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さいたま地方裁判所 平成23年(ワ)845号 判決 2013年12月10日

原告

X1 他1名

被告

Y1株式会社 他1名

主文

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して三七二五万六六六〇円及びこれに対する平成二〇年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、連帯して一八八一万八七四四円及びこれに対する平成二〇年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告X1と被告らとの間では、これを一〇分し、その六を原告X1の負担とし、その余を被告らの負担とし、原告X2と被告らとの間では、これを一〇分し、その一を原告X2の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項、第二項及び第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、連帯して九〇二三万六七一五円及びこれに対する平成二〇年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2(以下「原告X2」という。)に対し、連帯して一九七三万六八六五円及びこれに対する平成二〇年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)によって負傷した原告らが、被告車を運転していた被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し民法七〇九条に基づき、被告車の保有者で被告Y2の使用者でもある被告Y1株式会社(以下「被告会社」という。)に対し自動車損害賠償責任保険法三条又は民法七一五条に基づき、損害賠償金(原告X1につき九〇二三万六七一五円、原告X2につき一九七三万六八六五円)及びこれらに対する本件事故の発生した平成二〇年五月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めた事案である。

一  前提となる事実(認定に用いた証拠を末尾に示した。証拠の記載がない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告X1は、昭和二六年○月○日生まれの男性であり、原告X2の夫である。

原告X1は、かつて飲食店(てんぷら割烹)を自営していたところ、平成二〇年一月に店を閉め、同年三月に株式会社aに就職した(賃金月額一八万円)ものの、一か月で退職し、本件事故当時無職であった。(甲二三、二四、二七、甲四八、五九、原告X1本人)

イ 原告X2は、昭和三二年○月○日生まれの女性であり、原告X1の妻である。

原告X2は、かつて原告X1の飲食店を手伝っていたが、本件事故当時、専業主婦として家事に従事していた。

ウ 被告会社は、医療用機器の製造等を業とする株式会社である。

被告会社の旧商号は、b株式会社であり、平成二一年八月一日にc株式会社を吸収合併した後、現在の商号に変更された。

エ 被告Y2は、被告会社の従業員である。

(2)  事故の発生

平成二〇年五月二七日午後二時三〇分ころ、別紙交通事故目録記載のとおり、本件事故が発生し、原告車を運転していた原告X1(当時五六歳)及び原告車に同乗していた原告X2(事故時五一歳)は、同事故により負傷した。

(3)  原告X1の傷害の内容および治療等の経緯

ア 傷病名

頚椎・腰椎捻挫、頚椎症性脊髄症

イ 治療経過

(ア) d病院

平成二〇年五月二七日から平成二一年七月一七日まで通院した(実日数一九日)。

この間の平成二一年二月二七日から同年三月二三日まで入院(二五日)し、同月二日に頚椎椎弓形成術を施行された。

(イ) e整形外科医院

平成二〇年六月一三日から平成二一年七月一七日まで通院した(実日数二六八日)。

ウ 症状固定日

平成二一年七月一七日(当時五七歳)

エ 後遺症の診断

四肢MMTが三~四レベルに低下し、巧緻傷害、歩行障害(T字杖にて何とか歩行)がある。(甲二〇)

オ 後遺障害の等級

原告X1は、平成二二年二月一七日、前記後遺症の後遺障害等級について、既存障害である自動車損害補償法施行令別表第二の第九級第一〇号の加重障害として、同施行令別表第二の第三級第三号であるとの認定を受けた(以下、後遺障害等級は単に等級のみで表記する。)。

原告X1は、この認定について異議申立てをしたが、同年九月一日に再度同一の等級の認定を受けた。(甲八、九)

カ 既払額

原告X1は、保険会社を通じて、平成二一年七月一七日までの治療費等として一七四〇万六〇三六円(内一六〇三万円は自賠責保険)の支払を受けた。(甲八、一一、乙一)

(4)  原告X2の傷害の内容および治療経過等

ア 傷病名

頚椎・腰椎捻挫、頚椎症性脊髄症

イ 治療経過

(ア) d病院

平成二〇年五月二七日から平成二一年七月一七日まで通院した(実日数一五日)

