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さいたま地方裁判所 平成23年(わ)1410号 判決 2012年1月26日

主文

被告人を懲役3年に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,平成16年5月14日,さいたま家庭裁判所越谷支部において,養子のA(以下「被後見人」という)の成年後見人に選任され,被後見人の預貯金の管理等の業務に従事していたものであるところ,株式会社武蔵野銀行杉戸高野台支店に開設された被告人名義の普通預金口座ほか1口座の預貯金を被後見人のために業務上預かり保管中,別表記載のとおり,平成18年5月23日から平成19年6月7日までの間,前後6回にわたり,埼玉県北葛飾郡<以下省略>所在の杉戸高野台郵便局ほか4か所において,上記普通預金口座等から現金合計1150万3890円を払い戻し,いずれもそのころ,埼玉県内又はその周辺において,そのうち合計約930万6438円を自己の用途に費消し,もってそれぞれ横領した。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

罰条 判示別表の番号ごとに包括して刑法253条

併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示別表の番号5の罪の刑に法定の加重)

訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

本件は,被告人が,成年後見人としての業務に従事していた際,被後見人の預貯金口座から払い戻した現金を自己の用途に費消して横領した,という業務上横領の事案である。

犯行の態様は,被告人が,家庭裁判所から選任された成年後見人という公的な立場を悪用し,被後見人の預貯金から払い戻した現金を競馬や家電製品の購入などにほしいままに費消し,とりわけ競馬には1レース当たり20万円から50万円の馬券を購入するなど湯水のごとく現金をつぎ込んだというものであって,大胆かつ悪質である。さらに,本件犯行は,1年余りにわたり断続的に敢行されたものであり,常習性も認められる。

被害は,現金合計930万円余りと多額である。しかも,被害金は,交通事故により意思疎通ができない状態となった被後見人に対して支払われた自賠責保険金や損害賠償金の一部であって,本来,被後見人の看護費等のために使用されるべきものであったのである。結果は重い。

本件犯行は,高齢化社会の進行に伴い重要な社会的役割を果たしている成年後見制度に対する社会的信用を著しく損なわせるものであって,その社会的影響も看過できない。

これらによれば,被告人の刑事責任は決して軽いものではない。

そうすると,被告人は,犯行を認め,反省の言葉を述べていること,月々5000円ずつとはいえ被害弁償の約束をし,その1回目の支払をしていること,74歳と高齢である上,両下肢軽度機能障害により身体障害者6級の認定を受けており,歩行が不自由であること,50年近く前の交通事犯による罰金前科1犯以外に前科がないこと,妻が情状証人として出廷し,今後の監督を誓約していることなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,本件は,刑の執行を猶予すべき事案とは到底いえず,被告人を主文の刑に処するが相当である。

(求刑懲役4年)

別表

番号

払戻日

払戻場所

払戻口座

(被告人名義)

払戻金額(円)

費消金額(円)

1

平成18年5月23日

埼玉県北葛飾郡<以下省略>

郵便局株式会社杉戸高野台郵便局

定額郵便貯金

1,000,320

約903,420

2

平成18年8月4日

埼玉県春日部市<以下省略>

郵便局株式会社春日部郵便局

同上

1,000,377

約906,652

3

平成18年10月6日

埼玉県北葛飾郡<以下省略>

株式会社武蔵野銀行杉戸高野台支店

同支店

普通預金口座

1,000,000

約784,210

4

平成18年11月7日

さいたま市<以下省略>

株式会社埼玉りそな銀行東大宮支店

同上

500,000

約409,196

5

平成18年12月27日

埼玉県北葛飾郡<以下省略>

郵便局株式会社杉戸郵便局

定額郵便貯金

7,003,193

約5,302,960

6

平成19年6月7日

埼玉県北葛飾郡<以下省略>

株式会社武蔵野銀行杉戸高野台支店

同支店

普通預金口座

1,000,000

約1,000,000

合計

11,503,890

約9,306,438

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