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さいたま地方裁判所 平成23年(行ウ)19号 判決 2012年1月25日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

坂戸市長Aが原告に対し、別紙物件目録記載の家屋につき、平成22年12月1日付けでなした平成22年度固定資産税7万5400円、同年度都市計画税2万0500円の賦課処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は、平成21年12月7日に新築された別紙物件目録記載の家屋(本件家屋)につき坂戸市長から平成22年度固定資産税及び都市計画税(固定資産税等)の賦課処分(本件処分)を受けた原告が、本件処分に係る賦課期日である平成22年1月1日時点において原告は本件家屋の登記簿にも家屋補充課税台帳にも所有者として登記又は登録をされていなかったのであるから、原告は平成22年度の固定資産税等の納税義務者ではなく、したがって本件処分は地方税法(法)に反し違法であると主張して、同処分の取消しを求めている事案である。

1  争いのない事実(証拠等により容易に認定できる事実については、かっこ内に証拠を示す。)

(1)  原告は、平成21年12月7日、本件家屋を新築した。

(2)  本件家屋について、平成22年1月1日時点では、登記簿にも家屋補充課税台帳にも原告名義の登記又は登録がなかった。その後、平成22年10月8日付けで、登記原因を「平成21年12月7日新築」とし、所有者を原告とする表示登記がされ、同年12月1日には、所有者を原告として「平成22年度家屋課税台帳兼補充台帳」に登録された。(甲1、5)

(3)  坂戸市長は、平成22年12月1日付けで、原告に対し、平成22年度の固定資産税7万5400円及び都市計画税2万0500円を賦課した(本件処分)。

(4)  原告は、本件処分を不服として、平成23年1月13日、坂戸市長に対し異議申立てをした。

これに対し、坂戸市長は、平成23年2月9日付けで、上記異議申立てを棄却する決定をした。(甲4)

(5)  原告は、平成23年4月10日、本件訴えを提起した。

2  争点

原告は平成22年度の固定資産税等の納税義務を負うか。

3  争点に関する当事者の主張

(被告の主張)

原告は、平成22年度の固定資産税等の納税義務を負う。

納税義務者は、固定資産の所有者である(法343条1項)が、賦課期日である1月1日現在における家屋の所有者であればよく、1月1日現在に登記又は登録されている者だけに限定されない。1月1日に未登記の家屋であっても、1月1日に存在し所有者が明らかな場合には課税することができるのである。

原告は、平成22年1月1日現在において、本件家屋の所有者として登記も登録もされていなかったが、同日現在における本件家屋の所有者で、平成22年度の家屋課税台帳に登録されるべき者であり、当該年度の固定資産税等の納税義務者である。原告が主張するような考えがまかり通るとすれば、家屋を建てた後、表示登記を数年遅らせて遡って建築年月日を登記すれば、固定資産税を数年間免れることになり、不公平である。

納税義務者については、新築家屋の場合には、賦課期日現在家屋が完成しているか否かにより判断され、所有権移転の場合には、賦課期日現在の登記簿の記載により判断されるものである。新築家屋と既存家屋の所有権移転の場合の法の解釈は異なるのであり、原告の主張は、所有権移転の場合の解釈を新築家屋の場合に当てはめたもので、失当である。

(原告の主張)

固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とされており(法359条)、固定資産税の納税義務者は賦課期日における固定資産の「所有者」である(法343条1項)。この場合の「所有者」とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳もしくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう(同条2項)。すなわち、「1月1日の家屋の所有者として登記又は登録されている者」に対して課税するのではなく、「1月1日に家屋の所有者として登記又は登録されている者」に対して課税するということであり、このことは都市計画税についても同様である(法702条2項、702条の6)。原告が、平成22年1月1日現在、本件家屋の所有者として登記簿に登録されておらず、かつ、家屋補充課税台帳にも登録されていなかったことは争いがないから、その後に当該家屋につき登録がなされても平成22年度の固定資産税等については課税できないはずである。

