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さいたま地方裁判所 平成23年(ワ)2002号 判決 2013年7月10日

原告

X株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

伊佐山芳郎

浅野晋

小池健治

被告

埼玉県

同代表者知事

同訴訟代理人弁護士

池本誠司

長田淳

同指定代理人

秋葉直明<他4名>

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二億一二九五万〇六五〇円及びこれに対する平成二三年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要等

本件は、原告が、被告に対し、埼玉県知事(以下「処分行政庁」という。)が平成二二年八月六日付けでした特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。なお、法令は、全て平成二二年八月六日時点のものである。)五七条一項、六八条、特定商取引に関する法律施行令(以下「令」という。)一九条一項に基づく業務提供誘引販売取引に係る業務の一部を六か月間停止すべき旨の命令(以下「本件処分」という。)が、同項の規定する要件を欠き、行政手続法一二条、一四条に違反し、又は、裁量権を逸脱・濫用して行われた違法な処分であるなどと主張して、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求として、二億一二九五万〇六五〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二三年七月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提事実(争いのない事実のほかは、括弧内に証拠を示す。)

(1)  当事者等

ア 原告

原告は、貨物自動車運送事業及び自動車運送取扱事業、車両及び車両部品等の販売、経営コンサルティング等並びにこれらに付帯する一切の業務を目的とする会社である。

原告は、本件処分当時、「a連合会」と称して、埼玉県内において、軽貨物自動車の販売のあっせん及び当該軽貨物自動車を利用する運送業務のあっせんを行い、当該運送業務に従事することによって一定の利益を得られるとして相手方を誘引し、当該相手方に軽貨物自動車の購入代金及び入会金等の取引料を負担させる当該軽貨物自動車の販売のあっせんに係る取引を行っており、同取引は、特商法五一条一項が規定する業務提供誘引販売取引に該当した。

イ 処分行政庁

処分行政庁は、被告の公権力の行使に当たる公務員である埼玉県知事であり、特商法六八条、令一九条一項本文に基づき、同法五七条に規定する主務大臣の権限に属する事務で、埼玉県の区域内における業務提供誘引販売業を行う者に係るものを行う権限を有している。

(2)  消費生活課に対する情報提供

埼玉県県民生活部消費生活課(以下「消費生活課」という。)長は、平成二〇年一〇月二三日付けで、消費生活支援センター所長(春日部支所長)から、原告の行為が特商法に違反する疑いがある旨の情報提供を受けた。

(3)  消費生活課による行政指導

ア 消費生活課長は、平成二二年二月二五日付けで、原告に対し、「事業者事情聴取等の実施について」と題する書面を送付し、原告の取引行為が特商法及び埼玉県民の消費生活の安定及び向上に関する条例(以下「条例」という。)に抵触している疑いがあるとして、同年三月一一日に埼玉県庁において事情聴取等を実施する旨を通知した。

イ 消費生活課の担当者らは、平成二二年三月一一日、埼玉県庁において、原告の担当者らに対し、「相談内容から認められる法令違反の疑いについて」と題する書面を交付し、次のとおり、特商法違反の疑いのある販売行為について説明した。

(ア) 広告表示義務違反

原告は、業務提供誘引販売取引について広告をするときに、商品又は役務の種類、商品・役務の対価等の当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項、提供する業務の提供条件及び登記された法人名称等を表示していない。

これは、特商法五三条に違反する疑いがある。

(イ) 誇大広告

原告は、業務提供誘引販売取引について広告をするときに、「月現況収入例四〇万円~五〇万円以上可」、「お仕事は一〇〇%継続的にご紹介します。」と大きく記載し、「開業時手続き費用が必要になります(開業資金分割も可)」と記載するのみで、具体的に必要となる金額を明示せずに、あたかも容易に高収入が得られるような話のみを強調する表示となっている。

これは、特商法五四条に違反する疑いがある。

(ウ) 概要書面の不交付

原告は、相手方に対し、原告があっせんする軽貨物自動車の販売会社と相手方との間で軽貨物自動車売買契約を締結するまでに、業務提供誘引販売業の概要について記載した書面を交付していない。

これは、特商法五五条一項に違反する疑いがある。

(エ) 契約書面の不交付等

原告は、相手方に対し、原告と相手方との間で業務提供誘引販売契約を締結するに際し、登記された法人名称及び電話番号、商品を利用する業務の提供についての条件に関する事項(一週間、一か月間その他の一定の期間内に提供する業務の回数若しくは時間その他の提供する業務の量)及び特商法五八条一項から三項までに規定される解除に関する事項(クーリング・オフ)を明らかにした書面を交付していない。

これは、特商法五五条二項に違反する疑いがある。

ウ 消費生活課の担当者らは、平成二二年三月三〇日、埼玉県庁において、原告の担当者らと再度面談し、原告の判断内容につき回答するよう要請した。

エ 原告は、同年四月九日、消費生活課事業者指導担当らに対し、同日付け答弁書を提出し、平成二一年一一月一日から業務提供誘引販売取引に関する広告に必要事項を表示し、誇大広告を改め、概要書面及び契約書面の内容を改めて交付するなどしており、既に改善を終えている旨などを主張した。

(4)  特商法に基づく報告及び資料提出

ア 処分行政庁は、平成二二年五月一八日付けで、原告に対し、特商法の施行上必要があるとして、同法六六条一項及び条例三〇条一項に基づき、原告による業務提供誘引販売取引について、報告を求める旨通知した。

また、処分行政庁は、同日付けで、原告に対し、同法五四条の二に基づき、原告が行った業務提供誘引販売取引の広告表示について、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求める旨通知した。

イ 原告は、同年六月一日付けで、処分行政庁に対し、報告書等の書面を提出し、原告による業務提供誘引販売取引に関する事項を報告するとともに、広告表示上の月収例等の記載根拠について説明した。

また、原告は、同月三〇日付けで、処分行政庁に対し、「様式第五号書式差し替え理由書」と題する書面を提出し、上記月収例の記載根拠についての説明を補正した。

(5)  行政手続法に基づく弁明の機会の付与及び原告による弁明

ア 処分行政庁は、平成二二年七月二一日付けで、原告に対し、次の(ア)ないし(ウ)の各事実につき、特商法五七条一項の規定に基づき原告の行う業務提供誘引販売取引に関する業務の一部を停止すべき旨の命令を行うことを予定しているなどとして、行政手続法一三条一項二号の規定に基づき弁明の機会を付与する旨の通知を行った。

(ア) 特商法五四条(誇大広告等の禁止)違反

原告の業務提供誘引販売取引についての広告において、「現況月収例四〇万円~五〇万円以上可」、「月収二五万円~五〇万円可能」、「仕事紹介します」などと表示されていた。しかし、原告は実際には大半の会員の収入を把握しておらず、また、広告に記載されたような収入を得ることが出来ない者が多数いるなど記載には根拠がないものであった。

なお、上記広告表示(「月収二五万円~五〇万円可能」、「仕事紹介します」)について、特商法五四条の二に基づき、その裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、原告から提出された資料は、当該広告表示を客観的に実証した内容ではなく、また、原告が追加で提出した資料において、原告は実際に収入を「把握していない」と申し述べている。

このことから、特定商取引法五四条の二の規定に基づき、特定商取引に関する法律施行規則(以下「規則」という。)四二条二号に規定する業務提供利益に関する事項について著しく事実に相違する表示であるとみなす。

これは、特商法五四条の規定に違反する。

(イ) 特商法五三条(広告表示義務)違反

原告は、業務提供誘引販売取引について広告をするにあたり、当該広告に、当該業務提供誘引販売業に関する商品又は役務の種類、商品の購入金額、当該業務提供誘引販売業に関して提供し又はあっせんする業務について広告する場合のその業務の提供条件、業務提供誘引販売業を行う者の氏名又は名称、住所及び電話番号、商品名について、規則で定めるところにより正しく表示していなかった。

これは、特商法五三条の規定に違反する。

(ウ) 特商法五五条一項(概要書面の交付義務)及び同条二項(契約書面の交付義務)違反

原告は、業務提供誘引販売取引に伴う特定負担をしようとする者とその特定負担についての契約を締結するまでに、その業務提供誘引販売業の概要について記載した書面を一部の取引の相手方に交付しなかった。

また、原告は、一部の取引の相手方に交付した当該書面に、割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項及び書面の内容を十分に読むべき旨の赤枠赤字の記載について、正しく記載していなかった。

