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さいたま地方裁判所 平成23年(ワ)3522号 判決 2013年7月30日

原告

X1

原告

X2

原告

X3

原告

X4

原告

X5

原告

X6

原告

X7

原告

X8

上記8名訴訟代理人弁護士

棗一郎

三枝充

被告

Y有限会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

松澤宣泰

茜ヶ久保重仁

岩﨑精孝

同訴訟復代理人弁護士

三上拓馬

主文

1  原告らが、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、原告らに対し、それぞれ別紙1未払賃金一覧表の支払日欄記載の日に各原告ら欄記載の金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを5分し、その4を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

5  この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  原告X1が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、原告X1に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、30万0146円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  原告X2が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

4  被告は、原告X2に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、30万3442円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  原告X3が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

6  被告は、原告X3に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、26万1289円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

7  原告X4が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

8  被告は、原告X4に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、41万6831円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

9  原告X5が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

10  被告は、原告X5に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、27万9860円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

11  原告X6が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

12  被告は、原告X6に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、39万6580円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

13  原告X7が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

14  被告は、原告X7に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、36万8013円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

15  原告X8が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

16  被告は、原告X8に対し、平成23年6月から、毎月15日限り、37万2746円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、被告のa営業所に勤務していた原告らが、被告によって整理解雇されたところ、被告が行った整理解雇は社会通念上相当であるとは認められず解雇権を濫用したものとして無効であるとして、原告らが、被告に対し、雇用契約上の地位確認及び未払賃金の支払を求める事案である。

1  争いのない事実等(証拠を掲記した事実以外は争いがない。)

(1)  被告は、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー運送事業)等を業とする株式会社であり、a営業所のほかb営業所においてタクシー運送事業を行っている。

(2)  原告らの労働契約の内容は以下のとおりである。

ア 原告X1

入  社 平成15年10月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額30万0146円(直近3ヶ月の平均賃金)

イ 原告X2

入  社 平成17年1月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額30万3442円(直近3ヶ月の平均賃金)

ウ 原告X3

入  社 平成16年5月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額26万1289円(直近3ヶ月の平均賃金)

エ 原告X4

入  社 平成22年10月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額41万6831円(直近3ヶ月の平均賃金)

オ 原告X5

入  社 平成16年11月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額27万9860円(直近3ヶ月の平均賃金)

カ 原告X6

入  社 平成21年10月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額39万6580円(直近3ヶ月の平均賃金)

キ 原告X7

入  社 平成17年1月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額36万8013円(直近3ヶ月の平均賃金)

ク 原告X8

入  社 平成17年11月

期間の定め なし

業務内容 タクシー乗務員

賃  金 月額37万2746円(直近3ヶ月の平均賃金)

(3)  原告らはa営業所においてタクシー乗務員として勤務していた者達であるが、被告は平成23年4月29日付けでa営業所の従業員全員を解雇し、a営業所を閉鎖した(以下「本件解雇」という。)。

2  争点及びこれについての当事者の主張

(1)  被告が行った整理解雇が解雇権の濫用に当たり無効といえるか

(原告ら)

以下のとおり、被告が行った本件解雇は、整理解雇の4要件を満たしておらず、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、解雇権を濫用したものとして無効である。

ア 人員削減の必要性

被告が主張するBの件は平成21年9月にB氏が1000万円を支払うということで和解が成立しているのであるから、本件解雇と関係のない話である。B氏が従業員を引き抜いたというのであれば、新たに従業員を採用するか、既存の従業員の稼働率を上げればよいことである。

被告に多額の負債があったというが、その額、貸主及び負債の原因は不明であって、負債を一度に返済する必要性があったのか疑問である。殊に、3つの営業所の中で一番利益が上がっていたa営業所のすべてのタクシー車両を売却することが唯一最良の方策であったとは到底言えない。被告は、売上げ回復と利益向上の努力を怠り、タクシー事業の売却以外に具体的な経営再建策を検討した形跡すらない。逆に被告は、平成23年3月に最近廃業したcタクシーの元従業員7、8名を雇用しており、本件解雇当時被告に一律全員の人員削減の必要性などなかったということである。