(イ) e整形外科医院

平成二〇年六月一三日から平成二一年七月一七日まで通院した(実日数二七三日)。

(甲三一の一ないし一四、甲六〇、原告X2本人)

ウ 症状固定日

平成二一年七月一七日(当時五二歳)(甲四〇、四一、弁論の全趣旨。これに反する乙五の部分は、平成二一年一月以降に症状の改善があまり進んでいないとしても、同年五月一日の診察でもなお継続治療を要するとされていること(甲三〇の一一により認める。)からして、遅くとも事故発生から一年が経過した同月三一日を症状固定日と認めるには足りない。)

エ 後遺症の診断

四肢MMTが四レベルに低下し、巧緻傷害、歩行障害、脊柱管狭窄(頚椎MRIではC二/三、三/四、四/五、五/六、六/七レベル)がある。(甲四〇)

オ 後遺障害の等級

原告X2は、平成二二年七月一二日、前記後遺症の後遺障害等級について、自動車損害補償法施行令別表第二の第九級一〇号であるとの認定を受けた。(甲三三)

カ 既払額

原告X2は、保険会社を通じて、平成二一年七月一七日までの治療費等として七四一万一七四六円(内六一六万円は自賠責保険)の支払を受けた。(甲三二ないし三四)

二  争点

(1)  原告X1についての損害賠償額

(原告X1の主張)

原告X1についての損害賠償額は、別紙「検討一覧表(X1)」の「(原告)」欄記載のとおりであるが、主要な点については以下のとおりである。

ア 付添看護費

原告X1が入院した病院は完全看護だが、常に付き添っているわけではなく(どこの病院でも同様である)、また、原告X1が受けた椎弓形成術は頚部という枢要部に対するものであり、通常、術後三日目までは起きることができず、術後二週間で抜糸という経過をたどるもので、近親者である原告X2が付き添う必要性があった。

したがって、入院分の付添看護費として一六万二五〇〇円(=6500円/日×25日)が認められるべきである。

イ 将来介護関係費

原告X1は、本件交通事故により、頚椎症性脊髄症と診断され、四肢機能不全、巧緻障害、歩行障害(T字杖にて何とか歩行)となり、日常生活において介助を要することとなった。

したがって、今後、随時、介護が必要であり、将来分の付添看護費が発生するところ、五七歳の男性である原告X1の平均余命年数は二五年であるから、そのライプニッツ係数は一四・〇九三九であるから、四一一五万四一八八円(=8000円/日×365日×14.0939)が損害として認められるべきである。

ウ 休業損害

原告X1は平成一〇年六月一二日に発症した脳出血に伴う右半身のしびれを理由として平成一一年四月二三日に身体障害者手帳を交付されたが、その後も平成二〇年一月までは天ぷら割烹を自営しており、店を閉めたのは不景気が理由であったし、その後に就職した会社を一か月で辞めたけれども、給与の安さと残業代の支払いがなかったことが理由であって、同人の労働能力とは関係がないから、これを第九級第一〇号の加重障害ということはできない。

原告X1は同社を辞めた後も本件事故の直前まで再就職に向けてハローワークに足繁く通い面接に参加するなど勤労意欲は十分であった。

したがって、原告X1の労働能力は本件事故前からかなり低下していたとはいえず、本件事故がなければ原告X1は仕事に就くことはできたから、ハローワークにおいて探していた求人の勤務条件(月収二〇万円から三〇万円)を考慮して休業損害の算定基準は年収三〇〇万円(二五万円×一二)とし、さらに本件事故が発生しなかったとしても、実際に再就職での業務を開始するには更に一か月程度要したであろうことを考慮すると、休業損害として三一八万〇八二二円(=300万円÷365日×(417日-30日))が認められるべきである。

エ 逸失利益及び慰謝料(後遺障害等級)

(ア) 原告X1は、本件事故による頚髄損傷によって、両上肢・両下肢に著しい障害が残り、寝返りを打つことは何とか可能であるものの、他の日常的な行動は、全・半介助がなければできなくなり、ましてや、自宅外での一人での行動は困難であって、四肢の運動性・支持性が相当程度失われており、中程度の四肢麻痺が残ったか、あるいは、仮に、軽度の四肢麻痺であったとしても、すでに述べたとおり、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するものとなった。