さらに、原告は、業務提供誘引販売契約を締結した場合において当該契約の相手方に交付した書面の一部又は全部に、商品の種類及びその性能若しくは品質に関する事項、業務の提供又はあっせんについての条件に関する事項、当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項、当該業務提供誘引販売契約の解除に関する事項、当該業務提供誘引販売業を行う者の氏名又は名称、電話番号、当該業務提供誘引販売契約の締結を担当した者の氏名、契約年月日、商品名及び商品の商標又は製造者名、割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項、書面の内容を良く読むべき旨の赤枠赤字の記載について記載がない又は正しく記載していなかったほか、契約の解除に関する事項及びその他の特約に関する事項について、規則四五条一項に定めるところにより正しく記載していなかった。

これは、特商法五五条一項及び同条二項の規定に違反する。

イ 原告は、平成二二年八月二日付けで、処分行政庁に対し、弁明書を提出し、広告表示における月収例の記載につき、会員の平均収入金額を明記するとともに基となる実績年度を記入することとし、これが不可能である場合には金額表示をしないことに改めたことなどを主張し、資料として、「広告掲載~契約書・契約概要書の基本ルール」及び「広告表示」と題する各書面を提出した。

また、原告は、上記弁明書において、契約書及び契約概要書については、平成二一年一二月から内容的な改善をなして漏れなく交付していることなどを主張し、資料として、「入会契約書」及び「契約概要書」と題する各書面を提出した。

ウ 原告は、平成二二年八月三日付けで、処分行政庁に対し、弁明補充書を提出し、改善した契約書及び契約概要書については、同年七月二六日から全国的に実施済みであることなどを主張した。

(6)  本件処分

処分行政庁は、平成二二年八月六日付けで、原告に対し、前記(5)ア(ア)ないし(ウ)の各違反があり、業務提供誘引販売取引に係る取引の公正及び購入者の利益が著しく害されるおそれがあると認められることを理由として、特商法五七条一項に基づき、平成二二年八月一〇日から平成二三年二月九日までの間、原告の行う特商法五一条一項に規定する業務提供誘引販売取引に係る以下の業務を停止することを命ずる処分(本件処分)をした。

ア 業務提供誘引販売取引についての契約の締結について勧誘すること。

イ 業務提供誘引販売取引についての契約の申込みを受けること。

ウ 業務提供誘引販売取引についての契約を締結すること。

(7)  本件処分に係る取消訴訟の経緯

原告が、平成二二年九月二一日、被告に対し、本件処分の取消しを求める訴えを提起したところ、さいたま地方裁判所は、平成二三年二月二日、本件処分を取り消す旨の判決を言い渡した。

被告がこの判決を不服として控訴したところ、東京高等裁判所は、同年七月一三日、同判決を取り消し、原告の訴えを却下する旨の判決を言い渡し、その後当該判決は確定した。

二  本件に関連する法令の規定

(1)  業務提供誘引販売業及び業務提供誘引販売取引の定義

業務提供誘引販売業とは、物品の販売(そのあっせんを含む。)又は有償で行う役務の提供(そのあっせんを含む。)の事業であって、その販売の目的物たる物品(商品)又はその提供される役務を利用する業務(その商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんを行う者が自ら提供を行い、又はあっせんを行うものに限る。)に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって相手方を誘引し、その者と特定負担(その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供をいう。)を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんに係る取引(業務提供誘引販売取引)をするものをいう(特商法五一条一項)。

上記取引料とは、取引料、登録料、保証金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、取引をするに際し、又は取引条件を変更するに際し提供される金品をいう(同条二項)。

(2)  業務提供誘引販売取引の停止

都道府県知事は、業務提供誘引販売業を行う者が特商法五三条、五四条又は五五条の規定に違反した場合において、業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認めるときは、その業務提供誘引販売業を行う者に対し、一年以内の期間を限り、当該業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる(同法五七条一項、六八条、令一九条一項本文)。

(3)  誇大広告等の禁止

業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引について広告をするときは、当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担、当該業務提供誘引販売業に係る業務提供利益その他の主務省令で定める事項(当該業務提供誘引販売業に係る業務提供利益その他の業務の提供条件に関する事項〔規則四二条二号〕など)について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない(特商法五四条)。

都道府県知事は、同条に規定する表示に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした業務提供誘引販売業を行う者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該業務提供誘引販売業を行う者が当該資料を提出しないときは、同法五七条一項の規定の適用については、当該表示は、同法五四条に規定する表示に該当するものとみなす(同法五四条の二、六八条、令一九条一項本文)。

(4)  広告表示義務

業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、その業務提供誘引販売業に関する次の事項を表示しなければならない(特商法五三条)。

一号 商品又は役務の種類

二号 当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項(商品の購入金額若しくは役務の対価の支払の金額又は取引料の金額、規則四一条一項)

三号 その業務提供誘引販売業に関して提供し、又はあっせんする業務について広告をするときは、その業務の提供条件(提供し又はあっせんする業務の内容、一定の期間内に業務を提供し又はあっせんする回数、業務に対する報酬の条件〔同規則四一条二項一号、二号〕など)

四号 前三号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項(業務提供誘引販売業を行う者の氏名又は名称、住所及び電話番号、商品名〔同規則四〇条一号、三号〕など)

(5)  業務提供誘引販売取引における書面の交付

ア 概要書面の交付義務

(ア) 交付義務

業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売取引に伴う特定負担をしようとする者(その業務提供誘引販売業に関して提供され、又はあっせんされる業務を事業所等によらないで行う個人に限る。)とその特定負担についての契約を締結しようとするときは、その契約を締結するまでに、主務省令で定めるところにより、その業務提供誘引販売業の概要について記載した書面(以下「概要書面」という。)をその者に交付しなければならない(特商法五五条一項)。

(イ) 割賦販売法上の抗弁の接続に関する事項の明記

概要書面には、割賦販売法二条二項に規定するローン提携販売の方法又は同条三項に規定する包括信用購入あっせん若しくは同条四項に規定する個別信用購入あっせんに係る提供の方法により商品の販売又は役務の提供を行う場合には、同法二九条の四第二項(同条三項において準用する場合を含む。)又は同法三〇条の四(同法三〇条の五第一項において準用する場合を含む。)若しくは同法三五条の三の一九の規定に基づきローン提携販売業者又は包括信用購入あっせん関係販売業者、個別信用購入あっせん関係販売業者、包括信用購入あっせん関係役務提供事業者若しくは個別信用購入あっせん関係役務提供事業者に対して生じている事由をもって、商品の購入者又は役務の提供を受ける者はローン提供業者又は包括信用購入あっせん業者若しくは個別信用購入あっせん業者に対抗することができることを明記しなければならない(規則四三条一項七号)。

(ウ) 書面の内容を十分に読むべき旨の記載

概要書面には、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載しなければならない(同法施行規則四三条二項)。

イ 契約書面の交付義務

(ア) 交付義務

業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引についての契約(業務提供誘引販売契約)を締結した場合において、その業務提供誘引販売契約の相手方がその業務提供誘引販売業に関して提供され、又はあっせんされる業務を事業所等によらないで行う個人であるときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、次の事項についてその業務提供誘引販売契約の内容を明らかにする書面(以下「契約書面」という。)をその者に交付しなければならない(特商法五五条二項)。

一号 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容に関する事項

二号 商品若しくは提供される役務を利用する業務の提供又はあっせんについての条件に関する事項(一週間、一月間その他の一定の期間内に提供し、又はあっせんする業務の回数又は時間その他の提供し、又はあっせんする業務の量〔規則四五条二項表一号ロ〕、業務提供利益の計算の方法〔同号ニ〕、業務提供利益の支払の時期及び方法〔同号ヘ〕など)

三号 当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項(商品の購入については、その購入先、数量、金額、代金の支払の時期及び方法並びに当該商品の引渡しの時期及び方法、規則四五条二項表二号イ)

四号 当該業務提供誘引販売契約の解除に関する事項

五号 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項(商品名及び商品の商標又は製造者名〔規則四四条四号〕など)

(イ) 割賦販売法上の抗弁の接続に関する事項の明記

契約書面は、同項五号の主務省令で定める事項として、割賦販売法二条二項に規定するローン提携販売の方法又は同条三項に規定する包括信用購入あっせん若しくは同条四項に規定する個別信用購入あっせんに係る提供の方法により商品の販売又は役務の提供を行う場合には、同法二九条の四第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)又は同法第三〇条の四(同法三〇条の五第一項において準用する場合を含む。)若しくは同法三五条の三の一九の規定に基づきローン提携販売業者又は包括信用購入あっせん関係販売業者、個別信用購入あっせん関係販売業者、包括信用購入あっせん関係役務提供事業者若しくは個別信用購入あっせん関係役務提供事業者に対して生じている事由をもって、商品の購入者又は役務の提供を受ける者はローン提供業者又は包括信用購入あっせん業者若しくは個別信用購入あっせん業者に対抗することができることを明らかにしなければならない(特商法五五条二項五号、規則四四条六号)。

