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さいたま地方裁判所 平成23年(ワ)3407号 判決 2013年5月10日

原告

有限会社X

被告

主文

一  被告は、原告に対し、一二八万六六八四円及びこれに対する平成二二年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、二三八万五九一八円及びこれに対する平成二三年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、高速道路上で車線変更をしようとした被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)が、原告所有のマイクロバス(以下「原告車両」という。)に接触した交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償二三八万五九一八円及びこれに対する本件事故の日である平成二二年一二月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  基本的事実(争いのない事実の外は証拠等を併記)

(1)  原告は、マイクロバスを運転手付で貸し出して、顧客を運送する営業を主たる業務としている。(A証人、弁論の全趣旨)

(2)  以下の交通事故(本件事故)が発生した。

ア 日時 平成二二年一二月一四日午前六時五〇分ころ

イ 場所 東京都板橋区板橋四―一一 首都高速中央環状線外回り道路

ウ 原告車両 事業用中型乗用自動車(マイクロバス)〔ナンバー<省略>〕

所有者原告、運転者B(以下「B」という。)

エ 被告車両 自家用普通乗用自動車〔ナンバー<省略>〕

運転者被告

オ 態様 原告車両が、上記イの場所において、走行車線を走行していたところ、右側の追越車線を走行していた被告車両が、走行車線に車線変更をしようとして、原告車両の右側ライト付近に被告車両の左後輪部付近を接触させ、原告車両の右側ライト付近を破損させた。

(3)  被告は、追越車線から走行車線に車線変更をする際、走行車線を走行中の車両との衝突を避けるため、左方の安全を確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、漫然と車線変更をしたため、折から走行車線を走行中の原告車両に接触させたものであって、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

二  争点

(1)  過失割合

(2)  原告の損害

三  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(過失割合)について

ア 原告

Bは、原告車両を運転して飯田橋から首都高速五号線に入り、熊野ジャンクションで首都高速中央環状線外回りに合流して、左側の走行車線を走行していた。Bは、原告車両の右後方の追越車線上を被告車両が走行していることに気付いていたが、その後、被告車両が原告車両の横に並ぶや否や、突然、原告車両の右先端をかすめるような進路で、同車両の前に入って来て、被告車両の左後部が原告車両のフロントの右側ライト付近に接触した。なお、Bには、被告車両のウィンカーが点滅していたとの記憶はないが、仮に被告がウィンカーを点滅させていたとしても、被告車両は、原告車両に追いつきざまに進路変更を開始したのであるから、合図としての意味を果たしておらず、合図はなかったに等しい。このように、本件事故は、被告の極めて不適切な進路変更方法により発生したものであり、被告が主張するような、速度を落としたり、警笛を鳴らす等の対応をする余地はなかったことは明らかであり、Bに結果回避可能性はなく、過失相殺を認めるべきではない。

イ 被告

原告車両は、被告車両の左後方を走行していたのであり、ウィンカーを点滅させて車線変更して来る被告車両の動向に対しても相当程度の注意を払い、速度を落としたり、警笛を鳴らす等の安全走行義務がある。それにもかかわらず、Bは、前方不注視のまま、被告車両の速度より加速した速度で漫然と原告車両を走行させて、被告車両の左後輪部付近に自車の右側ライト付近を接触させた過失がある。被告にも、十分な車間を開けずに車線変更をした過失は認めるが、原告側にも過失があり、その割合は五割とするのが相当である。

(2)  争点(2)(原告の損害)について

ア 原告

(ア) 修理費 四四万一七六七円

a 本件事故による破損の修理を担当したa株式会社(以下「a社」という。)は、当初、原告車両の右側面並びに右側ライトの周囲及び下側の部分を塗装した。ところが、塗装した部分と塗装していないフロント部分とでは、色は似ていたものの、塗装の味があまりに違いすぎたため、そのまま同車両を営業に使用すると、顧客から見て、事故により損傷したことが明らかになってしまい、原告の営業上の信用を大きく損なうおそれがあった。そこで、原告は、a社に申し入れて、フロント中央部分並びに左ライトの周囲及び下側の部分の塗装を追加させた。したがって、これらの塗装費用も、営業車両である本件車両の修理費として必要かつ相当なものである。