原告X1のこのような身体の状況からすれば、自動車損害補償法施行令別表第一の第二級第一号(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」)に相当するのであり、労働能力を一〇〇%喪失したものである。

(イ) 原告X1は、症状固定時五七歳であり、上記のとおり、五七歳男性の平均余命は二五年で、六七歳までの年数(一〇年)が、上記平均余命の二分の一を下回ることから、労働能力喪失期間は、平均余命の二分の一に当たる一二年とするべきであり、これに相当するライプニッツ係数は、八・八六三三である。

したがって、逸失利益の計算式は次のとおりとなる。

300万円×1×8.8633=2658万9900円

(ウ) 原告X1が頚部という人体の枢要分に重傷を負ったこと及び後遺障害等級が第二級第一号であることから、入通院慰謝料は二二四万四〇〇〇円、後遺障害慰謝料は二三七〇万円が認められるべきである。

オ 素因減額

原告X1の「脊柱管狭窄」は、仮に同人に存在したとしても、個体差として当然にその存在が想定される加齢による変化であって、「疾患」に当たらないというべきである。

また、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして日常生活において通常人に比べてより慎重な行動を要請されている等といった事情は認められないし、治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与したとも認められない。

さらに、本件事故の衝撃は決して軽いものではなかった。

したがって、原告X1の「脊柱管狭窄」は、仮にそれが認められるとしても、斟酌すべき素因ではない。

(被告らの主張)

原告X1についての損害賠償額は、別紙「検討一覧表(X1)」の「(被告)」欄記載のとおりであるが、主要な点については以下のとおりである。

ア 付添看護費

入院時は完全介護であったため近親者の介護は不要であることから、入院介護費を損害として認めるべきではない。

イ 将来介護関係費

原告X1の現在の介護状況は、要支援二とされており、一週間のうち、ほとんどの時間を訪問介護が無い状態で生活することができている。また、外出や歩行も十分に可能な状況にあり、食事も自分でできることから、将来的に介護を行う必要性は小さいといえる。

また、現在、原告X1についての介護料金は月額四万一四〇九円であり、原告X1の自己負担額はその一割の四一四一円にとどまる。

そして、期間は、症状固定時から平均余命までの年数は二五年であり、ライプニッツ係数は一三・四二二八とすべきである。

したがって、仮に、原告X1において将来介護費用が必要になるとしても、その金額は、多くとも、六六万七〇〇五円(=4141円/月×12か月×13.4228)にとどまるはずである。

ウ 休業損害

原告X1は本件事故前からの既存障害として「脳出血にて右半身のしびれ」が認められ、自賠責の後遺障害等級認定でも、既存障害第九級第一〇号(「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」)に該当するとされていたことから、もともと原告X1の労働能力は、本件事故前からかなり低下していたことが窺われる。

また、平成二〇年一月にはそれまで営んでいた天ぷら割烹を廃業している。その後、同年三月には就職したものの一か月で退職している。その後、原告X1は就職活動を行った旨を主張しているが、事故が発生する同年五月二七日までの約二か月の間に新たな就職先は決まっていない。

したがって、原告X1は、本件事故発生時に無職であり、近い時期に収入を得る見込みもなかったといえるから、休業損害が生じる余地はない。

エ 逸失利益及び慰謝料(後遺障害等級)

(ア) 原告X1の前記イで指摘した介護状況を踏まえるときは、「食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの」とはいえないことから、原告の後遺障害等級は第二級第一号には該当せず、第三級第三号に留まることは明らかであり、これを踏まえて逸失利益及び慰謝料を算定するべきである。

(イ) 事故直近の収入が月額一五万二〇一三円であり、これを年額に換算すると一八二万四一五六円となる。

労働能力喪失期間は、症状固定時から平均余命までの二五年間の二分の一に相当する一二年間となる。そして、この場合のライプニッツ係数は、一三年のライプニッツ係数(九・三九三六)から一年のライプニッツ係数(〇・九五二四)を控除した八・四四一二とすべきである。

