大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成23年(ワ)1767号 判決 2012年10月22日

原告

X1他2名

被告

Y1他1名

主文

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して、二五五四万四四七一円及びうち二四五三万一五九一円に対する平成二二年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2及び原告X3に対し、連帯して、それぞれ、七三八万六一一八円及びうち七一三万二八九八円に対する平成二二年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して、三〇八六万〇六七四円及びうち二九八四万七七九四円に対する平成二二年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、連帯して、九九六万五一六九円及びうち九七一万一九四九円に対する平成二二年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告X3に対し、連帯して、九九六万五一六八円及びうち九七一万一九四八円に対する平成二二年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告会社に勤務する被告Y1運転の普通貨物自動車(以下「被告車両」という。)が、車道から路外の駐車場に進入するために左折したところ、歩道上を進行してきた亡A(以下「亡A」という。)運転の自転車に自車を衝突させた事故(以下「本件事故」という。)によって亡Aが受傷して死亡したとして、亡Aの遺族であり、相続人である原告らが、それぞれ、被告Y1に対し、民法七〇九条に基づき、被告車両の運行供用者である被告会社に対し、自賠法三条に基づき、連帯して、亡Aに生じた損害額(本件事故日である平成二二年一月九日から原告らが自賠責保険金を受領した平成二三年一月一三日までに生じた確定遅延損害金を含む。)の法定相続分に応じた額と原告ら固有の慰謝料及び弁護士費用の合計額、並びに、うち上記の合計額から上記の確定遅延損害金を控除した額に対する本件事故日である平成二二年一月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。

一  前提となる事実(当事者間に争いのない事実)

(1)  本件事故の発生

被告会社に勤務する被告Y1が、平成二二年一月九日午後七時ころ、業務として、被告会社が所有する事業用普通貨物自動車(ナンバー<省略>)を運転し、埼玉県川口市大字安行領家八四四番地の二所在の片側二車線の左側(歩道寄り)車線を進行中に、路外の○○市場の駐車場に進入するために左折し、道路左側の歩道を横断しようとして、自転車走行が許されている同歩道上を右方から直進してきた亡Aが運転する自転車に衝突させた。

(2)  亡Aの受傷による入院及び死亡

亡Aは、本件事故により傷害を負い、aセンターに緊急搬送され、同日から入院して治療を受けたが、同月二二日午前一〇時に脳挫傷により死亡した。

(3)  被告らの責任原因

ア 被告Y1は、車道から左折して路外に進出する際に、左折前に一時停止した上で、安全を確認し、左折横断をすべき義務があるのに、かかる義務を怠り、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負う。

イ 被告会社は、被告車両を所有しており、本件事故時に、自己のために被告車両を運行の用に供していた者であるから、自賠法三条に基づく損害賠償義務を負う。

(4)  原告らの身分関係及び相続による権利の承継

原告X1は、亡Aの夫、原告X2及び原告X3は、亡Aの父母であり、亡Aの死亡によって、それぞれの法定相続分の三分の二、各六分の一に応じて亡Aの権利を承継した。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  過失相殺の当否及び割合

(被告らの主張)

ア 本件事故現場は明るく、亡Aからの前方の見通しも良好であるから、亡Aが前方を注視していれば、徐行して左折進入してくる被告車両を発見し、衝突を回避することができることは明らかである。また、亡Aの自転車のライトが点灯していなかった可能性があり(乙二の二頁)、被告Y1にとって亡Aを発見することは困難であったことは明らかである。なお、被告Y1は、左折の直前ではないが、左折の合図をして減速した後の乙二の実況見分調書の現場見取図の②の地点では、歩道上の左右を確認している。

イ 以上によれば、亡Aにおいても、前方注視義務違反の過失があり、一〇%の過失相殺をすべきである。

(原告らの主張)

争う。被告Y1の重大な過失と対比すれば、亡Aには過失相殺を相当とする程度の注意義務違反を肯定することができない。なお、亡Aは、夜間に常時ライトを点灯しており、本件事故当時に点灯していなかった事実はない。

(2)  損害の額

(原告らの主張)