被告にはb営業所とd営業所があり、その上東川口で新たに営業を拡張する準備をしているのであるから、配転、出向の可能性があり、全員解雇の必要性はなかった。被告が従業員全員の解雇を強行した本当の理由は、従業員に秘密裏にe株式会社との間で平成23年1月13日に自動車譲渡契約を締結してa営業所の全車両を売却し、同年5月1日以降は営業を行わないことを約束していたからに他ならない。

イ 解雇回避努力

被告が主張する事務職員の解雇は平成21年にB氏が被告から離脱した際の出来事であり、しかもその後被告は新規に事務職員を採用している。被告代表者個人の資金の投入というがその額、必要性は不明であり、役員報酬の減額も実際にどのような減額を行ったのか証拠もない。

被告は希望退職の募集や退職勧奨を全く行っておらず、不採算事業の見直しや賃金カットの申し出もしていない。

原告らは、e社への就職のあっせんを受けていない。

被告は原告らに対し、b営業所やd営業所への配転、出向の打診や意思確認を行っていない。

ウ 人選の基準と選定の合理性

本件解雇はa営業所の従業員全員を解雇したものであるが、単なる一事業場の閉鎖だけで、そこで働く労働者全員を解雇することが直ちに認められるわけではない。他の事業場への配転、グループ他社への出向・転籍、希望退職の募集や任意の退職勧奨を行ったうえで、なおタクシー乗務員の余剰が生じた場合で、かつ全社的に人選基準を検討したものでなければならない。

したがって、人選の合理性も認められない。

エ 説明・協議

被告は、本件解雇通告前の事前の説明協議義務を全く怠り、平成23年4月9日にa営業所の従業員に対して、一枚の張り紙によって同月29日付けで本件解雇を通告したものである。

その後の同月15日及び22日に説明会が開かれているが、これは従業員が本件解雇に納得できず、強く会社に求めてようやく実現した説明会である。

(被告)

被告が行った整理解雇は、以下のとおりその要件を満たしているから、適法である。

ア 人員削減の必要性

平成21年2月ころ、被告の専務取締役を務めていたBによる背任横領事件が発覚し、被告はBを解任するとともに同人と示談を成立させた。ところがBは、同人が経営するタクシー会社であるfタクシーに被告のタクシー乗務員52名を引き抜いてしまった。

被告は長期的な不況とBによる長期間の背任行為により業績が悪化していたところ、上記タクシー乗務員の引き抜きにより売上げが激減し、次第に経営が困難な状況に陥っていた。被告の経営が困難な状況にあることは、被告の決算書にもあるとおり、平成22年3月31日時点の負債総額が2億3443万5540円に上り、著しい債務超過であることから明らかである。現実にも被告は、平成21年ころには消費税を滞納し、平成22年には社会保険料も滞納するようになった。

このような状況下で被告が会社を存続させるには、a営業所におけるタクシー事業を売却して債務の弁済に充てることを実行するほかなかったのである。被告にはa営業所のほか浦和に営業所が存在するが、浦和の営業所の事業には買い手がつかず、a営業所のみが譲渡可能な営業所であった。なお、原告らは草加にも営業所が存在する旨主張するが、草加の営業所は被告の営業所ではない。また、原告らの主張する川口営業所を開設することを予定していたのはg有限会社であり、被告ではない。さらに、被告が平成23年3月に新規雇用したのは、タクシー乗務員の不足を解消するためにそれ以前からタクシー乗務員の募集をしていたことによるものである。