(ウ) 契約の解除に関する事項の記載

契約書面は、契約の解除に関する事項について、①業務提供誘引販売取引の相手方からの契約の解除ができない旨が定められておらず、②業務提供誘引販売業を行う者の責に帰すべき事由により契約が解除された場合における業務提供誘引販売業を行う者の義務に関し、民法に規定するものより業務提供誘引販売取引の相手方に不利な内容が定められていないものでなければならない(規則四五条一項表二号イ、ロ)。また、契約書面は、その他の特約に関する事項について、法令に違反する特約が定められていないものでなければならない(同表三号)。

業務提供誘引販売契約の相手方は、契約書面を受領した日から起算して二〇日を経過したときを除き、書面により当該契約を解除することができる。相手方が、業務提供誘引販売業を行う者が当該契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は業務提供誘引販売業を行う者が威迫したことにより困惑し、これらによって当該二〇日間を経過するまでに契約を解除しなかった場合には、相手方が、当該業務提供誘引販売業を行う者が主務省令で定めるところにより特商法五八条一項の規定による当該契約の解除を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して二〇日を経過したときを除き、相手方は、当該契約を解除することができる(同項)。

(エ) 書面の内容を十分に読むべき旨の記載

契約書面には、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載しなければならない(規則四五条三項)。

三  争点

(1)  本件処分の国家賠償法上の違法性

ア 本件処分が特商法五七条一項の要件を欠くものであったか否か。

イ 本件処分が行政手続法に違反するものであったか否か。

ウ 本件処分が裁量権を逸脱又は濫用して行われたものであったか否か。

(2)  処分行政庁における故意又は過失の有無

(3)  原告の損害及び本件処分との因果関係の有無

四  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)ア(本件処分が特商法五七条一項の要件を欠くものであったか否か。)について

(原告の主張)

以下のとおり、本件処分は、業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがないにもかかわらずされたもので、特商法五七条一項の要件を欠き、違法である。

ア 原告による特商法違反行為について

原告について、平成二〇年四月ころから平成二二年四月ころまでの間において、特商法違反の行為が一部存在したことは概ね認めるが、本件処分前にはすでに改善を終えていた。

(ア) 特商法五四条(誇大広告等の禁止)違反について

原告は、同業他社と異なり、会員からの中間搾取を避けるため、原告経由で会員へ報酬を支払うことは原則として行っておらず、請負先企業から直接会員へ報酬が支払われる仕組みを採っている。そのため、直近における会員の正確な収入を把握することは困難であるが、全会員の一割程度については原告経由で支払を受けているため、全会員の収入を把握していないわけではない。

被告が指摘する本件処分直前の平成二二年八月一日付け広告においては、月収例につき金額表示があるが、この記載は、改善前の旧広告表示基準によるものであり、同年七月末の出稿によるものが、同年八月の第一週目に出たものである。

原告は、同年八月一日からは、広告において金額例を表示する場合は、会員の平均収入金額を明記し、基となる実績年度を記入することとし、これが不可能である場合は金額表示をしない旨の改善を行っており、実際に、同日から発注した同月八日以降の広告では、かかる改善内容に正確に従い、金額表示を行っていない。

原告は、同月二日付け弁明書において、処分行政庁に対し、かかる改善を行ったことを説明していたが、処分行政庁は、広告の改善の経緯を無視し、事実を直視することなく、同月六日に本件処分を強行したものである。

(イ) 特商法五三条(広告表示義務)違反について

被告が平成二二年八月一日付け広告について主張する違反事項は、特商法上重要ではないものであり、失当である。

①商品名について、原告の広告には、メーカー等の記載はないが、軽自動車であることは表示しており、また、メーカーもほぼ分かるような軽自動車の写真を掲示しており、限られた紙面の広告表示としては不十分とはいえない。

②業務の内容について、原告は、業務の内容として、「紹介する仕事/ルート配送、宅配、スポット・チャーター配送」などと明記している。

③特定負担についても、車を購入する場合は、入会者の希望もあり広告段階で具体的金額を特定することは困難な場合があるので、「新車購入費用」の具体的金額の表示は、表示できればするし、表示できなければしないこととしている。

④業務の提供条件やあっせん回数・報酬条件についても、前記のとおり、報酬の条件などについて広告表示上の改善を行っている。

⑤原告の会社名称のほか、広告を見る者の地元の営業所の住所、電話番号を記載しており、さらには原告のホームページアドレスも表示している。

(ウ) 特商法五五条一項(概要書面交付義務)違反について

そもそも概要書面については、契約書面と違って特商法において具体的な記載事項が定められておらず、特商法上の重要性は低い。

原告は、平成二一年一二月からは全国の営業所において概要書面を交付しており、その後も指導に従って記載を改訂したものを、平成二二年七月二六日から使用している。

被告が原告の同年八月二日付け弁明書添付の概要書面について指摘する点については、①書面の内容を十分に読むべき旨の赤枠・赤字の記載は、規則上も重要性は低く、また、原告は、実際に業務提供誘引販売に伴う特定負担をしようとする者に対しては、概要書面交付の際の口頭説明を行うとともに、「入会契約書」を示してその冒頭にある赤枠赤字の記載を示して注意喚起している。また、②割賦販売法の抗弁権接続についても、要するに、原告に対する対抗事由がある場合にローン提携販売業者等にもその事由をもって対抗できることは理解できる程度の記載がなされており、実際にもこの条項を原因として消費者との間に紛争が生じた事実は全くない。

(エ) 特商法五五条二項(契約書面交付義務)違反について

原告は、平成二一年一二月以降、契約書面の改訂を行っており、法に照らして不十分な点を補った上、改訂版を平成二二年七月二六日から使用している。

被告が同年八月二日付け弁明書添付の契約書面について主張する違反事項は、以下のとおり、特商法上重要ではないものであり、失当である。

①中古車の商品名等については、一台一台に異なる属性があり、入会契約前に入会希望者との間に何らの法的関係のないときに、これを特定して入会契約をすることは困難である。原告は、入会者が中古車を希望する場合は、契約概要書及び入会契約書において、「指定車両等の販売斡旋」が業務内容であることを示した上、「中古車持込の基本規定」として必要最低限の中古車の仕様(積載能力、色及び車体形状)について特定し、加えて、「中古自動車販売業者リスト」を添付して埼玉県内における会社を掲示し、中古車を出来る限り特定している。

②業務の提供・あっせんの条件についても、原告は、入会契約書において、スポット配送(チャーター便)、宅配(企業専門の配送は商業便)、ルート配送、といった配送種類別に運送業務の内容、回数、分量、請負料金(収入)等を出来る限り細かく説明している。また、原告は、標準的な月収等を記載して個人個人の具体的運送回数等の記載のないことを補っているが、当該月収等は幅のある金額によって、一定の条件を設定し、地域差等によって金額が異なる旨を示して表示し、入会者の希望する業務内容などの全てを満たすものとは限らない旨も記載して、入会者に誤解のないよう配慮している。

③割賦販売法の抗弁の接続についても、原告による記載は法律上の要件を十分に満たすものである。また、消費者からみると、要は原告に対する抗弁事由があるときは、ローン提携販売業者等にもその事由をもって対抗できることは理解されているのであるから、これをもって処分理由の一つとすることは全く失当である。

④クーリング・オフ妨害に関する記載は、入会者に解除前の通知義務を課したものではなく、原告が契約解除に関して不実のことを告げたこと等により解除できなかったことを通知してもらわないと、原告の方ではそのような事実があったことが分からないので、入会者に通知してもらい、通知が来たことを認めて入会者が解除できる旨の原告の書面を入会者に渡し、入会者が受領してから二〇日以内に解除できることを明示したものであり、不当なものではない。また、原告は、消費者保護のために、葉書でのクーリング・オフ文例も記載し、仕事の紹介がなされない場合の退会についても条文を設けており、法が求める以上の記載も行っている。

イ 過去の違反行為に対する是正措置について

そもそも、過去の違反行為に対する是正措置を行うことは、弁明の機会の付与や本件処分の原因としては何ら挙げられていない。

また、かかる是正措置を求めているのは、全国の都道府県中、被告のみである。

被告は、業務提供誘引販売取引に当たらない場合の者や、十分に実収入が得られている者、あるいは、現状に満足している者など、会員は多種多様であるという事実を無視し、違反広告によって全ての消費者の利益が害されているという一方的な決め付けをしている。