ア 文書料 二二五〇円

イ 入院付添費 九万一〇〇〇円

医師の指示がなくとも、受傷の部位や程度により必要があれば認められるところ、亡Aは、本件事故により脳挫傷等の傷害を負い、いつ容体が急変してもおかしくない状態であり、常に家族が付き添い、対応する必要があった。

日額六五〇〇円×入院期間一四日間

ウ 入院雑費 二万一〇〇〇円

日額一五〇〇円×入院期間一四日間

エ 付添人交通費 一万六三〇〇円

オ 葬儀関係費用 七三八万八九四九円

原告らは、墓石工事費等を含む葬儀関係費用として同額を支出している(甲三ないし九(枝番を含む。以下同じ。))。このうち、墓の建立費用に関し、亡Aの夫の原告X1は、当初、原告X1の家の墓に納骨することを考えたが、原告X2らにおいて、原告X1が若く、将来再婚した時のことを考慮して、原告X1と原告X2らの双方の自宅から近い霊園に亡Aのための墓を建立することを提案して建立したものである。被告らは、墓は一家全員のために購入されるものであるとして、葬儀関係費用を限定すべきであると主張するが、上記のとおり、本件事故によって若くして死亡した亡Aのための墓を新たに建立せざるを得なかったものであるから、本件事故と因果関係のある損害というべきである。

カ 損賠請求関係費 六四五〇円

キ 休業損害 一三万四二四三円

亡Aは、兼業主婦であるから、事故日から死亡日までの一四日間につき、賃金センサスの平均賃金(平成二〇年度女性学歴計全年齢)の年収額である三四九万九九〇〇円により計算するのが相当である。

ク 傷害慰謝料 三五万〇〇〇〇円

傷害慰謝料は、傷害部位、程度によっては、入院期間を基礎とする金額の二〇%から三〇%程度増額され、さらに生死が危ぶまれる状態が継続したときは、入院期間の長短にかかわらず別途増額を考慮するとされているところ(平成二三年版赤本上巻一三三頁)、亡Aは、本件事故により、脳挫傷、外傷性硬膜下出血、外傷性くも膜下出血、顔面に皮下出血を伴う打撲痕のほか、胸部・腹部・両上肢・両下肢挫創など全身に及ぶ傷害を負った。また、本件事故から死亡するまで生死が危ぶまれる状態が継続していた。かかる状況からすれば、入院治療中に亡Aが被った精神的苦痛は計り知れなく、傷害慰謝料は、増額されるべきであり、上記の額が相当である。

ケ 死亡逸失利益 四〇一一万五六四四円

亡Aは有職の主婦であり、また、将来専業主婦となることを予定していたことを考慮すれば、亡Aは、有職の主婦の場合や専業主婦の場合と同じく、賃金センサス(平成二一年度女性学歴計全年齢)の平均賃金を基礎として算定することが相当である。被告ら主張の亡Aの実収入については、上記の平均賃金を下回る限り、問題とならない。また、生活費控除率についても、上記の場合の通例である三〇%として算定するのが相当である。就労可能年数三五年のライプニッツ係数は一六・三七四二である。

349万9900円×16.3742×(1-0.3)

コ 死亡慰謝料 合計三四〇〇万〇〇〇〇円

(ア) 亡A本人 二五〇〇万〇〇〇〇円

亡Aは、原告X1と結婚後三年も経たないうちに本件事故により重傷を負い、一度も意識が戻らないまま、わずか三二歳の若さで死亡した。家族に別れを告げることもできず、突然命を絶たれた無念さは計り知れない。また、本件事故の態様によれば、被告Y1には脇見運転と同視し得る著しい過失がある一方、亡Aには過失がない。さらに、被告Y1は、自らの刑事法廷の被告人質問では、被害者に直接会って謝罪する旨述べていたにもかかわらず、刑事裁判後、原告らに対し、直接謝罪をしておらず、謝罪の手紙も送っていない。また、被告Y1の陳述書(乙一二)には、被害者に対する謝罪についての記載もない。これらの被告Y1の不誠実な態度も、慰謝料増額事由として当然に斟酌されるべきである。