本件事故においては、最初からb保険株式会社(以下「b社」という。)が損害調査に入り、主導的にa社と交渉したのであり、a社がb社の指導により見積内容と金額を変更した。したがって、一回目の修理(塗装)が不完全であったのは、b社の責任である。

b a社は、修理の当初、破損した原告車両の右のコーナリングランプを交換したが、左のコーナリングランプと色が違っており、誰が見ても事故車両とすぐに分かってしまう状態になったため、営業に使用できなかった。そのため、左のコーナリングランプも交換した。この追加のコーナリングランプの交換費用も、必要かつ相当な修理である。

(イ) 休車損 一七二万七二五〇円

本件事故当時、既に予約されていた運送契約で、「前向き(正席)七m二五名乗り」のバスに係るものとしては、①「貸切バス引受書」が作成されていたものが、別紙「休車損害計算書」(以下「別紙計算書」という。)の「引受書」欄記載の各契約、②c輸送及びd社の二社からの電話による問合せに対して原告が引き受ける旨答えた時点で契約が成立したものが、別紙計算書の「c輸送」及び「d社」欄記載の各契約(代金合計一七二万七二五〇円)であったが、原告は、「前向き(正席)七m二五名乗り」のバスを原告車両一台しか保有していなかったため、上記の各契約をすべてキャンセルせざるを得なかった。なお、本件事故後、原告車両は、修理完了後にたまたま注文を受けて平成二三年一月一八日に稼動できたが、修理中には配車の見通しがつかず、注文を受けることができなかったため、別紙計算書の同月一九日及び同月二二日の稼動に係る契約はキャンセルせざるを得ず、次に稼動できたのは同年二月六日であった。

なお、逸失利益の算定にあたって売上高から経費のうち変動費を控除すべきであるとしても、変動費と考えられるのは軽油代のみであるところ、本件事故の日を含む三期分における売上高に占める軽油代の比率は〇・一三であるから、経費として控除するのは二二万四五四三円にとどまる。

(ウ) 弁護士費用 二一万六九〇一円

上記(ア)、(イ)の合計二一六万九〇一七円の一割である二一万六九〇一円が相当である。

(エ) 合計 二三八万五九一八円

イ 被告

(ア) 修理費

a社は、当初、合理的な修理と判断して原告車両の右側面並びに右側ライトの周囲及び下側の部分のみを塗装した。塗装していないフロント部分との色は似ていたのであり、車両の機能はもとより、外観においても問題はなかった。原告の主張は、主観的な危惧に基づくものであり、追加塗装の必要性はなかった。原告は、一流企業であるa社と被告側付保保険会社が協議して行った合理性、相当性のある当初の塗装を、一方的・独断的に変更し、被告側の承諾を得ないまま修理を強行してしまったのであり、かような費用まで被告側に負担させることは許されない。したがって、追加の塗装に係る費用は、修理費としての相当性はない。

(イ) 休車損

原告の主張するキャンセルに係る契約は、予約の受付け段階にすぎず、契約が確定的に成立していない以上、履行利益の確定に至っていないというべきであり、損害の発生は認められない。また、修理に要する期間は六日間程度であり、仮に追加塗装が必要であったとしても、せいぜい七日間程度が上限である。

また、修理予定期間は、見積書に記載される場合が少なくないが、仮に記載がなくても修理工場に問い合わせれば容易に分かることであり、現に原告は知っていたと思われる。原告は、平成二三年一月一八日の稼動の後、同年二月六日の稼動まで受注していないが、それは、注文がなかったか、本件とは無関係の事情で注文を受けられなかったにすぎない。原告は、別紙計算書の同月一九日及び同月二二日の稼動に係る契約はキャンセルした旨主張するが、修理期間は分かっていたのであるから、キャンセルする合理性がなく、本件事故とは無関係の事情で契約が成立しなかっただけのことである。したがって、本件事故の七日後から平成二三年二月六日までの期間を休車期間に算入して損害算定に供することは許されない。

修理期間が伸びたのは、原告とa社との意思疎通の欠如によるものであり、当初の修理その他の原告側の混乱で要した日数をすべて休車期間に算入し、平成二三年一月二二日まで休車損(逸失利益)が発生したとする原告の主張は、明らかに過剰である。

