その他の業務の提供条件に関する事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない(特商法五四条)とされる。

前提となる事実によれば、原告は、入会員の大半につき月収を把握することなく、また中には月収平均七万三〇〇〇円にすぎない会員もいたにもかかわらず、平成二二年八月一日の広告においても、なお「現況月収例(完全出来高制)二五万~三五万円以上可」との表示をしているが、「二〇〇九年度の実績を基にしています」とのみ表示していたことが認められる。同表示は、その指標と同等の水準の業務提供利益を実際に収受している者が当該業務提供誘引販売業に関して業務提供誘引販売取引を行った者の多数を占めることを示す数値を表示するなど、業務提供利益の見込みについて正確に理解できるように根拠又は説明を表示しているとはいえないし、その根拠も明らかではないので、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示といわざるを得ず(特商法五四条)、原告は、この点において特商法五三条三号、規則四一条二項三号及び特商法五四条に違反しているものということができる。

(3)  概要書面及び契約書面について

ア 概要書面(特商法五五条一項違反)について

業務提供誘引販売業を行う者は、概要書面を交付しなければならず(特商法五五条一項)、当該書面に「商品もしくは提供される役務を利用する業務の提供又はあっせんについての条件に関する重要な事項」を明記する必要がある(規則四三条一項四号)。

前提となる事実によれば、原告は概要書面を作成し交付するようになったこと、その記載事項には、「請負条件並びに業務内容は会員が選択する企業及び配送種類によって全て異なり、会員の希望する業務内容・配送種類・請負条件などの全てを満たすものとは限らない」という記載があることが認められるが、会員が希望した場合に月にどの程度の頻度で業務が提供されるのか、あるいは会員が希望しても一定の回数や頻度等で紹介することは約束できないのかといった点について記載がないことが認められる。かかる記載では、業務のあっせんの条件に関して明確でない面があることは否定できないが、特商法五五条一項及び規則四三条一項四号は、概要書面については契約書面と異なり業務のあっせん等の条件に関する「重要な事項」を明記すべきことを定めているのみであり、契約書面ほどには同事項について詳細な記載を要求していないということができることからすれば、前記のような契約概要書の記載は特商法五五条一項に違反するものではないというべきである。

イ 契約書面(特商法五五条二項違反)について

業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引についての契約を締結した場合には、当該契約の内容を明らかにする書面を交付しなければならず(特商法五五条二項)、当該書面に「商品もしくは提供される役務を利用する業務の提供又はあっせんについての条件に関する事項」として、業務の量については、一週間、一月間その他の一定の期間内に提供し、又はあっせんする回数又は時間を記載しなければならない(特商法五五条二項二号、規則四五条二項の表一のロ)。

前提となる事実によれば、原告は、契約書面に、「甲が乙に紹介する請負先の請負条件並びに業務内容は乙が選択する企業及び配送種類により全て異なるため、乙の希望する業務内容・配送種類・請負条件などの全てを満たすものとは限らない」という記載を加えたものの、会員が希望した場合に月にどの程度の頻度で業務があっせんされるのか、あるいは会員が希望しても一定の回数や頻度等で紹介することは約束できないのかといった点の記載がないことが認められる。かかる記載によっては、業務のあっせんの条件が明確に表示されているとはいえないから、原告は特商法五五条二項二号及び規則四五条二項の表一のロに違反しているといえる。

(4)  以上のとおり原告は、広告の表示につき特商法五三条三号及び同法五四条違反、契約書面につき同法五五条二項二号違反をしている。そこで、原告の上記行為について同法五七条一項に規定する「おそれ」が認められるか検討する。

ア 広告の表示について

原告は平成二二年八月一日の広告における収入の表示について、「現況月収例(完全出来高制)二五万~三五万円以上可」「二〇〇九年度の実績を基にしています」との記載をしており、その指標の根拠となる数値を表示するなど業務提供利益の見込みについて正確に理解できるように根拠又は説明を表示しているとはいえない。収入の表示は、広告を見た者が本件取引に誘引される最も大きな要因となるものと考えられ、業務提供誘引販売取引の公正や取引の相手方の利益を判断する際に最も重要な事項であるといえる。かかる重要な事項について、正しく表示がなされず、合理的な根拠のない数字が表示されていると、消費者は不当に本件取引に誘引されるおそれがあるといえるから、業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益を著しく害するおそれのあるものといわざるを得ない。この点において、本件業務停止命令の直前である平成二二年八月一日の時点では、特商法五七条一項に規定する「おそれ」があったと認められる。

一定期間内のあっせん回数等の表示については、仕事量及び報酬に影響を与える事項であるものの、この事項の表示がないことによって直ちに消費者が不当に本件取引に誘引されるとはいえず、したがって、この点については、特商法五七条一項の規定する「おそれ」があると認めることはできない。

イ 契約書面について

業務のあっせん条件や、一定期間内に業務をあっせんする回数について契約書面に記載がないことに関しては、業務をあっせんする回数は仕事量や報酬に関する情報の一つにすぎず、かかる記載がなくても、前記のとおり仕事の内容や完全出来高制であることは理解できるから、消費者が不当に本件取引に誘引されるとは考え難い。そうすると、上記記載がないことにより業務提供誘引販売取引の公正や業務提供誘引販売取引の相手方の利益を著しく害するおそれがあるとはいえない。したがって、この点においては特商法五七条一項に規定する「おそれ」の存在は認められないというべきである。

二  争点(2)(裁量権の濫用の有無等)について

(1)  前記のとおり、原告は平成二二年八月一日の広告において「現況月収例(完全出来高制)二五万~三五万円以上可」「二〇〇九年度の実績を基にしています」と表示し、かかる特商法五三条三号及び同法五四条違反の表示によって業務提供誘引販売取引の公正及び取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあったものということができる。

しかしながら、原告が同月二日に埼玉県知事に提出した弁明書には、広告記載金額について前年度の金額に基づいて金額を表示することを基本とし、この実績が取れない場合は金額表示はしないことに改めたと記載され、資料として記載方法を示した資料が添付されていたのであり、その後の同月八日に発行を予定していた広告には、月額報酬の表示はなされなかった。かかる経緯からすると、埼玉県知事は、同月二日に原告が月額報酬の表示の訂正を予定していることを知悉していたのであるにもかかわらず、改訂が実際にどのようになされるかについて確認することなく本件業務停止命令を発したものといわざるを得ない。そして、現実に予定されていた同月八日の広告の表示が特商法五三条三号、同法五四条の規定に反するともいえない。また、苦情相談件数を見ても本件業務停止命令が発せられた平成二二年度について明らかではなく(なお、それ以前の苦情相談がいつの時点におけるどのような内容の苦情であるかも不明である。)、その確認ができないほど放置できない事情があったものとも認められない。そうであれば、埼玉県知事が、弁明書の内容を考慮せず、広告の表示について訂正が行われるか否かを確認することなく本件業務停止命令を発したことには裁量権の濫用がある。

(2)  よって、本件業務停止命令には、埼玉県知事が裁量権を濫用した違法があるといわざるを得ない。

三  結論

以上のとおりであるから、本件業務停止命令は違法である。よって、原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠山廣直 裁判官 八木貴美子 髙部祐未)

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