大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成23年(ワ)2407号 判決 2014年3月31日

原告

X株式会社

被告

Y1<他1名>

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して四二二万七三〇三円及びこれに対する平成二二年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して六九〇万五七七三円及びこれに対する平成二二年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本訴は、被告Y1(以下「被告Y1」という。)が被告Y2株式会社(以下「被告会社」という。)の業務として運転していた大型貨物自動車(以下「被告車両」という。)が、原告が所有する事業用冷蔵冷凍車(中型二トン車、以下「原告車両」という。)に追突した交通事故について、原告が被告らに対し、民法七〇九条、七一五条一項本文に基づいて損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実等(認定事実には証拠を掲げる。)

(1)  交通事故の発生(甲一)

日時 平成二二年五月二五日午前一一時四五分頃

場所 さいたま市中央区八王子一丁目四番地

原告車両 A(以下「A」という。)が運転する中型貨物自動車(車両番号<省略>)

被告車両 被告Y1が運転する大型貨物自動車(車両番号<省略>)

事故態様 被告Y1が被告車両を運転中、前方不注意により、被告車両を原告車両に追突させた(以下「本件事故」という。)。

(2)  責任原因

ア 被告Y1は、前方不注意により本件事故を惹起したのであるから、本件事故によって生じた損害について、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。

イ 被告Y1は、被告会社の業務として被告車両を運転中に本件事故を惹起したのであるから、被告会社は、民法七一五条一項本文に基づく損害賠償責任を負う。

三  主な争点(損害額)

【原告の主張】

(1) 修理代 一〇〇万二一七三円

(2) 傭車損害 五九九万七六〇〇円

ア 本件事故により損傷した原告車両が使用できなかった平成二二年五月二六日から同年七月一五日までの五一日間(以下「本件期間」という。)について、原告は、原告車両を用いて行っていた配送業務をa社(以下「a社」という。)に依頼し、合計四八一万九五〇〇円を支払った。

イ 上記期間について、原告は、原告車両を用いて行っていた空箱の返却業務をb社(以下「b社」という。)に依頼し、合計一一七万八一〇〇円を支払った。

(3) 損益相殺 -七一万四〇〇〇円

原告は、前記(2)の傭車により、人件費(一日当たり一万一五〇〇円)及びガソリン代(一日当たり二五〇〇円)の五一日分、合計七一万四〇〇〇円の支払を免れた。

(4) 弁護士費用 六二万円

(5) 原告が本件事故により被った損害の合計額は、六九〇万五七七三円である。

【被告らの主張】

(1) 修理代について

原告車両の時価額は六〇万円であり、原告主張の修理代は、これを上回るから、本件事故と相当因果関係を有する車両損害は、六〇万円となる。

(2) 傭車損害について

ア 原告は、原告車両の代替を、a社の三台の軽貨物と、b社の二トン冷凍車の傭車で賄ったと主張するが、これは専ら原告の都合によって過大な傭車料を支払ったものであるから、これらの傭車損害は、本件事故と相当因果関係がない。

イ 原告車両は、前記のとおり、経済的全損になっているから、本件事故と相当因果関係が認められる休業損害の発生は、買替えまでの二週間程度、すなわち平成二二年六月八日までに限られる。

ウ 原告には、本件期間のうち多くの日に遊休車が存在していた。Aが受傷して休業していたため、原告に代替できる運転手がいなかったからといって、そのことによる損害は、本件事故と相当因果関係がない。

第三当裁判所の判断

一  原告は、原告車両について、原告が所有権を有する旨主張するが、被告らは、これを争うため、最初にこの点について検討する。

証拠(甲三、二〇~二二、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、登録事項等証明書上、本件車両は、平成一八年一二月八日に所有者を原告として登録されたが、平成一九年一〇月三〇日に株式会社c(以下「c社」という。)に所有名義が変更されたこと、c社は、原告代表者の妻が経営する中古車販売、板金等修理を行う会社であり、上記登録上の名義変更は、車両保険料を安くするために相通じて行ったことであって、所有権譲渡の実体はなく、本件車両の所有権は原告が有していること、以上の事実が認められる。

したがって、原告は、原告車両の所有者として、被告らに対し、本件事故により原告車両が損傷したことによって発生した損害の賠償を請求することができる。

二  主たる争点(損害額)について

(1)  修理費用について

ア 証拠(甲三、四、七、二四、二七、乙一、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(ア) 原告車両の修理に要する費用については、c社が本件事故直後に作成した見積書(甲四)によると、一〇〇万二一七三円であることが認められ、d株式会社(以下「d社」という。)が後日作成した見積書(甲二四)にも、同額の記載がある。