(イ) 遺族固有の慰謝料 合計九〇〇万〇〇〇〇円

① 原告X1 三〇〇万〇〇〇〇円

同原告は、最愛の妻である亡Aとの間に早く子供が授かることを願い、家族らが暮らせるようマイホームを手に入れたばかりであり、夫婦生活のスタートを切った矢先に突然妻を失った同原告の絶望は筆舌に尽くしがたい。

② 原告X2、原告X3 各三〇〇万〇〇〇〇円

亡Aは、結婚後も、実家の近くに住み、同原告らとの交流を頻繁にしていた。同原告らは、娘の産んだ孫を手に抱く夢も壊されてしまったものであり、手塩にかけた娘を失った苦痛は、想像に難くない。

サ 椙害額の総額 八二一二万五八三六円

シ 既払金 三七四七万四一四五円

(ア) 自賠責保険金 三〇〇五万七〇〇〇円

(イ) 労災保険金 七三〇万七六七〇円

(ウ) 被告支払金 一〇万九四七五円

ス 既払金控除後の損害額 四四六五万一六九一円

セ 自賠責保険金に対応する確定遅延損害金

本件事故日から、被害者請求により原告らが自賠責保険金を受領した平成二三年一月一三日までに生じた確定遅延損害金(受領日の前日まで一年及び四日)は、一五一万九三二〇円となる。

ソ 合計額(ス+セ) 四六一七万一〇一一円

タ 弁護士費用 四六二万〇〇〇〇円

上記ソの損害請求額の一割が相当である。なお、上記弁護士費用については、原告らが法定相続分の割合で負担する旨合意している。

チ 原告らの請求金額 合計五〇七九万一〇一一円

(ア) 原告X1 三〇八六万〇六七四円

(5079万1011円-900万円)÷3×2+300万円

(イ) 原告X2 九九六万五一六九円

(ウ) 原告X3 九九六万五一六八円

(5079万1011円-900万円)÷3÷2+300万円=996万5168.5円

ツ 確定遅延損害金を控除した原告各自の請求金額

(ア) 原告X1 二九八四万七七九四円

3086万0674円-(151万9320円÷3×2)

(イ) 原告X2 九七一万一九四九円

996万5169円-(151万9320円÷3÷2)

(ウ) 原告X3 九七一万一九四八円

996万5168円-(151万9320円÷3÷2)

(被告らの主張)

原告ら主張のうち、ア、ウ、エ、カの損害及びシの既払金、セの確定遅延損害金は、認める。その余の損害の主張に対する被告らの反論は、次のとおりである。

イ 入院付添費は、医学的観点から争う。

オ 葬儀関係費用は、仮に本件事故がなくとも、いつかは必ず発生するものであること、墓は一家全員のために購入されるものであり、亡Aのためにのみ購入されたものではないこと及び葬儀関係費用の金額は個々人により大きく異なるものであるから、一五〇万円とされるべきである。

キ 休業損害は、亡Aがフルタイム労働者であったことから(乙一)、原告ら主張の賃金センサスの平均賃金額ではなく、本件事故前三か月間の実収入である62万3220円(乙1)÷76日(同期間の稼働日数)×亡Aの欠勤日数の10日として、八万二〇〇二円とされるべきである。

ク 傷害慰謝料は、入院期間を基礎として二五万円とされるべきである。

ケ 死亡逸失利益は、亡Aがフルタイム労働者であり、家事従事者である有職(兼業)主婦であるとはいえないから、上記キと同様に、本件事故前の実収入である二八六万四五二四円(乙三)を基礎収入とされるべきであり、亡Aには扶養家族も存在しないから、生活費控除率も、五〇%とされるべきである。なお、原告ら主張の亡Aの就労可能年数及びライプニッツ係数は、認める。

コ 死亡慰謝料は、総額で二四〇〇万円とされるべきである。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  争点(1)(過失相殺の当否及び割合)について