被告の主張は、一般的抽象的に、過去に法に反する事実があれば、具体的な考察を一切せず、直ちに「相手方の利益を著しく害するおそれ」があると断罪するもので、失当である。

ウ 行政指導に対する原告の態度について

原告は、被告のほか、神奈川県や北海道においても行政指導を受け、これに誠実に対応し、広告表示や概要書面・契約書面の記載について改善を行った。

実際、神奈川県においては、個別具体的な指導がなされ、強制的な処分は下されずに解決している。

ところが、処分行政庁の担当者からは、指導とは名ばかりの強権的な言動を受け、個々の具体的な指導はなく、原告の取引が業務提供誘引販売取引に該当することを認めるか認めないかの一点張りであった。そもそも、特商法における業務提供誘引販売取引の定義自体が難解であって、原告が、その営業活動が同取引に該当することを認めなかったとしても、原告のみを責めるのは酷に過ぎる。

エ 弁明書・弁明補充書提出時点での原告による改善の事実

平成二二年八月二日付け弁明書提出時において、原告は、前記のとおり広告表示基準を改善していたもので、実際に、弁明書提出後の広告においては、月収例につき金額が表示されていない。

また、概要書面や契約書面にも、前記のとおり違反はなかったものである。

オ 原告が改善をなし終えていたこと

以上のとおり、本件処分時においては、原告は、被告から指摘された違反事実については全て改善を終えていたものであり、処分行政庁は、原告の誠実な改善に向けての努力と結果を無視し、本件処分を一方的に行ったのである。

(被告の主張)

以下の事実を総合すれば、本件処分時において、業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあったことは明らかであり、本件処分は、特商法五七条一項の要件を充足し適法である。

ア 原告による特商法違反行為の存在

原告の営業活動には、平成二〇年四月ころから平成二二年四月ころまでの間において、特商法五四条、五三条、五五条一項及び同条二項違反の事実があり、多数の相談・苦情が寄せられていたものであり、その後も、次のとおり違反行為が継続された。

(ア) 特商法五四条(誇大広告等の禁止)違反

原告は、被告による行政指導や調査手続が進行している事態を十分に認識し、かつ、被告から特商法違反事項が具体的に指摘されていたにもかかわらず、その後も、平成二二年四月四日付け広告、七月一二日付け広告、同月二五日付け広告、八月一日付け広告などに見られるように、違反広告の掲載を継続した。

また、原告は、平成二二年六月三〇日付け差し替え理由書の提出を通じて、大半の会員の収入を把握していないこと、したがって会員の平均的収入に基づく報酬月額の見込みを表示する合理的根拠を有しないことを認識していたにもかかわらず、その後も合理的根拠のない報酬月額の表示を継続した。

現に、原告の平成二二年八月一日付け広告には、「現況月収例(完全出来高制)。二五万~三五万円以上可能。(二〇〇九年度の実績を基にしています)」と、合理的な根拠もなく具体的な収入見込額と表示根拠を表示しており、特商法五四条に違反するものであった。

(イ) 特商法五三条(広告表示義務)違反

前記のとおり原告は違反広告の掲載を継続していたところ、平成二二年八月一日付け広告も、次のとおり複数の違反が認められた。

①商品名として、軽自動車の写真のみが記載されており、軽自動車名の名称の記載が明らかに欠けている。

②役務の種類として、「a連合会が配送業務を紹介します。」、「(紹介する仕事/ルート配送、宅配、スポット・チャーター配送)」と記載されているが、いかなる内容の業務を提供するのか具体性を欠く。

③特定負担に関する事項について、「三八万一〇〇〇円(諸費用含む)+新車購入費、※紹介料、月々売上手数料は一切頂きません。(月々一六〇〇〇円{税込}のみ)」などと記載されているが、新車購入の代金額の記載が全くない。

④業務の提供条件やあっせん回数・報酬条件として、「仕事はa連合会が紹介します。専属、長期契約の固定得意先を紹介します。」という内容があるにとどまり、消費者が特定するに足りる具体的かつ十分な記載がなされていない。

⑤原告の本社住所・電話番号の記載がなく、支店住所・電話番号及びフリーダイヤルのみが記載されている。

(ウ) 特商法五五条一項(概要書面交付義務)違反

原告の平成二二年八月二日付け弁明書添付の概要書面についても、次のとおり複数の違反が認められる。

①書面の内容を十分に読むべき旨の赤枠・赤字による記載が欠如している。

②割賦販売法の抗弁の接続に関する事項につき、原告との間で抗弁事由があるときに、クレジット業者との間での契約が当然に解除されるかのような記載があるが、実際には法律上当然に解除されることはないのであるから、消費者に誤解を生じさせる不正確な記載である。

(エ) 特商法五五条二項(契約書面交付義務)違反

原告の平成二二年八月二日付け弁明書添付の契約書面についても、次のとおり複数の違反が認められる。

①中古車の場合に関し、商品名及び商標又は製造者名の記載がなく、その購入先、金額及び車両の引渡し方法に関する事項も記載がない。

②業務の提供・あっせんの条件につき、一見すると、業務の提供・あっせんの条件を詳細に記載しているように見えるが、実際に提供される運送業務の回数・分量、報酬の支払時期・方法の記載がない。

③割賦販売法の抗弁の接続に関する事項につき、前記のとおり、原告との間で抗弁事由があるときに、クレジット業者との間での契約が当然に解除されるかのような記載があるが、抗弁の接続の法的効果の説明として不正確であり、契約者に誤解を招くおそれがある。

④クーリング・オフ妨害に関する事項につき、原告の妨害によって消費者が契約解除を行うことができなかったときは、「乙(消費者)はその旨を甲(原告)に通知するものとし、これを認めて契約解除ができる旨の甲の書面を受領してから二〇日以内に限り、乙は書面により本契約を解除できる」との記載があるが、契約者側の事前の通知や原告の認定などの手順が必要であるかのようにも解される余地があるもので、クーリング・オフ制度の趣旨に反する記載である。

イ 業務提供誘引販売取引に該当することを認めない態度

原告に関する相談・苦情は、前記のとおり以前から多数寄せられていたが、原告は、その相談事案への対応等において、そもそも業務提供誘引販売取引に該当する取引を行っていることを認めようとしなかった。

被告による行政指導に対しても、原告は、当初、業務提供誘引販売取引には該当しない旨の見解を繰り返し、その後も、改正後の特商法が平成二一年一二月一日に施行された以降の取引についてのみ、業務提供誘引販売取引に該当することを前提とするなど、不合理な対応を行った。

こうした原告の態度から、被告は、もはや任意の行政指導では特商法の適用を前提とした自主的な法令遵守の実現は困難であると判断し、特商法上の措置に着手したのである。

ウ 過去の多数の違反行為に対し是正行為を講じていないこと

原告は、前記のとおり平成二〇年四月以降違法な広告の掲載を継続していたところ、これら多数の違反広告の影響を除去するような措置は一切とっておらず、平成二二年八月二日付け弁明書及び同月三日付け弁明補充書においても、過去の違反行為の影響に関する是正措置については一切記載がなかった。

また、原告は、法定記載事項の要件を満たす概要書面や契約書面を交付しておらず、法定記載事項を満たす書面を改めて交付するといった是正措置は全くとっていないし、上記弁明書及び弁明補充書においてもそのような措置を講ずる記載はなかった。

エ 弁明書・弁明補充書の内容を踏まえても違反行為が存在していた事実

原告の平成二二年八月二日付け弁明書添付の新広告基準においては、月収例の金額表示について、前年度の実績を基に表示することを原則とするかのように記載しているが、原告は、そもそも大半の会員の平均月収を把握していなかったのであるから、広告に具体的な収入見込額を記載することはおよそ不可能であったはずである。それにもかかわらず、上記のような記載のある広告基準を設けたことは、各営業所の判断により収入金額の表示を継続することを事実上容認していた疑いがある。

また、上記新広告基準においても、①軽自動車の購入をあっせんする場合の商品名の表示がない、②役務の種類に関する記載が具体性を欠く、③特定負担として軽自動車の購入代金が欠けている、④あっせん回数・報酬条件の記載がない、⑤原告の本社住所・電話番号の記載がない、⑥上記のとおり収入の見込みが不合理なものであるなど、複数の広告表示義務違反が認められる。

さらに、上記弁明書添付の概要書面及び契約書面についても、前記のとおり複数の違反が認められる。

オ 改善が不十分なまま改善をなし終えたと主張する態度

原告は、平成二二年八月二日付弁明書は、原告が指導の趣旨に従い全面的改善をなし終えた旨記載されているが、上記で述べたとおり実際には違反行為を継続させており、違反事実の改善も不十分なものであって、原告が違反事項を自主的に改善する蓋然性があるとは到底認めることはできなかった。