本件のようなケースでは、平成22年度について遡及的に課税することを法は予定しておらず、翌平成23年度における固定資産課税台帳の縦覧を経て、平成23年度から課税されることになるだけのことである。平成22年度について遡及して課税できるとすれば、本来ならば固定資産課税台帳の縦覧の機会を与えられるべきであるのに、このような機会を奪われ、いきなり課税されることになり、不当である。

個人に係る市町村民税については、賦課期日である1月1日現在、住民基本台帳に登録されていなくても、1月1日現在当該市町村内に住所を有する者を住民基本台帳に記録されている者とみなす旨のみなし規定が置かれている(法294条3項)のに対し、固定資産税についてはこのようなみなし規定が置かれていない。このような市町村民税との対比においても、賦課期日の時点において登記簿又は家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されていなくてもよいとする解釈は誤りであることが明らかである。

納税義務者につき、新築家屋の場合と既存家屋の所有権移転の場合とを分けて規定する条文は存在せず、これらを分けて論ずる被告の主張は独自の解釈に過ぎない。被告が、新築家屋について法の明文の規定なくして例外を認めるというならば、それは立法論であって解釈論ではない。

新築建物の所有権を取得した者は、所有権取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければならないところ(不動産登記法47条1項)、本件家屋の完成日は平成21年12月7日であるから、1か月以内である平成22年1月6日に登記申請をしたとしても何ら問題はなく、この場合でも平成22年1月1日現在においては登記又は登録がないのであるから、平成22年度の固定資産税等は賦課できないことに変わりはない。そうすると、本件家屋の登記が平成22年10月8日になったことにより特に責められるべき問題があるとはいえない。これは、賦課期日制度を採用している以上やむを得ないものである。

第3当裁判所の判断

1  固定資産税について

(1)  地方税法上、固定資産税の課税客体は、土地、家屋及び償却資産(固定資産)とされ(法342条1項、341条1号)、納税義務者は、固定資産の所有者とされる(法343条1項)。そして、これらの課税要件を確定するための基準日として、賦課期日が、当該年度の初日の属する年の1月1日と定められている(法359条)。すなわち、固定資産税の課税客体は、賦課期日現在において当該市町村に所在する固定資産であり、納税義務者は、賦課期日現在における固定資産の所有者ということになる。

(2)  新築家屋が課税客体となる時期は、一連の新築工事が完了した時点であると解されるところ(最高裁昭和59年12月7日第二小法廷判決・民集38巻12号1287頁)、本件において、本件家屋に係る一連の新築工事が平成21年12月7日に完了したことは当事者間に争いがないから、平成22年度の固定資産税の賦課期日である平成22年1月1日現在において、課税客体である本件家屋が所在したものと認められる。そして、同日現在における本件家屋の所有者が原告であることについても争いがない。そうである以上、賦課期日現在において現に課税客体として存在する本件家屋の賦課期日現在における所有者である原告は、平成22年度の固定資産税の納税義務者として、納税義務を負うものというべきである。

(3)  これに対し、原告は、原告が納税義務を負わないことの根拠として、賦課期日である平成22年1月1日現在において、原告が登記簿にも家屋補充課税台帳にも所有者として登記又は登録されていなかったことを主張するので、この点について検討する。

前述のとおり、固定資産税の納税義務者は固定資産の所有者であるところ(法343条1項)、ここにおける「所有者」とは、家屋については、登記簿又は家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいうとされる(同条2項前段)。このように、納税義務者の決定においては、登記簿に所有者として登記されている者が原則として当然に納税義務者となるという意味において、「登記名義人課税の原則」が採用されているということができる。不動産について登記簿の記載と異なる真実の所有者を判定するのは容易でないこと、かかる判断は窮極的には司法判断に属するものであって行政庁がするには適さないこと、複雑多岐な私法上の実体関係に課税庁が介入することは一律大量処理の観点からも妥当でないことなどから、これらの考慮と円滑迅速な課税という課税技術上の要請に基づき、所有者判定の基準として、上記のような登記名義人課税の原則が採用されたものと解される。したがって、所有権が移転されたにもかかわらずその旨の登記がされていない場合等、登記簿上の所有名義人と真実の所有者が異なり得る場合には、賦課期日現在における登記簿の記載を基準として所有者を判定し、登記簿上の所有名義人に課税することとなるのである。もっとも、固定資産税は、固定資産の資産価値に着目し、その所有の事実に担税力を見出して課される一種の財産税であると解されることからすれば、固定資産税の実質的な負担者は、固定資産の真実の所有者であるべきであって、「固定資産税は、固定資産の所有者……に課する。」とする法343条1項の規定も、この原則を明らかにしたものということができる。このため、登記簿上の所有名義人が真実の所有者と異なった場合、登記名義人課税の原則により固定資産税を課税されてこれを納付した登記簿上の所有名義人は、真実の所有者に対して不当利得返還請求をすることができるのであって(最高裁昭和47年1月25日第三小法廷判決・民集26巻1号1頁)、固定資産の真実の所有者が固定資産税の実質的な負担者となるべきとの原則はこの限りで維持されるものである。

