さいたま地方裁判所 平成23年(む)574号 決定 2011年6月23日
主文
本件証拠開示命令請求をいずれも棄却する。
理由
1 請求の趣意
本件請求の趣旨及び理由は,主任弁護人竹内明美ほか2名作成名義の平成23年5月9日付け裁定請求書記載のとおりであるからこれを引用するが,その趣意は,要するに,検察官は,次の(1)ないし(4)の証拠のうち,未開示の証拠については,刑訴法316条の15第1項により開示すべきであるのに開示していないので,これらを開示しなければならないとの決定を求めるというものである。
(1) A,B,C1ことC及びD(以下「Aら4名」という。)の供述録取書等全部(名称の如何を問わない。上申書,陳述書,供述書,被害届等を含む。)
(2) E1ことE,F,G,H,I,J,K及びL(以下「Eら8名」という。)の供述録取書等全部(名称の如何を問わない。上申書,陳述書,供述書,被害届等を含む。)
(3) Hの供述録取書等全部(名称の如何を問わない。上申書,陳述書,供述書,被害届等を含む。),同人に対する取調べ又は事情聴取,同人の立会いのもと行われた実況見分等の捜査に関して作成された捜査報告書,実況見分調書,取調状況報告書,電話聴取報告書等の全部
(4) 本件けん銃・実包(後記公訴事実の要旨記載の自動装てん式けん銃及びこれに適合する実包をいう。以下同じ。)等の投棄場所の特定及びその発見・押収に係る捜査の過程で作成・収集された捜査報告書,実況見分調書,捜索差押調書,押収品目録,任意提出及び領置調書,図面,写真,映像,その他一切の資料
2 当裁判所の判断
(1) 本件請求の基礎となる銃砲刀剣類所持等取締法違反(平成22年(わ)第1639号。以下「本件」という。)の公訴事実の要旨は,被告人が,A,B,C1ことC,D,E1ことE,F及びMと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成20年3月31日午前6時45分ころ,埼玉県草加市内のビル前路上において,自動装てん式けん銃1丁(本件けん銃)を,これに適合する実包1個と共に携帯して所持したというものである。
(2) 1(1)に係る請求について
ア Aら4名は,本件の共犯者であり,検察官が本件につき取調べを請求している供述録取書等の謄本又は抄本(甲11~22号証。以下「検察官請求の供述録取書等」という。)の供述者である。
イ まず,Aら4名の未開示の供述録取書等(平成23年6月3日付け提示命令に基づき検察官が提示したもの)のうち,検察官作成の平成22年12月10日付け及び平成23年2月3日付け各証明予定事実記載書記載の証明予定事実に関係する事項を内容とするものについては,検察官請求の供述録取書等の証明力を判断するために重要であり,かつ,被告人の防御の準備のために開示をする必要性は認められ,その程度は一般的には高いといえる。
しかし,本件が,○○組系暴力団の下位組織に属する構成員が,対立する△△会系暴力団の構成員に殺害されたことに対する報復として,○○組系暴力団の下位組織により組織的に敢行された殺人等を含む犯行(以下「一連の犯行」という。)の一環に位置付けられている事案であること,本件を含む一連の犯行につき,○○組幹部で二次団体(□□一家)の総長でもある者を含む上位者らが起訴されていることなどの事情に照らすと,既に開示済みのAら4名に係る証拠に加えて未開示の証拠が開示された場合,他の証拠等と相まって,上記上位者らの逮捕に結び付く供述をした人物が特定されるおそれ,並びに,当該人物やその家族が○○組系暴力団から強度の報復を受けるおそれがあり,同証拠の開示によって生じるおそれのある弊害の程度は大きいという検察官の主張には十分な理由があると認められる。他方,既に主要な証拠が開示されていることに加えて,未開示の証拠の内容等を検討した結果によると,これらについての開示の必要性はそれほど高いとは認められない。そうすると,これらの証拠を開示するのが相当とは認められない。
ウ 次に,Aら4名の未開示の供述録取書等のうち,上記各証明予定事実に関係しない事項を内容とするものについては,そもそも,検察官請求の供述録取書等の証明力を判断するために重要であるとは認められない上,上記の弊害の存在も考慮すると,開示するのが相当とも認められない。
エ よって,1(1)に係る請求は理由がない。
(3) 1(2)に係る請求について
ア Eら8名は,検察官請求の供述録取書等の供述者ではないところ,そのうち本件の共犯者であるE1ことE及びFの2名に係る未開示の供述録取書等(平成23年6月3日付け提示命令に基づき検察官が提示したもの)で,上記各証明予定事実に関係する事実を内容とするものについては刑訴法316条の15第1項6号所定の類型証拠に該当するものの,上記(2)イと同様,開示の必要性の程度は一般的には高いといえるが,その内容等を検討した結果によると,これらについての開示の必要性はそれほど高いとは認められず,他方,開示によって生じるおそれのある弊害の程度は大きいと認められるから,開示するのが相当とは認められない。
なお,上記共犯者2名に係るその余の未開示の供述録取書等は,特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするものではないから,上記類型証拠に該当しない。
イ また,Eら8名のうち,本件の共犯者ではないG以下6名の供述録取書等については,本件けん銃を捨てた場所や本件けん銃の同一性等を内容とするものを含めて,そもそも,特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要とは認められない上,上記の弊害の存在も考慮すると,開示するのが相当とも認められない。
ウ よって,1(2)に係る請求は理由がない。
(4) 1(3)に係る請求について
検察官は,同請求に係るHの供述録取書等は,作成されておらず,不存在であると主張しており,これを否定する事情は認められない。よって,同請求は理由がない。
(5) 1(4)に係る請求について
ア 弁護人は,同請求の理由として,本件けん銃の発見場所と異なる場所の捜索が行われているのに,それらに関する捜査報告書等が開示されていない旨主張するが,同場所の捜索等に係る捜査報告書等(既に開示済みのものを除く。)が,特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であるとは認められない。
イ また,弁護人は,本件の共犯者が本件けん銃の投棄場所について供述し始めてから,本件けん銃の発見に至るまでの約半年間に作成された捜査報告書等が開示されていない旨主張するが,検察官は,そもそもその間には本件けん銃に関する捜査は行われていないから,所論の捜査報告書等は不存在であると主張しており,これを否定する事情は認められない。
ウ さらに,弁護人は,本件の共犯者の立会いによる本件けん銃の投棄場所の確認に係る実況見分調書等の開示が不十分である旨主張するが,検察官は,既にその引当り捜査関係の証拠が開示済みであるA及びBを除いて,共犯者の立会いによる投棄場所の確認は行われていないから,所論の実況見分調書等は不存在であると主張しており,これを否定する事情は認められない。
エ よって,1(4)に係る請求は理由がない。
3 結論
以上によれば,本件各請求は,いずれも理由がないから,刑訴法316条の26第1項により,主文のとおり決定する。