したがって、逸失利益の計算式は以下の通りとなる。

182万4156円×(100%-35%)×8.4412=1000万8742円

(ウ) 慰謝料についても、入通院慰謝料は一八七万円、後遺障害慰謝料は一三〇〇万円にとどまるべきである。

オ 素因減額

原告X1の本件事故前の脊柱管狭窄及びこれに伴う脊髄圧迫は、本件事故のわずかな衝撃によっても「頚椎症性脊髄症」を発症する程度まで悪化していたものであるから、素因減額の対象とすべきであることが明らかであり、少なくとも二五%の素因減額がされるべきである。

(2)  原告X2についての損害賠償額

(原告X2の主張)

原告X2についての損害賠償額は、別紙「検討一覧表(X2)」の「(原告)」欄記載のとおりであるが、主要な点については以下のとおりである。

ア 休業損害

原告X2は本件事故当時専業主婦として家事に従事しており、その基礎収入は、平成二〇年度賃金センサスから、三四九万九九〇〇円である。

そして、原告X2は後遺障害等級第九級第一〇号の認定を受けており、症状固定時でも労働能力は六五%までにしか回復していない。

したがって、少なくとも、本件事故から症状固定時までの全期間のうち実通院日数二八八日分の二七六万一五六五円(=349万9900円÷365日×288日)が休業損害として認められるべきである。

イ 逸失利益

原告X2の頚椎症性脊椎症は期間の経過により症状の改善を期待することはできないから労働喪失期間を一五年とするべきであり、ライプニッツ係数は一〇・三七九七となり、後遺障害等級が第九級第一〇号であるから労働能力喪失率は三五%である。

したがって、原告X2の逸失利益は一二七一万四七六九円(=349万9900円×0.35×10.3797)というべきである。

ウ 素因減額

原告X2の「脊柱管狭窄」は、個体差として当然にその存在が想定される加齢による変化であって、「疾患」には当たらない。

また、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして日常生活において通常人に比べてより慎重な行動を要請されている等といった事情はなく、治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与したともいえない。

さらに、本件事故の衝撃は決して軽いものではなかった。

したがって、原告X2の「脊柱管狭窄」は、仮に存在したとしても、斟酌すべき素因ではない。

(被告らの主張)

原告X2についての損害賠償額は、別紙「検討一覧表(X2)」の「(被告)」欄記載のとおりであるが、主要な点については以下のとおりである。

ア 休業損害

原告X2は、平成二〇年一月までは、天ぷら割烹f店を手伝っていたが、廃業後は他に仕事をして収入を得た事実はなく、家事を行っていた。

そのため、原告X2の休業損害については、本件障害の部位及び程度に鑑みて、一日あたりの主婦休損を五七〇〇円の五〇%相当額である二八五〇円として算定されるべきである(症状固定日を平成二一年五月三一日とすれば、それまでの実通院日数二五二日につき、七一万八二〇〇円(2850円×252日=71万8200円)となる。)。

イ 逸失利益

原告X2の基礎収入は、賃金センサス女子労働者全年齢平均賃金額三四九万九九〇〇円とし、労働能力喪失率は後遺障害等級が第九級第一〇号であることにより三五%となる。

労働能力喪失期間については、経験則上、期間の経過により症状の改善が期待できるから六年として計算すべきである。

ライプニッツ係数は、七年のライプニッツ係数(五・七八六四)から一年のライプニッツ係数(〇・九五二四)を控除した四・八八四〇とすべきである。

したがって、逸失利益の計算式は以下のとおりとなる。

349万9900円×35%×4.8340=592万1480円

ウ 素因減額

原告X2の本件事故前の脊柱管狭窄及びこれに伴う脊髄圧迫は、本件事故のわずかな衝撃によっても「頚椎症性脊髄症」を発症する程度まで悪化していたものであるから、素因減額の対象とすべきであることが明らかであり、少なくとも二五%の素因減額がされるべきである。

第三当裁判所の判断

一  被告らの原告らに対する本件事故に基づく損害賠償責任

本件事故の態様を踏まえるときは、被告Y2は、被告会社の業務として被告車両を運転中、脇見運転をしていたために、前方不注意となり、被告車両の前方に赤信号で停車していた原告車両の存在に気づくのが遅れ、制動が遅れた結果、本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任があるというのが相当である。