前記の前提となる事実及び本件証拠中の刑事記録(甲一九ないし二三、乙二)によれば、本件は、被告Y1が業務として事業用普通貨物自動車を運転し、中央分離帯のある片側二車線の左側(歩道寄り)車線を進行中に、路外の駐車場に進入するために、左折して道路左側の歩道を横断するに当たり、一時停止及び安全の確認を怠り、自転車走行が許されている同歩道上を右方から直進してきた亡Aが運転する自転車の左側面部に、自車の左前部を衝突させ、亡Aを自転車もろとも路上に転倒させた結果、亡Aが傷害を負い、一三日後に脳挫傷により死亡した事案である。

自動車は、歩道と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならず、道路外の施設又は場所に出入りするためやむを得ない場合において歩道を横断することが許されているにすぎない(道路交通法一七条一項)。その場合にあっても、歩道に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない(同条二項)から、歩道を通行する歩行者の保護は絶対的といってよく、横断歩道上と同様に、原則として過失相殺を考えなくてよいと解される(当裁判所に顕著な書籍である「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」別冊判例タイムズ一六号一〇〇頁【三九】図の注記②の記載参照)。この点につき、道路交通法は、横断歩道又は自転車横断帯における歩行者又は自転車の優先の規定(三八条)を置くが、上記の自動車の路外出入りのための歩道横断の規定と異なり、自動車に対して一時停止を必要的に義務付けていないことと対比すれば、上記のとおり原則として横断が禁止され、かつ、横断の直前に一時停止を必要的に義務付けている自動車の歩道横断の場合の歩道上の歩行者の方がより高度に保護されている(より過失相殺を考えなくてよい)と解することができよう。そして、この同法一七条一項、二項は、直接的には歩道を通行する歩行者を保護することを規定するが、自動車の歩道の横断を原則として禁止し、歩道に入る直前で必要的に一時停止義務を課し、かつ、歩行者の通行妨害を禁ずるこの規定の法意(歩道上絶対優先の原則とでもいうことができよう。)は、歩道通行を許される自転車についても及ぶ(歩行者と同様に保護される)と解することができる。したがって、自動車は、路外に出るために歩道を横断するに当たり、その直前で、一時停止し、歩道上を通行する歩行者及び歩道通行を許される自転車(以下「歩行者等」という。)の有無及び安全を確認して、その通行を妨げないようにすべき基本的な注意義務を負っているものというべきである。

しかるに、被告Y1は、業として事業用普通貨物自動車を運転中に、上記の道路交通法規定の注意義務に違反し、左折の直前(歩道に入る直前、乙二の実況見分調書の被告Y1による指示の③の地点)で、一時停止しなかったばかりか、右方の歩行者等に対する注意を全くしていなかったことが認められる(乙二の被告Y1立会の実況見分調書、四の被告Y1の検察官調書。なお、被告らは、上記乙二の③地点に至る手前の②の地点で、歩道上の左右を確認していると主張するが、被告Y1は本件事故の直後にされた乙二の実況見分時にはそのような指示説明をせず、同地点で左後方を確認したと指示説明しているのであり、また、仮に、そうだとしても、被告らが主張するように本件事故の現場は明るく、被告Y1が通常の注意をすれば、右方から歩道上を進行してくる亡Aの様子が容易に認識し得るものであり、その注意が全く不十分なものであったことは、本件証拠(甲二三の被告Y1立会の実況見分調書、三四の被告Y1の刑事公判廷における被告人調書一三項及び上記乙二、四)から明らかである。)。

このため、被告Y1は、亡A運転の自転車に全く気づかないままに自車を衝突させ、その自転車がどちらから走行してきたかすら分からなかった(甲二〇の捜査報告書中の被告Y1の供述記載)というのであって、歩道通行の歩行者等に対する注意義務違反の程度は、著しく、かつ、重大なものであるといわざるを得ない。