(イ) 原告車両は、平成一一年一一月初度登録であり、走行距離が七六万九一二七km、新車価格二九九万七〇〇〇円の三菱キャンターに、新品価格二五五万円の日本フルハーフの冷凍車リアボデーが付けられた車両である。

保険会社の査定では、原告車両は、法定耐用年数を超えていることから、新車価格に残存率の一〇%を掛けて基本的な時価額を算出し、近似車両の取引事例で調整を加え、時価額を六〇万円としている。この際に、考慮されたのは、近似車両で走行距離が二七万kmの車両の価格が七五・六万円で取引された事例(事例①)である。

一方、平成一三年四月初度登録の三菱キャンター二トン冷凍車で走行距離が五九万kmの車両が、車両本体価格一七八万円、整備・加修費用三三万円(いずれも消費税別)で取引された事例(事例②)がある。

(ウ) 原告は、被告車両の保険会社から修理費用が時価額を上回ると言われたため、本件車両について、走るために最低限度の板金修理のみを行い、その余の修理は行っていない。

イ 被告らは、原告が実際に全部の修理を行っていないこと、原告代表者の妻が経営するc社の見積もりには信用性がないことなどを主張するが、原告と利害関係のないd社が作成した見積書にも同額が記載されていることが認められ、同社の見積もりが、作成の時期、目的からしてc社の見積もりを前提にしているとしても、d社が自社名で見積もりを出した以上、同業者からみて、c社の見積もり額が明らかに不当なものとはいえない旨の判断をしていたことが推認される。また、修理が未了であっても、原告車両の損傷は現実に発生しており、損害の発生が認められること、車両修理に係る見積書は、通常、実際に支払うべき修理代金と大きな齟齬はないことに照らせば、修理代金額についての被告らの主張は採用できない。

よって、原告車両の修理費用は、一〇〇万二一七三円と認められる。

ウ 被告らは、上記修理費用について、原告車両の時価額を上回る旨主張するから、原告車両の時価額について検討する。

前記認定事実によれば、前記保険会社の時価額の査定方法には一応の合理性が認められるものの、考慮すべき取引事例として、事例①だけに限定して、事例②を排除する理由はなく、事例②についても適宜調整を加えて考慮した方が、より適正な時価額を算出できるというべきである。

そして、経済的全損と評価する場合には、修理費用が、時価額に自動車税、登録費用、整備・加修費用等の買替費用を加えた金額を上回る必要があるところ、事例②を考慮して算出した時価額は、六〇万円よりもずっと高額になるから、買替費用を含めた合計額と修理費用の一〇〇万二一七三円を比較した場合に、後者が前者を著しく上回るということはできない。

よって、上記修理費用一〇〇万二一七三円について、原告の損害と認めるのが相当である。

(2)  傭車損害について

ア 証拠(甲五、六の各一~三、七、一〇の一~八、一三の一~三、一五の一・二イ・ロ、一六、一七の一・二、一八の一~五一、二五、二七、乙二、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア) 原告は、運送業を営んでおり、原告車両は、原告の業務に用いられていた中型二トンワイドロング冷蔵冷凍庫付きトラックである。

原告車両は、平日は毎日、Aが運転し、午前〇時過ぎに、原告倉庫でパレット、コンテナを積み込み、e社に運んでこれらを返却し(以下「本件返却業務」という。)、午前二時過ぎにはe社で野菜等の商品を積み込み、千葉ルート(舞浜コース)の約三〇か所の配送先店舗に運び、鍵を開けて店舗内の冷蔵庫内等に商品を入れ、鍵をかけて帰るという業務(所要約一二時間、以下「本件配送業務」という。)に使用されていた。

なお、本件配送業務における配送先の件数は、日々変動し、e社で積み込みを開始し、伝票を渡された時点で件数が判明する。

(イ) 原告の業務は、本件返却業務及び本件配送業務のように、事前に確定している定期業務と、スポットで依頼される業務がほぼ半々である。

スポットの場合は、前日の午後八時頃までに依頼されるため、翌日の物量が確定するのが午後八時過ぎであり、それから配車を行っている。

(ウ) 本件配送業務は、店舗への配送のため、道幅等の問題があり、大型車(一〇トン車)や中型四トン車で行うことはできなかった。また、中型二トン車でも、ショートタイプでは、積載量が少ないため、本件配送業務を行うことはできなかった。