また、被告会社は、被告Y2の使用者であるところ、本件事故は、被告Y2が業務として被告車両を運転中に起こしたものであり、事業の執行につき生じたものといえるから、民法七一五条一項に基づき、原告らに生じた損害をすべて賠償すべき責任があるというのが相当である。

二  争点(1)(原告X1についての損害賠償額)について

(1)  前記第二の一の事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告X1についての弁護士費用以外の各損害額は、以下のとおり、別紙「検討一覧表(X1)」の「(裁判所)」欄記載のとおりであると認めることができる。

ア 入院関係費(甲一〇の一及び二)

(ア) 入院費八一万五三七〇円、入院雑費三万七五〇〇円(=1500円/1日×25日)を認めるのが相当である。

(イ) 原告X1の主張する付添看護費は、原告X1がd病院に入院中は完全介護であったことについて当事者間に争いがないから、これを損害として認めるのは相当ではない。

イ 通院・介護関係費(甲一一、甲一二の一ないし四、甲一三の一ないし三、甲一四の一及び二、甲一五の一及び二、甲一六の一ないし九、甲一七の一ないし五一、甲二〇ないし二二、四八、四九、五〇の一、乙一、原告X1本人)

(ア) 本件事故日である平成二〇年五月二七日から症状固定日である平成二一年七月一七日までの間、原告X1がd病院及びe整形外科医院へ通院し治療を受けるのに要した費用として、治療費(g薬局、h薬局に支払った薬代を含む。)として合計一一六万一三二八円、通院交通費として合計三六万三六六八円を認めるのが相当である。

(イ) 原告X1は、頚椎症性脊髄症と診断され、日常生活において介助を要することとなり、要支援二(七段階のうち軽い方から二番目)の認定を受けたこと、週三回七五分の訪問介護を受けており、入浴介助(洗濯、着替え、爪切り)、掃除、洗濯物干し等についてヘルパーの支援を受けていること、介護料金は月額で四万一四〇九円であり、原告X1の自己負担額はその一割の四一四一円であること、原告X1は日常生活で手足、首が自由に動かせず、動作が困難な場面があり、長時間の立位・歩行は困難であり、自宅内でエレベーターを使用し、原告X2の介助も受けていること、一方で、原告X1は徒歩一〇分程度のスーパーに自ら歩いて買物に行っており、自分でスプーンやフォークを使用して食事を行うことができ、自分で字を書くことも可能な状態にあることが認められる。

これらの事情を総合考慮するときは、原告X1において、将来的にも介護を受ける必要があるということができ、それは前記の訪問介護につきるものとは必ずしもいい難いけれども、中等度の四肢麻痺があるとまではいえず、また、軽度の四肢麻痺があるとしても、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するとまでもいい難い。

したがって、原告X1の将来介護費用としては、一日の介護費用として相当と認められる四〇〇〇円に症状固定時(平成二一年七月一七日)の平均余命までの二五年のライプニッツ係数を乗じて求められる一九五九万七二八八円(=4000円×365日×13.4228)を認めるのが相当である。

なお、前記ライプニッツ係数(一三・四二二八)は、本件事故当時五七歳であった原告X1について、損害が発生した本件事故発生時から一年後に症状固定となったことから、症状固定時(平成二一年七月一七日)の平均余命までの二五年のライプニッツ係数を、本件事故発生時(平成二〇年五月二七日)の二六年のライプニッツ係数(一四・三七五二)から一年のライプニッツ係数(〇・九五二四一)を控除することにより算定したものである。

ウ 文書料(甲一八の一ないし三、甲一九の一及び二、乙一)

文書料として合計三万〇九七五円を認めるのが相当である。

エ 休業損害(甲二〇ないし二七、甲五九、原告X1本人)

原告X1は平成一〇年六月一二日に発症した脳出血に伴う右半身のしびれを理由として平成一一年四月二三日に身体障害者手帳を交付されており、これを第九級第一〇号の加重障害であるということができる。