なお、被告らは、亡A運転の自転車のライトが点灯していなかった可能性があるとして、上記乙二の二頁の記載を指摘するが、過失相殺の基礎となる事実は、被告らの抗弁として被告らに立証責任があるところ、点灯していなかったことを示す証拠はなく(上記乙二の二頁の記載も、上記甲二〇の五頁によれば、単に、警察において実況見分の際にその確認を怠ったというにすぎない。)、かえって、亡Aが運転していた自転車は、電動アシスト付きのものであり、亡Aは通常夜間にライトを点灯させていたこと(甲三一の原告X3、三二の原告X1の各陳述書、原告X1本人、原告X2本人)からすると、本件事故当時においてもライトを点灯していたことを推認することができるものである。

他方、亡Aにおいても、上記のとおり、道路交通法において歩行者等の通行の安全が保護されている歩道上であり、自転車走行中に左前方の車道上の被告Y1運転の貨物自動車を見ても、そのことを信頼したと推測されるものとはいえ、もし、より高い注意を及ぼしていれば、本件事故を避け得た可能性自体は否定することができない。しかしながら、被告Y1の上記の道路交通法の規定に著しく違反する重大な注意義務違反というべき過失の内容及び程度と対比すれば、このような高度の注意義務を、歩道上を通行する歩行者等に課して、過失相殺の対象となるべき過失に該当すると評価することは相当でないというべきである。すなわち、本件でも、上記原則のとおり、過失相殺を考えなくてよいといえるものである。

したがって、被告らの過失相殺の主張は、採用することができない。

二  争点(2)(損害の額)について

(1)  文書料(争いない) 二二五〇円

(2)  入院付添費 九万一〇〇〇円

入院付添費用は、医師の指示がなくとも受傷の程度等により必要があれば認められるべきところ、後記(10)に認定の亡Aの受傷の程度及び入院後に重篤な状態が継続していた経過と現実の家族による付添看護の状況によれば、亡Aには入院全期間の一四日間(争いない)、家族による付添看護が必要であると認められ、その費用は一日当たり六五〇〇円とするのが相当である。

(3)  入院雑費(争いない) 二万一〇〇〇円

(4)  付添人交通費(争いない) 一万六三〇〇円

(5)  葬儀関係費用 三〇〇万〇〇〇〇円

墓の建立費用(墓石工事代、墓所の永代使用料)の三四〇万三五〇〇円を含む葬儀関係費用として合計六三一万四七九九円(香典返しを除く。)が支出されたことが認められるところ(甲三ないし九、三八、三九及び弁論の全趣旨)、前記一に説示したとおり、本件の事故態様が被告Y1による重大な注意義務違反によって惹起された悲惨なものであり、かつ、後記(10)に認定の亡Aの身上、本件事故による受傷の状況及び病院に緊急搬入後の死亡に至るまでの経過等からすると、突然に生命を絶たれた精神的苦痛が甚だしく、遺族である原告らが葬送等に手厚く対応しようとしたことは無理からぬものというべきである。

加えて、墓の建立費用に関し、亡Aの夫の原告X1は、当初、原告X1の家の墓として納骨することを考えたが、原告X2ら夫婦において、原告X1が若く、将来再婚した時のことを考慮し、かつ、原告X1と原告X2の双方の自宅から近い霊園に、亡Aのための墓を建立することを提案し、亡Aのためだけの墓として、墓石の正面に、左側の「出逢い」の大文字と右側のハート型の花びら模様で構成される意匠を施し、側面に、同原告ら共同の建主名を刻した墓を新たに建立するに至ったことが認められ(甲三七、四〇、原告X2本人及び弁論の全趣旨)、本件事故がなければ、上記の亡Aの墓が建立されることはなかったといえるのであるから、その建立に要した費用のうち社会通念上相当と認められる額について、本件事故による損害として認められるべきである。

これらの諸事情を総合すれば、原告らが現実に支出した費用のうち、上記の額の限度で本件事故との間の相当因果関係を認めるのが相当である。

(6)  損賠請求関係費(争いない) 六四五〇円

(7)  休業損害 一三万三八二四円

後記(9)に説示するとおり、亡Aは有職の主婦であること及びその収入の状況を考慮すれば、原告らが主張するように、賃金センサスの女性学歴計全年齢の平均賃金を基礎として算定することが相当であり(ただし、賃金センサスは、本件事故の前年の平成二一年度の年収額である三四八万九〇〇〇円(当裁判所に顕著な事実)を用いるのが相当である。また、円未満切捨て計算による。以下同じ。)、本件事故日から死亡日までの一四日間について相当因果関係を肯定することができる。