原告は、原告車両の他に、同種の中型二トンワイドロング冷蔵冷凍車を四台保有していたが、本件期間中、半分程度は、四台とも他の業務を行っているか又は車検整備のため使用不能であった。

(エ) 本件事故当時は、冷蔵冷凍物の運送における繁忙期(五月頃~九月頃)であったため、中型二トンワイドロング冷蔵冷凍車を他社から借りることはできなかった。

(オ) Aは、本件事故による負傷のため、平成二二年八月三一日まで入院しており、当時、原告には、Aに替わって運転できる余剰人員はいなかった。

(カ) 原告は、a社に対し、本件期間の本件配送業務を委託し、委託料として合計四八一万九五〇〇円を支払った。

a社は中型車を保有していなかったため、原告とa社との間の傭車契約では、原告車両の積載量に相当する軽貨物三台の傭車を依頼し、実際に三台を超えて稼働してもその分は請求しない代わりに、稼働台数が三台未満であっても三台分を支払う旨を合意していた。

なお、a社は、本件期間中、六月六日、一三日、七月、一〇日、一二日、一四日、一五日については本件配送業務を行っていない。

(キ) a社の軽貨物三台では、本件返却業務に必要な積載量を確保できなかったため、原告は、別途b社に対し、本件期間の本件返却業務を委託し、委託料として合計一一七万八一〇〇円を支払った。

(ク) 原告は、平成二二年七月一日に、新たに中古の二トンショート冷蔵冷凍庫付きトラックを購入し、同月一六日から、新たに雇い入れた従業員も稼働している。

d社では、原告車両の修理には、合計四二日を要するとのことであった。

なお、原告車両は、本件事故後、七日間かけて板金修理のみを行い、冷蔵冷凍庫は使えないが、資材等の運搬のために走行できる状態になった。

イ a社に委託した傭車損害について

(ア) 前記認定事実によると、原告は、本件期間について、本件配送業務をa社に委託し、軽貨物三台分の傭車代金、一日当たり九万円を支払うことを約し、実際に四八一万九五〇〇円を支払ったことが認められる。

(イ) 前記認定事実によると、本件配送業務を行うのに適しているのは、原告車両と同じ中型二トンワイドロングの冷蔵冷凍車に限られるところ、原告は、これを他に四台保有していたことが認められるが、本件期間中、この四台のうち一台も空いていない日が多数あったのであるから、原告の他の配送業務との関係で、四台のうち一台を確定的に本件配送業務に振り替えることには無理があったというべきである。

原告には、スポットで依頼される業務も半分程度あり、午後八時過ぎに翌日の物量が確定してから配車をした結果、本件配送業務を行うことのできる中型二トンワイドロング冷蔵冷凍車が空いていない場合に、それから二、三時間後に出発する同種車両の手配をすることは、不可能といわざるを得ない。

したがって、結果的にみれば、本件期間の中に、他の中型二トンワイドロング冷蔵冷凍車が空いている日があったとしても、それを当該日に限り、本件配送業務に当てることは、困難であったというべきである。

(ウ) また、前記認定事実によると、本件期間は冷蔵冷凍物の運送における繁忙期に当たり、中型二トンワイドロング冷庫冷凍車を他社から借りることもできなかったから、原告が本件配送業務について、a社に傭車を依頼したことについては、その必要性が認められる。

(エ) 被告らは、原告の傭車損害について、a社に軽貨物三台分の傭車をしたことが過大であり、委託料も高額で、期間も長すぎる旨主張する。

この点、前記認定事実によれば、軽貨物三台分で、原告車両の積載量に匹敵すること、本件配送業務における配送先の件数は、日々変動し、積み込みを開始するまで、積載量が分からないことからすると、繁忙期であり、追加の傭車を短時間で手配することが困難であった以上、原告車両の積載量を確保するために、軽貨物三台を傭車したことは、やむを得ないというべきである。

また、原告代表者は、その本人尋問において、繁忙期に突然依頼し、無理に引き受けてもらった以上、多少割高でも頼まざるを得なかったこと、何社か聞いた中で、受けられると言わ札たのがa社とb社であったこと、過失のトラブルにより、e社からb社は使わないように言われていたことを述べている。