もっとも、原告X1は前記手帳交付後も平成二〇年一月までは天ぷら割烹を自営していること、店を閉めたのは不景気が理由であったこと、その後に就職した会社を一か月で辞めた理由も同人の労働能力とは必ずしも関係がなかったことが認められる。そうすると、前記加重障害があったとしても、原告X1の労働能力が休業損害を観念し得ないほど低下していたとはいえない。

そして、原告X1は、前記会社を辞めた後も本件事故の直前まで再就職に向けてハローワークに通い面接に参加するなど勤労意欲があったことが認められること、前記会社の月額賃金は一八万円であったこと、本件事故が発生しなかったとしても実際に再就職での業務を開始するには更に三か月程度要したであろうことを考慮すると、休業損害として一九三万五一二三円(=18万円/月×12か月÷365日×(417日-90日))を認めるのが相当である。

オ 逸失利益

(ア) 前記イ(イ)で認定した原告X1の介護及び生活の状況を踏まえるときは、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」とはいえないことから、原告の後遺障害等級は第二級第一号には該当せず、第三級第三号に留まるといわざるを得ない。

(イ) 事故直近の収入が月額一八万円であり、これを年額に換算すると二一六万円となる。

そして、労働能力喪失期間は、症状固定時から平均余命までの二五年間の二分の一に相当する一二年間となる。この場合のライプニッツ係数は、前記イ(イ)と同様、一三年のライプニッツ係数(九・三九三六)から一年のライプニッツ係数(〇・九五二四)を控除して求められる八・四四一二である。

そして、本件事故による逸失利益を算定する上では、本件事故前の既存症である「脳出血に伴う右半身のしびれ」による喪失分を除外して労働能力喪失率を求めることが相当であるから、後遺障害等級第三級第三号の喪失率(一〇〇%)から既存症の加重障害についての後遺障害等級第九級第一〇号の労働能力喪失率(三五%)を控除した率を適用する。

したがって、原告X1の本件事故による損害としての逸失利益は、本件事故直前の年収に労働能力喪失率とライプニッツ係数を乗じて求められる一一八五万一四四四円(=216万円×(100%(第3級)-35%(第9級))×8.4412)を認めるのが相当である。

カ 慰謝料

原告X1の本件事故についての慰謝料としては、本件事故の態様、原告X1の負傷状況、介護・生活状況等に照らし、入通院慰謝料は一八七万円、後遺障害慰謝料は一四〇〇万円を認めるのが相当である。

(2)  本件事故が赤信号で停車中の原告車両に被告車両が後方から追突したものであって、原告車両の後部バンパーや後部ドアーバネルに凹みができる相当程度の衝撃を原告らに加えたものであること(甲四三の二、三)を考慮するときは、原告X1の頚椎MRIの検査所見(甲四の一、甲二〇)によって認められる脊柱管狭窄及びこれに伴う脊髄圧迫は、「頚椎症性脊髄症」を発症する程度まで悪化していたということはできず、損害の公平な分担を検討する上では、加齢による変化以上の扱いをすることは相当でなく(これに反する乙四の部分は採用しない。)、この素因を考慮して減額することはしない。

(3)  前記アないしカの合計額五一六六万二六九六円に既払金一七四〇万六〇三六円を控除した残額は三四二五万六六六〇円であるが、さらに、本件事故の対応について原告X1の要した弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害としては三〇〇万円を認め、これを加算するのが相当である。

したがって、被告らが原告X1に対し、本件事故を不法行為とする損害賠償として連帯して支払うべき相当因果関係のある損害額は三七二五万六六六〇円である。

三  争点(2)(原告X2についての損害賠償額)について

(1)  前記第二の一の事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告X2についての弁護士費用以外の各損害額は、以下のとおり、別紙「検討一覧表(X2)」の「(裁判所)」欄記載のとおりであると認めることができる。

ア 通院・介護関係費(甲三四、甲三五の一及び二、甲三六の一ないし三、甲三七の一及び二、原告X2本人)

本件事故日である平成二〇年五月二七日から症状固定日である平成二一年七月一七日までの間、原告X2がd病院及びe整形外科医院へ通院し治療を受けるのに要した費用として、治療費(h薬局に支払った薬代を含む。)として合計一一二万二四二六円、通院交通費として合計二一万四七三〇円を認めるのが相当である。