348万9000円×14÷365

(8)  傷害慰謝料 三五万〇〇〇〇円

傷害慰謝料は、原則として入通院期間を基礎として算定し、傷害の部位、程度によっては増額し、また、生死が危ぶまれる状態が継続したこと等を斟酌して別途増額することを考慮することが相当であると解されるところ、後記(10)に認定の亡Aの受傷の程度、緊急手術を要したこと及び一四日間にわたる入院期間の経過によれば、上記の額を優に認めることができる。

(9)  死亡逸失利益 三九九九万〇七〇八円

後記(10)で認定の亡Aの家事の稼働状況及び将来専業主婦となることを予定していたこと並びに収入の状況(本件事故の前年の平成二一年度給与所得が二八六万四五二四円であること、乙三)によれば、亡Aは、本件事故時に、職に就いて給与を得ながら家事に従事する有職の主婦に当たり、また、近い将来に専業主婦となる蓋然性があったことが認められるから、有職主婦及び専業主婦の場合の通常の算定方法と同様に、賃金センサスの女性学歴計全年齢の平均賃金を基礎として算定することが相当である。また、生活費控除率についても、後記(10)で認定の亡Aの稼働状況及び生活状況等に上記の収入の状況を総合して考慮すれば、同じく、三〇%として算定するが相当である。亡Aの就労可能年数である三五年のライプニッツ係数は一六・三七四二である(争いない)。

348万9000円×16.3742×(1-0.3)

(10)  死亡慰謝料 合計二九〇〇万〇〇〇〇円

ア 亡A本人 二四〇〇万〇〇〇〇円

イ 原告ら固有の慰謝料

(ア) 原告X1 二〇〇万〇〇〇〇円

(イ) 原告X2及び原告X3 各一五〇万〇〇〇〇円

死亡慰謝料の認定について、原則として一般的には、配偶者の場合は二四〇〇万円が相当とされ、これを具体的な斟酌事由により増減するのが相当と解されるところ、本件証拠(甲二、一四ないし一八、二九ないし三二、三四ないし三六、乙一、二、一二、一三、原告ら各本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

亡Aは、昭和五二年○月○日に原告X2及び原告X3の長女として出生して以来、両親の深い愛情の下で、明るく、健やかに育ち、笑顔を絶やさず、動物や花を愛し、動物ケアの専門学校で学んだ知識を生かして動物のトリマーに就業した後に、協同組合bに就職して販売員主任を務め、平成一九年三月一一日に同じ職場で働く原告X1と結婚し、日中の仕事の他に、早朝から夜遅くまで、掃除、洗濯、食事、家計の管理等の家事の全般を懸命に行い、また、近所の実家に住む実母が留守の時の実父の食事の世話も行うなど家事に従事していた。そして、亡Aは、子供を授かれば専業主婦となって子育てにも従事して家族で暮らすためのマイホームを手に入れたばかりの幸福の絶頂期に、突然、本件事故によって、死因となった脳挫傷と外傷性硬膜下出血の他に、全身に及ぶ挫裂創、挫創等の傷害を負い、緊急手術の後の家族の懸命な看護の下で、集中治療室において一〇日間にわたって治療を受けていたものの、結婚後三年も経たない三二歳の若さで、一度も意識を戻すことなく、生命を絶たれたものであり、その無念さは、筆舌には尽くせないものである。

また、病室で回復を祈りながら、最愛の妻を亡くした原告X1、及び、亡Aの結婚後も近隣で親しく交流を続けてきており、孫ができるのを心待ちにしていた亡Aの両親の原告X2及び原告X3の受けた精神的苦痛も、それぞれ著しく、察するに余りあるものである。