確かに、a社への委託料については、一般より高額ではあるが、上記事情に照らせば、やむを得ないというべきであり、繁忙期に突如対応せざるを得ず、多少高くとも頼まざるを得なかった原告に、負担を転嫁すべきではない。

もっとも、傭車期間については、前記認定事実によれば、原告が、平成二二年七月一日に、新たに中古の二トンショート冷蔵冷凍庫付きトラックを購入していることに加え、d社は修理期間を全部で四二日間としていたことから、五一日間というのは、長すぎるというべきであり、同年六月末までの傭車代金に限って認めるのが相当である。

さらに、原告代表者は、その本人尋問において、本件配送業務は原則としては日曜日もあるというものの、六月中をみても、六日と一三日は、a社が本件配送業務を行っていないことが認められる。原告代表者は、一方で、日曜日は、比較的車が空いていると述べており、a社において、平日のみの傭車体頼であれば受けなかったことを認めるに足りる証拠はないから、日曜日についてまでa社に包括的に傭車を依頼する必要性は疑問であり、少なくとも、稼働していない六月六日と一三日の傭車代金については、本件事故との因果関係を認め難い。

(オ) そうすると、原告のa社に委託した傭車損害については、三四日間委託するのに必要な三二一万三〇〇〇円に限って認めるのが相当である。

9万円×34日×1.05=321万3000円

ウ b社に委託した傭車損害について

(ア) 前記認定事実によると、原告は、本件期間について、本件返却業務をb社に委託し、一日当たり二万二〇〇〇円、合計一一七万八一〇〇円を支払ったことが認められる。

(イ) 前記認定事実によれば、本件返却業務は、パレット、コンテナを原告倉庫からe社まで運ぶというもので、長くとも二時間程度の作業であったこと、パレット、コンテナの輸送には、冷蔵冷凍庫は不要であったこと、返却するパレット、コンテナは、a社の軽貨物三台では積載できなかったことが認められる。

原告代表者は、その本人尋問において、原告倉庫からe社に向かう他の車両には、既に商品が積載されているために、パレット、コンテナを運ぶことができなかったこと、原告では恒常的に運転手が不足していたこと、同じ傭車でも冷蔵冷凍車でない車両であれば委託料が五~一〇%は安くなることを述べている。

前記認定事実によれば、原告車両は、本件事故から一週間後には、最低限の修理を終えて、冷蔵冷凍庫は使用できないが、走行可能になったことが認められるから、それ以後は、原告車両を用いて本件返却業務を行うことができたというべきである。それ以降もAは入院中で稼働できなかったが、本件返却業務は長くとも二時間程度の作業であり、稼働できる車両があるにもかかわらず、人員が確保できずに本件返却作業を原告で行えず、b社に委託したということであれば、その委託料は、原告車両の損傷に起因する損害とはいい難い。

(ウ) 以上によれば、原告のb社に委託した傭車損害については、原告車両を使用できなかった七日間に限り、冷蔵冷凍庫のない通常車両を委託するのに必要な一四万五五三〇円に限って認めるのが相当である。

2万2000円×7×1.05×90%=4万5530円

(3)  損益相殺について

ア 甲第一九号証及び弁論の全趣旨によると、Aの平成二二年五月に支給された給与額は、二四万五五〇〇円であったことが認められる。

原告主張の人件費は、上記給与額に基づいて計算した金額を上回っているから、原告主張の一日当たり一万一五〇〇円を経費として控除するのが相当である。

イ また、乙第三号証及び弁論の全趣旨によると、平成二二年二月から四月までの原告車両の一日の走行距離は、概ね二四〇km前後であることが認められ、ガソリン代の単価については原告の具体的な立証がないから、一般的な相場により、一km当たり一五円として計算し、一日当たり三六〇〇円として算出する。

ウ したがって、傭車で対応したことにより、原告が支払を免れた経費は、三四日分の人件費(1万1500円×34日=39万1000円)とガソリン代(3600円×34日=12万2400円)の合計五一万三四〇〇円と認められる。

(4)  以上によれば、原告が本件事故によって被った損害額から経費を控除した金額は、三八四万七三〇三円となり、損害の金額、本件訴訟の経緯その他本件に顕れた諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、三八万円と認められる。

よって、原告に生じた損額額の合計は、四二二万七三〇三円となる。

三  結論

以上によると、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 男澤聡子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例