イ 文書料(甲三八、甲三九の一及び二)

文書料として合計二万二五〇〇円を認めるのが相当である。

ウ 休業損害(甲六〇、原告X2本人)

原告X2は、平成二〇年一月までは、原告X1の飲食店を手伝っていたが、廃業後は他に仕事をして収入を得たことはなく、本件事故当時、専業主婦として家事に従事していきことが認められることから、その基礎収入は、平成二〇年度賃金センサス(女子労働者産業計、企業規模計、学歴計、全年齢平均)から、年額三四九万九九〇〇円とするのが相当である。

そして、原告X2の障害部位・程度、後遺障害等級第九級第一〇号の認定を受けていることを考慮するときは、本件事故から症状固定時までの全期間のうち実通院日数二八八日分の二七六万一五六五円(=349万9900円÷365日×288日)を休業損害として認めるのが相当である。

エ 逸失利益(甲四〇、四一、五九、乙五)

原告X2の基礎収入は前記ウのとおり年額三四九万九九〇〇円とするのが相当であり、労働能力喪失率は後遺障害等級が第九級第一〇号であることから三五%となる。

そして、原告X2の後遺症である頚椎症性脊椎症は、同原告の年齢等を考慮すると、期間の経過により症状の改善が期待できるとは必ずしもいえないことから、労働能力喪失期間を一五年とするのが相当である。この場合のライプニッツ係数は、前記二(1)イ(イ)と同様、一六年のライプニッツ係数(一〇・八三七八)から一年のライプニツツ係数(〇・九五二四)を控除して求められる九・八八五四である。

したがって、原告X2の本件事故による損害としての逸失利益は、前記基礎収入(年額)に労働能力喪失率とライプニッツ係数を乗じて求められる一二一〇万九二六九円(=349万9900円×35%×9.8854)を認めるのが相当である。

オ 慰謝料

原告X2の本件事故についての慰謝料としては、本件事故の態様、原告X2の負傷状況(甲四〇、四一によれば他覚症状があることが認められる。)、生活状況等に照らし、入通院慰謝料は一六二万円、後遺障害慰謝料は六九〇万円を認めるのが相当である。

(2)  本件事故の態様を考慮するときは、原告X2の頚椎MRIの検査所見(甲四〇、四一)によって認められる脊柱管狭窄及びこれに伴う脊髄圧迫も、原告X1と同様、「頚椎症性脊髄症」を発症する程度まで悪化していたということはできず、損害の公平な分担を検討する上では、加齢による変化以上の扱いをすることは相当ではなく(これに反する乙五は採用しない。)、この素因を考慮して減額することはしない。

(3)  前記アないしオの合計額二四七三万〇四九〇円に既払金七四一万一七四六円を控除した残額は一七三一万八七四四円であるが、さらに、本件事故の対応について原告X2の要した弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害としては一五〇万円を認め、これを加算するのが相当である。

したがって、被告らが原告X2に対し、本件事故を不法行為とする損害賠償として連帯して支払うべき相当因果関係のある損害額は一八八一万八七四四円である。

四  結語

以上の次第であり、原告らの本訴請求は、被告らに対し、原告X1につき三七二五万六六六〇円、原告X2につき一八八一万八七四四円及びこれらに対する本件事故のあった日である平成二〇年五月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余の部分は理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法六五条一項、六四条本文、六一条を適用する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木拓児)

(別紙)

交通事故目録

日時 平成二〇年五月二七日午後二時三〇分頃

場所 さいたま市大宮区堀の内町一丁目一〇二番地先路上(県道新方須賀さいたま線)

原告車両 軽貨物自動車〔ナンバー<省略>〕

運転者 原告X1

被告車両 普通乗用自動車〔ナンバー<省略>〕

運転手 被告Y2

保有者 被告会社

事故態様 被告Y2が被告会社の業務として被告車両を運転中、脇見運転をしていたために、前方で赤信号で停車していた原告車両の存在に気づくのが遅れ、制動が遅れた結果、原告車両の後方に被告車両を追突させた。

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