(ウ) 弁護士費用

原告の主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(過失割合)について

本件事故の態様について、原告は、右後方から接近してきた被告車両が、原告車両の横に並ぶや否や、突然、同車両の前に入って来て、被告車両の左後部が原告車両のフロントの右側ライト付近に接触したと主張し、Bの陳述書(甲二一)中にも、これに沿う陳述記載がある。

しかし、証拠(B証人)によれば、Bは、本件事故時において、被告車両が接触したのが原告車両のトランクのあたりだと思っていたが、停車して降りて確認したところ、接触は前の部分であることを認識したことが認められる。原告車両と接触したのは被告車両の左後部であるから、本件事故の瞬間には、被告車両は原告車両よりも前に出ていたことが明らかであり、Bが前方を注視して運転していれば、被告車両が接近して来ることと、衝突したのが原告車両の右前部であることは当然に認識し得たと考えられるのであって、上記のように、Bが当初接触した箇所の認識を欠いていたということからすると、同人は、前方を注視せずに運転して本件事故に至ったと認定するのが自然である(B自身、証人尋問において、本件事故直前において、走行中右側を余り見ていなかった旨証言している。)。

そして、被告の陳述書(乙二)及び被告本人尋問中には、車間が少し狭いかとは思ったが、被告車両が明らかに原告車両よりも前に出ていたので、ウィンカーを出して車線変更を開始したところ、原告車両と接触した旨の陳述記載ないし供述があるところ、上記に認定したようなBの前方不注視の事実とも対比すると、被告の上記陳述記載及び本人供述は、いずれも信用性が高いというべきである。

以上を総合すると、本件事故の態様としては、被告が追越車線上で被告車両を運転して、原告車両を右後方から追い抜いた後ウィンカーを出して車線変更を開始したところ、Bが、前方不注視により被告車両に気づかず走行車線上で漫然と加速して、車間が詰まったことにより、被告車両と接触するに至ったと認められる。

上記認定のような事故態様にかんがみると、原告の過失割合は四〇パーセントと認めるのが相当である。

二  争点(2)(原告の損害)について

(1)  修理費

ア 塗装について

証拠(甲四、一一、一三の一ないし三、甲一四、一八、二〇、二二、A証人)によれば、本件事故に係る原告車両の修理を担当したa社は、当初、被告の付保保険会社であるb社と協議して、原告車両の右側面並びに右側ライトの周囲及び下側の部分のみを塗装し、平成二二年一二月の終わり頃にいったん修理を終えたこと、しかるに、原告車両は、平成一〇年六月登録で、塗装していないフロント部分は、経年により色焼けや細かい傷、石跳ねの傷をタッチペンで修復した跡等があったたため、上記の塗装した部分と色は似ていたものの、仕上がり具合が異なり、そのまま同重両を営業に使用すると、顧客から見て、上記の塗装部分が事故により損傷したことが分かってしまうおそれがあったこと、そこで、原告の申入れにより、フロント中央部分並びに左ライトの周囲及び下側の部分の塗装が追加して実施され、平成二三年一月中旬に修理を完了したことが認められる。

バスによる運送事業会社が、事故車と分かるバスで営業すると、顧客から運送の安全性に危惧を抱かれ、営業上の信用を損なうおそれがあるというべきである。したがって、上記のような追加塗装の申入れは、原告としては無理からぬものであって、上記の追加塗装も必要かつ相当な修理に当たるというべきである。

証拠(甲二二、A証人)によれば、原告は、a社を信用して、当初の塗装を前提とした見積書(甲一三の一)を十分に確認しなかったことが認められるところ、原告は、修理業者ではない上、見積書には単に「ホシュウペイント」と記載されているのみで、塗装の範囲は分からないのであるから、上記のような確認不十分をもって、追加塗装の必要性や相当性を否定することはできない。