(2)  争点(1)イ(本件処分が行政手続法に違反するものであったか否か。)について

(原告の主張)

行政手続法一二条、一四条によれば、行政庁は、具体的な処分基準を定め、これを公にしておくよう努めるとともに、不利益処分をする場合にはその理由を示さなければならない。また、行政庁は、処分の原因となった事実や根拠となった法律に加えて、処分基準の適用関係を示さなければならない。最高裁判所平成二三年六月七日第三小法廷判決・民集六五巻四号二〇八一頁によっても、処分の原因となった事実や根拠となった法律に加えて、処分基準の適用関係が示されなければならないとされる。

しかるに、処分行政庁は、本件処分の発動に際して、処分基準について原告に全く明らかにしておらず、本件処分は行政手続法一二条、一四条に反し違法である。

(被告の主張)

争う。本件処分につき、行政手続法一二条、一四条違反はない。

被告では、特商法五七条一項に基づく「業務提供誘引販売取引を行う者に対する取引停止命令」に関しては、処分基準を公にすることにより脱法的な行為が助長されるおそれがあるため、公にできないという決定を行っており、かつ、この決定を公開している。また、同項の業務停止命令は、処分の根拠となる法令違反行為が具体的な規定として同項に明記されている。

(3)  争点(1)ウ(本件処分が裁量権を逸脱又は濫用して行われたものであったか否か。)について

(原告の主張)

本件処分は、次のとおり裁量権の逸脱・濫用があり違法である。

ア 事実誤認・考慮すべき事項の不考慮による裁量権の逸脱・濫用

本件処分は、原告による改善の事実を認めることなく行われたものである。

すなわち、原告は、処分行政庁に対し、平成二二年八月二日付け弁明書や同月三日付け弁明補充書を提出していたところ、同書面では、予定されている処分について特商法五七条一項が定める要件を欠いていることや、原告が広告表示や概要書面、契約書面の記載を改善済みであることなどが報告されていた。

また、改善後の新広告基準に基づき、同月八日付けでなされた広告には、実際に月収例につき金額表示がなされていない。

しかし、処分行政庁は、上記弁明書、弁明補充書が提出されてからわずか数日後に本件処分を下したもので、これら書面の主張内容について検討した痕跡はなく、また、改善後の広告表示も確認しておらず、原告による改善の事実を考慮することなく、事実を完全に誤認して本件処分を行ったものである。

イ 比例原則違反

一般に、行政権の発動は、対象となる障害の性質、程度に比例する最小限度のものでなければならないところ、本件処分は、明らかに比例原則に違反する過剰な侵害として違法である。

すなわち、そもそも原告は、契約を締結した会員との間で長年にわたり営業活動をしているのであって、クレームをつける者はほとんどいなかった。また、原告は、他県からも被告と同一内容について行政指導を受けたものであるが、神奈川県においては、個々具体的な指導がなされ、これに誠実に従った結果、強制的な処分は一切なしということで解決された。ところが、処分行政庁による本件処分は、神奈川県における行政指導とあまりにかけ離れている。原告は、本件処分によって、倒産あるいは解散に追い込まれようとしており、本件処分は、過酷な処分、過剰な侵害として比例原則に反している。

ウ 平等原則違反

前記のとおり、神奈川県においては、実質的な指導の下、誠実に改善をなした原告の対応が評価され、何の処罰もなく解決がなされている。被告の取扱いは、神奈川県とは全く違い、終始強権的で、具体的な指導はなく、一気に本件処分を発動したものであって、平等原則に著しく反する。

エ 信義誠実原則違反

処分行政庁の原告に対する取扱いは、消費者保護の美名の下、終始強権的で、会社の実情も十分に聴取せず、実質的な話合いや具体的な指導もせず、突然本件処分を行ったもので、行政に対する信頼を裏切り、行政の信義誠実の原則に反する。

(被告の主張)

次のとおり、本件処分につき裁量権の逸脱・濫用はない。

ア 事実誤認・考慮すべき事項の不考慮による裁量権の濫用について

前記のとおり、本件処分については考慮事項となる基礎事実にはいずれも事実誤認がない。また、被告においては、弁明書及び弁明補充書の記載内容も検討した上、平成二二年八月一日付け広告の表示なども考慮して、本件処分を下したもので、原告が今後も違法行為を繰り返すおそれがあると判断することが十分に合理的であった。

イ 比例原則違反について

そもそも行政権限発動における比例原則の問題と、被告と神奈川県の対応の比較の問題とは別の事項であって、主張自体失当である。また、神奈川県による行政指導と被告による行政指導は、その対象が異なり、単純な比較はできない。

原告に対する相談件数は、全国的に見ても毎年多数件存在していたもので、クレームをつける者が少なかったとの原告の主張は誤りである。

ウ 平等原則違反について

神奈川県と被告では原告の営業実態に関する把握内容や処理方針が異なるため、これを比較すること自体失当である。また、前記のような被告の行政指導に対する原告の態度や、違反広告の継続などに照らして、被告としては、原告が特商法違反事実を任意に改善することは見込めないものと判断し、本件処分に至ったものである。

エ 信義誠実原則違反について

前記のとおり、被告としては、原告が特商法違反事実を任意に改善することは見込めないものと判断し、本件処分に至ったものであり、信義則違反となるような事情は全く存在しない。

(4)  争点(2)(処分行政庁における故意又は過失の有無)について

(原告の主張)

処分行政庁及びその公務員は、原告提出の弁明書及び弁明補充書の必要十分な調査又は検討をせず、適切な行政指導を行わず、原告によって改善された広告、概要書面及び契約書面の表示を確認することもなく、故意に、又は過失によって、違法に本件処分をなしたものである。

(被告の主張)

争う。

(5)  争点(3)(原告の損害及び本件処分との因果関係の有無)について

(原告の主張)

原告は、違法な本件処分によって、営業所閉鎖及びこれに伴う社員の解雇をせざるを得なくなり、また、会員の解約などに伴う甚大な損害を被ったもので、かかる損害は次のとおり合計二億一二九五万〇六五〇円となる。

ア 全国の会員の解約による損害 四一七六万〇九〇〇円

イ 解雇社員の退職金 五六九四万六五九一円

ウ 業務停止期間中の売上減 三七九九万四一一〇円

エ 業務停止期間中の雑出費 一二二一万四九三八円

オ 業務停止期間におけるホームページ上の誤情報による損害 四四六七万四九六一円

カ 弁護士費用 一九三五万九一五〇円

(被告の主張)

争う。本件処分はそもそも適法であり、また、原告が主張する損害は本件処分の結果であるとはいい難い。

第三当裁判所の判断

一  認定事実

証拠<省略>によれば、次の事実が認められる。

(1)  原告に関する相談内容

独立行政法人国民生活センターは、原告の業務提供誘引販売取引に関して相当数の相談を受け付けていたところ(平成二〇年度合計一二〇件、平成二一年度合計二三一件)、平成二二年度の同年四月から七月までの間においても、合計五八件の相談を受け付け、これら相談者の多くが、説明されたとおりの仕事を紹介されない、広告に表示されていた収入を得られない、原告が解約に応じない(入会金等の返還に応じない)などの苦情を述べていた。

(2)  原告による平均従事月収の把握状況

原告は、業務提供誘引販売取引の相手方に対し、運送業務のあっせんとして顧客となる企業を紹介していたところ、当該運送業務の報酬に関しては、当該企業から当該相手方に直接支払われることとしていたため、これら相手方の大多数につき、その平均従事月収を把握できていなかった。

原告は、処分行政庁から、業務提供誘引販売取引の広告表示について、裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求められ、平成二二年六月三〇日付けで提出した「様式第五号書式差し替え理由書」と題する書面(前記前提事実(4)イ)において、上記平均従事月収を把握できていなかった旨報告した。

(3)  平成二二年八月一日付け広告の記載

原告が、平成二二年八月一日付けで、埼玉県さいたま市、熊谷市、加須市、川口市、川越市、東松山市、草加市、越谷市、春日部市、上尾市等において、その業務提供誘引販売取引につき行った各広告には、概ね以下の記載に加え、各営業所の住所、電話番号及び担当者氏名が記載され、また、白無地ワンボックスタイプの自動車の写真が表示されているものもあった。