このようにして被告は、平成23年1月13日にe社と、a営業所のタクシー事業の譲渡契約を締結したものである。

イ 解雇回避努力

被告は、原告らを解雇するまでに、平成21年5月から平成22年10月にかけて事務担当の従業員7名を解雇し、東京都足立区<以下省略>所在の駐車場の賃貸借契約を平成21年6月に解約した。また、被告の営業資金の不足については、被告代表者夫婦から無利子借入れを行い、被告代表者の妻から賃借している本社建物の賃料を無償とし、さらに役員報酬も減額している。

被告にはb営業所が存在するものの、同営業所には既存の従業員がおり、しかも原告らは浦和の地理に不案内で、b営業所の乗務員の平均給与も相当程度低くなっているので、原告らについてb営業所への配転、出向という手段をとることはできなかった。なお、被告はa営業所の従業員全員を解雇しているのであるから、希望退職の募集や退職勧奨を行うことは無意味である。

被告は、a営業所の事業譲渡先であるe社に対し、被告から解雇される乗務員を出来る限り雇用するよう申し入れ、その了承を得ている。また、解雇された乗務員に対しても、e社に移籍する手続をとるよう必要な資料を送付するなどして、解雇される乗務員の雇用を確保する措置をとっている。このようにしてe社に移籍した元乗務員に対し、被告は1人当たり30万円、合計で180万円の支度金を支払っている。

ウ 選定基準及びその公平性

本件解雇はa営業所のタクシー事業の譲渡が行われた結果として、a営業所のタクシー乗務員全員を解雇したものであり、特別な選定基準に従って解雇したものではない。被告にはa営業所とb営業所しかないところ、上記のとおりb営業所への配転の可能性はなかったのであるから、全社的な選定基準を検討することは無意味である。

エ 説明・協議

被告の取締役Cは、平成23年4月7日原告らに対し、口頭で個別に会社の経営状況が悪化しているため、a営業所のタクシー事業を譲渡することとなり、そのために原告らを解雇する旨を説明している。その上で、同月15日と22日の2回にわたり、本件解雇に至った経緯の説明をしている。

(2)  損益相殺

(被告)

仮に原告らに対する解雇が無効であるとしても、原告らは本件解雇後新たな勤務先から別紙2<省略>のとおり給与、賞与を得ているから、原告らの請求する未払賃金から損益相殺されるべきである。

(原告ら)

原告らが別紙2のとおりの給与、賞与を得たことは認める。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(被告が行った整理解雇が解雇権の濫用に当たり無効といえるか)について

(1)  人員削減の必要性について

ア 証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば、整理解雇の必要性に関して、以下の事実を認めることができる。

(ア) 被告の平成21年3月期決算によれば、売上高は7億4738万2541円、営業損益は1億1974万6323円の損失、当期損益も4269万4409円の損失であり、1億2656万0946円の債務超過となっている。(証拠<省略>)

(イ) 同じく平成22年3月期決算によれば、営業活動による収益の合計は3億4702万1924円、営業損益は1825万4559円の損失、当期損益も699万3857円の損失であり、1億3355万4803円の債務超過となっている。(証拠<省略>)

(ウ) 同じく平成23年3月期決算によれば、営業活動による収益の合計は2億9262万0357円、営業損益は2909万4922円の損失、当期損益も1538万3489円の損失であり、1億4893万8292円の債務超過となっている。(証拠<省略>)

(エ) 平成23年3月期決算における短期借入金は4910万9128円、長期借入金は1億1303万4982円であるが、そのうち被告代表者夫婦(A、D)からの借入金は、短期借入金が3994万8414円、長期借入金が8676万5982円であった。(証拠<省略>)

(オ) 平成21年3月ころ、被告は、消費税合計4047万6141円を滞納し、翌年にかけて分割して納税したことがあった。また、被告は、平成23年5月30日時点で、社会保険料合計3515万5055円を滞納していた。(証拠<省略>)

(カ) 被告のa営業所には形式上被告に所属する乗務員のほか、g有限会社及びh有限会社(以下まとめて「Y社グループ3社」という。)に所属する乗務員がいたが、a営業所における業務の運営は3社一体で行われていた。また、被告はa営業所のほかに、b営業所を保有していた。(証拠・人証<省略>、原告X1)

