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さいたま地方裁判所 平成23年(わ)1544号 判決 2012年11月06日

主文

被告人を判示第1及び第2の各罪について無期懲役に,判示第3の各罪について懲役2年に処する。

未決勾留日数中280日を無期懲役の刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1平成16年2月から3月頃,いわゆるホームレスであったAと知り合い,平成16年11月頃,同人がさいたま市南区内に住居を借りるに当たって世話をし,同人が受給した年金一時金の一部を預かり同人らとの遊興や被告人自身の遊興等に使うなどしていたが,平成17年1月から2月頃,A方に同居していた知人のBから,Aが被告人に欺されたと怒っていると聞かされ,これ以上,Aの年金を被告人が勝手に使うことは困難であると考え,Aの老齢基礎年金及び老齢厚生年金等を手に入れるため,同人を殺害し,前記年金等が入金される株式会社C銀行D支店に開設された同人名義の普通預金口座(口座番号省略)のキャッシュカード1枚等を強取しようと企て,Bと共謀の上,同年3月頃,口実を設けてAを誘い出し,静岡県沼津市内の漁港に駐車した車両内において,殺意をもって,睡眠薬入りの弁当を食べさせてあらかじめ眠らせていた同人(当時65歳)の首に電気コード様のものを巻いて絞め付け,よって,その場で,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害し,その頃,前記同人方において,同所にあった前記キャッシュカード1枚等5点を強取した。

第2平成16年10月頃,Eと同女の働いていた風俗店で知り合い,同女との交際を始め,平成17年4月頃からは,さいたま市緑区内の当時の被告人方において,同女と一緒に暮らし,平成18年6月頃からは,当時同女が経営していた風俗店の手伝いをしていたところ,同年9月5日頃,被告人の報酬を巡って同女と口論となり,同女の言葉に激高して,とっさに同女を殺害しようと考え,前記被告人方において,同女(当時47歳)に対し,殺意をもって,その首に電気コードを巻いて絞め付け,よって,その頃,同所において,同女を頸部圧迫による窒息により殺害した。

第3別表(省略)記載のとおり,平成22年12月1日午前10時38分頃から平成23年10月14日午前11時22分頃までの間,10回にわたり,さいたま市浦和区内の株式会社B銀行F支店ほか2か所において,各所に設置された現金自動預払機に,不正に入手した前記A名義のキャッシュカードを挿入するなどして各機を作動させ,各機から株式会社B銀行F支店支店長Gほか2名管理の現金合計122万5000円を引き出して窃取した。

(証拠の標目)

省略

(確定裁判)

被告人は,平成22年6月21日さいたま地方裁判所で道路交通法違反,自動車運転過失傷害罪により,懲役1年6月(4年間執行猶予)に処せられ,その裁判は,同年7月6日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。

(法令の適用)

1  被告人の判示第1の所為は刑法60条,240条後段に,判示第2の所為は同法199条にそれぞれ該当するところ,これらの罪と前記確定裁判があった道路交通法違反,自動車運転過失傷害の各罪とは刑法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示第1,第2の各罪について更に処断することとし,判示第1及び第2の各罪について所定刑中いずれも無期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,同法10条により重い判示第1の罪について被告人を無期懲役に処し,同法46条2項本文により他の罪の刑を科さず,同法21条を適用して未決勾留日数中280日をその無期懲役刑に算入する。

2  判示第3の各所為は別表の番号ごとにそれぞれ同法235条に該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い別表番号9の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で,判示第3の各罪について(執行猶予中の常習的犯行であることを考慮し),被告人を懲役2年に処することとする。

3  訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

被告人は,年金を横取りする目的で,知人男性を絞殺し,キャッシュカード等を強奪するという強盗殺人の罪を犯し,その約1年半後に,交際相手の女性を絞殺するという殺人の罪を犯した。

強盗殺人の犯行は,計画的であり,強欲な動機に酌量の余地は全くない。共犯者もいるが,被告人は,主導的立場で自ら殺害行為を行い,利益の大半を得ている。殺害後の死体の扱い方には,被害者の尊厳を軽視する被告人の人格態度が現れている。さらに,被告人は,その犯行後わずかな期間しか経過していないのに,交際相手の女性の些細な言動に腹を立てて同女の命をも奪ったものである。その短絡的な動機に酌量の余地はなく,被告人の人命軽視の態度は甚だしい。凶悪な犯行を重ねながら,長年にわたって,年金を横取りし続けていたことも考慮すると,被告人の反社会性は明らかである。

このような被告人に対しては,極刑をもって臨むことが十分に考えられる。思いもかけないことで一命を奪われた2名の被害者の心情も推察すると,両名の遺族らがいずれも極刑を望んでいるのは当然のことである。

しかし,本件では以下の事情が認められる。

強盗殺人については,被告人は,被害者が当時入居していた生活支援施設から出て自活できるように住居の世話などをしており,一緒に旅行に出かけたりもする間柄であった。被告人は,被害者の生前からその年金を勝手に使っていたが,元々,金づるにする目的で被害者に近づいたものとは認められない。

殺人については,被告人と被害女性とは,約1年10か月にわたって親密な交際を続けており,けんかをしていた形跡もあるが,お互いに好意を持ち合っており,犯行当時もそれなりに良好な関係であったと認められる。被告人が利欲目的で被害女性に近づいたというような事情は認められないし,被害女性との関係を清算するなどの何らかの目的のために計画的に殺害したなどという事情も認められない。被害女性の遺体が無惨な姿で発見されているが,処置に困った被告人が放置した結果であり,ことさら残虐な処置をしたというわけではない。

被告人は,強盗殺人の被害者の口座から現金を引き出したことによる窃盗の嫌疑で逮捕されると,その日の内に,強盗殺人と殺人について自分が犯人であるという上申書を書き,その後も,事実関係を一貫して認めている。被告人がこれらの事件の犯人であること自体は,捜査機関の追及によって,早晩明らかになったものと思われるが,犯行の目的や具体的な手段,方法などは被告人の供述がなければ十分に解明されなかったこともまた明らかである。被告人は,公判廷でも,反省,悔悟の気持ちを表している。

これらの事情を考慮すると,本件は死刑を選択することがやむを得ない場合に当たるとまでは認められない。

そこで,強盗殺人及び殺人の罪について,被告人を無期懲役刑に処し,これと別に確定裁判後の窃盗の罪について主文の刑を定めることとする。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑・判示第1及び第2につき死刑,第3につき懲役2年)

(裁判長裁判官 井口修 裁判官 栗原正史 裁判官 浅江貴光)

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