「創業二五年信頼と実績 a連合会」

「軽自動車で独立運送業」「仕事はa連合会が紹介します!」「a連合会が配送業務を紹介します!」

「仕事の内容、稼働日数、時間、売上相談可。」「専属、長期契約の固定得意先を紹介。」

「紹介する仕事/ルート配送、宅配、スポット・チャーター配送」

「勤務地フリー」

「現況月収例(完全出来高制)」「二五万~三五万円以上可」「(二〇〇九年度の実績を基にしています)」「(二〇一〇年度の実績を基にしています)」

「売上は全てあなたの収入になります。」「売上からのロイヤリティーはいただきません。月額固定会費一六、〇〇〇円(税込)のみ」「紹介料・月々売上手数料は一切頂きません。」

「新車購入の開業 三八一、〇〇〇円(諸費用含)+新車購入費」「軽車両持込の開業 五九一、〇〇〇円(諸費用含)」「開業資金 開業資金分割可(応相談) 五九一、〇〇〇円(各種補償制度など全諸費用含) ※配送車両をご用意下さい。」

「運送事業コンサルティング a連合会(X株式会社)」

「http://<省略>」

(4)  契約に関する書面の記載

ア 原告の平成二二年八月二日付け弁明書(前記前提事実(5)イ)に添付されていた契約概要書の記載は、概ね以下のとおりである。

(ア) 書面の内容を十分に読むべき旨の赤枠・赤字の記載はなかった。

(イ) 「抗弁権の接続」(第九項)として、「入会者は、X(株)(a連合会)との間でクーリング・オフ、入会者の責によらない取り消し、瑕疵担保責任による解除などの抗弁事由があるときは、X(株)(a連合会)の指定する車輌販売のクレジット業者に対してその事由を対抗することができ、この場合その車輌のクレジット購入契約は解除される。」と記載されていた。

イ 同弁明書に添付されていた入会契約書の記載は、概ね以下のとおりである(「甲」は原告であり、「乙」は当該業務提供誘引販売取引の相手方である。)。

(ア) 原告が紹介する業務(三条五項)として、以下の事項が記載されていた。

a スポット配送(チャーター便)

「毎回届け先が異なることが多く、短距離から長距離まで対応する配送」

「毎回、積込み場所と届け先が異なる配送の場合」「料金の請求は基本的に距離計算で行う。(走行距離×何円)基本料金/五〇kmまで一km一八〇円、五一kmから一〇〇kmまで一km一六〇円、一〇一km以上一km一一〇円、一便の最低請負金額を三〇kmまで一律基本料金と規定する場合が多い。(地域差、季節差、荷種、時間帯、請負先企業などにより全て異なる)」

「配送センターや工場などの決まった積込み場所から届け先が異なる配送の場合」「料金の請求は基本的に走行距離で行う。(走行距離×何円) 基本料金/五〇kmまで一km一八〇円、五一kmから一〇〇kmまで一km一六〇円、一〇一km以上一km一一〇円、一便の最低請負金額を三〇kmまで一律基本料金と規定する場合が多い。(地域差、季節差、荷種、稼働日数、稼働回数、時間帯、請負先企業などにより金額は異なる)」

「スポット配送(チャーター便)の標準月収/約二〇〇、〇〇〇円~約四〇〇、〇〇〇円(一日一~三便の配送で二〇日~二五日稼働する場合とし、地域差、配送経験差、季節差、荷種、稼働日数、稼働回数、時間帯、請負先企業などにより金額は異なる)」

b 宅配(企業専門の配送は商業便)

「荷物を一定のエリア内で個人宅や企業に配送する」

「請負料金の基本は一個何円(個数×何円)になるが、一台一日何円(稼働日数×何円)の場合もある。基本料金/一個一五〇円~二三〇円、一台/一日一〇、〇〇〇円~一七、〇〇〇円、一台/一日最低保証六、〇〇〇円~八、〇〇〇円に一定個数以上は一個一五〇円~二三〇円を加算(地域差、配送経験差、季節差、荷種、稼働時間・時間帯、請負先企業などにより金額は異なる)」

「宅配、商業便の標準月収/約二〇〇、〇〇〇円~約四〇〇、〇〇〇円(一日六〇個~一〇〇個の配送および二二日~二五日稼働する場合とし、地域差、配送経験差、季節差、荷種、配送個数、時間帯、請負先企業などにより金額は異なる)」

c ルート配送

「企業、商店で決められた顧客先に配達する」

「請負料金の基本は、一コース/一日何円、一台/一日何円(稼働日数×何円)、一台/一ヶ月何円の固定金額の場合もある。基本料金/時給一、六〇〇円~二、〇〇〇円単価で請負金額を算出(地域差、稼働時間・時間帯、配送件数、走行距離、荷種、請負先企業、付帯業務などの諸条件の違いにより金額は異なる)」

「ルート配送の標準月収/約二三〇、〇〇〇円~約三八〇、〇〇〇円(六時間~一〇時間の稼働時間及び二〇日~二五日稼働する場合とし、地域差、配送経験差、季節差、荷種、配送個数、時間帯、請負先企業などにより金額差が生じる)」

(イ) 「中古車輌持込の基本規定」(七条二項)として、「運輸支局に運送事業の届出を行うためと共に甲のメリット及び特長を打ち出した企業開拓を行うため、必要最小限の中古持込車輌の仕様を下記(1)(2)(3)の通り規定する。又、乙が運送車輌を持込む場合、甲は乙の要望に沿い車輌仕様や車輛販売業者(契約概要書添付)の紹介などの助言を行うが、本規定以外の仕様や走行距離・年式・車輌メーカー・車輌の購入価格などの指定をしない。(1)軽貨物車輌で三五〇キロの積載能力のある軽自動車 (2)車体の色は白を基本とする (3)車体形状はワンボックス・パネルバン・パネル幌車であること」と記載されていた。

(ウ) 「無条件の契約解除[クーリング・オフ]」(一一条五項)として、「第一項の契約解除に関して、甲が不実を告げたことにより誤認し、又は、威迫したことにより困惑し、よって第一項に定める期間中に乙が契約解除を行うことができなかったときは、乙はその旨を甲に通知するものとし、これを認めて契約解除ができる旨の甲の書面を受領してから二〇日以内に限り、乙は書面により本契約を解除できる」と記載されていた。

(エ) 「抗弁権の接続(一二条)」として、「甲と乙との間でクーリング・オフ、乙の責によらない取り消し、瑕疵担保責任による解除などの抗弁事由があるときは、甲の指定する車輌販売のクレジット業者に対してその事由を対抗することができ、この場合その車輌のクレジット購入契約は解除される。」と記載されていた。

(5)  処分行政庁の調査及び本件処分

処分行政庁は、原告からの資料提出や関係機関からの情報提供を受け、また独自の調査により、前記(1)ないし(4)の各事実(ただし、前記(3)イの事実を除く。)を把握した上、原告に対し、平成二二年八月六日付けで、本件処分をした。

(6)  平成二二年八月八日付け広告の記載

原告が、本件処分後の同月八日付けで、前記アと同地域において、その業務提供誘引販売取引につき行った各広告には、月収例として「完全出来高制」とされ、「二五万~三五万円以上可」、「(二〇〇九年度の実績を基にしています)」「(二〇一〇年度の実績を基にしています)」といった金額の表示はされていなかったが、それ以外は概ね前記(3)の同月一日付け広告とほぼ同様の事項の記載(写真を含む。)があった。

二  争点(1)ア(本件処分が特商法五七条一項の要件を欠くものであったか否か。)について

(1)  特商法五七条一項は、業務提供誘引販売取引に対する業務停止命令の要件として、①業務提供誘引販売業を行う者が、②特商法五三条、五四条又は五五条の規定に違反した場合において、③業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認められることを規定する。

これらの要件のうち、原告が本件処分当時、業務提供誘引販売取引に該当する取引を行っていたことは前記前提事実(1)アのとおりであり、原告は、上記①の業務提供誘引販売業を行う者に該当する。

(2)  特商法五四条、五三条及び五五条違反について

ア 特商法五四条(誇大広告等の禁止)違反について

原告の業務提供誘引販売取引に関しては、平成二二年四月から同年七月までの間においても、相当数の相談者が、広告に表示されていた収入を得られなかった旨の苦情を述べていたこと(前記一(1))、原告は、業務提供誘引販売取引の相手方の大多数につき、その平均従事月収を把握できていなかったこと(前記一(2))、原告は、当該取引に係る平成二二年八月一日付け各広告において、「現況月収例(完全出来高制)」「二五万~三五万円以上可」「(二〇〇九年度の実績を基にしています)」「(二〇一〇年度の実績を基にしています)」と記載していたこと(前記一(3))からすると、原告は、その業務提供誘引販売業に係る業務提供利益について、実際には広告に表示されたとおりの月収を得られる見込みが低かったにもかかわらず、上記八月一日付け各広告において、著しく高額な月収額を表示していたことが推認される。

