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さいたま地方裁判所 平成24年(ル)1371号 決定 2012年9月11日

債権者

X1

同代理人弁護士

山田裕也

債務者

第三債務者

a信用金庫

同代表者代表理事

主文

1  本件申立てを却下する。

2  申立費用は債権者の負担とする。

理由

1  事案の概要

本件は、債権者が、青森地方裁判所弘前支部平成24年(ワ)第43号事件の執行力ある判決正本を債務名義として、同債務名義に表示された請求権を請求債権とし、債務者が第三債務者に対して有する預金債権の差押えを求める申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である(本件申立ての請求債権目録及び差押債権目録は、別紙請求債権目録<省略>及び同差押債権目録<省略>記載のとおりである。)。債権者は、その申立書において、差し押さえるべき債権(以下「差押債権」という。)について、「複数の店舗に預金債権があるときは、預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とする。なお、預金債権額合計の最も大きな店舗が複数あるときは、そのうち支店番号の最も若い店舗の預金債権を対象とする。」と表示した上で、当該店舗の預金債権について、先行の差押え又は仮差押えの有無、預金の種類等による順位付けをしている。

2  当裁判所の判断

(1)  民事執行規則133条2項は、債権差押命令の申立書に強制執行の目的とする財産を表示するときは、差押債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項を明らかにしなければならないと規定しているところ、同条項の求める差押債権の特定とは、債権差押命令の送達を受けた第三債務者において、直ちにとはいえないまでも、差押命令が第三債務者に送達された時点で直ちに差押えの効力が生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当である(最高裁判所平成23年(許)第34号同年9月20日第三小法廷決定・民集65巻6号2710頁)。

(2)  本件申立ては、前記のとおり、債務者が有している第三債務者のすべての店舗の預金債権のうち、預金債権額の合計額が最大の店舗の預金債権を指定した上で、その預金債権について、先行の差押え又は仮差押えの有無、預金の種類等による順位付けをしているが、このような差押債権の特定方法では、本件申立てに基づく差押命令の差押債権を識別するためには、第三債務者としては、すべての店舗における債務者の預金債権の存否及びその額を調査することが必要となる。そして、金融機関における顧客管理は、取扱店舗ごとに独立して行われているものと考えられ、第三債務者も、取扱店舗ごとに独立して顧客管理をしているものと推認されるから、第三債務者が、すべての店舗における債務者の預金債権の存否及びその額を正確に把握するには、相当程度の時間を要するものと推認され、同作業を、差押えの効力が差押命令の第三債務者への送達時点で直ちに生じることにそぐわない事態とならない程度に速やかに行うことができるとは認められない。

この点、第三債務者は、顧客管理システムを整備しているものと推認されるが、一件記録上、第三債務者が整備している顧客管理システムの内容が明らかでないから、第三債務者が、同顧客管理システムを利用することによって、各店舗において債務者の有する預金債権の存否及び額を正確に把握するのに必要な時間も明らかではない(例えば、仮に、顧客管理システムによって把握できる各店舗における顧客の預金残高には、既に差押えや仮差押えがされている預金についてのものや外貨預金についてのものは反映されていないのであれば、それらも含めた預金債権の合計額を把握するには、各店舗に対する照会が必要となり、相当の時間を要することになるところ、一件記録上、この点についての第三債務者の顧客管理システムの内容も明らかではない。)。したがって、第三債務者が保有する顧客情報管理システムを利用することにより、本件申立てに係る差押債権の特定を上記の程度に速やかに行うことができるとまでは認めることはできない。

(3)  よって、本件申立ては、差押債権の特定を欠き不適法であるから、これを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐野信)

【参考】差押債権目録

差押債権目録

金153万2825円

ただし、債務者が第三債務者に対して有する下記預金債権のうち、下記順序に従い、頭書金額に満つるまで。

1 複数の店舗に預金債権があるときは、預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とする。なお、預金債権額合計の最も大きな店舗が複数あるときは、そのうち支店番号の最も若い店舗の預金債権を対象とする。

2 差押えや仮差押えのない預金とある預金があるときは、次の順序による。

(1) 先行の差押え、仮差押えのないもの

(2) 先行の差押え、仮差押えのあるもの

3 円貨建て預金と外貨建て預金があるときは、次の順序による。

(1) 円貨建て預金

(2) 外貨建て預金

(本差押命令が第三債務者に送達された時点における第三債務者の電信買相場により換算した金額(外貨)。ただし、先物為替予約がある場合には、原則として予約された相場により換算する。)

4 同一の通貨で数種の預金があるときは次の順序による

(1) 定期預金

(2) 定期積金

(3) 通知預金

(4) 貯蓄預金

(5) 納税準備預金

(6) 普通預金

(7) 別段預金

(8) 当座預金

5 同種の預金が数口あるときは、口座番号の若い順序による。

なお、口座番号が同一の預金が数口あるときは、預金に付せられた番号の若い順序による。

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