(キ) 被告のa営業所は、平成23年3月ころ、廃業したタクシー会社の元乗務員7、8名を雇用したほか、新たに数名の乗務員を新規に採用した。(証拠<省略>、原告X1)

イ 以上の事実によれば、被告は平成21年度から平成23年度にかけて売上高が急激に減少し、それに伴って損益も悪化し、大幅な債務超過に陥っており、その結果消費税や社会保険料を滞納するまでになったというのであるから、場合によっては人員削減をも含む抜本的な経営再建策を実行する必要性があったものと認めざるを得ない。他方、被告の主たる事業が日々の現金収入が見込めるタクシー事業であること、長期及び短期の借入金の大半が代表者夫婦からのものであり、被告の資金繰りの詳細が明らかにされていないこと、本件解雇の直前に被告が乗務員を新たに採用していることに照らすと、被告の経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかないという状態にあったとまで認定することは困難である。

被告は、被告が会社を存続させるにはa営業所におけるタクシー事業を売却して債務の弁済に充てることを実行するほかなかった旨主張するが、当時の被告の経営状況からみて人員削減をも含む抜本的な経営再建策を実行する必要性があったとは認められるものの、被告の経営を再建するためには直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認定することが困難であることは上記説示のとおりであるから、被告の主張を採用することはできない。

以上によれば、本件においてa営業所に勤務する乗務員の全員を解雇するほどの必要性があったとは認めがたいといわざるを得ないことになる。

(2)  解雇回避努力について

証拠(証拠<省略>、原告X1、原告X2)及び弁論の全趣旨によれば、平成23年1月13日、被告はe社との間で、被告が所有するタクシー車両34台を代金2500万円で譲渡する旨の事業用自動車譲渡契約を締結し、同月14日にその代金を1億4850万円に変更する契約を締結したこと、同年4月9日被告は同月29日付けでa営業所の従業員全員を解雇する旨を掲示したこと、被告を含むY社グループ3社は、同月18日e社との間で、両者間の一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡契約の対価を合計2億7850万円とすることなどを合意したこと、この間被告が原告らについて賃金の減額や希望退職の募集等の解雇回避のための措置を採ったとの事情は一切うかがえないこと、以上の事実が認められる。

以上の事実によれば、被告はa営業所の従業員全員を解雇することを前提としてe社との間で事業用自動車譲渡契約あるいは事業譲渡契約を締結し、特段の解雇回避措置を採ることなく本件解雇を実行したものと認められるのであって、このような被告による本件解雇が解雇回避努力を行った上でされたものということができないことは明らかである。

被告は、事務担当者を解雇し、駐車場の賃貸借契約を解約し、被告代表者の妻から賃借している本社建物の賃料を無償とするなどの措置を執った旨主張するが、仮にそのような措置が執られたとしても、その内容に照らして本件解雇の回避措置としては不十分なものに止まっているといわざるを得ない。

また、被告は、本件解雇によりa営業所の従業員全員を解雇しているのであるから、希望退職の募集や退職勧奨を行うことは無意味である旨主張するが、本件において被告の経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認定することが困難であることは上記説示のとおりであり、そうである以上被告において適切な解雇回避努力を怠ったというべきことは明らかである。

さらに、被告は、a営業所の事業譲渡先であるe社に対し被告から解雇される乗務員を出来る限り雇用するよう申し入れてその了承を得ている旨主張するところ、証拠(証拠<省略>、原告X1、原告X2、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件解雇後被告は、事業譲渡先であるe社に原告らを含む被告の乗務員の情報を提供するとともに、被告乗務員を雇用するよう要請する一方、解雇された従業員の一部に対してe社への就職を勧誘したとの事実が認められなくはないが、結果的には被告からe社に移籍した乗務員は数名にとどまっているようであり、被告がとった措置が原告らの雇用確保のための措置として十分なものであったということはできない。