そして、原告は、処分行政庁に対しても、上記平均従事月収を把握できていなかった旨報告し、上記月収例の表示の裏付けとなる合理的な資料を何ら提出していない(前記一(2))のであるから、特商法五四条に違反する誇大広告をなしたものとみなされる(同法五四条の二、六八条、令一九条一項本文)。

イ 特商法五三条違反について

原告による平成二二年八月一日付け各広告は、以下の各点において、特商法五三条に違反している。

(ア) 商品の種類、商品名(特商法五三条一号、四号、規則四〇条三号)

上記各規定に基づく商品の種類及び商品名の表示は、一般人がいかなる商品であるかを理解し得る程度に具体的に表示する必要があるものと解されるところ、前記各広告には、商品である運送車両として、白無地ワンボックスタイプの自動車の写真が表示されていたことが認められるものの、それ以上に、自動車の種類や名称は記載されておらず(前記一(3))、当該広告を見る一般人が、いかなる自動車が販売されるのかを理解し得る程度に具体的な記載であったとはいえない。

(イ) 特定負担としての商品の購入金額(特商法五三条二号、同法施行規則四一条一項)

上記各規定によれば、業務提供誘引販売取引についての広告においては、商品の購入代金を明示しなければならないところ、前記各広告には、「新車購入の開業 三八一、〇〇〇円(諸費用含)+新車購入費」との記載があることが認められるものの、当該新車の購入代金は明示されていない(前記一(3))。

(ウ) 業務の提供条件としての業務の内容(特商法五三条三号、規則四一条二項一号)

上記各規定によれば、業務提供誘引販売取引についての広告においては、あっせんされる業務の内容を具体的に表示する必要があるものと解されるところ、前記各広告には、原告から紹介される業務として、「ルート配送、宅配、スポット・チャーター配送」との記載があることが認められるものの、それ以上に業務の内容が明らかになる記載はなく(前記一(3))、これら業務の内容が具体的に表示されているとはいえない。

(エ) 業務の提供条件としての業務のあっせん回数や報酬の条件(特商法五三条三号、規則四一条二項二号)

上記各規定によれば、業務提供誘引販売取引についての広告においては、業務の提供条件として一定の期間内に業務を提供し又はあっせんする回数、業務に対する報酬の条件を表示しなければならないところ、前記各広告には、「軽自動車で独立運送業」「仕事はa連合会が紹介します!」「仕事内容、稼働日数、時間、売上相談可。」「専属、長期契約の固定得意先を紹介。」などと記載されているものの、業務のあっせん回数や仕事の分量、報酬の支払条件や金額基準などは何ら記載されていない(前記一(3))。

(オ) 業務提供誘引販売業を行う者の氏名又は名称、住所及び電話番号(特商法五三条四号、規則四〇条一号)

前記各広告には、原告の名称として「X株式会社」と記載され、各営業所の住所、電話番号及び担当者氏名が記載されていたことが認められるものの、原告の本店所在地等の住所及び電話番号は記載されていない(前記一(3))。

ウ 特商法五五条一項違反について

原告が記載を改善した後の書面として、平成二二年八月二日付け弁明書に添付した契約概要書(前記一(4)ア)は、次の各点において、特商法五五条一項に違反している。

(ア) 書面の内容を十分に読むべき旨の記載(規則四三条二項)

上記規定によれば、概要書面には、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載しなければならないところ、前記契約概要書には、その記載はない(前記一(4)ア(ア))。

(イ) 割賦販売法上の抗弁の接続に関する事項の記載(規則四三条一項七号)

上記規定に基づき、概要書面に明記しなければならない事項は、前記本件に関連する法令の規定(5)ア(イ)記載のとおりであるところ、前記契約概要書記載の「抗弁権の接続」についての記載(前記一(4)ア(イ))は、規則四三条一項七号の内容を正確に記載したものではない。

また、割賦販売法上、商品の購入者等は、ローン提携販売業者等に対して生じている事由をもって、ローン提供業者等に対抗することができるにとどまり、ローン提供業者等との間の契約が当然に効力を失うものではない。上記契約概要書においては、入会者が原告に対し抗弁となる事由を有している場合に、入会者と車両販売者側との間の契約が当然に解除される旨記載されており、割賦販売法に基づく抗弁の接続の法的効果が誤って記載されている。

したがって、上記契約概要書の記載は、規則四三条一項七号に違反する。

エ 特商法五五条二項違反について

原告が記載を改善した後の書面として、平成二二年八月二日付け弁明書(前記一(4)イ)に添付した入会契約書は、次の各点において、特商法五五条二項に違反する。

(ア) 商品名等の記載

特商法五五条二項五号、規則四四条四号によれば、契約書面には、商品名及び商品の商標又は製造者名を明らかにしなければならず、また、同法五五条二項三号、規則四五条二項表二号イによれば、上記契約書面には、商品の購入先、数量、金額、代金の支払の時期及び方法並びに当該商品の引渡しの時期及び方法を記載しなければならないとされるところ、前記入会契約書の「中古車輌持込の基本規定」についての記載(前記一(4)イ(イ))は、中古車につき、その商品名及び商品の商標又は製造者名、商品の購入先、数量、金額、代金の支払の時期及び方法並びに当該商品の引渡しの時期及び方法が特定されているとはいえず、上記特商法、規則の各規定に違反するといえる。

この点、原告は、中古車の商品名等を特定することは困難であり、上記契約書においては出来る限りかかる商品名等を特定していた旨主張するけれども、中古車の販売あっせんも、原告による業務提供誘引販売取引に含まれていたものであり、中古車の販売あっせんを行い、当該中古車を特定させた後に、相手方との間で業務提供誘引販売取引に係る契約を締結すれば、前記入会契約書に商品名等を記載することが可能であったといえるから、上記主張は採用できない。

(イ) 業務の提供又はあっせんについての条件に関する事項

特商法五五条二項二号、規則四五条二項表一号ロ、ニ、ヘによれば、契約書面には、一週間、一月間その他の一定の期間内に提供し、又はあっせんする業務の回数又は時間その他の提供し、又はあっせんする業務の量、業務提供利益の計算の方法、業務提供利益の支払の時期及び方法を記載しなければならないとされるところ、前記入会契約書の記載(前記一(4)イ(ア))は、あくまで原告が紹介する業務についての一般的な内容を例示するものに過ぎず、一定期間内において提供又はあっせんされる業務の具体的な回数又は時間等は明らかになっていない。また、業務提供利益の計算方法についても、その基本例が示されているに過ぎず、特定されているとはいえないし、業務提供利益の支払の時期及び方法も記載されていない。

したがって、上記記載は、特商法五五条二項二号、規則四五条二項表一号ロ、ニ、ヘに違反する。

(ウ) 割賦販売法上の抗弁の接続に関する事項の記載(特商法五五条二項五号、規則四四条六号)

上記各規定に基づき、契約書面に明記しなければならない事項は、前記本件に関連する法令の規定(5)イ(イ)記載のとおりであるところ、前記入会契約書の記載(前記一(4)イ(エ))は、規則四四条六号の内容を正確に記載したものではない。

また、割賦販売法上、商品の購入者等は、ローン提携販売業者等に対して生じている事由をもって、ローン提供業者等に対抗することができるにとどまり、ローン提供業者等との間の契約が当然に効力を失うものではない。上記入会契約書においては、入会者が原告に対し抗弁となる事由を有している場合に、入会者と車両販売者側との間の契約が当然に解除される旨記載されており、割賦販売法に基づく抗弁の接続の法的効果を誤って記載されている。

したがって、上記入会契約書の記載は、規則四三条一項七号に違反する。

(エ) 契約の解除に関する事項の記載(規則四五条一項表二号イ、ロ、同表三号)

上記各規定によれば、契約書面には、契約の解除に関する事項について、業務提供誘引販売業を行う者の責に帰すべき事由により契約が解除された場合における業務提供誘引販売業を行う者の義務に関し、民法に規定するものより業務提供誘引販売取引の相手方に不利な内容が定められていないものでなければならず、また、上記書面は、その他の特約に関する事項について、法令に違反する特約が定められていないものでなければならないとされる。

また、特商法五八条一項によれば、業務提供誘引販売業者が契約の解除に関する事項につき不実のことを告げるなどしたため、当該業務提供誘引販売取引の相手方が、当初の制限期間内に契約を解除しなかった場合、当該相手方は、当該業者から当該契約を解除することができる旨の書面を受領した日から二〇日間を経過するまでの間に、当該契約を解除することができるとされるところ、前記入会契約書の記載(前記一(4)イ(ウ))は、原告が契約の解除に関して不実を告げたことなどによって相手方が当該契約を解除できなかった場合につき、相手方が特商法五八条一項に基づき当該契約を解除しようとする場合に、相手方に原告に対する通知を要求することによって、同項では必要とされていない解除前の手続を要求するものということができ、同項よりも相手方に不利な内容を定める特約として、規則四五条一項表三号に違反する。