イ コーナリングランプについて

証拠(甲四、五、一三の一、二、甲一四、一八、二二)によれば、a社は、修理当初、原告車両の破損した右のコーナリングランプのみを交換したが、交換後のコーナリングランプのカバーの透明度が左のものと異なっており、顧客からみて、事故車両と分かってしまう状態になったため、左のコーナリングランプも交換したことが認められる。上記アと同様、この交換も、バスによる運送事業会社である原告としては無理からぬものであって、必要かつ相当な修理に当たるというべきである。

ウ まとめ

そうすると、証拠(甲四)記載のとおり、前記ア、イの費用を含む四四万一七六七円が相当な修理費用と認められる。

(2)  休車損

ア 証拠(甲六の一、二、甲七ないし九、一〇の一ないし八、甲一一、一二の一ないし三、甲二二、A証人)によれば、本件事故日である平成二二年一二月一四日から修理が完了した平成二三年一月中旬までの間において、「前向き(正席)七m二五名乗り」(全座席が前向き、車長が約七メートル、二五名乗りの意味である。)のバスに係る契約は、①「貸切バス引受書」が作成されていたものが別紙計算書の「引受書」欄記載の各契約、②c輸送及びd社の二社からの電話による問合せに対して原告が引き受ける旨答えた時点で契約が成立したものが別紙計算書の「c輸送」及び「d社」欄記載の各契約で、代金の合計は一七二万七二五〇円であったこと、原告は、「前向き(正席)七m二五名乗り」のバスを原告車両一台しか保有していなかったため、上記の各契約をすべてキャンセルせざるを得なかったことが認められる。

被告は、契約が確定的に成立していない以上、損害の発生は認められない旨主張するが、契約が成立したと認められることは上記のとおりである上、逸失利益の認定にあたっては、事故当時において契約が成立して収益が得られる見込みが存在していれば足りるのであって、必ずしも事故時において契約が確定的に成立していることを要するものではない。被告の主張は、債務不履行に基づく履行利益に係る損害と、逸失利益を混同するものであって、失当というべきである。

また、被告は、原告は修理期間につき分かっていたから、契約をキャンセルする合理性はなかった旨も主張するが、予期し得ない事情によって、修理期間が延長される可能性もあり得るのであって、運送会社である原告の立場上、契約不履行により営業上の信用を失う事態を回避するため、修理が完了するまでは、既存の契約をキャンセルし、新規の契約申込みについては受注しないとの対応をしたことには、無理からぬものがあったというべきである。したがって、被告のこの主張も、採用できない。

イ そして、前記(1)アで認定した経緯にかんがみれば、休車損(逸失利益)算定の基礎となる休車期間は、実際に修理が完了した平成二三年一月中旬までと認めるのが相当である。

被告は、相当な修理に要する期間は六日間程度であり、仮に追加塗装が必要であったとしても、せいぜい七日間程度が上限である旨主張し、証拠(乙一)中にも、これに沿う部分がある。しかし、修理期間については、同じ修理であっても、修理工場の業務の繁閑等により当然に異なり得るものであるし、本件においては、年末年始を挟んでいたこと及び原告において、故意に修理を引き延ばしたとの事情は全くうかがわれないことにもかんがみると、被告の上部主張及びこれに沿う上記証拠は採用できない。

ウ しかるに、証拠(甲二三、二四の一ないし一二、甲二五、二六の一ないし一二、甲二七、二八の一ないし一二、甲二九の一ないし六、甲三〇)及び弁論の全趣旨によれば、原告におけるバス運行に係る変動費と考えられるのは軽油代のみであるところ、本件事故の日を含む前後三期分(平成二一年度ないし二三年度)における売上高に占める軽油代の比率は〇・一三であることが認められる。

エ そうすると、次式により、原告車両の休車による逸失利益は一五〇万二七〇七円と認められる。

172万7250円×(1-0.13)=150万2707円

(3)  弁護士費用

上記(1)、(2)の合計一九四万四四七四円について、原告の過失割合である四〇パーセントを斟酌すると、次式のとおり一一六万六六八四円となり、弁護士費用相当額の損害は、その約一割である一二万円と認めるのが相当である。

194万4474円×(1-0.4)=116万6684円

三  まとめ

被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、上記(1)ないし(3)の合計一二八万六六八四円を支払う義務を負うこととなる。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、一二八万六六八四円及びこれに対する平成二二年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原啓一郎)

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