以上によれば、本件において被告が解雇を回避するための十分な措置を執ったとは認めがたいということになる。

(3)  人選の合理性について

弁論の全趣旨によれば、被告の事業所としては少なくともa営業所とb営業所の2つの営業所が存するところ、本件解雇はa営業所に所属する従業員全員を解雇するというものであるから、本件解雇における解雇する人員の選定基準の当否及びその公平性の有無の問題は、結局のところa営業所の乗務員のみを一括して解雇した措置の相当性という問題に帰着することになる。

この点について被告は、b営業所の事業には買い手がつかずa営業所のみが譲渡可能な営業所であったところ、会社を存続させるにはa営業所におけるタクシー事業を売却して債務の弁済に充てるほかなかった旨主張する。しかるところ、本件解雇当時の被告の経営状況からみて人員削減をも含む抜本的な経営再建策を実行する必要性があったとは認められるものの、被告の経営を再建するためには直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認定することが困難であることは上記説示のとおりであるから、被告の主張を採用することはできない。

そうすると、本件解雇における解雇人員の選定基準が合理的なものということはできないといわざるを得ない。

(4)  説明・協議について

ア 証拠(証拠・人証<省略>、被告代表者、原告X1、原告X2)及び弁論の全趣旨によれば、本件解雇についての説明・協議について以下の事実を認めることができる。

(ア) 被告は平成23年4月9日、同月29日をもってa営業所に勤務するY社グループ3社の従業員全員を解雇する旨を掲示した。

(イ) これを見て驚いた原告らを含む従業員らは、同月14日付けで被告に対し、本件解雇を拒否する旨を通告した。(証拠<省略>)

(ウ) 被告は、従業員らに対し、同月15日及び22日に本件解雇についての説明会を開催したが、その際本件解雇の理由としては、代表者の体調が不良であることや多額の負債による整理解雇であることなどの抽象的説明がされるに留まり、e社との間の事業譲渡契約に言及されることはなかった。

(エ) そのころ原告らを含むa営業所の従業員らは労働組合(以下「組合」という。)を結成することとし、原告X1がその委員長に就任した。

(オ) 組合は、同月28日、被告に対し団体交渉を要求したが、被告はいったんは同年5月2日にこれに応じる旨を回答したものの、その後これをキャンセルし、以後これに応じていない。(証拠<省略>)

(カ) そのころ被告は、解雇された従業員らのうちの一部に対し、e社への入社を勧誘した。(証拠<省略>)

(キ) その後組合は、代理人弁護士を通じて解決金による解決を要求したが、被告はこれを拒否した。(証拠<省略>)

イ 以上の事実、殊に、被告はe社との間で自動車あるいは事業の譲渡契約を締結し、あるいはそのための交渉をしながら、それについて説明することなく突然a営業所の従業員全員に対し解雇通告をしたこと、その後の説明会についても、事業譲渡について一切言及することなく、抽象的な解雇理由に言及するに留まったこと、組合からの団体交渉の要求にも応じていないことに照らすと、本件解雇について十分な説明、協議が行われたとは到底認めることができない。

(5)  まとめ

以上によれば、本件解雇についてはその必要性、回避努力、人選の合理性及び説明・協議のいずれもこれを認めることができないのであるから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないものとして、無効となるものというべきである。

2  争点(2)(損益相殺)について

被告は、原告らは本件解雇後新たな勤務先から別紙2のとおり給与、賞与を得ているから、原告らの請求する未払賃金から損益相殺されるべきである旨主張するところ、本件解雇後原告らが別紙2の各会社において稼働し、それぞれ各原告らの欄に記載された額の収入を得た事実は当事者間に争いがないから、これを各原告らの本件解雇直前の平均賃金からその4割を限度として損益相殺するのが相当であり、その結果被告が原告らに支払うべき未払賃金の額は別紙1<省略>記載のとおりとなる。

3  結論

以上の次第で、原告の請求は主文第1、2項の限度で理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤下健)

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