(3)  業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれについて

ア 特商法は、業務提供誘引販売取引等の特定商取引を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護することなどを目的とし(一条)、業務提供誘引販売取引については同法五三条、五四条及び五五条の規定を設けて広告表示、概要書面及び契約書面の記載事項を規制し、業務提供誘引販売業を行う者がこれら規定に違反した場合には、取引の停止を命ずることができる旨を定めるとともに(五七条一項)、当該違反者を刑事罰に処することを定めている(七一条、七二条三号、七号)。

こうした特商法の規定内容によれば、同法五三条、五四条及び五五条の規定に違反する行為は、業務提供誘引販売取引の公正及びその相手方の利益を害する悪質な行為と評価することができるところ、原告は、平成二〇年四月ころから、上記各規定に違反する広告の表示、概要書面及び契約書面の交付を行っていたもので、消費生活課による行政指導を受けた後も、本件処分時に至るまで、かかる違反行為を継続して行っていたものである。

とりわけ、上記広告、概要書面及び契約書面の記載のうち、業務提供条件及び業務提供利益に関する記載は、相手方は原告との間で業務提供誘引販売取引に係る契約を締結するか否かを決するに当たって重要な判断要素となるものであったということができるところ、実際に、広告表示どおりの収入を得られず、説明された仕事も紹介されないなどの苦情を述べる相談者が相当数にのぼったことからして、原告による違反行為は、業務提供誘引販売取引の相手方の利益を著しく害する重大な違反であったというべきである。

そして、原告がかかる重大な違反を継続し、当該違反を是正することなく、処分行政庁に対しては、本件処分時に至るまで、広告、概要書面及び契約書面の記載につき十分な改善を行ったとの態度をとっていたことを併せ考慮すれば、原告が行政指導に応じて自主的にその業務内容を改善することはもはや期待できず、原告による違反行為を放置すれば、業務提供誘引販売取引の相手方のさらなる損害につながるおそれが高く、業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあったものということができる。

なお、前記一(6)、(2)イ、証拠<省略>に照らせば、本件処分後である平成二二年八月八日付け各広告においても、原告は、業務の提供条件としての業務の内容(特商法五三条三号、規則四一条二項一号)などの点について違反行為を継続していたこととなる。

イ 前記前提事実(5)イによれば、原告は、平成二二年八月二日付け弁明書において、処分行政庁に対し、広告表示における月収例の記載につき、会員の平均収入金額を明記するとともに基となる実績年度を記入することとし、これが不可能である場合には金額表示をしない旨の改善を行った旨主張していたことが認められる。

しかし、上記改善内容は、業務提供利益として平均収入金額を記載する余地を残しているところ、前記一(2)のとおり、原告は、あっせんした運送業務の報酬に関しては、業務提供誘引販売取引の相手方に紹介した企業から当該相手方に直接支払われることとしていたため、これら相手方の大多数につき、その平均従事月収を把握しておらず、広告表示として上記平均収入金額を記載する合理的根拠自体を欠いていたものである。そして、前記のとおり、原告は、消費生活課による行政指導を受けた後も重大な違反行為を継続させ、上記弁明書提出の直前になされた同月一日付け各広告においても、特商法の規定に違反する月収例金額を表示していたことや、上記弁明書においてもすでに十分な改善を行った旨の実態に反する主張を行っていたことなどを併せ考慮すれば、本件処分時において、原告がかかる合理的根拠のない月収例の金額表示を継続するおそれは、依然として存在していたものということができる。

したがって、原告が上記弁明書において主張した改善内容を考慮しても、業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがなかったということはできない。

(4)  以上によれば、本件処分は、特商法五七条一項の要件を全て満たし、当該要件の欠缺を理由として違法であったということはできない。

三  争点(1)イ(本件処分が行政手続法に違反するものであったか否か。)について

原告は、本件処分は、処分基準を原告に明らかにすることなく行われたもので、行政手続法一二条、一四条に反し違法である旨主張する。

行政手続法一二条一項は、行政庁が処分基準を公にしておくよう努めなければならない旨規定し、同法一四条一項本文、同条三項は、行政庁が、不利益処分をする場合に、当該不利益処分の理由を書面により示さなければならない旨規定する。

しかし、同法一二条一項は、処分基準を公にすることにより脱法的行為が助長される場合などを想定して、処分基準を公にすることにつき努力義務を設定したにとどまるものと解されるところ、証拠<省略>によれば、処分行政庁は、処分基準を公にすることにより脱法的な行為が助長されるおそれがあることを理由として、特商法五七条一項に基づく取引停止命令の処分基準を非公開としたことが認められ、かかる非公開の取扱いが同法一二条一項に反するとはいえない。

また、証拠<省略>によれば、本件処分は、その原因となる原告の各違反行為を書面によって示して行われたことが認められ、行政手続法一四条一項本文、同条三項に反するともいえない。

なお、原告が指摘する判例(最高裁判所平成二三年六月七日第三小法廷判決・民集六五巻四号二〇八一頁)は、建築士に対する懲戒処分について、処分基準が一定の手続を経た上で定められて公にされ、その内容が多様な事例に対応すべくかなり複雑なものとなっていた事案に関するものであり、本件とは事案を異にするというべきである。

四  争点(1)ウ(本件処分が裁量権を逸脱又は濫用して行われたものであったか否か。)について

(1)  原告は、本件処分は、原告の弁明書及び弁明補充書、本件処分後になされた改善後の広告表示など、原告による改善の事実を考慮することなく、事実を誤認して行われたもので、裁量権の逸脱又は濫用があり違法である旨主張する。

前記前提事実によれば、原告が平成二二年八月二日付け弁明書及び同月三日付け弁明補充書を提出した後、同月六日付けで本件処分が行われたことが認められる。しかし、処分行政庁は、本件処分に至るまでの間に原告に関する情報を収集しており(前記一(5))、数日間程度の期間においても上記弁明書及び弁明補充書の内容を検討することは可能であったもので、本件全証拠によっても、処分行政庁が、上記弁明書及び弁明補充書の内容を考慮することなく本件処分を行ったと認めることはできない。

また、原告が本件処分後に平成二二年八月八日付けで行った各広告には、月収例として「完全出来高制」とされ金額が表示されていなかったけれども(前記一(6))、他の点についてなお違反があった(前記二(3)ア)うえ、これまでに認定した原告による重大な違反行為の継続、かかる違反の是正状況、処分行政庁に対する態度や主張内容からすると、処分行政庁が、上記各広告の表示を確認することなく本件処分を行ったことも相当であったというべきであり、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分を行ったとも認められない。

したがって、処分行政庁が、その裁量権を逸脱又は濫用して、原告による改善の事実を考慮することなく事実を誤認して本件処分を行ったということはできない。

(2)  原告は、神奈川県からは強制的な処分は受けていないなどとして、本件処分が比例原則又は平等原則に反するとも主張する。

しかし、そもそも神奈川県と被告とでは、行政指導や処分の対象となる原告の違反行為が異なり、両者が原告に対し必ずしも同一の取扱いをしなければならないわけではない。

そして、これまでに認定したとおり、原告に関しては、平成二二年度以降も相当数の苦情が寄せられていたもので、重大な違反行為の継続や被告に対する態度に加え、本件処分が埼玉県内においてのみ効力を有し、その期間も六か月間に限定されていたことなどを考慮すれば、本件処分がその必要な限度を超えていたともいえない。

したがって、本件処分が比例原則又は平等原則に反するともいえない。

(3)  原告は、本件処分が信義誠実原則にも違反するとも主張する。

しかし、これまでに認定したとおり、処分行政庁は、原告に対する行政指導、特商法に基づく報告及び資料徴収、行政手続法に基づく弁明の機会の付与等を経て、原告の弁明書及び弁明補充書を検討の上、本件処分を行ったもので、その他、本件全証拠によっても、かかる原告の主張を基礎付ける事実は認められない。

(4)  そうすると、本件処分については、原告が主張するいずれの点についても裁量権の逸脱又は濫用があったとはいえない。

五  争点(1)に対する判断のまとめ

上記二ないし四で判断したところによれば、本件処分は適法な行政処分であり、国家賠償法上も違法であったということはできない。

第四結論

以上の次第であり、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないこととなるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原啓一郎 裁判官 鈴木拓児 山崎雄大)

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