加えて、被告Y1は、自らを被告人とする刑事公判廷においては、裁判官の質問に答えて「今後、ご遺族の方々には、直接お会いしてお詫びし、一生謝罪し続けるつもりです。」と誓っておきながら、執行猶予の判決を受けるや、面会はもとより謝罪文の交付や献花等も一切していない。また、本件訴訟で提出した被告Y1作成の陳述書(乙一二)においても、謝罪等は一言もされておらず、このことは、事故態様が主な立証事項であるとしても、亡Aや遺族らに対する思慮や加害者本人としての自覚に欠けるものというほかなく、異例ともいえるものである。このような被告Y1の刑事公判廷以降の不誠実な態度は、原告ら遺族の心情をより傷付け、その精神的苦痛を深めるに至っている。ことに、本件事故の現場が勤務先の近くであるため毎日訪れており、毎月二二日の月命日のお供えを欠かさない原告X1は、被告Y1からは、四九日はもとより、命日にも今までに一度もお供えがされていないことから、被告Y1の謝罪の言葉は信用できないとその心情を吐露している(甲三二、原告X1本人)。なお、被告Y1は、当裁判所が平成二四年五月一四日付けの「和解勧告」と題する書面において上記のとおりの被告Y1の態度を指摘して慰謝料の増額事由とする旨の説示をした後に提出された同年九月六日付けの陳述書(乙一三)において、「ご遺族の方に謝りに行きたかったのですが、私がご遺族の方に顔を見せることでご遺族の方がご気分を悪くされると思ったので行けませんでした。」と弁解し、「毎月二二日の月命日には事故の現場で謝っています。この先もずっと謝っていきます。」と上記の刑事公判廷とは異なる供述を記載しており、残念ながら、当裁判所の上記の指摘にかかわらず、遺族に対して謝罪の気持ちを表して慰謝すべき思慮と自覚をうかがうことができない。

さらに、本件事故の原因についてみると、前記一に説示したとおり、被告Y1の道路交通法が定める基本的な注意義務に著しく違反する重大な過失によって一方的に惹起されたものであり、走行を許され、安全を保障されている歩道上を、仕事からの帰宅途中の午後七時ころに自転車で走行していた亡Aには、過失がないものである。しかるに、亡Aは、被告Y1運転の被告車両との衝突の衝撃で、自転車もろとも、三・二メートルも跳ね飛ばされて転倒し(乙一)、上記のとおり、全身の損傷と脳挫傷の致命傷を負い、愛する家族と言葉を交わすことも叶わずに亡くなったのである。

以上認定の被害者本人とその遺族並びに本件事故及び被告Y1に係る諸事情を総合すれば、亡A本人及び原告らそれぞれの受けた精神的苦痛は、あまりにも大きく、甚大であって、その死亡慰謝料としては、上記ア、イの金額を下回ることはないというべきである。

(11)  損害額の総額 七二六一万一五三二円

(12)  既払金(争いない) 三七四七万四一四五円

(13)  既払金控除後の損害額 三五一三万七三八七円

(14)  自賠責保険金に対応する確定遅延損害金(争いない) 一五一万九三二〇円

(15)  (13)と(14)の合計額 三六六五万六七〇七円

(16)  弁護士費用 三六六万〇〇〇〇円

本件事案の難易、認容額等によると、上記金額とするのが相当である。

(17)  請求認容額 合計四〇三一万六七〇七円

(ただし、上記合計額と下記ア及びイの円未満切捨て計算の結果の差額の二円につき、下記イの計算結果に各一円加える。これは、下記ア及びイの四捨五入計算の結果と同額である。)

ア 原告X1 二五五四万四四七一円

(4031万6707円-500万円)÷3×2+200万円

イ 原告X2及び原告X3 各七三八万六一一八円

(4031万6707円-500万円)÷3÷2+150万円

(18)  確定遅延損害金控除後 三八七九万七三八七円

ア 原告X1 二四五三万一五九一円

2554万4471円-(151万9320円÷3×2)

イ 原告X2及び原告X3 各七一三万二八九八円

738万6118円-(151万9320円÷3÷2)

第四結論

よって、原告らの請求は、主文第一項及び第二項の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本英史)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例