このように、登記名義人課税の原則が、所有者判定の基準として課税技術上採られた措置に過ぎないことに鑑みれば、この原則は、既存の家屋についての所有権移転の場合と異なり、新築家屋について、賦課期日現在における登記簿への登記又は家屋補充課税台帳への登録を要求する趣旨のものではなく、賦課期日現在において未登記であっても、課税客体として存在する以上は、その所有者が固定資産税の納税義務者となることに何ら問題はないというべきである。そして、このことは、固定資産の所有の事実に担税力を見出して課される一種の財産税としての固定資産税の性格からも認められるものである。そうであれば、固定資産税を賦課する段階において、登記簿又は家屋補充課税台帳の記載を基準として所有者を判定すれば足りるのであり、所有者判定の基準としての登記名義人課税の原則が、賦課期日現在において存在する新築家屋について、賦課期日時点で未登記の場合に固定資産税の納税義務を誰も負わないとの趣旨を含むものとまで解することはできない(法343条2項前段も、文理上、登記簿又は家屋補充課税台帳への登記又は登録が、賦課期日の時点においてなされていることを要求していない。)。したがって、このような場合には、固定資産税の納税義務者として課税するために、賦課期日現在において登記簿又は家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている必要はなく、賦課決定処分時に賦課期日における所有者として登記又は登録されていれば足りると解するのが相当である。原告の主張は、所有者の判定基準としての登記名義人課税の原則と、課税要件の確定に関し、基準日後に権利変動しても納税義務者の変動が生じないものとして徴税の便宜を図る賦課期日の制度とを混同したものであって、採用することができない。

なお、原告は、納税義務者のみなし規定が置かれている市町村民税との対比からも、固定資産税については賦課期日現在において登記簿又は家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている必要があると主張する。しかしながら、かかる主張も登記名義人課税の原則と賦課期日の制度とを混同したものといえるし、上記規定は住所の判定基準である住民基本台帳に記録されないまま課税することを認めるものであって(法294条3項、4項参照)、登記簿及び家屋課税台帳兼補充台帳の記載に従って課税する本件とは場面を異にし、採用することができない。

(4)  以上より、原告は、賦課期日である平成22年1月1日現在における本件家屋の所有者として、平成22年度の固定資産税の納税義務者となる。坂戸市の担当者は、平成22年12月1日、本件家屋の所有者、所在及び評価額等を家屋課税台帳兼補充台帳に登録し、かかる台帳に基づき、同日付けで原告に対し固定資産税を賦課したものであるから、本件処分に違法な点はない。

2  都市計画税について

(1)  都市計画税は、都市計画法5条の規定により都市計画区域として指定されたもののうち、市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し、その価格を課税標準として、当該土地又は家屋の所有者に課される(法702条1項)。ここにおける「所有者」とは、当該土地又は家屋に係る固定資産税について法343条において所有者とされ、又は所有者とみなされる者をいう(法702条2項)。都市計画税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日である(法702条の6)。

(2)  これらの規定からすれば、都市計画税の納税義務者についても固定資産税と同様に解することができるから、前記1で述べたのと同様、原告は、平成22年度の都市計画税についても納税義務者となる。

第4結論

以上によれば、原告は、本件家屋について平成22年度の固定資産税等の納税義務者となるから、本件処分は適法である。よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原啓一郎 裁判官 古河謙一 髙部祐未)

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